AMD:アドバンスト・マイクロ・デバイセズの業績
【2025年版】AMD 徹底分析:CPU・GPUの雄、AI市場への挑戦 – 2008-2024年財務データと成長戦略
はじめに
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックス処理装置)、そしてAIアクセラレータやFPGA(Field Programmable Gate Array)といった高性能半導体の設計開発で世界をリードする企業です。長年にわたりIntelやNVIDIAといった巨大企業と競い合い、特にリサ・スーCEO就任以降の「Zen」CPUアーキテクチャの成功により、PCおよびサーバー市場で劇的な復活を遂げました。
近年では、データセンター事業の急成長と、AI(人工知能)市場への本格参入が注目されています。特に「Instinct MI300」シリーズのAIアクセラレータは、NVIDIAの牙城に挑む製品として期待を集めています。
この記事では、AMDの2008年から2024年までの財務データを基に、その復活と成長の軌跡、ザイリンクスやペンサンドの買収による事業ポートフォリオの強化、そしてAI時代における成長戦略と今後の展望を、投資家の視点から分かりやすく解説します。
【免責事項および出典について】
- 本記事に掲載されている財務情報(特に2008年から2024年までの時系列データ)は、主にAMDが米国証券取引委員会 (SEC) に提出している年次/四半期資料および決算発表に基づいて作成しています。2024年通期は2025年2月4日付8-K、2025年Q1は2025年5月6日付8-K、2025年Q2は2025年8月5日発表の各資料を参照しています。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
- 記事内の成長率 (CAGRなど) や一部指標は、これらの公式データに基づき筆者が算出したものです。
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身でお願いします。
- AMD 投資家向け情報ページ: https://ir.amd.com/
- スマートフォンでご覧の場合、表は横にスクロールしてご確認ください。
会計年度について: アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の会計年度は暦年(1月1日から12月31日まで)に準じ、通常12月の最終土曜日に終了します。本記事で「20XX年」と表記する会計年度は、当該暦年の12月末に終了する年度を指します。
1. AMDの長期的な業績:復活と成長の軌跡
AMDの業績は、長年の苦境を乗り越え、特にリサ・スーCEOのリーダーシップのもとで劇的なV字回復と成長を遂げてきました。「Zen」アーキテクチャCPUの成功が大きな転換点となりました。
1.1. 売上、利益、キャッシュフローの推移
AMDの主要な業績の移り変わりを見てみましょう。2017年以降の力強い成長に注目です。
会計年度 | 売上高(百万$) | 売上成長率 | 営業利益/(損失)(百万$) | 純利益/(損失)(百万$) | 希薄化後EPS ($) |
---|---|---|---|---|---|
2008 | 5,810 | -0.3% | (2,961) | (3,098) | (5.14) |
2009 | 5,401 | -7.0% | (720) | (557) | (0.85) |
2010 | 6,494 | 20.2% | 535 | 471 | 0.66 |
2011 | 6,568 | 1.1% | 491 | 491 | 0.68 |
2012 | 5,422 | -17.4% | (1,056) | (1,183) | (1.60) |
2013 | 5,299 | -2.3% | (103) | (83) | (0.11) |
2014 | 5,506 | 3.9% | (155) | (403) | (0.53) |
2015 | 3,991 | -27.5% | (481) | (660) | (0.84) |
2016 | 4,272 | 7.0% | (372) | (491) | (0.60) |
2017 | 5,253 | 23.0% | 127 | (33) | (0.04) |
2018 | 6,475 | 23.3% | 451 | 337 | 0.34 |
2019 | 6,731 | 3.9% | 631 | 341 | 0.30 |
2020 | 9,763 | 45.0% | 1,369 | 2,490 | 2.06 |
2021 | 16,434 | 68.3% | 3,646 | 3,162 | 2.57 |
2022 | 23,601 | 43.6% | 1,264 | 854 | 0.53 |
2023 | 22,680 | -3.9% | 401 | 854 | 0.53 |
2024 | 25,800 | 13.8% | 1,900 | 1,600 | 1.00 |
CAGR (年平均成長率) | |||||
過去16年(2008-24) 売上高 | 9.8% | – | – | – | – |
過去7年(2017-24) 売上高 | 24.1% | – | – | – | – |
過去7年(2017-24) EPS | – | – | – | – | N/A (変動大) |
出典: 2024通期はAMD 8-K(2025/2/4: 2024年 売上$25.8B、営業利益$1.9B、純利益$1.6B、GAAP EPS $1.00)。
- 売上高: 2024年は$25.8Bと前年比+13.8%で再加速。データセンター(AI/GPU)が牽引。
- 営業利益・純利益・EPS: 2024年はGAAPベースで営業利益$1.9B、純利益$1.6B、EPS$1.00。
1.2. 収益性:グロスマージンの改善が焦点
会計年度 | 売上総利益率 (GM) | 営業利益率 (Non-GAAP) | 純利益率 (Non-GAAP) |
---|---|---|---|
2017 | 34.0% | 6.5% | 3.2% |
2018 | 38.3% | 10.1% | 7.6% |
2019 | 42.8% | 12.3% | 9.6% |
2020 | 44.6% | 17.1% | 14.2% |
2021 | 48.2% | 24.7% | 21.8% |
2022 | 45.2% (GAAP) / 51.6% (Non-GAAP) | 22.5% | 17.8% |
2023 | 46.0% (GAAP) / 50.3% (Non-GAAP) | 20.1% | 15.0% |
2024 | 50.0% (GAAP) / 53.0% (Non-GAAP) | — | — |
2025 Q1実績 (Non-GAAP) | 54.0% | — | — |
2025 Q2実績 (Non-GAAP) | 43.0%(一時的な関税費用影響) | — | — |
出典: 2024通期/指標はAMD 8-K(2025/2/4)、2025Q1はAMD 8-K(2025/5/6)、2025Q2は2025/8/5発表。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- 売上総利益率 (GM): 2024年はNon-GAAPで53%。2025年Q2は関税費用計上の一時要因で43%まで低下。通常水準は50%台前半。
2. 事業セグメントと製品ポートフォリオ:ザイリンクス買収で多様化
AMDの事業は、2022年のザイリンクス買収を経て、「データセンター」「クライアント」「ゲーミング」「エンベデッド」の4つの主要セグメントで構成されています。これにより、製品ポートフォリオとターゲット市場が大幅に拡大しました。
2.1. 主要セグメント別売上高 (百万ドル) – 2025 Q1実績
セグメント (2025 Q1) | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 (Non-GAAP) |
---|---|---|---|
データセンター | 3,700 | +約80% | — |
クライアント | 2,300 | +約85% | — |
ゲーミング | 922 | -約7% | — |
エンベデッド | 854 | -約25% | — |
出典: 2025年Q1決算記事・公式資料要約。セグメント売上は外部報道の集計値(決算当日の公式開示と一致)。
- データセンター: Instinct MI300シリーズとEPYCが牽引。Q1のセグメント売上は$3.7B。
- クライアント: PC市場の回復とAI PC需要で$2.3B。
- ゲーミング/エンベデッド: ゲーム機サイクル後半、エンベデッドの在庫調整影響。
3. AI戦略とデータセンター事業の拡大:MI300が牽引
AMDは、データセンター事業の成長とAI市場でのシェア獲得を最重要戦略と位置づけています。特にInstinct MI300シリーズのAIアクセラレータがその中核を担います。
- Instinct MI300シリーズの展開:
- MI300X: 大規模言語モデル(LLM)の学習/推論向けGPU。HBM3搭載。
- MI300A APU: CPU/GPU統合のデータセンターAPU。
- 2024年のAI GPU売上は$5B超に到達し、2024年のデータセンター売上は$12.6B(前年比+94%)。
- ROCm™ ソフトウェアエコシステムの強化: オープン戦略で主要フレームワーク対応を拡充。
- EPYC CPUとの連携: AIサーバー構成でCPU/GPUの最適化を提供。
- 事業強化のM&A: 2025年3月にZT Systemsを買収(データセンター・ソリューション強化)。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
4. 財務の健全性と成長投資
AMDは、ザイリンクスなどの買収を経ても健全性を維持し、研究開発投資を継続的に拡大しています。
4.1. 資産・負債・資本の推移
会計年度末 | 総資産(百万$) | 総負債(百万$) | 株主資本(百万$) | 自己資本率 | D/Eレシオ |
---|---|---|---|---|---|
2020 | 12,193 | 3,628 | 8,565 | 70.2% | 0.42 |
2021 | 18,313 | 4,178 | 14,135 | 77.2% | 0.30 |
2022 (Xilinx買収後) | 64,483 | 13,140 | 51,343 | 79.6% | 0.26 |
2023 | 66,491 | 12,605 | 53,886 | 81.0% | 0.23 |
2024 | 69,226 | 11,658 | 57,568 | 83.1% | 0.04 |
出典: 2024年の貸借対照表数値は年次報告の集計値に基づく公開データ。
- 財務基盤: 2024年末の自己資本比率は83%程度、D/Eは0.04と健全。
- 現金および短期運用資産: 2025年上期時点で約$5B規模。
4.2. キャッシュフローと研究開発投資
会計年度 | 営業CF(百万$) | 設備投資 (CapEx)(百万$) | フリーCF (FCF)(百万$) | 研究開発費 (R&D)(百万$) |
---|---|---|---|---|
2020 | 1,072 | 249 | 823 | 1,979 |
2021 | 3,521 | 372 | 3,149 | 2,840 |
2022 | 3,758 | 527 | 3,231 | 5,039 |
2023 | 1,135 | 530 | 605 | 5,669 |
2024 | — | — | — | — |
出典: AMD社 公式IR・年次資料等。2024年のCF/R&D詳細は年次報告に準拠(本表では簡略化)。
- フリーキャッシュフロー (FCF): 2023年は在庫/投資要因で一時的に縮小、2024年以降はAI中心に回復基調。
- 研究開発費 (R&D): CPU/GPU/アダプティブ/ソフトの全方位で投資継続。
5. 市場での強みと競争環境:Intel・NVIDIAとの覇権争い
AMDは、CPU市場ではIntelと、AIアクセラレータ/GPU市場ではNVIDIAと競合しています。EPYC/Ryzenでの性能優位や、MI300とROCmの強化で存在感を高めています。
6. 2025年の見通しと今後のポイント:データセンターとAIが成長の鍵
2025年はデータセンター(特にAI向け)を主軸に成長を継続。Q2実績とQ3ガイダンスは以下の通りです。
最新(2025年8月時点):
- 2025年Q2実績: 売上高$7.7B、Non-GAAP GM43%(関税費用の一時計上で低下)。
- 2025年Q3ガイダンス: 売上高$6.5B ± $0.3B、Non-GAAP GM約51%。
投資家が注目すべきポイントとリスク:
- Instinct MI300の市場浸透: 主要クラウド/エンタープライズでの採用拡大度合い。
- ROCmエコシステム: CUDA対抗としての開発者支持の強さ。
- CPU競争: 次世代Xeon/Arm系との競合。
- 規制/地政学: 輸出規制や関税の影響(Q2のGM低下要因)。
7. まとめ:AI市場への本格参戦で、次なる飛躍を目指すAMD
AMDは、EPYC/Ryzenで築いた地位を足場に、MI300とROCmでAIアクセラレータ市場に挑みます。2024年通期でデータセンター売上$12.6B・AI GPU売上$5B超と存在感を拡大。2025年は一時要因でGMが振れる局面もありますが、中長期の成長ドライバーは明確です。
本記事は、公開情報に基づき筆者の分析を加えたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。本分析は、AMDの公式IR情報および信頼できると考えられる情報源に基づいていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。常に最新の公式情報をご参照ください。
最終更新日時: 2025年8月31日