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「集団的自衛権の行使」で北朝鮮ミサイルを撃墜? 勇ましい議論に内実はあるのか

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金正恩政権がグアムに向けて4発の中距離弾道ミサイル(「火星12号」)を発射する計画を8月半ばまでにつくることを明かしました。このミサイルは日本の島根県、広島県、高知県の上を通り、17分45秒でグアム沖の30~40キロの海域に落ちるとも言われています。

米国のトランプ大統領は8月8日に、これ以上、米国を脅すのなら、北朝鮮は、「世界がかつて見たことがないほどの炎を怒りに直面するだろう」と警告しました(グアムでは、すでに6機の米戦略爆撃機「B1」が北朝鮮への先制攻撃の準備を終えている)。

北朝鮮側は、9日に米国に対して「ぼけた考えを並べ立て、わが国の砲兵の神経を鋭く刺激している」(金洛兼司令官)と言い返しました。

これに対して、米国の同盟国である日本では「集団的自衛権の行使」によって北朝鮮のミサイルを撃墜すべきだという議論が浮上しました。

今回は、技術的にミサイルを撃墜できるかどうかという問題ではなく、憲法と防衛法制上、そうしたアクションを採ったら、何が起きるのかを考えてみます。

集団的自衛権の行使で北朝鮮のミサイルを撃墜できる?

集団的自衛権というのは、同盟国等が攻撃を受けたことを自国への攻撃と見なし、被害を受けた同盟国に替わって反撃する権利のことです。

これは、国連憲章51条で認められている権利で、日本も2014年の憲法解釈の変更によって限定的に用いることができるようになりました。

(国連憲章51条:「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」)

(※小野寺防衛相については関連記事(【安倍内閣改造】閣僚の経歴一覧)を参照)

小野寺防衛相は10日に開かれた衆院安全保障委員会で、北朝鮮のグアム向けミサイル発射を「存立危機事態」と認定し、集団的自衛権を使うのは可能だと述べました。

存立危機事態」というのは「武力行使の新3要件」のうち、「密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という要件のことです。要するに、同盟国への攻撃が起き、その攻撃が日本の安全保障に響く場合は、同盟国を守るために自衛隊を動かせるというわけです。

この場合でも、「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使にとどまる」という他の二要件の範囲でしか自衛隊は動けないことになっています。

しかし、そもそも、集団的自衛権というのは、わかりにくい概念です。

集団的自衛権の行使が制約されている日本

集団的自衛権の行使に関しては、もともと、日本には反対論が根強くあります(民進党、共産党、社民党等)。

そのため、日本は、今でも集団的自衛権は限られた範囲でしか使えません。

諸外国が用いる集団的自衛権は「不当な暴力から他者を守るのは当然」という正当防衛の原理に則って、攻撃を受けた同盟国とその軍隊を自衛隊が防衛する権利です。

自公政権のように行使を認める限られた事例を並べ立てたりはしていません。

しかし、自公政権は集団的自衛権に関して、限定的にしか認めませんでした。

例えば、14年にはその行使に関して、以下の8事例が公表されています。

  1. 日本人を乗せた米輸送艦の防護
  2. 武力攻撃を受けた米艦の防護
  3. 強制的な停船検査
  4. 米国に向かうミサイルの迎撃
  5. ミサイル防衛に携わる米艦防護
  6. 米本土が武力攻撃を受け、日本近隣で作戦を行う時の米艦防護
  7. 戦時の国際的な機雷掃海活動への参加
  8. 民間船舶の国際共同防護

今回、小野寺防衛相が述べたのは、このうちの4番目の事例に相当するわけです。

集団的自衛権の行使に関する日米間の誤解

日本も同盟国として相応の役割を果たせる体制に近づきましたが、米国と北朝鮮との戦争が本格化した場合、日本には一つの問題が噴出します。

米海軍アドバイザー・北村淳氏は、諸外国は日本の「集団的自衛権の行使」が限定容認だとは受け取っていないので、それが同盟国間の誤解を引き起こすと憂慮していました(以下、サイト「JB Press」上の記事「国際的公約と見なされる集団的自衛権の行使」2014.7.17)。

  • (14年7月に)「日本が集団的自衛権を行使するであろうことは、公のスピーチで小野寺防衛大臣が「約束は絶対実施する日本人」の事例として強調した以上、すでにアメリカ国防当局や軍関係者……外交政策当局などは国際的公約として受け止めている」
  • 「アメリカのメディアでは、安倍首相による憲法の解釈変更により、自衛隊が日本自身の防衛だけではなく地域的防衛のための集団的自衛活動に参加するようになる、というような説明をしている」
  • 「アメリカのメディアや多くの国防・外交関係者たちは、安倍政権の言う“集団的自衛権”が、様々な制限でがんじがらめになってしまうであろう“限定的集団的自衛権”という、国際常識とはズレが生じている代物であるとは認識していない」
  • 「国際社会は、少なくともアメリカは、国際常識に則った「集団的自衛権」の行使を日本に期待する」

結局、日本が「米国に協力します」と言っても、米国が思ったほど、日本は自由に動けません。

集団的自衛権が使える範囲が限られているので、前掲の範囲を超えた場合は、米国の期待に沿えなくなり、相手に失望をもたらすわけです。

「同盟国(アメリカなど)が、8事例以外のことを期待した場合、日本は何もできず、最後には信用を失ってしまう」

集団的自衛権の行使で見解が食い違う自民党と公明党

例えば、日本は「集団的自衛権を使える」と言っているので、仮に9.11事件並みのテロが米国に起き、米軍が反撃したような場合、自衛隊は非戦闘地域で後方支援するだけでは同盟国として認められないでしょう。

限定容認の8事例で、そうした事態に対応できるかどうかは疑わしいのです(例えば、イラク戦争には韓国軍、イギリス軍等も出動している)

限定容認になったのは、自民党内にも反対派がおり、従来、公明党が集団的自衛権の行使に反対していたためです。妥協の産物でしかない現状の解釈変更は軍事的合理性よりも国会の勢力地図が優先され、本当に機能するかどうかは疑わしいのです。

例えば2014年12月1日の党首討論会でも、「イラン等がシーレーンを封鎖した時に日本は掃海艦(機雷を除去する自衛艦)を派遣できるか」という問いの答えは自公で違っていました。

安倍首相は「派遣できる可能性が高い」と述べ、山口代表は「派遣は難しい」と述べていました。

安倍首相は、その意思決定は、まず、自衛権発動の新3要件に合っているかどうかを内閣で判断し、その上で、「さらに国会で判断もいただく」としていましたので、結局、緊急の同盟上の義務の履行に対して、小田原評定の議会に責任を委ねる結果になりかねません。(この時、与党が過半数以下の場合は何も決まらない)

戦時の米軍は緊急対応を求めるので、現政権の前のイギリスでは、こうした同盟上の義務の履行に関しては、首相が決めていました。

議会に任せるやり方は、オバマ大統領出現以来、流行った責任逃れの手法で、イギリスのキャメロン首相もこれに便乗したのですが、今の体制だと、日本もこれに準じることになりそうです。

最近の国会は森友学園や加計学園、自衛隊の日報問題など、カオスの状況を呈しているので、安全保障に関して理性的な議論ができるかどうかが疑わしいと思います。

集団的自衛権の行使だけでなく、防衛法制も制約的な日本

そして、北村淳氏が特に問題視しているのが、あらかじめ法律で決めたこと以外はできない日本の防衛法制です。

「日本の防衛法制はポジティブリスト方式に拘泥している」

ポジティブリストというのは、自衛隊が実施できる作戦行動の種類をあらかじめリストアップしておき、そのリストから外れる作戦は実施できないようにする方式のことです。

用語が分かりにくいのですが、要するに、今の日本は、非常事態が発生した時、自衛隊幹部が専門家に聞くか、分厚い法律の解説文書を開くかして、「動いてよい根拠」を探さなければいけないような体制なのです。

しかし、諸外国の防衛法制は「ネガティブリスト方式」であり、「実施してはならない作戦行動の種類をあらかじめリストアップしておき、その禁止リスト以外の作戦は実施できる方式」(北村氏)です。

朝鮮半島や台湾、東シナ海や南シナ海で紛争が起きた場合は、想定外の事態の連続になりますので、防衛法制をネガティブリスト方式に変えなければ、法律の根拠がない時、自衛隊は何も動けなくなってしまいます。

「自衛隊の防衛能力を極度に制限してしまうポジティブリスト方式から脱却しようとしないのは、本気で集団的自衛権を行使して同盟国や友好国とともに共通の外敵から日本や同盟国・友好国を防衛しようという意思が薄弱である証拠と見なさざるをえない」(北村氏)

実際には、日本は「戦争できる国」にはなっていません。

北村氏は、その状態のままで米国の戦争に参加しようとしたら、大変な問題が発生するぞと警告しているわけです。妥協の産物としての憲法解釈のままで、国際問題に首をつっこめるのかどうか。

米国の戦いに参加するというのであれば、もっと体制を整備する必要性が出てきます。

日本は、国防政策に関して、重大な変革が迫られているのです。

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