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サウジアラビアは2018年にどうなる ムハンマド皇太子は独裁路線?

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  11月初旬に、サウジアラビアではムハンマド皇太子が汚職摘発という名目で、富豪のワリード氏や王族、現職閣僚4人、元閣僚ら数十人を拘束しました。

 捕えられた富豪のワリード氏は金融大手のシティグループの大株主であり、サウジビジネス界の「顔」になっていたので、その身柄拘束は外国の投資家にショックを与えました。

 これを契機にスキャンダルが公になったり、関係者が株式売却を迫られたりする可能性がありますが、反腐敗と銘打って政敵を葬る手法は、どことなく中国に似ています。

 しかし、一方では、ムハンマド皇太子が実権を握り、改革を進める障害が取り除かれたという見方もあり、5日のサウジ株はひとたび下落した後に持ち直したとも報じられました。

 汚職摘発には、民衆の支持を集める効果もあるので、中国の習政権に似た図式ではあるのですが、「サウジを改革できる人物はムハンマド皇太子しかいない」という見方もあるようなのです。

 今後、ムハンマド氏は富裕層に国外に溜め込んだドルを本国に還流する圧力をかけたり、サウジアラムコの株式の一部を公開(IPO)するとも見られています。

 日本の報道はムハンマド氏の独裁に批判的な論調が強いのですが、欧米の投資家はわりと現実主義に沿った捉え方をしています。

 2018年中には、サウジのムハンマド皇太子にサルマン国王から王位が継承されるそうですが、本年に国王が訪日し、トランプ大統領も訪れたサウジは、今後、どうなっていくのでしょうか。

サウジアラビアに世界最大のコンビナートができる

 11月26日、国営石油企業のサウジアラムコとサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)は、国内で世界最大規模の石油化学コンビナートを建設する覚書を締結しました。

 投資規模は200億ドルで2025年の操業開始を目指しています。

 このコンビナートの建設予定地は紅海沿岸にあるヤンブー市で、1日40万バレルの原油を処理し、年間900万ドルの科学製品とベースオイルを生産。3万人の雇用を生み、GDPを1.5%ほど押し上げることが見込まれています(日経夕刊1面:2017/11/27)。

 この案の背景には、ムハンマド皇太子の経済政策があるのですが、その中身は、いったい、どんなものなのでしょうか。

ムハンマド皇太子の「ビジョン2030」

 ムハンマド皇太子は「世界に開かれたイスラムの国とする」ことを目指しています。

 その改革案として注目されているのは、「ビジョン2030」と、それを実現するための「国家変革計画2020」です。

ビジョン2030」に関しては、日本語訳が出ているので、まず、その要旨を紹介してみましょう。

 この計画では「1:活気ある社会」「2:盛況な経済」「3:野心的な国家」という三つのテーマがうたわれています。その中では、2030年までの目標が掲げられていました(以下、原文に書かれた数値目標を筆者の視点で以下の三領域に分類)。

【経済成長と石油依存からの脱却】

  • 経済規模:世界第19位⇒世界15位
  • 石油・ガス部門における国内化の割合:40%⇒75%
  • 非石油政府収入:1630億リヤル⇒1兆リヤル(30兆円程度)
  • 石油を除いたGDPにおける非石油製品の輸出の割合:16%⇒50%
  • GDPに占める中小企業の貢献の割合:20%⇒35%
  • GDPに占める海外直接投資の割合を3.8%から5.7%に
  • GDPに占める非営利部門の貢献の割合:1%未満⇒5%
  • 公的投資資金の資産:6000億リヤル⇒7兆リヤル(※210兆円程度)
  • 家計収入に占める貯蓄率:6%⇒10%
  • 失業率:11.6%⇒7%

【政府の効率化、競争力向上】

  • 国際競争力指数:25位⇒10位
  • 物流効率指数:49位⇒25位(地域のリーダー的存在としてビジネスを牽引)
  • 政府有効性指数:80位⇒20位
  • 電子政府開発指数:36位⇒トップ5に
  • 労働力に占める女性の割合:22%⇒30%
  • サウジの3都市を世界100都市の住みやすい都市ランキング上位にランクイン

【社会資本の改善、文化大国化】

  • 社会関係資本指数:26位⇒10位
  • 平均寿命:74歳⇒80歳
  • 巡礼者の受入許容者数:年間800万人⇒3000万人
  • UNESCOの世界遺産登録数を2倍以上に
  • 国内での文化・娯楽活動への支出を総家計支出:2.9%⇒6%
  • 週に1回以上、運動する人の割合:13%⇒40%
  • 年間100万人のボランティアを動員する(現状1.1万人)

 この計画をつくったムハンマド経済開発評議会議長(皇太子)は、国の強みの多角化をうたっています。

 国営石油会社であるサウジアラビアン・オイル・カンパニー(Aramco/サウジアラムコ)を、石油生産大手からグローバル複合工業企業(コングロマリット)に変革させる予定です。公的投資基金は世界最大のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系投資ファンド)に生まれ変わります。また国内大企業には国際市場でのポジション獲得を期待し、積極的な国外展開を奨励しています。

 軍事面では、軍隊に可能な限りの機械・機器を継続的に供給するため、軍事用機器の半分を国内で製造し、国民への雇用機会の拡大と国内軍需資源の拡大・維持に努めます。

  後述の軍需産業の国内化は米国依存の国防だけでなく、自国軍の強化を視野に入れた長期的な施策と見られます(サウジは長らく、米国に石油を売り、米軍に国を守ってもらってきました)。

 前掲の目標の中では「非石油政府収入:1630億リヤル⇒1兆リヤル」「石油を除いたGDPにおける非石油製品の輸出の割合:16%⇒50%」というくだりが、石油依存経済からの脱却をうたった箇所に相当します。

 そのために、サウジは規制改革によって海外から企業が参入できる国内経済の変革を目指し、自国への投資を海外にPRしています。その一環としてアジア訪問を行っているわけです。

「国家変革計画2020」でビジョン2030を具体化

 これを具体化するのが「国家変革計画2020」でその概要は、中等調査会のHP記事(2016/6/7)で紹介されていました(以下、出所:サウジアラビア:「国家変革計画2020」の発表 | 公益財団法人 中東調査会)。

 その全体的な数値目標は以下の通りです。

  • 2020年までに民間部門における45万人分の雇用創出
  • 計画の履行に必要な資金の40%を民間部門から調達
  • 輸入を減らし国内で2700億リヤール(約720億ドル)分の産業を育成する

 そこでは「24の政府機関において、あわせて178の戦略目標が設定されて」いますが、中でも注目すべきは財務省が掲げた石油依存脱却の数値目標です。

  • 非石油収入を、2015年の1635億リヤール(約440億ドル)をベースラインとして、2020年までに5300億リヤール(約1400億ドル)に
  • 非石油製品の輸出を1850億リヤール(約490億ドル)から3300億リヤール(約880億ドル)に

 目標の規模があまりにも大きいのに具体策が見えないので、中東調査会は「主要な目標の多くが未達成となれば、政府の信頼性を傷つける」として、その実現性を疑っていました。

 民主国の政府ほど目標の未達成がマスコミにとがめられない王政国では、目標の出し方が大風呂敷になってしまうのかもしれません。

サウジアラビアの国力とは?

 分かったようなことを書いてきましたが、実際のところ、筆者も含めて、日本人はサウジアラビアについてあまり知りません。

「サウジアラビアってどんな国?」と聞かれると、「イスラム教国」「石油が取れる国」「お金持ちがいる国」・・・という漠然としたイメージが思い浮かぶものの、その中身を数字や歴史を踏まえてきちんと説明することは困難です。 

 そこで、改めてサウジアラビアの国力や米国との同盟関係の概略などをおさらいしておきましょう。

サウジアラビア基礎データ | 外務省」で見ると、国土の面積は215万平方km(日本の約5.7倍)。

 人口は2015年時点で3154万人。そのうち73%が自国民、27%が外国人(アジア人が全人口の2割を占めている)。

 保坂修司氏(日本エネルギー経済研究所研究理事)は、サウジでは「人口の約 30%が15歳以下」であり、現状のまま推移すると「2030 年までに人口は 3500 万から 4000 万程度にまで増加、その後 2040 年から 2050 年ごろには減少に転じる」と予想されていると述べています(「サウジアラビアの未来」)

経済力

 そして、IMFによれば2015年のGDPは約6535億ドル、一人当たりGDPは20813ドル。

 日本で言えば神奈川県のGDPが30兆円ぐらいなので、15年比の為替で言えば、神奈川県の「2倍+α」の規模だと考えると、多少、数字に実感が出てきます。

 一人あたりGDPを比べると、日本は38633ドル、台湾は22598ドル。ただ、貧富の差が激しい国なので、サウジアラビアを理解する上で、一人当たりGDPという指標はあまり使えないかもしれません。

 サウジの実質GDP成長率は3.4%。物価上昇率は2.2%(ともに2015年、IMF調査)。

 ここだけを取るとパフォーマンスがよさそうに見えますが、15年上半期における外国人労働者を除いた失業率は11.6%もあります。

(※保坂修司氏は前掲論文で女性失業率は3割台にのぼるとも指摘している)

 そして、14年の輸出総額が3424億ドル、輸入総額が1738億ドルなので、純輸出は1686億ドル(サウジ通貨庁)。

 前掲の約6500億ドルのGDPの4分の1が輸出で稼ぎ出され、そのうち9割を石油輸出が占めています(石油収入が国の歳入の8割を占める)。

 普通はこれだけ失業率が上がれば、政情不安が起きるのですが、サウジの王政は長らく強い指導力を発揮してきました。

 石油資源で得た収入を国民に分配することで政情の不安定化を防いできたからです。同国では教育費と医療費は無料。電気や水、ガソリンなどの値段も政府の財政負担で低価格に抑えられています。

(※サウジでは政府が国民の教育と医療を丸抱えで国に面倒を見るが、その代わりに国民には政治参加の権利がない)

 これは「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家と似ているとも言われていますが、持続可能性が問題視され、近年、ムハンマド副皇太子(副首相、王位継承権第二位)は石油依存からの脱却を目指した政治改革を進めています。

軍事力

 サウジアラビアの軍事予算は819億ドル(2015年)なので、日本の1.6倍程度です。

 軍は志願制で、兵員数は125000人ですが、その中には「防空軍:16000人」と「戦略ミサイル軍:2500」という日本にはない区分けの部隊があります。

 ここだけを取ると自衛隊(22万7000人)よりも少ないのですが、10万人の「国家警備隊」と24500人の「準軍事組織(国境警備等を行う)がいるので、実働の兵員数はだいたい同規模かもしれません。

 装備面を見ると、自衛隊と同じくF15戦闘機を配備し、ヨーロッパ産の新鋭機であるユーロファイター・タイフーン戦闘機を購入しているので、中東ではイスラエルに次ぐ空軍戦力です。

 近年、その力の一端をイエメン空爆で誇示しましたが、サウジは軍事面で見ても、エジプト、トルコ、イランとともに中東の要所を占める有力国の一つです。 

石油パワー

 サウジアラビアのパワーの源泉は「石油」です。

 近年、シェールガスの開発で1日あたり原油産出量の順位が入れ替わりましたが、サウジ(1201万バレル)は首位のアメリカ(1270万バレル)に次ぐ、原油産出国です。

 3位のロシア(1098万バレル)までが4桁。4位の中国は400万バレル台なので、世界の原油産出量や資源価格の変動に関わるベストスリーは、アメリカ、サウジアラビア、ロシアになっています。

 サウジアラビアは70年代にOPECを動かして世界にオイルショックを引き起こし、80年代には原油生産量を増やして価格下落を引き起こしました。原油価格の下落はソ連崩壊の要因にもなっているので、この頃、サウジとOPECの動向は国際政治を動かす主要ファクターになっていたと言えます。

 ただ、近年はOPECの足並みはまとまらず、かつてほどの影響力はありません。資源価格を見るうえでは、前掲のアメリカ、サウジ、ロシアの動向の重要性が高まっています。

 近年の原油価格下落に際して、米シェールオイルつぶしのためにサウジが消耗戦をしかけたとも噂されましたが、シェール産業はしぶとく、潰れるには至りませんでした。結局、減産合意をすることになりました。

 こうしてみると、サウジの石油パワーは、昔よりも影響力が落ちたものの、国際経済を動かす重要ファクターの一つであり続けています。

現在の国王・サルマンの素顔

 ムハンマド皇太子が実権を握りつつありますが、サウジアラビアにはまだ国王がいます。

 46年ぶりに2月12日に訪日したサルマン国王は、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、日本、中国の順に訪問を重ね、4週間ほどの異例の長期訪問を続けました。

 その背景には、近年の原油価格の下落によりサウジアラビアの財政が悪化し、近年、石油依存経済から脱却する道筋を模索していることが挙げられます。

 アジア諸国に外遊したのは、経済協力を引き出し、国内の経済改革への弾みをつけることが狙いです。

 サルマン国王の本名は「サルマン・ビン・アブドルアジーズ・アール・サウード」。国王と首相を兼ねています。

 「二聖モスクの守護者国王」と呼ばれていますが、これはサウジアラビアがイスラムの聖地メッカとメディナを防衛していることに由来した敬称です。

 サルマン国王は1935年の12月31日に首都リヤドで生まれ、本年で82歳になります。

 他国の国家元首のように義務教育は受けず、イスラムの指導者からの家庭教育を受けて育ちました。

 職歴をたどると、1954年(19歳)にリヤド州知事となり、2011年に国防相、12年に国防相と皇太子、副首相を兼任。15年に国王兼首相となりました。57年もの長きにわたって知事を務め、その後、皇太子になり、兄であるアブドラ前国王の死後、国王になったわけです。

 即位後、息子のムハンマド国防相(1985年生なので当時29歳)を副皇太子(王位継承順位第二位)に任命し、世代交代の道を開きました。

 サルマン王は、即位後に原油価格の急落や、サウジ内のシーア派指導者の処刑に端を発したイランとの国交断絶など激しい国際情勢の変化に直面。高齢のせいもあって、国政の判断の多くをムハンマド副皇太子に委ねています。

 訪日したのは、サウジと日本に密接な関係があるからです。

 日本は、輸入石油のうち三割をサウジアラビアに負っているので、両国には強い経済関係が存在しています。

 サウジアラビアのほうも、実は、長らく日本の経済発展に注目してきました。

 もともと欧米に伍する大国を目指してきた同国では、「欧米以外で工業化、近代化に成功した国」として日本に注目し、宿敵である「キリスト教徒の後塵を拝する」に至った歴史を覆したいと考えていたからです(太田博『サウジアラビア王国』P3)。

「工業化、近代化とは結局は西欧化を意味するのであろうか、もしそうだとすれば、イスラム文明の歴史はどうなってしまうのであろうか、イスラム教徒にとって、近代化、工業化の投げかけた問いは深刻なものであった。そこに登場したのが、日本である」(前掲書P3)

 非キリスト教、非白人の日本が近代化に成功したことが彼らに希望を与え、イスラム諸国が「日本の近代化を自分たちの一つのモデルと考えた」(同P3)と元サウジアラビア大使の太田博氏は述べています。

なぜサウジは米国の同盟国なのか?

 サウジアラビアはイスラム教に基づく国ですが、アメリカとは同盟関係にあります。サウジからアメリカに石油を売り、アメリカはサウジを守るという同盟が建国以来、続いてきたのです。

 サウジアラビアは第二次世界大戦前に海運状況の悪化と巡礼者の減少により深刻な財政難に直面し、ルーズベルト米大統領が決めた援助によって糊口をしのぎました。この頃に、サウジはアメリカに石油を売り、アメリカはサウジを守るという関係が成立したのです。

 そして、冷戦期には世界の各国にソ連と米国のどちらにつくかが問われたので、サウジは米国寄り路線を選びました。近年、アメリカでシェールオイル開発が進み、オバマ時代の政策変更(サウジはイラン核合意を激しく批判)等があって、米ーサウジ関係が揺らぎました。

 しかし、トランプ大統領の出現で、状況は大きくサウジに有利になってきました。

 エジプトやイラクの政情は安定せず、トルコではエルドアン大統領が独走中なので、同盟国サウジはアメリカにとっても中東の要所になったからです。サウジから見ても、アメリカとの同盟なしに安全保障は成り立ちません。

 国内では厳しくイスラム法を施行しているのに、キリスト教徒が国民のほとんどを占める米国の力を借りて国を守ってきたのは一種の矛盾ですが、これは国際政治のパワーバランスから生まれた構図です。

  国力相応に外交・防衛政策を展開しないと国がなくなるので、イスラム教の理想があるにせよ、このあたりは現実主義を取ったのです。

 サウジアラビアは厳格なイスラム回帰を訴えるワッハーブ派を掲げているわりには、結構、現実的な政治を行っているので、急進的なイスラム勢には打算的・迎合的な国に見えている面もあるようです。

 例えば、湾岸戦争時に米軍がサウジアラビアに入り、女性兵士が同国の市街を肌を出して自動車を運転していたことが物議をかもしました。

 こうしたスタンスに反発し、その後、アルカイダやISISなどが台頭してきています。

 ワッハーブ派は国内に宗教警察を置き、イスラム法に基づく取り締まりを行うので、かなり厳格な一派です。

 そのため、サウジの元にあるワッハーブ派をイスラム国等の過激な原理主義と同一視する人もいるのですが、実際には、この両者は共存できません。

 サウジアラビア政府とワッハーブ派から見た場合、イスラム国は勝手にカリフ(イスラムの教えの継承者の尊称)を名乗っているので、「許すべからざる仇敵」になります。それを容認したら、「二聖モスクの守護者」の立場が失われてしまうからです。

 こうしてみると、サウジとアメリカの同盟関係は、イスラムの教義と現実の国際政治の間に大きな矛盾があることを教えてくれます。それは彼らの理想と現実の国力のギャップなのです。

 

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