QCOM/AVGOを比較:クアルコムとブロードコムの戦略の違いとは
クアルコム(QUALCOMM, Inc., NASDAQ: QCOM)とブロードコム(Broadcom Inc, NASDAQ: AVGO)は、AI時代の半導体市場を牽引する2つの巨大企業です。本記事では、その違いを両社の株価推移、財務データ、事業構造、そして将来性を、客観的なデータに基づいて比較・分析します。
※本記事は2025年6月8日時点の公開情報に基づき作成しており、投資助言を目的としたものではありません。投資に関する最終決定は、必ずご自身の判断と責任において行ってください。
株価・主要指標サマリー
※以下の表やチャートは準リアルタイムで更新される指標です。本文中の詳細分析は2025年6月8日時点のデータに基づいているため、数値に多少の差異が生じる場合があります。
※チャート左目盛り:株価推移(SOXX:iShares Semiconductor ETFを含めて比較)
※チャート右目盛り:10年国債利回り
決算サマリー(予想:結果)
業績と財務指標の詳細分析
5年間の業績推移
過去5年間の売上高推移を見ると、両社ともに力強い成長を遂げていますが、特にブロードコムの成長率が際立っています。
年度 | クアルコム (QCOM) | 前年比 | ブロードコム (AVGO) | 前年比 |
---|---|---|---|---|
2024年 | $389.6億 | +8.8% | $515.7億 | +44.0% |
2023年 | $358.2億 | -19.0% | $358.2億 | +7.9% |
2022年 | $442.0億 | +31.7% | $332.0億 | +21.0% |
2021年 | $335.7億 | +42.7% | $274.4億 | +15.1% |
2020年 | $235.4億 | – | $238.5億 | – |
5年間成長率 (CAGR) | クアルコム: 10.5% vs ブロードコム: 16.7% |
主要財務指標の比較 (2025年Q2時点)
時価総額ではブロードコムが大きくリードしていますが、PERやPBRといったバリュエーション指標ではクアルコムに割安感が見られます。収益性を示すROEではクアルコムが優位です。
指標 | クアルコム | ブロードコム |
---|---|---|
売上高 (最新四半期) | $108.4億 | $150.0億 |
純利益 (最新四半期) | $28.1億 | $49.7億 |
時価総額 | $1,625億 | $1兆1,610億 |
PER (TTM) | 15.2倍 | 92.8倍 |
PBR (TTM) | 5.1倍 | 12.4倍 |
ROE (TTM) | 25.4% | 18.9% |
配当と株主還元
両社とも連続増配を続ける配当優良銘柄ですが、その方針には違いが見られます。
項目 | クアルコム (20年連続増配) | ブロードコム (13年連続増配) |
---|---|---|
年間配当 | $3.56 | $2.36 |
配当利回り | 2.41% | 0.90% |
ペイアウト比率 | 34.21% | 100.79% |
- クアルコム: ペイアウト比率が低く、非常に安定的。増配と自社株買いを積極的に行うバランスの取れた株主還元が魅力です。
- ブロードコム: ペイアウト比率が100%を超えていますが、これはVMware買収に伴う一時的な費用で会計上の利益(GAAP)が圧迫されているためです。配当の原資となるフリーキャッシュフローは極めて潤沢であり、配当の安全性は高いと見られています。
事業構造と強み・弱み
クアルコム:技術ライセンスと多角化
スマートフォン向けチップが主力ですが、安定収益源のライセンス事業と、急成長する自動車・IoT向け事業が強みです。
- 強み: 特許ポートフォリオによる高収益、自動車・IoT事業の成長性、ファブレスによる高い資本効率。
- 弱み: 特定顧客(Apple等)への依存度、スマートフォン市場の成熟化、中国市場での地政学リスク。
ブロードコム:インフラ支配とM&A
データセンター向け半導体とインフラソフトウェアが事業の核。特にAI関連の売上が急拡大しています。
- 強み: AI市場での支配的地位、VMware買収をはじめとするM&A戦略の成功、ハイパースケール企業との強固な関係。
- 弱み: AI需要への過度な依存、業界平均を大幅に上回る高いバリュエーション、大型M&Aに伴う統合リスク。
まとめ:投資判断のポイント
データに基づく両社の特徴は以下の通りです。
- 成長性(売上高・EPS): 過去5年の実績、現在のAI関連の勢いともにブロードコムが優位です。
- 収益性(ROE): 資本を効率的に利益へ繋げる力ではクアルコムが優れています。
- 株価の割安性(PER等): 現在の利益水準に対して株価が割安なのはクアルコムです。
- 配当投資の魅力: 配当利回りの高さ、増配の安定性・余力の観点からクアルコムが優位です。
クアルコムは、多角化による安定成長と株主還元を重視する、バリュー投資家や配当投資家にとって魅力的な選択肢です。一方、ブロードコムは、AIという巨大なテーマに乗る高い成長性を求める、グロース投資家向けの銘柄と言えるでしょう。
データ更新日: 2025年6月8日