希望の党の小池代表は立党記者会見で「原発ゼロ」と「ゼロ・エミッション」(CO2排出ゼロ)を同時に掲げました。
(※追記:両者が矛盾すると批判され、主要政策ではCO2排出ゼロはトーンダウン。自動車のCO2排出削減で落ち着いた)
しかし、まともな頭で考えれば、原発をゼロにしたら、火力依存が深まり、CO2排出ゼロは難しくなります。すでに現状は火力発電が8割以上なのですが、「原発ゼロ」はこれをさらに推し進める政策でもあるからです。
むろん、再生可能エネルギー(風力や太陽光など)もありますが、まだ、これらは原発に匹敵するほどの発電力や効率性がないのが現状です。
各党は現在、以下の政策を掲げています。
- 自民党:ペースロード(基幹)電源として活用。安全基準を確認しつつ再稼働。
- 公明党:原発ゼロを目指すものの、安全基準をクリアした原発は再稼働。
- 希望の党:2030年までに原発ゼロ。安全確認、住民避難措置を経た原発は再稼働。発電比率の中で再生可能エネルギーを30%にまで引き上げる。
- 維新の会:原発フェードアウト。原発再稼働責任法を制定。核燃サイクルを廃止
- 立憲民主党:原発ゼロ基本法を制定。
- 共産党:再稼働反対。全原発廃炉。発電比率の中で再生可能エネルギーを40%まで引上げる。
今回は、希望の党の政策を題材に「エネルギー政策」について考えてみます。
【目次】
希望の党が「2030年に原発ゼロ」という鬼門を開いた
希望の党が掲げた「2030年に原発ゼロ」という目標には、代替案がないのでは?
そんな危惧が各地でささやかれています。
これは、同じ目標を掲げ、具体策を出せずに退場した民主党政権と同じやり方です。
また、蓮舫氏もこの目標を掲げ、支持母体の「連合」と衝突しました。エネルギー関係者も入っていた連合は、これを実現性なしと見て反対したからです。
小池代表が「原発ゼロ」を掲げるのは、他県の原発に支えられ、日本でいちばん電力を使う東京都の知事としては、不適切だという見方もあります。
これは結局、左翼票を狙うパフォーマンスと見るべきでしょう。
また、再生エネルギー30%を実現する道筋も不明のままです。
数字上、太陽光や風力等で30%を達成しても、これらは不安定電源です。
天候で電力供給が左右されるので、天候に関係なく安定供給ができる原発でのパーセンテージとは意味合いがかなり違います。
台風が続いたり、大雪が続いたりした場合、電気が途切れ、節電生活が強いられる危険性が高いのです。3割を再生可能エネルギーに依存するのは怖ろしい話です。
自民党と公明党:「パワー不足」で原発再稼働は進まず
いっぽう、自公政権には、原発を推進する「エネルギー」が足りません。
国民に人気がないテーマと見たのか、安倍首相や自民党議員、公明党は、なかなか原発を推進する「パワー」を出しません。
2017年6月頃、経済産業省が「エネルギー基本計画」に原発新増設を明記すると日経朝刊(6/9:1面)が報じ、世耕経産相は「事実無根だ」と慌てて火消しに入りました。
「現時点では、新増設、リプレイスということは全く考えていない」(世耕氏)
日本のエネルギー自給率の低さと火力依存度の高さを考えれば、それは悪い話ではないはずなのですが、衆院選を控えた自民党は、表に出したくなかったわけです。
結局、こうした弱腰もあって、2012年末の政権交代依頼、稼働した原発は5基だけにとどまっています。
日本は2011年3月まで、原発は54基体制でしたが、今はその1割も回っていません。
2010年には、日本全体の3割近い規模の電力を原発が発電していましたが、2015年の発電比率は1.1%です(電気事業連合会発表 2016/5/20)。
このペースだと原発の発電比率が2割台に戻るのは、2030年代になりそうです。
日本のエネルギー基本計画:2030年代に原発2割を想定
いちおう、日本のエネルギー計画を振返ってみましょう。
日経電子版に出ている該当記事(「エネ基本計画、経産省が提案 30年度電源構成は維持」2017/6/9付)の要旨を紹介します(無料だが、登録しないと読めない)。
- 原子力は、運転コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる「重要なベースロード電源」との位置づけを維持する
- 有識者会議を立ち上げ、長期的な観点から原発の新増設や建て替えについて議論
- 具体的な課題は、原発の運転期間40年規制
- 原発依存度を低減させる方針は堅持
- しかし、パリ協定でのCO2削減目標達成のために原発新増設が必要になる
- 長期的な電力の安定供給や技術や人材確保のために最低限の原発は不可欠
だいたい、こんな内容です。
そして、経産省が2015年につくった2030年度の電源構成は、原子力20~22%、再エネ22~24%、火力56%となっており、これは現状維持とするようです。
なかなか原発再稼働が追い付かなさそうです。
また、そんなに再生可能エネルギーが伸びるとも思えません。
その意味では、これは恐らく、玉虫色の計画です。
このうち「原発40年規制」に関しては、その必要性に疑問が残ります。
なぜかというと、原発では大部分の設備が年々、新品に置き換えられるため、全体としての経年劣化が起きるわけではないからです(家に譬えれば、個々の部屋や設備が次々と新しい資材や品物に置き換えられ、改修がどんどん進められていくのと同じだとも言えます)。
そのため、一律に40年規制の枠をはめることに大した意味はないわけです。
また、今後の課題としては、インドに原子力技術の輸出を可能にする「日印原子力協定」もあります(6月7日:参院本会議承認)。
核拡散防止条約(NPT)の非加盟国であるインドに核物質や技術移転ができるようになります。しかし、東芝がウェスティングハウスの原発事業から撤退するのに、これえをどう実現するのでしょうか。
経済成長中のインドは電力不足が深刻で、2016年6月に米印両政府がウエスチングハウスがインドで原子炉6基を建設するプランに合意したのですが、東芝危機に伴い、こちらも前途が危ぶまれているわけです。
原発ゼロがヤバい理由
蓮舫氏が民進党の代表をしていた頃、衆院選の目玉政策として「2030年代に原発ゼロ」を根回しなしに掲げようと試み、最大の支持団体である「連合」(日本労働組合総の神津里季生(こうず・りきお)会長とぶつかりました。
神津氏は、2月半ばに原発ゼロについて、「2030“年代”でも相当に高いハードルだ」と答えています。
現在、神津氏は、ある程度、小池代表に配慮して、強硬にこの論点を衝いていませんが、今後、同じようなことが起きる可能性があります。
日本は原発ゼロになったら、あとはひたすら火力に依存するしかないので、結局、あれこれ言っても原発維持が必要になるでしょう。
原発ゼロ論は東日本大震災以来、日本では根強いわけですが、原発問題を考える上では、まず、日本の発電量を占める電源の比率を見なければいけません。
電気事業連合会によれば、2015年度の発電電力量の割合は、LNG(液化天然ガス)が44%、石炭が31.6%、石油等が9%、水力が9.6%、地熱・新エネルギーが4.7%、原子力が1.1%になっています(16年5月20日発表)。
このデータで見る限り、原発をゼロにしなくとも、火力依存度は84.6%に達しているわけです。
原発には、オイルショック以降「火力依存では資源が途絶えたらこの国は終わりだ」という危機意識から開発が進められてきた経緯があるので、原発をゼロにした場合、この問題ともう一度直面しなければいけなくなります。
原発ゼロ=火力依存は不可避
火力発電の資源は外国からの輸入に依存
問題なのは、84.6%を占める火力発電に使う資源のほとんどが輸入に依存しているところです。2016年度のエネルギー白書には、その数字が生々しく書かれています。
輸入の割合は、原油が99.7%、LNGが97.8%、石炭が99.3%。日本の発電の8割以上を担う火力発電は外国の資源に依存しているわけです。
※なお、日本のエネルギー消費(18兆円)の構成は以下の通り(出所:資源エネルギー庁)
次節では原油・LNG・石炭の輸入元の比率を見ていきますが、そのデータの出所はいずれも2016年度のエネルギー白書です。
原油の輸入元
原油の82.7%は中東から輸入しており、他に目につく国は8.4%のロシアぐらいです。輸入元ベスト5を上げると、中東の国ばかりです。
- サウジアラビア:32.5%
- アラブ首長国連邦:24.9%
- カタール:9.6%
- クウェート:6.9%
- イラン:5.2%
LNG(液化天然ガス)の輸入元
こちらは中東からの輸入比率は29.4%です。ベスト8の輸入元を見ると、かなり地域が分かれているので、リスク分散がなされています。
- オーストラリア:20.6%
- カタール:18.5%
- マレーシア:17.2%
- ロシア:9.6%
- アラブ首長国連邦:6.4%
- インドネシア:5.8%
- ナイジェリア:5.7%
- ブルネイ:5%
石炭の輸入元
石炭には製鉄用の原料炭と火力発電用の一般炭がありますが、一般炭の輸入は、オーストラリア(74.3%)、インドネシア(12.9%)、ロシア(8.7%)で大部分が占められています。豪州依存ですが、石油ほどの高水準ではなく、政情が安定しているので、石油に比べると供給不安は心配されていないようです。
火力依存は、外国から資源が来なくなったらヤバい
こうして見ると、火力発電に依存するのは、日本の発電を外国資源に依存するのと同じです。火力発電には、資源を運ぶ航海路が地域紛争などで閉ざされた場合、エネルギー危機になる、という怖さもあるのです。
日本は原油の8割以上を政情不安定圏の中東から輸入しています。
さらに、台湾や南シナ海などで資源を運ぶシーレーン(海上交通路)が紛争で閉ざされるリスクを抱えています。
日本の電源構成は火力の一本やりになりつつありますが、これは、一つのバスケットに手持ちの全ての卵を入れるようなものです。
これは有名な投資の比喩ですが、バスケットが落ちた時に全ての卵が割れるように、火力が回らなくなった瞬間、日本経済は、すべて止まってしまう危険性があるのです。
JOGMECによれば、日本の原油備蓄は、政府と民間を足した総量で197日分です(2015年3月時点)。半年の間に同盟国のアメリカ等が助けてくれるかもしれませんが、その間は、みんなでケチケチ生活をしなければいけません。
やはり、火力発電依存のリスクというものは、無視しがたいものがあります。
火力発電所の負担は重くなっている
火力依存度が高まると、発電所の負荷の限界という問題も出てきます。例えば、『VOICE』の平成24年度12月号では、夏目幸明氏(ジャーナリスト)が火力発電所の状況を以下のようにレポートしていました。
- 原発停止で火力発電所の稼働率が上がり、老朽化が進んだ火力発電所での災害発生のリスクも上がった。
- 例えば、関西電力海南火力発電所の施設は全て昭和40年代(65~74)に操業開始。愛知県田原市にある渥美火力発電所の施設は、71年(1基)と81年(2基)に操業開始。
- 脱原発によりこうした古い機械までもフル稼働させるようになった。その結果、海南発電所では9月5日に電流検出器の不調により、一時、発電が緊急停止されている。また、渥美発電所では9月18日に熱水管に10数ミリの亀裂が生じた。
- これらは現場作業員の努力により、課題の即時解決・発電復旧がなされたが、原発停止でこれ以上火力発電所の負担を上げれば、大規模災害が起きかねない
こうした現場を支える発電所スタッフの頑張りによって、日本の電力は途絶えずに回っています。
安全性は最大限に高めなければいけませんが、電気料金の上昇は中小企業にとっては大きな痛手になりますし、今の資源価格の低下がいつまで続くかもよく分かりません。
そのため、筆者は、安全性が確認された原発は再稼働する、という路線は不可避であり、結局、老朽原発を廃炉するなら、新増設は不可避だと考えています。