BRK.B(バークシャーハサウェイ) の業績

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【2025年版】バークシャー・ハサウェイ (BRK.B) 徹底分析:バフェット後の新時代と『巨大な要塞』の価値 – FY2019-FY2024財務データと投資戦略


【2025年版】バークシャー・ハサウェイ (BRK.B) 徹底分析:バフェット後の新時代と『巨大な要塞』の価値 – FY2019-FY2024財務データと投資戦略

はじめに
バークシャー・ハサウェイは、単なる一企業ではなく、「アメリカ資本主義の縮図」とも称される巨大なコングロマリット(複合企業)です。伝説的な投資家ウォーレン・バフェット氏が率い、保険、鉄道、電力、製造、小売など多岐にわたる事業を傘下に収めると同時に、莫大な株式ポートフォリオを保有しています。2023年末のチャーリー・マンガー氏の逝去を経て、同社は新たな時代へと歩みを進めています。
この記事では、バークシャー・ハサウェイの特異な構造を解き明かし、その価値の源泉である事業の収益力と投資戦略を、投資家の視点から分かりやすく解説します。

【免責事項および出典について】

  • 本記事に掲載されている財務情報は、主にバークシャー・ハサウェイ社が米国証券取引委員会 (SEC) に提出している年次報告書 (Form 10-K)、四半期報告書 (Form 10-Q) に基づいて作成されています。FY2024のデータは、2025年2月発表の年次報告書(2024年12月31日終了年度)に基づいています。
  • 本記事では、ウォーレン・バフェット氏が重要視する「営業利益 (Operating Earnings)」を中心に分析しています。株式等の未実現損益を含むGAAPベースの「純利益 (Net Earnings)」は市場の変動により大きく振れるため、事業の実態を評価する上では参考程度としています。
  • 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の購入や売却を推奨または勧誘するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
  • バークシャー・ハサウェイ社 IR情報ページ: https://www.berkshirehathaway.com/reports.html
  • スマートフォンでご覧の場合、表は横にスクロールしてご確認ください。

会計年度について: バークシャー・ハサウェイの会計年度は、暦年 (1月1日から12月31日まで) と一致しています。例えば、本記事で「FY2024」と表記する会計年度は、2024年1月1日から2024年12月31日までの期間を指します。

1. バークシャーの価値の源泉:2つのエンジン

バークシャー・ハサウェイの価値を理解するには、その2つの主要な構成要素を把握することが不可欠です。

  1. 傘下の事業群 (Wholly-Owned Businesses): 保険、鉄道 (BNSF)、電力・ガス (BHE)、製造業、サービス・小売業など、多様な非公開企業を100%子会社として保有しています。これらの事業が生み出す安定的なキャッシュフローがバークシャーの基盤です。
  2. 株式ポートフォリオ (Stock Portfolio): Apple、バンク・オブ・アメリカ、コカ・コーラなど、巨大な上場株式ポートフォリオを保有。これは保険事業が生み出す「フロート」などを活用して構築されており、バークシャーの価値の大きな部分を占めます。

2. バークシャーの業績:事業が生み出す利益と株主価値の成長

バークシャーの真の収益力は、市場の変動に左右されるGAAP純利益ではなく、傘下事業が生み出す「営業利益」にあります。

2.1. 営業利益の推移 (セグメント別)

主要事業セグメント別の営業利益(税引後)の推移を見てみましょう。

会計年度 保険(引受)(百万$) 保険(投資)(百万$) 鉄道(BNSF)(百万$) 電力(BHE)(百万$) 製造・サービス他(百万$) 営業利益 合計(百万$)
FY2019 435 4,942 5,368 2,810 10,798 24,353
FY2020 657 4,610 5,404 3,101 10,248 24,020
FY2021 728 5,296 5,996 3,456 12,011 27,487
FY2022 (22) 7,370 5,920 2,306 14,561 30,135
FY2023 5,428 9,567 5,087 4,307 12,716 37,105
FY2024 2,763 11,623 5,178 3,099 14,034 36,697

出典: バークシャー・ハサウェイ公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K) より筆者作成。

  • 保険事業: 引受利益は年によって変動しますが、投資収益は安定してキャッシュを生み出します。FY2023以降は引受利益も大幅に改善。
  • 鉄道・電力事業: 景気動向の影響を受けつつも、社会インフラとして安定的な利益を創出。
  • 製造・サービス・小売: 多岐にわたる事業群の集合体。経済全体を反映する形で、着実に利益を上げています。
  • 営業利益合計: 個々の事業の変動を吸収し、全体として右肩上がりの成長を続けています。

2.2. 株主価値の指標:1株あたり簿価(BPS)と保険フロート

バフェット氏は長年、1株あたり簿価(Book Value Per Share)の成長を企業価値の代理指標として重視してきました。また、保険事業が生み出すフロートは、バークシャーの投資の原動力です。

会計年度末 1株あたり簿価 (A株)($) BPS成長率 保険フロート(百万$)
主要価値指標
FY2019 343,995 11.0% 129,422
FY2020 373,723 8.6% 138,284
FY2021 455,429 21.9% 147,152
FY2022 458,745 0.7% 164,106
FY2023 561,283 22.4% 168,898
FY2024 559,380 -0.3% 172,000

出典: バークシャー・ハサウェイ公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K) より筆者作成。BPSはA株ベース。FY2024のフロートは推定値。

  • 1株あたり簿価 (BPS): 株価ポートフォリオの時価評価額に影響されるため年々の変動は大きいですが、長期的に見て着実に成長しています。
  • 保険フロート: 保険契約者から預かっている保険料のうち、まだ支払っていない部分。バークシャーはこのコストのかからない資金(フロート)を長期投資に活用することで、複利効果を最大化してきました。フロートは安定して増加し続けています。

3. バークシャーを支える事業群と投資ポートフォリオ

3.1. 巨大な要塞の礎:保険事業と傘下企業

  • 保険事業: GEICO(自動車保険)、バークシャー・ハサウェイ・リインシュアランス(再保険)などが中核。規律ある引き受けにより、フロートを低コストで生み出します。
  • BNSF鉄道: 北米最大の鉄道会社の一つ。米国の経済活動に不可欠なインフラであり、安定したキャッシュフローの源泉。
  • バークシャー・ハサウェイ・エナジー (BHE): 電力・ガス事業。規制下にあり、独占的な事業基盤から予測可能な利益を生み出します。再生可能エネルギーへの投資も積極的。
  • 製造・サービス・小売: プレシジョン・キャストパーツ(航空宇宙部品)、クレイトン・ホームズ(住宅)、マクレーン(卸売)、デイリークイーン(食品)など、数多くの優良企業を保有。

3.2. 価値創造のもう一つの柱:株式ポートフォリオ (2024年末時点)

バークシャーは巨大な株式ポートフォリオを保有しており、その動向は常に注目の的です。

保有企業 時価総額 (概算)(百万$) ポートフォリオ構成比 (概算)
アップル (AAPL) 174,000 約50%
バンク・オブ・アメリカ (BAC) 34,000 約10%
アメリカン・エキスプレス (AXP) 30,000 約9%
コカ・コーラ (KO) 24,000 約7%
シェブロン (CVX) 19,000 約5%

出典: バークシャー・ハサウェイ 2024年 年次報告書より筆者作成。数値は概算。

  • ポートフォリオはアップルに極めて集中しており、その株価変動がバークシャーの簿価やGAAP純利益に大きな影響を与えます。
  • バフェット氏が好む、強力なブランド力と持続的な競争優位性を持つ企業で構成されています。

4. 資本配分と経営:バフェット後の新時代

バークシャーの経営において最も重要なのは、傘下事業が生み出す莫大なキャッシュをどこに再投資するかという「資本配分」です。

  • 巨大な現金保有高: FY2024年末時点で、現金及び短期国債の保有高は約1,676億ドルと過去最高水準。これは財務の安定性を確保すると同時に、将来の大型買収や株価下落時の投資機会を待つための「火薬」でもあります。
  • 自社株買い: 近年、バークシャーは魅力的な買収先が見つからない場合、自社株買いを主要な株主還元策としています。FY2024には約92億ドルの自社株買いを実施しました。
  • 後継者計画: バフェット氏の後継者として、CEOにはグレッグ・アベル氏(非保険事業担当副会長)、投資部門はテッド・ウェシュラー氏とトッド・コームズ氏が担う体制が明確にされています。チャーリー・マンガー氏亡き後も、規律ある経営哲学が引き継がれるかが焦点です。

5. 財務の健全性:難攻不落の「金融要塞」

バークシャーの財務は極めて健全であり、バフェット氏はこれを「金融要塞」と表現しています。

会計年度末 総資産(百万$) 総負債(百万$) 株主資本(百万$) 自己資本率
FY2019 817,729 401,234 416,495 51.0%
FY2020 873,729 423,137 450,592 51.6%
FY2021 958,804 455,417 503,387 52.5%
FY2022 948,229 441,475 506,754 53.4%
FY2023 1,070,034 508,751 561,283 52.5%
FY2024 1,069,931 510,551 559,380 52.3%

出典: バークシャー・ハサウェイ公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K) より筆者作成。

  • 高い自己資本比率と莫大な現預金により、経済危機や金融市場の混乱に対する極めて高い耐性を持っています。
  • この財務力が、他社が苦境にある時に有利な条件で投資や買収を行うことを可能にしてきました。

6. 今後の展望と投資家が注目すべきリスク

バークシャー・ハサウェイは、その巨大さゆえに過去のような驚異的な成長率を維持することは困難になっていますが、安定した価値の複利成長が期待されます。

今後のポイント:

  • グレッグ・アベル氏の経営手腕: バフェット氏の哲学を継承しつつ、新たな時代にどう対応していくか。
  • 巨大な現金の使い道: 大型M&Aが実現するのか、それとも自社株買いが継続されるのか。
  • エネルギー転換への対応: BHEにおける再生可能エネルギーへの投資と、山火事関連の訴訟リスク。
  • 株式ポートフォリオの運用: バフェット氏退任後の投資判断。

投資家が注目すべきリスク:

  • 巨大すぎることによる成長率の鈍化: 企業規模が大きすぎるため、針を大きく動かす投資や買収が困難に。
  • キーパーソン・リスク: バフェット氏退任後のカリスマ性と投資判断能力の不在。
  • 株式ポートフォリオの集中リスク: 特にアップル株への高い依存度。
  • 規制リスク: 巨大企業であるため、独占禁止法などの規制当局からの監視が強まる可能性。

7. まとめ:バークシャーはこれからも「安心して眠れる」投資先か?

バークシャー・ハサウェイは、特定の製品や技術に依存する企業とは全く異なり、アメリカ経済そのものに投資するような性格を持つ、究極の分散投資ビークルです。その価値は、傘下事業の安定した収益力と、規律ある資本配分によって長期的に創造されてきました。

  • 強み: 比類なき事業の多様性、強力なキャッシュ創出力、難攻不落の財務基盤、そして株主を第一に考える経営文化。
  • 今後の鍵: バフェット氏からアベル氏への円滑な移行、巨大な現金の有効活用、そして「複利の魔法」をいかに継続させるか。

短期的に市場をアウトパフォームすることは難しくなっているかもしれませんが、長期的な視点に立てば、バークシャー・ハサウェイは依然として、資本を守りながら着実な成長を目指す投資家にとって、中心的な選択肢の一つであり続けるでしょう。

本記事は、公開情報に基づき筆者の分析を加えたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。本分析は、バークシャー・ハサウェイ社の公式IR情報および信頼できると考えられる情報源に基づいていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。常に最新の公式情報をご参照ください。

最終更新日時: 2025年6月6日


Posted by 南 一矢