LMT(ロッキードマーチン)配当分析:安定成長で有事に強い軍事・防衛銘柄の特色
【2026年5月版】Lockheed Martin(LMT)徹底分析:防衛の巨人、その安定性と配当力の源泉
はじめに
Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)は、F-35戦闘機、ミサイル防衛、宇宙システムなどで知られる世界最大級の防衛・航空宇宙企業です。収益は各国政府との長期大型契約に支えられ、一般的な景気循環とは異なるサイクルで動きます。[1]
本記事では、同社がいかにして地政学的な需要を捉えて成長し、同時に23年連続増配を続ける優良配当株の地位を築いたのかを、2025年通期決算、2026年Q1決算、2026年5月7日時点の株価・配当情報を踏まえて検証します。
最重要ポイント:防衛企業のビジネスモデルと「受注残高」
Lockheed Martinの事業理解の鍵は、将来の売上計上が見込める受注残高(Backlog)です。
2025年末の受注残高は約1,936億ドルで、2025年売上高750億ドルの約2.6年分に相当します。2026年Q1末は、納入・売上計上により約1,864億ドルへ低下したものの、なお極めて高い水準です。[2][3]
【免責事項および出典について】
1. 株主還元:低めの配当性向と厚い受注残高が支える増配力
Lockheed Martinの配当は、防衛企業らしい長期契約・高い受注残高・安定したキャッシュフローに支えられています。2025年は、四半期配当が3.30ドルから3.45ドルへ引き上げられ、年間配当は13.35ドルとなりました。2026年Q1配当も3.45ドルで、現行年率配当は13.80ドルです。[5]
1.1. 配当指標の推移
| 会計年度 | 年間配当 (1株あたり, $) |
配当成長率 (前年比) |
EPS ($) (GAAP) |
配当性向 (EPSベース) |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | 9.80 | 約8.9% | 24.50 | 約40% |
| 2021 | 10.60 | 約8.2% | 22.76 | 約47% |
| 2022 | 11.40 | 約7.5% | 21.66 | 約53% |
| 2023 | 12.15 | 約6.6% | 27.55 | 約44% |
| 2024 | 12.75 | 約4.9% | 22.31 | 約57% |
| 2025 | 13.35 | 約4.7% | 21.49 | 約62% |
| 2026 現行年率 |
13.80 | 約3.4% | 29.35〜30.25 会社見通し |
約46〜47% |
年間配当はLockheed Martin IRの配当履歴に基づきます。2026年は2026年2月6日発表の四半期配当3.45ドルを年率換算した参考値です。2026年EPSは会社の2026年通期見通しです。[3][5]
注意:2026年の配当利回りは「高配当」よりも「配当成長」寄り
2026年5月7日時点の株価505.33ドルに対して、現行年率配当13.80ドルを用いた配当利回りは約2.7%です。防衛株としては悪くない水準ですが、極端な高配当株ではありません。Lockheed Martinの魅力は、利回りの高さだけではなく、防衛需要に支えられた長期契約、厚い受注残、安定した増配の継続性にあります。[4][5]
1.2. フリーキャッシュフローで見る配当の安全性
配当の安全性を見るうえでは、EPSだけでなく、実際に配当に回せる現金であるフリーキャッシュフロー(FCF)との比較が重要です。
| 会計年度 | 営業CF (百万$) |
設備投資 (百万$) |
フリーCF (百万$) |
配当支払額 (百万$) |
FCF配当カバー率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020 | 8,183 | -1,766 | 6,417 | 約2,600 | 約2.5倍 |
| 2021 | 9,221 | -1,522 | 7,699 | 約2,700 | 約2.9倍 |
| 2022 | 7,802 | -1,670 | 6,132 | 約2,800 | 約2.2倍 |
| 2023 | 7,920 | -1,766 | 6,154 | 約3,000 | 約2.1倍 |
| 2024 | 6,972 | -1,685 | 5,287 | 約3,000 | 約1.8倍 |
| 2025 | 8,557 | -1,649 | 6,908 | 約3,100 | 約2.2倍 |
| 2026 Q1 | 220 | -511 | -291 | 816 | 赤字 |
| 2026 会社見通し |
9,150〜9,450 | -2,500〜-2,800 | 6,500〜6,800 | 約3,200〜3,300 | 約2.0倍 |
FCFは「営業CF − 設備投資」で計算。2026年Q1と2026年通期見通しは会社発表値です。配当支払額は決算資料のキャッシュ配当額または年間配当×株式数からの概算です。[2][3]
- 2025年はFCFが回復:2025年通期の営業CFは85.57億ドル、FCFは69.08億ドルでした。2024年のFCF52.87億ドルから大きく改善し、配当を約2.2倍カバーしています。[2]
- 2026年Q1は一時的にFCF赤字:2026年Q1の営業CFは2.20億ドル、FCFは▲2.91億ドルでした。主因は請求タイミングなど運転資本の変動で、会社は2026年通期FCF見通し65〜68億ドルを維持しています。[3]
- 通期では配当を十分カバーする見通し:2026年の現行年率配当13.80ドルを前提にした配当総額は約32〜33億ドル規模です。会社のFCF見通し65〜68億ドルと比べると、配当カバーは約2倍です。
2. 業績分析:受注残は高水準だが、実行力と固定価格契約が課題
Lockheed Martinは、地政学的緊張の高まりや米国・同盟国の防衛投資拡大を背景に、受注環境は非常に良好です。一方で、2025年から2026年Q1にかけては、固定価格契約、サプライチェーン、納入遅延、プログラム別の損失認識が利益率の重石になっています。
| 会計年度 | 売上高 (百万$) |
純利益 (百万$) |
EPS (希薄化後, $) |
FCF (百万$) |
受注残高 (百万$) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020 | 65,398 | 6,833 | 24.50 | 6,417 | 147,100 |
| 2021 | 67,044 | 6,315 | 22.76 | 7,699 | 135,400 |
| 2022 | 65,984 | 5,732 | 21.66 | 6,132 | 150,000 |
| 2023 | 67,571 | 6,920 | 27.55 | 6,154 | 160,600 |
| 2024 | 71,043 | 5,336 | 22.31 | 5,287 | 176,000 |
| 2025 | 75,048 | 5,017 | 21.49 | 6,908 | 193,622 |
| 2026 Q1 | 18,021 | 1,488 | 6.44 | -291 | 186,427 |
| 2026 会社見通し |
77,500〜80,000 | — | 29.35〜30.25 | 6,500〜6,800 | — |
2025年通期と2026年Q1は会社発表・SEC開示に基づきます。2026年Q1の受注残高は2026年3月29日時点です。[2][3]
2.1. 2026年Q1:売上は横ばい、利益は減少
2026年Q1の売上高は180.21億ドルで、前年同期の179.63億ドルとほぼ横ばいでした。一方、純利益は14.88億ドル、EPSは6.44ドルで、前年同期の17.12億ドル、7.28ドルから減少しました。会社は2026年通期見通しを据え置いており、売上775〜800億ドル、EPS29.35〜30.25ドル、FCF65〜68億ドルを見込んでいます。[3]
| 2026年Q1 | 売上高 (百万$) |
前年比 | 営業利益 (百万$) |
営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| Aeronautics | 6,953 | -1% | 619 | 8.9% |
| Missiles and Fire Control | 3,649 | +8% | 500 | 13.7% |
| Rotary and Mission Systems | 3,991 | -8% | 423 | 10.6% |
| Space | 3,428 | +7% | 281 | 8.2% |
| 合計・事業部門 | 18,021 | 横ばい | 1,823 | 10.1% |
- Aeronautics:売上は69.53億ドルで1%減。F-35の需要は強いものの、利益率は前年同期の10.2%から8.9%へ低下しました。
- Missiles and Fire Control:売上は36.49億ドルで8%増。Patriot、THAAD、PrSMなどミサイル・防空関連需要が追い風です。
- Rotary and Mission Systems:売上は39.91億ドルで8%減。ヘリコプターやレーダー関連のタイミング差が影響しました。
- Space:売上は34.28億ドルで7%増。宇宙関連プログラムは成長しましたが、営業利益率は8.2%に低下しました。
2.2. 2025年通期:売上・FCFは改善、利益率には課題
| 2025年通期 | 売上高 (百万$) |
前年比 | 営業利益 (百万$) |
営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| Aeronautics | 30,257 | +6% | 2,086 | 6.9% |
| Missiles and Fire Control | 14,450 | +14% | 1,989 | 13.8% |
| Rotary and Mission Systems | 17,312 | 横ばい | 1,323 | 7.6% |
| Space | 13,029 | +4% | 1,345 | 10.3% |
| 合計・事業部門 | 75,048 | +6% | 6,743 | 9.0% |
2025年通期は売上高750.48億ドル、前年比6%増でした。MFCはミサイル・防空需要の拡大で14%増収となり、Spaceも4%増収でした。一方、Aeronauticsでは一部の分類プログラムやC-130関連の不利な利益調整があり、営業利益率が6.9%まで低下しました。RMSでも一部プログラムの損失認識が利益を押し下げました。[2]
3. バランスシート:自己資本は薄いが、防衛契約とキャッシュフローが支え
Lockheed Martinは自社株買いと配当を長期的に積極実施してきたため、自己資本は総資産に対して薄めです。これは米国大型防衛企業では珍しくありませんが、財務レバレッジが高い点は確認しておく必要があります。
| 時点 | 総資産 (百万$) |
総負債 (百万$) |
株主資本 (百万$) |
自己資本率 | 長期債務 (百万$) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年末 | 55,617 | 49,284 | 6,333 | 11.4% | 19,627 |
| 2025年末 | 59,840 | 53,119 | 6,721 | 11.2% | 20,532 |
| 2026年Q1末 | 59,238 | 51,749 | 7,489 | 12.6% | 20,529 |
2025年末は2025年Form 10-K、2026年Q1末は2026年Q1決算資料に基づきます。[2][3]
- 2026年Q1末の総資産は592.38億ドル、総負債は517.49億ドル、株主資本は74.89億ドルです。
- 自己資本率は12.6%と低めですが、政府契約を中心とする事業構造と、継続的なFCF創出力が信用力を支えています。
- 長期債務は205.29億ドルで、2026年Q1には予定通り10億ドルの長期債務返済を実施しました。[3]
4. 投資判断のヒント:LMTの強みとリスク
Lockheed Martinの強み
- F-35を中心とした圧倒的な基幹プログラム:F-35は米国および同盟国の主力戦闘機であり、生産・維持・アップグレードが長期的な収益源です。
- ミサイル・防空需要の拡大:Patriot、THAAD、PrSMなど、ミサイル・防空・精密打撃分野は地政学リスクの高まりで需要が強まっています。2026年Q1には、Patriot Missile、THAAD、PrSMの生産拡大に向けた枠組み契約も発表されています。[3]
- 高水準の受注残:2026年Q1末の受注残高は1,864億ドルで、短期的な景気変動に対する耐性を高めています。
- 配当の継続性:2026年時点の現行配当性向は会社EPS見通しに対して約46〜47%で、FCF見通しベースでも配当を約2倍カバーできる見込みです。
注意すべきリスク要因
- 固定価格契約リスク:複雑な防衛プログラムでは、コスト上昇や納期遅延が発生すると、固定価格契約で損失を認識する可能性があります。2025年も分類プログラム、C-130、RMS関連プログラムで不利な利益調整が発生しました。[2]
- サプライチェーン・生産遅延:F-35、F-16、C-130、ミサイル関連の需要は強いものの、部品不足・人材不足・政府支給品の遅延が納入スピードを制約する可能性があります。
- 米国政府依存:売上の大部分は米国政府・同盟国の防衛予算に依存します。予算遅延、継続予算、政府閉鎖、調達方針の変更は業績に影響します。
- 自己資本の薄さ:2026年Q1末の自己資本率は12.6%です。安定した事業構造を前提にした財務運営ですが、金利上昇や大規模損失が続く局面では注意が必要です。
- バリュエーションリスク:2026年5月7日時点の株価は505.33ドル、実績PERは約24.5倍です。防衛需要の強さは追い風ですが、株価には一定の期待が織り込まれています。[4]
5. まとめ:防衛需要の強さと実行リスクを同時に見る銘柄
Lockheed Martinは、F-35、ミサイル防衛、宇宙、海軍・ヘリコプター関連システムを持つ、防衛・航空宇宙セクターの中核企業です。2025年末の受注残高は約1,936億ドル、2026年Q1末でも約1,864億ドルと高水準で、長期的な売上の見通しは比較的安定しています。
配当面では、2025年の年間配当は13.35ドル、2026年の現行年率配当は13.80ドルです。2026年5月7日時点の株価505.33ドルに対する配当利回りは約2.7%で、会社の2026年EPS見通し29.35〜30.25ドルに対する配当性向は約46〜47%です。配当の持続性は高いと見てよいでしょう。
一方で、2026年Q1のFCFは▲2.91億ドルと一時的に赤字で、売上も前年同期比でほぼ横ばいでした。需要は強いものの、生産・納入・コスト管理の実行力が課題です。特に固定価格契約とサプライチェーン制約は、短期的な利益率を揺らす要因になります。
したがって、LMTは「高成長株」というより、防衛需要に裏付けられた安定配当・配当成長株として評価するのが自然です。受注残、FCF、配当性向、固定価格契約の損失リスクを継続的に確認しながら、長期保有の中核候補として検討できる銘柄です。
ミニ解説:LMTを見るときの実務的なチェックポイント
Lockheed Martinは、単純な売上成長率だけで評価するよりも、受注残高、FCF、配当性向、固定価格契約の損失、F-35やミサイル関連の納入ペースを合わせて見るべき銘柄です。2026年Q1のように、需要が強くても運転資本や納入タイミングでFCFが一時的に悪化することがあります。通期ガイダンスが維持されているか、FCFが年間で配当を十分に上回るかを確認するのが重要です。
【注】(出典リンク)
- 会社概要・事業構成 → 一次情報:Lockheed Martin 公式サイト → Lockheed Martin Investor Relations(確認日:2026-05-07)↩
- 2025年通期決算・2025年末受注残高・2025年CF・セグメント別業績・BS → 一次情報:Lockheed Martin「Fourth Quarter and Full Year 2025 Financial Results」 → SEC EDGAR「Lockheed Martin 2025 Form 10-K」(確認日:2026-05-07)↩
- 2026年Q1決算・2026年会社見通し・2026年Q1受注残高・セグメント別業績 → 一次情報:Lockheed Martin「First Quarter 2026 Financial Results」 → Lockheed Martin Quarterly Results(確認日:2026-05-07)↩
- 株価・PER・配当利回り → 参考情報:Google Finance「LMT:NYSE」 → StockAnalysis「LMT Dividend」(確認日:2026-05-07)↩
- 配当履歴・2026年Q1配当 → 一次情報:Lockheed Martin Dividend History → Lockheed Martin「Declares First Quarter 2026 Dividend」(確認日:2026-05-07)↩
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