LMT(ロッキードマーチン)配当分析:安定成長で有事に強い軍事・防衛銘柄の特色
はじめに
Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)は、F-35戦闘機などで知られる世界最大級の防衛・航空宇宙企業です。収益は各国政府との長期大型契約に支えられ、一般的な景気循環と異なるサイクルで動きます。
本記事では、同社がいかにして地政学的な需要を捉えて成長し、同時に22年連続で増配する優良配当株の地位を築いたのかを、時系列データで検証します。
最重要ポイント:防衛企業のビジネスモデルと「受注残高」
Lockheed Martinの事業理解の鍵は、将来の売上計上が見込める受注残高(Backlog)。
2024年末の受注残高は過去最高の1,760億ドル(前年比+9.6%)で、年商の約2.5倍に相当します。2023年末は1,606億ドルでした。2025年Q2末時点では一時的に約1,665億ドルへ調整されていますが、年後半の受注見込みが言及されています。
【免責事項および出典について】
- 財務データは主にLockheed MartinのIR資料(決算ニュースリリース・Form 10-K/10-Q)を一次情報とし、MacroTrends等の系列データも補助的に参照しています。詳細出典は末尾参照。
- 会計年度は12月締め。比率・CAGRは筆者算出。
- 本記事は情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨しません。
1. 株主還元の核心:22年連続増配の実力
同社は22年連続増配を継続。2024年10月に四半期配当を$3.30へ引き上げ、年額$12.90となりました(2025年も現行水準を維持)。
1.1. 配当指標の推移(2014年-2024年)
過去10年以上の配当関連指標の推移です(2024年は実績値)。
会計年度 | 年間配当 (1株あたり, $) |
配当成長率 (前年比) |
EPS (希薄化後, $) |
配当性向 (純利益ベース) |
平均配当利回り (年平均株価ベース) |
---|---|---|---|---|---|
2014 | 5.49 | 12.9% | 11.21 | 49.0% | 3.3% |
2015 | 6.15 | 12.0% | 11.46 | 53.7% | 3.0% |
2016 | 6.77 | 10.1% | 17.07 | 39.7% | 2.9% |
2017 | 7.46 | 10.2% | 6.75 | 110.5% | 2.5% |
2018 | 8.20 | 9.9% | 17.59 | 46.6% | 2.6% |
2019 | 9.00 | 9.8% | 21.95 | 41.0% | 2.5% |
2020 | 9.80 | 8.9% | 24.30 | 40.3% | 2.7% |
2021 | 10.60 | 8.2% | 22.76 | 46.6% | 2.9% |
2022 | 11.40 | 7.5% | 21.66 | 52.6% | 2.6% |
2023 | 12.15 | 6.6% | 27.55 | 44.1% | 2.7% |
2024 | 12.90 | 6.2% | 22.31 | 57.8% | – |
CAGR (年平均成長率) | |||||
過去10年 (FY14-23) | 8.9% | – | 9.3% | – | – |
過去5年 (FY19-23) | 7.5% | – | 5.7% | – | – |
出典: 公式決算リリース/SEC。2024年は実績(EPS 22.31、年配当$12.90、配当性向57.8%)。2017年の配当性向急騰は税制改革の一時要因。
- 安定した配当成長: 2014-2024で年額配当は5.49→12.90へ、連続増配を継続。
- 配当性向は許容範囲: 2024年は特別損失影響でやや上振れ(約58%)。中期的には40~55%レンジが目安。
1.2. フリーキャッシュフローで見る配当の安全性
配当の原資はフリーキャッシュフロー(FCF)。2024年は年金拠出影響を織り込みつつもFCFが配当総額を十分に上回りました。
会計年度 | 営業CF (百万$) |
フリーCF (百万$) |
配当支払総額 (百万$) |
FCF配当カバー率 (フリーCF / 配当総額) |
---|---|---|---|---|
2014 | 3,866 | 2,504 | 1,701 | 1.5倍 |
2015 | 5,101 | 3,825 | 1,847 | 2.1倍 |
2016 | 5,189 | 3,820 | 1,988 | 1.9倍 |
2017 | 6,476 | 5,263 | 2,118 | 2.5倍 |
2018 | 3,138 | 1,833 | 2,301 | 0.8倍 |
2019 | 7,311 | 5,897 | 2,504 | 2.4倍 |
2020 | 8,183 | 6,838 | 2,735 | 2.5倍 |
2021 | 9,221 | 7,700 | 2,875 | 2.7倍 |
2022 | 7,802 | 6,108 | 3,025 | 2.0倍 |
2023 | 7,920 | 6,204 | 3,121 | 2.0倍 |
2024 | 7,000 | 5,300 | 3,100 | 1.7倍 |
出典: 公式決算リリース(2024年 営業CF$7.0B、FCF$5.3B、年間配当支払$3.1B)。
2. 業績分析:緩やかだが磐石な成長
売上は緩やかに拡大。2024年はネットセールス$71.0B、分類不可の機密プログラム損失計上でEPSは$22.31に低下するも、年末受注残高は$176.0Bと過去最高で、将来の売上見通しは堅い構図です。
会計年度 | 売上高(百万$) | 純利益(百万$) | EPS ($)(1株当たり利益) | 受注残高(百万$) |
---|---|---|---|---|
2014 | 45,600 | 3,614 | 11.21 | 80,500 |
2015 | 46,132 | 3,605 | 11.46 | 99,600 |
2016 | 47,248 | 5,302 | 17.07 | 96,200 |
2017 | 51,048 | 2,004 | 6.75 | 99,900 |
2018 | 53,762 | 5,046 | 17.59 | 130,500 |
2019 | 59,812 | 6,230 | 21.95 | 144,000 |
2020 | 65,398 | 6,833 | 24.30 | 147,100 |
2021 | 67,044 | 6,315 | 22.76 | 135,400 |
2022 | 65,984 | 5,732 | 21.66 | 150,000 |
2023 | 67,571 | 6,920 | 27.55 | 160,600 |
2024 | 71,043 | 5,336 | 22.31 | 176,000 |
CAGR (年平均成長率) | ||||
過去10年 (FY14-23) | 4.4% | 7.5% | 10.5% | 8.0% |
過去5年 (FY19-23) | 3.1% | 3.4% | 5.7% | 2.8% |
出典: 公式決算リリース(2024年:売上$71.0B、純利益$5.3B、EPS$22.31、受注残高$176.0B)。
3. 財務分析:防衛企業特有のバランスシート
最重要ポイント:なぜ自己資本比率が低く見えるのか?
LMTは巨額の年金債務の計上と長年の自社株買いにより、自己資本が会計上圧縮されやすい構造です。政府契約によりコスト転嫁の仕組みがあるため、直ちに財務不安に結びつくものではありません。一般製造業の尺度で自己資本比率やROEを評価するのは適切ではなく、受注残高とキャッシュ創出力を重視すべきです。
4. 投資判断のヒント:LMTの強みとリスク
Lockheed Martinの強み (事業の優位性)
- 圧倒的な事業規模と技術力:F-35やミサイル防衛など代替困難な大型プログラムを多数保有。
- 極めて高い参入障壁:政府との信頼・高度技術・巨額資本が必要で新規参入は実質困難。
- 長期的な収益の安定性:2024年末受注残高$176Bと年商の約2.5倍。
- 強力な株主還元:22年連続増配、FCFが配当を十分にカバー。
注意すべきリスク要因
- 政府予算への依存:財政・政権の方針変更による防衛費の振れ。
- プログラムリスク:大型案件の遅延・コスト超過(2024年は機密プログラム損失を計上)。
- サプライチェーン:エンジン・推進系・弾薬の増産体制整備の遅れ。
- ESG観点:一部投資家層の投資対象外化。
5. まとめ
2024年は売上成長と記録的な受注残で将来収益の見通しが強化。一方、機密プログラムの損失でEPSは一時的に低下しました。FCFは配当を十分にカバーしており、配当の持続性は高いと評価できます。投資判断では、受注の質と進捗、政府予算の動向を継続モニタリングしましょう。