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エマニュエル・マクロン大統領の経歴と政策

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6月18日にはフランス下院選(国民議会選)の決選投票(第二回投票)が行われ、新大統領のマクロン氏が率いる新党「共和国前進」が過半数を制することが明らかになりました。

19日9時頃の産経ニュース(2017/6/19)によれば定数577の下院のうち「共和国前進」が289の議席を獲得すると報じられています。国営テレビによれば連携する中道政党を含めた前進陣営は361議席(約6割)。他の議席数は、保守系の共和党陣営が126議席、社会党陣営が46議席、共産党等の急進左派は26議席、国民戦線が8議席。国民議席のマリーヌ・ルペン党首は初当選しました(「マクロン新党過半数制す 安定運営に基盤固め」)

関連記事①:フランス下院選 マクロン新党「前進」の大勝

5月7日(日)にフランス大統領が決まり、このたびの下院選が決まれば、フランス政治の勢力地図がだいたい固まります。あとは9月24日のフランス上院選(元老院選)が残るだけです。今日は、新大統領となり、「共和国前進」を率いて下院選で大勢を占めたマクロン氏の人物像をより詳しく追ってみます。

(※フランス上院選の第一党は共和党。「前進」は前に進めませんでした・・・)

関連記事②:【フランス上院選】マクロンの「前進」が議席減

マクロン大統領の経歴

エマニュエル・マクロン氏(39歳)は1977年12月21日に神経科医の父(大学教授を兼務)と小児科医の母の下でフランス北部のソンム県アミアン市で生まれました。

子供の頃から読書と音楽が好きで、大学ではヘーゲル哲学(※ヘーゲルはドイツの大哲学者)を専攻。

パリ第十大学からパリ政治学院、国立行政学院に進学(パリ政治学院、国立行政学院は歴代大統領や首相を数多く出した名門校)。

会計監査官を経てロスチャイルド系の投資銀行で勤務。フランスの学者であるジャック・アタリ氏の推薦によりオランド大統領に抜擢されました。側近として大統領府副事務総長(2012~14)、経済産業デジタル相(2014~16)を歴任。経歴が華麗なので、嫉妬や批判も買っていますが、本人は「実力主義の結果」と述べています。

オランド政権で解雇過程の簡略化や労働時間の規制緩和、長距離バス路線の自由化等を含む、経済改革法案「マクロン法」を議会に提出し、実現させました(強行採決)。左派政権の中で右派的な経済改革を行い、メディア報道では「中道派」とされています。

主要政策は、法人税減税や週35時間労働制の見直し、年金支給開始年齢の引き上げ、公的部門の人員削減など。EU強化と自由貿易を支持。

「前進」にはオランド政権で内相と首相を務めたマニュエル・バルス氏も同党に参加。同氏は「社会党は死んだ」と述べたとも言われています。

本人は自分はエスタブリッシュメント(既成の指導者層)ではないと言っていますが、学歴を見ると、パリ第十大学⇒パリ政治学院⇒国立行政学院(この2校は数多くの大統領や首相を輩出している。フランスは学歴社会)。さらにはロスチャイルド銀行で勤務。どこから見ても100点満点のエリートです。ルペン氏やメランション氏が台頭し、格差問題に火がついたので、マクロン氏はそう言わざるを得なくなりました。

マクロン氏は既成政党から抜け、独自の政治集団「前進!」を率い、中道勢力の票を結集しました。

政策面では、オランド政権下で「マクロン法」ともいわれる経済改革法案(解雇過程の簡略化、労働時間の規制緩和、長距離バス路線の自由化等)を実現させました。

現在は、内政面では規制緩和と福祉の充実の両立を目指し、対外的にはEU支持、ユーロ圏経済政府の創設等を掲げています。重要争点の移民や難民に関しても受け入れには肯定的でした(不法移民は帰国を促す)。

仏大統領選ではマクロン氏は都市や豊かな西部で支持を受け、ルペン氏は経済が低迷する北東部やアフリカ系移民んが多い地中海湾岸で支持を得ています。

このたび、39歳の大統領が出現したわけですが、これは、おやじ社会の中でなかなか偉くなれない若い世代への朗報ではないかと筆者は肯定的に受け止めています。

マクロン氏には、もう一つ、注目ポイントがあります。

それは「年の差」婚です。39歳で当選。25歳年上の奥さんと結婚。

この人は、何かと年齢に関する話題が多い方ではあります。

早熟なタイプなのかもしれませんが、世間ではいろいろと文句を言う方もいるようです。

例えば、フォーブスの記事(2017/05/08 )では、ブリジットさんに関して、(批判者が)「悪く言う理由は主に、64歳というその年齢と、39歳という夫の若さだ。だが、夫妻の年齢差はドナルド・トランプ米大統領と妻メラニアと同じ。違いはただ、男性が年の離れた若い妻を持つことは有利に働くと見られる一方で、逆の場合は侮辱や悪ふざけ、不信感、批判の対象にされるということだ」と論評していました(フランス新大統領夫妻への反応に見る仏社会の「女性観」

筆者がこの記事を読んで驚いたのは、その種の批判ではなく、二人の出会いの逸話のほうでした。

マクロン氏15歳、ブリジットさん40歳(当時は私立高校教師)で出会い、マクロン氏が18歳になるまでに先生のほうが既存の夫と別れ、マクロン氏が29歳の頃に結婚が固まったので、かなり衝撃的なカップリングがなされたことになります。

旦那と別れて15歳の少年と恋愛する・・・という世の夫が目をむくような話ですが、お互いに年の差があってもずっと夫婦関係が続いているので、恋愛としては非常に真面目だったということなのかもしれません。

「子供はどうなってるの?」という疑問はありますが、読売新聞(5/8)は「2人の間に子供はいないが、ブリジットさんは前夫との間に3人の子供と7人の孫がいる。子供の1人はマクロン氏と同級生だったという」と報じていました(「マクロン氏、妻は25歳年上・高校時代の教師」)。

同級生が子供の一人に入るそうなので、もはや筆者には理解不能な世界の話ですが、同性愛者の人権が守られなければいけないなら、年の差婚への挑戦者の人権も守られなければいけないーーという論理は成り立つはずです。

この種の話題に関して、あまり衝動的な批判等をしてもラチはあかないでしょう。

なお、日本の統計(2010年度)で見ると、マクロン氏とブリジット氏のように夫29歳、妻54歳で結婚したケースは、わずか4件でした。他の年齢層で25歳差の年の差婚(女性年長)で見ても、2件~20件程度の範囲で収まっているので、日本社会では、マクロン氏のようなケースはきわめてレアだとも言えそうです。

マクロン大統領の政策

マクロン氏の政策の概要は以下の通りです。

  • 5年間で600億ユーロの歳出削減
  • 5年間で500億ユーロの投資(投資先は都市開発、デジタル革新、環境等)
  • 法人税引き下げ(33.3%⇒25%)
  • 中小企業や自営業者の負担軽減
  • 12万人の公務員削減
  • 国有企業の売却
  • 国有企業と民間企業の競争条件の対等化
  • 若者への職業訓練の充実
  • 年金支給年齢(62歳)の維持
  • 難民同化策(国籍取得者にはフランス語習得を徹底させる)
  • 不法移民の本国への送還
  • 難民審査は半年以内に終了させる
  • 警察官1万人増員
  • 刑務所の収容人数を1.5万人増
  • 諜報機関の強化
  • EUに境界警備隊5000人を設立
  • ユーロ圏議会とユーロ圏の共通予算の創設
  • シェンゲン協定を維持
  • 国防費をGDP2%の水準に引き上げる
  • NATOとの連携重視
  • ロシア警戒路線の外交
  • シリアのアサド政権打倒を目指す

マクロン氏の主な発言

  • 「若者はもっと働き、50歳を過ぎたら週30~32時間にすればよい」
  • 「右でも左でもない」
  • 「ドゴール将軍(※現在のフランスの体制の元をつくった指導者)は、右、左、真ん中、それぞれの一番良いところをとったのです」⇒自分の中道路線をドゴールになぞらえている。
  • 「EUは我々を守る存在だ」「欧州なしで我々の成長はない」⇒ルペン批判
  • 「独仏は欧州連合を確固たる未来に導かなければならない」
  • 「最も弱い人を守り、連帯の輪を形成し、全ての不平等や差別と戦い、かたくなに安全を守り、国家の団結を保証しながら、そうした声に耳を傾けるのが私の責務だ」(就任演説)
  • 「私たちは、偉大な歴史や、世界に向けられた人間主義の重要なメッセージを引き継ぐ立場にある」(就任演説)※愛国心の表明
  • 「私は欧州、すなわち我が大陸の民衆に与えられた運命共同体を守る」(就任演説)※EU擁護の立場
  • 「フランスは国内と国際的な行動で、テロとの戦いを最前列に立って展開していく」(就任演説)

マクロン当選への反応

  • 「共有する幅広い優先課題でともに取り組むことを楽しみにしている」(メイ英首相)
  • 「新大統領と信頼に満ちた協力を」期待する(メルケル独首相)
  • 「欧州の希望だ」(ジェンティローニ伊首相)
  • 「あなたが守った理念(強く進歩的な欧州)が実行されることをうれしく思う」(ユンケルEU欧州委員長)
  • 「マクロン次期大統領の勝利は、内向き志向や保護主義的な動きに対する象徴的な勝利であり、EUへの信任だ」(安倍首相)
  • 「彼と一緒に働くことをとても楽しみにしている!」(トランプ米大統領)
  • 「相互不信を乗り越え、力を合わせて安定や安全を確保することが重要だ」(プーチン露大統領)
  • 「勝利を過信すべきではない。ポピュリズム現象は広がり続けており溝は深い」(欧州政策センターアナリスト・リッテルマイヤー氏)

マクロン大統領をどう見るか

筆者は5月に銀座をフラフラ歩き、画廊を眺めていた時、フランスから来た日本人とのハーフの若者店員に、仏大統領選について聞いてみました。

「あなたはルペンとマクロンのどちらを選びますか?」

その若者は「怖いからルペンは選べない。マクロンを選ぶ」と言っていました。この人はニース近辺の出身ですが、「フランスでも豊かな地域とそうでない地域はけっこう違うからねえ」とぼやいていたのです。

筆者はマクロン氏に関しては肯定的にとらえています。その政策はフランスの左傾化にはどめをかけ、競争力を強化する効果があるのではないかと考えているからです。

防衛費をGDP比で2%にすることも、トランプ政権との関係を円滑にするうえでプラスだと思います。トランプ政権が欧州各国に言っているのはこればっかりですから。

ただ、ユーロ圏議会とユーロ圏共通予算の創設は、本当に実現できるのかどうか、よくわかりません。

各国のことを知らないEUの中央官僚に指図されたくない、という反感が高まっていますし、実際、EUの中央官僚が各国の政治経済について理解できているのかどうかは疑問が残ります。ルペン氏のような反EU勢力が台頭しているのに、この種の体制強化が可能なのでしょうか。

防衛面ではロシア対策(昔はソ連対策)としてNATOで結束を高める必要がありますが、政治面では各国の主権を尊重し、経済面では各国の自由を維持していくことが無難な結論に思えてしかたがありません。

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