SLB:シュルンベルジェの配当推移

配当

シュルンベルジェ(Schlumberger Limited)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 2.38% 10% 35% 1.1 46.2 3.11
2023 1.88% 54% 34% 1 53.3 2.91
2022 1.56% 30% 27% 0.65 41.7 2.39
2021 1.71% -43% 38% 0.5 29.3 1.32
2020 4.19% -56% -12% 0.875 20.9 -7.57
2019 5.14% 0% -27% 2 38.9 -7.32
2018 3.17% 0% 131% 2 63 1.53
2017 2.82% 0% -185% 2 71 -1.08
2016 2.59% 0% -161% 2 77.1 -1.24
2015 2.44% 25% 123% 2 81.8 1.63
2014 1.62% 28% 38% 1.6 98.7 4.16
2013 1.55% 14% 25% 1.25 80.8 5.05
2012 1.54% 10% 27% 1.1 71.2 4.1
2011 1.24% 19% 27% 1 80.6 3.67
2010 1.29% 0% 25% 0.84 65.2 3.38
2009 1.57% -20% 32% 0.84 53.5 2.59
2008 1.28% 50% 24% 1.05 82.2 4.45

【出典】

変動する配当の実績

Schlumberger(以下、SLB)の配当実績は、原油・ガス市場の変動と同社の財務戦略により大きく変化してきました。2008年から2015年まで堅調な成長を続け、1.05ドルから2.00ドルへと増加しました。その後2015年から2019年までは2.00ドルの配当を維持しましたが、2020年には原油価格の暴落とCOVID-19パンデミックの影響により大幅な配当削減(-56%)を実施。さらに2021年には追加の削減(-43%)を行いました。その後、市場環境の改善とともに配当は回復に転じ、特に2022年(+30%)と2023年(+54%)には大幅な増配を実現しています。

配当成長率と配当性向の特徴

SLBの配当政策はエネルギーサービス業界のサイクルに連動しています。好況期には積極的な増配(2008年+50%、2014年+28%、2023年+54%)を行い、不況期には配当維持または削減(2020年-56%、2021年-43%)により財務安定性を優先する傾向があります。最近の配当回復はエネルギー市場の改善と同社の戦略的転換の成功を反映しています。

配当性向は過去10年間で大きく変動していますが、近年は安定した水準に回復しています。2015-2019年には業績悪化により異常な配当性向(2017年-185%、2016年-161%、2019年-27%など)を記録しましたが、2021年以降は27-38%の健全な範囲に戻っています。この水準は同社が収益の適切な部分を株主に還元しつつも、成長投資と財務健全性のバランスを取っていることを示しています。

配当利回りの変動

SLBの平均配当利回りは、市場環境と株価の変動に応じて大きく変化してきました。特に注目すべき点は:

  • 2008-2013年:比較的低い利回り(1.24-1.57%)の期間
  • 2014-2018年:緩やかに上昇する利回り(1.62-3.17%)
  • 2019-2020年:高い利回り(5.14%と4.21%)を記録
  • 2021-2024年:市場回復に伴い低下(1.56-2.38%)

2019-2020年の高配当利回りは、株価の大幅下落(2018年の63.0ドルから2020年には20.9ドルへ)を反映したもので、市場の悲観的見通しを示していました。2021年以降の利回り低下は、株価回復と業績改善への期待を反映しています。現在の2.38%(2024年)という利回りは、市場平均と比較して適正な水準にあり、投資家にとって合理的な収益機会を提供していると言えるでしょう。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益の単位は百万ドル、営業CFマージンは%で表示しています。

年度 売上高 営業CF 営業CFマージン 純利益
2008 27,163 6,899 25% 5,435
2009 22,702 5,311 23% 3,134
2010 26,672 5,509 21% 4,267
2011 36,579 5,880 16% 4,997
2012 41,731 6,915 17% 5,490
2013 45,266 10,690 24% 6,732
2014 48,580 11,195 23% 5,438
2015 35,475 8,805 25% 2,072
2016 27,810 6,261 23% -1,687
2017 30,440 5,663 19% -1,505
2018 32,815 5,713 17% 2,138
2019 32,917 5,431 16% -10,137
2020 23,601 2,944 12% -10,518
2021 22,929 4,651 20% 1,881
2022 28,091 3,720 13% 3,441
2023 33,135 6,637 20% 4,203
2024 36,289 6,602 18% 4,461

収益性と効率性の変動

SLBの財務データからは、油田サービス業界特有のサイクル性と回復力が見てとれます:

  • 売上高は2014年に過去最高(48,580百万ドル)を記録した後、原油価格下落により2015-2016年に急減
  • 2019-2020年には再び大幅減少し、2021年には22,929百万ドルと2008年以来の低水準に
  • 営業CFマージンは市場環境の悪化にもかかわらず比較的堅調を維持(2020年を除き16-25%)
  • 純利益は2016-2017年と2019-2020年に大幅な損失を記録、特に2019-2020年の損失は巨額
  • 2021年以降は力強い回復を見せ、売上成長(2022年+23%、2023年+18%、2024年+10%)と収益性向上を実現

2015-2016年と2019-2020年の二度の業績悪化は、それぞれシェールオイル革命による原油価格下落とCOVID-19パンデミックが主因です。しかし、同社はどちらの危機からも回復し、特に2021年以降の業績回復は新たな成長フェーズの始まりを示しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFの単位は百万ドル、成長率は%で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 6,899 10% -5,149 -1,825
2009 5,311 -23% -4,070 -1,188
2010 5,509 4% -2,936 -1,409
2011 5,880 7% -3,898 -2,700
2012 6,915 18% -7,545 -339
2013 10,690 55% -6,879 -2,199
2014 11,195 5% -5,580 -5,896
2015 8,805 -21% -10,252 1,374
2016 6,261 -29% -624 -5,428
2017 5,663 -10% -1,779 -5,033
2018 5,713 1% -1,040 -5,020
2019 5,431 -5% -2,011 -3,718
2020 2,944 -46% -2,353 -873
2021 4,651 58% -919 -2,824
2022 3,720 -20% -1,388 -2,382
2023 6,637 78% -2,783 -2,512
2024 6,602 -1% -3,145 -2,772

SLBのキャッシュフローパターンには以下の特徴が見られます:

  • 営業CFは2013-2014年にピーク(約1.1万百万ドル)を記録した後、原油価格低迷により減少
  • 2020年には過去最低の2,944百万ドルまで落ち込むも、2023年には6,637百万ドルと回復
  • 投資CFは2015年に過去最大の-10,252百万ドルを記録、戦略的拡大投資を示唆
  • 2016-2022年は投資を抑制(-624〜-2,353百万ドル)し、財務安定性を優先
  • 2023-2024年は投資を再拡大(-2,783〜-3,145百万ドル)し、成長戦略を再開
  • 財務CFは一貫してマイナス(2015年を除く)、株主還元と負債削減を反映

特に2015年の大規模投資と財務CFのプラス転換は、事業拡大のための負債調達を示唆しています。その後の数年間は投資を抑制しながら負債削減に注力し、財務基盤の回復を図った様子が見てとれます。2023年以降は営業CFの回復に伴い投資を再拡大しており、新たな成長局面に入ったと考えられます。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本の単位は百万ドル、自己資本率は%で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 32,094 15,160 16,862 53% 90%
2009 33,465 14,236 19,120 57% 74%
2010 51,767 20,323 31,226 60% 65%
2011 55,201 23,809 31,263 57% 76%
2012 61,547 26,689 34,751 56% 77%
2013 67,100 27,465 39,469 59% 70%
2014 66,904 28,855 37,850 57% 76%
2015 68,005 32,100 35,633 52% 90%
2016 77,956 36,427 41,078 53% 89%
2017 71,987 34,726 36,842 51% 94%
2018 70,507 33,921 36,162 51% 94%
2019 56,312 32,136 23,760 42% 135%
2020 42,434 29,945 12,489 29% 240%
2021 41,511 26,225 15,286 37% 172%
2022 43,135 25,146 17,989 42% 140%
2023 47,957 26,598 21,359 45% 125%
2024 48,935 26,585 22,350 46% 119%

SLBの資本構成には、大きな変動と回復のパターンが見られます:

  • 自己資本率は2010-2014年に高水準(57-60%)を維持した後、徐々に低下
  • 2019-2020年に急激に悪化し、2020年には過去最低の29%まで低下
  • 2021年以降は着実に回復し、2024年には46%まで改善
  • 負債比率は2008-2018年は比較的安定していたが、2019-2020年に急上昇(最大240%)
  • 直近4年間で負債比率は大幅に改善(240%→119%)し、財務健全性が回復

2019-2020年の財務指標の急激な悪化は、大規模な資産減損と累積損失によるものと考えられます。特に2020年には自己資本率が29%まで低下し、負債比率が240%に上昇するなど、深刻な財務危機に直面していました。しかし、その後の事業再構築と市場環境の改善により、財務基盤は急速に回復しています。4年連続で自己資本率が上昇し、負債比率が低下していることは、財務改善への取り組みが成功していることを示しています。

まとめ:長期配当投資家にとってのSLBとは?

Schlumbergerは、油田サービス業界のリーディングカンパニーとして、エネルギー市場のサイクルに強く影響される事業特性を持ちながらも、長期的な事業存続力を示してきました。同社の配当推移は、エネルギー市場の変動を色濃く反映しており、安定的な増配というよりも、市場環境に応じた柔軟な配当政策が特徴です。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 業界リーダーとしての技術力と顧客基盤
  • 高い営業CFマージン(市場環境が正常な時期は20%前後)
  • 危機からの回復力(2015-2016年と2019-2020年の二度の危機から回復)
  • 近年の財務健全性の着実な改善(自己資本率と負債比率の改善)
  • 2021年以降の力強い業績回復と配当成長の再開

一方で、注意すべき点としては:

  • 原油・ガス価格と探査・生産活動に強く依存する事業モデル
  • 過去の大幅な配当削減実績(2020年-56%、2021年-43%)
  • 市場の低迷期における収益性の大幅な悪化リスク
  • エネルギートランジション(低炭素社会への移行)に伴う長期的な事業環境変化
  • 他の油田サービス企業との競争激化

投資家へのポイント:SLBへの投資は、エネルギー市場のサイクルを理解し、変動を受け入れる準備のある投資家に適しています。同社は過去に配当削減を行った実績があり、将来も市場環境の大幅な悪化時には同様の対応をする可能性があります。しかし、業界リーダーとしての地位、技術力、顧客基盤を背景に、長期的な成長機会を提供する可能性が高いと言えるでしょう。近年の財務改善と配当回復は、より持続可能な成長軌道に戻りつつあることを示唆しています。長期投資家は、短期的な配当変動よりも、同社のビジネスモデルの強靭さと市場環境の改善時における急速な回復力に注目すべきでしょう。

よくある質問

SLBの配当はどれくらい安全ですか?

SLBの配当安全性は、現在の事業環境では比較的良好ですが、エネルギー市場のサイクル性を考慮する必要があります。現在の配当性向は34%と持続可能な水準であり、営業CFも安定していることから、短期的な配当削減リスクは限定的と考えられます。また自己資本率の向上(2020年の29%から2024年には46%へ)と負債比率の大幅な低下(同期間に240%から119%へ)により、財務基盤は着実に強化されています。しかし、過去の大幅な配当削減実績(2020年-56%、2021年-43%)が示すように、原油・ガス価格の大幅な下落や探査・生産活動の急減といった市場環境の悪化時には、財務安定性を優先して配当政策を見直す可能性があります。投資家は同社の配当が景気循環性を持ち、市場環境に応じて変動する可能性を考慮すべきでしょう。

2019-2020年の大幅な純損失の主な要因は何ですか?

2019-2020年の大幅な純損失(2019年-10,137百万ドル、2020年-10,518百万ドル)は、複数の要因が重なった結果です。主な要因としては:(1)原油価格の急落に伴う顧客の資本支出削減と油田サービス需要の急減、(2)北米シェール市場の急速な縮小、(3)資産減損(のれんや固定資産の評価見直し)、(4)事業再構築費用(人員削減や施設閉鎖に伴う費用)、(5)COVID-19パンデミックによる世界的なエネルギー需要の急減、などが挙げられます。特に2019年には大規模な資産減損を計上し、これが巨額損失の主因となりました。この時期は油田サービス業界全体が深刻な危機に直面しており、多くの競合他社も同様の損失を計上しています。SLBはこの危機を契機に大規模な事業再構築を実施し、コスト構造の見直しや非中核事業の売却を進めました。この戦略的転換が功を奏し、2021年以降は収益性の回復と財務基盤の強化に成功しています。

SLBはエネルギートランジションにどのように対応していますか?

SLBは伝統的な油田サービス事業を基盤としながらも、エネルギートランジション(低炭素社会への移行)に積極的に対応しています。具体的な取り組みとしては:(1)デジタル技術を活用した石油・ガス生産の効率化とカーボンフットプリント削減、(2)炭素回収・貯留(CCS)技術への投資と事業展開、(3)地熱発電事業への参入、(4)水素やリチウム関連技術の開発、(5)メタン排出削減技術の提供、などが挙げられます。同社は長年培ってきた地下資源技術を活用し、従来の石油・ガス事業の低炭素化と新エネルギー分野への拡大を同時に進めています。この戦略により、短期的には既存事業からの安定的なキャッシュフローを確保しながら、長期的には低炭素エネルギー市場での新たな成長機会を捉えることを目指しています。財務データからは、2023-2024年に投資CFが拡大している(-2,783〜-3,145百万ドル)ことから、これらの新分野への投資が加速していると推測されます。エネルギートランジション戦略の成否は、同社の長期的な成長と配当の持続可能性に大きな影響を与えるでしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢