日本の長者番付一覧:2026年版資産家(お金持ち)ランキング 1位~50位

政治経済

日本の資産家のランキング(TOP50まで)をフォーブス誌のデータを使って確認してみます。

2026年の6月9日にフォーブス誌は日本の長者番付を更新。過去データを参照しながら資産の増減を把握します。

まず、上位3人の資産額は以下の通りでした。

  1. 孫正義:12.7兆円
  2. 柳井正:10.3兆円
  3. 滝崎武光:3.76兆円

日本の国税庁は「高額納税者ランキング」を2005年以降、公表しなくなったので、芸能人やスポーツ選手などの高額納税者が誰かも分かりにくくなりました。そのため、フォーブスの総資産ランキングは貴重な情報源になっています。

【*高額納税者ランキングとの違い】

  • 評価基準:長者番付は「総資産額」、高額納税者ランキングは「所得税額」が基準です。資産が多くても、その年の所得が少なければ高額納税者ランキングには載りません。
  • 情報源:長者番付はフォーブス誌による調査、高額納税者ランキングは国税庁の公式発表でした。

この違いにより、スポーツ選手や芸能人など、その年の所得が高い人々が上位になりやすかった高額納税者ランキングに対し、長者番付は大企業の創業者や経営者が名を連ねる傾向にあります。

それでは、日本のお金持ちのトップ層は、どんな顔ぶれなのでしょうか。

日本の富豪・資産家ランキング TOP50(2026年版)

・出所は先述のフォーブス誌。
・フォーブスの長者番付は、単に年収や納税額を基にしておらず、本人や家族、財団が保有する株式、不動産、芸術品、現金など、あらゆる資産を評価して算出している。非公開企業の価値評価も含まれるため、より実態に近い「総資産」のランキングだとも言える
(※は一家・親族を含む。高原豪久のような二代目経営者の場合、事業継承前のデータは父の高原慶一朗の資産額を記載。H=ホールディングス)。

順位 氏名 資産額 企業名 年齢
1 孫 正義 12兆7000 ソフトバンク 68
2 柳井 正 10兆3000 ファーストリテイリング 77
3 滝崎武光 3兆7600 キーエンス 80
4 佐治信忠 1兆4800 サントリーH 80
5 関家一家 1兆4500 ディスコ
6 重田康光 9550 光通信 61
7 安田隆夫 7480 ドンキホーテ 77
8 毒島秀行 7320 SANKYO 73
9 竹中統一 6360 竹中工務店 83
10 森 章 6290 森トラスト 89
11 伊藤兄弟 6210 セブン&アイ・H
12 三木正浩 5890 ABCマート 70
13 三木谷浩史 5810 楽天 61
14 高原豪久 5730 ユニ・チャーム 64
15 野田順弘 5250 オービック 87
16 大塚裕司 5090 大塚商会 72
17 上月景正 5010 コナミH 85
18 小川一家 4930 ゼンショーH
19 内山一家 4610 レーザーテック
20 森一家 4300 森ビル
21 永守重信 4220 ニデック 81
22 土屋嘉雄とその家族 4140 ワークマン 93
23 元谷一家 3980 アパグループ
24 荒井正昭 3820 オープンハウス 60
25 似鳥昭雄 3740 ニトリH 82
26 多田勝美 3660 大東建託 80
27 襟川陽一・恵子 3500 コーエーテクモH 75、77
28 福嶋康博 3180 スクウェア・エニックス・H 78
29 金子文雄 3100 大栄環境 69
30 石橋 寛 3020 ブリヂストン 79
31 島野容三 2940 シマノ 77
32 宇野正晃 2860 コスモス薬品 79
33 島村一家 2780 しまむら
34 木下一家 2630 アコム
35 吉田嘉明 2550 ディーエイチシー 85
36 崎谷文雄 2470 ローツェ 81
37 前澤友作 2390 ZOZO 50
38 松井道夫・千鶴子 2320 松井証券
39 多田兄弟 2310 サンドラッグ
40 永田久男 2230 トライアルH 70
41 小林兄弟 2150 コーセー
42 飯田和美 1990 飯田グループH 86
43 辻 信太郎 1910 サンリオ 98
44 里見 治 1890 セガサミーH 84
45 辻本憲三 1880 カプコン 85
46 宇野康秀 1860 U-NEXT 62
47 出光正和 1830 出光興産 57
48 新井隆二 1800 ビックカメラ 80
49 和田成史 1780 オービックビジネスコンサル 73
50 栗和田榮一 1750 SGH 79

日本の富豪1位~50位の資産額の変動

さらに、過去データを用いてベスト50位の顔ぶれと、資産の変動を見てみます。

これを見ると歴代でランキングの上位に残っている人が誰かが分かります。

(※は前節と同じく一家・親族を含む、単位は億円)

順位 名前 2026 2025 2024 2023 2022
1 孫 正義 12兆7000 4兆930 4兆2000 2兆9400 2兆7270
2 柳井 正 10兆3000 7兆 5兆9200 4兆9700 3兆500
3 滝崎武光 3兆7600 3兆 3兆2700 3兆1700 2兆7920
4 佐治信忠 1兆4800 1兆5200 1兆4500 1兆4500 1兆2020
5 関家一家 1兆4500 7260 1兆1500 4210 2590
6 重田康光 9550 1兆 6530 5200 4010
7 安田隆夫 7480 7840 6380 4630 3360
8 毒島秀行 7320 6680 5990 5760 5430
9 竹中統一 6360 2100
10 森 章 6290 6820 6460 4140 4140
11 伊藤兄弟 6210 7110 6230 6600 5620
12 三木正浩 5890 5950 6300 5400 3880
13 三木谷浩史 5810 6390 5450 5060 5690
14 高原豪久 5730 7690 9650 1兆530 8270
15 野田順弘 5250 6310 5140 5480 4520
16 大塚裕司 5090 5010 4830 4350 2840
17 上月景正 5010 5080 2720 2020 2070
18 小川一家 4930 5660 3890 2950 1870
19 内山一家 4610 2160 4980 2530 2330
20 森一家 4300 3920 3420 2090 1490
21 永守重信 4220 4060 5290 5340 5950
22 土屋嘉雄とその家族 4140 2540 2180 3090 2550
23 元谷一家 3980 3340 2650
24 荒井正昭 3820 2900 2340 2810 2460
25 似鳥昭雄 3740 5150 5920 5620 3750
26 多田勝美 3660 3050 3110 3020 3100
27 襟川陽一・恵子 3500 4790 2800 3860 3230
28 福嶋康博 3180 3120 2350 2670 2000
29 金子文雄 3100 2280 2020 1540
30 石橋 寛 3020 1770 1870 1620 1360
31 島野容三 2940 3190 3740
32 宇野正晃 2860 3770 2960 3230 2520
33 島村一家 2780 2760 2200 1900 1900
34 木下一家 2630 2290 2410 2040 1940
35 吉田嘉明 2550 2390 2130 2180 1330
36 崎谷文雄 2470
37 前澤友作 2390 2180 2100 2390 2200
38 松井道夫・千鶴子 2320 1810 1810 1760 1730
39 多田兄弟 2310 2690 3110 3020 3100
40 永田久男 2230 1760 2260
41 小林兄弟 2150 2250 2880 3930 2970
42 飯田和美 1990 2030 1770 2050 1680
43 辻 信太郎 1910 2470
44 里見 治 1890 2150 1650 2010 1600
45 辻本憲三 1880 2310 1630 1690
46 宇野康秀 1860 2320 1760
47 出光正和 1830
48 新井隆二 1800
49 和田成史 1780 1960 1740 1490 1240
50 栗和田榮一 1750 1740 1730 2460 2530

 

 

長者番付ベスト15の横顔(2026年版)

1位:孫正義 通信業界の雄から投資事業へ、そしてAI革命へ

孫正義

孫正義は、19歳の頃、初めてマイクロプロセッサーを雑誌で見て、感動のあまり路上で泣いたとも述べています。「これで人類の生活が一変する。人類最大のイノベーションだ」(『フォーブスジャパン』2018年3月号、P49)この時、産業革命に次ぐ情報革命が起きると直感したのです。

孫はカリフォルニア大在学中に音声翻訳機の特許売却で得た資金を元手にして、1979年にベンチャー企業を創業。80年に卒業し、この企業を売却して帰国後、ソフトバンクを設立しました(81年)。当初はパソコンソフトの卸売を行い、パソコン関連の出版業にも業務を拡大。

96年には米ヤフーに出資し、合弁事業でYahoo! JAPANを立上げました(98年に東証一部に上場)。ネットビジネスに乗り出し、放送、通信、金融などでM&Aを行い、事業を拡大していきます。99年のAlibaba出資など、一貫して"ネットのレバレッジ"に賭けた意思決定を重ね、今日の基盤を形づくりました。

孫は、この頃にYahoo!BBを設立し、最安価なADSLのネット接続サービスを提供。さらに、固定電話会社の日本テレコムを買収、携帯電話事業への参入表明などで業界に旋風を起こし、06年に英通信会社ボーダフォンの日本法人を買収しました(ソフトバンクモバイルに社名が変わる)。

近年は投資持株会社としての性格が鮮明化。2016年にArmを約3.3兆円で買収(2023年9月にナスダック上場で部分放出)、2017年に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立し、AI活用による市場拡大と新産業創出に着目した「群戦略」を掲げて世界中のスタートアップに投資してきました。ただし2020年以降の株安、2021年の中国株失速、2022年のテクノロジー銘柄調整など、難局も経験しています。

【2025-2026年の最新動向】

2026年版フォーブス「日本長者番付」で、孫正義は資産800億ドル(約12兆7000億円)に達し、2021年以来となる首位に返り咲きました。純資産は前年から518億ドル(+184%)増え、増加額・増加率とも番付トップ。ソフトバンクグループはOpenAIへの数百億ドル規模の出資などを背景に、2026年3月期決算で過去最高となる純利益5兆円(約310億ドル)を計上しました。なお同社は2025年3月期にも4年ぶりの最終黒字(純利益1兆1,533億円)を達成しています。[11]

最大の話題は、2025年1月にOpenAI、オラクル、UAEのMGXと組んで発表した総額5,000億ドル(約78兆円)規模の「Stargateプロジェクト」です。米国内にAIデータセンターを建設し、今後4年間で大規模投資を行う計画で、孫がStargateのChairmanに就任、ソフトバンクグループが財務管理を、OpenAIが運営を担います。2025年9月にはテキサス、ニューメキシコ、オハイオ、ウィスコンシンなどに5つの新AIデータセンター拠点を設立する計画が追加発表されました。[2]

2025年7月の「SoftBank World 2025」では、「年内にグループ全体で10億のAIエージェントを作る」と宣言。AI演算能力が「10億倍」に達するという予測を示し、「10年以内に超知性(ASI:人工超知能)が実現する」という大胆な未来像を描いています。「ASI時代のプラットフォームの組織者になる」と株主総会で明言し、マイクロソフトやアマゾン、グーグルの勝者総取りのダイナミクスを引き合いに、半導体・インフラ・モデル・アプリまでのAIサプライチェーン全体の組成を自社の役割と位置付けています。[3]

【出典】
[2] ソフトバンクグループ「OpenAI、SoftBank、Oracle、MGX、Stargate Projectを発表」(2025年1月22日付)リンク
[3] 「SoftBank World 2025」基調講演(2025年7月開催)リンク
・ソフトバンクグループ「2024年度通期決算説明会資料」(2025年5月発表)
・フォーブスジャパン2018年3月号

2位:柳井正 今後の戦略は?

柳井正

柳井正(1949年生まれ)は、父が営んでいた小郡商事(紳士服店)を継いで事業を拡大し、1984年に広島・本通りで「ユニクロ」1号店を開きました。その後「安く、良く、普遍的(MADE FOR ALL)」という理念を衣料に落とし込むべく、SPA(製造小売り)モデルを全面化。素材開発から企画・生産・物流・販売までを垂直統合した「ユニクロ型SPA」を磨き上げ、グローバルに拡大します。

FRは上場後も、ヒートテックやウルトラライトダウンに象徴される機能性・定番化戦略を深化。店舗網とECを結ぶ"在庫一体運用"、サプライチェーンの計画精度向上、迅速な補充・展開を通じ、「適品・適量・適地・適価」を実現するオペレーションを構築しました。これにより、国・地域や気候変化に応じた商品投入、需要の山谷に応じた補充・価格のきめ細かい運用が可能となります。

今日のファーストリテイリング(以下FR)は「LifeWear(服を、生活のための"生活必需インフラ"にする)」をコア理念に、機能素材や定番商品の改良を積み重ねる設計思想を採っています。

【2025-2026年の最新動向】
2025年8月期の連結業績は、売上収益3兆4,005億円(前期比9.6%増)、事業利益5,511億円(同13.6%増)、親会社に帰属する当期利益4,330億円(同16.4%増)と、4期連続で過去最高を更新しました。国内ユニクロ事業の売上収益は1兆260億円となり、国内事業単独で初めて1兆円を突破。海外ユニクロ事業も1兆9,102億円(同11.6%増)と過去最高を更新し、グレーターチャイナを除く全地域で大幅な増収増益となりました。2026年8月期は売上収益3兆7,500億円(前期比10.3%増)、事業利益6,100億円(同10.7%増)を見込み、年間配当は前年比20円増の1株520円を予定しています。[1]

2026年版フォーブス「日本長者番付」によれば、柳井の資産はファーストリテイリングの売上収益・純利益の堅調な伸びを背景に前年から30%以上増えて650億ドル(約10兆3000億円)に達しました。ただし孫正義の大幅な資産増により、4年連続で守ってきた首位を明け渡し、2位に後退しています。柳井は2017年の日経報道で「2年後に会長専念」という意向を示しましたが、2026年5月時点でも代表取締役会長兼社長として経営の第一線に立ち続けています。

後継については「執行役員など内部から選ぶ」という基本方針は維持しつつ、「創業者に引退はない」と述べ、将来的にも会長職としてアドバイスを続ける意向を示しています。柳井は2018年に『トヨタ物語』(野地秩嘉著)を読み、「自分はまだまだ甘い」と感じ、ユニクロをトヨタに負けない大企業に育てる決意を新たにしたとも語っています。トヨタは初代(豊田佐吉)から二代目(豊田喜一郎)、三代目への事業継承に成功している企業だからです。

【出典】
[1] ファーストリテイリング「2025年8月期決算短信」(2025年10月9日発表)リンク
・日本経済新聞電子版「ファストリ柳井、2年後に会長専念 社内から社長」(2017年10月21日付)

3位:滝崎武光 退任後もキーエンスは驚異的成長を継続

2026年版フォーブス「日本長者番付」で滝崎の資産は236億ドル(約3兆7600億円)と前年比29億ドル増え、3位を維持しました。

滝崎武光(1945年6月10日生まれ)は1972年にリード電機(現キーエンス)を創業。工場自動化(FA)向けセンサ・計測機器の分野で起業し、後のキーエンスにつながる事業を築きました。74年に株式会社へ改組して事業を本格化させ、米国(1985年)や中国を含む海外拠点を順次拡大し、世界規模でセンサ・画像処理・レーザーマーカ・三次元測定・顕微鏡・コードリーダーなどの高付加製品を供給する体制を敷きました。

滝崎は2015年に会長を退任するも、取締役・名誉会長として在籍。現在の執行トップは中田有(代表取締役社長)で、滝崎はボードメンバーとしてガバナンス側に位置づけられています。

キーエンスは、FAセンサー等の検出・計測制御機器大手です(*FA=工場の自動化。ファクトリー・オートメーションの略)。その人工知能(AI)搭載画像判別センサーは超小型なのに、自動で明るさや焦点、検出設定等を計測・数値化し、瞬時に「良品・不良品」の判別を行います。立体物の情報を周囲から計測・数値化する3Dスキャナー型三次元測定機、自動倉庫システムなども手がけています。

キーエンスは自らを「FAの総合メーカー」と定義し、1974年の設立以来「付加価値の創造により社会へ貢献」という理念を公式に掲げてきました。製品群はFA用センサ、画像処理・測定、レーザーマーカ、研究開発用顕微鏡など汎用性の高い"標準品"が中心で、個別カスタムよりも汎用度の高い標準製品を大量に提供することで、開発の再利用性・保守の効率・供給の安定性を高めてきたと言えます。

キーエンスは、工場を持たずに生産を委託する仕組みと、直販体制でのコンサル・提案営業を両立。大きな権限を持った営業スタッフが顧客の生産現場に入ってコンサル営業を行い、顧客ニーズを開発部門に伝え、高付加価値の新製品を生み出していきます(顧客現場に深く入り込んで課題を吸い上げ、短いサイクルで「製品企画→開発→改良」に反映させる)。

同社の2025年3月期連結業績は、売上高1兆386億円(前期比9.8%増)、営業利益5,260億円(同10.3%増)、営業利益率50.6%と、引き続き極めて高い収益性を維持しています。2025年版フォーブス「日本長者番付」で滝崎の資産は207億ドル(約3兆円)と前年からわずかに減少しましたが、3位の座は揺るがず、関税懸念や円高の影響は限定的でした。[1][4]

滝崎は創業時から「自分はカリスマではない」と述べ、属人化を極力排除した組織づくりに徹してきました。キーエンスでは社長を「社責」(会社の責任者)、部長を「部責」と呼び、「長=一番偉い人」という印象を持たれたくないという考えを貫いています。

滝崎は現在キーエンス財団の理事を務め、学業優秀かつ品行方正な学生に対し返済不要の給付型奨学金を提供しています。年間500名に月額10万円(2024年度より増額)、4年間で総額24億円規模を奨学金として給付する社会貢献活動を行っています。[5]

【出典】
[4] キーエンス「2025年3月期決算短信」(2025年4月23日発表)リンク
[5] キーエンス財団公式サイト「奨学金制度について」リンク

4位:サントリー 佐治信忠氏

佐治信忠(1945~)はサントリーを発展させた元会長の佐治敬三(1919-1999)の後を継ぎました。

サントリーの歴史を振り返ると、1899年に鳥井信治郎が鳥井商店として大阪に創業(その後、何度も社名が変わる)。酒類の製造・販売を手がけ、1946年に「トリスウイスキー」を発売。これがブームになり、日本でウイスキーが普及するきっかけとなりました。

1963年にはサントリーに社名変更し、武蔵野ビール工場を完成させてビール製造にも進出しています。

佐治敬三は、この頃、1967年に日本で初めてビール酵母の熱処理殺菌なしの「生ビール」をつくり上げ、1986年には100%麦芽のビール「モルツ」を発売。

しかし、87年にはアサヒビールが「スーパードライ」を発売し、サントリーのビール事業は赤字化していきます。

敬三は「商いとは『飽きない』こっちゃ」と述べ、赤字続きのビール事業の再生に執念を燃やしたものの、生前にその黒字化を見ることはできませんでした。

しかし、信忠はその試みを引き継ぎ、「ザ・プレミアム・モルツ」を開発し、2008年に黒字化を達成します。

この父子は、日本における事業継承の有名な成功例となりました。

信忠は海軍で技術将校をしていた父を「学者タイプ」と評しました。(以下、出所は「ビールに執念の遺伝子」サントリー佐治、父を語る NIKKEI STYLE)

「創業者の祖父(鳥井信治郎)は根っからの商売人だったが、おやじは実はそうではないんです。たぶん、研究者になりたかったんでしょう。経営者になり、ずいぶん努力したんでしょうね」

そして、敬三の業績として「ビール事業への参入」を挙げています。

「それで今のサントリーがある。ウイスキーだけだったらつぶれていたでしょうね。ウイスキーは手工業的な世界ですが、ビール事業に参入したことでサントリーは近代的な企業に生まれ変わった」

信忠は資金の回転も早く、難しい装置産業であるビール事業で父が会社を変えたことに敬意を表しています。

祖父⇒父⇒子と事業を三代にわたって継いできた佐治家の事例には、他の経営者にとって、学ぶべきことが数多くありそうです。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、佐治信忠の資産は93億ドル(約1兆4800億円)。前年の105億ドルから減少しましたが、4位を維持しました。[11]

経営体制では大きな動きがありました。佐治は2014年に「プロ経営者」として新浪剛史を社長に招き(のち会長)、2025年3月からは佐治・新浪の「ダブル会長」に鳥井信宏社長を加えた体制が発足したばかりでした。しかし新浪は2025年9月、違法成分を含む疑いのある海外製サプリメントの入手をめぐり警察の捜査を受けたことを理由に辞任(本人は適法と認識しており、違法薬物は検出されなかったと報じられています)。これにより会長職は再び佐治信忠の単独体制に戻りました。佐治はサントリーホールディングス代表取締役会長としてグループの総帥の座を保ち、社長は創業家・鳥井家の鳥井信宏が務めています。[13]

【出典】
[11] リンクタイズ「フォーブス『日本長者番付』2026年版」(2026年6月9日付)リンク
[13] 日本経済新聞「サントリーHD新浪剛史会長が辞任」(2025年9月2日付)リンク

5位:関家一家 半導体製造装置の世界最大手「ディスコ」を率いる創業家

ディスコ(DISCO CORPORATION、本社:東京都大田区)は、半導体製造装置の世界最大手です。シリコンウェハーを精密に「切る(ダイシング)」「削る(グラインディング)」「磨く(ポリッシング)」という3つの後工程に特化し、この領域で世界シェア約7割を握ります。生成AIの普及で需要が急増しているHBM(広帯域メモリ)や先端パッケージの製造に同社の装置は欠かせず、AIブームの「縁の下」を支える存在です。

ディスコの起こりは、1937年5月に関家三男(せきや みつお)が広島県呉市で工業用砥石メーカー「第一製砥所」として創業したことに遡ります。1968年に超極薄の切断砥石「ミクロンカット」を発表しますが、当時の切断機では砥石が破断して止まってしまうことが多く、「ならば装置も自社で」と精密加工装置メーカーへと業態を転換。1977年に旧英文社名(Dai-Ichi Seitosho CO., Ltd.)の頭文字をとって社名をDISCO(ディスコ)に改めました。

同社は創業家による三代の同族経営でも知られます。創業者・関家三男から二代目・関家憲一、そして現在の三代目・関家一馬(社長、2009年就任)へと引き継がれました。関家一馬は1966年生まれ。慶應義塾大学理工学部を卒業後、米国留学を経て1989年に入社し、主力装置の小型化プロジェクトなどを率いた技術畑の経営者です。京セラ式のアメーバ経営をヒントに独自の社内通貨「Will(ウィル)」による採算管理を導入し、「いい数字よりも強い会社」を掲げる経営手法は、英誌エコノミストが2023年の注目経営者の一人に選ぶなど海外でも評価されています。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、関家一家は順位を3つ上げて5位に躍進しました。AI関連製品向けの装置需要が急増し、ディスコの株価が1年で2倍以上に跳ね上がったことで、純資産は前年から41億ドル増の91億ドル(約1兆4500億円)に拡大。これは番付全体でも突出した伸びで、AI設備投資の追い風を最も象徴的に受けた一族の一つとなりました。[11]

【出典】
[11] リンクタイズ「フォーブス『日本長者番付』2026年版、孫正義が首位返り咲き」(2026年6月9日付)リンク
・株式会社ディスコ 公式サイト「社史・会社情報」リンク
・日本経済新聞「ディスコ社長は家康流 いい数字より『強い会社』に」ほか

6位:重田康光 波乱万丈の「光通信」創業者

重田康光は1965年に生まれ、はり灸の専門学校を中退、さらに日本大学を中退。そこから億万長者になるという、かなり破天荒な経歴を誇っています。

電話加入権を販売する企業に勤めた後、88年に株式会社光通信を創業し、OA機器・電話の販売・リースを手がけました。その後、長距離通話の取次(1988年7月)、複写機・FAX(1990年)、PC周辺機器(1991年)とビジネスを広げ、1993年に携帯電話の回線取次を拡大、1994年に端末販売、1995年にPHSの販売・取次と、通信・OAの"現場営業"で裾野を広げました。

1996年2月に日本証券業協会に株式登録(店頭市場)、1999年9月に東証一部へ上場と資本市場でも存在感を強めます。

1990年代後半~2000年にかけて、光通信は携帯普及の追い風と店舗網の急拡大で"新経済"の象徴となりましたが、2000年前後に営業実態と会計・販売慣行への市場の疑念が噴出しました。海外主要紙は「携帯の"寝かせ"=実需なき契約の大量計上(架空契約)」などを背景に株価が数カ月でピークの1%未満に沈んだと報じています。[6]

こうした混乱期を経て、同社は販売後に継続課金が発生する領域へと軸足を移しました。

2003年に二代表制導入、2009年から自社商品の拡販、2015年にプレミアムウォーターHD(宅配水)を子会社化、2017年に電力小売を拡大、2019年に保険(さくら損保)の一般免許取得など、通信回線に限らない"月次課金"の束ね方を示し、2022年には東証再編でプライム市場へ移行。報酬・投資・監督に関する委員会設置でガバナンスも拡充しました。

現在の事業セグメント(法人サービス/個人サービス/取次販売)は、SMB向け通信・電力・各種システム(法人)と、個人向け通信回線・宅配水(個人)、保険・メーカー商品の販売(取次)などで構成されます。同社のコアは販売後に生まれる使用料・手数料の積み上げ=「ストックビジネス」であり、統合報告書でも「継続収益と株主還元を意識した資本コスト経営」を掲げています。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、重田の資産は60億ドル(約9550億円)。前年(69億ドル・5位)から資産・順位とも下げ、6位となりました。光通信は中小企業向けの通信・電力やストック型ビジネスを軸に増収増益を続けており、創業者・重田は引き続き上位の常連です。

【出典】
[6] The Guardian “Hikari Tsushin shares plunge"(2000年11月24日付)リンク
・光通信「統合報告書2024」(2024年6月発行)
・光通信「有価証券報告書」(2024年6月提出)

7位:安田隆夫 ドン・キホーテ創業者

1949年に岐阜県に生まれ、73年に慶大法学部を卒業。78年、東京・杉並区にディスカウントショップ「泥棒市場」を開業。深夜営業で成功(当時、コンビニは23時閉店が一般的だった)。80年に小売の株式会社ジャスト(現:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)を設立。

89年、東京・府中市にドン・キホーテ1号店を開業。その後、95年に商号を株式会社ドン・キホーテに変更。98年に東証二部上場。以降、安田は社長として全国展開を主導し、2005年に会長兼CEOに就任(2000年に東証一部上場)。15年6月に代表取締役会長兼CEOを退任し、創業会長兼最高顧問となりました。

持株会社の公式プロフィールによれば、その設立は1980年9月5日、創業者は安田隆夫。現在の代表は森谷英樹 社長兼CEO、鈴木康介 COOで、PPIHの本社は渋谷区道玄坂。資本金236億89百万円(2025年6月30日現在)。グループの海外統括会社群(シンガポール、香港、マレーシア、タイ、米国など)を束ね、ディスカウント(Don Quijote/MEGAドンキ/DON DON DONKI)、GMS(UNY/アピタ・ピアゴ)、食品スーパー(米国)までを擁する小売企業体に発展しています。

PPIHの海外は大きくアジアと米国の二面展開。アジアでは"日本食品・和素材に特化したDON DON DONKI"が主力(2017年のシンガポール1号店開業以降、香港、タイ、台湾、マレーシアに広がる)。

米国では2006年のハワイ進出後、2013年にMARUKAI(ロサンゼルス)を取り込み、2017年にハワイのQSI(Times Supermarkets等、24店)を買収して食品スーパー網を拡大。2021年には南カリフォルニアの高級スーパー「Gelson’s Markets」を取得し、米国での"食"のプレゼンスを高めました。

PPIHは2018年、FamilyMart UNYとの提携の下で「ユニー」を連結子会社化(UNYの60%取得)し、総合スーパー(GMS)のアピタ/ピアゴをMEGAドンキUNYなどに業態転換。2019年2月に持株名をPPIHへ変更し、「ディスカウント×GMS」の相互補完体制を完成させました。

同社HPの創業者メッセージでは、PPIHの行動規範『The Source(源流)』を公表し、(1)顧客最優先、(2)創造的破壊、(3)権限委譲(Trust & Entrustment)、(4)深夜需要の発見、(5)驚安演出(バラエティ陳列)といった"売り場哲学"を体系化。「大企業病への自己警戒」という言葉を通して、規模が拡大しても、現場の裁量とスピードを死守する姿勢を示しています。

【出典】
・パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス「有価証券報告書」(2024年9月27日提出)
・PPIH「統合報告書2024」(2024年10月発行)
・PPIH公式サイト「企業情報」リンク

8位:毒島秀行 パチンコ機大手「SANKYO」を継いだ二代目

毒島秀行(ぶすじま ひでゆき)は、パチンコ機・パチスロ機メーカー大手SANKYO(東証プライム)の創業者・毒島邦雄(ぶすじま くにお、1925〜2016年)から事業と資産を継承し、2008年からCEOを務めています。

毒島邦雄は群馬県に生まれ、平和工業(後の平和)の常務を退任後、1966年4月に名古屋で中央製作所を設立。これがSANKYOの起こりです。1981年に本社を群馬県桐生市へ、2008年8月に東京都渋谷区へ移転しました。株式は1995年に東証2部、1997年に1部へ上場。SANKYOは「フィーバー」ブランドで知られ、1980年代のフィーバー機ブームを牽引するなど、開発力に定評あるパチンコ機メーカーとして成長してきました。

近年の遊技機業界は、不正対策と射幸性の抑制を両立させる新規格「スマートパチンコ(スマパチ=eフィーバー)」「スマートパチスロ(スマスロ)」への移行が進んでいます。SANKYOはこの流れを商機ととらえ、『戦姫絶唱シンフォギア』『からくりサーカス』『ゴジラ対エヴァンゲリオン』などの人気タイトルを投入。2025年3月期は高採算のパチスロ機関連事業が大きく伸び、営業利益・当期純利益とも過去最高益を更新し、パチンコ・パチスロ両市場で業界初の年間トップシェアを獲得しました。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、毒島秀行の資産は46億ドル(約7320億円)、8位でした。[11]

【出典】
[11] リンクタイズ「フォーブス『日本長者番付』2026年版」(2026年6月9日付)リンク
・SANKYO「2025年3月期 決算説明資料」リンク

9位:竹中統一 創業400年超、唯一の非上場スーパーゼネコンの当主

竹中統一(たけなか とういち、1942年12月8日生まれ、兵庫県神戸市出身)は、株式会社竹中工務店の取締役名誉会長であり、創業家・竹中家の第17代当主です。

竹中工務店の歴史は古く、1610年(慶長15年)、織田信長の元家臣であった初代・竹中藤兵衛正高が名古屋で創業し、神社仏閣の造営を業としたことに始まります。1909年に神戸へ進出して近代的な建設会社の形を整え、1937年に株式会社を設立しました。同社は大成・鹿島・大林・清水と並ぶスーパーゼネコン5社の一角ですが、その中で唯一の非上場企業であり、かつ土木よりも「建築」を専業とする点が大きな特徴です。手掛けた建物を「作品」と呼ぶ設計思想や、コーポレートメッセージ「想いをかたちに 未来へつなぐ」に、その姿勢が表れています。

非上場を貫くのは、四半期ごとの利益に追われず長期視点で経営するためとされ、株式の大半を竹中家のグループ会社で保有しています。竹中統一は第15代当主・竹中錬一の長男として生まれ、約33年間にわたって社長を務めました。2013年、創業から403年目にして初めて創業家以外から社長(宮下正裕氏)を起用し、自らは代表権のある会長兼CEOへ。現在は取締役名誉会長として一族の中核に位置づけられています。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、竹中統一の資産は40億ドル(約6360億円)。非上場ゆえに資産額は類似する上場ゼネコンとの比較に基づく推計ですが、創業410年超の老舗を支える同族の厚みが評価され、9位にランクインしています。[11]

【出典】
[11] リンクタイズ「フォーブス『日本長者番付』2026年版」(2026年6月9日付)リンク
・竹中工務店 公式サイト「竹中のあゆみ」リンク
・東洋経済オンライン「403年目で初の創業家以外の社長誕生」(2013年)

10位:森章 都市開発やホテル経営に注力

森章(もりあきら)は、不動産開発会社森トラストの取締役会長(Chairman)。森ビル創業者・森泰吉郎の三男です。

1990年代末の分社・再編以降、森家の長兄・森稔(元・森ビル社長)とは、それぞれ別会社のかじ取りを担ってきました(*森トラストは森章、森ビルは森稔)。

グループ内の後継は2016年に実娘の 伊達美和子が森トラストの社長兼CEOに就任し、章は会長に退いた――というのが公式の現行表記です(就任メッセージにも2016年承継と明記)。資産順位の現在地としては、Forbes「Japan’s 50 Richest 2025」(2025年6月30日発表)で森章&ファミリーは日本10位(推定47億ドル)。日本の不動産大手の一角として、保有・開発・運用の3機能を束ねる「開発—保有—運用」の厚みが評価されています。

森トラスト・グループの二本柱は、都心オフィス/商業/ホテルを組み合わせた複合開発と、国内ハイエンド観光を狙うホテル&リゾート運営。代表案件のひとつがTOKYO WORLD GATE(東京ワールドゲート)。虎ノ門の国家戦略特区に位置づけられ、「神谷町トラストタワー」を中核とする国際ビジネス拠点として2020年に竣工、広場・ビオトープ・大径樹の保存移植など都市の自然共生も織り込んだ計画です。アカサカ(東京ワールドゲート赤坂)も特区事業として進行中で、都心の複合開発は森トラストの"顔"となっています。

もう一方の柱がホテル&リゾート事業。Conrad Tokyoを擁する東京汐留ビルディングなどの都心ラグジュアリーに加え、「SUI」×マリオットのLuxury Collectionといったデュアルブランド(例:奈良、沖縄・宮古島〈伊良部〉)で"日本の高付加価値観光"を打ち出しました。

2026年版フォーブス「日本長者番付」で森章&ファミリーは資産39億5000万ドル(約6290億円)、日本10位。保有・開発・運用の3機能を束ねる森トラストの厚みが引き続き評価されています。

【出典】
・森トラスト「統合報告書2024」(2024年10月発行)
・森トラスト公式サイト「企業情報」リンク

11位:伊藤兄弟 セブン&アイを生んだ創業家と、買収の嵐

セブン&アイ・ホールディングスの創業家・伊藤家です。その祖業は、コンビニ最大手セブン-イレブンの母体ともなった総合スーパー「イトーヨーカ堂」にあります。

創業者は伊藤雅俊(1924〜2023年)。1945年、東京・足立区北千住の小さな洋品店「羊華堂(ようかどう)」を母と兄とともに再開したのが出発点でした。1956年に進学を助けてくれた兄を病で失った後、社長として商売に専念し、1958年に株式会社イトーヨーカ堂を設立。セブン-イレブンやデニーズを各地に展開し、革新的な小売経営で一代の事業を築きました。「常に浮利を追わず」を商人の鉄則とした雅俊は、2023年3月に98歳で死去しています。

長者番付でいう「伊藤兄弟」は、雅俊の息子たちを指します。長男・裕久はイトーヨーカ堂の専務まで務めた後に退き、現在は麗澤大学客員教授などを務めています。次男・順朗(1958年生まれ)は学習院大学卒業後、三井信託銀行を経て、ピーター・ドラッカーに師事してMBAを取得。1990年にセブン-イレブン・ジャパンへ入社し、2025年には副社長から代表取締役会長に就任しました。創業家の資産管理会社・伊藤興業の代表でもあり、一族が保有するセブン&アイ株は時価で5000億円超とみられています。

【近年の動向:相次ぐ買収提案】
近年の伊藤家は、セブン&アイをめぐる巨大買収劇の渦中にありました。2024年8月、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)がセブン&アイに買収を提案(最終的に約6兆7700億円、提案前株価に約48%のプレミアム)。これに対抗して伊藤家は伊藤忠商事などと組み、総額約9兆円のMBO(経営陣による買収)で非上場化を図りました。しかし2025年2月、資金調達のめどが立たず計画は頓挫(伊藤忠が出資を断念)。ACT側も2025年7月、セブン側の対応難航と自社業績の悪化を理由に提案を撤回し、セブン&アイは単独路線での企業価値向上を迫られる局面となっています。[12]

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、伊藤兄弟の資産は約6,210億円。買収提案の撤回後にセブン&アイ株が下落したことなどを背景に、前年の9位(49億ドル・約7,110億円)から11位へと順位を下げました。[11]

【出典】
[12] Bloomberg「クシュタール、自らの事業悪化と株価下落足かせに-セブン買収断念」(2025年7月17日付)リンク
・公益財団法人 伊藤謝恩育英財団「創立者プロフィール」リンク
・東洋経済オンライン/日本経済新聞 各報道

12位:三木正浩 ABCマート創業者

1955年、三重・伊勢に生まれた三木正浩は、1985年に東京・早稲田で靴と衣料の輸入販売商社「国際貿易商事」を創業(のちInternational Trading Corporation〈ITC〉へ改称)。ミッドプライス帯の輸入靴を自ら仕入れ、中間マージンを極小化するモデルをつくることから事業を始めました。

1987年にVANSの国内総代理契約、1994年にはVANS商標の使用権取得、1995年には英G.T. HAWKINSの商標権を買収。仕入れ権益→商標→自社企画と、川上側の権利と調達網を段階的に押さえ、価格競争力と商品独自性を両立させます。

1990年に小売へ進出し、1990年代半ばには「ABC-MART」を量産。2002年、ITCが(旧)ABCマートを吸収合併して商号をABC-MART, INC.に変更、同年東証一部(現プライム)に上場。卸を一気に縮小し小売(自社店舗)に軸足を移すSPA化で、粗利と在庫回転の主導権を握りました。上場の資金調達力を梃子に、SC内出店・路面出店の両輪でドミナンスを形成し、2000年代半ばに国内シェア上位へ。

三木は自社レーベル(HAWKINS/NUOVO/VANSのライセンス利用など)と、ナイキ等ナショナルブランドを売場の"動線設計"で併置するMDを徹底。自社で粗利を確保しつつ、NBで集客する"二階建て"戦略はABCマートの基本形になりました。2000年代後半以降は、グランドステージ(ハイエンドNBを厚く)やSPORTS/Charlotte(カテゴリー特化)といった業態多層化で商圏ごとの単価・回転を最適化しています。

2002年の上場後、韓国(2002年設立/03年開店)と台湾(2009年 子会社化)で本格展開。2012年には米LaCrosse Footwear, Inc.をTOBで完全子会社化、アウトドア/ワークブーツの川上(本国ブランド)を押さえました。2014年にはWhite’s Boots(米)をLaCrosseが追加買収、プレミアム領域の"厚み"を増し、2019年に国内1,000店、2022年にはOSHMAN’S JAPANを買収、2024年にグループ1,500店の節目を迎え、ベトナム出店で東南アジアにも踏み出しました。

三木は2007年に会長を退任(以降は投資活動や不動産・ホールディング事業=イーエム・プランニングへ軸足)。2023年2月、筆頭株主が三木個人→合同会社イーエム・プランニングへ異動(三木氏親族が全株式を保有、代表は三木本人)。

支配株主の注記は翌年に訂正が入りましたが、2025年5月の「支配株主等に関する事項」ではEM Planningの議決権合計62.44%と開示され、創業家の資本支配は一貫して厚い状態です。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、三木正浩の資産は約5,890億円。前年の14位から12位へと順位を上げました。[11]

【出典】
・エービーシー・マート「第40期有価証券報告書」(2024年5月30日提出)
・エービーシー・マート「支配株主等に関する事項について」(2025年5月30日開示)
・エービーシー・マート プレスリリース「グループ1,500店舗達成」(2024年3月1日付)

13位:三木谷浩史 楽天経済圏の進化とAI革命への挑戦

三木谷は1965年に神戸に生まれ、88年に一橋大学を卒業後、日本興業銀行に入行。

1991〜93年にハーバード・ビジネス・スクール(MBA)で学び、帰国後に独立の意思を固めると、96年にクリムゾングループを設立。97年にエム・ディー・エム(MDM)としてECモール事業を開始し、同年5月に「楽天市場」を開設しました。99年に社名を楽天へ変更し、2000年にJASDAQ上場すると、資本市場を梃子にM&Aと多角化を加速していきます。起業の動機は「一度きりの人生で悔いを残したくない」という決意でした。

「楽天」のネーミングは「楽市・楽座」に由来し、そのモールは、巨大企業が全てを統制するのではなく中小の事業者をエンパワーすることを意図しており、これが、のちの「楽天経済圏」の核になります。

その経済圏の骨格は「EC×フィンテック×ポイント」です。楽天は、EC(楽天市場・トラベル・ブックス等)にフィンテック(カード・銀行・証券・決済)を結合し、楽天ポイントで横断的に回遊を促す"経済圏"を構築しました。2024年度の連結売上高は2.3兆円(前年比+10%)で5年ぶりの通期黒字(Non-GAAP営業利益)を回復。フィンテック部門の非GAAP営業利益は1,534億円(+37.9%)、カードの年間GTVは24兆円、楽天銀行の口座数1,648万(2024年末)と、金融が稼ぐ構図が鮮明でした。

(* 楽天カードは会員拡大・決済大口化で利益拡大、楽天銀行は預金12兆円・口座1,648万と主力口座化が進んでいます。楽天証券は口座1,193万(2024年末)→2025年1月に1,200万を突破)

そのほか、2004年創設の東北楽天ゴールデンイーグルスは楽天100%子会社。J1のヴィッセル神戸も楽天傘下で、地域コミュニティとグローバル露出の両面でブランド資産を積み上げてきました。

さらに、2020年にMNO(自前ネットワーク)として楽天モバイルを立ち上げます。こちらは構造軽量化を狙うも初期は赤字続きでした。しかし、2024年12月に月次EBITDA黒字化(23億円)を達成し、2024年度はモバイル部門の赤字が大幅縮小。2025年度の通期EBITDA黒字化を目指しています。契約者数は2024年10月に800万件突破、2025年7月に900万件、社内資料では「できるだけ早期に1,000万件」を明示しました。

通信立ち上げに伴う社債償還・金利負担は重く、2024年時点で、25年末までの債券償還資金が焦点でした。楽天は資産売却・在庫流動化・モバイルの設備リース/セール&リースバック(1,500〜3,000億円規模)などで追加の親会社有利子負債に依存せずにFY2024の資金需要を賄ったと説明。ドル建て劣後債の発行・一部買い戻しで’25年までの「コーラブル債」対応を完了させるなど、負債の山の"ならし"を進めています。

また、近年は「AIの民主化」をうたい、Rakuten AIで経済圏を再設計します。 生成AIのエージェントがユーザー属性・嗜好・購買トレンドを解析してパーソナライズ推薦や販売者向けインサイトを提供。年次イベントも「Rakuten AI Optimism」へ刷新し、経済圏のUIそのものをAI化する方針を鮮明にしました。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、三木谷浩史の資産は約5,810億円。前年の12位から13位となりました。[11]

【出典】
・楽天グループ「2024年度通期決算短信」(2025年2月13日発表)
・楽天グループ「2024年第4四半期決算説明会資料」(2025年2月13日)
・「Rakuten AI Optimism 2024」イベント資料(2024年11月開催)
・楽天モバイル プレスリリース「契約者数900万件突破」(2025年7月1日付)

14位:高原豪久 ユニチャーム二代目

高原豪久は1961年、愛媛県生まれ。父は創業者の高原慶一朗(ユニチャーム創業:1961年)。

ユニチャームは不織布と吸収体のコア技術を共通基盤とし、ベビー用紙おむつ/フェミニンケア/大人用排泄ケア/ペットケア/ウェルネスケア(マスクやウェットティッシュ等)の多分野に水平展開しています("専業多角化")。

高原豪久は1991年にユニチャームへ入社し、フェミニンケア事業や調達・国際部門の要職を経て、2001年に社長、2004年以降、社長兼CEO(President & CEO)としてグローバル化を主導。創業者である高原慶一朗から事業を継ぎ、業績を拡大しました。その経営方針の背景には、アジアの人口成長と所得上昇を見据えた「専業国際化」の構想があります。

高原豪久は1961年に愛媛県に生まれ、若い頃に米国に1年間留学しています。その時、欧米企業のスケールの大きさを見て対抗意識を燃やし、欧州・米州・アジアのうち、これから最も伸びるのはアジアだと考えました。

就任当初から「本業多角化、専業国際化」を提唱。コア技術=不織布×吸収体の周辺で"本業"を広げ(多角化)、それらを新興国・アジアを起点に水平展開(国際化)を目指しました。1990年代後半から東南アジア・インド・中東に進出し、"小さく生んで大きく育てる"ローリング投資で地域最適→生産移管→ブランド定着を繰り返し、アジアでのプレゼンスを拡大し、世界を目指しました。

同社の四半期説明資料(2024年1Q)では、インドのベビー・フェミニンケアが牽引、中国のフェミニンケアが新製品投入で回復軌道、中東・北米ペットケアも堅調と、非日本の複数市場が同時に成長ドライバーになっています。一国依存ではなく"多極型"で需要の波を平準化するのが最近の特徴です。

2017年のフォーブスジャパンのインタビュー記事(2017年5月号)によれば、その勝ちパターンは成長市場に対して、「小さく生んで、大きく育てる」こと。「"1─10─100″が私のモットー。計画を立てる労力が1だとすると、計画の実行には10倍、成功させるまでには100倍のエネルギーがかかります」

現地の制度・流通・購買習慣に合わせて試作→テスト販売→ライン増設→ブランドへの投資を段階的に重ね、撤退コストを最小化しながら"連続的成功確率"を高めるのがユニチャーム流です。そうした経営理念や行動原則は「ユニ・チャームウェイ」としてまとめられ、全世界で共有されています。

【出典】
・ユニチャーム「統合報告書2024」(2024年4月発行)
・ユニチャーム「2024年第1四半期決算説明資料」(2024年5月9日発表)
・フォーブスジャパン2017年5月号「高原豪久インタビュー」(2017年3月25日発売)

15位:野田順弘 オービック代表取締役会長

オービックは独立系システムインテグレーターの雄であり、2025年3月期決算では、売上高1,185億円、営業利益766億円、営業利益率64.6%、32期連続増収という記録をたたき出しています。[10]

この高収益企業を一代で築き上げたのが、創業者であり、代表取締役会長兼社長を務める野田順弘(のだ まさひろ)です。野田順弘は、1938年に奈良県(宇陀郡室生村)に生まれ、近鉄百貨店で働きながら、関西大学経済学部の夜間部に通い、会計機輸入販売会社に籍を移しました。ここでコンピュータと出会ったことが後の起業につながる転機となります。

1968年、野田氏は29歳の頃、妻と共に「株式会社大阪ビジネスカンパニー」(現オービック)を設立。当初の資本金はわずか50万円。事業の柱は会計事務所向けのコンピュータ利用受託計算サービスでした。多くの企業が「そろばん」と「手書き伝票」で経理処理を行っていた時代、コンピュータの可能性にいち早く着目したわけです。

この「顧客の未来を見据える」という視点が、オービックのDNAの核となる。彼らは単に計算サービスを提供するだけでなく、顧客である会計事務所の業務を徹底的に学び、いかにすればコンピュータが彼らの生産性を向上させられるかを考え抜いた。この顧客密着の姿勢が、後のビジネスモデルの礎となっていく。

創業以来、貫かれている独自の経営モデル(「野田イズム」)の根幹は、以下の4つの原則で成り立っています。

1. 「製販一体」:IT業界では、開発、販売、導入支援、保守・運用をそれぞれ別の企業が担う「分業体制」が一般的ですが、オービックはこの常識を否定し、統合業務ソフトウェア「OBIC7」シリーズの開発から、顧客への直接販売、導入コンサルティング、そして稼働後のサポートまで、全てのプロセスを自社で完結させる「ワンストップ・ソリューション」を徹底します。

2. 顧客の成功こそが自社の成功。「顧客第一主義」の徹底

3. 鉄壁の財務基盤を築く「無借金経営」

4. 会社の財産は「人」。「100%新卒採用」と社員重視の経営(原則、中途採用を行わず、全ての社員を新卒で採用)

野田順弘は日本中央競馬会(JRA)の馬主でもあり、資産管理会社「株式会社ダノックス」名義で多くの競走馬を所有。「ダノン」の冠名で知られ、競馬ファンにはお馴染みの存在です。2025年5月時点でも代表取締役会長として在籍しており、後継体制の整備が経営課題のひとつとなっています。

【2026年の最新動向】
2026年版フォーブス「日本長者番付」で、野田順弘の資産は約5,250億円。前年の13位から15位となりました。[11]

【出典】
[10] オービック「2025年3月期決算短信」(2025年4月24日発表)リンク
・オービック「有価証券報告書」(2024年6月27日提出)
・オービック公式サイト「企業情報・沿革」リンク

 

ランキングから見える日本経済の特徴

富豪の高齢化

データを見ると1位~5位が1兆円以上です。
6位~22位が4000~9500億円、
23位以降が4000億円以下なので、トップ層とそれ以外のメンバーとの差が非常に大きいことが分かります。
そして、一番多いのは70代という構成になっています。

  • 90代が2名
  • 80代が15名
  • 70代が14名
  • 60代が7名
  • 50代が2名

これは50代で若いと言われる日本政界を思い出させる年齢構成です。若手のスタートアップ経営者がトップ層に入り込むのは依然として難しい状況が続いています。これは、新しい産業が生まれにくい日本の経済構造を反映しているのかもしれません。

都道府県別の長者番付は?

「東京都の長者番付は?」「大阪府は?」といった地域別のランキングに関心を持つ方もいるかもしれませんが、フォーブスの長者番付は国別発表なので公式な都道府県別のリストはありません。ただし、ランキング上位者の多くは、本社機能が集中する東京都に居住または拠点を置いているケースがほとんどです。柳井正氏、孫正義氏、三木谷浩史氏など、多くの資産家が東京をベースに活動しています。その一方で、滝崎武光氏のキーエンス(大阪)、佐治信忠氏のサントリー(大阪)、永守重信氏のニデック(京都)など、関西を拠点とする企業も多くランクインしており、日本の富が必ずしも東京一極に集中しているわけではないことも示唆しています。

Posted by 南 一矢