スティーブン・バノン氏の来日講演と『炎と怒り』の要点 中国の野心に警鐘/政権内幕を暴露

トランプ政権で当選の立役者となったスティーブン・バノン氏(前首席戦略官兼上級顧問)は11月に訪日し、15日に講演を行いました。

また、2018年初には、1月5日発売の暴露本『炎と怒り』に掲載された発言が注目されています。

スティーブン・バノン氏(Stephen Bannon:64歳、1953年)は「メキシコの壁」等に代表されるトランプの過激政策の発信源となり、イスラム圏からの一時入国禁止措置、不法移民の取締り、「パリ協定」(地球温暖化防止の枠組み)離脱等を主導してきた人物です。

同氏は、ウェブメディアの「ブライトバート・ニュース」を主宰し、米国内に広がる白人中間層の不満を代弁し、2016年の大統領選では「米国第一」を掲げるトランプ当選の原動力となりました。

しかし、新政権成立後は、国際社会との協調を重視する勢力(「グローバリスト」)や元軍人たちの影響力が強くなり、約7か月後に閣外に追われました。

(ホワイトハウス内で「グローバリスト」と見られているのは、トランプ氏の娘婿夫妻(クシュナー氏とイヴァンカ氏)、元ゴールドマンサックスのゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長)らです)

8月18日に大統領府の首席戦略官を辞任しましたが、バノン氏は現在もトランプ大統領とコンタクトを続けているため、大統領に対して一定の影響力を持つ人物と認識されています。

今回は、このバノン氏の主張を紹介してみます。

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バノン氏の新刊『炎と怒り』の要点とは

2018年に入り、注目を集めているのはバノン氏の発言が多数、掲載された新刊『炎と怒り』(”Fire and Fury: Inside the Trump White House”)です。

この本の著者はマイケル・ウォルフ氏(米国のコラムニスト)、出版元はヘンリー・ホルト社。

トランプ大統領らは、この本の内容に反発しています(政権関係者200人以上に取材が行われた)

トランプ氏の弁護士は4日に書簡を通して出版差し止めを求めたものの、ヘンリー・ホルト社は拒否し、米国書店では5日発売時に売り切れが続出したことが各紙で報じられました(弁護士はバノン氏にも書簡で機密保持契約の順守を求めた)。

朝日新聞(2017/1/7朝刊)は、この本の要点を以下のように伝えています。

  • 大統領選ではトランプ陣営の面々も勝てるとは思っておらず、知名度をあげて選挙後に利用したいと考えていた。
  • クシュナー氏らがロシア人弁護士と面会したのは「反逆的かつ非愛国的」な行為だ(バノン氏)。
  • イヴァンカ氏は「世界の動きも政治が何かも、まったく理解していない」(バノン氏)。
  • ロシア疑惑をめぐる捜査がクシュナー夫妻の過去の商取引にまで及ぶ可能性をメディアが伝えた時、夫妻はパニックになった(バノン氏)。
  • トランプ氏の外交姿勢は気まぐれで、多くの政権幹部が陰で「まぬけ」と呼んでいる。

これに対して、トランプ氏はツィッターで反撃しました(以下、1/6のツィート)。

「マイケル・ウォルフは完全な負け犬だ。彼は本当に退屈で不誠実なでっちあげの本を売るために物語を作った。彼は卑劣なスティーブ・バノンを使った。スティーブ・バノンは、彼が解雇された時に泣いて仕事を求めた。今や卑劣なバノンはみなに犬のように投げ捨てられている。なんてひどい話だ」

”Michael Wolff is a total loser who made up stories in order to sell this really boring and untruthful book. He used Sloppy Steve Bannon, who cried when he got fired and begged for his job. Now Sloppy Steve has been dumped like a dog by almost everyone. Too bad!”

ややこしいことに、トランプ氏が3日にバノン氏を批判すると、バノン氏は「ブライトバート・ニュース」のラジオ番組でトランプ氏を偉大な人物とたたえ、「我々とトランプ大統領及びその政策とを隔てるものはない」と述べています。

そして、4日にトランプ氏はバノン氏が「あっさりと態度を変えた」と評し、彼とは話をしていないと強調しました。

現在では、トランプ氏の支持層と不支持層は確定しているので、この本が出ても、支持率が大きく変動することはないとも見られています。

しかし、中間選挙において、トランプ氏はバノン氏と連携せず、既存の共和党の側につき、バノン氏がトランプ氏を批判すれば、大統領選に勝った時の構図が大きく崩れるため、今後のバトルの展開が注目されています。

スティーブン・バノン氏とは何者か(経歴など)

次に、バノン氏の経歴を見てみます。

バージニア州出身で、実家の両親は民主党を支持する労働者でした。

バージニア工科大学⇒ジョージタウン大学(修士課程:安全保障論)⇒ハーバード・ビジネス・スクール(経営学修士)と学歴を積み、米海軍では太平洋艦隊の水上戦将校やペンタゴン海軍作戦部長・特別補佐官を務めました。

退役後はゴールドマン・サックスで勤務し、職業経験の中で安保と金融に関して見識を磨いています。

トランプ政権発足後、28日の大統領令で国家安全保障会議(NSC)に入りし、イスラム圏七か国からの入国制限に関しても、バノン氏は強い影響力を発揮したことが日経朝刊(2017/2/1:3面)でも報じられていました。

当初、「難民やイスラム圏の市民の入国制限は当初、永住権(グリーンカード)保持者は入国可能にするはずだった」のですが、「バノン氏はミラー大統領補佐官と組み、関係者とほとんど協議せず大統領令をまとめた」といわれています。司法省の事前審査を拒み、違憲と疑われる大統領令が出され、「結局、永住権保持者の入国は原則認められることになったが、空港では混乱が広がった」わけです。

バノン氏は各国首脳との電話協議の場に同席し、トランプ政権を動かす黒幕(ダースベーダ―と呼ばれた)と見られていました。

しかし、マクマスター氏が大統領補佐官となって以降、軍高官出身者の閣僚が強い影響力を持ち始め、4月5日にNSCからバノン氏は外されました。バノン氏に替わり、NSCではダンフォード統合参謀本部議長とコーツ国家情報長官が常任委員に入っています。

8月に辞任をよぎなくされましたが、今でも、バノン氏の動向が政権運営や中間選挙にどんな影響を与えるのかが注目されています。

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スティーブン・バノン来日講演の主張

さらに、バノン氏の主な発言を追ってみましょう。

バノン氏は11月と12月に訪日し、講演を行っています。

11月訪日時のバノン氏講演要旨

バノン氏は一般財団法人「人権財団」らが都内で開催する中国の人権問題等を研究する「諸民族青年リーダー研修会」に招かれ、日本にやってきました。当日の講演の中身は以下の通り。

産経ニュース(2017.11.20)では、バノン氏来日時の講演の要旨が紹介されています(出所「中国指導者は国際的秩序の仲間入り意図せず」トランプ大統領の“参謀”バノン氏が警鐘鳴らす中国の対外拡張)。

バノン氏の講演の中心テーマは中国の危険性を訴えることでした。

  •  1970年代以降、米ソの狭間で台頭した「中国の指導者は、国際的な戦後の自由な秩序の仲間入りをすることなどまったく意図していない。
  • 中国には中国自身の計画があり、それを実行する」ことが目的だ。
  • 習近平国家主席が中国共産党大会の演説で打ち出した「強国路線」が実現した場合、「自由民主主義や自由市場経済が敗北する」
  • 習氏は、「一帯一路」の推進、金融技術の向上、中国人民元を主要通貨に押し上げることを通して金融における覇権の獲得を目指している。
  • そのため、「米国が中国の台頭にどう対応するか」が重要な課題になる。

12月訪日時のバノン氏講演要旨

その後、バノン氏は12月17日に再来日し、米保守系政治イベント(J-CPAC)にて以下のようなメッセージを語っています。

(産経ニュース2017.12.18〔【バノン氏講演】中国の一帯一路「成功は絶対的支配権掌握」米報道機関「トランプ氏を茶化している」】)

  • 中国の「一帯一路」が「成功すると、(中国は)絶対的な支配権力を掌握することになる」
  • 「(中国は)われわれを経済的に侵略している」
  • 「中国は米国や同盟国にとって戦略的な競合(相手)になる。私たちの世代が立ち向かわなければならない」
  • (知的財産権侵害について)「米国の知財をこれ以上、中国に明け渡すことができない」(⇒米通商法301条での制裁を主張)
  •  北朝鮮の核・ミサイル問題については、中国に「日米が協力して圧力をかけ続けることが重要」
  • 「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」というのは、「孤立主義でも、一国主義でもない」
  • 米国がTPPを離脱したのは「米国は2国間協定にしたいと考えている」ため。これは「最初から一貫して主張し続けている」

そのほか、トランプ氏の実績を「ミラクル(奇跡)を起こした」と讃え、米国メディアの報道を批判。NHKをフェイクニュースとみなして批判しました。

バノン氏へのNHKのインタビュー

11月の来日時には、バノン氏に対するNHKの単独インタビューが行われています。

内容は講演とも重なりますが、対中抑止策についての主張を紹介してみます。

バノン氏は、トランプ氏は長い報告書を読まず、自分が登用した幹部との問答を通して意思決定していることや、安倍首相を信頼していることなどを指摘し、その外交政策の中身を説明しました。

  • 対中抑止において「日本はリンチピンの役割を果たしている」「日本は太平洋地域において、アメリカにとって最も古く、関係の深い同盟国だ
  • 日本が防衛強化のためにさらに米国の兵器を買うのは当然の流れ。
  • 現在、米国は、日本、オーストラリア、インドと共に「アジアの大国・中国を囲む輪」を形成している
  • 強固な商業的関係のつながり、貿易合意、資本市場はアメリカの安全保障によって保証されている。
  • トランプ大統領は、貿易と安全保障がつながっていることを提起したが、他のリーダーたちには、それが見えていない
  • トランプ大統領の米国第一主義は、米国が孤立主義になることではなく、米国が直接的なパートナーシップを結ぶことである。そのため、TPPに反対した。
  • TPPの影響はあと何年も経たないと分からない。米国はTPPに対して、内容の透明性を求め、反対した。
  • 中国は北朝鮮への石油禁輸を行うべきだ。
  • 北朝鮮にはあらゆる選択肢が準備されている。しかし、 朝鮮半島から在韓米軍を撤退させる選択肢はない。
  • バノン氏は8月に「北朝鮮に関しては、軍事的選択肢はありえない」と発言した。
  • トランプ大統領と習主席の関係は良好で、訪中はうまくいった。中国市場と米企業の間で2000億ドル以上の合意を発表した。
  • 南シナ海での中国の基地建設に関して、トランプ大統領が「私たちは海洋国家間の仲裁で積極的な役割を果たします」と言ったのは、この問題に飛び込んで参加者の1人になって問題解決に努めてみるということ。
  • 北朝鮮問題の解決に向けた最善策は、中国との直接交渉
  • 中国は覇権国家になろうとしている。党大会の演説では、習氏が、2035年ごろまでに世界最大の経済大国になり、2050年ごろまでには世界の支配的国家になるとも述べていた。
  • 今まで、クリントン政権とブッシュ政権が中国に最恵国待遇を与え、希望的観測を持っていたが、中国はその通りに動かなかった。WTO=世界貿易機関に招き入れられたのに、市場を開放しなかった。

バノン氏は「ポピュリストのヒーロー?」

日本や米国のメディアは、ずっとバノン氏を悪役扱いし、極右として批判し続けてきましたが、前節で紹介した発言の中には、まともな内容も数多く含まれています。

実際は、報道で描かれているほど、ひどい人物ではないのかもしれません。

同氏の主張には、貿易等に関しては疑わしい政策も含まれていますが、主な狙いは、中国の野心に警鐘を鳴らし、米国の覇権を守ることにあったわけです。

現在、トランプ政権では、元軍人閣僚としては、大統領首席補佐官のジョン・ケリー氏やマクマスター補佐官(安全保障担当)や、マティス国防長官らが影響力を強めています。

彼らは保守派ですが、プロとして既存の体制を支えてきた人物なので、バノン氏とは反りが合いません。

バノン氏は、来日時の講演で、自分の立脚点はあくまでも「大衆主義」にあると述べました。

  • 「私は平均的な人間で、米国の労働者層の家庭出身だ」
  • 「トランプ氏が昨年の米大統領選で支持を急速に広げた背景には、労働者層の存在があった」
  • 「トランプ氏が当初の劣勢をはね返して共和党の候補に躍り出たのは、労働者層の人たちの支持を得たからだった」

その言論活動の支持者は、米国白人の労働者層です。

バノン氏は辞任後、古巣の「ブライトバート・ニュース」に帰り、ホワイトハウスや議会、財界にいる「敵」と闘いを始めました。

「ブライトバート・ニュース」ではバノン氏を「ポピュリスト・ヒーロー」と称し、以下のように述べています。

「ポピュリズムと国家主義運動は今日、今までよりも強くなった」(編集者兼主筆・アレックス・マロウ氏)

(”‘Populist Hero’ Stephen K. Bannon Returns Home to Breitbart” 2017/8/18)

バノンは以下のように述べました。

  • 「我々が戦い、勝たせたトランプ大統領は終わった」(「Trump presidency=トランプ大統領職/トランプ政権」に近い意味合いの言葉を用いた)
  • 「我々にはまだ大きな動きがある。我々はトランプ政権で何かを作り出す。しかし、この政権は終わった。それは別のものになる」
  • 「共和党のエスタブリッシュメント(既得権益者)は、トランプが我々の主張を実現することには関心がない。彼らは民族主義者でもナショナリストでもない。トランプの計画には興味がまったくないのだ」

(”‘It Was Great!’ — Donald Trump Thanks Steve Bannon for His Service” 2017/8/19)

バノン氏辞任の最も大きな要因は外交問題でした。

ケリー氏やマクマスター氏、マティス氏らは北朝鮮への強硬路線を打ち出しましたが、バノン氏は北朝鮮に対する軍事的選択肢を否定しました。この路線の違いが解任の決定打になったと見られています。

今後、2018年に米国が北朝鮮問題に対して、どのように動くのか。

その際に、バノン氏とその支持層がどのような動きを見せるのかも、非常に気になるところです。

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