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『不発弾』(相場英雄著)は東芝危機を予見していた? 投資家必読の小説のあらすじ等を紹介

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東芝危機を予見したともいわれる、相場英雄氏の『不発弾』(新潮社刊)。

筆者はネット記事でこの経済小説を知りましたが、先日に何気なく八重洲ブックセンターに出かけた時、入口付近で平積みされていたので、読んでみることにしました。

相場英雄(あいば・ ひでお)氏は2005年に『デフォルト-債務不履行』でダイヤモンド経済小説大賞を受賞し、文壇にデビューした小説家です。

1967年に新潟県に生まれたので、デビュー時点では38歳でした。本年でちょうど50歳になります。時事通信社に入社し、キーパンチャーから記者に転身。日銀や東証を担当していました。

デビュー後はBSE問題を取りあげた『震える牛』(2012)が累計28万部のベストセラー。『血の轍』(2013)は第26回山本周五郎賞候補作、第16回大藪春彦賞候補作。『ガラパゴス』(2016)も第29回山本周五郎賞候補作となっています。

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16年11月以降、東芝危機が本格化して以来、大手電機メーカーの「減損」を取り上げた『不発弾』の著者の先見の明が注目されています。

金融の話はやや難しいですが、ストーリーは読みやすく、興味を引く出来事が次々と起きます。そのため、384ページありましたが、筆者は退屈せずに、昨日夜半に読み終えることができました。

今日はこの小説のあらすじや読みどころなどを紹介してみます。

『不発弾』(相場英雄著)のあらすじ

年商6~7兆円の巨大企業である三田電機が7年間で1500億円の「不適切会計」を行った。

大手の三田電機のパソコン部門では、スケールメリットを生かし、部品メーカーからPCのパーツを安い価格で大量発注し、製造委託先である台湾企業に購入価格よりも高く、それを売りさばく。これは委託先の台湾企業からPCの完成品を買い戻す時に相殺しなければいけない一時的な利益なのだが、三田電機は、実際に販売するPCに要する量よりも多くのPCパーツを買い取らせることで、パソコン部門の利益の額を1500億円も水増ししていた

(※この売買を「バイセル取引」という。相場氏と対談した日経ビジネス編集部の小笠原啓記者は「東芝の歴代経営陣の刑事責任を問わないままでは、粉飾の手段とされた『バイセル取引』が、日本では商習慣上でOKということになってしまいます」とも述べ、問題視している〔「不発弾」を告発した人々は報われたのか?:日経ビジネスオンライン〕。)

そして、三田電機の歴代社長は期末前になると、「アクション」と称して、社内の各事業部門に利益の計上を強要し続けてきた。

不適切会計というが、これは要するに、粉飾決算ではないのかーー。

過去、ネットベンチャーの某社が粉飾決算で上場廃止になった時の規模は50億円にすぎない。大手電機メーカーだったら1500億円の粉飾が「不適切会計」で許されてしまうのだろうか。

疑問を抱きながら、この事件に潜む怪しい影を追う警視庁捜査二課の第三知能犯捜査係(サンチ)。

サンチを率いる小堀秀明(警視庁キャリア)が調査を進める中で「古賀良樹」という男の名が浮かび上がった。その男に関わった人物の周辺には事故死や自殺が相次いでいる。

死因を探ると、古賀が紹介した金融商品が生んだ巨額債務が浮かび上がる。

そして、小堀は関係者の捜査を続ける中で、古賀の不正の痕跡が残された資料を入手。

パソコンや家電の不振分の1500億円をごまかしていただけでなく、三田電機は原発事業の減損2000億円を後に計上した。だが、実態はあと1000億円の損失が隠されている。古賀は、この1000億円分の減損を海外企業のM&Aに見せかけて隠すことを助言していたのだ。

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『不発弾』では、三田電機への強制捜査を目指すサンチの足取りと、財界に暗躍する「飛ばし屋」の個人ヒストリーの双方が描き出されます。

小堀は、古賀の存在を初めて情報屋を通じて知ったのですが、その男は「古賀を有罪にはできない」と予告。

果たして、小堀は見事、目的を遂げることができるのか。

はたまた、見えざる巨悪に阻まれてしまうのか。

そこが最後の見所になっています。

なんで「不発弾」? その意味とは?

題名にもなった「不発弾」というのは、バブル期の財テクの巨額損失をごまかすための金融商品を「不発弾」にたとえたものです。

この小説の中では、以下のような金融商品の取引が出てきました(複雑な仕組みを略しています)。

バブル期の財テクで古賀良樹が取り扱った金融商品で35億円の損失を出した健康飲料会社「ノアレ」。

ノアレはデリバティブ取引を行う外資系金融会社(小説に出てくるのは「ヘルマン社」)等の取引で、これを誤魔化そうとします。

ノアレ社はヘルマン社等に損を出した塩漬け株を売る権利を売却(オプション取引)。そして、「売る権利を売却する」取引のプレミアムとして35億円が支払われ、ノアレ社は損失計上を回避します。

しかしながら、それだけで終わるはずがありません。ヘルマン社等のリスク負担には代償があるからです。

この取引には、1)1ドル=80円以上に円高が進行しないこと、2)平均株価が1万円以下にならないこと、という二つの条件がついていました。

このいずれかの条件が破られた時には、そのリスクの全額を請求されます。

(※バブル期以降も株価が「時価会計」でなく、金融取引のルールにも抜け穴があったため、この小説では、この種の取引が可能だったとされている。これはあくまでも「当時の取引」の話)

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その後、90年代に円高ドル高が進行し、ノアレは巨額の代価を要求されてしまいます。

小説の中では、ノアレ社は類似の取引を拡大し、この規模を膨らませ、最後の運用損は1000億円規模にまでふくれあがりました。

前掲の1ドル=80円以上の円高と、平均株価が1万円以下という二つのトリガーに触れた場合、「不発弾」が爆発し、企業が崩壊する、という仕組みになっていたのです。

財テクに走った財務担当者の多くは、前掲の2つの条件が破られる未来を予測できなかったのですが、”リスクヘッジ”の金融商品を提供した外資系金融のほうが一枚上手でした。

彼らは海外の機関投資家やヘッジファンドとつながっていたので、以下の未来図を読んで、財テクの損失隠しをしたい担当者をカモにする金融商品をつくったのでした。

  1. バブル崩壊後の日本は超低金利政策
  2. 外資が低金利で円を調達し、これをドルや海外通貨に替えて投資(円キャリートレード)
  3. 日本政府が低金利を是正
  4. 海外機関投資家やヘッジファンドが円高誘導

小説の中では、その結果、ノアレ社の損失は1087億円になります。こうしたカモをみつけ、外資に紹介していたのが、前掲の「古賀良樹」なる敵役です。

バブル期を知らない若年層にお勧めの経済小説

筆者はバブル期の頃は子供だったので、バブル期とその後の経済の実際を知りません。

そのため、当時のもうけ話の凄まじさが描かれていたことを、非常に興味深く感じました。

バブル期には「営業特金」(特定金銭信託)の資金回転率が異常に高まったのですが、小説の中で、その当事者たちのやり取りが描かれています。

「何それ?」という方のために、まず、バブル期に、この制度に関する「法律の抜け穴」をふさいだ高橋洋一氏(当時の大蔵官僚)の解説を見てみます。

(以下、『アベノミクスの逆襲』(第四章)の記述)

  • 企業が持金を設定し、本体で所有している有価証券を特金に移管すると、本体が所有している有価証券の帳簿価格を変えずに有価証券運用を行なえる
  • 企業の保有する有価証券に莫大な含み益が発生しても、その含み益を顕在化させない形で有価証券を運用できる
  • この「簿価分離」という税制の歪みが悪用されていた。
  • 証券会社の営業担当は「いくら売却益が出ても、本体のほうの含み益は別だから大丈夫です。含み益を出さなくてもいいんです」といって売込みをかけていた。
  • その一方、証券会社の営業担当は事実上の損失補填もしていた。「もし損が出ても大丈夫です」と口約束をしたり、名刺の裏に一筆書いたりしていた。
  • 当時の法令上、売買一任は事実上禁止されていたが、若干法令の不備があり、営業特金は野放しの状態だった。
  • 当時の法令でも、事前の損失補填は禁止されていたが、事後の補填を禁止する明文上の規定がなかった

『不発弾』では、こうした営業特金(特定金銭信託)で証券会社と顧客企業の間での「にぎり」(年利で6%~8%程度の運用を口約束すること)ができる過程などが描かれています。

この中に出てくる欲深い顧客は年利12%を要求し、そのうち2%分を着服用の別勘定にしろと要求したりしていました。

金融犯罪を描いた小説なので、えげつない話のオンパレードですが、日本経済史が「暗部」も含めて読めます。

そのため、バブル期を知らない若い方々にはお勧めの小説だと言えます。

歴史の教訓:バブルたけなわの頃に、破裂要因が浮上

結局、この営業特金も大蔵省の通達で禁止され、株価急落の一因になりました。

『不発弾』では、証券会社の法人向け担当者が先々の株価急落を予測して真っ青になっている年末の大納会の頃、マスコミと一般人が株価上昇を脳天気に喜んでいた話が描かれています。

(年末に)「大量の売りが出てくることを肌で理解していたのは古賀のような法人担当の営業マン、それに一部の法人客だけで、金余りで株価が上がり続けることを信じて疑わなかった個人の買いは俄然入り続けた。大納会29日、平均株価の終値は3万8915円87銭と史上最高値を更新した。この日の夜のニュース、あるいは夕刊は株価の好調さを賛美する見出し一色だった」(P179)

その年明け早々に株価4万円に達する等と書いた新聞もあったと書かれています。

最近もトランプ相場で株価4万円等と書いた週刊誌記事もありましたが、こうしたシチュエーションは今後も起きうるので、歴史の教訓として、しっかりと押さえておきたいものです。

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