T:AT&Tの配当推移
エーティアンドティー(AT&T、ティッカー:T)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを見る指標)等も確認します。AT&Tの場合、通信インフラ企業として設備投資が大きいため、EPSだけでなく、フリーキャッシュフロー、ネット有利子負債、ネットデット/調整後EBITDAもあわせて見ることが重要です。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当、平均株価、通年EPSの推移を確認します。2022年のWarnerMediaスピンオフ後、AT&Tは年間1.11ドルの配当を維持しており、2026年も同水準の配当を続ける方針です。[1][2]
| 年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS (報告) |
調整後EPS | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | ||||
| 2026E | 約4.4% (5月7日) |
0% | 約47〜49% (調整後EPS見通し) |
1.11 | 25.36 (5月7日) |
— | 2.25〜2.35 |
| 2025 | 4.33% | 0% | 37% (報告EPS比) 52% (調整後EPS比) |
1.11 | 25.62 | 3.04 | 2.12 |
| 2024 | 5%台前半 | 0% | 75% | 1.11 | — | 1.49 | 1.95 |
| 2023 | 6.69% | 0% | 56% | 1.11 | 16.6 | 1.97 | — |
| 2022 | 7.26% | -47% | N/A | 1.35 | 18.6 | -1.13 | — |
| 2021 | 9.86% | 0% | 76% | 2.08 | 21.1 | 2.73 | — |
| 2020 | 8.85% | 2% | N/A | 2.08 | 23.5 | -0.75 | — |
| 2019 | 7.97% | 2% | 108% | 2.04 | 25.6 | 1.89 | — |
| 2018 | 7.97% | 2% | 70% | 2.00 | 25.1 | 2.85 | — |
| 2017 | 6.74% | 2% | 41% | 1.96 | 29.1 | 4.76 | — |
| 2016 | 6.49% | 2% | 91% | 1.92 | 29.6 | 2.10 | — |
| 2015 | 7.37% | 2% | 79% | 1.88 | 25.5 | 2.37 | — |
| 2014 | 7.05% | 2% | 148% | 1.84 | 26.1 | 1.24 | — |
| 2013 | 6.74% | 2% | 53% | 1.80 | 26.7 | 3.42 | — |
| 2012 | 6.90% | 2% | 141% | 1.76 | 25.5 | 1.25 | — |
| 2011 | 7.75% | 2% | 261% | 1.72 | 22.2 | 0.66 | — |
| 2010 | 8.36% | 2% | 50% | 1.68 | 20.1 | 3.35 | — |
| 2009 | 8.50% | 2% | 80% | 1.64 | 19.3 | 2.05 | — |
| 2008 | 6.37% | 13% | N/A | 1.60 | 25.1 | -0.44 | — |
※2025年と2026Eの配当性向は、会社開示のEPSおよび調整後EPS見通しに基づく概算です。2024年の報告EPSは1.49ドル、調整後EPSは1.95ドルです。2025年の報告EPS3.04ドルにはDIRECTV持分売却益などの影響が含まれるため、継続的な配当余力を見る際は調整後EPS2.12ドルやフリーキャッシュフローも確認する必要があります。[2]
劇的に変化した配当の実績
AT&Tの配当実績は、通信業界の変遷と同社の戦略的転換を反映して大きく変化してきました。2008年から2020年まで、年率約2%前後の着実な配当成長を継続し、1株あたり配当は1.60ドルから2.08ドルへと約30%増加しました。この期間、AT&Tは高配当株として投資家からの信頼を築いていました。[1]
しかし2022年には、WarnerMediaのスピンオフに伴う事業構造の大幅な変化により、年間配当を2.08ドルから1.11ドルへ引き下げました。これは約47%の減配に相当します。その後、2023年・2024年・2025年は年間1.11ドルの配当を維持しており、2026年も同水準を維持する方針です。[1][2]
配当成長率の推移
AT&Tの配当成長率は明確にいくつかの段階に分けることができます:
- 2008〜2020年:安定成長期(年率約2%の増配を継続)
- 2021年:転換期(配当据え置き、0%成長)
- 2022年:構造転換期(WarnerMediaスピンオフに伴う約47%の大幅減配)
- 2023〜2026年:新体制安定期(年間1.11ドルでの配当維持、0%成長)
このパターンは、AT&Tの事業ポートフォリオの根本的な変化を反映しています。特に注目すべきは、かつての同社が「通信+メディア」の複合企業を目指した後、WarnerMediaスピンオフを経て、再び通信インフラ企業へ回帰した点です。2022年の減配は配当投資家にとって痛みを伴いましたが、事業の簡素化と財務健全性の改善を優先する戦略的な配当リセットでもありました。
2026年の会社方針では、現在の年間1.11ドル配当を維持しつつ、2026〜2028年に配当と自社株買いを通じて450億ドル超を株主に還元する計画が示されています。2026年の自社株買いは約80億ドルを見込んでおり、今後の株主還元は「増配」よりも「安定配当+自社株買い」に重心が置かれています。[4]
配当利回りの変遷
AT&Tの配当利回りは、株価の変動と配当政策の変化により大きく変遷してきました。特に注目すべき点は:
- 2008〜2020年:各年の株価水準によって概ね5〜8%台の配当利回りを提供
- 2021年:WarnerMediaスピンオフと減配懸念により、利回りが一時的に高止まり
- 2022年:減配実施後、年間配当は1.11ドル水準へ低下
- 2023〜2025年:事業再編後の安定利回り期に移行
- 2026年5月時点:年率1.11ドル配当、株価25.36ドルで利回り約4.4%
2021年前後の異常に高い配当利回りは、投資家がWarnerMediaスピンオフと配当削減を予想して株価が下落したことによるものでした。この時期の高利回りは、配当政策の持続可能性に対する市場の懸念を反映していたと見るべきです。
注目ポイント:AT&Tは2022年の事業再編により、伝統的な「高配当電話会社」から「通信インフラへの集中と安定還元を両立する企業」へと性格を変化させました。現在の配当政策では、配当利回りだけでなく、5G・光ファイバー投資、ネットデット/調整後EBITDA、フリーキャッシュフロー、株主還元総額を一体で見る必要があります。
配当性向の持続可能性
AT&Tの配当性向(配当÷EPS)は、同社の事業特性と収益の変動性により大きく変動してきました:
- 2008年:赤字により配当性向はN/A
- 2009〜2010年:適正水準に回復
- 2011〜2019年:一時要因を含みながらも、配当を維持
- 2020年:赤字により配当性向はN/A
- 2022年:WarnerMediaスピンオフ後の赤字により配当性向はN/A
- 2023〜2024年:EPSベースでは56%→75%へ上昇
- 2025年:報告EPS3.04ドルに対して配当性向は約37%、調整後EPS2.12ドルに対して約52%
- 2026E:調整後EPS見通し2.25〜2.35ドルに対して、配当性向は約47〜49%
極端な配当性向の理解:通信業界特有の大規模な設備投資と減価償却、買収に伴う一時的損失が配当性向を不安定にしています。EPSだけを見ると配当性向が極端に見える年がありますが、それは必ずしも現金配当の支払い能力が急低下したことを意味しません。
通信業界の会計上の特殊性:AT&Tのような通信企業の純利益は以下の理由で大きく変動します:
- 巨額の設備投資と減価償却:5G網構築、光ファイバー敷設などの大規模インフラ投資
- スペクトラム取得費用:政府オークションでの周波数取得に伴う多額の投資
- 買収・統合費用:業界再編に伴うM&A関連コストと統合費用
- 技術転換コスト:旧式ネットワークから5G・光ファイバーへの移行
- 規制変更への対応費用:通信法改正や新しい規制への適応コスト
これらの要因により純利益が大きく変動するため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。通信企業の配当分析では、EPSだけでなく、営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローに対する配当の割合を重視することが重要です。
実際に、AT&Tのキャッシュフロー指標を見ると、2025年は営業キャッシュフローが40,284Mドル、会社定義のフリーキャッシュフローが16,586Mドルで、同年の配当支払い8,180Mドルに対するFCF配当性向は49.3%でした。2026年第1四半期は、フリーキャッシュフロー2,506Mドル、配当支払い1,997Mドルで、FCF配当性向は79.7%と高めでしたが、これは設備投資の前倒しや季節性の影響もあり、通期見通しではFCF18Bドル超が維持されています。[2][5]
財務パフォーマンスと成長見通し
以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージンは%単位で表示しています。
主要財務指標の推移
| 年度 | 売上高 | 営業CF | 同マージン | 純利益 (AT&T株主帰属) |
調整後EPS |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026 Q1 | 31,506 | 7,595 | 24 | 3,829 | 0.57 |
| 2025 | 125,648 | 40,284 | 32 | 21,953 | 2.12 |
| 2024 | 122,336 | 38,771 | 32 | 10,948 | 1.95 |
| 2023 | 122,428 | 38,314 | 31 | 14,400 | — |
| 2022 | 120,741 | 32,023 | 27 | -8,524 | — |
| 2021 | 134,038 | 41,958 | 31 | 20,081 | — |
| 2020 | 143,050 | 43,129 | 30 | -5,176 | — |
| 2019 | 181,193 | 48,668 | 27 | 13,903 | — |
| 2018 | 170,756 | 43,602 | 26 | 19,370 | — |
| 2017 | 160,546 | 38,010 | 24 | 29,450 | — |
| 2016 | 163,786 | 38,442 | 23 | 12,976 | — |
| 2015 | 146,801 | 35,880 | 24 | 13,345 | — |
| 2014 | 132,447 | 31,338 | 24 | 6,442 | — |
| 2013 | 128,752 | 34,796 | 27 | 18,418 | — |
| 2012 | 127,434 | 39,176 | 31 | 7,264 | — |
| 2011 | 126,723 | 34,743 | 27 | 3,944 | — |
| 2010 | 124,280 | 35,222 | 28 | 19,864 | — |
| 2009 | 122,513 | 34,405 | 28 | 12,138 | — |
| 2008 | 123,443 | 33,610 | 27 | -2,625 | — |
※2025年と2024年の数値はAT&TのForm 10-Kおよび決算リリースに基づいています。2026年第1四半期は継続事業ベースの営業CFです。過去の長期系列は公開財務データをもとに整理しています。[2][5]
収益性と効率性の変動
AT&Tの財務データからは、大型買収による事業拡大、その後の事業再編、そして通信事業への回帰という劇的な変遷が見て取れます:
- 売上高は2008年の123,443Mドルから2019年のピーク181,193Mドルまで拡大し、その後メディア事業売却などにより2024年には122,336Mドルへ
- 2025年は売上高125,648Mドルと、通信事業集中後の成長が再び見え始めた年
- 営業CFマージンは一貫して高水準を維持し、2024年・2025年はいずれも約32%
- 純利益は大型買収・スピンオフ・一時損益の影響で変動が大きい
- 2026年Q1は売上高31,506Mドル、調整後EPS0.57ドルとなり、会社は2026年通期の調整後EPS2.25〜2.35ドルを維持
特に注目すべきは、2015年(DirecTV買収)、2018年(Time Warner買収)の大型買収により売上が急拡大した一方、その後のWarnerMediaスピンオフにより売上が元の水準に戻った点です。この一連の変化は、AT&Tが「通信+メディア」の複合企業から、再び通信に特化した企業へと戦略を転換したことを示しています。
営業CFマージンの高さは、通信事業の特性を反映しています。一度ネットワークインフラが構築されれば、追加的な顧客獲得に伴う限界コストは低く、スケールメリットが効きやすい事業構造となっています。2025年も営業CFマージンは約32%で、安定した現金創出力が確認できます。
安定したキャッシュフロー基盤
以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率は%単位で表示しています。
| 年度 | 営業CF | 成長率 | 投資CF | 財務CF | 会社定義FCF |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026 Q1 | 7,595 | -16 | -7,484 | -2,097 | 2,506 |
| 2025 | 40,284 | 4 | -18,777 | -6,386 | 16,586 |
| 2024 | 38,771 | 1 | -17,490 | -24,708 | 15,345 |
| 2023 | 38,314 | 20 | -19,660 | -15,614 | — |
| 2022 | 32,023 | -24 | -25,805 | -23,741 | — |
| 2021 | 41,958 | -3 | -32,090 | 1,578 | — |
| 2020 | 43,129 | -11 | -13,549 | -32,005 | — |
| 2019 | 48,668 | 12 | -16,690 | -25,083 | — |
| 2018 | 43,602 | 15 | -63,145 | -25,989 | — |
| 2017 | 38,010 | -1 | -18,943 | 25,930 | — |
| 2016 | 38,442 | 7 | -23,318 | -14,462 | — |
| 2015 | 35,880 | 14 | -49,144 | 9,782 | — |
| 2014 | 31,338 | -10 | -18,337 | -7,737 | — |
| 2013 | 34,796 | -11 | -23,124 | -13,201 | — |
| 2012 | 39,176 | 13 | -19,680 | -17,673 | — |
| 2011 | 34,743 | -1 | -21,250 | -11,649 | — |
| 2010 | 35,222 | 2 | -21,449 | -15,849 | — |
| 2009 | 34,405 | 2 | -17,883 | -14,508 | — |
| 2008 | 33,610 | -2 | -29,098 | -4,690 | — |
AT&Tの最大の強みは、極めて安定したキャッシュフロー創出能力にあります:
- 営業CFは長期にわたり大きなプラスを維持
- 2008年の金融危機、2020年のパンデミック時も営業CFは堅調
- 2022年の事業再編後も、2023年・2024年・2025年と営業CFは回復・安定
- 2025年の会社定義FCFは16,586Mドルで、配当支払い8,180Mドルを十分にカバー
- 2026年通期の会社見通しでは、FCF18Bドル超を計画
投資CFの変動パターンから、同社の戦略的意図が読み取れます:
- 2015年:DirecTV買収による大規模投資
- 2018年:Time Warner買収による過去最大級の投資
- 2020年以降:5G展開と光ファイバー拡張への集中的投資
- 2023年以降:メディア事業からの撤退後、通信インフラ投資へ集中
- 2026年:Lumenのマスマーケット光ファイバー事業取得により、ファイバー到達地点を拡大
財務CFは資本政策の変化を明確に反映しています:
- 2008〜2020年:配当支払いと負債削減による一貫したマイナス
- 2017年、2021年:大型買収・事業再編に伴う資金調達で一時的にプラスに転換
- 2022年以降:WarnerMediaスピンオフ後の負債削減と株主還元の両立
- 2025年:45億ドルの自社株買いを実施
- 2026年Q1:約23億ドルの自社株買いを実施
キャッシュフロー分析のポイント:AT&Tのキャッシュフローパターンは、「安定創出→戦略投資→効率化」のサイクルを示しています。通信事業の特性上、一度構築されたネットワークからは安定したキャッシュフローが創出されるため、投資CFの変動にかかわらず営業CFは比較的安定しています。2026年はファイバー展開を加速するため資本投資が23B〜24Bドルに増える見通しですが、それでもFCF18Bドル超を見込んでいます。[4]
負債水準と資本構成
以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。
| 年度 | 総資産 | 総負債 | 株主資本 (総株主持分) |
自己資本率 | 有利子負債 | ネット有利子負債 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026 Q1 | 421,188 | 295,569 | 125,619 | 29.8% | 138,407 | 126,443 |
| 2025 | 420,198 | 293,707 | 126,491 | 30.1% | 136,100 | 117,866 |
| 2024 | 394,795 | 276,550 | 118,245 | 29.9% | 123,532 | 120,234 |
| 2023 | 407,060 | 287,645 | 119,415 | 29% | — | — |
| 2022 | 402,853 | 296,396 | 106,457 | 26% | — | — |
| 2021 | 551,622 | 367,767 | 183,855 | 33% | — | — |
| 2020 | 525,761 | 346,521 | 161,673 | 31% | — | — |
| 2019 | 551,669 | 349,735 | 184,221 | 33% | — | — |
| 2018 | 531,864 | 337,980 | 184,089 | 35% | — | — |
| 2017 | 444,097 | 302,090 | 140,861 | 32% | — | — |
| 2016 | 403,821 | 279,711 | 123,135 | 30% | — | — |
| 2015 | 402,672 | 279,032 | 122,671 | 30% | — | — |
| 2014 | 296,834 | 206,564 | 89,716 | 30% | — | — |
| 2013 | 277,787 | 186,305 | 90,988 | 33% | — | — |
| 2012 | 272,315 | 179,620 | 92,362 | 34% | — | — |
| 2011 | 270,442 | 164,645 | 105,534 | 39% | — | — |
| 2010 | 269,391 | 157,441 | 111,647 | 41% | — | — |
| 2009 | 268,312 | 166,323 | 101,564 | 38% | — | — |
| 2008 | 265,245 | 168,495 | 96,347 | 36% | — | — |
AT&Tの資本構成には、以下の特徴的な変化が見られます:
- 総資産は2015年のDirecTV買収、2018年のTime Warner買収で大きく拡大
- 2022年のWarnerMediaスピンオフで総資産が大幅に減少
- 自己資本率は大型買収期以降、おおむね30%前後で推移
- 2025年末は総資産420,198Mドル、総株主持分126,491Mドル、自己資本率30.1%
- 2026年Q1末は総資産421,188Mドル、総株主持分125,619Mドル、自己資本率29.8%
2025年末時点の有利子負債は、短期負債9,011Mドルと長期負債127,089Mドルの合計で136,100Mドルです。現金及び現金同等物は18,234Mドルで、単純計算のネット有利子負債は117,866Mドルです。2026年Q1末には、有利子負債が138,407Mドル、現金及び現金同等物が11,964Mドルとなり、ネット有利子負債は126,443Mドルとなりました。[2][5]
負債比率の高さは一見懸念材料ですが、通信業界の特性を考慮する必要があります。通信インフラは長期間にわたって安定したキャッシュフローを生み出すため、相対的に高い負債水準での運営が可能です。ただし、金利上昇局面では借り換えコストが上がりやすく、5G・光ファイバー投資の資金需要も大きいため、ネット有利子負債の推移は引き続き重要な監視項目です。
まとめ:長期配当投資家にとってのAT&Tとは?
AT&Tは、大型買収による複合企業化とその後の事業再編を経て、再び通信事業に特化した企業として新たなスタートを切りました。2022年の約47%減配は配当投資家にとって大きな衝撃でしたが、これにより同社はより持続可能な配当政策と財務構造を確立することができました。
同社の強みは以下の点にあります:
- 極めて安定した営業キャッシュフロー創出能力(2025年は403億ドル)
- 全米最大級のワイヤレス・ネットワークと光ファイバー網という競争優位性
- Advanced Connectivityを軸にした新しいセグメント体制
- 2026年Q1のインターネット純増584,000件、ポストペイド電話純増294,000件
- 2026年Q1時点でファイバー到達地点が3,700万超、2026年末に4,000万超、2030年に6,000万超を目指す計画
- 2025年FCF166億ドル、2026年見通しFCF18Bドル超という配当原資
- 2026〜2028年に450億ドル超の株主還元計画
- 2025年売上高125,648Mドル、営業CF40,284Mドル、FCF16,586Mドルを達成
- 2025年のFCF配当性向は49.3%で、配当維持に十分な余力
- 2026年Q1は売上高31,506Mドル、調整後EPS0.57ドル、FCF2,506Mドル
- 2026年通期見通しは、調整後EPS2.25〜2.35ドル、FCF18Bドル超
- 2026年に約80億ドルの自社株買いを計画
一方で、注意すべき点としては:
- 「配当貴族」の地位を失い、配当成長の実績がリセットされた点
- 依然として大きい有利子負債残高
- 無線通信市場の成熟化と価格競争の激化
- 5G・光ファイバー投資による継続的な設備投資負担
- Legacy事業の縮小と移行コスト
- 規制リスク(ネット中立性、プライバシー保護など)
- EchoStar関連取引などに伴う短期的なレバレッジ上昇
投資家へのポイント:AT&Tへの投資は、「安定した配当利回りと限定的な成長」の特性を持っています。同社は急激な成長を追求するよりも、通信インフラ企業としての安定性、4%台の配当利回り、フリーキャッシュフローを重視する投資家に適しています。
配当投資家としては、過去のような毎年の安定増配はまだ期待しにくいものの、現在の1.11ドルという水準はフリーキャッシュフローの範囲内で十分に持続可能とみられます。2026年以降は、配当成長よりも自社株買いによる総還元の拡大が主役です。5G・光ファイバー投資の成果が進み、ネットデット/調整後EBITDAが目標レンジに戻れば、将来的な緩やかな増配再開も視野に入ってくるでしょう。
よくある質問
Q. AT&Tの配当はどれくらい安全ですか?
A. 現在のAT&Tの配当(年間1.11ドル)は、フリーキャッシュフローと比較した場合、比較的安全と評価できます。2025年のFCFは16,586Mドル、配当支払いは8,180Mドルで、FCF配当性向は49.3%です。2026年通期もFCF18Bドル超が見込まれており、現行配当を維持する余力は十分にあります。[2][4]
ただし、2026年Q1は設備投資の前倒しにより、四半期ベースのFCF配当性向が79.7%まで上昇しました。これは四半期の季節性や投資タイミングの影響もあるため、単四半期ではなく通期FCFで確認することが重要です。
Q. なぜAT&Tは2022年に大幅な減配を行ったのですか?
A. 2022年の約47%減配は、WarnerMediaのスピンオフに伴う事業構造の根本的変化が主因です。AT&Tは2018年にTime Warnerを買収し、通信とメディアの融合を目指しましたが、メディア事業の競争激化、5G投資への集中、複雑なコングロマリット構造の非効率化などを背景に、戦略の再転換を迫られました。
WarnerMediaをDiscoveryと統合させることで、AT&Tは通信事業に経営資源を集中できるようになりました。減配は痛みを伴いましたが、5G・光ファイバー投資への資金確保、負債比率の改善、事業の簡素化、持続可能な配当政策の確立というメリットもありました。
Q. 5Gと光ファイバー投資はAT&Tの将来の配当にどのような影響を与えますか?
A. 5Gと光ファイバー投資は、短期的には配当成長の制約要因ですが、中長期的には成長ドライバーです。2026年の資本投資見通しは23B〜24Bドルと高水準であり、これがフリーキャッシュフローを圧迫します。一方で、Advanced Connectivityの拡大により、ワイヤレス、ファイバー、固定無線を組み合わせた顧客基盤が広がっています。[4]
2026年Q1には、ファイバーと固定無線を合わせたAdvanced Connectivityインターネット純増が584,000件、ポストペイド電話純増が294,000件となりました。これらが将来の安定収益につながれば、配当維持だけでなく、長期的な増配余地にもつながります。[5]
Q. AT&Tの高い負債水準は持続可能ですか?
A. AT&Tの有利子負債は依然として大きく、2026年Q1末の有利子負債は138,407Mドル、ネット有利子負債は126,443Mドルです。ネットデット/調整後EBITDAは2.71倍で、目標レンジの2.5倍台よりやや高い水準です。[5]
ただし、通信インフラは長期的に安定したキャッシュフローを生みやすく、AT&Tは2026年通期にFCF18Bドル超を見込んでいます。短期的な流動性リスクは限定的ですが、金利上昇、競争激化、追加の設備投資、EchoStar関連取引後のレバレッジ上昇には注意が必要です。長期的には、FCFを使って配当・自社株買い・デレバレッジのバランスを取れるかが重要になります。
※本記事は投資判断の参考として財務データを整理・分析したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。
数値はいずれも公表資料にもとづきますが、簡略化や四捨五入により実際の開示値と若干異なる場合があります。詳細な出典は本文末の【注】をご確認ください。
ミニ解説: AT&Tを見るときは、「EPS配当性向」だけでなく「FCF配当性向」を重視してください。2025年のFCF配当性向は49.3%で、現行配当は十分にカバーされています。一方、2026年はファイバー投資の加速で資本投資が増えるため、四半期ごとのFCFではなく通期見通しとネットデット/調整後EBITDAの推移を見ることが重要です。
【注】(出典リンク)
- 配当履歴・2026年3月発表の四半期配当0.2775ドル → 一次情報:AT&T「Declares Dividends on Common and Preferred Shares」 → AT&T Historical Common Dividends(確認日:2026-05-08) ↩
- 2025年通期業績・EPS・営業CF・FCF・配当支払い・バランスシート → 一次情報:AT&T 2025 Annual Report → AT&T 4Q25 Earnings Materials(確認日:2026-05-08) ↩
- 株価・配当利回り・市場データ → 参考情報:Google Finance「T:NYSE」 → StockAnalysis「AT&T」(確認日:2026-05-08) ↩
- 2026年通期ガイダンス・2026〜2028年株主還元計画・FCF18Bドル超見通し → 一次情報:AT&T「Reports Strong First-Quarter 2026 Financial Results」 → AT&T 1Q26 Earnings Materials(確認日:2026-05-08) ↩
- 2026年Q1決算・FCF・ネット有利子負債・ネットデット/調整後EBITDA → 一次情報:AT&T 1Q26 Financial and Operational Schedules → AT&T 1Q26 Earnings Release(確認日:2026-05-08) ↩
- 長期財務データ・過去の株価系列の確認 → 一次情報:AT&T Annual Reports → 補助:Macrotrends「AT&T Financial Statements」(確認日:2026-05-08) ↩

