D(ドミニオンエナジー)今後の見通し(配当推移・成長率・安全性)

配当

ドミニオンエナジー(Dominion Energy, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

配当の安定性と成長性

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さらに、長期で指標を見ていきます。

以下の表では、EPSと1株配当は$(ドル)単位、配当成長率(表記は「成長率」)と配当性向は%単位で表示しています。

配当指標の推移

年度 EPS 1株配当 成長率 配当性向
2008 3.21 2.70 5.0 83
2009 2.49 2.82 4.0 113
2010 3.00 2.91 3.0 97
2011 3.83 2.97 2.0 78
2012 3.07 3.03 2.0 99
2013 3.76 3.09 2.0 82
2014 2.66 3.15 2.0 118
2015 4.05 3.24 3.0 80
2016 3.11 3.36 4.0 108
2017 4.36 3.49 4.0 80
2018 3.76 3.64 4.0 97
2019 5.06 3.75 3.0 74
2020 -0.57 3.45 -6.0
2021 4.12 2.52 -27.0 60
2022 1.33 2.67 6.0 185
2023 2.33 2.67 0.0 110
2024 2.43 2.67 0.0 105

配当増加の実績と変遷

ドミニオンエナジーの配当の歴史は明確に二つの期間に分けることができます。2008年から2019年までの安定的な配当増加期間と、2020年以降の再構築期間です。

2008年から2019年までの期間では、同社は12年連続で配当を増加させました。2008年の1株当たり2.70$から2019年には3.75$へと、年平均約3%の成長率で配当を拡大しました。この期間は、公益事業会社としての安定した収益基盤と株主還元への強いコミットメントを示していました。

しかし、2020年以降に大きな転換点がありました。2020年に配当は一時的に3.45$に減少(前年比6%減)し、さらに2021年には2.52$へと大幅に削減(前年比27%減)されました。この配当削減は、同社の事業再構築とバランスシート強化の戦略的決断によるものでした。2022年には2.67$へと若干増加(6%増)し、その後2023年と2024年は同水準を維持しています。

配当成長率の推移

配当成長率の推移には明確なパターンが見られます:

  • 2008〜2010年:年平均約4%の比較的高い成長
  • 2011〜2014年:年平均約2%とやや減速
  • 2015〜2018年:年平均約3.5%へと再加速
  • 2019年:3%の成長を維持
  • 2020〜2021年:事業再構築により大幅減少
  • 2022年以降:安定化するも横ばい傾向

この成長パターンは、同社の事業戦略の変遷を反映しています。特に2020年の配当削減は、COVID-19パンデミックの影響だけでなく、同社のビジネスモデル再構築、特に天然ガスパイプライン事業の売却と規制下の公益事業への集中という戦略的シフトを反映したものです。

注目ポイント:ドミニオンエナジーは2008年から2019年まで12年連続で配当を増加させましたが、2020年以降に事業再構築のために配当を削減しました。この戦略的決断は短期的には株主にとって痛みを伴いましたが、長期的には財務の健全性と将来の安定成長のための基盤強化を目指したものです。

配当性向の持続可能性

2024年の配当性向は105%と、依然として懸念される水準にあります。過去データを見ると、2009年(113%)、2014年(118%)、2016年(108%)、2022年(185%)、2023年(110%)と、複数年にわたり100%を超える配当性向を記録しています。2020年にはEPSがマイナスとなり、配当性向は計算不能となりました。

これらの高水準の配当性向は以下の要因によるものと考えられます:

  • 2009年:世界金融危機の余波による収益低下
  • 2014年:特別費用や事業調整コストの発生
  • 2016年:事業構造の変化と投資に関連する一時的コスト
  • 2020年:COVID-19パンデミックの影響と事業売却による大幅な損失
  • 2022-2024年:事業再構築過程での収益変動と再投資

一般論としては100%を超える配当性向が継続していることは、財務的に持続可能性が疑われますが、公益事業会社は安定収入(規制価格で電気などが売れる)と予測可能なキャッシュフローを持つため、会計上の利益以外の指標(例:営業キャッシュフロー等)を考慮した配当政策を取ることも可能です。とはいえ、配当性向が継続的に100%を超える現状は、将来の投資能力や財務柔軟性に影響を与える可能性があります。中長期的な持続可能性については注意が必要です。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は「同マージン」)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 13,207 3,328 25 1,362
2009 12,731 3,463 27 1,075
2010 14,272 4,511 32 1,320
2011 14,529 3,672 25 1,706
2012 17,912 5,244 29 1,768
2013 22,756 6,382 28 2,665
2014 22,509 6,586 29 1,883
2015 22,371 6,700 30 2,816
2016 22,743 6,863 30 2,152
2017 23,565 6,624 28 3,059
2018 24,521 7,186 29 2,666
2019 25,079 8,209 33 3,748
2020 14,172 5,227 37 -401
2021 11,419 4,037 35 3,399
2022 13,938 3,700 27 1,191
2023 14,393 6,572 46 2,031
2024 14,459 5,018 35 2,124

事業再構築と収益構造の変化

ドミニオンエナジーの財務データは、2019年から2020年にかけて劇的な変化を示しています:

  • 売上高は2019年の25,079M$から2020年には14,172M$へと約44%減少
  • 2020年には401M$の純損失を記録
  • 売上高は2019年のピークから2024年には約42%減少した14,459M$に留まる
  • しかし、営業CFマージンは2019年の33%から2023年には46%、2024年も35%と改善

この劇的な変化は、同社が2020年に発表した戦略的事業再構築によるものです。特に、ガス貯蔵・送電事業(Gas Storage and Transmission)をBerkshire Hathawayに約100億ドルで売却したことが大きな影響を与えました。この売却により売上高と総資産は大幅に減少しましたが、同時に負債削減と中核事業への集中が可能となりました。

注目すべきは営業CFマージンの向上です。事業規模は縮小したものの、残った事業の収益性は向上しており、特に2023年には46%という高水準の営業CFマージンを達成しています。これは、より高収益の規制公益事業に事業を集中させた戦略が徐々に成果を上げていることを示唆しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 3,328 4 -4,611 1,591
2009 3,463 4 -4,492 1,585
2010 4,511 30 -4,423 40
2011 3,672 -19 -4,434 1,202
2012 5,244 43 -6,197 267
2013 6,382 22 -4,978 -1,327
2014 6,586 3 -5,373 -678
2015 6,700 2 -5,277 -2,602
2016 6,863 2 -11,528 4,251
2017 6,624 -3 -8,442 1,782
2018 7,186 8 -10,060 2,960
2019 8,209 14 -11,957 3,730
2020 5,227 -36 -2,916 -2,333
2021 4,037 -23 -6,247 2,371
2022 3,700 -8 -6,746 2,979
2023 6,572 78 -7,207 595
2024 5,018 -24 -3,183 -1,771

ドミニオンエナジーのキャッシュフローには、以下のような特徴と変化が見られます:

  • 2008年から2019年まで、営業CFは概ね安定した成長を維持(3,328M$から8,209M$へ、約147%増加)
  • 2020年以降は営業CFが大きく変動:2020年に5,227M$へ減少、2022年には3,700M$まで落ち込み、2023年に6,572M$へ急回復するも、2024年には再び5,018M$へ減少
  • 2016年の投資CF(-11,528M$)と財務CF(4,251M$)の急増は、大型の買収または設備投資を反映
  • 2020年は投資CF(-2,916M$)が例年に比べ少額で、財務CF(-2,333M$)がマイナスとなっており、事業売却と負債返済の影響を示唆
  • 2024年は投資CF(-3,183M$)が減少し、財務CF(-1,771M$)がマイナスに転じており、投資抑制と負債返済の方針を示唆

2020年の営業CFは前年比36%減と大幅に減少しており、これは主に事業売却と新型コロナウイルスパンデミックの影響によるものです。2020年以降のキャッシュフロー変動は、同社の継続的な事業再構築を反映しています。特に2023年の営業CF急増(前年比78%増)と2024年の減少(前年比24%減)は、事業環境の変化や規制対応、そして投資サイクルの影響を受けている可能性があります。

投資CFは2016年から2023年まで高水準(年間約6,000M$から12,000M$)を維持していましたが、2024年には約3,183M$と大幅に減少しています。これは、主要な投資プロジェクトの完了または投資抑制策の実施を示唆しています。

キャッシュフロー分析のポイント:ドミニオンエナジーは事業再構築後、キャッシュフローの安定性を徐々に取り戻しつつあるものの、年による変動は依然として大きいと言えます。2023年の営業CF急増は好材料ですが、2024年の減少はキャッシュフローの安定性に関して警戒信号となる可能性があります。投資CFの減少は短期的には財務負担の軽減につながりますが、長期的な成長への影響には注意が必要です。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率(「ECR]と表記。「Equity Capital Ratio」の略)は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 ECR 負債比率 ROE
2008 53,077 31,926 20,988 40 152 6
2009 57,040 35,154 21,750 38 162 5
2010 59,090 36,437 22,522 38 162 6
2011 62,526 39,661 22,772 36 174 7
2012 113,856 72,915 40,863 36 178 4
2013 114,779 73,371 41,330 36 178 6
2014 120,557 79,658 40,875 34 195 5
2015 121,156 81,385 39,727 33 205 7
2016 132,761 91,720 41,033 31 224 5
2017 137,914 96,177 41,739 30 230 7
2018 145,392 101,558 43,817 30 232 6
2019 158,838 110,887 46,822 29 237 8
2020 95,905 69,444 26,461 28 262 -2
2021 99,590 70,672 28,918 29 244 12
2022 104,795 77,136 27,659 26 279 4
2023 109,080 81,513 27,567 25 296 7
2024 102,415 72,223 30,192 29 239 7

ドミニオンエナジーの資本構成と収益性には、以下のような特徴と変化が見られます:

  • 2012年に総資産が大幅に増加(59,090M$から113,856M$へ)し、株主資本も倍増(22,522M$から40,863M$へ)しています。これは、Progress Energyとの合併により、同社が大幅に事業規模を拡大したことによるものです。この合併は電力・ガス業界における当時最大級の取引の一つでした。
  • 2019年から2020年にかけて総資産が大幅に減少(158,838M$から95,905M$へ約40%減)しており、前述の事業売却の影響が明確に表れています。
  • 自己資本比率(ECR)は、2008年の40%から徐々に低下し、2023年には25%まで下がりましたが、2024年には29%へと回復しています。
  • 負債比率(総負債÷株主資本)は2008年の152%から2023年には296%まで上昇し、財務レバレッジが大幅に高まりましたが、2024年には239%へと改善しています。
  • ROE(自己資本利益率)は変動が大きく、2020年には純損失により-2%まで低下しましたが、2021年には12%まで回復。その後、2024年は7%と安定した水準を維持しています。
  • 2024年には総資産と総負債が減少する一方で株主資本が増加しており、財務体質の改善傾向が見られます。

2020年の大幅な資産減少は、ガス貯蔵・送電事業のBerkshire Hathawayへの売却によるものです。この売却により総資産と総負債が大幅に減少しましたが、自己資本比率は大きく改善せず、むしろ2022年から2023年にかけてさらに低下(26%から25%へ)しています。しかし、2024年には自己資本比率が29%へと回復しており、財務体質の改善に向けた取り組みの成果が表れ始めている可能性があります。

自己資本比率29%は、公益事業セクターとしては依然として健全な水準と言えます。しかし、2008年の40%と比較すると、財務の柔軟性は低下していると考えられます。また、負債比率は2008年の152%から2023年には296%まで上昇しており、財務レバレッジが大幅に高まっています。2024年には負債比率が239%へと改善していますが、依然として2008年当時と比較すると高水準です。2024年の財務比率改善は好材料ですが、継続的な改善が必要です。

ROE(自己資本利益率)については、事業再構築前の2019年に8%を記録した後、2020年に-2%まで低下し、2021年には12%と急回復しています。この変動は事業売却による一時的な損失と、その後の中核事業への集中による収益性向上を反映しています。2022年以降は4%から7%の範囲で推移しており、安定傾向にありますが、事業再構築前の水準には完全には回復していません。

まとめ:長期配当投資家にとってのドミニオンエナジーとは?

ドミニオンエナジーは、2020年以降の事業再構築を経て、より集中的かつ効率的な公益事業会社へと変貌しつつあります。配当投資家にとって、この変革は短期的な痛み(配当削減)をもたらしましたが、長期的な持続可能性を高める可能性があります。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 規制された公益事業としての安定した収益基盤
  • 2008年から2019年までの12年連続配当増加の実績
  • 事業再構築後の営業CFマージン向上(2023年には46%を達成)
  • 2024年における財務体質の改善兆候(自己資本比率の回復)
  • 中核事業への集中による効率性向上の可能性

一方で、注意すべき点としては:

  • 2020年以降の配当削減と成長停滞(2022年以降は2.67$で固定)
  • 依然として高い配当性向(2024年も105%)
  • 営業CFの年による大きな変動性(2020年は前年比36%減、2023年は前年比78%増、2024年は前年比24%減)
  • 過去のデータと比較して低下した自己資本比率(2008年の40%から2024年は29%)
  • 大幅に上昇した負債比率(2008年の152%から2024年は239%、ピーク時の2023年は296%)
  • ROEの不安定性(2019年8%→2020年-2%→2021年12%→2022年4%→2023-2024年7%)
  • 規制リスク:公益事業は規制産業であり、規制当局の決定が収益に直接影響を与える可能性
  • エネルギー転換リスク:脱炭素化に向けた投資と技術的課題が収益性に影響する可能性
  • 金利変動リスク:負債比率が高いため、金利上昇環境下ではコスト増加の影響を受けやすい
  • 事業再構築の移行期間中であり、戦略の成功は依然として不確実

投資家へのポイント:ドミニオンエナジーは、「再構築中の公益事業」として位置づけられます。2020年以降の配当削減と事業再編は、多くの配当志向投資家にとって失望をもたらしましたが、同時に持続可能な成長のための基盤づくりとも捉えられます。2024年のデータは、改善の兆しを示していますが、依然として高い配当性向や営業CFの変動性など、注視すべき課題も残っています。

長期配当投資家としては、以下の点に注目することをお勧めします:

  • 配当の回復と成長再開の兆候(現在の2.67$からの増加)
  • 配当性向の持続可能なレベル(80%以下)への改善
  • 営業キャッシュフローの安定した成長傾向
  • 自己資本比率の継続的な改善

これらの指標が改善されれば、ドミニオンエナジーは再び魅力的な配当株として位置づけられる可能性があります。しかし、現時点では「再建中」の企業として、慎重な評価と継続的なモニタリングが必要です。

よくある質問

ドミニオンエナジーの配当はどれくらい安全ですか?

現在の配当の安全性は懸念される水準にあります。2024年時点の配当性向は105%と、収益を上回る配当支払いを意味しています。また、営業キャッシュフローの変動性も高く、2024年には前年比24%減少しています。ただし、規制された公益事業の安定した収入源があり、短期的に配当が削減されるリスクは比較的低いと考えられます。しかし、中長期的には配当性向の改善がなければ、配当の持続可能性に疑問が残ります。

2020年の配当削減の主な理由は何ですか?

2020年から2021年にかけての配当削減は、主に以下の要因によるものでした:

  • ガス貯蔵・送電事業のBerkshire Hathawayへの売却(約100億ドル)に伴う事業規模と収益基盤の縮小
  • COVID-19パンデミックによる経済的影響と不確実性の増大
  • 財務体質の強化と負債削減を優先する経営方針のシフト
  • より持続可能な配当政策への移行(過去の高い配当性向の是正)

この決断は短期的には株主にとって不利なものでしたが、長期的な財務の健全性と事業の持続可能性を確保するための戦略的な判断でした。

将来の配当成長は期待できますか?

現時点では配当成長の見通しは不透明です。2022年以降、配当は2.67$で固定されており、高い配当性向(105%)を考慮すると、短期的な大幅増加は期待しにくい状況です。しかし、以下の条件が整えば、配当成長が再開される可能性があります:

  • EPSの継続的な改善(配当性向の低下)
  • 営業キャッシュフローの安定した成長
  • 財務体質のさらなる強化

経営陣は配当を重視する姿勢を示していますが、まずは持続可能な財務基盤の構築を優先していると考えられます。投資家としては、今後1-2年の財務指標の改善を注視することが重要です。

2023年から2024年にかけての営業キャッシュフロー減少の原因は何ですか?

2023年から2024年にかけての営業キャッシュフロー減少(前年比24%減)は、以下の要因が考えられます:

  • 燃料コストや運用コストの変動
  • 規制環境の変化や料金認可の遅延
  • 天候要因による需要変動
  • 一時的な運転資本の変動

詳細な分析には四半期報告書やアニュアルレポートの確認が必要ですが、公益事業会社の営業キャッシュフローは、規制環境、燃料コスト、天候条件などの外部要因に影響を受けやすい特性があります。この減少が一時的なものか、より構造的な問題を示すものかを判断するためには、今後数四半期のトレンドを観察する必要があります。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢