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北方領土返還、共同経済活動、平和友好条約について

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 プーチン訪日前の12月2~3日の岸田外相訪露の成果がいま一つだったので、15日の日露首脳会談はうまくいくのかどうかが危ぶまれています。普通、大統領が会談するのは他国の首相や大統領ですが、12月2日には珍しくプーチン氏と岸田文雄外相の会談が行われました。

 産経ニュース(「プーチン大統領から親書 岸田文雄外相が会談 領土問題で日本の立場伝達」12/3)によれば、岸田外相には安倍首相宛ての親書が渡され、原田親仁氏(日露関係担当政府代表)、モルグロフ外務次官らを含めて30分の会談が行われ、プーチン氏は「われわれのコンタクト(接触)が絶えず行われていることは良いことだ。双方が関心を持つ、あらゆる問題に関する交流の拡大に向けて作業を実施するように努力している」「(15日からの)訪日を有意義なものにしたい」と述べました。

 そして、後回しにされたせいか、3日のラブロフ外相との会談では、厳しいムードが漂っていたとも伝えられています(産経ニュース「強硬派・ラブロフ外相は岸田氏との握手を拒否 長門会談をめぐる日程闘争はなお…」12/4)

 ラブロフ氏は岸田氏と並んで会場入りしたが、報道陣の前を素通りして席に着いた。立ち止まって握手し、記念撮影に応じる通例をあえて無視したとみられる。

 会談冒頭でもラブロフ氏は「露大統領の訪日準備の最終段階なので双方が責任感を感じて作業することを期待する」と事務的な口調で述べただけ。岸田氏は「週末にかかわらず対応していただき感謝している。十分時間をかけて議論し、山口での首脳会談につなげたい」と応じたが、ラブロフ氏に笑顔はなかった。

 会談後の共同記者会見でも、2人はほとんど目を合わせず、最後に握手した際の笑顔もぎこちなかった。

  産経ニュースの記事では、もともとロシア外務省の対日姿勢は強硬だとも解説していますが、11月の首脳会談以降、北方領土に新型地対艦ミサイルを配備するなど、ロシア側の態度は硬くなってきています。

 「硬化した」というよりも、もともとロシア側は戦勝国という立場なので、そうやすやすと北方領土を引き渡すはずもなく、経済危機の今、出来る限り日本から経済援助を引き出したいという本音が露わになってきているようにも見えます。

2016年の日露首脳会談での議論

 最近の新聞記事を見ると、日露共同経済活動など、口外しないはずの過去の会談の内容が断片的に報道されているので、16日の会談の行方を考えるために、その概要を押さえてみます。

北方領土へのビザなし訪問の範囲拡大

(読売新聞「北方4島『ビザなし』拡充、ビジネスマン対象に」12月8日)

 日露両政府が15、16日の首脳会談で、日本から北方領土への人的往来の拡充で合意する見通しとなった。複数の日露外交筋が7日、明らかにした。北方4島の元島民らが墓参などに訪れる際の受け入れ態勢を改善するほか、査証(ビザ)なしで訪問できる仕組みの対象者を経済関係者らに広げる方向だ。両政府は、4島での「共同経済活動」の将来的な実施についても合意を目指し、最終調整を続けている。

17年初の2+2外交・防衛担当閣僚会議開催

(産経ニュース「日露、年明けにも防衛協議 3年ぶり2プラス2 北極圏で中国を牽制」12月8日)

「日露両政府が、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を年明けにもモスクワで開く方向で調整に入ったことが7日、分かった」

「北朝鮮や中国をめぐる東アジア情勢について意見交換する」

「中国は東シナ海での挑発行動に加え、オホーツク海や北極海への海洋進出も強めており、日露両国の共通の脅威になりつつある。2プラス2の開催は「中国への強烈なメッセージになる」(日本政府関係者)とされる」

「一方、日本側はロシア軍が北方領土の択捉(えとろふ)島と国後(くなしり)島に新型地対艦ミサイルを配備したことに関しても懸念を表明する構え。安倍首相が提案した8項目の対露経済協力に加え、安全保障面でも連携強化を打ち出すことで北方領土交渉を加速させたいとの思惑もある」

日露共同経済活動

(毎日新聞「日露・共同経済活動 北方領土に特区案 15年秋から協議」12月5日)

 今月15、16日の日露首脳会談で主要議題となる北方領土での共同経済活動について、両国政府が昨秋から協議を続けてきたことが4日、分かった。複数の日露外交筋によると、経済特区設置や合弁企業設立、日本国民が査証なしで北方四島を訪れる「ビザなし交流」の対象者拡大などの案が話し合われている

日露首脳会談の中身が漏れる理由は?

 こうしたリークが行われているのは、16日の長門会談のために日本政府が国民世論の反応を見たがっているためなのかもしれません。

 前掲の記事に関して、ロシアメディアの「スプートニク」では「プーチン訪日を前に増す日本のマスコミの情報漏洩は世論チェックの試みか? 」(12/11:アンドレイ イルヤシェンコ)と題したオピニオンを公開しています。

 冒頭で「プーチン大統領の訪日が違づくにつれて、日本のマスメディアに漏れる、この訪問に関する情報の数は、考えられるすべての限界を超えるものとなった」とし、前掲の三つのトピックに対して以下のように意見を述べているのです。

  • ビザなし渡航範囲拡大⇒あり得るが「ロシアのビジネスマンに対する同様の措置、つまり日本渡航手続き緩和との交換でのみ可能」
  • 「2+2」協議再開⇒「あり得ない。中国との友好的関係は、ロシア政府にとって優先的意義を持つ」
  • 日露共同経済活動⇒「あり得るが、法律面での問題がある」

 このオピニオンの筆者は「日本のマスコミは、クリル問題への新しいアプローチに対する日本の世論の反応を計るために、積極的に利用されている」と見ています。この種の情報リークに関して、「それは常に、世論を惑わすものであり、重要な交渉前にパートナーを操ろうとする世界中で広く使われる手段だ」と注意を喚起しているわけです。

 この種のリークは今に始まったことではありません。

 木村汎氏(北海道大学名誉教授)は『海外事情2013.11』(P10:これは拓殖大学海外事情研究所の機関誌)にて、過去の日露交渉でも関係者のリークで日本側の信用が損なわれたことを嘆き、ロシア要人の二つの発言を紹介していました。

「日本と内輪の会談をおこなっても、その内容がすぐに外部へ洩れてしまう。これでは、首脳会談、非公式会談をおこなう意味がない」(プリマコフ元首相)

「領土のようなデリケートな問題に関する交渉は、非公開でおこなわれるべきである」「日本では交渉の途中で新しい提案をマスコミに洩らす傾向がある。これまでを見るかぎり、そうした漏洩はマイナスの効果しか生んでいない」(パノフ元ロシア駐日大使)

  木村氏は、2013年4月29日の日露首脳会談でプーチン大統領が述べた北方領土の面積等分論が日本のメディアに漏れたことを「遺憾」だと嘆いていました。

 日本の政府関係者がこの種のリークを行うのは、あらかじめ国民の反応を見て、交渉後に首相の支持率が下がらないように着地点を探っているからだと思われますが、それが相手側の日本への信頼感を失わせるのならば、交渉の進展にはマイナスになってしまいます。

 筆者も一国民として、首脳会談の中身は知りたいのですが、それが、日本の信用を犠牲にしてまでやるべきことだとは思えません。

 国民には知る権利があり、民主主義が大勢を占めた20世紀以降、外交は一部の担当者だけが情報を独占できなくなりました。とはいえ、交渉上の秘密保持の必要性は残っています。日露交渉では「他国との交渉と国民への情報公開の矛盾」という民主主義国の外交に特有の問題が繰返し噴出しているのです。

 

北方四島はどんな島?


(画像出所は内閣府HP。年号、条約名、色線は筆者の追加)

時系列でみると、北方領土は過去、四回の条約で国境線が変わっています。

  1. 幕末の日露通好条約(1855)では択捉島と得撫島(ウルップ島)の間に国境線が引かれました。この頃はまだ樺太は日露国民の混住地になっています(※日露通好条約の時の国境は上記地図では省略)
  2. その20年後、樺太千島交換条約(1875)が結ばれ、日本は樺太全島を放棄する代わりに千島列島を日本領にしました。
  3. ポーツマス条約(1905)で日露講和がなされ、南樺太(北緯50度以南)が日本領となります。
  4. 第二次世界大戦末期にソ連軍が樺太とカムチャツカ半島から南下し、樺太全島と千島列島を占拠し、さらにウラジオストクの軍隊が北方四島に上陸・占領しました。日本はソ連と講和していませんが、1951年のサンフランシスコ講和条約では領土として千島列島と南樺太を放棄しました。この時、北方四島は千島列島の中に含まれていないので、日本は戦後、四島返還を主張し続けています。

 そして、この四島の面積と人数は以下の通りです。この四島を足すと5003㎢もの広さになり、福岡県(4986㎢)を越える広さになります。

  • 国後島:1490㎢、人口7916人(2015年1月)※参考:沖縄本島(1207㎢)
  • 歯舞諸島:95㎢、ロシア国境警備隊が居住(2015年1月)。
  • 色丹島:251㎢、3006人(2015年1月)※参考:徳之島(248㎢)
  • 択捉島:3168㎢、5906人(2015年1月)※参考:鳥取県(3507㎢)

 いわゆる二島先行返還論の対象は歯舞群島と色丹島です。面積で当分した場合、国後島、歯舞諸島、色丹島の三島だけでなく択捉島の一部までが範囲に含まれるわけです。

北方領土返還交渉の経緯

 戦後、日本は北方領土四島の返還をロシアに主張し続けてきました。しかし、以下のような紆余曲折を辿り、それは、いまだに実現していません。

日ソ共同宣言(1956年10月)

 鳩山一郎首相とソ連のブルガーニン首相が調印。戦争状態終了、日本が国際連合に加盟することを支持、戦後、有罪判決を受けた日本人の帰国をうたい、歯舞、色丹の二島が平和条約締結後に返還されるとしました。これを機に北方領土からロシア陸軍部隊の退去が続きます。

冷戦期の日露関係

 アメリカは日本に二島返還で合意するなら沖縄を返さない」と圧力をかけ、1960年にソ連のグロムイコが二島返還の条件として日本領内の外国軍(米軍)の撤退を要求し、61年にはフルシチョフが「領土問題は解決すみ」と池田首相に親書を送るなど、ややこしい関係が続きました。田中角栄首相のモスクワ会談の席では戦後の未解決の問題に北方領土を含めるなど、軟化しています。91年の日ソ共同声明でも「歯舞、色丹、国後、択捉の帰属について双方の立場を考慮しつつ領土画定の問題」を含めた議論がなされました。

東京宣言(1993年10月)とエリツィン時代の交渉

 東京宣言では、細川首相とエリツィン大統領の間で、四島の帰属問題について「歴史的・法的事実に立脚し両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続」することが合意の上、明記されました。

 97年のクラノヤルスク合意(橋本首相訪露)では「東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」とし、98年には静岡県の川名で会談し択捉島と得撫島の間に国境線を引き、しばらくはロシアが施政権を持つという「川名提案」が出された。

プーチン政権での日露交渉

 エリツィンからプーチンに大統領が変わり、森首相との間で「イルクーツク声明」(2001年)では「東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結」することを発表。

小泉首相との間で出された「日露行動計画」(2003年)ではこうした経緯を踏まえ、56年の日ソ共同宣言、93年の東京宣言、2001年のイルクーツク声明が「四島の帰属の問題を解決する」ための過去の外交交渉上の合意文書であることが確認されています。ここでは、北方領土交渉が「平和条約を締結し、もって両国関係を完全に正常化することを目的とした交渉」だとされました。

 その後、麻生首相のサハリン訪問(2009年)、メドヴェージェフ大統領の国後島訪問(2010年)、プーチン・野田会談(2012年、ウラジオストク)等が行われました。

 13年には、モスクワで安倍・プーチン会談が実現し、「日露パートナーシップ共同声明」に署名がなされています。双方が領土問題解決に向けて外務省に示威を出すこと、前掲の2+2の開催などが盛られています。

初めから二島返還⇒一島も帰ってこない?

 森元首相は首相特使に任命され、2013年1月にモスクワに出発したのですが、その折に、BSフジ「プライム・ニュース」(2013年1月9日)にて三島返還論を主張していたのですが、これに関して、木村汎氏は以下のように批判しています(『海外事情2013.11』(P8)

 ロシア人は「バザール商法」を交渉の常道とみなしているので、かならずや日本側の三島提案には未だ妥協の糊シロ(譲歩をみこんでの駆け引きの余地)が十分織り込まれていると解釈するにちがいない。当然のごとく「三島」提案をさらに値切りにかかる。結果として、日本側は良くて「二島半」、最悪の場合「二島」で合意せざるをえない羽におちいるだろう。

 13年の安倍・プーチン会談では、始まる前にこうした出来事がありました。

 日本政府が今まで四島返還を主張してきたのは、歴史的な正当性だけでなく、こうした理由もあってのことと推測されます。 

 過去の交渉の経緯を見直してみると、97年のクラノヤルスク合意で「2000年までに平和条約を締結する」と期限設定をしたのに、その後、何も交渉は進展していないという現実が見えてきます。もう20年近くが経っており、途方もない先延ばしがなされているわけです。ロシア側は痛くもかゆくもないので、この種の行為には何ら抵抗がないのでしょう。

 日露交渉にあたっては、相手はバザール商法のリアリストなんだ、という現実をしっかりと認識することが大事だと言えそうです。

日露共同経済活動とは

 これに関しては、毎日新聞が12月5日と11日に朝刊1面で繰返し取り上げています。

 5日記事では、15年10月の日露次官級会議、16年5月の安倍・プーチン会談、同年6月、8月の次官級会議等でも繰り返し協議が進められているので、12月16日の会談で、実現に向けた「大筋合意」がなされるだろうという見込みが書かれています。

 ビザなし渡航の経済人への範囲拡大等が取りあげられた11日記事では、以下のように書かれていました(毎日新聞「<日露>共同経済活動 交渉枠組みで最終調整」 12/11【前田洋平】)

「日本政府は、北方領土の主権を巡って両国が一定程度歩み寄ることができれば、水産業や観光業などでの協力に道を開く考えだ」

「ロシアは共同経済活動を通じ、産業に乏しい北方領土の経済発展を促す狙いがある。安倍政権は日本の活動実態や人的往来を広げることで北方領土問題での日本の立場を国際社会にアピールできる上、両国の関係強化で領土交渉を進展させるてこになると判断。首脳会談では、北方領土問題を含む平和条約締結交渉とともに、共同経済活動や人的交流拡大を主要議題に位置づける考え」

  この共同経済活動を通して日本政府は領土交渉を動かそうとしていますが、そこには一つ、大きなハードルがあります。それは現地で日本人や企業が何かトラブルに巻き込まれた場合、日本の法律に則って解決するのか、ロシアの法律に則って解決するのか、という「裁判管轄権」の問題です。

 裁判管轄権が結局、ロシアにあるのなら、四島には、結局、ロシアの国家主権が及んでおり、日本領だとは言えなくなります。

 そのため、日本としては、少なくとも二島返還を勝ち取りたいところです。残りの二島で共同経済活動を行うにしても、将来の返還の約束の言質を取らなければいけないでしょう。

 四島で共同経済活動を行うことに合意するだけだったら、結局、日本は北方領土がロシア領だと認めてしまうのと同じだからです(返還の言質を取ったとしても、前掲のクラノヤルスク合意を見れば分かる通り、ロシア側には、期限を無視しても開き直る傾向があります)。

 そのため、16日の会談で共同経済活動について大筋合意が出た後には、その中身の良し悪しをしっかり検証しなければなりません。

日露平和友好条約とは

 日露間では未だに第二次世界大戦の講和条約が締結されていないので、条約の中身としては、先の大戦の評価や戦後日本人捕虜のシベリア抑留の問題の決着、北方領土問題、今後の日露間の経済協力、安保面での協力などに触れざるをえないでしょう。

 冷戦を知らない若い世代の方にはなじみにくい話かもしれませんが、シベリア抑留というのは戦後日本の大問題の一つでした。投降した日本軍捕虜らがソ連政府によってシベリア等で抑留され、強制労働によって多数死亡したからです。

 これに関しては、厚生労働省のHPに、現時点までの旧ソ連の資料と日本側の資料をつきあわせた検証結果が出ています(「シベリア抑留中死亡者に関する資料の調査について」※太文字強調は筆者の加工)

 終戦間近の昭和20年8月9日、旧ソ連は参戦し、終戦後旧満州、樺太、千島から約57万5千人の軍人等をシベリア等に強制抑留し、多くの方が亡くなられました。

(1)旧ソ連地域に抑留された者 約575,000人(うちモンゴル約14,000人)
(2)現在までに帰還した者 約473,000人(うちモンゴル約12,000人)
(3)死亡と認められる者 約55,000人(うちモンゴル約 2,000人)
(4)病弱のため入ソ後旧満州・北朝鮮に送られた者等 約47,000人

 途方もない人権侵害なので、これに対して、ロシア側の返答が誠意あるものかどうかの検証が必要になります。

 さらには、北方領土四島返還の中身をつめなければいけません。

 これは「過去」の問題ですが、この度の平和友好条約は、実際は「現在から未来」における必要性から生じています。

 日露の関係強化によって中露の接近が行き過ぎないようにしたい、という外交・安全保障上の理由と、両国の経済協力関係の強化という実利的な理由があります。

 経済上、有利な条件を引き出すためには、日本の首相が中東の資源国を訪問したりして他にも有効な選択肢があることをPRしたほうがよいとも言われています。また、日本は原発が止まっているので、資源国から石油やLNG等を高く売りつけられてきたこともありました。

 政治は「過去と未来の間」の問題を取り扱うものですが、今回の安倍・プーチン会談はまさに、その両者にまたがる重要な問題に関わっています。その意味で、この会談は今後の日本の行末を占う重要な会談だと言えるわけです。

読売新聞社のプーチンインタビュー

  読売新聞社が13日夕刊で公にしたプーチン大統領へのインタビューが注目を浴びています。このインタビューは、モスクワの大統領府(クレムリン宮殿)でこのインタビューは7日に行われ、その6日後の13日に掲載されました。

 読売新聞社は13日公開になった理由は「プーチン氏のロシア語での発言を和訳し、精査を重ねた」ためだと産経新聞のヒアリングに答えています。

 日本の二大紙は読売と朝日ですが、プーチン氏のご指名を勝ち取ったのは読売でした。慰安婦誤報以来、読者数減少の朝日と、その恩恵を得た読売とで、明暗が分かれたようです。 

 では、読売サイトの「プーチン露大統領インタビューの全文」に掲載されたプーチン氏の発言を見ていきましょう(以下、プーチン発言は<1><2><3><4><5>から引用)。

 まず、冒頭は秋田犬「ゆめ」の元気な姿、山口県の温泉、柔道、メダリストの山下泰裕氏との交遊などが話題に上り、その後、本年が日ソ共同宣言締結60年や日露外交関係150年の節目にあたると指摘し、共同宣言に盛られた平和友好条約締結と二島返還という本題に入っています。

やはり、交渉のベースは日ソ共同宣言か

 インタビュー<1>によれば、プーチン氏の念頭にある過去の交渉過程は以下の通りです。

  • 日ソ共同宣言では平和条約締結、発効後、二島が日本に引き渡されることになっているが、その条件や主権の規定がない。
  • 冷戦期に両国署名後、ソ連と日本が議会で批准されたが、日本政府は宣言を履行せずと発表。それを受けてソ連も履行しなかった。2000年に日露交渉が再開され、共同宣言がベースになった。
  • だが、その後、日本側は交渉をたち切ってしまった(※14年、ウクライナ問題等を契機とした対露制裁に参加したことを指していると思われる)。

 後述の引用にも出てきますが、プーチン氏は交渉を中断したのは日本側であってロシアではないと考えています。 

「我々は平和条約の締結をめざす。我々は完全な関係正常化を求めている。ロシアと日本との間に平和条約がないことは、過去から引き継がれた時代錯誤だ」

「日本のせいで交渉が中断した。日本のパートナーが求めたので、我々は2000年に再び共同宣言に基づき、平和条約締結をめざすことにした。共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」<1>

 そして、議論の俎上にあるのは2島であり、4島返還ではないとしています。ロシアは戦勝国という強気の立場を貫いているわけです。

「ロシアには、領土問題はまったくないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ」<2>

 ここでは、日露の出発点の違いが明らかになっています。筆者には、このスタンスが、まずは高値をふっかける「バザール商法」の始まりのように見えます。 

日露共同経済活動はどうなる?

 読売のインタビュアーは共同経済活動に関して「北方4島全て」なのか、「4島の中の一部の地域」(経済特区化)なのか、がたずねた時、プーチン氏は以下のように答えています。

我々は、1島でも2島でも、3島でも4島でも共同活動を検討する用意がある。重要なのは条件だ。その条件は、できるだけ自由なものでなければならない。<3>

 ここでは条件の中身をぼかしていますが、基本的にロシアの主権の下での共同経済活動だ、というのがプーチン氏のスタンスです。

 これに関しては、1)共同経済活動を行う島の数と、2)ロシア法の下か。日本法の下か。もしくは第三の機関をつくり、新基準の下で行うのか、という二つのマトリクスでたくさんの形態ができますが、日本としては、経済共同活動を行うのならば、日本法の下で行われる島を増やしたいところです。

 なお、ネット記事の前文と紙記事の詳報とでは多少、表現が違っており、紙版詳報では、インタビュアーが「第3の機関をつくって、その法の下でなのか」と聞いています。プーチンはこの問いに「いま、あなた方は。議論に対するアプローチのすばらしい例を示した」と答えているので、アイデアベースではこういう議論もあるのでしょう。

 プーチンは「極東全域の発展に日本が参加し、技術を日本から導入することは我々の利益になる」とも述べ、自動車、農業、石油開発などを例にあげています。今まで資源依存を続けてきたロシアの産業力強化を進めたいと考えているわけです。

8項目経済協力は「雰囲気づくり」?

  外務省HPの過去記事「日露首脳会談」(平成28年5月7日)では、経済協力プランとして以下の八つが挙げられています。

  1. 健康寿命の伸長
  2. 快適・清潔で住みやすく,活動しやすい都市作り
  3. 中小企業交流・協力の抜本的拡大
  4. エネルギー
  5. ロシアの産業多様化・生産性向上
  6. 極東の産業振興・輸出基地化
  7. 先端技術協力
  8. 人的交流の抜本的拡大

  この柱の下に半年間、具体案が詰められてきたわけですが、これに対して、プーチン氏は今回のインタビューで「これは条件ではない。これは、必要な雰囲気作りだ」<3>と返答しています。

 そんなのは返還の条件じゃないと言って値段をつりあげてきているので、このあたりもバザール商法全開、という感じに見えます。筆者は〔もっと雰囲気を盛り上げようぜ=もっといい条件を出せ〕ということなのかな~と思ってしまいました。

 さんざん貢いだ後に島は返さんと言われないよう、ロシアの食い逃げにも警戒が必要です。

 そして、プーチンは国境線を画定した中国を例に挙げて、日本はまだそこまで行っていないだろう?と同国との協力関係を見せつけています。

「中国は国の規模で言えば、我々の経済・貿易面での最大のパートナーだ」「協力しているのは中国とロシアが常任理事国なので当然だが、それ以外にも上海協力機構や、いまやグローバルな連合体のBRICS(新興5か国)でも協力している。現在、旧ソ連圏で我々が創設したユーラシア経済同盟について話し合いをしている。我々は、ベトナムと結んだような自由貿易協定を中国と結ぶために協議している」「中国の「一帯一路」構想と、我々が創設した地域機構とをつなげる用意がある」<3>

  四島は取り戻したいですが、まさか日本が上海協力機構に入るわけにはいかないことぐらいはロシア側も分かっているので、このあたりは日本からもっと援助を引き出すための宣伝文句と見るべきでしょう。冷戦期からの歴史と地政学的な利害関係が日本と中国とでは全然違うので、日本が中国と同じような対露外交を行えるはずがありません。

 インタビュー<5>でも、原子力、物流、機械、貿易、航空、宇宙等の中国との協力分野が列挙され、国際問題で「意見が一致」していることを見せつけています。

中国は、ボルガ川周辺地域を通過するモスクワ―カザニ間の高速鉄道建設に参加する意向だ。我々は高速鉄道をカザフスタン、中国にも延長する計画だ。<5><

 これは暗に日露で高速鉄道プロジェクトをやろうぜと言っているようにも見えます。昔、中国に日本の新幹線技術が流出したことがありましたが、似たようなことが起きないように、日本の知的財産権がちゃんと守られるのかどうか、注意が必要でしょう。

プーチンの狙いは対露制裁解除 

 対露制裁に関してプーチンは以下のように述べています。

「日本はロシアに対する制裁に加わった。制裁を受けたまま、経済関係をより高いレベルに進展させることができるのだろうか」

「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどれぐらい実現できるのか見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか」<2>>

  ロシアに経済制裁をしながら、同時に経済協力のプランをもちかけているので、日本のスタンスはプーチンから見れば意味不明です。

 領土交渉で日本側が持っているカードとしては、プーチンが一番気にしている対露制裁解除の選択肢はかなり大きいので、これをどこで出すかが今後の見所になるのかもしれません。

 トランプ氏当選後、ロシア要人が集うバルダイ会議に出席した法政大学の下斗米信夫教授は、朝日新聞(12/3朝刊:17面)のインタビューで以下のように指摘していました。

(会議で)「日本や北方領土問題は主たるテーマではありません。米中ロの三カ国がこれからどう重要な役割を果たすかが最大の眼目でした」
「パノフ駐日元大使は、山口訪問では、大きな進展は期待できないだろうと発言していました」「理由として・・(略)・・本来の共和党の政策は海軍力の強化が重要なアジェンダ(課題)であることを忘れてはならない、と指摘」(←これは、トランプは海軍力強化を主張しているので、同氏のプーチン賞賛に関係なく、ロシアも海の要所である北方領土返還にシビアにならざるをえない、という見方)
「10月の会議では、経済顧問のトップで、プーチン氏に大きな影響力があるとされるクドリン元首相が欧州からアジア太平洋へと経済政策の軸足を移す必要性を強調しました」

 パノフ氏の発言は返還交渉にシビアな見方の例で、クドリン氏は対日外交に肯定的な発言の例ですが、他にも、要人の発言の中で、返還交渉に厳しめの見解を示したものが数多くあったようなのです。

 下斗米教授はもともと「ロシアはアジアを目指す」というのが持論なので、対日交渉に肯定的な人もいるとフォローしていましたが、よく考えてみると、ロシア軍が持つ海への出口はさほど多くないのです。

 ロシアがシリアの海軍基地タルトゥースを必死に守り、自国海軍の出口にしているのを見れば分かるように、海でアメリカに劣勢な同国にとって、海上交通の要所はなかなか手放し難いわけです。

 日本には「北方領土にはさほど大きな経済価値があるわけではないのに、何であんなにこだわるんだ?」という疑問を持つ人もいますが、もともと、冷戦期の日米VSソ連の戦いは、ウラジオストクのソ連の潜水艦を太平洋に出さないように、日米がいかに監視するか、という戦いでもありました。

 リアリズムで見れば、指導者が誰であろうとも、国対国の地政学的な利害関係は変わらず、軍事面で見た時のロシアにとっての北方領土の意義は不変だ、ということになります。核搭載原潜の太平洋への出口は、ロシアにとって非常に大事な資産です。

 だとすれば、トランプ大統領就任後に、日米関係を作り直し、ロシアにどう向き合っていくのか、という全体像を固め直さないと、北方領土返還は難しいのかもしれません。この交渉は、長期戦になるのではないでしょうか。

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