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トランプのイスラエル外交 米大使館のエルサレム移転を目指す

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トランプ大統領は、当選後、オバマ政権の対イスラエル外交から脱却し、以下の政策で大転換を計る方針を固めました。

  1. イスラエルとパレスチナの和平交渉の原則「二国家共存」にはこだわらない
  2. パレスチナ自治区でのイスラエルの入植活動
  3. アメリカ大使館のエルサレム移転
  4. イランへの圧力強化(オバマ政権の核合意を批判)

トランプ政権はパレスチナ自治区でのイスラエルの入植活動に反対したオバマ政権の路線を覆すだけでなく、歴代政権が踏襲してきた「二国家共存」の方針の問い直しも辞さない姿勢を示しています。

この方針は、イスラエル建国に際して住処を失ったパレスチナ人に自治区を与え、「二国家」を共存させることを目指します(03年にアメリカ、EU、ロシア、国連が05年までの行程表を提案し、イスラエルとパレスチナの双方が合意するとされた)。

しかし、その計画はうまくいかず、パレスチナ自治区ではテロが続き、イスラエル側がヨルダン川西岸地区と東エルサレムで入植活動を進め(現在、約60万人規模で居住)、自国の影響力を拡大しています。和平交渉は事実上、停止していますが、アメリカの歴代政権はこの方針を維持し続けてきたのです。

そして、オバマ政権はイスラエルの入植活動に反対していたので、イスラエルの不満が高まっていました。

その政権末期から現在までを振り返ると、以下の出来事が起きています。

  • 2016年12月23日:サマンサ・パワー前米国連大使がイスラエルに入植活動停止を求める国連安保理決議案への投票を棄権。⇒米国は拒否権を用いず、決議案は採択
  • トランプ氏とネタニヤフ首相は批判。イスラエルは入植を拡大
  • ニッキー・ヘイリー国連大使は承認のための上院公聴会で国連がイスラエルへの姿勢を改めなければ、米国は国連分担金支払いをやめることを示唆
  • 2月10日、ヘイリー国連大使がパレスチナ自治政府のサラム・ファイヤド元首相を国連リビア特使に任命することに反対。

そのほか、トランプ政権の動きを見ると、イスラエルの入植活動を支持するフリードマン氏を大使に指名したほか、米大使館のエルサレム移転や、オバマ大統領が進めたイラン核合意の見直しなどを目指しています。

その後、トランプ氏は、2月のイスラエル首相の訪米への返礼として、5月にイスラエルを訪問。

トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は5月22日にエルサレム市内で首脳会談を行いました。

日経電子版(2017/5/23)では、歴代大統領が挫折した中東和平の実現に関してトランプ氏が意欲を示したことや双方の発言等が紹介されています(「中東和平、仲介役か火種か トランプ氏がイスラエル訪問」)。

  • 「この地域に安全と安定、平和をもたらす、またとない機会が目の前にある」「中東和平の実現をめざすという約束に感謝したい。私たちは目標を共有しており、達成に自信がある」(トランプ米大統領)
  • 「和平交渉を進展させるいい機会だ。大統領はこの問題に力を注ぐつもりだ」(ティラーソン米国務長官)
  • 「今回の訪問が和解と平和に向けた歴史的な道しるべとなってほしい」(ネタニヤフ首相)

ただ、トランプ氏は大統領選にてイスラエル米大使館(現在はテルアビブにある)のエルサレム移転を掲げ、その時には、米国がエルサレムを首都と認めることを約束しています。ただ、イスラム教をはじめとする多くの国々がエルサレムをイスラエルの首都とは認めていないので、トランプ氏は自ら火種を同時につくっているわけです。

前掲記事は「米議会が制定したエルサレムへの米大使館移転を求める法律の執行を、歴代米政権は『安全保障上の問題』として大統領令で凍結してきた」ことを指摘し、中東和平交渉の再開を視野に入れ、「トランプ政権が今回の訪問にあわせて大使館移転を表明する案を見送った」ことを報じています。

そのほか、エルサレム訪問に際しては、メラニア夫人と娘婿のクシュナー大統領上級顧問(ユダヤ教徒)も同行し、ユダヤ教の神殿の一部である「嘆きの壁」を訪問し、ユダヤ教徒への配慮を見せています。

そもそもネタニヤフ首相ってどんな人?

まずはネタニヤフ氏のプロフィールを見てみます。

本名は「ビンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin NETANYAHU)」(ベンヤミンとも表記される。愛称は「ビビ」)。

出身地はテルアビブです。1949年10月21日(67歳)に生まれました。

イスラエル国民には兵役があるので、ネタニヤフ氏の職歴は国防軍から始まります。

国防軍コマンド部隊(1967-72)で務めたのち、ビジネスコンサルティングに携わりました。

イスラエルでは軍で専門スキルを磨き、退役後にビジネスの世界にに転身する人が多いとも言われますが、ネタニヤフ氏もそうだったようです。

その後、兄(ヨナタン)の名を冠した民間のテロ対策研究機関に1979年に所属(ヨナタンはテロに対抗した1976年のエンテベ空港奇襲作戦で戦死)。その後、外交関連で職歴を重ねます。

在米イスラエル大使館次席(82~84年)⇒国連大使(84~88年)⇒外務副大臣(88~91年)

そして、88年に議員になります(クネセット総選挙当選。その後も当選を重ねる)

91年にはマドリッド中東和平会議でイスラエル代表上級団員となりました。

93年(44歳)で若くしてリクード党首となります。

首相(93~96年)⇒外相(02~03年)⇒財務相(03~05年)を歴任。

ひとたび下野し、09年以降、首相を務めています。8年も続く長期政権です。

学歴を見ると、米マサチュセッツ工科大を卒業。ヘブライ語、英語、フランス語に長じています。『テロリズム―西側はいかにして勝利を手にするか』という著書も出版しました。

トランプ氏は何を主張したのか?

今回のイスラエル訪問に関して、ホワイトハウスHPに掲示された記事から、トランプ氏の気になる発言を拾ってみます。各紙報道では、必ずしも出ていなさそうな箇所を見ていきましょう。

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今日、我々はイスラエルと米国との間にある不朽の友邦との絆を確認した。その友情は、自由への愛と人間の尊厳への信頼、イスラエルの平和の持続との上に築かれている。

Today, we reaffirmed the unbreakable bond of friendship between Israel and the United States -- a friendship built on our shared love of freedom, our shared belief in human dignity, and our shared hope for an Israel at lasting peace.

我々はイスラエルの平和を望んでいる。

We want Israel to have peace.

しかし、我々は友である以上に、偉大なる同盟国だ。

But we are more than friends. We are great allies.

我々の前には数多くの機会が広がっている。

We have so many opportunities in front of us.

我々はそれらを共につかみ取らなければいけない。

But we must seize them together.

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それは繁栄への前進、テロリズムの悪を打倒すること、イラン政府との脅威との直面ーーそれは地域を脅かし、暴力と苦しみを引き起こすものだ。

That includes advancing prosperity, defeating the evils of terrorism, and facing the threat of an Iranian regime that is threatening the region and causing so much violence and suffering.

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サウジアラビアへの訪問の途次で、私は数多くのアラブ、イスラム世界の指導者と会った。その中にはサルマン王も含まれている。彼は我々を厚遇し、世界で偉大なる出来事が起きることを真に望んでいた。

In my visit to Saudi Arabia, I met with many leaders of the Arab and Muslim world, including King Salman, who treated us so beautifully and really wants to see great things happen for the world.

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それらの指導者はISISとイランの復興と台頭の野心、そしてイスラム世界にあまりにも広まりすぎた過激主義の脅迫に関しての懸念を共にした。

These leaders voiced concerns we all share -- about ISIS, about Iran’s rising ambitions and rolling back its gains, and about the menace of extremism that has spread through too many parts of the Muslim world.

私はテロリズムと憎悪に満ちたイデオロギーに対抗する彼らの協力の誓いに大いに励まされた。

I’m encouraged that they pledge cooperation to confront terrorism and the hateful ideology that drives it so hard.

アメリカは世界中に不必要な流血と殺害をもたらす暴力的なイデオロギーを根絶するための活動に対する、各国の支持と行動を歓迎する。

America welcomes the action and support of any nation willing to do the hard but vital work in eradicating the violent ideologies that have caused so much needless bloodshed and killing here and all over the world.

我々は共に働く。

We are willing to work together.

私は新しいレベルでの協力関係が実現しうると信じている。この地域と米国をより安全にし、世界をより繁栄させることができることを。

I believe that a new level of partnership is possible and will happen -- one that will bring greater safety to this region, greater security to the United States, and greater prosperity to the world.

この中には、イスラエルとパレスチナの平和を新たにすることが含まれる。私はイスラエル首相の平和実現への献身に感謝する。

This includes a renewed effort at peace between the Israelis and the Palestinians, and I thank the Prime Minister for his commitment to pursuing the peace process.

彼は熱心に活動しているが、それは容易ではない。私は、その試みは世界でもっとも難しい「取引」の一つだとも聞いているのだ。しかし、私は、最終的にはそれが実現されるという希望を持っている。

He’s working very hard at it. It’s not easy. I’ve heard it’s one of the toughest deals of all, but I have a feeling that we’re going to get there eventually, I hope.

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トランプ大統領は「二国家共存」にこだわらず

2月15日に訪米したイスラエルのネタニヤフ首相との会談で、トランプ米大統領は、イスラエルと将来的なパレスチナ国家が平和的に共存する「2国家共存」について、必ずしも、これにはこだわらない意向を示していました。

16日未明の日経電子版では、記者会見でのトランプ大統領の発言が紹介されています(「トランプ氏、「2国家共存」こだわらず イスラエル首相と会談」2017/2/16)。

  • 「2国家でも1国家でも(イスラエルとパレスチナの)双方が望む方でいい。どちらでも受け入れ可能だ」
  •  2国家共存を「唯一の道」としてきた歴代米政権のイスラエル政策の転換を示唆した。
  •  パレスチナ自治政府が反発している在イスラエル米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転案も前向きに検討する考えを示した。一方、イスラエルが進めるヨルダン川西岸などへの入植地の建設拡大については「少し自制してほしい」と述べた。

入植地拡大に関してはややトーンダウンしていますが、基本的にはイスラエル寄りのスタンスです。

実質的にイスラエル支持なのは、ホワイトハウスHPにUPされたトランプ大統領の発言を見るとよく分かります。

(以下、出所はJoint Press Conference w/ Prime Minister Netanyahu | whitehouse.gov

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【トランプ大統領】

わが友、ベンヤミン・ネタニヤフ首相をホワイトハウスに招待できたのは光栄の至りだ。

Today, I have the honor of welcoming my friend, Prime Minister Benjamin Netanyahu, to the White House.

彼の訪問をもって、アメリカは親愛なる同盟国であるイスラエルとの不朽の絆を、再確認したい。

With his visit, the United States again reaffirms our unbreakable bond with our cherished ally, Israel.

我々二国間の協力関係は価値の共有によって築かれている。その価値とは「個人の自由と尊厳、平和を促進する」という大義のことだ。
The partnership between our two countries, built on our shared values, has advanced the cause of human freedom, dignity and peace.

これらは民主主義の礎石である。

These are the building blocks of democracy.

イスラエルは圧制に対する世界の抵抗の象徴だーー大量虐殺から生きのびた人々がつくったイスラエルを、私は世界に二つとない大事な国だと考えている。

The state of Israel is a symbol to the world of resilience in the face of oppression — I can think of no other state that’s gone through what they’ve gone [through] — and of survival in the face of genocide.

私はユダヤ人が耐え忍んだ経験を忘れることはないだろう。

We will never forget what the Jewish people have endured.

あなたがたは敵意に対して忍耐し、暴力に直面しながらも開かれた民主主義を維持し、全ての賭けに勝利した。それは(我々を)鼓舞するものだ。

Your perseverance in the face of hostility, your open democracy in the face of violence, and your success in the face of all odds is truly inspirational.

イスラエルは核保有に対するイランの野心を含む、数多くの安全保障における挑戦に直面している。私はこれに関して、すでに数多く議論を重ねた。

The security challenges faced by Israel are enormous, including the threat of Iran’s nuclear ambitions, which I’ve talked a lot about.

イラン核合意は近年における最悪の取引の一つだ。

One of the worst deals I’ve ever seen is the Iran deal.

わが政権はすでにイランに新しい制裁を課している。私はイランのさらなる核開発を阻止するつもりだ。

My administration has already imposed new sanctions on Iran, and I will do more to prevent Iran from ever developing — I mean ever — a nuclear weapon.

我々はイスラエルを常に高い水準で軍事的に支援している。イスラエルが彼ら自身の国を数多くの脅威から守ることができるように。

Our security assistance to Israel is currently at an all-time high, ensuring that Israel has the ability to defend itself from threats, of which there are unfortunately many.

この二国間の関係は継続し、発展してゆく。

Both of our countries will continue and grow.

我々はテロリズムや人間の生命の価値を否定する者たちとの戦いで、長い間、協力を続けている。

We have a long history of cooperation in the fight against terrorism and the fight against those who do not value human life.

アメリカとイスラエルは人間の生命の価値を尊ぶ二つの国家なのだ。

America and Israel are two nations that cherish the value of all human life.

これが、我々が不公正で一方的なイスラエルに対する国連の措置に反対し、ボイコットする理由だ。私の見解では、国際会議でイスラエルはとてもとても不公正に扱われている。

This is one more reason why we reject unfair and one-sided actions against Israel at the United Nations, which has treated Israel in my opinion very, very unfairly, or other international forums, as well as boycotts that target Israel.

わが政権はイスラエルと我々の同盟国とともに地域の安全保障を堅固にすることを約束している。

Our administration is committed to working with Israel and our common allies in the region towards greater security and stability.

それはイスラエルとパレスチナ人との間の和平に向けた取り組みを含む。

That includes working toward a peace agreement between Israel and the Palestinians.

アメリカ合衆国は平和を促進し、そのための協定を実現する。

The United States will encourage a peace, and really a great peace deal.

我々はそのために熱心に取り組む。

We’ll be working on it very, very diligently.

我々がそれを望むことは非常に大事だ。

Very important to me also, something we want to do.

しかし、彼ら自身が妥結のために直接的な交渉を行わなければならない。

But it is the parties themselves who must directly negotiate such an agreement.

我々は彼らとともにある。

We’ll be beside them.

我々は彼らとともに働く。

We’ll be working with them.

実りある交渉のために双方が妥協する必要があるのだ。

As with any successful negotiation, both sides will have to make compromises.

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その後、2月16日にはニッキー・ヘイリー米国連大使がパレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの「2国家共存」を支持しました(安全保障理事会の定期会合での発言)。
15日のトランプ氏の発言ののちに、従来の路線を維持する意向を示しています。

(※3月9日には駐イスラエル大使に指名された弁護士のデービッド・フリードマン氏が米上院外交委員会に承認されました。フリードマン氏は親イスラエル派で、アメリカ大使館のエルサレム移転等、トランプ氏のイスラエル政策の具体化を目指しています)

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