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トランプとヒラリーを徹底比較 経歴、資金、政策を検証

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  大統領選投票日(11月8日/日本時間:9日)が近づいているので、トランプ氏とヒラリー氏の経歴・資金・政策を比べてみます。今まで断片的に書いてきたので、人物の全体像が分かる記事が必要ではないかと思い立ちました。

 トランプ氏はワシントンポスト社が公にした女性侮辱発言で大ダメージを受け、テレビ討論会で苦戦しましたが、その後、FBI長官がヒラリー氏の私的メール再調査を決めるなどのオクトーバーサプライズが発生しました。

 その後、一転してヒラリー氏を訴追しない方針に切り替わりましたが、11/8時点では、クリントン氏有利との報道が相次いていました。

 10月19日(日本では20日)に開催された第三回TV討論会以降、浮き沈みを経た大統領選の結果を占うための情報整理をしてみましょう。

 本選投票日に、初めての女性大統領が誕生するのでしょうか。それとも、何もかもが型破りな「暴言大統領」が誕生するのでしょうか。

経歴比較:経営者トランプVS弁護士ヒラリー

 トランプ氏とクリントン氏の違いは、政治を志す前の仕事を見るとよく分かります。トランプ氏は不動産業者であり、クリントン氏は弁護士です。富を創造し、利益を出すことを目指したトランプ氏と、人権擁護や女性の地位向上等に尽力したクリントン氏の経歴の違いが、そのまま掲げる政策の違いにもつながっているようにも見えます。

 まず、二人の基本情報から見ていくと、以下の5点が目につきます。

  • トランプ氏(69歳)、ヒラリー氏(70歳)のいずれも高齢。ヒラリー氏のほうが深刻だが、どちらも任期中に健康問題が発生する可能性は否定できない。
  • そのため、どちらの副大統領候補も非常時の実務を託せる人材でなければいけない。ペンス氏(共和党)もケイン氏(民主党)も堅実な実務家。
  • トランプ氏はペンシルヴァニア大学ウォートン校で不動産業を学んで卒業。ヒラリー氏はウェルズリー大を卒業後、イェール大で弁護士資格を取得。
  • トランプ氏は父から経営者の仕事を学んだ。ヒラリー氏は先輩にあたる弁護士と共にニクソン大統領弾劾のための調査をし、そこで仕事の基礎を身につけた。
  • トランプ氏は二回離婚し、今の奥さんは三人目(子供は5人)。ヒラリー氏は夫ビル氏の不貞はあったが離婚はしなかった(子供は娘のチェルシー1人)。

 この中で、結婚・離婚のあたりには、あっさり離婚するトランプ氏としぶといヒラリー氏の性格の違いが出ています。

 ヒラリー氏の主たる仕事は弁護士ですが、知事夫人の時代から投資でお金を儲けています。昔から資金づくりに熱心だったのは、大統領選に出るために莫大なお金がかかるからでしょう。

資金とマスコミの応援では、ヒラリー氏が圧倒的に有利。

 連邦選挙委員会が9月に公開した情報(FINANCIAL SUMMARY - HILLARY FOR AMERICA)では、ヒラリー氏の資金団体(スーパーPAC)の収支(2015年4月1日~16年8月31日)が出ています。

  • 総収入:3億8634万3313ドル
  • 総支出:3億1791万4036ドル

 400億円ものお金を集めていますが、そのスポンサーは、金融、小売、メディア、労働組合、製薬大手、化石燃料などの多様な業界に亘っています(筆者過去記事10/10参照)。クリントン氏は6月時点でトランプ氏の32倍の選挙資金を集めたとも報じられています。(「選挙資金、クリントン氏が圧倒=トランプ氏の32倍-米大統領選」時事通信2016/6/21)

 その資金に関しては、クリントン家がつくった慈善団体「クリントン財団」への寄付者に対して、ヒラリー氏が便宜供与を行っていたのではないか、という批判本も出ています(ピーター・シュワイツァー著『クリントン・キャッシュ』)。ヒラリー氏は一生懸命反論していますが、アメリカ最大級のウラン鉱山をロシア企業に売ることを米政府委員会が承認した時、売却側企業の会長からお金が「クリントン財団」に寄付された等と言われているのです。

※AP通信によれば、クリントン氏が国務長官時代に面会した民間人の過半数がクリントン財団への献金者であり、面会した85人の献金額は1.56億ドル(約160億ドル)にのぼり、倫理上の問題が懸念されているという(日経朝刊2016/8/28:5面)。

  トランプ氏は破産後に税金を払わずに合法的に節税したことで批判を浴びましたが、自己資金で活動しているので、現時点では、不法性のある大きな金銭スキャンダルは浮上していません。産経新聞のインタビューでは、クリントン氏の元選挙参謀のディック・モリス氏はヒラリー氏を「腐敗した秘密主義者」と批判し、以下のように述べ、トランプ氏を支持すると明言しています(2016/8/14朝刊5面)。

  • 私が一緒に仕事をしていた時、ビル大統領は本当にカネに興味がなく、毎日マクドナルドのバーガーで満足していた。
  • ホワイトハウスを離れてからの15年間は金儲けに専念。夫婦は講演会などで2億2千万ドルを稼いだが、夫婦の口利きを期待されている点で賄賂といえる

 産経新聞(2016/11/12:3面)によれば、全米発行部数上位100社のうち、トランプ氏支持は2紙のみ。クリントン支持はワシントンポストやニューヨークタイムス等を含む57紙でした。

※本稿執筆時点のカリフォルニア大サンタバーバラ校のプロジェクトでの集計によると、発行部数上位100紙の支持動向はクリントン氏33紙、トランプ氏0紙、ジョンソン氏3紙(リバタリアン党)という結果(産経2016/10/15:2面)。

トランプ氏のPRポイント:「雇用の創造」「経済活性化」

【人生ストーリー:不動産で大当たり⇒倒産⇒復活後、エンタメ界に挑戦】

 1946年に生まれたトランプ氏は、ニューヨークのクイーンズ区やブルックリン区で住宅団地をつくった父の事業を継ぎ、1970年代にマンハッタン区進出に挑戦しました。

 トランプ氏は20代後半のこの頃に高級不動産の建設に成功します。当時は不景気で地価が下がっていたので、ハドソン河沿岸の広い土地を買いたたき、3万戸の高級アパートを建設。さらには高級ホテルの「グランド・ハイアット」をオープンさせ、1983年には、有名な「トランプタワー」の建設を実現させました。

 彼は不動産事業を大当たりさせたのですが、90年代前半には不動産市場の低迷により、巨額の借金を抱える同氏は破産。しかし、その後のアメリカの景気回復に合わせて復活し、2000年代には起業家志望の出演者をしごくテレビ番組「アプレンティス」(2004年開始)をヒットさせ、エンタメおじさんとして認知度を高めています。

(※トランプ氏は四回破産して復活しているので、相当しぶとい。詳細は以下のZAKZAKニュース2016.5.9を参照)

 大統領選には若い頃から意欲を覗かせていますが、このたびの出馬に関しては、「私は自分のビジネスを愛している。こんなこと(立候補)はしたくなかったんだ。我が国が落ちぶれていると判断したから、立候補せざるをえないと思っただけだ」(セス・ミルスタイン著『ドナルド・トランプ 大いに語る』P73)と述べています。

 トランプ氏は、昔から、斜陽企業が半ば放棄した土地を有効活用して市を活性化してきたことと、建設事業で雇用の創造に貢献してきたことを主張してきました。

 これは不動産開発で税の減免を要望する際の主張ですが、彼が建てたグランド・ハイアットやトランプタワーは不動産としては最高レベルの物件であり、これにちなんで多くの雇用が生まれているのは事実です。

 暴言王なので、いわゆる人権意識は低いのですが、ニューヨーク市の活性化に貢献してきたことは事実でしょう。ちなみに、黒人入居を拒んだと訴えられたこともありますが、裁判で差別の証拠は見当たらず、事なきをえています。

 トランプ氏の評価ポイントとしては、5年間、ニューヨーク市が工事してもうまくいかなかった大きなスケートリンク(ウォルマンリンク)を半年で改修したことなどもあげられています。

※トランプ氏がお金持ちになるまでの詳細は、10/8の筆者記事でも取り上げたので、本記事では、ヒラリー氏のほうを長めに紹介しています。

ヒラリー氏のPRポイント:「政治経験」と「女性支援」

【人生ストーリー:弁護士⇒知事夫人⇒大統領夫人⇒上院議員⇒国務長官】

 クリントン氏(1947年生)はウェルズリー大学を卒業する時に学生代表として演説し、上院議員の面前で「不可能に見えることを可能にする技術」こそが政治であり、「欲と競争にまみれた組織人としての人生」に興味はないと言い放ったことで、マスコミに注目されました(この頃の発言を、今でも覚えていてくれればよいのですが・・・)

※本節の記述の出典は、カレン・ブルーメンタール著『ヒラリー・クリントン 本当の彼女』杉本詠美訳。

【まずは弁護士になる】

 その後、イェール大学で弁護士資格を取り、ニクソン大統領の不正行為(ウォーターゲート事件)を糾弾するための弾劾裁判の調査に参加します。この頃にビル・クリントンと知り合い、共に民主党の政治活動に力を注ぎます。

【夫のビル氏とともに出世の階段をのぼるが・・・】

 ビルは1978年にアメリカで最年少の知事(アーカンソー州)として当選し、ヒラリーは弁護士資格を持つ知事夫人として注目されました。知事当選後は大統領選出馬の準備を始め、ビルの選挙戦では「一つ買えば、もう一つはタダでついてくる」(有能なヒラリーも一緒という意味)等と宣伝されていました。

 ビル・クリントン大統領の時代(1993年~2001年)には国民健康保険の導入に挑戦して挫折し、かつてニクソンを追求したヒラリーが、ビルの不倫のために弾劾裁判を起こされる寸前で釈明に追われるという皮肉な事態に直面しました。

 ビルの不倫があまりにもひどかったせいか、ヒラリーはビルのスキャンダルの対応に追われた後、「〇〇夫人」ではなく、政治家として自分のキャリアを築き始めます。

【ビル氏のスキャンダルに追われた後は自分が政治家になる】

 まずは2000年にニューヨーク州の上院議員となり、その後、2008年の大統領選に立候補。オバマ氏に敗れはしましたが、2008年から13年2月まで国務長官を務めたので、大統領になるためのキャリアが整いました。

 ただ、「経験豊富で政府の側に長くいた」という話は、政府の信頼度が下がった今の大統領選では、マイナスに働く面もありました。ビル・クリントン大統領が二期、オバマ大統領が二期続いたので、ヒラリー・クリントン大統領が出てきたら、ビルの三期目、オバマの三期目だなどと言われることもあります。

【ビル氏の躍進を見抜いたところが運命の分かれ目】

 ビル・クリントン氏は最後に不倫でキャリアを汚しましたが、非常に強運の持ち主ではあるので、彼がトップに上り詰める可能性を見抜いた若き日のヒラリーの直観力は大したものです(アーカンソー州は田舎なので、当時、ヒラリーの同僚たちはビルの支援活動にいそしむ彼女を「キャリアを放棄してもったいない」と見ていた)。ニューヨークで上院議員に立候補して受かるかどうかも大きな賭けでしたが、そこで見事に勝ち抜いたところにも、勝負運の強さがあります。

 公的メールを私的なアカウントでやりとりした問題やクリントンマネー(献金で政治的便宜を計っていたに違いないという批判)の疑惑はありますが、クリントン氏は、大統領候補出馬に十分なキャリアを積んできたのは事実です。

 こうした経歴に基づいて女性がトップに立てない「ガラスの天井」を破るんだ!と訴えることがヒラリー氏にとって重要な主張になっています。女性初の大統領になるという大義名分があるわけです。

 毎日新聞(2016/7/28:朝刊9面)のヒラリーの地元(イリノイ州シカゴ)民衆へのインタビュー記事では「誰もやったことがないから私がやろう、と考えるのがヒラリーだった」という同級生のコメントも紹介されています。

【何かとスキャンダルに追われる悪運の持ち主?】

 ヒラリーは優秀な弁護士だっただけでなく、ビル・クリントンの可能性を見抜いた直観力を備えていたのですが、どうも、スキャンダルに巻き込まれる傾向があるようです。ビル政権の頃もお金のスキャンダルの釈明に追われ、その後、モニカ・ルインスキーとの不倫を巡る弾劾騒ぎがあり、今はヒラリー氏本人の私的メール問題があります。調査終了と思いきや、何と10月末にFBI長官が再調査を決断。最後の最後で危機に立たされています。大統領に当選しても、その後、弾劾騒ぎなどが起きないかどうか、非常に気になるところではあります。

政策は二人とも内政重視。どちらも軍指揮官の資質は未知数

 民衆の声を聞かないワシントンのエリートに放たれた「ミサイル」のようなトランプ氏は破壊力抜群ですが、大統領になった時に何が起きるか分からない怖さがあります。

 トランプ氏の当選が「創造的破壊」につながる面もあるのかもしれませんが、本当にぶち壊しだけで終わる危険性もあるように見えます。

 ヒラリー・クリントン氏は政治経験は豊かですが、政策はどことなくオバマ氏と似ているので、基本的には今のオバマ路線のモデルチェンジ版になりそうです。ヒラリー氏に対しては「ビル・クリントン政権の三期目、オバマ政権の三期目だ」という批判も出てきているので、この二政権との違いをどう出していくのかが、大事なポイントです。

 ざっと政策の対立点を見ると、以下の相違点が目につきます(政策比較は9/26筆者記事でも取り上げています)。

 ※以下、ト=トランプ、ヒ=ヒラリー

  • ト:同盟見直し。同盟国に防衛負担を要求。日韓核武装もあり?
  • ヒ:現状の同盟維持路線。
  • ト:ロシアのプーチンに肯定的(途中で撤回したが、本音は今も変わらず)
  • ヒ:アンチロシア。
  • ト:中国を為替操作国に指定。
  • ヒ:中国の人権侵害を批判
  • ト:イランとの核合意を批判
  • ヒ:イランとの核合意を評価
  • ト:保護貿易路線で外国製品に完全をかける。TPPやNAFTAに反対。
  • ヒ:元々はTPP推進だが、途中からTPP再交渉論にチェンジ
  • ト:富裕層と庶民層に所得税を減税。法人税を15%に。
  • ヒ:中間層以下に所得税を減税。富裕層に増税。
  • ト:金融規制を縮小。任期が来たらFRBイエレン議長を交替させる
  • ヒ:金融規制・監督を強化
  • ト:石油・天然ガス等の化石燃料を重視。CO2規制に反対。
  • ヒ:再生可能エネルギーを重視。CO2排出にシビア。
  • ト:教育は地方の自主性が大事。
  • ヒ:教育には全国的な基準が重要。
  • ト:銃規制反対
  • ヒ:銃規制推進
  • ト:不法移民取締り強化。メキシコ国境に壁をつくれ
  • ヒ:不法移民に寛容な同化政策

 この中で、筆者が特に気になるのは、外交・安保政策です。

 ヒラリー氏は国務長官をしていますが、過去の人生を見ると、主な仕事は女性の地位向上やマイノリティーの人権擁護等が中心なので、軍事面は主たる関心事項ではありませんでした。大統領になる上で大事な軍歴もないので、本当はヒラリー氏にも「軍のトップとして大丈夫なのか?」という検証が必要なのかもしれません。

(※本来、国務長官のキャリアは軍歴なしを補う重要なポイントですが、現在は私的メールアカウントで公的な仕事をしていたことが裏目に出ています。情報リテラシーのない人に大統領を任せられるのか、という問題に転化しているわけです)

 どちらもアメリカの国内問題が政策の中心になっているので、アメリカ頼みでやってきた日本は、今後、防衛面でもっと意識改革をしなければいけないでしょう。

 ヒラリー・クリントン氏はアメリカのアジア回帰を進めていましたが、現在はTPPに反対し、社会福祉などの国内問題を政策の中心に持ってきています。

 いっぽう、トランプ氏は日本や韓国に同盟の対価を要求し、日韓の核兵器保有の選択肢もあり得ると述べたことが物議をかもしました。

 一見、トンデモ論のように見えますが、アメリカのリアリズム学派の国際政治学者の中には同盟国に核兵器を持たせたほうがよいと述べる人もいます(ケネス・ウォルツという大御所が、核不拡散政策は実現できないから、結局、各国が核兵器で自衛し合い、パワーバランスをつくるしかないと述べたことがあります)。

 実際、アメリカと連携するNATO諸国は核兵器をアメリカと共有しており、イギリスやフランスは自前の核兵器を持っているので、トランプの発言は「どうして東アジアでそれをやってはいけないのか?」という問題提起に見えなくもありません。

 ただ、その場合は、日米同盟をゼロから再交渉するという難題が出現します。欧米の核シェアリングのような形で同盟が再構成されれば何も問題は起きないはずですが、交渉が決裂し、日米同盟や米韓同盟がなくなるだけだったら、地域のパワーバランスが崩れ、戦争が始まってしまう危険性をはらんでいます。

 どちらにせよ、日本は防衛問題をもっと真剣に考えなければいけなくなりそうです。

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