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2018年 世界10大リスクをユーラシアグループが発表(17年との比較を付記)

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米国株に投資する際には、世界政治・経済のリスクが気になります。

このたび、米政治学者のイアン・ブレマー氏が社長を務める米国のコンサルティング企業であるユーラシアグループが1月2日に「2018年の10大リスク」を公表しました(※ブレマー氏は『「Gゼロ」後の時代』等の著書で有名)。

今回の記事では、その概要を紹介し、2017年の10大リスクと比べてみます。

世界10大リスク:2018年と2017年を比較

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まず、図解で2018年と2017年のリスクを比べてみましょう。

   2018年 2017年 
1 真空を愛する中国 わが道を行く米国
2 アクシデント 中国の過剰反応
世界的なテクノロジー冷戦 弱体化するメルケル
メキシコ 改革の欠如
米国・イラン関係 テクノロジーと中東
(政府)機関の衰退 中央銀行の政治化
保護主義2.0 ホワイトハウス対シリコンバレー
英国 トルコ
南アジアのアイデンティティ政治 北朝鮮
10  アフリカの安全保障 南アフリカ

わかりにくい表現が目立ちますが、「真空を愛する中国」というのは「権力は真空を嫌う」という格言をもじった表現です。

国際政治の用語では、どの国が支配しているか不明瞭な地域を「権力の真空状態」と呼び、主権国家はそこを必ず埋め、自国の支配下に置こうとします。

この主権国家の動きを「権力は真空を嫌う」と呼ぶのですが、中国はこの「真空状態」を好機とみて領土拡大を図るため、これを皮肉って「真空を愛する中国」と称しています。

「世界的なテクノロジー冷戦」というのはAIやビッグデータにおける覇権争いのこと。

また、「南アジアのアイデンティティ政治」というのは、具体的にはパキスタンとインドの動きを指しています。パキスタンでイスラム主義が強まり、インドは中国に対抗するアイデンティティを主張しているからです。

17年の「中央銀行の政治化」というのは、本来、政治的に中立であるべき中央銀行が政府の意向を受けて金融政策を決める傾向を強めたことを指します。

表現は婉曲的ですが、結局、リスク要因に挙げられているのは、中国とトランプ政権(≒「保護主義2.0」)あたりです。

分かりにくい書き方ですが、2位の「アクシデント」は「北朝鮮を巡る戦争リスク」を含めた表現です。

全体的には「世界のリスク」というよりは、「欧米から見た世界のリスク」という印象を受けます。

2018年の世界10大リスク

ユーラシアグループのレポートの概要を見てみます。

まず、総論では2018年の経済と政治について述べ、国際政治のトレンドを予測しています。

  • 経済:株価上昇を評価。経済は悪くない
  • 政治:市民の分断や政府の統治不全を問題視。世界秩序は崩壊し始めている
  • 自由民主主義は修復不能に見える構造的な問題を抱えており、第2次世界大戦以降、最も正統性(legitimacy)を失ってしまった。強い指導者は市民社会や共通の価値にほとんど興味を示さない
  • 金融危機の2008年と同程度の不透明感が世界を覆っている
  • 世界は2017年にトランプ政権が成立して以来、主要先進国の指導力が低下する「Gゼロ」の時代に入り、ホッブス的な様相(万人の万人に対する闘争)を呈している
  • 世界は今、過去の安定した状態に回帰しておらず、地政学的な不況に近い状態だ
  • (トランプ政権の)「米国第一」とその政策は、米国が主導する秩序を侵食してしまったが、それを再構築する国はない。
  • リーダーなき世界の姿がいっそう鮮明になってきた。
  • 米国の世界での影響力低下は 2018 年に加速する。
  • ソフト・パワーと経済、自由主義の組み合わせは信用の危機に直面している。

基本的にはアンチトランプの見方です。

以下、10大リスクについての記述を見てみます。

真空を愛する中国:China loves a vacuum

  • 第19回党大会は中国史の転換点となった。
  • 習近平の演説は、ゴルバチョフがソビエト連邦の解散をして以来、地政学的に最も注目すべき出来事として認められるだろう。
  • 中国は世界におけるリーダーシップについての話題を避けてきた。
  • 中国は17 年に戦略を転換した。
  • 習は幸運なタイミングにより利益を得る。
  • ワシントン主導の多国間主義への米国の関与を放棄し、トランプはアジアにおける今後の米国の役割について多くの不確実性を生み出した。
  • 中国が今やその力の真空を満たすことができるのだ

アクシデント:Accidents

  • 9.11以降、キューバ危機に匹敵するリスクは生じていない。
  • しかし、誤判断が深刻な国際紛争を引き起こす可能性のある場所が多すぎる。
  • 我々は第三次世界大戦の瀬戸際にいるわけではないが、保安官のいない世界はより危険な場所となろう。

世界的なテクノロジー冷戦:Global tech cold war

  • テクノロジーのブレイクスルーが進んでいる。
  • コミュニケーション革命が情報アクセスを可能にし、個人に力を与えている。
  • AI革命はますます進行み、米中間では画期的な技術競争が進行中だ。
  • AIやスパコン等の次世代技術の勝者が経済的・地政学的に今後数十年を支配する。
  • 米国は最高の技術を持つが、この分野では中国も積極投資を行っているので、苦戦することになろう。

メキシコ:Mexico

  • 2018年はメキシコにとって厳しい年だ。
  • この国の長期的見通しは、NAFTA再交渉と7月1日の大統領選挙の結果次第だ。
  • 両者は重大な市場リスクとなりうる。

米国とイランの関係:US-Iran relations

  • トランプ政権はイランを悪の根源と見なしている。
  • 米国とイランの関係は、地政学的にも市場にとってもリスク要因となる。
  • イラン核合意が2018年に存続するかどうか。もし存続しなければ、世界は新たな危機に直面することになる。

政府機関の衰退:The erosion of institutions

  • 英国をEUから離脱させた人々は「専門家はたくさんだ」と思っている。
  • 日本を除いた先進国では官僚的機関に対する信頼は急速に低下している。

保護主義2.0:Protectionism 2.0

  • ポピュリストと国家資本主義の広がり、現在進行中の地政学的な不況により、保護主義が帰ってきた。
  • 発展する市場において、反エスタブリッシュメント運動は政策作成者により保護主義的なアプローチを強いている。
  • 彼らはグローバル競争の中で雇用を失ったと見ているからだ。
  • 壁がつくられようとしている。

英国:United Kingdom

  • イギリスにとって、2017 年は面白くない年だったかもしれない。
  • 2018年はもっと悪い年になろう。
  • 英EU離脱と国内政治が、英国に大きな問題をもたらすからだ。

南アジアのアイデンティティ政治:Identity politics in southern Asia

  • 南アジアのアイデンティティ政治には多様な形がある。
  • それは、イスラム運動や反中国、他のマイノリティへの反感、インドのナショナリズム等だ。

アフリカの安全保障:Africa's security

  • "アフリカの台頭" というナレーションは魅力的だ。
  • しかし、今年は新しい挑戦に直面するだろう。
  • コートジボワール、ナイジェリア、ケニア、エチオピア等のコアな国々は、投資が活発な地域だが、これらの地域に、不安定な地域(マリ、南スーダン、ソマリア等)からのマイナスの影響が及ぶかもしれない。
  • ISは西アフリカで勢力を拡大し、東アジアに拡大する可能性が高い。

2017年の世界10大リスク

次に、比較対象として2017年の10大リスクの要点を見てみます。

出所はユーラシア・グループHPの日本語版記事「2017世界10大リスク」(2017年1月4日)です。

総論の要点

  • グローバルなリーダーとしての責任を果たすことへの米国の関心が低下している。
  • 米国の同盟諸国(特に欧州勢の力が落ちた)は米国の意図を測りかねてリスク分散の動きを見せている。
  • 敵とも味方ともなる「フレネミー」(ロシア・中国)が米国の(限定的な)代替勢力として自らを確立しようとしている。
  • EU離脱とイタリアの国民投票での憲法改正否決に伴うNATOの劣化、TPPの崩壊、フィリピン大統領の米国からの離反宣言、アジア・ピボットの終焉、シリア内戦でのロシアの勝利、トランプ当選でGゼロの世界が本格的に到来した。
  • グローバル化と米国化が密接に結びつき、安全保障、貿易及び価値の推進における米国のヘゲモニーが世界経済の防壁として機能していた「パックス・アメリカ―ナ」の 70 年にわたる地政学的時代も終わりを迎えた。
  • 2017 年、世界は地政学的後退期に入る。

10大リスクの中身

  1. わが道を行くアメリカ:Independent America(≒トランプ政権)
  2. 中国の過剰反応:China overreacts
  3. 弱体化したメルケル:A weaker Merkel ~
  4. 改革の欠如:No reform
  5. テクノロジーと中東:Technology and the Middle East ~ テクノロジーと中東
  6. 中央銀行の政治化:Central banks get political
  7. ホワイトハウス VS シリコンバレー:The White House versus Silicon Valley(≒トランプ政権vsテック大手)
  8. トルコ:Turkey(※独裁化)
  9. 北朝鮮:North Korea
  10. 南アフリカ:South Africa(大統領vsアフリカ民族会議)

この中には、懸念に終わったものや、過少・過大評価されたリスクもあります。

北朝鮮はもっと上位でなければいけなかったし、中央銀行を巡るリスクは2017年に表面化しませんでした。

2番とされた中国の過剰反応は起きませんでしたが、ここを質問されたブレマー氏は、北朝鮮問題やNAFTA再交渉等で米国が中国以外の問題に気を取られるようになったため、17年に「中国が過剰反応すべき理由はなかった」「中国が過剰反応しなかったのは、 米国側の対応によるところが大きい」と答えています(『エコノミスト』2018年1月9日)。

イアン・ブレマー氏への年初インタビュー

日本の経済誌には人気があるブレマー氏は『週刊ダイヤモンド(2017/12/30ー2018/1/6 新年合併号)』(P46~47)にて、年頭のインタビューに応じているので、その要点を紹介してみます。

  • 米国が株高なのは、緊張度が高い東アジアや中東から遠く、人口知能等の技術革新で他国に先行していることが投資家を引き付けている
  • ビッグデータを中心に起きている技術革新は、 効率性を高め、 今後さらに重要になる(医療ではA I は個々の医師に勝る効率性を生んでいる)
  • AIは全セクターに影響を及ぼすので、もはや経済をセクターごとに分けて捉えるべきではな
  • 税制改革や金融・エネルギー規制緩和等はトランプではなく、他の共和党候補でもできた政策にすぎない
  • 18年の大統領弾劾は困難(民主党の中間選挙勝利がなければ難しいということ)
  • 北朝鮮に関して、核開発やミサイル実験を断念させるのは困難。平昌冬季五輪への北朝鮮参加はブレークスルーになりうる
  • トランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都に認定したことは中東全体にネガティブな影響を与える。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの米国の離脱といった外交における米国の影響力を低下させる流れにエルサレムの首都問題が加わった
  • 世界的なリーダーがいない「Gゼロ」の時代はすでに到来している。
  • 現在、『グローバリズムの失敗( 仮訳 )』という本を執筆しており、先進国ではポピュリ ズム(大衆迎合主義)が増大し、世界情勢を悪化させていくと考えている。

この中で重要なのは、投資には地政学リスクへの配慮が要る(米国は最良の地政学的環境)ことと、AIの影響が全セクターに及ぶというあたりでしょうか。

あとの論点は、わりと日本の新聞記事に書かれているような月並みなコメントに見えます。

果たして、イアンブレマー氏率いるユーラシアグループによる2018年のリスク算定は当たるのでしょうか。

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