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2018年、米国TPP復帰と日米FTAのどちらが実現する? 

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安倍首相は4月17日から18日(米国時間)に訪米し、トランプ大統領との会談に臨みます。

北朝鮮問題や米国のTPP(環太平洋連携協定)復帰などの通商問題が話し合われ、現地では「ゴルフ会談」も行われる予定です。

(会場はフロリダ州バームビーチ。トランプ別荘のマーララーゴ)

日本側は、米朝首脳会談で拉致問題等を取り上げる代わりに、米国が農業や自動車分野の市場開放などで譲歩を要求してくると警戒し、「TPP復帰」という方針転換も、通商問題の交渉を誘う「エサ」である可能性があるとも見ています。

トランプ氏は「我々は二国間交渉に向けて動いている」ともツィートしているからです。

米国は元来、大国に有利な二国間通商交渉を目指していましたが、わが国は麻生・ペンス間での経済対話という枠組みを作り、トップ会談で通商問題が話題に上ることを避けようとしてきました。

しかし、米政府は「それは単なる時間稼ぎにすぎない」と認識したのか、麻生・ペンス間による「日米経済対話」は3回目が開催されていません。

日本側は、安倍・トランプ間で通商交渉がなされた際に「為替条項」等が話題にのぼることを危険視しています。

米韓FTA再交渉では為替条項(ウォン安誘導を禁止する)が盛り込まれたからです。

実際、4月13日に公開された米財務省の為替報告書では、日本は「監視対象国」に入れられていました。

円の実質実効レートは過去20年の平均値よりも25%近く割安であり、名目レートでみると歴史的な平均値よりも割安だと指摘されていたのです。

安倍政権の金融緩和に対しても、米国側の見方は厳しくなっています。

日本の衆院本会議で「TPP11」(11カ国が署名した環太平洋経済連携協定)が審議入りした頃に安倍首相が訪米したことは吉凶のどちらに働くのでしょうか。

本記事では、主に通商問題に焦点をあてて、TPP11の行方を考えてみます。

TPP11:大筋合意の中身とは

まず、現在の「TPP11」の中身を確認してみます。

TPPはもともと加盟国間の関税を廃止する自由貿易協定ですが、米国が抜けてしまったため、現在は11か国間の協定となっています。

加盟国は、日本、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイです。

11加盟国全体の市場規模(GDP累計)は約1100兆円(世界の13%)なので、米国離脱前の約3200兆円(世界全体の約37%)よりも大幅に縮小しました。

(※人口で見るとTPP11は5億人、米国が入ると8億2000万人になる)

他の経済連携協定との規模を比べると、規模はやや小さめになっています。

  • 日欧EPA:世界のGDPの約28%
  • 東アジア地域包括的経済連携(RCEP):世界のGDPの約26%

しかし、TPP11発効によって自由貿易が活性化し、46万人の雇用創造、約8兆円のGDP押上げ効果が生まれるとも試算されています。

ただ、これに伴い、日本の農林水産業では、主な33品目の生産額が最大1500億円ほど減少するとも言われています。

農業水産物に関してはTPP参加国は82.3%にあたる品目で関税が撤廃されます。

その内訳は以下の通り。

  • コメ:関税維持。オーストラリアに対しては年間8400トンの輸入枠を新設。
  • 牛肉:38.5%の現行関税を段階的に下げ、協定発効から16年目に9%にする。
  • 豚肉:価格の安い肉にかける1キロあたり最大482円の関税を段階的に下げ、10年目に50円とする(輸入元はカナダが多い)。
  • 小麦と大麦:日本はこの品目を国が一括して輸入し、国内農家の支援にあてる経費分を輸入価格に上乗せしています(マークアップ)。この事実上の関税を段階的に下げ、9年目までに45%削減(オーストラリアからの輸入が多い)
  • バターと脱脂粉乳:TPP参加国を対象に新たな輸入枠を設立(豪州やニュージーランドからの輸入が多い)
  • チーズ:粉チーズとチェダー、ゴーダチーズなどの関税を16年目に撤廃。
  • 日本がTPP参加国に農林水産物を輸出する際の関税の大半を撤廃

そして、日本がTPP参加国に輸出する工業製品の関税は、協定発効後、即時撤廃される項目と、段階的に引き下げられる項目を合計すると、最終的に全品目の99.9%で撤廃されます。

  • カナダ:乗用車にかかる関税(6.1%)がTPP発効後5年目に撤廃される。エンジンなどの自動車部品では95.4%の品目で関税を即時撤廃
  • ニュージーランド:乗用車にかかる関税(10%)を撤廃。エアコンや土木機械などの工業製品で93.9%の関税を即時撤廃。
  • オーストラリア:バスやトラックの新車にかかる関税を即時撤廃。
  • ベトナム:乗用車にかかる最大70%の関税を段階的に撤廃。排気量が3000cc以下の車は13年目に、3000cc超の車は10年目に関税撤廃。
  • 日本がTPP参加国から輸入する工業製品についても、即時撤廃と段階的な引き下げを含めて全品目の関税が最終的に撤廃される。

この関税撤廃が日本に輸出増のメリットを生むと見積もられているわけです。

そのほか、米離脱に伴い、医薬品の開発データの保護期間や著作権保護期間、ISDS条項(海外進出した企業がその国の急な制度変更などで損害を受けた場合、国を相手取り国際的な仲裁機関に訴訟を起こせる制度などの20項目が凍結されました。

TPP11の交渉過程

TPP11は18年3月に加盟国の署名がなされました。

ただ、トランプ氏のTPP離脱以降、話がこんがらがって複雑化したので、一応、同氏当選以降の経緯をふりかえってみます。

まず、2016年を振り返ると、同年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が「あらゆる保護主義に対抗する」と宣言した翌日に、トランプ氏は「大統領になった初日にTPP離脱だ!」と宣言。

12か国が署名したTPPは、参加国のGDP合計が85%以上を占める6か国以上が国内手続きを終わらないと発効しないため、参加国GDPの6割を占める米国の意向には大きなインパクトがありました。

そして、日本時間で11月22日の昼頃、トランプ氏が就任初日の予定を語ったビデオを公開。就任初日にTPP(環太平洋連携協定)を離脱することを予告。

TPPは「米経済にとって大惨事となる可能性がある」ため、それに代わり「米国に雇用と産業を呼び戻す」二国間貿易協定の締結を目指すと言明。

「米国第一」の中核原理を基本に据え、「次世代の生産や技術革新を米国内で実現し、国内労働者に富と雇用をもたらすことを望む」と述べたわけです。

その後、トランプ氏は大統領就任後に「TPPから撤退」し、「公平な二国間貿易を通じ、米国の雇用と産業を取り戻す」ことを呼びかけました。

安倍首相は2016年11月15日に「(TPPが発効しなければ)軸足は東アジア地域の包括的経済連携(RCEP)に移る。そこで国内総生産が最大の国は米国ではなく中国だ」と述べ、トランプ氏が「君子豹変す」ることを期待しましたが、17年1月に、それは起きませんでした。

(※意外にも、18年1月にトランプ氏は豹変しましたが・・・)

トランプ氏は「NAFTA再交渉」「環太平洋経済連携協定(TPP)の阻止」「不公平な輸入」と「不公平な貿易慣行」の停止、「二国間貿易協定」の実現に向かって動き続けました。

しかし、トランプ政権は17年4月まで米通商代表部(USTR)の代表が決まっていなかったので、17年2月の安倍訪問時には、日本と二国間で貿易交渉を行う準備はできていませんでした。

17年のトランプ政権はゲーリー・コーンNEC議長(当時)らが強硬路線を抑止していたので、今よりもわりと穏健な議論をしていたので、その間に日本はTPP11をまとめることを考えます。

以下の日程で会合が続きました。

  • 3月14日~15日:TPP閣僚会合(於:チリ・ビニャデルマール)
  • 5月21日: TPP閣僚会合 (於:ベトナム・ハノイ)
  • 7月12日~14日:TPP高級事務レベル会合 (於:日本・箱根)

2017年はASEAN設立50周年にあたります(8月8日が設立日)。

そして、8月28日の会合では、懸念事項として、ベトナムやマレーシアに「米国抜きのTPP発効には慎重な意見が根強く、凍結要望のリストが一気に膨れ上がる恐れがある」ことや日本国内でも農林関係者が「牛・豚肉の緊急輸入制限(セーフガード)の水準やバターの低関税枠で見直しを求めている」こと等があがったと報じられています(産経「TPP首席会合開幕 11月大筋合意へ カギ握る多数派工作、日豪NZが議論主導」2017/8/28)。

9月22日に終わった会合では、「法的事項」「知的財産」「その他」の分野での作業部会が設けられ、TPPに米国の要求で入れたルールの扱いを含む、各国が棚上げしたい項目をいかに凍結すべきかが議論されました。

3分野で会合前に約80項目あった候補は50項目程度に絞り込れています。

 凍結で合意した項目は実施を一時的に棚上げする。会合では対象項目を選別するため各国の考え方を整理し、既に凍結方針が固まった医薬品のデータ保護期間を含む知的財産を中心に議論が進んだ。また、近い将来に12カ国の枠組みに戻せるよう、米国の強い要求で各国が譲歩した項目を凍結し、復帰すれば元に戻す方針も確認したもようだ。

国内調整が遅れていたベトナムを含む11カ国全てから見直し要望が出されたが、重複を整理した結果、8月末の前回会合と同程度の約50項目に集約された。

(「凍結項目の絞り込み進展 次回は再び東京で TPP11首席会合が閉幕」2017.9.22)

秋口にはAPECやASEAN等、東南アジアにまつわる行事が多いのですが、このあたりでTPP11をまとめようとしたわけです。

  • 8月18~30日:APEC第3回高級実務者会合(SOM3)(ホーチミン市)
  • 8月28~30日:TPP主席交渉官会合(豪州で開催)
  • 9月20~22日:TPP主席交渉官会合(東京で開催)
  • 10月20~21日:第24回APEC財務大臣会合(ベトナム)
  • 11月8~10日:APEC首脳会議(ベトナム)
  • 11月10~14日:ASEAN関連首脳会議(フィリピン)

トランプの「TPP再復帰」発言の背景

18年に入ると、トランプ大統領は1月のダボス会議前に「TPP復帰もありえる」と述べ、世界を驚かせました。

「TPPの枠組みはひどいものではあるが、納得できる内容になるのなら、参加には前向きだ」

これについても考察が必要でしょう。

17年初の「永久離脱」とは180度方向転換したのは、もともと米国は農産物輸出に熱心だからです。

中間選挙では、共和党の票田となる中西部の農業州の連邦議員からトランプに農産物輸出の圧力がかかります。

さらに、18年3月には、米国は中国製品に制裁措置として関税をかけることを発表し、中国側は米国産128品目に高関税を課して反撃しました。

中国が出した関税リストの中には米国産の大豆などの農産物が数多く含まれてきました。

米国は世界最大の大豆生産国であり、中国は世界最大の大豆輸入国なので、この措置で受ける打撃をどこかでカバーしなければいけなくなっています。

そこで、トランプと共和党にはTPP復帰で農業票を稼ごうという思惑が働くわけです。

ラストベルト(中西部の工業州)で勝つためのTPP反対という公約とは矛盾するので、全体で票が増えるかどうかは微妙ですが、トランプ氏のTPP復帰論は中間選挙の戦略が含まれているとの見方が有力です。

今回の安倍訪米の第一の見所は、米国のTPP復帰のきっかけとなるのかどうかという点です。

また、日米二国間の貿易交渉が始まった場合、米国に安全保障を依存している日本にどれだけの交渉力があるのかが、第二の注目点となるでしょう。

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