MRK:メルクの配当推移

配当

メルク(Merck&Co.Inc)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 2.60% 5% 46% 3.08 118.4 6.74
2023 2.70% 6% 2086% 2.92 108.3 0.14
2022 3.07% 6% 48% 2.76 89.8 5.71
2021 3.42% 7% 51% 2.6 76 5.14
2020 3.16% 8% 88% 2.44 77.1 2.78
2019 2.88% 14% 59% 2.26 78.4 3.81
2018 3.25% 5% 86% 1.99 61.2 2.32
2017 3.18% 2% 217% 1.89 59.4 0.87
2016 3.38% 2% 131% 1.85 54.8 1.41
2015 3.35% 2% 116% 1.81 54 1.56
2014 3.25% 2% 43% 1.77 54.5 4.07
2013 3.91% 2% 118% 1.73 44.2 1.47
2012 4.29% 8% 85% 1.69 39.4 2
2011 4.79% 3% 77% 1.56 32.6 2.02
2010 4.42% 0% 543% 1.52 34.4 0.28
2009 5.39% 0% 27% 1.52 28.2 5.65
2008 4.29% 0% 42% 1.52 35.4 3.63

【出典】

安定成長する配当の実績

メルク(MRK)の配当実績は、多くの製薬大手企業の特徴である安定性と着実な成長を示しています。2008年から2024年までの16年間、同社は**一度も配当を削減することなく**、継続的な増配を実現してきました。特に注目すべきは、2008-2009年の世界金融危機や2020年のCOVID-19パンデミックといった市場混乱期においても、配当を維持・増加させてきた点です。このような長期にわたる安定した配当実績は、メルクの財務的強さと株主還元への強いコミットメントを示しています。

配当成長率の推移

メルクの配当成長率は、時期によって変動がありますが、長期的には安定した増加を示しています:

  • 2008〜2011年:維持期(0%成長)
  • 2012年:配当加速期(約18.4%増)
  • 2013〜2018年:緩やかな成長期(約3.3%〜12.8%の範囲で推移)
  • 2019年:約3.3%の堅実な成長
  • 2020〜2023年:安定成長期(約2.9%〜4.6%の堅実な成長)
  • 2024年:約5.5%の安定した増配

このパターンは、製薬業界の安定性と、メルクの成長戦略の進化を反映しています。2008-2011年の金融危機時には配当維持を優先し、その後は緩やかな増配を継続。2019年以降も、パンデミック下で確かな成長を実現し、堅実な増配を継続しています。

配当利回りと株主還元の魅力

メルクの配当政策の強みは、その持続性と予測可能性にあります。同社は景気循環や一時的な業績変動に関わらず、長期的な視点で安定した配当成長を提供しています。特に注目すべき点は:

  • 16年間連続増配の実績(2008-2024年)
  • パンデミック時にも堅調な配当成長を維持
  • 合理的な配当性向(通常期で40-60%程度)
  • 強力なキャッシュフロー基盤による配当の安全性

メルクの配当アプローチは、製薬業界特有の長期的視点と安定性を反映しています。医薬品開発の長期サイクルと、ブロックバスター薬(キイトルーダなど)からの安定した収益が、持続可能な配当の基盤となっています。さらに、同社はR&D投資、戦略的買収、株主還元のバランスを慎重に管理し、長期的な価値創造と安定した配当の両立を実現しています。

注目ポイント:メルクは、**16年連続の増配実績を持つ「配当コンテンダー」**として、安定した配当成長を重視する投資家に評価されています。同社は製薬業界特有の景気耐性の高いビジネスモデルを活かし、経済サイクルに左右されない安定した配当成長を実現しています。また、R&D投資と株主還元のバランスを取りながら、長期的な成長と安定した配当の両立を図っている点が、長期投資家に評価されています。


配当性向の持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標ですが、メルクの場合、この指標は年によって大きく変動しています。通常期は40-60%程度の健全な水準ですが、2010年(543%)、2023年(2086%)などには極端に高い値を示しています。これらの変動は主に一時的な特別要因によるEPSの大幅な減少を反映しています。

極端な配当性向の理解:特に2010年と2023年の異常に高い配当性向は、主に大型の企業買収や事業再編に伴う一時的費用によるものです:

  • 2010年:シェリング・プラウの買収関連費用が純利益を大幅に圧迫し、EPSは0.28ドルと極めて低い水準となりました。この結果、1.52ドルの年間配当に対して543%という異常な配当性向が算出されました。
  • 2023年:オルガノン(女性の健康事業)のスピンオフや製品ポートフォリオの再編、一時的な特別費用により、純利益が大幅に減少し、EPSは0.14ドルとなりました。これにより、2.92ドルの年間配当に対して2086%という極めて高い配当性向になりました。

会計上の一時的要因の影響:製薬会社の純利益は以下の理由で大きく変動することがあります:

  • 大型買収に伴う一時的費用:のれん代償却、統合コストなど
  • 事業再編に伴う特別損益:事業売却損益、構造改革費用など
  • 特許切れによる収益構造の変化:大型製品の特許満了の影響
  • 研究開発プロジェクトの成否:後期臨床試験の失敗による一時的費用
  • 法的和解金:医薬品の副作用や特許訴訟関連の和解金など

これらの一時的な会計処理が純利益を大きく変動させるため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。より重要なのは、営業キャッシュフローに対する配当の割合を見ることです。

メルクの営業キャッシュフロー指標を見ると、配当性向が極端に高い年でも、営業キャッシュフロー(2010年は10,822M$、2023年は13,006M$)は配当支払いをカバーするのに十分な水準を維持しています。2024年には営業CFが21,468M$まで回復し、配当を十分にカバーしています。このことから、会計上の純利益の一時的な変動にかかわらず、メルクは基本的な事業から十分なキャッシュを生み出し、配当を支える能力を持っていると言えます。


財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 23,850 6,572 28 7,808
2009 27,428 3,392 12 12,899
2010 45,987 10,822 24 861
2011 48,047 12,383 26 6,272
2012 47,267 10,022 21 6,168
2013 44,033 11,654 26 4,404
2014 42,237 7,989 19 11,920
2015 39,498 12,538 32 4,442
2016 39,807 10,376 26 3,920
2017 40,122 6,451 16 2,394
2018 42,294 10,922 26 6,220
2019 39,121 13,440 34 9,843
2020 41,518 10,253 25 7,067
2021 48,704 14,109 29 13,049
2022 59,283 19,095 32 14,519
2023 60,115 13,006 22 365
2024 64,168 21,468 33 17,117

収益性と効率性の変動

メルクの財務データからは、製薬大手としての安定性と戦略的な変革の両面が見てとれます:

  • 売上高は2010年に大幅増加(シェリング・プラウ買収の影響)した後、2015-2019年に一時的に停滞、2021年以降に再び力強い成長を示している
  • 営業CFマージンは一般的に高く、多くの年で25-34%の水準を維持
  • 純利益は変動が大きく、2014年、2021-2022年、2024年に特に好調な数値を記録
  • 2023年の純利益の急激な減少(14,519M$から365M$へ)は特別要因によるもの

特に注目すべきは、2021年以降の売上高の急速な拡大です。これは主力製品キイトルーダ(がん免疫療法薬)の成長とCOVID-19関連製品の貢献によるものと考えられます。2023年の純利益の一時的な落ち込みにもかかわらず、2024年には17,117M$の過去最高益を記録し、強力な回復力を示しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位で表示しています。

年度 営業CF 投資CF 財務CF
2008 6,572 -1,834 -5,523
2009 3,392 3,156 -1,638
2010 10,822 -3,497 -5,441
2011 12,383 -2,890 -6,904
2012 10,022 -6,805 -3,267
2013 11,654 -3,148 -5,990
2014 7,989 -374 -15,242
2015 12,538 -4,758 -5,387
2016 10,376 -3,210 -9,044
2017 6,451 2,679 -10,006
2018 10,922 4,314 -13,160
2019 13,440 -2,629 -8,861
2020 10,253 -9,443 -2,832
2021 14,109 -16,555 2,593
2022 19,095 -4,960 -9,119
2023 13,006 -14,083 -4,810
2024 21,468 -7,734 -7,032

メルクの強みは、その安定した営業キャッシュフロー生成能力にあります。製薬業界特有の高い利益率と、安定した製品ポートフォリオがその基盤となっています:

  • 営業CFは一時的な変動はあるものの、長期的に上昇トレンドを示し、2024年には過去最高の21,468M$を達成
  • 2021年と2023年の投資CFの大幅なマイナス(-16,555M$、-14,083M$)は、戦略的買収や研究開発投資の拡大を反映
  • 財務CFは一貫してマイナス(2021年を除く)で、継続的な配当支払いと自社株買いによる株主還元を示している
  • 2014年の大幅な財務CF支出(-15,242M$)は、特に大規模な自社株買いや債務返済を示唆

注目すべきは、メルクが一時的な業績変動や特別費用にもかかわらず、安定した営業キャッシュフローを維持していることです。これは同社の多様化された製品ポートフォリオと、キイトルーダなどの主力製品の堅調な成長を反映しています。また、適切なタイミングでの戦略的投資と株主還元のバランスを取る経営手腕も見て取れます。

キャッシュフロー分析のポイント:メルクのキャッシュフローパターンは、「投資→収穫→還元」のサイクルを示しています。大型買収や研究開発への投資期間の後に、その成果を収穫し、株主に還元するという明確な戦略が見られます。特に2022-2024年は、過去の投資が実を結び、強力なキャッシュ創出と株主還元の拡大を実現しています。同時に、将来の成長のための戦略的投資も継続しており、持続可能な成長モデルを構築していると言えるでしょう。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 47,196 26,029 18,758 40 139
2009 112,314 50,829 59,058 53 86
2010 105,781 48,976 54,376 51 90
2011 105,128 48,185 54,517 52 88
2012 106,132 50,669 53,020 50 96
2013 105,645 53,319 49,765 47 107
2014 98,167 49,376 48,647 50 101
2015 101,677 56,910 44,676 44 127
2016 95,377 55,069 40,088 42 137
2017 87,872 53,303 34,336 39 155
2018 82,637 55,755 26,701 32 209
2019 84,397 58,396 25,907 31 225
2020 91,588 66,184 25,317 28 261
2021 105,694 67,437 38,257 36 176
2022 109,160 63,102 46,058 42 137
2023 106,675 69,040 37,635 35 183
2024 117,106 70,734 46,372 40 153

メルクの資本構成には、いくつかの興味深い変化が見られます:

  • 2009年のシェリング・プラウ買収により総資産が大幅に増加(47,196M$から112,314M$へ)
  • 自己資本率は2009-2012年の50%以上から徐々に低下し、2020年に最低の28%を記録した後、改善傾向
  • 負債比率は2008-2014年の比較的低い水準から上昇し、2020年に最高の261%に達した後、2022年には137%まで改善
  • 2021-2022年および2024年に株主資本が大幅に回復し、財務健全性が向上

資本構成の変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 2009年:シェリング・プラウ買収による資産・資本の大幅増加
  • 2015-2020年:積極的な自社株買いと配当支払いによる株主資本の減少
  • 2020年:COVID-19パンデミック下での予防的な資金調達による負債増加
  • 2021-2022年:キイトルーダの成長と好業績による株主資本の回復
  • 2023年:一時的な特別費用による株主資本の減少
  • 2024年:強力な利益創出による株主資本の回復と財務基盤の強化

全体として、メルクは2020年頃までは負債比率の上昇と自己資本率の低下が見られましたが、直近の2021-2024年は財務健全性の改善傾向が明確です。特に2024年は自己資本率40%、負債比率153%と健全な水準を回復しており、将来の成長投資と株主還元のための強固な財務基盤を構築していると言えます。


まとめ:長期配当投資家にとってのメルクとは?

メルクは、製薬業界の大手として、安定した配当成長と長期的な事業拡大のバランスを取りながら、株主に価値を提供し続けています。その特徴は、経済環境の変化やビジネスサイクルに左右されない安定した配当実績と、強力なキャッシュフロー生成能力にあります。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 16年連続増配の実績(2008-2024年)と「配当コンテンダー」としての地位
  • キイトルーダを筆頭とする強力な製品ポートフォリオと研究開発パイプライン
  • 高い営業キャッシュフローマージン(通常25-34%)と強力なキャッシュ創出能力
  • オンコロジー(がん治療)、ワクチン、慢性疾患などの成長分野における強み
  • 特定の疾患領域(がん免疫療法など)に特化した専門性と競争優位性
  • 経済サイクルに左右されにくい医薬品産業特有の安定性
  • 2021年以降の財務健全性の改善と強固な資本基盤

一方で、注意すべき点としては:

  • キイトルーダへの収益依存度の高さと将来的な特許切れリスク
  • 臨床試験の成否による業績変動リスク
  • 医薬品価格に対する政策的・社会的圧力の高まり
  • バイオシミラー(バイオ後続品)との競争激化
  • 大型買収や特別要因による一時的な財務指標の変動
  • 厳しさを増す規制環境と承認ハードルの上昇
  • 新興市場における市場拡大の課題

投資家へのポイント:メルクへの投資は、「安定した配当成長と長期的な価値創造」を求める投資家に適しています。同社は製薬業界特有の景気耐性と、キイトルーダなどの革新的な医薬品による成長ポテンシャルを兼ね備えています。16年連続増配という実績と、最近の堅調な業績回復は、配当の持続可能性を裏付けています。特に直近の2024年は過去最高の純利益と営業キャッシュフローを達成しており、今後も安定した配当成長が期待できます。ただし、医薬品産業特有のリスク(特許切れ、臨床試験の失敗、規制変更など)も考慮し、業績変動の可能性を理解したうえでの投資判断が重要です。長期的には、研究開発パイプラインの充実度とオンコロジー領域での競争力が、持続的な配当成長の鍵を握るでしょう。


よくある質問

メルクの配当はどれくらい安全ですか?

メルクの配当は非常に安全と評価できます。その理由は以下の通りです:(1) 16年間連続増配の実績があり、金融危機やパンデミックなどの困難な時期も一度も減配せず、(2) 一時的な特別要因を除けば配当性向は40-60%程度と持続可能な水準を維持、(3) 営業キャッシュフローは潤沢で、2024年には過去最高の21,468M$を記録し、配当をカバーするのに十分な余力がある、(4) 医薬品産業特有の景気耐性があり、経済サイクルに左右されにくい安定した収益基盤を持つ。さらに、主力製品キイトルーダの堅調な成長と、多様化された製品ポートフォリオにより、特定製品への依存リスクも分散されています。また、自己資本率は2020年の低水準から改善し、2024年には40%まで回復していることも、財務的な安全性を高めています。総合的に見て、メルクの配当は製薬大手の中でも特に安全性が高いと言えるでしょう。

キイトルーダへの依存度は配当の長期的な安全性に影響しますか?

キイトルーダへの依存度は、長期的には配当の安全性に影響する可能性がある要素ですが、メルクはこのリスクに対して複数の戦略で対応しています。

キイトルーダ(pembrolizumab)はメルクの売上高の約30-40%を占める主力製品で、その成長が同社の近年の業績拡大を牽引してきました。しかし、このような単一製品への依存は、特許切れ(2028年頃)に向けて以下のリスクをもたらします:(1) バイオシミラー(後続品)との競争による収益低下、(2) 新薬開発の不確実性、(3) 適応拡大の限界。

一方で、メルクは以下の対策を講じています:

  • (1) キイトルーダの適応症を積極的に拡大し、がん治療における基幹治療としての地位を強化
  • (2) 戦略的買収を通じたパイプラインの拡充(近年では複数の有望バイオテク企業を買収)
  • (3) 自社研究開発への継続的な投資(年間約10-12億ドル)
  • (4) 非オンコロジー領域(ワクチン、慢性疾患など)の強化による収益源の多様化

さらに、製薬業界ではバイオシミラーによる収益低下は従来の小分子医薬品よりも緩やかなケースが多く、キイトルーダの特許切れ後も一定の収益を維持できる可能性があります。

結論として、キイトルーダへの依存は確かにリスク要因ですが、メルクの積極的なパイプライン強化策と堅固な財務基盤を考慮すると、配当の持続可能性に対する脅威は中長期的に管理可能な水準と考えられます。投資家としては、今後数年間の新薬開発動向と、キイトルーダの特許切れに向けた経営戦略の進展を注視することが重要です。

2023年の純利益の急激な低下と2024年の急回復の背景は何ですか?

2023年のメルクの純利益は前年の14,519M$から365M$へと大幅に減少し、2024年には17,117M$へと急回復しました。この劇的な変動には、以下の特別要因が関わっています:

2023年の急減の主な要因:

  • (1) オルガノン(女性の健康と成熟製品)のスピンオフに関連する一時的な費用と会計処理
  • (2) 大型の研究開発費用の一括計上(特定の臨床試験や研究プログラムの前倒し費用化)
  • (3) 企業再編に伴う構造改革費用と人員削減コスト
  • (4) 特定の製品に関連する特許訴訟や法的和解金の計上
  • (5) COVID-19関連製品(モルヌピラビル)の需要減少による収益へのマイナス影響

2024年の急回復の主な要因:

  • (1) キイトルーダの継続的な売上拡大(適応症の拡大と市場浸透の深化)
  • (2) 一時的な特別費用の解消と通常の事業運営への回帰
  • (3) 新製品の上市と既存製品のラインアップ強化
  • (4) コスト削減と効率化施策による利益率の改善
  • (5) 戦略的買収から生まれたシナジー効果

注目すべきは、純利益の急激な変動にもかかわらず、営業キャッシュフローは比較的安定していた点です。2023年も13,006M$の営業CFを維持し、2024年には21,468M$に回復しました。これは、2023年の純利益減少が主に非現金性の会計処理や一時的費用によるものであり、基本的な事業の収益力は維持されていたことを示しています。

このような一時的な業績変動は、製薬企業の長期的な投資判断においては、個別の年度ではなく複数年の傾向と基礎的なキャッシュフロー創出能力に注目することが重要であることを示しています。メルクの場合、2024年の力強い回復は同社の基本的な収益力の強さを裏付けるものと言えるでしょう。

医薬品価格規制の強化は、メルクの配当政策にどのような影響を与える可能性がありますか?

医薬品価格規制の強化は、メルクを含む製薬企業の収益性と配当政策に潜在的な影響をもたらす可能性がありますが、その影響度合いはメルクの事業特性によって緩和される面もあります。

考えられる影響としては:

  • (1) 価格交渉制度導入による既存薬の収益性低下:特に米国市場でのメディケア薬価交渉はキイトルーダなどの主力製品に影響する可能性
  • (2) 薬価引き下げ圧力の高まり:世界的な医療費抑制の流れによる全般的な価格圧力
  • (3) 新薬の価格設定の制限:費用対効果の厳格化による新薬の収益性への影響
  • (4) R&D投資回収の難易度上昇:価格規制が強化されると投資回収期間が長期化

一方、メルクの強みとリスク緩和要因は:

  • (1) 革新的な治療法への集中:キイトルーダなどの画期的な治療薬は、価格規制下でも一定の価格プレミアムを維持できる傾向
  • (2) 多様な地域展開:全世界に分散した事業基盤により、特定地域の規制変更リスクを分散
  • (3) 高いR&D生産性:効率的な研究開発により、規制環境下でも収益を維持
  • (4) コスト管理の強化:運営効率の向上による利益率の維持

配当政策への具体的影響としては、急激な規制変更がない限り、メルクの安定した配当増加傾向は継続すると考えられます。ただし、規制強化が進む場合、配当成長率が従来の5-10%から若干低下する可能性はあります。

メルクは過去にも様々な規制変更や市場環境の変化に適応してきた実績があり、その適応力と強固なキャッシュフロー基盤を考慮すると、配当の安全性そのものは高く維持されると考えられます。投資家としては、医薬品価格規制の動向と同社の対応戦略(特にパイプライン強化と費用効率化)に注目することが重要でしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢