ASMLの業績・配当:EUV技術による圧倒的な利益率と成長性

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ASMLの業績・配当:EUV技術による圧倒的な利益率と成長性


はじめに
ASMLは、オランダに本社を置く、半導体産業の心臓部を握る企業です。AI、スマートフォン、データセンターなど、現代社会を支えるあらゆる先端技術は、ASMLなしには成り立ちません。その理由は、同社が最先端半導体の製造に不可欠な「EUVリソグラフィ(露光装置)」を世界で唯一製造・供給できる独占企業だからです。
本記事では、この圧倒的な競争優位性を持つASMLが、どのようにして力強い成長と株主還元を両立させているのかを財務データから解き明かします。半導体セクターの中でも特異な「独占的成長株」としてのASMLの投資価値を、冷静に分析します。

最重要ポイント:ASMLの独占的地位とは?

ASMLを理解する鍵は、EUV(極端紫外線)リソグラフィにあります。これは、シリコンウェハー上に超微細な電子回路を焼き付けるための光技術です。7ナノメートル以下の最先端半導体を製造するにはEUV技術が必須であり、この装置を開発・製造できるのは世界でASMLただ一社です。この技術的独占が、同社の高い収益性と成長性の源泉となっています。

【免責事項および出典について】

  • 本記事の財務データは、主にASML Holding N.V.がSEC(米国証券取引委員会)に提出した公式報告書(Form 20-F)、信頼性の高い金融データ提供サイト等の情報を基に作成されています。詳細な出典は記事末尾に記載しています。
  • データはユーロ(€)建てで表記しています。2025年の数値はTTM(過去12ヶ月)です。各種指標は筆者が算出したものです。
  • 本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任においてお願いします。

1. 業績分析:半導体サイクルの波に乗る力強い成長

ASMLの業績は、半導体市場の設備投資サイクルに影響を受けながらも、長期的に力強い成長を遂げています。

1.1. 売上・利益・キャッシュフローの推移

会計年度 売上高(百万€) 営業CF(百万€) 純利益(百万€) EPS (€)(1株当たり利益)
2015 6,287 2,185 1,387 3.28
2016 6,796 2,342 1,473 3.47
2017 9,053 3,186 2,119 5.01
2018 10,944 3,521 2,591 6.14
2019 11,820 3,785 2,592 6.16
2020 13,978 4,885 3,553 8.49
2021 18,611 6,542 5,881 14.36
2022 21,173 7,215 5,624 14.14
2023 27,558 8,856 7,839 19.91
2024 26,890 6,150 7,210 18.30
2025 (TTM) 27,150 6,430 7,420 18.85
CAGR (年平均成長率)
過去10年(FY15-25) 15.8% 11.4% 18.3% 19.1%
過去5年(FY20-25) 14.1% 5.7% 15.9% 17.3%

出典: ASML SEC Filings, Macrotrends.net. TTMは執筆時点の過去12ヶ月実績。CAGRは筆者算出。

  • 圧倒的な成長率:過去10年間で売上高は年率15.8%、1株当たり利益(EPS)は年率19.1%という、驚異的な成長を達成しています。
  • 周期的変動と回復:半導体業界の設備投資には波があるため、単年で見ると業績に変動があります(例:2024年、2025年TTMの減速)。しかし、長期的な成長トレンドは非常に強固であり、次なる成長サイクルへの期待が高まっています。

1.2. 収益性:独占企業ならではの高い利益率

ASMLの独占的な市場地位は、極めて高い利益率に表れています。

会計年度 売上総利益率 営業利益率
2020 48.6% 29.5%
2021 52.7% 36.2%
2022 50.5% 34.1%
2023 51.3% 35.1%
2024 52.2% 35.5%
2025 (TTM) 52.5% 35.8%

出典: ASML SEC Filings, Macrotrends.net.

  • 売上総利益率50%超:最先端の製造装置メーカーでありながら、売上総利益率は50%を超えています。これは、他に競合が存在しないことによる強力な価格決定力を示しています。
  • 営業利益率35%前後:莫大な研究開発費を投じながらも、35%前後という極めて高い営業利益率を維持しており、事業の収益性の高さを物語っています。

2. 成長の源泉:研究開発への巨額投資

ASMLの独占的地位は、偶然の産物ではありません。競合他社を寄せ付けないための、継続的な研究開発(R&D)投資こそが、その競争優位性の源泉です。

会計年度 研究開発費(百万€) 売上高比率
2020 2,322 16.6%
2021 2,835 15.2%
2022 3,360 15.9%
2023 3,969 14.4%
2024 4,250 15.8%

出典: ASML SEC Filings, Macrotrends.net.

  • 売上の15%以上をR&Dに:ASMLは毎年、売上高の15%以上という巨額の資金を研究開発に投じています。2024年には42億ユーロを超え、これは並の企業では到底追随できない規模です。
  • 未来への投資:この投資が、現在のEUV装置の優位性を保ち、さらに次世代の「High-NA EUV」といった未来の技術を生み出す原動力となっています。ASMLにとって、R&D費用はコストではなく、未来の利益を生むための投資なのです。

3. 株主還元と財務健全性

ASMLは、成長への巨額投資と並行して、株主への還元も着実に実行しています。

3.1. 配当実績と株主還元

配当方針
成長型

5年平均配当成長率
20.5%

配当性向 (TTM)
約34%

配当利回り (TTM)
約0.7%

  • 高成長の配当:配当利回りは低いものの、配当額そのものは年率20%を超える非常に高い成長を続けています。これは、事業の成長と共に株主への還元額も増やしていくという、典型的な成長企業の配当政策です。
  • 自社株買い:ASMLは配当に加え、自社株買いも積極的に行っており、配当と合わせた総還元額で株主価値向上を図っています。

3.2. 盤石な財務基盤

ASMLは、高い収益性を背景に、極めて健全な財務基盤を維持しています。

会計年度 総資産(百万€) 株主資本(百万€) 自己資本比率 ROE (%)(自己資本利益率)
2020 32,963 14,412 43.7% 24.7%
2021 38,629 18,559 48.0% 31.7%
2022 44,383 21,694 48.9% 25.9%
2023 47,235 25,379 53.7% 30.9%
2024 45,860 24,150 52.7% 30.0%

出典: ASML SEC Filings, Macrotrends.net. 比率・ROEは筆者算出。

  • 健全な自己資本比率:自己資本比率は50%を超えており、製造業として非常に健全な水準を保っています。
  • 高い資本効率 (ROE):ROE(自己資本利益率)は継続的に25%を超えており、株主資本を効率的に活用して高いリターンを生み出していることを示しています。

4. 投資判断のヒント:ASMLの強みとリスク

ASMLへの投資を検討する上で、その圧倒的な強みと、それに伴うリスクの両面を理解することが不可欠です。

ASMLの強み (事業の優位性)

  • 技術的独占:最先端半導体製造に不可欠なEUV露光装置を世界で唯一供給できる、代替不可能な存在です。
  • 極めて高い参入障壁:長年の研究開発で蓄積された技術、特許網、顧客との緊密な関係は、他社が追随することをほぼ不可能にしています。
  • 構造的な成長市場:AI、データセンター、5G、IoTといったメガトレンドが半導体需要を長期的に牽引するため、ASMLの事業環境は良好です。
  • 高い収益性と価格決定力:独占的な地位により、高い利益率を維持し、製品価格をコントロールする力を持っています。

注意すべきリスク要因

  1. 半導体産業の景気循環:半導体メーカーの設備投資は景気の影響を大きく受けるため、ASMLの業績も短期的に変動するリスクがあります。
  2. 地政学リスク:特に米国による中国への先端半導体技術の輸出規制は、ASMLの事業に直接的な影響を与えます。
  3. 顧客集中リスク:主要な顧客がTSMC、Samsung、Intelといった数社に集中しているため、特定顧客の投資計画の変更が業績に大きく影響します。
  4. 高い株価評価(バリュエーション):市場からの期待が非常に高いため、株価は割高な水準で推移しがちであり、業績のわずかな減速でも株価が大きく調整するリスクがあります。

5. まとめ

本記事では、ASMLの財務データを多角的に分析しました。最後に、投資判断のためのポイントを整理します。

ASMLは、「技術的独占に支えられた、他に類を見ない高品質な成長企業」です。その事業は現代のデジタル社会に不可欠であり、長期的な成長ポテンシャルは計り知れません。株主還元も着実に実行しており、成長と安定性を兼ね備えています。

一方で、投資家はその独占的地位ゆえの地政学リスクや、高い期待を織り込んだ株価評価といった側面も十分に理解する必要があります。

最終的な投資判断は、ASMLのこの圧倒的な競争優位性と、それに伴うリスクやバリュエーションをご自身の投資戦略と照らし合わせて評価することが重要です。

6. 出典情報

公式情報

財務データ(MacroTrends.net)


Posted by 南 一矢