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『米中もし戦わば』書評とピーター・ナバロの紹介

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『米中もし戦わば』(赤根洋子訳)の著者であるピーター・ナヴァロ(Peter Navarro)は、トランプ政権で通商製造政策局長を務めています。

この人はカリフォルニア大学アーヴァイン校の教授(経済学者・公共政策学者)で、CNBC経済番組でレギュラー出演者として出演したり、ビジネスウィーク誌やNYT、WSJ等に寄稿したりしていました。

現在は68歳(1949年7月15日生)なので、トランプ氏とだいたい、同じぐらいの年齢です。

ナヴァロ氏は2000年代から中国の軍拡に警鐘を鳴らし、12冊の著書を刊行しました。

近年には『米中もし戦わば』(赤根洋子訳)が注目されました。

この人は「力による平和」を論じ、「抑止力なくして平和はない」というリアリズム的な世界観を元に外交政策を考えています。

この人は対中強硬派で、『Death By China』を執筆し、自ら監督・脚本を務めてもいました

選挙期間中からトランプの経済政策の顧問をしており、通商や産業政策を助言する「通商製造政策局」の長となりました。

17年春頃からは対中外交が硬軟併用の路線に変わり、ナヴァロの影響力は下がりましたが、18年に入り、対立していたゲーリー・コーンNEC委員長が辞任。対中対話路線のティラーソン国務長官も辞任。

中国への知的財産権侵害への制裁措置も決まり、ナヴァロにとって影響力拡大のチャンスがやってきています。

そこで、対中強硬派のナヴァロ氏の著作の要点を整理してみましょう。

ピーター・ナヴァロの対中戦略

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ナバロ氏は大統領選の頃から、商務長官に指名されたウィルバー・ロス氏とともにトランプ氏の通商政策を立案していました。

16年8月にはロス氏と連名でNAFTAの結果、米国で70万の雇用が失われたことや、中国は不公正な貿易政策で米国の7万以上の工場を閉鎖に追い込んだことなどを主張しました。

この人は、最近の関税賦課などの政策の出元になった人とも見られています。

この路線で行けば、90年代の日米経済交渉のようなバトルが米国と中国の間で繰り広げられることになるでしょう。

16年の日本語版記事を見ると、ウォールストリートジャーナル社説ではナヴァロ氏のオバマ批判なども紹介されていました(「トランプ氏のアジア戦略、進むべき道は」2016/11/11)

(※アレクサンダー・グレイ氏とピーター・ナバロ氏は)「7日発行の外交専門誌「フォーリン・ポリシー」で、アジア政策に関する前向きな展望図を描いている。オバマ政権のアジア軸足政策について、「大声で話して、小さなこん棒しか持たない」と切り捨てた

(中略)

両氏によれば、中国が南シナ海のスカボロー礁を2012年に実効支配した際の米政府の無策が原因で、フィリピンのドゥテルテ大統領は中国にすり寄ることになった

トランプ政権は中国による周辺諸国への圧力に対抗すると両氏は論じる。台湾の孤立を図った中国に手を貸したビル・クリントン氏のようなやり方も認めないとしている。最も重要な点は、中国がほぼその全域の領有権を主張する南シナ海で自由航行権を守ると明言したことだ。

アジアの同盟諸国を支援するため、米国はレーガン政権時代の「力による平和」構想に回帰すべきだと両氏は主張。そのためには防衛予算の強制削減措置を廃止し、米海軍の保有艦船数を350隻に拡大する必要があると唱えている。

要するに、オバマ氏は口先男だという批判です。

「航行の自由」作戦と称して南シナ海にイージス艦を派遣しましたが、結局、中国が実効支配した島で基地をどんどん拡大していくのを止められなかったからです。

米海軍の艦船を増やせという主張はオバマ政権の頃にもありましたが、これがトランプ政権への移行に伴い、復活してきました。

トランプ政権発足後、ホワイトハウスのHPには、海軍や空軍の再建構想も公表されています。

「アメリカ第一の外交政策(”America First Foreign Policy”)」は以下のように述べています。

我々はアメリカ軍を再建する。

Next, we will rebuild the American military.

我々の海軍は500隻(1991年)から275隻(2016年)にまで縮小した。

Our Navy has shrunk from more than 500 ships in 1991 to 275 in 2016.

我々の空軍は大まかに言って、1991年の頃の三分の一以下だ。

Our Air Force is roughly one third smaller than in 1991.

トランプ大統領はこのトレンドを反転させる。彼はわが軍の優勢は疑いないものでなければならないことを理解しているからだ。

President Trump is committed to reversing this trend, because he knows that our military dominance must be unquestioned.

国防予算は増えているので、この主張も実現する可能性が高まっているようにも見えます。

注目すべきは台湾擁護路線です。

週刊文春(2016/12/23)は2016年のトランプ氏と蔡英文の電話会談を実現させたのはナヴァロ氏だと述べています。

そして、ナヴァロ氏の日本への提言を紹介していました(以下、概要抜粋)。

  • 自衛隊の「質」は高いが、中国軍の「量」に対抗できない可能性が高い
  • トランプ氏は日米同盟や日韓同盟を維持したいと考えているが、各国に防衛に関する今まで以上の財政的負担を要求する
  • 日本にも対艦弾道ミサイル等が必要になる。米軍基地は一か所だけでなく、もっと幅広い場所に展開したほうがよい。

同盟維持論者のナヴァロ氏は、トランプ氏は同盟破棄などは考えていないと述べていました。

『米中もし戦わば』の要点

ナヴァロ氏の『米中もし戦わば』は奇妙なことに訳者の赤根洋子氏よりも解説を書いた飯田将史氏(防衛省防衛研究所主任研究官)のほうが目立つ構成になっています。

防衛省でも読まれていることをPRしたいのでしょうが、表紙や袖写真、著者、訳者、解説者紹介で赤根氏があまりにも目立たないので、筆者は多少、違和感を感じてしまいました。

とはいえ、内容は非常に重厚です。分量が多すぎるので、印象的な記述を幾つか紹介してみます。

米中戦争の可能性

「既成の大国と台頭する新興国が戦争に至る確率は70%以上」(P13)

これは、シカゴ大のミアシャイマー教授が『大国政治の悲劇』で指摘した歴史の事例を紹介しながら述べている話です。昔であれば、ヨーロッパの覇権をめぐってイギリス対フランス(ナポレオン戦争)、イギリス対ドイツの戦争(第二次世界大戦)が起きましたが、似たようなことが米中間で起きかねないというわけです。

この書籍では1500年以降、15件中11件、覇権国と新興国との間で戦争が起きたことを紹介し、米中戦争勃発の危険性に警鐘を鳴らしているのです。

※古代ギリシャで新興国のスパルタとアテネとの間で大戦争が起き、それが歴史家トゥキュディディスに紹介されたことにちなみ、覇権国と新興国との戦争勃発リスクは「トゥキュディディスの罠」とも言われている。

中国の核弾頭の数は通説よりも多い

「ペンタゴンは一貫して、中国が保有する核弾頭の数は240から400の間に過ぎないと見積もってきた。だが、カーバーは2013年に発表したレポートの中で、中国が地下長城内に3000発もの核弾頭を備蓄している可能性を指摘している」(P70)

カーバーという人は通説に反して中国が膨大な核兵器を持っている可能性を指摘した人物です。「そんなバカな」という感想もあろうかと思いますが、米国防総省(ペンタゴン)が議会に送る中国の軍事力に関する報告書は、オバマ政権になってから急に中身が薄くなり、核弾頭の数や長距離弾道ミサイルの数はいつも同じ数字が書かれるようになりました(長距離弾道ミサイルの数は50~75発という表記が多いです)。

中国が軍艦や戦闘機、巡航ミサイル等をどんどん増やしているのに、核弾頭や長距離弾道ミサイルの数だけは変わらないので、筆者は毎年、その数字を見るたびに「これは怪しい」と思っていました。

中国大陸にはたくさんの地下基地がつくれますし、実際、その基地内に入って欧米の研究者が数を調べることはできません。ペンタゴンが書いている数字も推測でしかないので、このあたりの表記は政治的に中国を刺激しない数で丸められている可能性もあるわけです。

ナヴァロ氏はその可能性に警鐘を鳴らしています。3000発という数字は多く見えますが、冷戦時代真っ盛りのソ連の核弾頭の数を考えれば、それほど不自然な数字ではありません。

中国のミサイル戦力には要警戒

「日本の海上部隊は地上発射ミサイルの深刻な脅威にさらされている」(P73)

「台湾に対してだけでも1500発以上ものミサイルが配備されている」(P74)

「台湾だけでなく、第一・第二列島線に沿って点在するアメリカ軍基地も危険にさらされている」「基地はGPS誘導精密ミサイルの集中攻撃を受ければなすすべがない」(※2014年に中国が実験した)「ミサイルの最高速度はマッハ10、つまり音速の10倍(時速12000キロ)である」(P75)

中国は台湾に短距離弾道ミサイルを並べ、日本に対しては準中距離弾道ミサイル(東風21号)を並べています。そして、巡航ミサイルを陸上基地、爆撃機、潜水艦から発射可能です。

有事になったら尖閣諸島沖で中国海軍と海上自衛隊、中国空軍と航空自衛隊の決戦が行われるーーそんな物語が書かれることもありますが、中国は日本に対して、弾道ミサイルと巡航ミサイルで先制攻撃できます。

有事に海と空で戦いが起きるのは日本が深刻な第一撃を受けた後になるはずです。

それはヤバい。手傷を負った後に本格的に戦えるのか、ということをナヴァロ氏は指摘しているわけです。

中国軍はイスラエルが中東戦争でミサイルの先制攻撃で敵の空軍基地を破壊した例に学び、台湾有事作戦では同種の作戦を構築したとも言われています。

つまり、台湾の戦闘機が飛べないようにし、その後、航空機と軍艦で攻撃。最後に上陸戦を試みるプランです。

一般層の戦争のイメージは20世紀のスタイルを引きずっていますが、現代の戦争は、サイバー戦やミサイル戦が先行し、その後に戦闘機や軍艦が動くので、時代が変わっていることを見落としてはいけないでしょう。

米軍基地もミサイルから守り切れなくなっているので、最近ではグアムへの引っ越しプランが出てきました・・・。

アメリカは台湾防衛の意志を明確に

「政治指導者たちが台湾に対して慎重路線を取る背景には常に、『アメリカ経済は中国との貿易に大きく依存している。だから、中国と事を荒立てたくはない』という事情がある」「政治家の多くは、成長を続ける対中貿易に既得権を持っているアメリカの多国籍企業から寄せられる多額の政治献金にも大きく依存している。だから、台湾への援助となると、政治も経済も二の足を踏む」「中国がそれを優柔不断と弱腰の表れと受け取って増長し、最終的な侵攻へと踏み出す危険があるからだ」(P144)

ナヴァロ氏はブッシュ政権、オバマ政権などが台湾支援に及び腰だったと批判しています。

ブッシュ政権は民進党の独立路線を批判し、オバマ政権は最新型F16戦闘機の売却を拒絶しました。

その路線が裏目に出て、結局、台湾併合を狙う中国の野心に歯止めが利かなくなっているのだ、と指摘しているわけです。

台湾はアジアの自由民主主義の要衝であると同時に、貿易の物資を運ぶ海上交通路の自由を守っています。

台湾が中国領となれば、日本への物資の供給に重大な支障が出ますし、米軍も自由にアジアの海をまたげなくなってしまうからです。

ナヴァロ氏の見解が政策に反映されれば、アメリカは今までよりも台湾を重視するようになるはずです。

なぜ中国に関税をかけるのか?

「経済を健全化しなければ、アメリカは中国に対抗できない」(P338)

「潜水艦戦と機雷戦が抑止力の鍵」(P346)

「アメリカは同盟国を守るという鉄則を貫く必要がある」(P358)

前掲の二つの引用を見て、ナヴァロ氏は過激だと思われた人もいるかもしれませんが、同氏は別に戦争を望んでいるわけではありません。

具体策としては、トランプ氏の政策にも見られるように、中国を為替操作国と見なしたり高関税をかけたりして経済面で戦うことと、 米軍の抑止力を高めること(米海軍艦艇の増加等)、同盟国との関係を緊密化することを重視しています。

米中双方が核兵器を持っているので、本格的な戦争は両者の自滅にしかなりません。

そのため、具体策は米軍を再建し「力による平和」を実現する、という答えになります。

今後、ナヴァロ氏はトランプ氏の対中外交に影響力を持つはずなので、国際政治に興味のある方であれば、この本は買って損はない内容だと言えるでしょう。

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