トマホーク

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敵基地攻撃能力とトマホークミサイル導入論について

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読売新聞(オンライン版:11/20)にて「日本版トマホーク、政府が開発の方向で検討」と題した記事が公開されました。

防衛省は、2018年度に研究を開始する対艦ミサイルに対地攻撃能力を与え、「敵に占領された離島の奪還」や「敵基地攻撃」を可能にし、「北朝鮮への抑止力向上」を図ろうとしています。

読売新聞は「巡航ミサイルは搭載したレーダーなどによって攻撃目標に向かう精密誘導兵器で、弾道ミサイルが放物線を描いて上空から飛来するのに対し、飛行機のように翼とジェットエンジンで水平飛行する」と説明し、防衛省が新型ミサイルを「日本版トマホーク」と位置付けたとしていました。

その後、12月に入り、政府関係者が「島嶼防衛」を名目に巡航ミサイルを導入する方針を明かしたことが各紙で報じられています。

小野寺防衛相は「現在、自衛隊は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、現時点で保有する計画もない」(12/5)と述べていますが、政府関係者は「射程数百キロ超で現有装備の3倍」のミサイル保有を構想しているのです(産経ニュース 2017.12.6〔巡航ミサイル導入…「島嶼防衛」名目で進む能力構築〕)。

艦艇に対しても有効だ。現在、空自の戦闘機が運用している93式空対艦誘導弾(ASM)の射程は約170キロだが、JSMなら約3倍に伸びることになる。防衛省幹部は「長射程化とステルス化は、あらゆる『飛び物』のトレンドだ」と語る。

果たして、日本は北朝鮮に対抗する敵基地攻撃能力を手にすることができるのでしょうか。

(※これは8月12日に公開した記事のリライト版です)

敵基地攻撃能力の争点

北朝鮮のミサイル開発の本格化に伴い、政府が「敵基地攻撃能力」の保有の是非をめぐって議論を始めることが日経朝刊(2017/8/5:1面)で報じられていました。2018年末の防衛大綱の見直しに合わせて18年夏を目途に結論を出す方針のようです。

しかし、日本は2018年に敵基地攻撃能力保有の議論を終わらせる方針なので、最短でも、この能力が具体化されるのは2019年以降になります。

北朝鮮が大量の弾道ミサイルで日本を狙える現状ではミサイル防衛システムだけでは足りないため、この議論は開始されましたが、日本の場合、敵基地攻撃能力に関しては、予算だけでなく、憲法9条に基づく「専守防衛」と矛盾しないかどうかが問われます。

専守防衛というのは「攻撃を受けた時に、初めて防衛力を行使し、その力は自衛のための必要最小限度にとどめる」という考え方です。

ただ、過去の政府解釈ではやや例外的な国会答弁もありました。

「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない」

「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」

これは1956年に鳩山一郎首相の答弁を船田国務大臣が読み上げた言葉です(衆議院会議録情報 第024回国会 内閣委員会 第15号)。

こうした考え方が、「敵基地攻撃能力」を保有できる論拠の一つに数えられているわけです。

敵基地攻撃能力と日米同盟の関係

憲法9条のもとに専守防衛を掲げてきた我が国が敵基地攻撃能力を持つことに関しては、野党だけでなく、自民党内にも反対派がいます。

しかし、2017年にトランプ政権が発足し、日本にも防衛面で相応の負担を求める議論が浮上してきています。これへの対処も含めて、自民党政務調査会の田村重信氏は以下のように述べていました。

「トランプ政権は同盟国に相応の負担を求めている。周辺国の脅威も増す中で、日本は自国防衛のためにやむをえず相手の発射基地を叩く打撃力さえも、一切持たないわけにはいかなくなってきた」(『THEMIS 2017年8月号』P45)

米国が矛」「日本が盾」という従来の日米同盟の枠組みだけでは収まらなくなってきたわけです。

(それは2014年の安倍首相訪米時に改定された日米ガイドラインあたりから強まり、トランプ政権の出現によって、日本にはさらなる防衛負担を担う必要が生じてきています)

前掲の日経朝刊(2017/8/5:4面)では「米国内にはトマホークなど米国製の装備を日本が購入することに期待感がある」とも述べられていました。そうすれば、軍事系企業の「雇用」が増えるからです。

敵基地攻撃能力の中身:巡航ミサイル導入が有力候補

最近では、5月7日の共同通信記事で「日本もついに巡航ミサイル導入を検討」という重大なトピックが取り上げられていました。

「政府は北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射や核開発継続を受け、日米同盟の対処能力を強化するため、巡航ミサイルの将来的な導入に向けた本格検討に入った」(巡航ミサイル導入を本格検討 政府、北朝鮮脅威に対処 2017/5/6)とされています。

ところで、巡航ミサイルとは何でしょうか。

その典型は、4月に米軍がシリアを攻撃した時に用いたトマホークミサイルです。

トマホークは護衛艦や潜水艦でも配備可能なので、我が国も自国防衛の決定打として導入すべきだという意見があるのです。

(弾道ミサイルは宇宙ロケットと同じ推進方式を取り、弧を描いて飛びます。巡航ミサイルは小型の戦闘機に似た飛び方をします。後者は軌道や高度を変えながら敵地を精密攻撃可能。一般的に速度は弾道ミサイルのほうが速い)

なぜ敵基地攻撃能力が必要か

この問題が浮上してきたのは、90年代以来、北朝鮮に向けた硬軟合わせた方策の効果がなかったからです。

90年代の核開発に関して、我が国は1995年~2000年までに累計108万トンのコメ援助を行いました。その代価に開発停止を要求したのですが、その返答は1998年のテポドンミサイル発射実験でした。

2000年代には、03年~08年に六カ国協議が行われました。日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の六カ国の「話し合い」で妥協案を探ったのですが、2009年に北朝鮮は核実験と長距離ミサイル発射実験を行います。

そして、オバマ政権は2012年の長距離ミサイル実験にも制裁以上の反応は見せませんでした。

日本が14年に一時期、制裁緩和に踏み込んだのですが、拉致問題への返答はなく、16年に核実験とミサイル実験という、いつもながらの「返答」が返ってきたのです。

2006年以降、北朝鮮国籍者の入国禁止、北朝鮮船の入港禁止、北朝鮮への輸出禁止、北朝鮮から輸入禁止などの制裁を行いましたが、これは何ら核ミサイル開発の歯止めにはなりませんでした。

その後、北朝鮮は2016年1月のブースト型原爆実験で核弾頭の小型化技術を高め、2月の実験では長距離弾道ミサイルの技術水準を高めました。

2017年8月には米国情報機関(DIA)が、北朝鮮が核兵器の小型化技術を獲得したことを認めました。

そして、17年にはICBMの発射実験を繰り返し、大気圏外に出たミサイルがふたたび大気圏内に入る「再突入技術」においても、長足の進歩を遂げつつあります。

日本には、SM2やSM3(※護衛艦から発射する弾道ミサイル撃墜用のミサイル)やパトリオットミサイルがありますが、北朝鮮が100発以上のノドンミサイルを撃ってきた時に、我が国を守り切ることはできません。

1000億円で「敵基地攻撃能力」を持てる?

安全保障を論じる日本の識者のうち、日本は巡航ミサイルを持つべきだと提言している代表的な論者は、米海軍アドバイザーの北村淳氏です。

北村氏は『米軍が見た自衛隊の実力』(2009)、『尖閣を守れない自衛隊』(2012)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(2015)の3冊の書籍を著し、日本は800~1000発程度のトマホークミサイルを米国から購入すべきだと論じていました。

トマホークは一発あたり100万ドル程度。ドル円の為替が120円ぐらいの頃の発刊のため、最後の書籍ではトマホーク800発で1000億円という計算になっています(製造元はレイセオン社なので、これが実現したら、同社の株価が上がるかもしれません)。

トマホーク保有論を予算面から見ると、以下のような論理になります。

北朝鮮や中国から発射される弾道ミサイルから日本を守る装備として、現在、6隻のイージス護衛艦には8発のスタンダードミサイル(SM3)が用いられていますが、このミサイルの命中精度は8割程度なので、48発で撃墜できる弾道ミサイルは多めに見ても32発程度です。北朝鮮が100発の弾道ミサイルを撃った場合、68発のミサイルは防衛できません。

北村氏は、普通、1発の弾道ミサイルに2発のSM3をあてるので、標準的な戦い方をした場合、48発で防衛できる弾道ミサイルは24発程度になると指摘しています。

そのため、北朝鮮が100発の弾道ミサイルを撃ってきた場合は200発のSM3が必要になり、その費用は7575億円にのぼるとの試算を公表しました。

(内訳)

  • 常に3隻のイージス護衛艦に67発のSM3を搭載し、臨戦状態に置く。予備イージス艦が2隻必要なので、そこに積む分まで含めると335発のSM3が必要になる。前掲書の発刊時点では32発のSM3があったので、追加分は303発。一発あたりのコストが25億円なので、7575億円になる。
  • しかし、護衛艦を全てミサイル防衛に回すわけにはいかない。ミサイル防衛用に回した護衛艦の数だけ、追加分(5隻)の新規護衛艦が必要になる。さらに、イージス護衛艦を守る護衛艦や哨戒機が必要。
  • 少なくとも10隻以上の護衛艦が必要になるが、護衛艦は1隻1000億円以上はかかる。艦艇の費用も1兆円を超えることは確実。
  • その他の費用をカウントすると、数兆円単位の費用がかかる・・・。

結局、ミサイル防衛システムの問題点は、延々と費用がふくらみ続けるということです。

ミサイル防衛システムで日本を完全に守ろうとしたら数兆円もの予算が必要になりますが、巡航ミサイルは一発100万ドル程度なので、限られた予算で国を守るためには、反撃能力を確保したほうが合理的だからです。

そのため、1000億円をかけて800基のトマホーク・ミサイルをアメリカから購入する案が出てくるわけです。

敵基地攻撃能力のない国は、撃たれっ放しになる

北村淳氏が特に問題視しているのは、専守防衛の日本は、事実上、「撃たれっぱなし」になるため、北朝鮮や中国から見た時に開戦のリスクが低いということです。何の反撃も来ないと見れば、「やり得」になるため、攻撃をしかけられる可能性があるぞと警鐘を鳴らしています(※これは筆者の俗な表現です。本文はもっと高尚な書き方をしています)。

日本が無防備であれば、それが紛争ぼっ発のリスクを高まるとも言えるわけです。

(北村氏は、中国であっても沿岸部の主力都市を犠牲にしたくはないので、800発の巡航ミサイルは抑止力となりうると見ている)

東アジア情勢は中国の軍拡と北朝鮮の核開発の進展により、従来の想定を超えたレベルにまで緊迫してきたので、日本にも新たなアプローチが求められています。

従来の専守防衛では、もはや、対応しきれない時代が来たのかもしれません。

日本も敵基地攻撃能力の保有を検討し始めたというニュースを見て、目をむいた方も多いとは思いますが、もはや時代は大きく変わってしまいました。

北朝鮮が核を小型化し、日本をいつでも核兵器で狙えるのに、日本に何の応戦能力もないというのは、いくらなんでも筋が通らないでしょう。

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