2017年の衆院選では「税金」が争点になりました。
しかし、議論になったのは消費税ばかりで、他の税金についての議論はありませんでした。
17年衆院選では自民党は消費税増税を掲げたため、公約では法人税減税については触れていません。
過去の選挙では、「自民党は法人税の実効税率を2割台にする」と公約していましたが、この時の公約には入っていないのです。
これを消費税増税と一緒に並べたら、「庶民は増税、企業は減税」になってしまい、とても選挙では勝てないと見たのでしょう(野党は「消費税増税反対。企業に増税」という論調の政党が多かった)。
日本の法人税の実効税率は29.74%。
実質30%ですが、どうやら、これで「2割台」の公約が実現したことになったようです。
衆院選後の税制改革に法人税改革も盛り込まれましたが、米国発の「減税革命」に対応できるようなプランなのかは疑問が残ります。
上場企業が世界中で払った税金が税引き前利益(連結ベース)に占める比率(=税負担率)は、27.8%(08年)⇒24.6%(17年)に下がり、米国の法人税減税がこれを加速することが見込まれるからです。
そこで、今回は法人税の税率を国際比較してみましょう。
※麻生財務相は、法人税について「企業の7割は払っていない」と述べ、効果を疑問視してきたが、米国では法人税が21%にまで下がるため、日本でも対応策が講じられた。18年度税制改正に賃上げや設備投資を条件に減税を行う方針が盛り込まれている。大企業は1人当たりで前年度比3%、中小企業は1.5%の賃上げを行えば減税され、IoT投資なども投資額の一部が法人税から差し引かれる(18年度から3年間の時限措置)。
【目次】
法人税率の国際比較①:主要国
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トランプ政権が法人税減税に踏み込めば、世界の主要国のうち、税率の高い国として日本とドイツが残ります。
日本とドイツの税率は約30%ですが、フランスのマクロン大統領は選挙の時に法人税を33%から25%に減税することを公約しました。
そして、アメリカ議会では法人税を21%にまで下げる法案が12月に成立しました。
トランプ大統領は選挙期間に40.75%の法人税を15%に下げることを公約しましたが、妥協をへて、21%の税率になったのです。
(関連記事:トランプ減税でアメリカの法人税は21%(日本は30%))
2018年2月に公表された大統領経済報告書でも、米国を除いたOECD諸国と比べた時に、米国の税率が際立って高いことが強調されています。
同報告書は、この所得税なども含めた今回の減税は、今後3年間でGDPを1.3~1.6%引き上げ、米国企業にとって競争上、不利な条件を是正すると評価していました。
(関連記事:米国大統領経済報告(2018年版)の要点)
また、イギリスの法人税も19%にまで下りましたが、アジアでは、多くの国が日本よりも低い税率になっています。
中国は25%、韓国は24%、タイは20%、台湾とシンガポールは17%です。
米国の減税法案成立により、世界一の大国が中国より4%も低い税率になりました。
このように、競争環境が大きく変わっているわけです。
もともと、アジアには法人税率が2割前後の国も多いため、日本には激化する国際競争への対策が必要でした。
「ASEAN全体で外資を取り込む力が強まれば、日本企業の海外流出が加速する。日本の法人税率を引き下げるよう求める圧力も強まる」(中央大学・森信茂樹教授)
さらに、アメリカまでもが21%の税率になれば、国際競争で日本が不利になることは必至です。
法人税率の国際比較②:地域別
では、この29.74%という法人税の税率(実効税率)は低いのか、高いのか。
(※税法に書かれた税率が「表面税率」。税法上、課税対象となる利益に対する税金額の割合が「実効税率」)。
それを地域別の比較で考えてみます。
アメリカのTax foundationという機関が ”Corporate Income Tax Rates around the World, 2017"と題したレポートを公開しており、その中に地域別に見た法人税の平均税率が書かれていたので、これを紹介してみましょう(この資料にはGDPの比重を加味した統計もありますが、複雑になるので単純な平均値のほうを掲載)。
- アフリカ:28.73%/48ヶ国
- アジア:20.05%/45ヶ国
- 欧州:18.35%/49ヶ国
- 北米:23.08%/30ヶ国
- オセアニア:23.67%/18ヶ国
- 南米:28.73%/13ヶ国
- BRICS:28.32%/5ヶ国
- EU:21.82%/28ヶ国
- G20:28.04%/19ヶ国
- G7:29.57%/7ヶ国
- OECD:24.18%/35ヶ国
- 世界:22.96%/202ヶ国
北米はアメリカが中心なので、必ずしも多くの国をカウントする必要はないかもしれません。
アジア、EU圏等などと比べると、日本の法人税の税率はかなり高くなっているようです。
OECD平均で見ても、我が国はかなり高めです。
数字が近いのはG20やG7です。
財務省はこのあたりに基準を合わせているのでしょう。
法人税率の国際比較③:高税率のトップ20カ国
では、同じレポートで法人税の高い国々を見てみます。
- アラブ首長国連邦:55%
- コモロ:50%(アフリカ)
- プエルトリコ:39%
- 米国:38.91%(⇒2018年から21%へ)
- スリナム:36%(南米)
- アルゼンチン:35%
- チャド:35%(アフリカ)
- コンゴ:35%
- ギニア:35%
- グアム:35%
- ギニア:35%
- キリバス:35%(オセアニア)
- マルタ:35%(欧州)
- 北マリアナ諸島:35%(オセアニア)
- スーダン:35%
- バージン諸島:35%(北米)
- ザンビア:35%(アフリカ)
- インド:34.61%
- サンマテン:34.5%(北米)
- フランス:34.43%(⇒2025年までに25%案あり)
(※出所:Tax foundation ”Corporate Income Tax Rates around the World, 2017")
世界で法人税率が高い国が多いのは、アフリカと北米(近辺)という意外なデータです。生活レベルはずいぶんと違うと思うのですが・・・。
法人税の国際比較④:低税率の20カ国
次に法人税率の低い国を見てみます。
- ウズベキスタン:7.5%
- トルクメニスタン:8%
- ハンガリー:9%
- モンテネグロ:9%(欧州)
- アンドラ:10%(欧州)
- ボスニア・ヘルツェゴビナ:10%
- ブルガリア:10%
- ジブラルタル:10%(欧州)
- コソボ:10%(欧州)
- キルギスタン:10%
- マケドニア(元ユーゴ):10%
- パラグアイ:10%
- カタール:10%
- 東ティモール:10%
- マカオ:12%
- モルドバ共和国:12%(欧州)
- オマーン:12%
- キプロス:12.5%(欧州)
- アイルランド:12.5%
- リヒテンシュタイン:12.5%
法人税が低い国で多いのは、中央アジアとヨーロッパです。
企業誘致を頑張っている最中なのでしょう。
(※出所:Tax foundation ”Corporate Income Tax Rates around the World, 2017")
法人税の国際比較⑤:OECD加盟国
これまで法人税率が高い国と低い国を見てきました。では、真ん中ぐらいの国はどうなのでしょうか。
以下、OECDのデータで法人実効税率を比べてみます。
(出所:OECD”Table II.1. Statutory corporate income tax rate")
- ハンガリー:9%
- アイルランド:12.5%
- ラトビア:15%
- イギリス:19%(⇒2020年に17%案あり)
- チェコ:19%
- ポーランド:19%
- スロベニア:19%
- エストニア:20%
- アイスランド:20%
- フィンランド:20%
- トルコ:20%
- スロバキア共和国:21%
- スイス:21.15%
- デンマーク:22%
- スウェーデン:22%
- ノルウェー:24%
- イスラエル:24%
- 韓国:24.2%
- スペイン:25%
- オランダ:25%
- チリ:25%
- オーストリア:25%
- カナダ:26.7%
- ルクセンブルク:27.08%
- イタリア:27.81%
- ニュージーランド:28%
- ギリシャ:29%
- ポルトガル:29.5%
- 日本:29.97%(⇒29.74%へ移行)
- メキシコ:30%
- ドイツ:30.18%
- オーストラリア:30%
- ベルギー:33.99%
やはり、日本はかなり法人税の高い部類に入るようです。
法人税の減税が必要な理由とは
法人税減税の効果として、内閣府は以下の例をあげています。
(※2010年、法人税減税を議論した時の資料と思われる)
シャープは2012年に経営危機に陥りましたが、2010年に内閣府の税制調査会は、シャープとサムスン電子を比べると、日韓の実質的な税負担率の差が、サムスン電子に約1600億円の余裕資金を生み出しているとも述べていました(「法人実効税率引下げについて」)。
1600億円は、シャープの亀山第二工場の投資額(約1500億円)を超える規模です。
法人税減税には、まず、減税を通して企業にさらなる投資を促すことに意義があります。また、企業の海外流出を止めたり、外国企業の誘致を促したりする効果もあります。
評論家の大前研一氏は、「法人税率を戦略的に考える場合、外国企業の誘致を目的にするなら10%台、企業に国内から逃げられないことを目的にするなら20%台半ば」にすべきだと述べていました。
「ライバル国が10%台に引き下げて『我が国にいらっしゃい』と言っているのに、『30%まで下げました。ぜひ日本へ』と叫んでも誰も振り向かない」(大前氏)
(大前研一の「産業突然死」時代の人生論」選挙目当ての税制論議はもう止めてほしい 2010年4月6日 日経BPnet)
米国での税制改革について、トランプ政権のムニューチン財務長官は、「我々は法人税を引き下げる。それで多数の雇用が米国へ戻ることになる」と述べています。
また、下院歳入委員会のブレイディ委員長(共和党)は「雇用、技術革新、本社の海外移転に働く税制上の誘因をすべてなくす」「我々の目標は、単に流れを断ち切って米国企業の海外移転を止めることではない。我々の目標は、そうした投資を引き戻すことだ」とも述べました(※日経電子版「[FT]米国の法人税制改革、トランプ流なら企業行動激変」2016/12/2)。
米国で減税法案が成立したので、日本も国際競争力を強化するためには、大幅な法人税減税が必要になりました。
直接投資への妨げとなる高税率を是正するだけでなく、税制を公平・低率にすることで新産業興隆の基盤をつくるという観点が必要です。
中央大学の森信茂樹教授は「1980年代後半のレーガン政権第二期の税制改革が、重厚長大産業に偏っていた租税特別措置(租特)を廃し、課税ベースを拡大して税率を12%引き下げた結果、シリコンバレーで今日の米国IT(情報技術)産業興隆の基盤を形成したことも参考になる」(日経朝刊29面:2013/11/13)とも述べています。
米国がレーガン減税に次ぐトランプ減税を実現した今、日本も新たな国家戦略を打ち出さなければいけないわけです。
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