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スティーブン・バノン氏の来日講演 覇権国家を目指す中国の野心に警鐘

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 トランプ政権で当選の立役者となったスティーブン・バノン氏(前首席戦略官兼上級顧問)が11月中旬に訪日し、15日に講演を行っていました。

 バノン氏は「メキシコの壁」等に代表されるトランプの過激政策の発信源となり、イスラム圏からの一時入国禁止措置、不法移民の取締り、「パリ協定」(地球温暖化防止の枠組み)離脱等を主導してきた人物です。

 同氏は、ウェブメディアの「ブライトバート・ニュース」を主宰し、米国内に広がる白人中間層の不満を代弁し、2016年の大統領選では「米国第一」を掲げるトランプ当選の原動力となりました。

 8月18日に大統領府の首席戦略官を辞任しましたが、バノン氏は、未だにトランプ大統領とのつながりがあり、大統領に対して一定の影響力があるとも見られています。

(来日時のNHKインタビューでは、バノン氏はトランプ大統領と「数日おきに話しています」とも述べていました)

  しかし、新政権成立後は、国際社会との協調を重視する勢力(「グローバリスト」)や元軍人たちの影響力が強くなり、約7か月後に閣外に追われたわけです。

(ホワイトハウス内で「グローバリスト」と見られているのは、トランプ氏の娘婿夫妻(クシュナー氏とイヴァンカ氏)、元ゴールドマンサックスのゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長)らです)

 今回は、このバノン氏の主張を紹介し、トランプ氏が未だに持ち続ける「米国第一主義」について考えてみます。

スティーブン・バノン来日講演の主張

 バノン氏は一般財団法人「人権財団」らが都内で開催する中国の人権問題等を研究する「諸民族青年リーダー研修会」に招かれ、日本にやってきました。当日の講演の中身は以下の通り。

 産経ニュース(2017.11.20)では、バノン氏来日時の講演の要旨が紹介されています(出所「中国指導者は国際的秩序の仲間入り意図せず」トランプ大統領の“参謀”バノン氏が警鐘鳴らす中国の対外拡張)。

 バノン氏の講演の中心テーマは中国の危険性を訴えることでした。

  •  1970年代以降、米ソの狭間で台頭した「中国の指導者は、国際的な戦後の自由な秩序の仲間入りをすることなどまったく意図していない。
  • 中国には中国自身の計画があり、それを実行する」ことが目的だ。
  • 習近平国家主席が中国共産党大会の演説で打ち出した「強国路線」が実現した場合、「自由民主主義や自由市場経済が敗北する」
  • 習氏は、「一帯一路」の推進、金融技術の向上、中国人民元を主要通貨に押し上げることを通して金融における覇権の獲得を目指している。
  • そのため、「米国が中国の台頭にどう対応するか」が重要な課題になる。

バノン氏へのNHKのインタビュー

 来日時には、バノン氏に対するNHKの単独インタビューが行われています。

 内容は講演とも重なりますが、対中抑止策についての主張を紹介してみます。

 バノン氏は、トランプ氏は長い報告書を読まず、自分が登用した幹部との問答を通して意思決定していることや、安倍首相を信頼していることなどを指摘し、その外交政策の中身を説明しました。

  • 対中抑止において「日本はリンチピンの役割を果たしている」「日本は太平洋地域において、アメリカにとって最も古く、関係の深い同盟国だ
  • 日本が防衛強化のためにさらに米国の兵器を買うのは当然の流れ。
  • 現在、米国は、日本、オーストラリア、インドと共に「アジアの大国・中国を囲む輪」を形成している
  • 強固な商業的関係のつながり、貿易合意、資本市場はアメリカの安全保障によって保証されている。
  • トランプ大統領は、貿易と安全保障がつながっていることを提起したが、他のリーダーたちには、それが見えていない
  • トランプ大統領の米国第一主義は、米国が孤立主義になることではなく、米国が直接的なパートナーシップを結ぶことである。そのため、TPPに反対した。
  • TPPの影響はあと何年も経たないと分からない。米国はTPPに対して、内容の透明性を求め、反対した。
  • 中国は北朝鮮への石油禁輸を行うべきだ。
  • 北朝鮮にはあらゆる選択肢が準備されている。しかし、 朝鮮半島から在韓米軍を撤退させる選択肢はない。
  • バノン氏は8月に「北朝鮮に関しては、軍事的選択肢はありえない」と発言した。
  • トランプ大統領と習主席の関係は良好で、訪中はうまくいった。中国市場と米企業の間で2000億ドル以上の合意を発表した。
  • 南シナ海での中国の基地建設に関して、トランプ大統領が「私たちは海洋国家間の仲裁で積極的な役割を果たします」と言ったのは、この問題に飛び込んで参加者の1人になって問題解決に努めてみるということ。
  • 北朝鮮問題の解決に向けた最善策は、中国との直接交渉
  • 中国は覇権国家になろうとしている。党大会の演説では、習氏が、2035年ごろまでに世界最大の経済大国になり、2050年ごろまでには世界の支配的国家になるとも述べていた。
  • 今まで、クリントン政権とブッシュ政権が中国に最恵国待遇を与え、希望的観測を持っていたが、中国はその通りに動かなかった。WTO=世界貿易機関に招き入れられたのに、市場を開放しなかった。

バノン氏は「ポピュリストのヒーロー?」

 日本や米国のメディアは、ずっとバノン氏を悪役扱いし、極右として批判し続けてきましたが、前掲のインタビューを見ると、外交・安保政策に関して、一定の見識がある人物だということが分かります。

 同氏の主張には、貿易等に関しては疑わしい政策も含まれていますが、主な狙いは、中国の野心に警鐘を鳴らし、米国の覇権を守ることにあったわけです。

 現在、トランプ政権では、元軍人閣僚としては、大統領首席補佐官のジョン・ケリー氏やマクマスター補佐官(安全保障担当)や、マティス国防長官らが影響力を強めています。

 バノン氏はいまだトランプを支持しており、辞任後は古巣の「ブライトバート・ニュース」にてホワイトハウスや議会、財界にいる「トランプの敵」と闘いを始めました。

 「ブライトバート・ニュース」ではバノン氏を「ポピュリスト・ヒーロー」と称し、以下のように述べています。

「ポピュリズムと国家主義運動は今日、今までよりも強くなった」(編集者兼主筆・アレックス・マロウ氏)

 (”‘Populist Hero’ Stephen K. Bannon Returns Home to Breitbart” 2017/8/18)

 そして、バノンは以下のように述べています。

  • 「我々が戦い、勝たせたトランプ大統領職は終わった」(「Trump presidency=トランプ大統領職/トランプ政権」に近い意味合いの言葉を用いている)
  • 「我々にはまだ大きな動きがある。我々はトランプ政権で何かを作り出す。しかし、この政権は終わった。それは別のものなるだろう」
  • 「共和党のエスタブリッシュメント(既得権益者)は、トランプが我々の主張を実現することには関心がない。彼らは民族主義者でもナショナリストでもない。トランプの計画には興味がまったくないのだ」

 (”‘It Was Great!’ — Donald Trump Thanks Steve Bannon for His Service” 2017/8/19)

 バノン辞任劇に影響を与えた事件は、幾つかありますが、その一つは外交問題です。

 ケリー氏やマクマスター氏、マティス氏らは北朝鮮への強硬路線を打ち出しましたが、米国が対外的に関与することに消極的なバノン氏は、北朝鮮に対する軍事的選択肢を否定しました。この路線の違いが解任の決定打になったと見られています。

スティーブン・バノン氏の経歴

  バノン氏は、来日時の講演で「私は平均的な人間で、米国の労働者層の家庭出身だ」と述べています。

 自分の立脚点はあくまでも「大衆主義」にあると強調し、「トランプ氏が昨年の米大統領選で支持を急速に広げた背景には、労働者層の存在があった」「トランプ氏が当初の劣勢をはね返して共和党の候補に躍り出たのは、バノン氏自身のバックグラウンドでもある「労働者層の人たち」の支持を得たからだった」と振り返りました。

 保守系のニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」会長を務めたスティーブン・バノン氏(Stephen Bannon:62歳、1953年)は、選挙戦で見放された白人中間層の怒りを吸い上げるために、「メキシコ国境に壁をつくる」「イスラム教徒の入国を拒否せよ」等の過激な主張を選挙戦略に取り込んだ人物です。

 米マスコミからは「白人至上主義者」「反ユダヤ主義者」等と批判されていますが、2016年の大統領選で選対本部長を務めた功績を買われ、首席戦略官兼上級顧問に指名されました。

 しかし、トランプ氏のメディア戦略を司った手腕が評価され、側近として大統領府入りしました。

 バノン氏の経歴は以下の通りです。

 バージニア州出身で、実家の両親は民主党を支持する労働者でした。

 バージニア工科大学⇒ジョージタウン大学(修士課程:安全保障論)⇒ハーバード・ビジネス・スクール(経営学修士)と学歴を積み、米海軍では太平洋艦隊の水上戦将校やペンタゴン海軍作戦部長・特別補佐官を務めました。

 退役後はゴールドマン・サックスで勤務し、職業経験の中で安保と金融に関して見識を磨いています。

 トランプ政権発足後、28日の大統領令で国家安全保障会議(NSC)に入りし、イスラム圏七か国からの入国制限に関しても、バノン氏は強い影響力を発揮したことが日経朝刊(2017/2/1:3面)でも報じられていました。

 当初、「難民やイスラム圏の市民の入国制限は当初、永住権(グリーンカード)保持者は入国可能にするはずだった」のですが、「バノン氏はミラー大統領補佐官と組み、関係者とほとんど協議せず大統領令をまとめた」といわれています。司法省の事前審査を拒み、違憲と疑われる大統領令が出され、「結局、永住権保持者の入国は原則認められることになったが、空港では混乱が広がった」わけです。

 バノン氏は各国首脳との電話協議の場に同席し、トランプ政権を動かす黒幕(ダースベーダ―と呼ばれた)と見られていました。

 しかし、マクマスター氏が大統領補佐官となって以降、軍高官出身者の閣僚が強い影響力を持ち始め、4月5日にNSCからバノン氏は外されました。バノン氏に替わり、NSCではダンフォード統合参謀本部議長とコーツ国家情報長官が常任委員に入っています。

 さらに、対中宥和的なクシュナー氏の影響力が強まり、トランプ政権の対中外交は硬軟併用となりました。

 8月に辞任をよぎなくされましたが、今でも、バノン氏の動向がトランプ政権にどんな影響を与えるのかが注目されています。

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