LMT(ロッキードマーチン)配当分析:安定成長で有事に強い軍事・防衛銘柄の特色

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【2025年版】Lockheed Martin (LMT) 徹底分析:防衛の巨人、その安定性と配当力の源泉


【2025年版】Lockheed Martin (LMT) 徹底分析:防衛の巨人、その安定性と配当力の源泉

はじめに
Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)は、F-35戦闘機などで知られる世界最大の防衛・航空宇宙企業です。その事業は、一国の安全保障と密接に関わるため、一般的な景気循環とは異なるサイクルで動きます。これは同社に、他セクターにはない独自の安定性と成長機会をもたらしています。
本記事では、この「防衛の巨人」が、いかにして地政学的な需要を捉えて成長し、同時に22年以上にわたり増配を続ける優良配当株としての地位を築いてきたのかを、詳細な時系列データと共に分析します。投資家が知るべき、防衛銘柄ならではの強みとリスク、そして特異な財務構造を徹底解説します。

最重要ポイント:防衛企業のビジネスモデルと「受注残高」

Lockheed Martinの事業を理解する上で最も重要なのは、その収益が米国政府をはじめとする各国政府との長期的かつ大規模な契約に基づいている点です。これにより、数年先にわたる収益の見通しが立てやすく、事業は非常に安定しています。

そのため、LMTを評価する上で不可欠な指標が「受注残高(Backlog)」です。これは、すでに契約済みで将来の売上として計上される予定の金額を示します。2024年初頭時点で、同社の受注残高は1,606億ドルに達しており、これは年間売上高の2倍以上に相当します。この莫大な受注残高が、業績の安定性と株主還元の強力な基盤となっています。

【免責事項および出典について】

  • 本記事の財務データは、主にLockheed Martin Corp.がSEC(米国証券取引委員会)に提出した公式報告書(Form 10-K)、信頼性の高い金融データ提供サイト「MacroTrends.net」等の情報を基に作成されています。詳細な出典は記事末尾に記載しています。
  • 会計年度は12月締めです。各種指標は筆者が算出したものです。
  • 本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任においてお願いします。

1. 株主還元の核心:22年連続増配の実力

Lockheed Martinの最大の魅力の一つは、その強力かつ信頼性の高い株主還元プログラムです。22年間にわたる連続増配は、同社が株主への利益還元を経営の最優先事項と位置づけている証左です。

1.1. 配当指標の推移(2014年-2024年)

過去10年以上にわたる配当関連指標の推移を詳細に見ていきましょう。これにより、同社の配当成長の質と持続可能性を評価できます。

会計年度 年間配当
(1株あたり, $)
配当成長率
(前年比)
EPS
(希薄化後, $)
配当性向
(純利益ベース)
平均配当利回り
(年平均株価ベース)
2014 5.49 12.9% 11.21 49.0% 3.3%
2015 6.15 12.0% 11.46 53.7% 3.0%
2016 6.77 10.1% 17.07 39.7% 2.9%
2017 7.46 10.2% 6.75 110.5% 2.5%
2018 8.20 9.9% 17.59 46.6% 2.6%
2019 9.00 9.8% 21.95 41.0% 2.5%
2020 9.80 8.9% 24.30 40.3% 2.7%
2021 10.60 8.2% 22.76 46.6% 2.9%
2022 11.40 7.5% 21.66 52.6% 2.6%
2023 12.15 6.6% 27.55 44.1% 2.7%
2024 (E) 12.90 6.2% 27.35 47.2%
CAGR (年平均成長率)
過去10年 (FY14-24) 8.9% 9.3%
過去5年 (FY19-24) 7.5% 4.5%

出典: SEC Filings, MacroTrends.net等。2024(E)は予想/会社計画値。配当性向・利回り・CAGRは筆者算出。2017年の配当性向は米国税制改革法による一時的な純利益の減少で高騰。

  • 安定した配当成長: 過去10年間、配当成長率は年々緩やかになっているものの、一貫して6%以上の高い成長を続けています。10年CAGRは8.9%と非常に力強い水準です。
  • 健全な配当性向: 一時的な要因を除けば、配当性向は40%~55%の範囲で安定しており、将来の増配や事業投資のための十分な余力を確保しています。これは配当の持続可能性が高いことを示唆します。
  • 株主価値の向上: EPSの成長率(10年CAGR 9.3%)が配当成長率を上回っており、自社株買いと利益成長が両輪となって株主価値を高めてきたことがわかります。

1.2. フリーキャッシュフローで見る配当の安全性

配当の真の原資は、会計上の利益ではなく、企業が自由に使える現金(フリーキャッシュフロー)です。LMTの配当がどれほど安全かを検証するために、フリーキャッシュフローと配当支払総額の関係を見てみましょう。

会計年度 営業CF
(百万$)
フリーCF
(百万$)
配当支払総額
(百万$)
FCF配当カバー率
(フリーCF / 配当総額)
2014 3,866 2,504 1,701 1.5倍
2015 5,101 3,825 1,847 2.1倍
2016 5,189 3,820 1,988 1.9倍
2017 6,476 5,263 2,118 2.5倍
2018 3,138 1,833 2,301 0.8倍
2019 7,311 5,897 2,504 2.4倍
2020 8,183 6,838 2,735 2.5倍
2021 9,221 7,700 2,875 2.7倍
2022 7,802 6,108 3,025 2.0倍
2023 7,920 6,204 3,121 2.0倍

出典: SEC Filings, MacroTrends.net等。フリーCF = 営業CF – 設備投資。カバー率は筆者算出。2018年は年金拠出等の特殊要因でCFが一時的に悪化。

  • 極めて高い安全性: 2018年の一時的な悪化を除き、フリーキャッシュフローは常に配当支払総額の約2倍以上を維持しています。これは、配当が削減されるリスクが極めて低く、将来の増配余力も大きいことを示しています。
  • 潤沢なキャッシュ創出力: 政府との長期契約を基盤としたビジネスモデルは、安定的かつ潤沢なキャッシュフローを生み出す源泉となっており、これが強力な株主還元を支えています。

2. 業績分析:緩やかだが磐石な成長

Lockheed Martinの業績は、防衛予算の動向に沿って、急成長というよりは安定的かつ緩やかに成長する特徴があります。

会計年度 売上高(百万$) 純利益(百万$) EPS ($)(1株当たり利益) 受注残高(百万$)
2014 45,600 3,614 11.21 80,500
2015 46,132 3,605 11.46 99,600
2016 47,248 5,302 17.07 96,200
2017 51,048 2,004 6.75 99,900
2018 53,762 5,046 17.59 130,500
2019 59,812 6,230 21.95 144,000
2020 65,398 6,833 24.30 147,100
2021 67,044 6,315 22.76 135,400
2022 65,984 5,732 21.66 150,000
2023 67,571 6,920 27.55 160,600
CAGR (年平均成長率)
過去10年 (FY14-23) 4.4% 7.5% 10.5% 8.0%
過去5年 (FY19-23) 3.1% 3.4% 5.7% 2.8%

出典: SEC Filings, MacroTrends.net等。TTMは執筆時点。CAGRは筆者算出。2017年の純利益とEPSは米国税制改革による一時的な影響を受けています。

  • 受注残高が先行指標: 売上高の成長は緩やかですが、将来の売上を示す受注残高が堅調に増加している(10年CAGR 8.0%)ことは、今後の安定成長を示唆するポジティブな兆候です。

3. 財務分析:防衛企業特有のバランスシート

LMTのバランスシートは、一見すると非常に特異に見えます。これを理解することが、同社への投資判断の鍵となります。

最重要ポイント:なぜ自己資本比率が極端に低いのか?

LMTの自己資本比率は10%未満、時にはマイナスになることもあります。これは倒産の危機を意味するものではなく、防衛企業特有の会計処理と積極的な株主還元の結果です。

  • 巨額の年金債務:退職者への巨額の年金支払義務が負債として計上され、自己資本を圧迫する最大の要因です。ただし、この債務は政府契約のコストとして価格に転嫁されるため、事業の安定性を損なうものではありません。
  • 積極的な自社株買い:長年にわたる大規模な自社株買いが、バランスシート上の自己資本(純資産)を会計上圧縮しています。これは株主価値を高めるための意図的な財務戦略です。

安定した政府契約という強力な収益基盤があるからこそ、このような財務戦略が可能となっています。したがって、LMTの評価において、一般的な製造業の基準で自己資本比率やROEを評価することは適切ではありません。

会計年度 総資産(百万$) 総負債(百万$) 株主資本(百万$) 自己資本比率
2014 49,327 44,792 4,535 9.2%
2015 49,157 47,562 1,595 3.2%
2016 47,810 48,476 -666 -1.4%
2017 46,755 48,154 -1,399 -3.0%
2018 44,885 46,123 -1,238 -2.8%
2019 47,528 44,401 3,127 6.6%
2020 50,710 44,695 6,015 11.9%
2021 50,873 39,914 10,959 21.5%
2022 52,880 43,614 9,266 17.5%
2023 52,456 45,621 6,835 13.0%

出典: MacroTrends.net等。比率は筆者算出。

4. 投資判断のヒント:LMTの強みとリスク

Lockheed Martinへの投資を検討する上で、その盤石な事業基盤と、防衛産業特有のリスクの両面を理解することが不可欠です。

Lockheed Martinの強み (事業の優位性)

  • 圧倒的な事業規模と技術力:F-35戦闘機やミサイル防衛システムなど、代替不可能な重要プログラムを多数手がけています。
  • 極めて高い参入障壁:防衛産業は、政府との信頼関係、高度な技術、莫大な資本が必要であり、新規参入は事実上不可能です。
  • 長期的な収益の安定性:数十年単位の長期契約と、1,600億ドルを超える莫大な受注残高が、将来の収益を保証しています。
  • 強力な株主還元実績:22年連続増配と潤沢なキャッシュフローに裏打ちされた配当方針は、インカム投資家にとって大きな魅力です。

注意すべきリスク要因

  1. 政府予算への依存:収益の大部分を政府予算に依存するため、政権交代や財政状況の変化による防衛費削減が最大のリスクです。
  2. 地政学リスクの緩和:国際情勢が安定化・平和に向かうことは、長期的には防衛関連の需要を減少させる可能性があります。
  3. プログラムのリスク:大規模プログラムにおける開発の遅延やコスト超過は、収益に直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。
  4. ESG投資からの敬遠:兵器を製造する事業内容から、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家からは投資対象外とされることがあります。

5. まとめ

本記事では、Lockheed Martinの財務データを多角的に分析しました。最後に、投資判断のためのポイントを整理します。

Lockheed Martinは、世界情勢に左右される防衛セクターにおいて、比類なき安定性と株主還元を誇る優良企業です。その事業は国家安全保障に直結しており、長期契約と巨大な受注残高が鉄壁の経済的濠(モート)を形成しています。

詳細なデータ分析から、同社の配当は潤沢なフリーキャッシュフローに裏打ちされており、極めて安全性が高いことが確認できました。配当性向も健全な水準にあり、今後も安定した増配が期待できます。一方で、投資家は、政府の政策変更という特有のリスクや、ESGの観点を理解する必要があります。

最終的な投資判断は、LMTが提供する予測可能性の高いリターンと、政治・地政学という不確実性をご自身の投資戦略と照らし合わせて評価することが重要です。

6. 出典情報


Posted by 南 一矢