相続税と譲与税のない国はどこ?

2019年7月19日

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老後の不安が高まる中で、相続税に関しては、2015年に最高税率の引き上げと控除削減が行われました。

最高税率が50%から55%に上がっただけでなく、課税方法が変わり、中金持ち層に相続税がかかるようになったのです。

16年末の国税庁発表では、2015年に亡くなった約129万人のうち、相続税が課税されたのは約10万3千人でした。

これは全体の8%に相当し、前年度の8割増しになっています。

相続税の課税額は相続財産から基礎控除を引いて計算しますが、15年1月からその仕組みも変わったのです。

  • 14年末まで:「5000万円+1000万円×法定相続人の数」
  • 15年1月以降の基礎控除:「3000万円+600万円×法定相続人の数」

いつのまにか「中の上」ぐらいの収入階層でも課税されかねない水準になってきました。

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相続税がない国はどこ?

日本では格差是正のために、相続税の強化がよく論じられています。

自民・公明政権のもとで前述の増税が行われましたし、共産党や立憲民主党などの野党は「福祉の財源は、お金持ちから取るべきだ」と主張しています。

そのため、日本にいると相続税があるのは当然だと考えがちです。

しかし、よく考えてみると、世界には、相続税がない国が意外とたくさんあります。

有名どころで言えば、シンガポール、マレーシア、中国、インド、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、スウェーデンには相続税がありません。

スイスは「相続税なし」の国としてよく取り上げられましたが、最近は限られた範囲で低い税率の相続税がかかるようです。

【スイスの相続税は低率で限定的】

(出所:スイスの労働市場 – Switzerland Global Enterprise

  • シュビーツ州およびオプヴァルデン準州を除き、全州で相続税と贈与税がかかる。
  • だが、夫婦間の相続や贈与には非課税。
  • 26州のうち3州で親から子への財産の移譲で相続税が課かる(1%~3.5%程度)
  • 親戚や第三者への移譲が相続税の課税対象

米国以上の格差社会とみられる中国も相続税のない国ですが、近年、相続税の導入も議論され始めました。

【中国は相続税導入に向かう?】

(出所:産経ニュース「中国『相続税』導入へ」 2016.12.25)

  • 習政権は貧富の格差是正を目指し、「遺産税(相続税)」導入を検討。
  • 現状は富裕層が親の富を子供に“世襲”できるため。
  • 富裕層に限定し、税率を15~30%に設定する

そして、米国ではトランプ政権発足により、相続財産にかかる控除が二倍になりました。

基礎控除で6億円程度だったものが12億円相当にまで広がったので、本当のお金持ち以外は対象外になったのです。

相続税のメリット・デメリット

日本は2015年1月から6段階だった税率が8段階になり、最高税率は55%となりました(世界最高水準)。

一番、インパクトが大きいのは基礎控除の縮小で、基礎控除(非課税枠)が4割も減っています。

現在、相続税の税率は以下の通りです。

  • 1000万円以下:10%
  • 3000万円以下:15%
  • 5000万円以下:20%
  • 1億円以下:30%
  • 2億円以下:40%
  • 3億円以下:45%
  • 6億円以下:50%
  • 6億円超:55%

そうまでして相続税を課税するのは、格差是正に効果があると考えられているからです。

相続税がない場合は「金持ちの家はずっと金持ち」「貧乏人の家はずっと貧乏人」となり、社会での階層が固定化しやすくなります。貧富の差が大きくなるため、累進課税制度で富の再配分を行うわけです。

また、所得税は所得把握が完全ではないため、よく「とりっぱぐれ」が起きます。

これを補うために国税庁は相続税を使うわけです(死ぬ前に税金を清算しろと言っているように見えますが)。

このあたりが相続税のメリットと見られています。

しかし、そこにはデメリットもあります。

相続税は所得税から取ったお金の残りに税金をかけているので、二重課税だという批判は根強くあります。

また、相続税や譲与税を重くするとお金持ちが海外に逃げていきます。

さらに、中小企業の事業継承に支障をきたします。

事業承継の際に負担を減らす例外措置も始まりましたが、これは、5年間にわたり、雇用の8割を維持しなければいけません。

これはなかなか厳しい基準です。

中小企業者には、自分が始めた仕事を有能な子供や親類、見込んだ後継者に譲りたい方が多いのですが、今の税制では均分相続なので難しく、贈与すれば「贈与税」がかかります。

スウェーデンが相続税を廃止した理由とは

日本ではスウェーデンは「高い税金で高い福祉」の国というイメージがあるので、この国が相続税廃止に踏み切ったのは、意外に見えるかもしれません。

その経緯が2012年の「朝日デジタル」の特別版で紹介されていました。

(出所:金持ち税を廃止した「福祉の国」スウェーデン

その内容を四点に絞って整理すると、こうなります。

【①高額所得者の海外逃亡を防ぐ】

  • 首都ストックホルムに近いダンデリード市の高級住宅街に住むP氏(61歳)は言う。2007年に富裕税は廃止されたのは「当然だ」
  • 「高額所得者が国外に出てしまえば、国の競争力が落ちる。無駄を省いて、もっと税金を下げるべきだ」

【②相続税と贈与税はなぜ廃止されたのか】

  • 2007年に廃止に踏み切った政権の財務相ペール・ヌーデル氏はいう。
  • 「中小企業では負担が重く、事業を引き継げない場合が多かった」
  • 相続税と贈与税が国の税収に占める割合も計約0.2%で、歳入に大穴があくほどではなかった。

【③イケアは相続税のために海外移転】

  • おしゃれなデザインの家具で知られるイケア。現在、グループ持ち株会社はオランダにある。三角パックの紙容器を広めたテトラパックも本社はスイスだ。両社とも、創業家はスウェーデンを離れたとされる。
  • 「税金が理由で移転したのだろう。相続税は経済活動にブレーキをかける」

【④現代は資本も資産も海外に移動してしまう時代】

  • ストックホルム大のペーテル・メルツ教授は「経済のグローバル化で資産を国外に移すのが簡単になり、金持ちから税金を取るのが難しくなっている」と話す。
  • スウェーデンは「どうせ取れないなら、せめて逃げ出されないようにしよう」と考えた。
  • 元国税庁長官の渡辺裕泰・早稲田大教授は「海外では、相続税は不公平な税と考えられている」と断言。
  • 大金持ちは専門家に頼んで、把握が難しい金融資産に変えたり、国外に逃げ出したりする。
  • 払うのは大都市に土地を持つような中産階級や小金持ちだけ。「米国では、払いたい人が払う『ボランタリータックス(自発的な税金)』と揶揄される」

福祉国家スウェーデンが立てた「廃止の理由」はそれなりに理が通っています。

主要国の相続税率を比べてみる

さらに、今の税率を各国と比較してみます。

(以下、財務省資料「税調第18回総会 資料2-2」※特に「我が国と諸外国の相続・贈与に関する税制の比較」を参照)

このデータは18年1月時点の最低税率/最高税率(控除額)です。

・日本:10%/55%(3000万円+〔相続人×600万円〕)
・米国:18%/40%(1118万$)
・英国:40%/40%(32.5万£)
・ドイツ:7%/30%(配偶者:剰余調整分+75.6万€/子:40万€)
・フランス:5%/45%(10万€)

各国通貨での金額を、7/10頃の為替で換算すると、日本円相当の金額がわかります。

・日本:3000万円+(相続人×600万円)
・米国:約12億円。配偶者免税
・英国:約4400万円。配偶者免税
・ドイツ:配偶者が約9200億円、子が約4900万円
・フランス:約1200万円。配偶者免税

日本の税率は高く、トランプ減税によって、米国が特に低くなりました。

米国はタックスヘイブンに近づいた?

こうした相続税を嫌がり、海外移住を選ぶ富裕層も増えたので、近年、財務省は国外資産への課税強化を進めました。

  • 14年:5000万円超の国外資産に情報開示を義務付け
  • 15年:海外資産で有価証券などが1億円以上ある場合、出国時に含み益に対して所得税を課税
  • 18年:国外資産への相続税の免除条件変更。海外在住年数が「5年超」から「10年超」に延長。

まさに「逃げる者」と「逃すまい」とする財務省との攻防戦です。

なぜ、そうなるのかを、プレジデント記事「日本の超富裕層が次々に米国移住するワケ」(2019.1.12)は実情を踏まえて紹介していました。

この記事では「所得税/相続税/キャピタルゲイン税」の税率からみると、富裕層にとって米国は魅力的な国だと述べています。

  • 日本: 45%/55%/20%
  • 米国: 39.6%/40%/20%+州税
  • NZ: 33%/0%/0%
  • シンガポール: 22%/0%/0%
  • マレーシア: 28%/0%/0%

基礎控除が12億円もあれば、大部分の人は対象外なので、米国に逃げたくなるのは当然ではあります。

「お金持ちが逃げる国」は魅力的なのだろうか?

資産家が逃げていく国は、第二次大戦後の英国のような「衰退国」になる危険性を抱えています。

「稼げる人」が逃げてしまうからです。

日本は、格差是正論に基づいて相続税強化に傾きがちですが、社会保障を重視するスウェーデンでも「金のなる木」である企業とその創業者が海外逃亡しないよう、注意をはらっています。

こうしてみると、相続税があることは必ずしも当然ではありません。

世間では、格差の固定化が問題視されていますが、同時に、相続税のデメリットについても、しっかりと頭に入れておきたいものです。