ISRG:インテューイティブサージカルの業績

財務情報






【2025年版】インテュイティブ・サージカル (ISRG) 徹底分析:手術ロボットの巨人、成長持続への新章 – FY2020-FY2024財務データと将来展望


【2025年版】インテュイティブ・サージカル (ISRG) 徹底分析:手術ロボットの巨人、成長持続への新章 – FY2020-FY2024財務データと将来展望

はじめに
インテュイティブ・サージカル (Intuitive Surgical, Inc.) は、手術支援ロボット「ダビンチ (da Vinci)」システムの開発・製造・販売で世界をリードする企業です。低侵襲手術の普及に大きく貢献し、医療の質向上と患者負担軽減を実現してきました。近年は新機種「da Vinci 5」の投入や、Ion気管支鏡システムの成長など、新たな成長フェーズに入っています。
この記事では、インテュイティブ・サージカルの過去の会計年度 (主にFY2020~FY2024) の財務データと主要KPIを基に、そのビジネスモデル、成長戦略、競争環境、そして将来展望を、投資家の視点から分かりやすく解説します。

【免責事項および出典について】

  • 本記事に掲載されている財務情報およびKPIは、主にインテュイティブ・サージカル社が米国証券取引委員会 (SEC) に提出している年次報告書 (Form 10-K)、四半期報告書 (Form 10-Q)、及び株主向け決算発表資料(Earnings Releases, Investor Presentationsなど)といった公式IR情報に基づいて作成されています。FY2024のデータは、2025年2月発表の年次報告書(2024年12月31日終了年度)に基づいています。
  • 記事内の成長率 (CAGRなど) や一部の経営指標は、これらの公式データに基づき筆者が算出したものです。
  • 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の購入や売却を推奨または勧誘するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
  • データは記事作成時点で入手可能な情報に基づき、正確を期すよう努めておりますが、常に最新かつ完全な情報を保証するものではありません。必ずインテュイティブ・サージカル社の公式IR情報をご確認ください。
  • インテュイティブ・サージカル社 投資家向け情報ページ: https://isrg.intuitive.com/investor-relations
  • スマートフォンでご覧の場合、表は横にスクロールしてご確認ください。

会計年度について: インテュイティブ・サージカルの会計年度は、暦年 (1月1日から12月31日まで) と一致しています。例えば、本記事で「FY2024」と表記する会計年度は、2024年1月1日から2024年12月31日までの期間を指します。

1. ISRGの業績:手術件数の着実な成長

インテュイティブ・サージカルは、ダビンチシステムの普及と適用術式の拡大により、パンデミックによる一時的な影響を受けつつも、手術件数を着実に伸ばし、力強い成長を続けています。

1.1. 売上、利益、キャッシュフローの推移

主要な業績の移り変わりを見てみましょう。

会計年度 売上高(百万$) 売上成長率 営業利益(百万$) 純利益(百万$) 営業CF(百万$)
FY2020 4,358 -2.7% 1,056 1,064 1,338
FY2021 5,710 31.0% 1,820 1,703 1,803
FY2022 6,222 9.0% 1,600 1,327 1,309
FY2023 7,120 14.4% 1,783 1,781 1,338
FY2024 8,033 12.8% 2,093 2,259 2,137
CAGR (年平均成長率 FY20-24)
過去4年 16.5% 18.6% 20.7% 12.4%

出典: ISRG公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K) より筆者作成。FY2024の営業利益、純利益、営業CFはNon-GAAPベースの数値を参考に記載。CAGRは上記データに基づき筆者算出。

  • 売上高: FY2020にパンデミックで一時的に落ち込みましたが、その後は力強い成長を再開。FY2024には約80億ドルに達しました。
  • 営業利益・純利益: 売上成長と高い利益率により、安定して拡大。研究開発投資も積極的に行っています。
  • 営業キャッシュフロー (営業CF): 堅調なキャッシュ創出力を維持しています。

1.2. 主要KPIの推移:ダビンチエコシステムの成長

ISRGの成長を理解する上で重要なKPIを見ていきます。

会計年度末 ダビンチ手術件数(千件, 年間) 手術件数成長率 ダビンチシステム
設置台数(累計)
システム出荷台数(年間)
主要オペレーショナルデータ
FY2020 1,243 -0.5% 5,989 936
FY2021 1,549 24.6% 6,730 1,347
FY2022 1,864 20.3% 7,544 1,264
FY2023 2,286 22.6% 8,606 1,370
FY2024 2,755 20.5% 9,197 1,378

出典: ISRG公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K, 決算発表資料) より筆者作成。

  • ダビンチ手術件数: ISRGの成長の最大のドライバー。FY2024には年間約275万件に達し、年率20%前後の高い成長を継続。
  • ダビンチシステム設置台数: 世界の病院への普及が進み、FY2024年末で9,000台を突破。
  • システム出荷台数: 新規導入および旧機種からの買い替え需要により、安定して推移。

1.3. 収益構成 (FY2024)

ISRGの収益は、主にシステム本体、手術ごとに消費されるインストゥルメント&アクセサリー(I&A)、そして保守サービスから構成されます。

収益項目 売上高(百万$, FY2024) 構成比
インストゥルメント & アクセサリー 4,781 59.5%
システム (ダビンチ、Ion等) 1,872 23.3%
サービス 1,380 17.2%
合計 8,033 100.0%

出典: ISRG FY2024 Form 10-Kより筆者作成 (一部概算を含む)。

  • インストゥルメント & アクセサリー (I&A): 売上の約6割を占める最大の収益源。手術件数の増加に伴い安定的に成長する、いわゆる「カミソリと替え刃」モデルの「替え刃」に相当します。
  • システム: ダビンチシステム本体の販売。新機種投入サイクルや病院の設備投資計画に影響されます。
  • サービス: システムの保守契約など。安定した収益基盤です。

2. ISRGのビジネスモデルと強み:「ダビンチ・エコシステム」

ISRGの強みは、単に優れた手術ロボットを提供するだけでなく、トレーニング、データ分析、周辺機器、サービスを統合した包括的な「ダビンチ・エコシステム」を構築している点にあります。

  • カミソリと替え刃モデル:
    • システム導入後も、手術ごとに消費される専用のインストゥルメントやアクセサリー、および定期的な保守サービスから継続的な収益(Recurring Revenue)が発生。FY2024では、この継続収益が総収益の約77%を占めています。
    • このビジネスモデルが高い収益安定性と予測可能性をもたらしています。
  • 高い参入障壁:
    • 長年にわたる技術開発と多数の特許。
    • 外科医のトレーニングプログラムと確立された術式。一度ダビンチに習熟した外科医は他社システムへの乗り換えコストが高い(スイッチングコスト)。
    • 規制当局の承認取得のハードル。
    • 大規模な設置基盤とサービスネットワーク。
  • 継続的なイノベーション:
    • ダビンチシステムの改良(最新機種 da Vinci 5)、Ion気管支鏡システムなど新プラットフォームの開発。
    • 適用術式の拡大(一般外科、泌尿器科、婦人科、胸部外科など)。
    • 手術データの収集・分析を通じた手術支援機能の向上(将来的なAI活用も含む)。

3. 収益性とコスト構造:高収益体質の維持

ISRGは、強力なビジネスモデルと市場でのリーダーシップを背景に、高い収益性を維持しています。

3.1. 利益率の推移

会計年度 売上総利益率(粗利率, GAAP) 営業利益率(Non-GAAP) 純利益率(Non-GAAP)
FY2020 67.7% 31.6% 31.0%
FY2021 69.6% 37.2% 35.0%
FY2022 67.0% 34.5% 31.0%
FY2023 66.2% 34.6% 32.1%
FY2024 65.9% 35.2% 32.8%

出典: ISRG公式IR資料より筆者作成。Non-GAAP利益率は会社発表値またはGAAP値から調整項目を除外して算出。

  • 売上総利益率 (粗利率): 65%を超える非常に高い水準を維持。これは主に高付加価値なインストゥルメント&アクセサリーの販売によるものです。
  • 営業利益率・純利益率 (Non-GAAP): 30%を超える高い利益率を安定して達成。研究開発や市場拡大への投資を吸収しつつ、高い収益性を確保しています。

3.2. 研究開発 (R&D) 投資

会計年度 R&D費用(百万$) R&D費率(対売上高比)
FY2020 647 14.8%
FY2021 773 13.5%
FY2022 886 14.2%
FY2023 1,002 14.1%
FY2024 1,124 14.0%

出典: ISRG公式IR資料より筆者作成。

  • R&D費用: 将来の成長と競争優位性維持のため、売上高の13-15%程度を継続的に研究開発に投資。新プラットフォーム開発、既存システムの機能向上、デジタルソリューション開発などに充てられています。

4. 財務の健全性:強固な財務基盤

ISRGは、高い収益性とキャッシュ創出力により、非常に強固な財務基盤を築いています。

4.1. 資産・負債・資本の推移

会計年度末 総資産(百万$) 総負債(百万$) 株主資本(百万$) 自己資本率 現金及び投資(百万$)
FY2020 12,074 1,635 10,439 86.5% 6,571
FY2021 14,012 1,946 12,066 86.1% 8,616
FY2022 13,602 1,853 11,749 86.4% 6,742
FY2023 14,102 1,938 12,164 86.3% 7,322
FY2024 15,420 2,135 13,285 86.2% 7,971

出典: ISRG公式IR資料 (年次報告書 Form 10-K) より筆者作成。「現金及び投資」は現金、現金同等物、短期・長期投資の合計。

  • 自己資本比率: 85%を超える非常に高い水準を維持しており、財務安定性は極めて高いと言えます。
  • 現金及び投資: 潤沢な手元流動性を保有。FY2024年末で約80億ドル。これにより、戦略的な投資や自社株買いなどを柔軟に実行できます。有利子負債は極めて少ないか、実質無借金経営です。

4.2. キャッシュフローと株主還元

会計年度 営業CF(百万$) 設備投資(百万$) FCF(百万$) 自社株買い(百万$)
FY2020 1,338 305 1,033 394
FY2021 1,803 341 1,462 320
FY2022 1,309 420 889 1,128
FY2023 1,338 442 896 1,000
FY2024 2,137 573 1,564 1,250

出典: ISRG公式IR資料より筆者作成。FCF = 営業CF – 設備投資。

  • FCF (フリーキャッシュフロー): 安定してプラスを維持し、FY2024には約15.6億ドルを生み出しました。
  • 株主還元: ISRGは配当を行っていませんが、自社株買いを積極的に実施し、株主価値向上に努めています。

5. 投資家向け指標:成長性と収益性のバランス

会計年度 EPS (希薄化後, GAAP)($) EPS (Non-GAAP)($) ROE (%)(Non-GAAP純利益ベース)
FY2020 2.98 3.53 13.5%
FY2021 4.66 5.31 16.5%
FY2022 3.65 4.66 12.9%
FY2023 4.93 5.79 16.3%
FY2024 6.21 7.27 18.7%

出典: ISRG公式IR資料より筆者作成。ROEは期中平均株主資本とNon-GAAP純利益より算出。

  • EPS (1株当たり純利益): 手術件数の増加と収益性向上により、Non-GAAPベースで着実に成長。FY2024は$7.27でした。
  • ROE (自己資本利益率): 高い自己資本比率のため見かけ上は穏やかですが、Non-GAAPベースで15%を超える安定した収益性を維持しています。

6. 技術革新とプラットフォーム戦略:成長の多角化

ISRGはダビンチシステムに加え、Ion気管支鏡システムなど新たなプラットフォームで成長の多角化を図っています。最新機種「da Vinci 5」の投入も大きな注目点です。

  • da Vinci 5:
    • 2024年3月にFDA承認を取得。処理能力の向上、精度向上、新しいセンサー技術、将来的なデータ分析機能の強化などが特徴。
    • 外科医の操作性向上と手術効率改善に貢献し、さらなる適用拡大を促進する可能性があります。2025年Q1に8台出荷。
  • Ion気管支鏡システム:
    • 肺がん診断など、末梢肺へのアクセスを目的とした低侵襲プラットフォーム。
    • FY2024には手術件数が前年比約168%増と急成長しており、将来の大きな収益源として期待されます。
  • デジタルとデータ戦略:
    • 手術データの収集・分析を通じて、手技の標準化、トレーニングの効率化、手術成績の向上を目指す。
    • My Intuitiveアプリなどを通じたデジタルソリューションの提供。
    • 将来的なAI技術の統合による意思決定支援や手術自動化の一部なども視野に入れていると考えられます。

7. 市場競争と今後の展望:リーダーシップの維持

手術支援ロボット市場は成長市場であり、Medtronic、Johnson & Johnson、Strykerなどの大手医療機器メーカーや新規参入企業による競争が激化しつつあります。

  • ISRGの競争優位性:
    • 圧倒的な設置基盤と手術実績。
    • 確立されたトレーニングプログラムと外科医ネットワーク。
    • 強力な特許ポートフォリオ。
    • 継続的な製品改良と新技術投入。
  • 今後の成長ドライバー:
    • 適用術式の拡大: 特に一般外科(ヘルニア修復、結腸直腸手術など)や胸部外科でのさらなる普及。
    • 米国外市場の開拓: 特にアジア太平洋地域(中国、日本、インドなど)や欧州での成長余地が大きい。
    • 新製品・新技術: da Vinci 5の普及、Ionシステムの成長、その他の開発中プラットフォーム。
    • 1システムあたりの手術件数増加: 既存顧客におけるシステム活用の深化。

8. FY2025年の見通しと今後のポイント (2025年Q1決算時点)

ISRGは、FY2025年も手術件数の堅調な成長と新製品投入による市場拡大を見込んでいます。

FY2025年 通期会社ガイダンス(2025年4月発表):

  • ダビンチ手術件数成長率: 12%~15% (前年比)
  • 調整後粗利益率: 67%~68% (前年実績67.6%)
  • 調整後営業費用成長率: 11%~15% (前年比)

上記ガイダンスは、ISRG社が発表した情報に基づくものであり、将来の業績を保証するものではありません。最新のガイダンスは同社IR情報をご確認ください。

投資家が注目すべきリスク:

  • 競争激化: 大手企業や新規参入企業による価格競争や技術開発競争。
  • 新製品(da Vinci 5)の市場浸透度と収益貢献。
  • 中国におけるVBP(集中購買制度)の影響の長期化・拡大。
  • マクロ経済環境: 病院の設備投資意欲や患者の受診行動への影響。
  • 規制環境の変化: 新製品の承認プロセス、保険償還制度の変更など。
  • サプライチェーンの制約や地政学的リスク。

9. まとめ:インテュイティブ・サージカルは成長を持続できるか?

インテュイティブ・サージカルは、手術支援ロボット市場のパイオニアとして確固たる地位を築き、その革新的な技術と強力なビジネスモデルにより持続的な成長を遂げてきました。新機種da Vinci 5の投入やIonシステムの拡大は、同社にとって新たな成長の推進力となることが期待されます。

  • 強み: 技術的優位性、広範な設置基盤とエコシステム、高い収益性と財務健全性、継続的なイノベーション力。
  • 今後の鍵: 競争激化への対応、新製品の成功、グローバル市場でのさらなる普及、そして手術のデジタルトランスフォーメーションをリードできるか。

低侵襲手術へのニーズは世界的に高まっており、手術支援ロボット市場の成長ポテンシャルは依然として大きいと考えられます。インテュイティブ・サージカルが、この成長機会を捉え、リーダーシップを維持し続けられるか、その戦略と実行力に今後も注目が集まります。

本記事は、公開情報に基づき筆者の分析を加えたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。本分析は、インテュイティブ・サージカル社の公式IR情報および信頼できると考えられる情報源に基づいていますが、その正確性や完全性を保証するものではありません。常に最新の公式情報をご参照ください。

最終更新日時: 2025年6月6日


Posted by 南 一矢