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トランプのヨーロッパ政策 NATO重視と国防費GDP比2%要求

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今回は、2017年を振り返りながら、トランプ政権の欧州政策について考えてみます。

トランプ大統領は2016年の大統領選では「NATOは時代遅れだ」と激しく批判しましたが、当選後はNATO支持に政策を転換しました。

そして、NATO加盟国にはGDP比2%以上の防衛費の負担を要望しています。

(以下、3月2日の米議会でのトランプ演説での発言)

  • 我々はNATOを支持する。それはファシズムを除くための世界大戦、そし共産主義を破った冷戦期に築かれた同盟の絆だ。しかし、我々のパートナーは財政上の義務を果たすべきだ。
  • 我々はNATO、中東、太平洋のどのパートナーも、戦略的・軍事的な任務の双方において直接的で有意義な役割を果たすことと相応の費用を負担することを期待している。

GDP比2%以上の防衛費負担に関しては、2014年時点で、NATO加盟国は24年までの実現と国防費の2割以上を装備品購入や研究開発等に充てることに合意していました。

これはオバマ政権の頃からあった話ですが、トランプ政権になってから、その実現が、一層強く要請されるようになったのです。

米新政権は発足後、何度も同じ主張を繰り返しています。

  • 1月28日:トランプ氏とメルケル首相が電話会談。NATO支持を表明
  • 2月15日~16日:NATO国防相理事会にマティス国防長官が出席
  • 2月16日~17日:20カ国・地域(G20)外相会合にティラーソン国務長官が出席
  • 2月17日~19日:安全保障会議にペンス副大統領が出席
  • 3月17日:メルケル独首相が訪米。米独首脳会談
  • 3月31日:ティラーソン米国務長官がNATO外相理事会(於ブリュッセル)に初参加

結局、首脳会談や三名の閣僚の訪欧を通して、「NATOは時代遅れだ」というトランプ氏の選挙中の発言がもたらした不安を鎮静化したわけです。

過去の要人の発言を見ながら、今回は、トランプのヨーロッパ政策を安保面から見てみます。

マティス国防長官のNATO擁護発言

トランプ政権が発足してから初めてのNATO(北大西洋条約機構)国防相会議が2月15日にベルギーの首都ブリュッセルで開催され、そこでマティス国防長官が演説を行いました。

トランプ政権の方針がここにわかりやすく出ているので、その内容を紹介してみます。

ここで、国防総省の英文記事を紹介してみます。

(【マティス:NATOは新しい戦略的現実への対応の中で進化する】シェリル・ペレリン 国防総省ニュース)

(出所:Mattis: NATO is Evolving in Response to New Strategic Reality > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Article

  • 「我々は、同盟が直面している危機の拡大について議論した。そして、民主主義への脅威に対して団結し、これらの脅威の成長に対処すべく、強固な同盟を築くことを私は決意した」。
  • マティスのメッセージは簡潔だ。「我らが国家のコミュニティは、NATO周辺と辺境における不安定の弧の脅威の下にある」。
  • 防衛長官は防衛負担を共有すべきだと述べた。NATO加盟国はGDP比で2%の防衛費を拠出すべきだ。
  • マティスは、サイバー領域の新しい脅威やロシアの攻撃的な行為の中でNATOの安全保障は変わると述べた。それらは国際法に違反し、国際法を揺るがせているからだ。
  • 彼は、ロシアが「この地球上のすべての成熟した国家と同じく、国際法に則ってふるまうべきだ」と述べた。
  • アメリカとロシアは「軍事的に協力できるレベルの状況にはない」が、「我々の政治指導者はロシアに対して、立場を共有できる点を模索している。そして、NATOとの協力関係を戻したいと考えている」
  • ロシアがその初めになる必要がある。ロシアとNATOとの協定を成立させたい。
  • NATOとロシアの関係は安全保障と相互協力のために1997年のNATO・ロシア基本文書を締結し、それを2002年のNATO-ロシアサミット、2010年のリスボンでの会合で確認することで形づくられた。
  • その文書では、NATOは集団安全保障と、侵略の脅威に対抗するためのインフラを補強し、訓練するための他の任務を担うとされている。
  • その協定では、ロシアはヨーロッパに向けた通常兵器の配備を抑制することになっている。
  • マティスは、中東や北アフリカでのテロ根絶を含む他の挑戦についても言及した。これは、彼が「我々とヨーロッパへの直接的・即自的な脅威」と呼んでいるものだ。
  • 国防長官は、そうした脅威への対処し、NATOは防衛と抑止力を強化している。そして、中東からトルコに至る、より直接的なテロリストの脅威に対処していると述べた。
  • 「同盟はこれらの戦略的な現実と政治的な現実に直面している」とも述べた。
  • 「私は、防衛負担の共有に感謝し、ここを出発できるものと信じている。そのために、平和と繁栄のための抑止力を維持しなければならないからだ」
  • 「私は、我々が直面する脅威の拡大に対処する防衛の関与を推し進めるための会合日程を含んだ本年の計画が採用されると考えている」
  • エストニア、ギリシャ、ポーランド、イギリスは国を守るためのGDP比2%の支出を行っている。
  • 「これらの国々は、真の犠牲を払ったよい見本だ。全ての同盟国は世界の中で最良の防衛を享受していることを認識している。私はウェールズとワルシャワでのサミットで、全加盟国がこのレベルの貢献に向けて着実に前進すると考えている」
  • 「環大西洋の絆は、とても強い共通の価値の上に築かれている」
  • 「私は、ブリュッセル(NATO本部のこと)が、同盟における目的の追求を急ぎ、栄誉ある相互の貢献のためにともに立つ深い決意を固めているのを見た。私は、我々の自由を守るために必要な能力と資産を維持できると確信している」

欧州の現況に関しては、毎日新聞のネットニュースでは、以下のように報じられています(「マティス米国防長官 国防相会議でNATOに負担増要求」2017年2月16日 東京朝刊)。

NATOによると、米国を除く欧州諸国とカナダの計27カ国の2016年の防衛費支出の総額は、前年比で3・8%伸びて約100億ドル(約1兆1340億円)増加した。

公正な費用負担は米欧間の「接着剤」(NATO外交筋)だ。ロシアとの対立やテロ対策など国際情勢の変化を受け、NATOは24年までに全加盟国で防衛費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げる目標を掲げている。

この記事はロシアが巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したというNYTの報道を転載していますが、このミサイルの射程距離は500~5500kmなので、米ソ間で締結した中距離核戦力全廃条約に抵触する可能性があります。

弾道ミサイルの射程距離とその分類には各国で完全なコンセンサスがあるわけではありませんが、5500kmで長距離と中距離のラインが引かれています(5500km以上を長距離、3000~5500kmが中距離、1000~3000kmが準中距離、1000Km以内が短距離と区分けされることが多い)。射程だけで見たら、SSC8は中距離に入ってしまうからです。

ロシアは軍拡を続け、原潜を含む核抑止力を再建してきているので、マティス氏は同国の軍拡とウクライナへの領土拡張の意志を警戒し、前掲のように、危機への対応能力を強化すべきだと述べたわけです。

その枠の中で、トランプ氏の意向を受け、ロシアとの関係改善を期待する発言もしています。

もともとはロシアへの警戒心の強いマティス氏も、トランプ氏の対露政策に合わせて、対露政策の変更の可能性をにおわせる論調になっています。

そして、もう一つ、力点が置かれているのはIS打倒作戦です。

「これはすぐに終わるようなものではない。しかし、我々は戦いを加速してゆく。それが私がここにいる理由の一つだ。これを同盟国(あなたがた)のためにつくろうとしているのだ」とマティスは述べた。

(出所:U.S., NATO to Accelerate Counter-ISIS Fight, Mattis Says (U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE)

メルケル独首相の訪米

その後、3月17日にはドイツのメルケル首相が訪米しました(日本時間で言えば18日頃)。

ホワイトハウスのHPには、1月28日になされたトランプ大統領とメルケル首相との電話会談の記録が公開されています(出所:Readout of the President's Call with Chancellor Angela Merkel of Germany | whitehouse.gov

やや通り一遍に見えますが、トランプ氏とメルケル氏は双方が協力することで合意したと伝えています。

  • 双方の指導者はドイツとアメリカの協力は両国の安全保障と繁栄のための協力の重要性、来るべき数年の間に両国が関係を深めることで一致した。
  • 大統領と首相は北大西洋社会の安定性と平和を確保する上で、NATO条約が基本的に重要だと一致した。
  • そうした話の流れで、指導者たちは、NATOが21世紀の脅威に対処する能力を持たなければならず、共同防衛のために軍事における適切な投資が要請されていることを認識した。それは、集団防衛に参加している全加盟国に公平な分担と貢献を確保するための措置だからだ。
  • 指導者たちは中東と北アフリカでの衝突を鎮静化すべく、過激な暴力とテロリズムに対抗するための協力を活発にし、強化することの必要性で合意した。

その後、メルケル氏は訪米し、NATO重視と反テロでは合意。移民問題や通商問題では必ずしも見解が一致しませんでした。

WSJ日本語版(3/14)では、両者の立場に以下の5点で相違があることを指摘していました(「トランプ・メルケル会談 5つの注目点」)

  • 貿易政策の溝は埋まるか⇒トランプ氏は独の巨額の対米貿易赤字を過去に批判
  • G20議長国として方針を守れるか⇒気候変動や金融規制等で両者の立場が違う
  • ロシアやイラン政策について歩調が合うか?⇒対露政策や核合意の立場も違う
  • 機密情報の共有は維持されるか⇒トランプ氏の情報機関へのスタンスが不明
  • ドイツは軍事支出拡大へ圧力 を受けるか⇒現状は独軍事費はGDP比1.2%程度

NATOと反テロでは合意できるものの、他の論点は必ずしも一致しないという感じになっています。

ティラーソン米国務長官の訪欧

さらに、3月31日には、ティラーソン米国務長官がNATO外相理事会に初出席し、以下の3点を主張しています(出所:NATO Foreign Ministerial Intervention Remarks

  1. 米新政権はNATOを支持
  2. 加盟国に2024年までにGDP比2%へ防衛費増額計画の作成を求める
  3. テロとの戦いにおいて米国はNATOと連携(特にアフガニスタン)、

そして、「テロとの戦いに関しては、NATOはもっとできることとなすべきことがある。テロとの戦いは米国にとって安全保障上の最優先事項だ。それは我々すべてにとっても同じだ」と述べました。

アフガニスタンでのNATOの貢献に謝意を表明しつつ、IS打倒やイスラム過激派対策での連携を呼び掛けているわけです。

訪欧した閣僚はいずれも老練な人材なので、トランプ氏の「暴言」(「NATOは時代遅れだ」という発言)を利用してNATO加盟国に要求をつきつけたのかもしれません。

トランプ氏も紆余曲折を経て、当選後は軟化しているので、今回の訪欧では、過去の諍いを終わらせ、もう少し、合理的に防衛費負担等をNATO各国に求めるものと推測されます。

日本が注視すべきは、やはり、米国のNATOへの防衛費負担増の要求と、IS打倒作戦(イスラム過激派対策)への協力へ強い要請が一貫している点です。

トランプ大統領の訪欧

トランプ大統領は5月24日にはヴァチカン市国を訪問し、ローマ法王と初会談を行いました。

昨年以来、この二人の指導者の軋轢も報じられましたが、今回の訪問で両者の関係は修復されたようです。

大統領選初期の2016年2月に、トランプ氏が「メキシコの壁」を建設すると宣言した時、フランシスコ法王は、橋を築くのではなく、壁をつくることだけを考えている人は、キリスト教徒ではないと批判しました。そして、トランプ大統領は宗教指導者が個人の信仰の中身を批判したことに怒り、「バチカンがISに攻撃された時、ローマ法王はトランプが大統領だったら良かったのにと嘆くに違いない」と反論していたのです。その後、トランプ氏が大統領に就任し、イスラム6か国の入国制限を行おうとした時も、ローマ法王は批判しています。

今回の会談では、ローマ法王はトランプ氏の訪問に謝意を示し、ローマ法王は自筆の文書や平和の象徴(オリーブ)を形作ったメダルを寄贈し、トランプ大統領はキング牧師の著書を渡し、両者の関係改善が図られたわけです。

これに続き、25日にはNATO首脳会談が行われました。

トランプの欧州での発言が以下のように報じられています(トランプ氏「NATOは応分の財政負担を」、初の首脳会議に出席 2017/5/26)。

  • 「テロリズム打倒と永続的な安全保障や繁栄、平和実現への決意は揺るがない」
  • 「テロを阻止しなければ、マンチェスターのような恐ろしい事件が永遠と続く」
  • トランプ大統領はNATOを「時代遅れ」などと批判していた経緯があり、他の首脳はトランプ大統領がNATOへの支持を公言することを期待していた。
  • 「加盟28カ国のうち23カ国はいまだに求められている国防費を負担していない」
  • 「米国の納税者にとり不公平だ。これらの国の多くが過去数年にわたり多額の借金を負っている」

トランプ本人の明言はないものの、スパイサー報道官は、大統領は集団的自衛に100%コミットしていると
述べています。

首脳会談前にトランプ氏は、25日にEU首脳と初会談し、テロ対策を含む多分野で合意したことと、気候変動や通商、ロシア政策などの分野で両者の立場に開きがあることを指摘しました。

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