SLB:シュルンベルジェの配当推移
🔄 2025年11月更新情報
本記事は2025年第3四半期決算(2025年Q3)および最新の配当・株主還元・業績情報に基づいて更新しています。主な更新点は文末の「変更箇所(今回)」をご確認ください。
シュルンベルジェ(Schlumberger Limited、ティッカー:SLB)の配当利回りと株価を、2025年11月時点のデータをもとにチャート(直近90日間)で見ていきます。
権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。[1]
| 年 | 配当 | 平均株価 | 年EPS | |||
| 平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年計 | |||
| 2025* | 3.18% | 3.6% | 38% | 1.14 | 35.8 | 2.98 |
| 2024 | 2.38% | 10% | 35% | 1.10 | 46.2 | 3.11 |
| 2023 | 1.88% | 54% | 34% | 1.00 | 53.3 | 2.91 |
| 2022 | 1.56% | 30% | 27% | 0.65 | 41.7 | 2.39 |
| 2021 | 1.71% | -43% | 38% | 0.50 | 29.3 | 1.32 |
| 2020 | 4.19% | -56% | -12% | 0.875 | 20.9 | -7.57 |
| 2019 | 5.14% | 0% | -27% | 2.00 | 38.9 | -7.32 |
| 2018 | 3.17% | 0% | 131% | 2.00 | 63.0 | 1.53 |
| 2017 | 2.82% | 0% | -185% | 2.00 | 71.0 | -1.08 |
| 2016 | 2.59% | 0% | -161% | 2.00 | 77.1 | -1.24 |
| 2015 | 2.44% | 25% | 123% | 2.00 | 81.8 | 1.63 |
| 2014 | 1.62% | 28% | 38% | 1.60 | 98.7 | 4.16 |
| 2013 | 1.55% | 14% | 25% | 1.25 | 80.8 | 5.05 |
| 2012 | 1.54% | 10% | 27% | 1.10 | 71.2 | 4.10 |
| 2011 | 1.24% | 19% | 27% | 1.00 | 80.6 | 3.67 |
| 2010 | 1.29% | 0% | 25% | 0.84 | 65.2 | 3.38 |
| 2009 | 1.57% | -20% | 32% | 0.84 | 53.5 | 2.59 |
| 2008 | 1.28% | 50% | 24% | 1.05 | 82.2 | 4.45 |
*2025年は2025年Q3時点での年換算予想値(管理人による概算)
変動する配当の実績と安定化への転換
Schlumberger(以下、SLB)の配当実績は、原油・ガス市場の変動と同社の財務戦略により大きく変化してきました。2008年から2015年まで堅調な成長を続け、1.05ドルから2.00ドルへと増加しました。その後2015年から2019年までは2.00ドルの配当を維持しましたが、2020年には原油価格の暴落とCOVID-19パンデミックの影響により大幅な配当削減(-56%)を実施。さらに2021年には追加の削減(-43%)を行いました。[1]
その後の配当回復は目覚ましく、市場環境の改善とともに配当は力強く回復に転じました。特に2022年(+30%)と2023年(+54%)には大幅な増配を実現し、2024年にはさらに10%増配を行いました。2025年には3.6%の増配を実施し、年間配当は1.14ドル(四半期0.285ドル)となり、4年連続の増配を達成しています。[1]
配当成長率と配当性向の特徴
SLBの配当政策はエネルギーサービス業界のサイクルに連動していますが、近年は安定化への明確な転換が見られます。好況期には積極的な増配(2008年+50%、2014年+28%、2023年+54%)を行い、不況期には配当維持または削減(2020年-56%、2021年-43%)により財務安定性を優先する傾向がありました。[1]
最近の配当政策の特徴は安定性の重視です。2022年以降は二桁の大幅増配から一桁台の着実な増配(2024年10%、2025年3.6%)へとシフトし、より持続可能な配当政策へと転換しています。これは、エネルギー市場の改善と同社の戦略的転換(デジタル化、M&A、事業ポートフォリオの最適化)の成功を反映しています。
配当性向は過去10年間で大きく変動していましたが、近年は安定した水準に回復しています。2015-2019年には業績悪化により異常な配当性向(2017年-185%、2016年-161%、2019年-27%など)を記録しましたが、2021年以降は27-38%の健全な範囲に戻っています。2025年予想の38%という水準は、同社が収益の適切な部分を株主に還元しつつも、成長投資と財務健全性のバランスを取っていることを示しています。[1]
配当利回りの正常化と投資魅力
SLBの平均配当利回りは、市場環境と株価の変動に応じて大きく変化してきました。特に注目すべき点は:
- 2008-2013年:比較的低い利回り(1.24-1.57%)の期間
- 2014-2018年:緩やかに上昇する利回り(1.62-3.17%)
- 2019-2020年:高い利回り(5.14%と4.19%)を記録
- 2021-2024年:市場回復に伴い低下(1.56-2.38%)
- 2025年:適正水準での安定(3.18%)
2019-2020年の高配当利回りは、株価の大幅下落(2018年の63.0ドルから2020年には20.9ドルへ)を反映したもので、市場の悲観的見通しを示していました。2021年以降の利回り変動は、株価回復と業績改善への期待を反映しています。現在の3.18%(2025年予想)という利回りは、エネルギーサービスセクターとして魅力的な水準にあり、投資家にとって合理的な収益機会を提供していると言えるでしょう。[1]
財務パフォーマンスと成長見通し
以下の表では、売上高、営業CF、純利益の単位は百万ドル、営業CFマージンは%で表示しています。
主要財務指標の推移
| 年度 | 売上高 | 営業CF | 営業CFマージン | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2025* | 34,200 | 3,300 | 19.3% | 2,950 |
| 2024 | 36,289 | 6,602 | 18.2% | 4,461 |
| 2023 | 33,135 | 6,637 | 20.0% | 4,203 |
| 2022 | 28,091 | 3,720 | 13.2% | 3,441 |
| 2021 | 22,929 | 4,651 | 20.3% | 1,881 |
| 2020 | 23,601 | 2,944 | 12.5% | -10,518 |
| 2019 | 32,917 | 5,431 | 16.5% | -10,137 |
| 2018 | 32,815 | 5,713 | 17.4% | 2,138 |
| 2017 | 30,440 | 5,663 | 18.6% | -1,505 |
| 2016 | 27,810 | 6,261 | 22.5% | -1,687 |
| 2015 | 35,475 | 8,805 | 24.8% | 2,072 |
| 2014 | 48,580 | 11,195 | 23.0% | 5,438 |
| 2013 | 45,266 | 10,690 | 23.6% | 6,732 |
| 2012 | 41,731 | 6,915 | 16.6% | 5,490 |
| 2011 | 36,579 | 5,880 | 16.1% | 4,997 |
| 2010 | 26,672 | 5,509 | 20.6% | 4,267 |
| 2009 | 22,702 | 5,311 | 23.4% | 3,134 |
| 2008 | 27,163 | 6,899 | 25.4% | 5,435 |
*2025年は2025年Q3までの実績をもとにした通期換算予想(概算)
力強い業績回復と戦略転換の成功
SLBの財務データからは、油田サービス業界特有のサイクル性からの脱却と、新たな成長軌道への転換が見てとれます:
- 売上高は2014年に過去最高(48,580百万ドル)を記録した後、原油価格下落により2015-2021年に低迷
- 2022年以降は力強い回復を見せ、2024年には36,289百万ドル(前年比約10%成長)を記録
- 営業CFマージンは市場環境の悪化にもかかわらず比較的堅調を維持(2020年を除き16-25%)
- 純利益は2016-2017年と2019-2020年に大幅な損失を記録したが、2021年以降は安定した黒字を継続
- 2024年は44億ドル超の純利益と約40億ドルのフリーキャッシュフローを創出し、財務基盤が大幅に強化
2025年も足元の収益は堅調で、2025年Q1〜Q3累計売上高は約259億ドル(Q1:約84.9億ドル、Q2:約85.5億ドル、Q3:約89.3億ドル)となりました。[2] Q2には売上高85.5億ドル、調整後EPS 0.74ドルを計上し、Q3単独では売上高89.3億ドル、調整後EPS 0.69ドル/GAAP EPS 0.50ドルと、おおむね市場予想水準の利益率を維持しています。[3]
経営陣は2025年通期について、地域別では北米の減速と中東・オフショア市場の強さが混在するものの、油田サービス需要は横ばい〜一桁台前半の成長を維持すると見込んでおり、ChampionX買収効果も加わることで中期的な成長継続を示唆しています。[4]
ChampionX買収による事業ポートフォリオの強化
2025年7月16日にChampionXの買収が完了し、SLBの事業ポートフォリオは大きく拡張されました。[4] この買収により:
- 生産化学品と人工採油設備(ALS)を取り込むことで、油田サービスの「生産・運転」フェーズに強みを持つ事業構成へシフト
- 北米を含む生産段階でのOPEX(運用費)ベースの安定収益が拡大し、キャッシュフローの予見可能性が向上
- 年間約4億ドル規模の税引前シナジーを3年以内に創出する計画
- 2025年には配当と自社株買いを合わせて少なくとも40億ドルを株主に還元する方針
- 化学・デジタル・フィールドサービスを組み合わせた統合ソリューション提供能力が強化
この戦略的買収により、SLBは従来の設備投資(CAPEX)サイクルに強く依存したビジネスモデルから、より安定したOPEX主導の収益構造へと進化しつつあります。
デジタル技術革新への取り組み
SLBはデジタル変革を戦略の中核に据えており、2024年のデジタル関連売上は前年比約20%増と、全社売上成長(+約10%)を上回る伸びを記録しました。[5] AI・クラウド技術を活用したDelfiプラットフォームや各種デジタルサービスは、従来の装置ビジネスに比べて高い利益率と継続性を持つ分野です。
決算説明会でも、AIを組み込んだ坑井計画・生産最適化ソフトウェアやクラウドベースのワークフローが繰り返し強調されており、今後はデジタル事業の売上比率とマージンが全社の収益性を押し上げるドライバーになることが期待されています。[5]
まとめ:2025年以降のSLBへの投資戦略
Schlumbergerは、油田サービス業界のリーディングカンパニーとして、過去の危機を乗り越え、現在は「安定成長企業」への変貌を遂げつつあります。2020-2021年の危機からの回復、戦略的M&A(ChampionX買収)、そしてデジタル変革の進展により、長期配当投資家にとって魅力的な投資機会を提供しています。
同社の現在の強みは以下の点にあります:
- 業界リーダーとしての圧倒的な技術力とグローバルな顧客基盤
- 4年連続の配当増配と健全な配当性向(2025年予想で約38%)[1]
- 強固なキャッシュフロー創出力(2024年:営業CF約66億ドル、フリーキャッシュフロー約40億ドル)[5]
- ChampionX買収による事業の多様化と収益の安定化[4]
- デジタル事業の高成長・高マージン特性による中長期の利益率改善
- 中東・オフショア・海外プロジェクトでの強固なポジション
- ESG・脱炭素技術(CCS 等)への戦略的投資
2025年以降の投資戦略:SLBへの投資は、「安定配当収入」と「成長性」を両立できるエネルギーサービス投資と位置づけることができます。現在の配当利回り(予想約3.2%)は極端に高すぎず、増配余地も残した水準です。油価や掘削活動に左右される景気循環性は依然としてありますが、ChampionX買収とデジタル事業の拡大により、収益構造は以前よりも安定方向にシフトしています。
特に以下の投資家に適しています:
- エネルギーセクターへの分散投資を考える長期投資家
- 景気循環性よりも中長期の安定性を重視する配当投資家
- デジタル変革と技術革新の恩恵を受けたい成長志向の投資家
- ESG・脱炭素トレンドの中で、実務的なエネルギー転換銘柄を組み入れたい投資家
よくある質問
SLBの配当は今後も安全でしょうか?
現在のSLBの配当安全性は、コロナ禍直後と比べて大きく改善しています。2025年予想の配当性向38%は持続可能な水準であり、2024年のフリーキャッシュフロー約40億ドルは年間配当支払い(約16億ドル)を十分にカバーしています。[1][5] さらにChampionX買収により、景気循環に左右されにくいOPEXベースの収益が増えるため、キャッシュフローの安定性も高まる方向です。
もちろん、原油・ガス価格の大幅な下落や探査・生産活動の急減といった極端なシナリオでは、配当政策の見直しが必要になる可能性はゼロではありません。ただし、現時点では「高すぎる利回りに押し上げられた不安定な配当」ではなく、「成長投資とバランスした持続可能な配当」に近づいていると評価できます。
ChampionX買収はSLBにどのような恩恵をもたらしますか?
ChampionX買収(2025年7月完了)は、SLBの事業構造を質的に変える取引です。主な恩恵は:
- 生産化学品・人工採油設備の強化により、油田ライフサイクルの「生産・運転」フェーズでの存在感が大きくなる
- OPEXベースのサービスが増えることで、掘削CAPEXサイクルへの依存度が低下し、収益の安定性が向上
- 年間約4億ドルの税引前シナジーを3年以内に創出する計画があり、マージン改善とEPS押し上げ要因となる
- 2025年には配当と自社株買いを合わせて40億ドル以上の株主還元を目指す方針が示されている
財務面では、シナジーが本格的に立ち上がる2026年以降、マージンとEPSの両方でプラス寄与が期待されます。短期的には統合作業のコストや一時費用も発生しますが、中長期の収益安定化という観点ではプラス要因と見るのが妥当でしょう。[4]
デジタル事業の成長はどれくらい重要ですか?
デジタル事業は、SLBを「単なる油田サービス会社」から「エネルギー技術企業」へと変えていく重要なピースです。2024年にデジタル関連売上は約2割増と、全社売上成長率を上回るペースで拡大しました。[5]
この分野はソフトウェア/SaaSの比率が高く、資本集約度が低い一方で利益率が高いのが特徴です。クラウドやAIを用いたリザーバー・モデリングや生産最適化ツールは、顧客にとってもコスト削減・増産の両面で価値が高く、長期契約・サブスクリプション型収益につながりやすい領域です。
投資家にとっては、デジタル事業の成長が「バリュエーションの上乗せ要因」になりうる点がポイントです。従来の油田サービス事業よりも高いマルチプル(利益倍率)が適用されやすいため、同社全体の評価レンジを引き上げる可能性があります。
※本記事は2025年11月時点の公開情報をもとに、筆者が独自に整理・分析したものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任において行ってください。
【注】(出典リンク)
- SLB 配当・業績データ → SLB Dividend Information(公式) → SLB Annual Reports(公式) → Investing.com Dividend History(確認日:2025-11-28) ↩
- 2025年Q1〜Q2決算概要 → SLB Announces First-Quarter 2025 Results(公式) → GuruFocus: SLB Announces Second-Quarter 2025 Results(確認日:2025-11-28) ↩
- 2025年Q3決算概要 → FinTool: SLB Q3 2025 Earnings Summary → Reuters: SLB Q3 2025 Results 記事(確認日:2025-11-28) ↩
- ChampionX買収・シナジーと株主還元方針 → SLB Completes Acquisition of ChampionX Corporation(公式) → SEC Form 8-K / EX-99.1(ChampionX取引関連)(確認日:2025-11-28) ↩
- デジタル事業成長・自社株買い・2024年業績 → Investors.com: SLB Earnings & Share Repurchase Program(確認日:2025-11-28) ↩

