COP:コノコフィリップスの配当推移
コノコフィリップス(ConocoPhillips)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。
年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS | |||
平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | |||
2024 | 2.77% | -32% | 40% | 3.12 | 112.8 | 7.81 |
2023 | 4.14% | 3% | 51% | 4.61 | 111.4 | 9.06 |
2022 | 4.31% | 157% | 31% | 4.49 | 104.1 | 14.57 |
2021 | 2.97% | 5% | 29% | 1.75 | 59 | 6.07 |
2020 | 4.03% | 25% | -67% | 1.67 | 41.4 | -2.51 |
2019 | 2.19% | 16% | 21% | 1.34 | 61.2 | 6.4 |
2018 | 1.76% | 9% | 22% | 1.16 | 65.9 | 5.32 |
2017 | 2.22% | 6% | -151% | 1.06 | 47.8 | -0.7 |
2016 | 2.35% | -66% | -34% | 1 | 42.5 | -2.91 |
2015 | 5.06% | 4% | -82% | 2.94 | 58.1 | -3.58 |
2014 | 3.83% | -15% | 52% | 2.84 | 74.2 | 5.51 |
2013 | 5.20% | 27% | 46% | 3.36 | 64.6 | 7.38 |
2012 | 4.71% | 0% | 39% | 2.64 | 56 | 6.72 |
2011 | 4.84% | 23% | 29% | 2.64 | 54.6 | 8.97 |
2010 | 5.08% | 13% | 28% | 2.15 | 42.3 | 7.62 |
2009 | 5.50% | 2% | 65% | 1.91 | 34.7 | 2.94 |
2008 | 3.29% | 15% | -18% | 1.88 | 57.1 | -10.73 |
【出典】
変動する配当の実績
ConocoPhillips(以下、COP)の配当実績は、グローバルエネルギー市場の変動や同社の戦略的転換により特徴的なパターンを示しています。2008年から安定的に配当を増加させてきましたが、2014年から2015年にかけて原油価格の大幅下落を受け、2016年には配当を大幅に削減しました。その後、緩やかな回復期を経て、2022年には急激な増配を実施。これは原油価格の高騰とロシア・ウクライナ紛争によるエネルギー市場の好転を背景としています。しかし2024年には市場環境の変化に対応して再び削減(-32%)を行いました。
配当成長率と配当性向の特徴
COPの配当政策は原油市場のサイクルに強く連動しています。配当成長率は原油価格の高騰期には大幅なプラス(2022年)、下落期には減配(2016年、2024年)と大きく変動しています。これは同社が市場環境に応じて配当政策を柔軟に調整し、好況期には株主還元を強化、不況期には財務安定性を優先する戦略を反映しています。
配当性向も市場環境に連動して変動していますが、2018年以降は比較的安定した範囲内で推移しています。この水準は同社が収益の適切な部分を株主に還元しつつも、成長投資と財務健全性のバランスを取っていることを示しています。原油価格の変動によりEPSが大きく変動する年(特に2008年、2015〜2017年、2020年にはEPSがマイナス)もありますが、近年は配当政策の安定性が向上しています。
配当性向の変動は、原油・ガス価格の変動によるEPSの大きな変動を反映しています。特にEPSがマイナスとなった2008年、2015〜2017年、2020年には、計算上の配当性向の解釈には注意が必要です。2018年以降は配当性向が正常化し、21〜51%の範囲内で推移しています。
2022年以降の配当性向(31%、51%、39%)は、高い原油価格環境下でも節度ある配当政策を維持していることを示しており、収益の一部を将来の成長投資や負債削減にも配分していると考えられます。
財務パフォーマンスと成長見通し
以下の表では、売上高、営業CF、純利益の単位は百万ドル、営業CFマージンは%で表示しています。
主要財務指標の推移
年度 | 売上高 | 営業CF | 営業CFマージン | 純利益 |
---|---|---|---|---|
2008 | 246,931 | 22,658 | 9% | -16,349 |
2009 | 152,390 | 12,479 | 8% | 4,414 |
2010 | 63,335 | 17,045 | 27% | 11,358 |
2011 | 66,069 | 19,646 | 30% | 12,436 |
2012 | 62,004 | 13,922 | 22% | 8,428 |
2013 | 58,248 | 16,141 | 28% | 9,156 |
2014 | 55,517 | 16,569 | 30% | 6,869 |
2015 | 30,935 | 7,572 | 24% | -4,428 |
2016 | 24,360 | 4,403 | 18% | -3,615 |
2017 | 32,584 | 7,077 | 22% | -855 |
2018 | 38,727 | 12,934 | 33% | 6,257 |
2019 | 36,670 | 11,104 | 30% | 7,189 |
2020 | 19,256 | 4,802 | 25% | -2,701 |
2021 | 46,660 | 16,996 | 36% | 8,079 |
2022 | 80,575 | 28,314 | 35% | 18,680 |
2023 | 57,861 | 19,965 | 35% | 10,957 |
2024 | 56,450 | 20,124 | 36% | 9,245 |
収益性と効率性の変動
COPの財務データからは、エネルギー企業特有の景気循環性と事業戦略の変化が見てとれます:
- 売上高は2009年に前年比約-38%減少した後、2010年にはさらに前年比約-58%と大幅に減少。
- 2010年以降は比較的安定した事業規模を維持するも、2015年から2016年の原油価格暴落期に再び大幅減少
- 営業CFマージンは2010年以降大幅に改善し、特に2018年以降は30%以上の高水準を維持
- 純利益は極めて変動が大きく、2008年、2015〜2017年、2020年にはマイナスを記録
- 2021年以降は高収益期に移行し、特に2022年には過去最高の営業CF(28,314百万ドル)と純利益(18,680百万ドル)を達成
特に注目すべきは、2009年から2010年にかけての売上高の急減(-58%)ですが、これは事業再編や資産売却による影響と考えられます。この間も営業CFマージンは8%から27%へと大きく改善しており、より収益性の高い事業ポートフォリオへの転換が進んだことを示唆しています。
2015年から2017年の低迷期を経て、2018年以降はより強固な財務体質を持つ企業として再浮上し、営業CFマージンは30%以上の高水準を安定的に維持しています。これは原油・ガス価格の変動に対する耐性が高まったことを示しています。
安定したキャッシュフロー基盤
以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFの単位は百万ドル、成長率は%で表示しています。
年度 | 営業CF | 成長率 | 投資CF | 財務CF |
---|---|---|---|---|
2008 | 22,658 | -8% | -17,616 | -5,764 |
2009 | 12,479 | -45% | -9,935 | -2,855 |
2010 | 17,045 | 37% | 4,665 | -12,819 |
2011 | 19,646 | 15% | -7,015 | -16,305 |
2012 | 13,922 | -29% | -11,627 | -4,481 |
2013 | 16,141 | 16% | -6,305 | -7,133 |
2014 | 16,569 | 3% | -14,965 | -2,574 |
2015 | 7,572 | -54% | -8,655 | -1,429 |
2016 | 4,403 | -42% | -3,859 | 764 |
2017 | 7,077 | 61% | 7,762 | -12,356 |
2018 | 12,934 | 83% | -3,843 | -9,359 |
2019 | 11,104 | -14% | -6,618 | -5,229 |
2020 | 4,802 | -57% | -4,121 | -2,708 |
2021 | 16,996 | 254% | -8,544 | -6,335 |
2022 | 28,314 | 67% | -8,741 | -18,053 |
2023 | 19,965 | -29% | -12,000 | -8,661 |
2024 | 20,124 | 1% | -11,150 | -8,835 |
COPのキャッシュフローには、いくつかの重要なパターンが見られます:
- 営業CFは原油価格サイクルに連動した大きな変動を示し、2015-2016年と2020年に大幅に減少
- 2021年以降は再び力強い回復を見せ、特に2022年は過去最高の28,314百万ドルを記録
- 2010年と2017年には珍しく投資CFがプラスとなっており、大規模な資産売却があったことを示唆
- 財務CFは一貫してマイナス(2010年と2017年を除く)であり、積極的な株主還元と負債削減を反映
特に注目すべきは、2017年の投資CFが7,762百万ドルとプラスであることです。これは大規模な資産売却や事業再編があったことを示しており、同年の財務CFが-12,356百万ドルと大きなマイナスになっていることから、この資金を負債削減や自社株買いに充てた可能性があります。
2021年から2022年にかけての営業CFの急増(254%、67%)と、2022年の財務CFの大幅なマイナス(-18,053百万ドル)は、エネルギー価格高騰の恩恵を受けて、積極的に株主還元と負債削減を進めたことを示しています。
2023年以降は営業CFが安定し(約20,000百万ドル)、投資CFと財務CFもバランスの取れた水準で推移しており、より持続可能な事業サイクルに移行していると考えられます。
負債水準と資本構成
以下の表では、総資産、総負債、株主資本の単位は百万ドル、自己資本率は%で表示しています。
年度 | 総資産 | 総負債 | 株主資本 | 自己資本率 | 負債比率 |
---|---|---|---|---|---|
2008 | 142,865 | 86,600 | 55,165 | 39% | 157% |
2009 | 152,138 | 89,525 | 62,023 | 41% | 144% |
2010 | 156,314 | 87,205 | 68,562 | 44% | 127% |
2011 | 153,230 | 87,481 | 65,239 | 43% | 134% |
2012 | 117,144 | 68,717 | 47,987 | 41% | 143% |
2013 | 118,057 | 65,565 | 52,090 | 44% | 126% |
2014 | 116,539 | 64,266 | 51,911 | 45% | 124% |
2015 | 97,484 | 57,402 | 39,762 | 41% | 144% |
2016 | 89,772 | 54,546 | 34,974 | 39% | 156% |
2017 | 73,362 | 42,561 | 30,607 | 42% | 139% |
2018 | 69,980 | 37,916 | 31,939 | 46% | 119% |
2019 | 70,514 | 35,464 | 34,981 | 50% | 101% |
2020 | 62,618 | 32,769 | 29,849 | 48% | 110% |
2021 | 90,661 | 45,255 | 45,406 | 50% | 100% |
2022 | 93,829 | 45,826 | 48,003 | 51% | 95% |
2023 | 95,924 | 46,645 | 49,279 | 51% | 95% |
2024 | 122,780 | 57,984 | 64,796 | 53% | 89% |
COPの資本構成には、長期的な財務体質の改善が見られます:
- 総資産は2010年にピーク(156,314百万ドル)を記録した後、2020年まで減少傾向
- 2021年以降は再び増加に転じ、2024年には122,780百万ドルと回復
- 自己資本率は2008年の39%から一貫して改善し、2024年には53%に到達
- 負債比率は2008年の157%から2024年には89%へと大幅に低下
特に2017年から2019年にかけては資産規模が大幅に縮小する一方で、自己資本率は42%から50%へと改善しています。これは不採算資産の売却や事業再編を通じて、より強固な財務体質の構築を優先した結果と考えられます。
2021年以降の資産規模の拡大は、原油価格の高騰による収益性向上と新規投資の再開を反映していますが、同時に自己資本率も向上しており(2021年の50%から2024年の53%へ)、健全な拡大を実現しています。
負債比率の一貫した低下は、COPが財務の安定性を重視し、原油価格の変動に対する耐性を高める戦略を採用していることを示しています。特に2019年以降は負債比率が100%程度で推移しており、バランスの取れた資本構成を維持しています。
まとめ:長期配当投資家にとってのCOPとは?
ConocoPhillipsは、エネルギー企業としての収益力と財務安定性のバランスを重視する経営姿勢を示しています。過去の配当実績から見ると、市場環境の変化に応じて柔軟に配当政策を調整する特徴があり、原油価格の高騰期には積極的な株主還元、低迷期には財務安定性を優先する傾向があります。
同社の強みは以下の点にあります:
- 高い営業CFマージン(近年は35%前後)を維持する収益構造
- 原油価格の回復期における急速な収益改善能力
- 2017年以降の一貫した財務体質の改善(負債比率の低下、自己資本率の向上)
- 市場環境に応じた柔軟な資本配分戦略
- 2018年以降の安定した配当性向(21%〜51%)
一方で、注意すべき点としては:
- 配当の安定性に欠け、過去に大幅な削減実績あり(2016年-66%、2024年-32%)
- 原油・ガス価格に大きく左右される収益構造
- 純利益の変動性が高く、過去に複数回のマイナス計上
- エネルギートランジションに伴う長期的な事業モデル転換リスク
- 炭素税や排出規制の強化による収益性への潜在的影響
COPは、2017年以降より保守的な財務戦略に転換し、負債削減と自己資本比率の向上を優先する姿勢を見せています。これにより原油価格の変動に対する耐性は高まっていますが、同時に配当政策においても変動性を許容する柔軟なアプローチを維持しています。
投資家へのポイント:COPへの投資は、「魅力的なリターン・プロファイルと適度なリスク」の特性を持っています。同社は過去の原油価格低迷期の教訓を活かし、より強固な財務体質を構築することで、市場変動に対する耐性を高めています。配当投資家としては、安定した増配を期待するよりも、原油価格サイクルに応じた配当の変動を前提とした投資アプローチが適切です。特に、営業CFマージンの高さと自己資本比率の向上に注目し、原油価格の変動に左右されにくい財務基盤の強さを評価する視点が重要です。長期的には、エネルギートランジションへの対応戦略の成否が同社の持続可能性を左右するでしょう。
よくある質問
COPの配当はどれくらい安全ですか?
COPの配当安全性は、公益事業などと比較すると変動性が高いものの、同業他社と比較すると比較的堅実です。過去に大幅な配当削減実績(2016年-66%、2024年-32%)がありますが、これらは原油価格の急落や市場環境の変化に対応したものです。現在の配当性向は約39%と持続可能な水準にあり、営業CFも安定していることから、短期的な配当削減リスクは限定的と考えられます。また自己資本比率の向上(2024年53%)と負債比率の低下(同89%)により、財務安定性は大きく改善しています。ただし、原油価格の大幅な下落や長期的なエネルギートランジションの進展によっては、再び配当政策の見直しが行われる可能性があることに留意すべきです。
2010年の売上高の急減(-58%)の背景は何ですか?
2010年の売上高の急減(-58%)は、大規模な事業再編や資産売却が主な要因と考えられます。注目すべきは、売上高が大幅に減少したにもかかわらず、営業CFは前年比37%増の17,045百万ドル、営業CFマージンも8%から27%へと大幅に改善していることです。また、この年は投資CFが珍しくプラス(4,665百万ドル)となっており、大規模な資産売却があったことを示唆しています。同時に財務CFも大きなマイナス(-12,819百万ドル)となっており、資産売却で得た資金を負債削減や株主還元に充てたと考えられます。この戦略的転換により、COPはより収益性の高い事業ポートフォリオに集中し、財務体質の改善と株主価値の向上を図ったと推測されます。これは同社の長期的な事業戦略における重要な転換点だったと言えるでしょう。
2017年の投資CFがプラスとなっている理由は何ですか?
2017年の投資CFが7,762百万ドルとプラスになっている理由は、大規模な資産売却プログラムの実施によるものです。この期間はエネルギー市場が原油価格の低迷から回復へ向かう過渡期であり、COPは不採算資産や非中核事業の売却を通じて、より収益性の高い事業ポートフォリオへの集中を図りました。この資産売却で得た資金は、負債削減や株主還元に充てられたと考えられ、実際に同年の財務CFは-12,356百万ドルと大きなマイナスとなっています。この戦略転換の結果、総資産は2016年の89,772百万ドルから2017年には73,362百万ドルへと18%減少しましたが、その後の財務指標の改善(自己資本率の上昇、負債比率の低下)や営業CFマージンの向上につながっています。この事業再編は、COPがより焦点を絞った効率的な企業へと変貌するための重要なステップだったと評価できます。
近年の自己資本比率の上昇傾向は将来の配当にどのような影響を与えるでしょうか?
COPの自己資本比率は2016年の39%から2024年には53%へと一貫して上昇しており、これは将来の配当政策にポジティブな影響を与える可能性があります。高い自己資本比率は財務的な柔軟性と安定性を示しており、原油価格の変動に対する緩衝材として機能します。この財務体質の強化により、COPは市場環境の悪化時でも配当を維持する能力が向上し、特に短期的な原油価格の下落に対する耐性が高まっています。また、負債比率の低下(2016年の156%から2024年の89%へ)とあわせて、資本コストの低減にもつながり、より効率的な資本配分が可能となります。ただし、COPの配当政策は依然として原油価格サイクルの影響を受けやすく、市場環境の大幅な悪化時には配当の見直しが行われる可能性はありますが、財務基盤の強化により、そのような調整の必要性や規模は過去と比較して小さくなると期待できます。長期的には、安定した財務基盤を背景に、原油価格の回復局面ではより積極的な株主還元を実施する余地が広がるでしょう。
【出典】