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【米予算】連邦債務の上限適用停止期間 終了日の12月22日に何が起きる(つなぎ予算可決後)

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12月8日にアメリカの連邦債務の上限適用停止期間が終わります。

米連邦の債務残高上限は、現時点で19.8兆ドルで、実際の債務残高も19.8兆ドル(8月末)。ほぼ限界に達しているのですが、米国議会は9月6日にハリケーン災害救済法案に「債務上限の一時的な適用停止」と「暫定つなぎ予算(12/8まで)」を加え、債務不履行を回避しました。

この法律と「継続予算決議」で、今の水準の連邦歳出を続けることが可能になりました(共和党が歳出などで民主党と合意できない場合には政府が閉鎖される)。

さらに、米上院と下院は12月7日に22日までのつなぎ予算を可決。政府機関の一部閉鎖を回避しました。

12月13日にアメリカの下院歳出委員会は1月19日までの政府支出を賄う予算案を提出しています(議会は12月23日までに可決が必要)。

今後の注目点は、議会で上院と下院の歩み寄りがなされ、きちんと予算が成立するかどうかです。

メキシコの国境の壁やオバマケアの改廃などで共和党と民主党の合意は難しいのですが、共和党は民主党と上院と協力しなければ予算成立が困難な情勢です。オバマケア代替法案が7月に上院で否決されたので、来年の選挙で成果を訴えるために、共和党は法案や予算等の成立を欲していますが、なかなかうまくいきません。

今後、トランプ政権の政策が実現するかどうかは、議会での予算成立にかかっているので、今回は、米新政権の予算教書や共和党の予算案を概観してみます。

米国予算の成立過程

米国予算のよくある成立過程は以下の通りです。

(2017年はトランプ政権初年ということもあって、予算教書の送付は春にまでずれ込みました)

  • 1月下旬:米大統領が予算教書を議会に送付
  • 2月中旬?:議会予算局が歳入歳出見通し等を予算委員会に提出
  • 4月初め:上院予算委員会報告書を提出
  • 4月中旬?:米国議会で翌年度の会計の予算決議
  • 5月中旬?:歳出法案審議開始(下院先議)
  • 6月中旬?:下院が歳出委員会報告書を提出(10日頃)
  • 6月末:下院で歳出法を本会議採決
  • 夏まで:上院で歳出法案審議
  • 7月末~8月:米国議会の夏季休会
  • 9月:米議会再開
  • 9月以降:上院で予算交渉

秋口に予算が決まらないことも多く、オバマ政権でも政府閉鎖が起こりました。

トランプ政権でも予算が決まるかどうかのバトルが延々と続いているわけです。

トランプ予算の青写真(3月時点の構想)

時系列で話を見ていくと、トランプ大統領は3月16日(日本時間17日)に予算編成の方針を明らかにしました。

それは「アメリカ・ファースト」と題され、「アメリカを再び偉大にするための予算の青写真」(A Budget Blueprint to Make America Great Again)という副題がついた文書です。

そこでは国防費と非国防費の累計額を1兆1512億ドル(130兆円規模)と見積もり、2017会計年度(1兆1648億ドル)よりも136億ドル(-1.2%)の減額を計りました。国防費を523億ドル(約6兆円)ほど増やし(10%増)、他省庁の予算削減を目指したのです(※為替は1ドル=113円で概算。当時のレート)。

国防総省、国土安全保障省、退役軍人省といった国防、治安に関わる機関を増額にし、他の主な12省を減額しようとしました(9省で11%~29%もの減額構想。環境保護庁には31%の減額要求)。

ただ、これはあくまでも議論のたたき台でしかありません。米国予算は、厳しい顔が立ち並ぶ議会を通らない限り、何一つ具体化しないからです。

トランプ予算教書の要点1:減税と財政再建路線の矛盾

その後、5月23日に議会に向けて正式に「予算教書」が提出されました。

その中身は10年間で約400兆円の歳出削減や軍事費拡大、インフラ投資等が主な内容ですが、低所得者層への経済援助の打ち切り等が特に注目されました。

予算教書の作成を主導するのは、米行政管理予算局(OMB)のマルバニー局長です。同氏はアメリカ経済の前途を悲観視する見方を否定し、23日に2021年度には経済成長率が3%にまで高まると訴えました。

日経電子版(2017/5/24)では「税制改革、規制緩和、通商政策、エネルギー政策、すべてが3%成長のカギとなる」とした同氏の発言を疑問視し、「米議会予算局(CBO)は米経済の巡航速度である潜在成長率を1.8%程度とみる」(労働力人口の伸びが0.5%、生産性の向上が1.3%)と報じています(「米トランプ政権、予算教書を議会提出」)。

トランプ政権は個人所得税の減税、相続税廃止、法人税減税(35%⇒15%)等を掲げています。マルバニー局長らは、同時に「歴代大統領で最大規模の歳出削減策」(10年間で3.6兆ドル=約400兆円)を計り、27年度には財政を黒字転換することを訴えましたが、前掲の日経記事は見通しが甘いと論じています。

民間調査機関はトランプ大統領が公約通りに減税すれば10年間で5兆ドル規模の税収減になると試算する。だが予算教書では成長率の引き上げで2兆ドルの税収増を見込み、税制改革後の税収を「中立」に据え置いた。楽観的な予測には議会の反論を招きそうだ。

オバマケア代替法案さえ通らないのに、楽観的な見通しで減税を訴え、各省(国防・治安関連を除く)で予算削減がそのまま実現するとは考えにくいのが現状です。

筆者は減税が悪いとは思いませんが、議員たちは各自の公約を持っており、その実現のために各省の予算を必要とするので、トランプ政権の予算教書をそのまま呑むことはできないでしょう。

トランプ予算教書の要点2:防衛・治安の予算増と各省庁の歳出削減

「この内容をそのまま実現するのは難しい」という前提を踏まえ、予算教書上の各省予算を概観してみます。

予算教書の題名は「A New Foundation For American Greatness Fiscal Year 2018」。以下、「2017年度予算⇒2018年度予算」の額です。

  • 農務省:227億ドル⇒180億ドル(-46億ドル/-20.5%)
  • 商務省:92億ドル⇒78億ドル(-15億ドル/-15.8%)
  • 国防総省:5218億ドル⇒5745億ドル(+528億ドル/+10.1%)
  • 教育省:682億ドル⇒590億ドル(-92億ドル/-13.5%)
  • エネルギー省:297億ドル⇒280億ドル(-17億ドル/-5.6%)
  • (エネルギー省の280億ドルは核管理のための139億ドル〔+14億ドル/+11.4%〕を含む
  • 保健福祉省:780億ドル⇒653億ドル(-127億ドル/-16.2%)
  • 国土安全保障省:413億ドル⇒441億ドル(+28億ドル/+6.8%)
  • 住宅都市開発省:469億ドル⇒407億ドル(-62億ドル/-13.2%)
  • 内務省:132億ドル⇒117億ドル(-14億ドル/-10.9%)
  • 司法省:288億ドル⇒277億ドル(-11億ドル/-3.8%)
  • 労働省:121億ドル⇒97億ドル(-24億ドル/-19.8%)
  • 国務省: 397億ドル⇒282億ドル (-115億ドル/-29.1%)
  • 運輸省:186億ドル⇒162億ドル(-24億ドル/-12.7%)
  • 財務省:126億ドル⇒121億ドル(-5億ドル/-4.1%)
  • 退役軍人省:745億ドル⇒788億ドル(+43億ドル/+5.8%)
  • 陸軍工兵司令部:60億ドル⇒50億ドル(-10億ドル/-16.3%)
  • 環境保護庁:82億ドル⇒57億ドル(-26億ドル/-31.4%)
  • 共通役務庁:2億ドル⇒5億ドル(+3億ドル)
  • 航空宇宙局:192億ドル⇒191億ドル(-1億ドル/-0.8%)
  • 米国国立科学財団:74億ドル⇒67億ドル(-8億ドル/-10.7%)
  • 中小企業庁:9億ドル⇒8億ドル-1億ドル/-4.9%)
  • 社会保障局:90億ドル⇒91億ドル(+1億ドル/+0.3%)
  • 他庁:204億ドル⇒179億ドル(-260億ドル/-12.5%)

前掲の省庁予算を足すと、1兆65億ドルになります。

これに追加予算として、非常時作戦予算766億ドル(軍事用646億ドル+非軍事用120億ドル)、社会保障予算19億ドル、災害対策予算68億ドルを加算すると、最終累計の1兆1503億ドルになります。

米国では軍事費が半分以上を占めていますが、これを見てオバマ氏は「これだけのお金があれば国民の福祉のために回せるのに」と思い、軍事費を削減したくなったのだろうと思います。

日本人が見たら目を剥くかもしれませんが、世界ナンバーワンの国の軍事費は途方もない規模です。アメリカ的に言えば、このお金がなくなれば、世界の安定と秩序が失われてしまう、という論理で、巨額の軍事費が投入されています。

トランプ氏が増やそうとしている軍事費は中国や北朝鮮、ロシア等への抑止力になるので、結局、これは同盟国(日本や欧米等)にとって悪い話ではないでしょう。

共和党予算案の要点

7月19日には米下院予算委員会が2018年度予算案を可決しました。

米国の予算審議は議会主導で行われるので、今後、審議の対象になるのは、共和党が出した予算案(2018会計年度〔17年10月─18年9月)です。そこでは、以下のような予算構想が出されています。

  • 予算総額は4兆ドル規模
  • 国防費は当初6215億ドルだったが、修正され6581億ドルとなった。
  • 非国防関連の裁量的支出は5110億ドル
  • 予算委員会見通しは米国の年間経済成長率を2.6%と見こむ
  • 18会計年度の4720億ドルの赤字から27会計年度には90億ドルの黒字に転換させることを目指す(税制、ヘルスケア、金融関連法の改正や規制撤廃を見込む)
  • ドッド・フランク法廃止に向けた措置やメディケイド(低所得者向け医療保険制度)などの給付金制度の縮小、フードスタンプ(食料配給券)を含む義務的プログラムについて10年間で2030億ドルの経費を削減する
  • この予算にはトランプ大統領が要求した国務省を含む省庁や政府機関向け予算の540億ドル削減は含まれていない。
  • 共和党案では国防費は720億ドル増(増加幅はトランプの要求を180億ドル上回る)
  • メキシコの壁の建設費用は最終的には210億ドルを上回る可能性がある。

(※出所は以下の通り)

  1. ロイター:米下院共和党、2018会計年度予算案を公表(7/18)
  2. ロイター:米下院、18年度の国防費拡大を承認 国境の「壁」予算計上(7/28)
  3. ブルームバーグ:米下院共和党、18年度予算案を公表(7/19)

トランプ予算は見通しが甘いのか?

トランプ政権と議会の見立ての違いを日経記事(2017/5/24:朝刊1面)をもとに振り返ってみます。

その相違点は以下の通りです。

  • トランプ予算教書では2021年度には経済成長率が3%に高まり、2027年度には財政が赤字から黒字に転換すると見込む(10年間で3.6兆ドル=約400億円の歳出削減策/減税後の成長率引上げで2兆ドルの税収増が前提)
  • 「独立機関の米議会予算局(CBO)は米経済の巡航速度を1.8%程度とみる。労働力人口の伸びが0.5%、生産性の向上が1.3%との計算」。「民間調査機関はトランプ大統領が公約通りに減税すれば10年間で5兆ドル規模の税収減になると試算する」。

要するに、独立機関や米議会は、そんな簡単に米国の政府債務が消えるはずがないと述べているのです。

また、メキシコ国境の壁建設予算の成立に関して議会が合意する可能性は低く、トランプ大統領はこの政策を撤回するか、修正するかどうかの判断を迫られるとも見られています。

トランプ政権で予算案と減税政策は実現するのか?

筆者の個人的な感想を述べれば、トランプ氏の構想は実に革命的な予算編成です。

日本共産党が言う「軍事費を削って福祉に回せ」という主張のちょうど真逆の路線を先進国のアメリカで実現しようとしているからです。先進国はどこも福祉国家路線で、社会保障費が膨張し、軍事費に関しては現状維持か微増か削減かのいずれかになっています。

そのため、トランプ氏のように一割増に挑戦して、社会福祉の削減に挑戦するような政治家はほとんどいません。トランプ氏は「ポピュリスト」と批判されますが、なぜか人気があまり出そうもない挑戦に取りかかりました。

日本や欧州等の同盟国から見れば、米国の戦争に巻き込まれない限り、米国が福祉を削って国防強化をすること自体は、何ら悪い話ではありません(ただ、トランプ氏の場合、対IS戦などの「巻き込まれリスク」が存在する)。

トランプ氏の予算教書は、その通りには実現しないのですが、共和党はその意向を一定の範囲で反映させています。この「革命」がどこまで実現するのかは、ある種の文明実験として注視していきたいものです。

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