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オリンピック後のブラジル経済 やっぱりヤバいのか?

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 まず、オリンピックとパラリンピックで注目が集まったブラジルのGDPを見てみます。

 世界銀行のデータによれば、ブラジルの名目GDPは2015年に急減し、低迷を続けてきました。

  • 2013年:2兆4730億ドル
  • 2014年:2兆4560億ドル
  • 2015年:1兆8040億ドル
  • 2016年:1兆7960億ドル

 13年をピークに成長率が下がり続けているので、南米初五輪を祝いながらも、世界の人々は「オリンピック後は大変だろうな~」と心配しているわけです。

(※この記事は2016年8月以降に発表された経済統計の情報を追記しています)

 ブラジル日本商工会議所のHP記事(2017/3/8)は「1948年以降では最悪の経済リセッション」に入ったと評して、以下のデータを示しました。

  • GDP伸び率:2016年は-3.6%、2015年は-3.8%
  • 一般家庭消費:2016年で-4.2%、2015年は-3.9%
  • サービス部門のGDP伸び率:2016年、2015年ともに-2.7%
  • 鉱工業部門のGDP伸び率:2016年は-3.8%、2015年は-6.3%
  • 新車生産台数:370万台(2013)⇒220万台(2016)

 日経電子版(2017/3/8)では、他の詳細なデータも報じられていました(「ブラジル、16年は2年連続マイナス成長 世界恐慌以来」)。

  • 2016年の家計消費は前年比4.2%減。
  • ショッピングセンター内の小売店舗数も前年比で約1割減。
  • 16年11月~17年1月の失業率は12.6%(12年以降で最悪の水準)
  • 自動車メーカーの従業員数は12月時点で12万1200人(13年から2割強減)
  • 固定資本形成は前年比で10.2%減

 その後、6月1日には、2017年第1四半期のGDPが発表されました。1月~3月の実質GDP成長率は1%なので、2014年第4四半期以来のプラスとなりました。そして、景気対策の一環として政策金利を1%引き下げています。

 この9四半期ぶりプラスに転じた指標の好転は農業部門が牽引したものです(穀物生産が13.4%のプラスになった)。しかし、ようやく景気が底打ちしたものの、テメル大統領の政治基盤は未だ不安定なので、未だ失脚の危険性は消えていません。

 今回は、危機に立つブラジルの未来について考えてみます。

ブラジル南東部が全土の発展を引っ張っている

 ブラジルの名目GDPは日本の半分ぐらいで、世界のランキングで言えば9位につけています。かつての途上国のイメージを脱ぎ捨てて、先進国に肩を並べるためのバトルをしています。「世界9位なら、もう先進国じゃないの?」という見方もありますが、ブラジルは、先進国に近い水準の地域と、そうでない地域の差が激しいため、「いや、先進国ではない」とも言われがちなのです。

 どれだけ差があるのかは、ブラジルの各地域を比較してみると、よくわかります。

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  ブラジルは日本の約22.5倍の国土を持ち、その面積は約851万平方キロメートルです(世界第5位)。そして、南米大陸の約47.3%を占める巨大な国土は、北部、北東部、中西部、南東部、南部に分けられています。

 ブラジルの国家統計局(IBGE)のデータでは、2013年の名目GDPのうち、リオ・デ・ジャネイロやサンパウロがある南東部だけで、何と55.3%(1兆3919億ドル)を占めていました。南東部の面積比は1割ぐらいなので、この地域だけが恐ろしく発展しています。 

リオ市とサンパウロ市で全土のGDPの六分の一を生み出している

 さらにびっくりさせられるのは、リオ市とサンパウロ市の規模の大きさです。ブラジルの2億人の人口のうち、リオ市には約650万人、サンパウロ市には1200万近い人口が集まっています。ネット情報ではサンパウロは1100億人と書かれていることが多いのですが、最近の人口推計を見たら、あと一頑張りで1200万になるぐらいの数字でした。

 全土の中で各都市が占めるGDPの割合を見ると、何とリオ市だけで5.3%、サンパウロ市にいたっては10.7%もの規模です(2013年)。この2市だけで、ブラジルのGDPの6分の1が生れています。ブラジル南東部へのGDPの集中度はハンパない割合なのです(ここでいうGDPは名目GDP)。

 北部のGDPは全体の5.5%(1385億ドル)なので、リオ市と同じぐらいです。他の地域の割合を見ますと、北東部が13.6%、南部が16.5%、中西部が9.1%。北部と南東部の差がいちばん激しいようです。

  ドルで見ますと、北東部が3424億ドル、南部が4160億ドル、中西部が2295億ドルなので、昨日に見た日本の各県GDPと比べると、北東部と愛知県のGDPがだいたい同じぐらいで、南部は大阪に勝っています。

 イメージとしては、この三地域のGDPの大きさは日本のトップレベルの県と同じぐらいだと分かりやすいかもしれません。

(※IBGEデータはみなレアルなので、日銀HPに掲載された各月の13年の為替の平均値を基に、ブラジル各地のGDPをドルに換算)

 ブラジルの政治・経済の詳細に関しては当ブログも関連記事「よくわかるブラジル経済と政治の仕組み ~人口、産業、GDP、地理など~」を公開しています。

ブラジルはサブプライム危機をV字回復で乗り切ったが・・・

 ブラジルは大統領の弾劾や罷免のほか、治安やリオ州の財政問題などを抱えながら、オリンピックに突入しています。ブラジルにとっては、今が粘り時です。何とかこれをカンフル剤にして経済成長を目指さなければいけないからです。

  ただ、五輪終了後の不安は、なかなかぬぐず、その未来は不透明です。2015年の実質GDP成長率は-3.8%ですが、13年をピークに盛り下がる経済へのカンフル剤(※五輪のこと)が尽きたら、バタリと倒れてしまうのだろう、という見方も根強いのです。

 サブプライム危機の頃は、実質GDPで見た成長率は-0.2%(09年)から7.6%(10年)にV字回復したのですが、今回は、少し状況が違うようです。

 サブプライム危機の頃、ブラジルは、中央銀行の金利引き下げのほか、銀行を動員して消費者金融などに大量のお金を流し、中小企業にまで融資が増えるようにしたり、自動車などにかかる工業製品税を減税したり、低所得者向けの住宅建設を進めたりと、大胆な不況対策を実施しました。鈴木考憲氏は当時のブラジルが実施した不況対策を以下の6点に整理しています(『2020年のブラジル経済』P14~22)

  1. 中央銀行以下国立銀行を総動員して、消費者金融部門などに大量の資金を投入
  2. 外貨準備使用による企業の対外借り入れの期日返済肩代わりと貿易金融支援
  3. 自動車、家電製品、建設資材等への工業製品税の減税(中型車以上は税率半減)
  4. 中央銀行基準金利の引き下げ(13.75%から8.75%へ)基準金利の引下げが割賦販売の金利引下げに影響した(※ブラジルでは自動車が割賦販売で買われることが多い)
  5. 経済社会開発銀行の中長期金利を6%へ引き下げ。融資枠の大幅拡大。新規機械設備購入用の特別金利4.5%の融資枠設定(当時、物価上昇率は4.5%なので金利4.5%は実質金利で言えばゼロ)
  6. 低所得者層向け住宅100万戸の建設(低所得者層のマイホーム願望に応える)

 これらの政策により、ブラジルのGDPの6割を占める消費が保たれ、翌年には見事に7.6%の成長を遂げました。また、当時は新興国(中国など)が鉄鉱石、大豆、原油などなどの資源を大量に必要としていたので、資源輸出で稼ぐこともできたのです。

(経産省「通商白書2014」第Ⅱ-2-3-21図 ブラジルの輸出品の推移と輸出先の動向)

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資源安と中国経済低迷はサブプライム危機以上の打撃

 しかし、今のブラジルは近年の中国の景気後退と資源安という世界経済の大きなトレンドの影響を真正面から受けてしまっています。

 ブラジルの景気回復は08年から10年の中国向け輸出の急増にも支えられていたのですが、その反面、「中国経済や国際商品価格の動向から影響を受けやすい構造になっていた」わけです(経済産業省「通商白書2014」)。

 中国向けの輸出増と高い資源価格という二つの成長要因が崩壊した今、ブラジルは次の経済成長のモデルを考えなければいけない時期にさしかかっています。

 オリンピックのもたらす経済効果はありますが、その終了後にブラジル経済が発展していくためには、経済の基礎力そのものを高めていく必要があるからです。当面は、金融政策や財政政策などを駆使して景気を回復させなければなりませんが、長期的な施策として、経済の基礎力を高めるための構造改革も必要になるでしょう。

今後、必要なのは「ブラジル・コスト」の解消では?

 ブラジルにおける経済活動には「ブラジルコスト」がかかると言われています。
 複雑で高負担の税金、雇用における行き過ぎた保護措置、治安問題、インフラ不足などが経済活動の足かせとなり、これらが「ブラジルコスト」と呼ばれているのです。

 輸入税や所得税、工業製品税などは連邦税ですが、そのほかにも、商品流通サービス税(州税)、サ―ビス税(市税)などがあり、その負担額はGDP比で36%にものぼると言われています。労働法制により給与の引下げや一度与えた便益の取り下げは困難になっており、雇用保障だけでなく、名目成長率にスライドする最低賃金制があります。
 さらには、治安コスト(警備会社への警備員派遣、防弾車購入等)だけでなく、インフラ不足のために高い物流コストがかかるのです。
 道路、港湾設備の不備、鉄道網が未発達のためにかかる高いトラック輸送量などは、経済活動の根幹にかかわるので、非常に深刻な問題です。
 人の移動に関しては、2年間の就労ビザの更新は1回のみで、最長4年の滞在しかできないことや、永久ビザの取得に1人20万ドルもの費用がかかることが問題視されています。そのため、減税政策やインフラ不足に対処するための公共投資(例えば、道路未舗装率の改善、降雨量に発電量が左右される水力発電依存の克服など)だけでなく、法律の改廃や規制緩和などを通して生産性を上げるための改革が必要になってきます。
 利下げなどの金融政策や所得再配分、減税を行って需要増を計ってきましたが、経済の供給面が力不足であれば需要を刺激しても経済成長率が高まらないままに物価が上がるだけに終わってしまうからです。

 まだまだ予断を許さない状況ですが、ブラジルは最大の親日国ではありますので、地球の反対側から、みなで「頑張れ」とエールを送ってあげるのも大事かと思います。

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