法人税の実効税率比較(2019年版)日本VS主要国
アメリカでは2018年以降、法人税(連邦税)が35%から21%に下がりました。
(※実効税率ベースでは40%から「21%+各州税率」に下がっている)
同年には米中貿易戦争が起き、景気が減速した中国も、控除の拡大(研究開発関連など)、赤字の翌年損金計上、中小企業への優遇税制などに踏み込んでいます。
また、英国のEU離脱を巡って大騒ぎが続く欧州でも減税が進んでいます。
イギリスは離脱前から減税を決めており、19年時点で19%の法人税が20年4月以降、17%になります。
また、フランスでは、19年時点で33.33%の法人税(実効税率)が2020年には25%になります(中小企業には15%の軽減税率)。
19年以降、景気後退が恐れられており、2000年代から進んできた法人税の引き下げがさらに進みそうな雲行きになっています。
主要国20カ国の法人税率ランキング
こうした趨勢をふまえて、主要国の法人税率の高低を比較してみましょう。
KPMGコンサルティング社の「Corporate tax rates table」に記載されたデータをもとに、17年の実質GDP上位20位の国でかかる法人税(実効税率)のランキングを作成してみました。
(※KPMGは20万人のスタッフを擁し、世界154か国で業務を展開するコンサル大手。⇒が2018年から2019年への税率変化)
順 | 国名 | 19年税率 |
1 | ブラジル | 34 |
2 | フランス | 33⇒31 |
3 | 日本 | 30.86⇒30.62 |
4 | ドイツ | 30 |
4 | インド | 35⇒30 |
4 | 豪州 | 30 |
4 | メキシコ | 30 |
8 | 米国 | 27 |
9 | カナダ | 26.5 |
10 | 中国 | 25 |
10 | スペイン | 25 |
10 | 韓国 | 25 |
10 | インドネシア | 25 |
10 | オランダ | 25 |
15 | イタリア | 24 |
16 | トルコ | 22 |
17 | ロシア | 20 |
17 | サウジアラビア | 20 |
19 | 英国 | 19 |
20 | スイス | 18 |
主要国のトップ層の中で日本とドイツが高税率の国として取り残されています。
日本の法人税(実効税率)は約30%。
30.62%というのは、赤字黒字を問わずに税がかかる「外形標準課税」が適用される場合、東京都で徴収される税率です。
マスコミ報道などでは、財務省があげた「29.74%」という税率があげられるのが一般的です。
GDP上位20か国の中で法人税率を比較すると、2018年には、ドイツが4位、日本が3位でしたが、フランスは2020年に税率が25%まで下がるので、今後はドイツが3位、日本が2位になります。
35%だったアメリカは他のOECD諸国と比べた時の税率の高さが問題視され、減税が執行されました。
【2018年2月に公表された大統領経済報告書の図表】
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実効税率は40%から「連邦税21%+各州税率」にまで下がっています。
同報告書は、所得税なども含めた今回の減税は、今後3年間でGDPを1.3~1.6%引き上げ、米国企業にとって競争上、不利な条件を是正すると評価していました。
法人税率の国際比較:地域別
では、日本の法人税の実効税率(29.74%)は低いのか、高いのか。
(※税法に書かれた税率が「表面税率」。税法上、課税対象となる利益に対する税金額の割合が「実効税率」)。
それを前掲のKPMGのデータを見ながら、地域別の平均値を比較してみます。
地域平均 | 19年税率 |
オセアニア | 28.43 |
アフリカ | 28.24 |
ラテンアメリカ | 27.24 |
南米 | 27.24 |
南北アメリカ | 27.21 |
北米 | 26.75 |
世界 | 23.79 |
OECD | 23.38 |
EU | 21.16 |
アジア | 21.09 |
ヨーロッパ | 19.37 |
北米はアメリカが中心なので、必ずしも多くの国をカウントする必要はないかもしれません。
アジア、EU圏等などと比べると、日本の法人税の税率はかなり高くなっているようです。
OECD平均や世界平均と比べても、我が国はかなり高めです。
法人税が低い国で多いのは、アジアと欧州です。
こちらは企業誘致を頑張っている最中なのでしょう。
世界100カ国の法人税率ランキング
また、アジアでは、多くの国が日本よりも低い税率になっています。
中国、韓国は25%、タイやベトナム、台湾は20%、シンガポールは17%です。
このうえに、中国では控除の拡大等が上乗せされ、減税の潮流が強まっていくわけです。
17年の実質GDP上位100カ国でみた時、日本は10位、米国は31位、中国は37位でした。
そのあたりを視覚化するために、KMPGのデータをもとにランキング100を作成してみました。
順 | 国名 | 19年税率 |
1 | アラブ首長国連邦 | 55 |
2 | スーダン | 35 |
2 | コンゴ | 35 |
2 | ザンビア | 35 |
5 | ブラジル | 34 |
6 | コロンビア | 33 |
6 | カメルーン | 33 |
8 | フランス | 33⇒31 |
8 | モロッコ | 31 |
10 | 日本 | 30.86⇒30.62 |
11 | ドイツ | 30 |
11 | インド | 35⇒30 |
11 | 豪州 | 30 |
11 | メキシコ | 30 |
11 | ナイジェリア | 30 |
11 | アルゼンチン | 30 |
11 | フィリピン | 30 |
11 | パキスタン | 30 |
11 | アンゴラ | 30 |
11 | ケニア | 30 |
11 | エチオピア | 30 |
11 | タンザニア | 30 |
11 | コスタリカ | 30 |
11 | ウガンダ | 30 |
25 | ペルー | 29.5 |
26 | ベルギー | 29 |
27 | 南アフリカ | 28 |
27 | ギリシャ | 29⇒28 |
27 | ニュージーランド | 28 |
27 | スリランカ | 28 |
31 | 米国 | 27 |
31 | チリ | 26⇒27 |
31 | ドミニカ | 27 |
34 | カナダ | 26.5 |
35 | ルクセンブルク | 26.01 |
36 | アルジェリア | 26 |
37 | 中国 | 25 |
37 | スペイン | 25 |
37 | 韓国 | 25 |
37 | インドネシア | 25 |
37 | オランダ | 25 |
37 | オーストリア | 25 |
37 | バングラデシュ | 25 |
37 | エクアドル | 25 |
37 | ミャンマー | 25 |
37 | ドミニカ | 25 |
37 | グアテマラ | 25 |
37 | ガーナ | 25 |
37 | チュニジア | 25 |
37 | ウルグアイ | 25 |
37 | パナマ | 25 |
37 | コートジボワール | 25 |
37 | ボリビア | 25 |
54 | イタリア | 24 |
54 | マレーシア | 24 |
56 | イスラエル | 23 |
57 | エジプト | 23⇒22.5 |
58 | トルコ | 22 |
58 | ノルウェー | 22 |
58 | デンマーク | 22 |
61 | スウェーデン | 22⇒21.4 |
62 | ポルトガル | 21 |
62 | スロバキア | 21 |
64 | ロシア | 20 |
64 | サウジアラビア | 20 |
64 | 台湾 | 20 |
64 | タイ | 20 |
64 | フィンランド | 20 |
64 | カザフスタン | 20 |
64 | ベトナム | 20 |
64 | アゼルバイジャン | 20 |
64 | リビア | 20 |
64 | トルクメニスタン | 20 |
64 | ヨルダン | 20 |
64 | ラトビア | 20 |
76 | 英国 | 19 |
76 | ポーランド | 19 |
76 | チェコ | 19 |
76 | スロベニア | 19 |
80 | スイス | 18 |
80 | ウクライナ | 18 |
80 | クロアチア | 18 |
80 | ベラルーシ | 18 |
84 | シンガポール | 17 |
84 | レバノン | 15⇒17 |
86 | 香港 | 16.5 |
87 | ルーマニア | 16 |
88 | イラク | 15 |
88 | クウェート | 15 |
88 | オマーン | 15 |
88 | リトアニア | 15 |
88 | セルビア | 15 |
93 | アイルランド | 12.5 |
94 | マカオ | 12 |
95 | カタール | 10 |
95 | ブルガリア | 10 |
95 | パラグアイ | 10 |
98 | ハンガリー | 9 |
99 | ウズベキスタン | 7.5 |
100 | バーレーン | 0 |
アラブ首長国連邦は、ランキング上では1位ですが、外国企業で活動しているのは、主に石油・ガス探査・生産企業です。こちらが高税率で、外国銀行の支店には2割程度にまで軽減された税率がかかります。
税率の高さが目立っているのは、ブラジル、フランス、日本、ドイツ、インド、オーストラリア、メキシコ、フィリピンなどです。
世界で法人税率が高い国が多いのは、アフリカと米州という意外なデータでした。
生活レベルはずいぶんと違うと思うのですが・・・。
世界で進む法人税減税 日本は大丈夫?
日本でも、19年の参院選を控え、「税金」が争点となっていますが、話題にのぼるのは消費税が中心です。
17年衆院選では自民党は消費税増税を掲げたため、公約で法人税減税については触れていません。
消費税増税と一緒に並べたら、「庶民は増税、企業は減税」になってしまい、とても選挙では勝てないと見たのでしょう。
野党は「消費税増税反対。企業に増税」という論調の政党が多かったからです。
過去、「自民党は法人税の実効税率を2割台にする」と公約していましたが、どうやら「29.74%」の実効税率でよしとされているようです。
その後、米国の減税への対応を意識したのか、18年度以降、3年間の時限措置で減税策を打ち出しました。
大企業は1人当たりで前年度比3%、中小企業は1.5%の賃上げを行えば減税され、IoT投資なども投資額の一部が法人税から差し引かれます。
ただ、範囲が限定されているので、世界で進む法人税減税の潮流に対応できるかどうかは疑問が残ります。
法人税の減税が必要な理由とは
過去、2010年頃に政府が法人税減税を議論した時は税率差がもたらす企業負担の金額があげられていました(経済産業省「法人実効税率引下げについて」)。
これはシャープとサムスン電子を比べた例ですが、日韓の実質的な税負担率の差が、サムスン電子に約1600億円の余裕資金を生み出していたのです。
当時、サムスンは10.5%程度しか法人税を負担していなかったのに、シャープは36.4%もの法人税を負担していました。
額面上、韓国の税率は24.2%、日本の税率は40.7%だったのですが、その中身は大きく違っていたのです。
1600億円は、シャープの亀山第二工場の投資額(約1500億円)を超える規模です。
2012年にシャープは経営危機に陥りましたが、当時は円高と高い法人税のダブルパンチをくらっていました。
今の世界では米中を中心にして、欧州、アジアまで含めた熾烈な企業競争が展開されています。
やはり、日本企業の生き残りのためにも、大幅な法人税減税が必要なのではないでしょうか。