2019年 世界10大リスクをユーラシアグループが発表(17年との比較を付記)

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米国株に投資する際には、世界政治・経済のリスクが気になります。

このたび、米政治学者のイアン・ブレマー氏が社長を務める米国のコンサルティング企業であるユーラシアグループが1月2日に「2019年の10大リスク」を公表しました(※ブレマー氏は『「Gゼロ」後の時代』等の著書で有名)。

今回の記事では、その概要を紹介し、今後の10大リスクについて考えてみます。

果たして、イアンブレマー氏率いるユーラシアグループによる2018年のリスク算定は当たるのでしょうか。

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世界10大リスク:2017年~2019年を比較

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まず、図解で2017~2019年のリスクを比べてみましょう。

2019 2018 2017
1 悪性の種 真空を愛する中国 わが道を行く米国
2 米中関係 アクシデント 中国の過剰反応
3 熾烈化するサイバー戦争 世界的なテクノロジー冷戦 弱体化するメルケル
4 欧州のポピュリズム メキシコ 改革の欠如
5 米国の内憂 米国・イラン関係 テクノロジーと中東
6 イノベーション冬の時代 (政府)機関の衰退 中央銀行の政治化
7 非有志連合 保護主義2.0 ホワイトハウス対シリコンバレー2.0
8 メキシコ 英国 トルコ
9 ウクライナ 南アジアのアイデンティティ政治 北朝鮮
10 ナイジェリア アフリカの安全保障 南アフリカ

※2019年の「悪性の種」の副題は「長期的な潜在リスク分子」。

2019年の10大リスクとは

悪性の種

まず、気になる19年のリスク第一位に関して、ユーラシアグループは「世界における重要な地政学的な動きの圧倒的多数は、今や誤った方向に進んでいる」と断じています。

地政学的な環境の悪化や、米国で民主主義が損なわれていること、欧州のポピュリズム、貧困層と富裕層の二極化、「習近平が絶大な権力を一手に握っている」ことなどを取り上げ、これらが即時に破滅をもたらすわけではないものの、今後、長期的に世界を脅かしていくと論じているのです。

米中関係

そして、米中関係に関しては、かなり厳しい見通しを出しています。

「問題となっているのは、中国の経済システムの根本的性質そのものであり、それについて中国が妥協することはまずあり得ない」

熾烈化するサイバー戦争

これも米中戦争の延長戦に含まれていますが、注意点として「サイバースペースでは、攻撃の発生源や、国家と非国家主体との境界線が曖昧であることが多い」ことを指摘しています。

誰が報復の対象かが分かりにくく、「超えてはならない一線」が曖昧なので、偶発的なトラブルを生みやすいわけです。

欧州のポピュリズム

聞き飽きた話ではありますが、英仏独の政権が厳しいかじ取りを迫られる中で、「右派のポピュリスト政党には、欧州議会において有力な勢力となるチャンスがある」と指摘しています。

これに関連して、10番のリスクの次に「英国のEU離脱」という特設項目を追加していました。

米国の内憂

「トランプが弾劾され、解任される可能性は依然として低いが、政情は非常に不安定になるだろう」

要するに、これはロシア疑惑等をはじめとした、米国内の政情不安リスクです。

イノベーション冬の時代

政治的圧力が技術革新を阻害するリスクを、以下の3点の理由から示唆しています。

  • 安保上の懸念から「各国政府が国家安全保障上重要な領域において外国のサプライヤーとの関わりを減らそうとしている」
  • 個人情報保護のために「政府は国民のデータの利用方法をより厳しく規制する」
  • 「各国が障壁を設けて、国内の有望な新興テクノロジー企業を海外の業界大手から守ろうとしている」

その結果、イノベーションのための資本が不足し、価格増という形で、2019年は「投資家や市場が代償を支払う年になる」としています。

筆者は、個人的には、このリスクが非常に気になりました。

要するに、「アマゾン叩き→アマゾンプライム料金増」というようなことが起きうるわけです。

非有志連合

「2年が経過した今、トランプは世界各国に同類を集めている」

アンチトランプのブレマー氏は、トランプが世界に仲間をつくり、今の体制を壊そうとしていると訴えています。

メキシコ

(大統領の)「オブラドールは、国家財政を犠牲にしても、任期初年度中に自分の野心的な社会およびインフラプログラムへの着手に全力を挙げる」

議会でも多数与党を取っているので、新大統領は改革案を実現可能だと述べています。ブレマー氏は「特定のドラッグ合法化」等も懸念しています。

ウクライナ

19年に大統領選が3月、議会選が秋に行われます。

ここで「ロシアが介入することは確実だ」というのがブレマー氏の見方です。

またバトルが始まるのでしょうか。

ナイジェリア

「1999年に民主主義に移行して以来、最も激しい選挙戦が行われようとしている」

ただ、主な二大候補者は高齢で能力不足なので、停滞が懸念されるとのこと。活性化してきた国なのに残念です。

ーーー

こうした内容が2019年レポートの要点でした。

いろいろな着眼点はあると思うのですが、筆者が昨年から引き続き、注視しているのは、テクノロジーを巡る競争です。

昨年のイアン・ブレマー氏への年初インタビューでも、この論点は取り上げられていました(『週刊ダイヤモンド(2017/12/30ー2018/1/6 新年合併号)』)。

  • ビッグデータを中心に起きている技術革新は、 効率性を高め、 今後さらに重要になる
  • 例えば、医療ではA I は個々の医師に勝る効率性を生んでいる
  • AIは全セクターに影響を及ぼすので、もはや経済をセクターごとに分けて捉えるべきではない

18年~19年のレポートは、テクノロジー面に着眼していくと、非常に興味深い指摘がいろいろと見つかると思います。

2018年の世界10大リスク

さらに、18年のレポートを見てみます。

総論

 

まず、総論では2018年の経済と政治について述べ、国際政治のトレンドを予測しています。

  • 経済:株価上昇を評価。経済は悪くない
  • 政治:市民の分断や政府の統治不全を問題視。世界秩序は崩壊し始めている
  • 自由民主主義は修復不能に見える構造的な問題を抱えており、第2次世界大戦以降、最も正統性(legitimacy)を失ってしまった。強い指導者は市民社会や共通の価値にほとんど興味を示さない
  • 金融危機の2008年と同程度の不透明感が世界を覆っている
  • 世界は2017年にトランプ政権が成立して以来、主要先進国の指導力が低下する「Gゼロ」の時代に入り、ホッブス的な様相(万人の万人に対する闘争)を呈している
  • 世界は今、過去の安定した状態に回帰しておらず、地政学的な不況に近い状態だ
  • (トランプ政権の)「米国第一」とその政策は、米国が主導する秩序を侵食してしまったが、それを再構築する国はない。
  • リーダーなき世界の姿がいっそう鮮明になってきた。
  • 米国の世界での影響力低下は 2018 年に加速する。
  • ソフト・パワーと経済、自由主義の組み合わせは信用の危機に直面している。

基本的にはアンチトランプの見方です。

以下、10大リスクについての記述を見てみます。

※「真空を愛する中国」・・・「権力は真空を嫌う」という格言をもじった表現。

国際政治の用語では、どの国が支配しているか不明瞭な地域を「権力の真空状態」と呼び、主権国家はそこを必ず埋め、自国の支配下に置こうとします。

この主権国家の動きを「権力は真空を嫌う」と呼ぶのですが、中国はこの「真空状態」を好機とみて領土拡大を図るため、これを皮肉って「真空を愛する中国」と称しています。

真空を愛する中国:China loves a vacuum

  • 第19回党大会は中国史の転換点。
  • 習近平の演説は、ゴルバチョフがソビエト連邦の解散をして以来、地政学的に最も注目すべき出来事として認められるだろう。
  • 中国は世界におけるリーダーシップについての話題を避けてきた。
  • 習は幸運なタイミングにより利益を得る。
  • ワシントン主導の多国間主義への米国の関与を放棄し、トランプはアジアにおける今後の米国の役割について多くの不確実性を生み出した。
  • 中国が今やその力の真空を満たすことができる

アクシデント:Accidents

  • 9.11以降、キューバ危機に匹敵するリスクは生じていない。
  • しかし、誤判断が深刻な国際紛争を引き起こす可能性のある場所が多すぎる。
  • 我々は第三次世界大戦の瀬戸際にいるわけではないが、保安官のいない世界はより危険な場所となろう。

世界的なテクノロジー冷戦:Global tech cold war

  • テクノロジーのブレイクスルーが進んでいる。
  • コミュニケーション革命が情報アクセスを可能にし、個人に力を与えている。
  • AI革命はますます進行み、米中間では画期的な技術競争が進行中だ。
  • AIやスパコン等の次世代技術の勝者が経済的・地政学的に今後数十年を支配する。
  • 米国は最高の技術を持つが、この分野では中国も積極投資を行っているので、苦戦することになろう。

メキシコ:Mexico

  • 2018年はメキシコにとって厳しい年だ。
  • この国の長期的見通しは、NAFTA再交渉と7月1日の大統領選挙の結果次第だ。
  • 両者は重大な市場リスクとなりうる。

米国とイランの関係:US-Iran relations

  • トランプ政権はイランを悪の根源と見なしている。
  • 米国とイランの関係は、地政学的にも市場にとってもリスク要因となる。
  • イラン核合意が2018年に存続するかどうか。もし存続しなければ、世界は新たな危機に直面することになる。

政府機関の衰退:The erosion of institutions

  • 英国をEUから離脱させた人々は「専門家はたくさんだ」と思っている。
  • 日本を除いた先進国では官僚的機関に対する信頼は急速に低下している。

保護主義2.0:Protectionism 2.0

  • ポピュリストと国家資本主義の広がり、現在進行中の地政学的な不況により、保護主義が帰ってきた。
  • 発展する市場において、反エスタブリッシュメント運動は政策作成者により保護主義的なアプローチを強いている。
  • 彼らはグローバル競争の中で雇用を失ったと見ているからだ。
  • 壁がつくられようとしている。

英国:United Kingdom

  • イギリスにとって、2017 年は面白くない年だったかもしれない。
  • 2018年はもっと悪い年になろう。
  • 英EU離脱と国内政治が、英国に大きな問題をもたらすからだ。

南アジアのアイデンティティ政治:Identity politics in southern Asia

  • 主に、インドVSパキスタンが中心。
  • 南アジアのアイデンティティ政治には多様な形がある。
  • それは、イスラム運動や反中国、他のマイノリティへの反感、インドのナショナリズム等だ。

アフリカの安全保障:Africa’s security

  • “アフリカの台頭” というナレーションは魅力的だ。
  • しかし、今年は新しい挑戦に直面するだろう。
  • コートジボワール、ナイジェリア、ケニア、エチオピア等のコアな国々は、投資が活発な地域だが、これらの地域に、不安定な地域(マリ、南スーダン、ソマリア等)からのマイナスの影響が及ぶかもしれない。
  • ISは西アフリカで勢力を拡大し、東アジアに拡大する可能性が高い。

2017年の世界10大リスク

さらに、比較対象として2017年の10大リスクの要点を見てみます。

出所はユーラシア・グループHPの日本語版記事「2017世界10大リスク」(2017年1月4日)です。

総論の要点

  • グローバルなリーダーとしての責任を果たすことへの米国の関心が低下している。
  • 米国の同盟諸国(特に欧州勢の力が落ちた)は米国の意図を測りかねてリスク分散の動きを見せている。
  • 敵とも味方ともなる「フレネミー」(ロシア・中国)が米国の(限定的な)代替勢力として自らを確立しようとしている。
  • EU離脱とイタリアの国民投票での憲法改正否決に伴うNATOの劣化、TPPの崩壊、フィリピン大統領の米国からの離反宣言、アジア・ピボットの終焉、シリア内戦でのロシアの勝利、トランプ当選でGゼロの世界が本格的に到来した。
  • グローバル化と米国化が密接に結びつき、安全保障、貿易及び価値の推進における米国のヘゲモニーが世界経済の防壁として機能していた「パックス・アメリカ―ナ」の 70 年にわたる地政学的時代も終わりを迎えた。
  • 2017 年、世界は地政学的後退期に入る。

10大リスクの中身

  1. わが道を行くアメリカ:Independent America(≒トランプ政権)
  2. 中国の過剰反応:China overreacts
  3. 弱体化したメルケル:A weaker Merkel ~
  4. 改革の欠如:No reform
  5. テクノロジーと中東:Technology and the Middle East ~ テクノロジーと中東
  6. 中央銀行の政治化:Central banks get political
  7. ホワイトハウス VS シリコンバレー:The White House versus Silicon Valley(≒トランプ政権vsテック大手)
  8. トルコ:Turkey(※独裁化)
  9. 北朝鮮:North Korea
  10. 南アフリカ:South Africa(大統領vsアフリカ民族会議)

※中央銀行の政治化:本来、政治的に中立であるべき中央銀行が政府の意向を受けて金融政策を決める傾向を強めたことを指す。

この中には、懸念に終わったものや、過少・過大評価されたリスクもあります。

北朝鮮はもっと上位でなければいけなかったし、中央銀行を巡るリスクは2017年に表面化しませんでした。

2番とされた中国の過剰反応は起きませんでしたが、ここを質問されたブレマー氏は、北朝鮮問題やNAFTA再交渉等で米国が中国以外の問題に気を取られるようになったため、17年に「中国が過剰反応すべき理由はなかった」「中国が過剰反応しなかったのは、 米国側の対応によるところが大きい」と答えています(『エコノミスト』2018年1月9日)。

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