SLB:シュルンベルジェの配当推移

エネルギー,配当






シュルンベルジェ配当分析 – 2025年最新版


シュルンベルジェ(Schlumberger Limited、SLB)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2025* 3.18% 3.6% 38% 1.14 35.8 2.98
2024 2.38% 10% 35% 1.10 46.2 3.11
2023 1.88% 54% 34% 1.00 53.3 2.91
2022 1.56% 30% 27% 0.65 41.7 2.39
2021 1.71% -43% 38% 0.50 29.3 1.32
2020 4.19% -56% -12% 0.875 20.9 -7.57
2019 5.14% 0% -27% 2.00 38.9 -7.32
2018 3.17% 0% 131% 2.00 63.0 1.53
2017 2.82% 0% -185% 2.00 71.0 -1.08
2016 2.59% 0% -161% 2.00 77.1 -1.24
2015 2.44% 25% 123% 2.00 81.8 1.63
2014 1.62% 28% 38% 1.60 98.7 4.16
2013 1.55% 14% 25% 1.25 80.8 5.05
2012 1.54% 10% 27% 1.10 71.2 4.10
2011 1.24% 19% 27% 1.00 80.6 3.67
2010 1.29% 0% 25% 0.84 65.2 3.38
2009 1.57% -20% 32% 0.84 53.5 2.59
2008 1.28% 50% 24% 1.05 82.2 4.45

*2025年は9月時点での年換算予想値

【出典】

変動する配当の実績と安定化への転換

Schlumberger(以下、SLB)の配当実績は、原油・ガス市場の変動と同社の財務戦略により大きく変化してきました。2008年から2015年まで堅調な成長を続け、1.05ドルから2.00ドルへと増加しました。その後2015年から2019年までは2.00ドルの配当を維持しましたが、2020年には原油価格の暴落とCOVID-19パンデミックの影響により大幅な配当削減(-56%)を実施。さらに2021年には追加の削減(-43%)を行いました。

その後の配当回復は目覚ましく、市場環境の改善とともに配当は力強く回復に転じました。特に2022年(+30%)と2023年(+54%)には大幅な増配を実現し、2024年にはさらに10%増配を行いました。2025年には3.6%の増配を実施し、年間配当は1.14ドル(四半期0.285ドル)となり、4年連続の増配を達成しています。

配当成長率と配当性向の特徴

SLBの配当政策はエネルギーサービス業界のサイクルに連動していますが、近年は安定化への明確な転換が見られます。好況期には積極的な増配(2008年+50%、2014年+28%、2023年+54%)を行い、不況期には配当維持または削減(2020年-56%、2021年-43%)により財務安定性を優先する傾向がありました。

最近の配当政策の特徴は安定性の重視です。2022年以降は二桁の大幅増配から一桁台の着実な増配(2024年10%、2025年3.6%)へとシフトし、より持続可能な配当政策へと転換しています。これは、エネルギー市場の改善と同社の戦略的転換(デジタル化、M&A、事業ポートフォリオの最適化)の成功を反映しています。

配当性向は過去10年間で大きく変動していましたが、近年は安定した水準に回復しています。2015-2019年には業績悪化により異常な配当性向(2017年-185%、2016年-161%、2019年-27%など)を記録しましたが、2021年以降は27-38%の健全な範囲に戻っています。2025年予想の38%という水準は、同社が収益の適切な部分を株主に還元しつつも、成長投資と財務健全性のバランスを取っていることを示しています。

配当利回りの正常化と投資魅力

SLBの平均配当利回りは、市場環境と株価の変動に応じて大きく変化してきました。特に注目すべき点は:

  • 2008-2013年:比較的低い利回り(1.24-1.57%)の期間
  • 2014-2018年:緩やかに上昇する利回り(1.62-3.17%)
  • 2019-2020年:高い利回り(5.14%と4.19%)を記録
  • 2021-2024年:市場回復に伴い低下(1.56-2.38%)
  • 2025年:適正水準での安定(3.18%)

2019-2020年の高配当利回りは、株価の大幅下落(2018年の63.0ドルから2020年には20.9ドルへ)を反映したもので、市場の悲観的見通しを示していました。2021年以降の利回り変動は、株価回復と業績改善への期待を反映しています。現在の3.18%(2025年予想)という利回りは、エネルギーサービスセクターとして魅力的な水準にあり、投資家にとって合理的な収益機会を提供していると言えるでしょう。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益の単位は百万ドル、営業CFマージンは%で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 営業CFマージン 純利益
2025* 34,200 3,300 19.3% 2,950
2024 36,289 6,602 18.2% 4,461
2023 33,135 6,637 20.0% 4,203
2022 28,091 3,720 13.2% 3,441
2021 22,929 4,651 20.3% 1,881
2020 23,601 2,944 12.5% -10,518
2019 32,917 5,431 16.5% -10,137
2018 32,815 5,713 17.4% 2,138
2017 30,440 5,663 18.6% -1,505
2016 27,810 6,261 22.5% -1,687
2015 35,475 8,805 24.8% 2,072
2014 48,580 11,195 23.0% 5,438
2013 45,266 10,690 23.6% 6,732
2012 41,731 6,915 16.6% 5,490
2011 36,579 5,880 16.1% 4,997
2010 26,672 5,509 20.6% 4,267
2009 22,702 5,311 23.4% 3,134
2008 27,163 6,899 25.4% 5,435

*2025年は上半期実績の年換算予想値

力強い業績回復と戦略転換の成功

SLBの財務データからは、油田サービス業界特有のサイクル性からの脱却と、新たな成長軌道への転換が見てとれます:

  • 売上高は2014年に過去最高(48,580百万ドル)を記録した後、原油価格下落により2015-2021年に低迷
  • 2022年以降は力強い回復を見せ、2024年には36,289百万ドル(前年比10%成長)を記録
  • 営業CFマージンは市場環境の悪化にもかかわらず比較的堅調を維持(2020年を除き16-25%)
  • 純利益は2016-2017年と2019-2020年に大幅な損失を記録したが、2021年以降は安定した黒字を継続
  • 2024年は44億ドルの純利益と39.9億ドルのフリーキャッシュフローを生成し、財務基盤が大幅に強化

2025年上半期の業績も堅調で、第2四半期には85.5億ドルの売上高とEPS 0.74ドルを記録しています。通期では売上高342億ドル(下半期ガイダンス182-188億ドルを含む)を見込んでおり、ChampionX買収効果も加わって持続的な成長が期待されます。

ChampionX買収による事業ポートフォリオの強化

2025年7月にChampionX買収を完了し、SLBの事業ポートフォリオは大幅に拡充されました。この買収により:

  • 生産化学品と人工採油設備事業の強化
  • 北米市場での競争力向上
  • 年間4億ドルの事前税引前シナジー効果を3年以内に実現予定
  • より安定したOPEX(運用費)主導の収入構造への転換
  • デジタル事業の独立セグメント化(2025年第3四半期から)

この戦略的買収により、SLBはより景気循環に左右されにくい事業構造を構築し、長期的な収益の安定性向上を図っています。

デジタル技術革新への取り組み

SLBはデジタル変革を戦略の中核に据えており、2025年第3四半期からデジタル事業を独立セグメントとして報告します。主な進展は以下の通りです:

  • DelfiプラットフォームのユーザーベースがQ2時点で7,800人以上(前年同期比二桁成長)
  • クラウドCPU使用時間が前年同期比50%増加し4,000万時間に到達
  • SaaS、AI、坑井計画ツールの顧客導入が拡大
  • デジタル・統合セグメントのマージンが32.8%まで向上(240bp改善)

UBSは同社のDelfiおよびLUMIプラットフォームを61億-161億ドルと評価しており、これは企業価値の最大25%に相当します。デジタル事業は収入の2-3%ですが、高マージン・高成長分野として今後の成長ドライバーとなることが期待されます。

まとめ:2025年以降のSLBへの投資戦略

Schlumbergerは、油田サービス業界のリーディングカンパニーとして、過去の危機を乗り越え、現在は「安定成長企業」への変貌を遂げています。2020-2021年の危機からの見事な回復と、戦略的M&A、デジタル変革の成功により、長期配当投資家にとって魅力的な投資機会を提供しています。

同社の現在の強みは以下の点にあります:

  • 業界リーダーとしての圧倒的な技術力と顧客基盤
  • 4年連続の配当増配と健全な配当性向(38%)
  • 強固な財務基盤(2024年:純利益44.6億ドル、フリーキャッシュフロー39.9億ドル)
  • ChampionX買収による事業の多様化と安定性向上
  • デジタル事業の高成長・高マージン特性
  • 中東、アジア、海外プロジェクトでの強固なポジション
  • ESG・脱炭素技術(CCS等)への戦略的投資

2025年以降の投資戦略:SLBへの投資は、「安定配当収入」と「成長性」を両立できる理想的なエネルギーサービス投資です。現在の配当利回り3.18%は魅力的な水準であり、4年連続の増配実績は今後の持続可能性を示唆しています。

特に以下の投資家に適しています:

  • エネルギーセクターへの分散投資を考える長期投資家
  • 景気循環性よりも安定性を重視する配当投資家
  • デジタル変革と技術革新の恩恵を受けたい成長志向の投資家
  • ESG・脱炭素トレンドの成長機会を捉えたい投資家

よくある質問

SLBの配当は今後も安全でしょうか?

現在のSLBの配当安全性は大幅に向上しています。配当性向38%は持続可能な水準であり、2024年の39.9億ドルのフリーキャッシュフローは年間配当支払い(約16億ドル)を十分にカバーしています。また、ChampionX買収により事業の景気循環性が軽減され、より安定した収益基盤を構築しています。過去の大幅な配当削減(2020年-56%、2021年-43%)は異常な市場環境下での対応であり、現在の健全な財務基盤(純債務5.7億ドル削減、強固なバランスシート)を考慮すると、同様の大幅削減リスクは大幅に低減されています。ただし、原油・ガス価格の大幅な下落や探査・生産活動の急減といった極端なシナリオでは、配当政策の見直しが必要になる可能性は完全には排除できません。

ChampionX買収はSLBにどのような恩恵をもたらしますか?

ChampionX買収(2025年7月完了)はSLBの事業構造を根本的に改善します。主な恩恵は:(1)年間4億ドルの事前税引前シナジー効果(3年以内、75%がコスト削減、25%が収益増)、(2)生産化学品と人工採油設備事業の強化による景気循環性の軽減、(3)北米市場での競争力強化とグローバル展開の加速、(4)運用費主導(OPEX)の安定収益構造への転換、(5)統合ソリューション提供による顧客価値の向上。財務面では、2026年にはマージンとEPS両方で増収寄与が期待され、より安定したキャッシュフロー生成能力を実現します。この買収により、SLBは従来の設備投資循環(CAPEX)に依存した事業から、より予測可能で安定した運用費ベースの収益モデルへと進化しています。

デジタル事業の分離報告は投資家にとってなぜ重要ですか?

2025年第3四半期から開始されるデジタル事業の独立セグメント報告は、SLBの真の企業価値を明確化する重要な転換点です。現在デジタル事業は売上の2-3%にすぎませんが、32.8%の高マージン(240bp改善)と年50%のクラウド利用増加など、著しい成長性を示しています。UBSの評価では61億-161億ドル(企業価値の最大25%)の価値を持つ可能性があります。この透明性向上により:(1)高成長・高マージンのデジタル事業に対する適切な株価評価が期待、(2)従来の循環的な油田サービス事業とは異なる成長ストーリーの明確化、(3)SaaS、AI、クラウド技術の成長トレンドへの投資機会提供、(4)長期的なマージン拡大と収益多様化の進展可視化。デジタル事業の成長は、SLBが単なる油田サービス会社から「エネルギー技術企業」への転換を遂げていることを示す重要な指標となります。

更新情報(2025年9月)

本記事の主な変更点:

  • 2025年Q2決算結果の反映(売上高85.5億ドル、EPS 0.74ドル)
  • 2025年配当データの追加(年1.14ドル、3.6%増)
  • 2024年実績データの修正(売上高362.9億ドル、純利益44.6億ドル)
  • ChampionX買収完了(2025年7月)の影響分析
  • デジタル事業の独立セグメント化(Q3 2025開始予定)の追加
  • 配当性向の健全化を反映(38%の適正水準)
  • 現在の株価水準と配当利回りの更新(約3.18%)
  • 23億ドルの自社株買いプログラムの情報追加
  • 2025年下半期ガイダンス(売上182-188億ドル)の反映
  • 投資戦略セクションの全面改訂(安定成長企業としての評価)

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】


Posted by 南 一矢