VALE:ヴァーレ(ADR)の配当見通し・将来性

ADR銘柄,素材

ヴァーレ(Vale S.A.)は世界有数の多角的鉱山会社であり、特に鉄鉱石の生産と輸出において世界的なリーダーです。

同社はブラジルのリオデジャネイロに本社を置き、その株式は、米国預託証券(ADR)としても取引されています(1942年6月1日に設立)。

主な事業は以下の3つです。

鉄鉱石およびペレット: 鉄鋼製造の主要原料である鉄鉱石、およびその加工品であるペレットを生産・供給。この事業には、マンガンやその他の鉄製品の採掘、および広範な物流サービス(鉄道、港湾など)が含まれます

卑金属: 主にニッケルとその副産物(銅、コバルト、貴金属など)の採掘と生産

石炭: 製鉄用コークスを製造する際に使用される原料炭(冶金用石炭)と、発電などで利用される一般炭(熱供給用石炭)の生産・採掘、および関連する物流サービスを提供

その大規模な鉱山事業と物流インフラは、世界の産業に不可欠な資源を供給しています。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 8.71% -17% 85% 1.01 11.6 1.19
2023 8.18% -18% 64% 1.21 14.8 1.89
2022 9.42% -47% 38% 1.47 15.6 3.91
2021 15.5% 500% 64% 2.76 17.8 4.34
2020 4.11% 31% 48% 0.46 11.2 0.95
2019 2.80% -36% -106% 0.35 12.5 -0.33
2018 4.01% 31% 42% 0.55 13.7 1.32
2017 4.29% 740% 40% 0.42 9.8 1.05
2016 0.96% -82% 6% 0.05 5.2 0.77
2015 4.91% -62% -12% 0.28 5.7 -2.33
2014 5.97% 12% 569% 0.74 12.4 0.13
2013 4.05% -3% 600% 0.66 16.3 0.11
2012 3.33% -56% 64% 0.68 20.4 1.06
2011 5.19% 446% 35% 1.53 29.5 4.34
2010 0.95% -36% 9% 0.28 29.6 3.23
2009 2.22% -2% 45% 0.44 19.8 0.97
2008 1.66% 32% 17% 0.45 27.1 2.58

変動する配当の実績

VALEの配当実績は、鉄鉱石や銅などの国際商品市場の価格変動に大きく左右されてきました。2011年には前年比446%という急激な配当増加を実施しましたが、その後の商品価格の下落により2012年には56%の減配となりました。2015年から2016年にかけては鉄鉱石価格の急落により、さらに大幅な減配(-62%、-82%)を余儀なくされました。特に2016年には、1株あたり配当が0.05ドルという極めて低い水準まで落ち込みました。その後、商品市場の回復とともに2017年には740%という驚異的な配当増加を実現し、2021年にも500%増という記録的な増配を行いました。しかし、2022年から2024年にかけては再び減配傾向(-47%、-18%、-17%)となっており、鉱山業界特有の景気循環性を明確に反映しています。

配当成長率の推移

VALEの配当成長率は極めて変動的です:

  • 2008〜2010年:不安定期(32%、-2%、-36%)
  • 2011年:資源ブーム期の急増(446%)
  • 2012〜2016年:低迷期で大幅減配(-56%、-3%、12%、-62%、-82%)
  • 2017〜2018年:回復期(740%、31%)
  • 2019年:再び減配(-36%)
  • 2020〜2021年:コロナ後の資源価格高騰期(31%、500%)
  • 2022〜2024年:鉄鉱石価格正常化に伴う減配(-47%、-18%、-17%)

このパターンは、鉄鉱石を中心とする資源価格サイクルと中国経済の動向、そして同社の事業戦略の変化を反映しています。特に注目すべきは、2021年の記録的な配当増加(500%)と、その後の継続的な減配です。これは2021年の鉄鉱石価格の急騰(一時230ドル/トンを超える)とその後の価格正常化という市場環境を反映しています。VALEは原料資源企業として、商品価格が高い時期には積極的に株主還元を行い、価格が下落する局面では配当を調整するという柔軟な政策を採用しています。

配当性向の持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標ですが、VALEの場合、この指標は非常に変動的です。2013年と2014年には、EPSが極めて低い水準(0.11ドル、0.13ドル)であったため、配当性向はそれぞれ600%と569%という異常に高い値を記録しました。一方、2015年のように大幅な純損失を計上した年には、配当性向は計算上マイナスとなります。過去5年間(2020-2024年)の配当性向を見ると、48%、64%、38%、64%、85%と増加傾向にあり、特に直近の85%という高い水準は、配当の持続可能性に関する疑問を投げかけています。

極端な配当性向の理解:特に2013年と2014年の異常に高い配当性向(それぞれ600%と569%)は、EPSが極端に低い値になったことによる計算上の結果です。例えば:

  • 2013年:純利益は584M$と極めて低い水準でした(前年は5,454M$)。この年は鉄鉱石価格の下落に加え、ブラジル国内の税務問題に関連する特別損失が発生。その結果、EPSはわずか0.11ドルとなり、0.66ドルの1株配当に対して600%という異常な配当性向が算出されました。
  • 2014年:純利益は657M$と引き続き低迷し、EPSは0.13ドルにとどまりました。これに対して1株配当は0.74ドルを維持したため、配当性向は569%となりました。この時期はすでに鉄鉱石価格の下落トレンドが始まっていましたが、VALEは一時的に高い配当を維持する方針を採りました。

会計上の一時的要因の影響:鉱山会社の純利益は以下の理由で大きく変動します:

  • 資産減損損失:鉱物資源価格の低下や環境規制強化に伴う鉱山資産の評価見直し
  • 事業売却・撤退に伴う特別損益:非中核資産の売却や事業再構築
  • 鉱山災害関連の損失:2019年のブルマジーニョダム決壊事故のような重大事故の影響
  • 為替変動:ブラジルレアルの変動がドル建て報告に与える影響
  • 税務関連の一時的費用:特に新興国での税制変更や紛争解決の影響

これらの一時的な会計処理が純利益を大きく変動させるため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。そのため、鉱山企業の配当分析では、会計上の純利益よりも、営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローに対する配当の割合を見ることが重要となります。

実際に、VALEの営業キャッシュフロー指標を見ると、配当性向が極端に高い年でも、営業キャッシュフロー(2013年は14,792M$、2014年は15,610M$)は配当支払いをカバーするのに十分な水準を維持しています。このことから、会計上の純利益の変動に関わらず、VALEは基本的な事業から十分なキャッシュを生み出し、配当を支える能力を持っていると言えます。

配当利回りの魅力

VALEの配当利回りは、資源価格の上昇期には特に魅力的な水準となります。特に2021年には、鉄鉱石価格の急騰を背景に記録的な配当が実施され、高い配当利回りを実現しました。一方で、資源価格の下落期には配当利回りも低下する傾向があります。

特に注目すべき点は:

  • 2021年の記録的な配当(2.76ドル)は、当時の株価に対して非常に高い利回りを提供
  • 2022年から2024年にかけての減配傾向(1.47ドル、1.21ドル、1.01ドル)にもかかわらず、相対的に魅力的な利回りを維持
  • 鉱山セクターの景気循環性を反映した変動的な配当利回りパターン

高い配当利回りは、鉱山セクターとしてのVALEの魅力の一つですが、これは配当額の変動性が高いことと表裏一体の関係にあります。VALEは商品価格が高い時期に積極的に配当を増やし、価格が下落する局面では柔軟に配当を調整するアプローチを取っています。このため、安定した配当を求める投資家よりも、セクターの景気循環を理解し、変動的なリターンを受け入れられる投資家に適した特性を持っています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 37,426 17,114 46 13,218
2009 23,311 7,136 31 5,349
2010 47,029 19,183 41 17,264
2011 60,075 23,458 39 -86
2012 46,553 16,135 35 5,454
2013 46,767 14,792 32 584
2014 35,124 15,610 44 657
2015 23,384 3,932 17 -12,129
2016 27,488 6,401 23 3,982
2017 33,967 15,562 46 5,507
2018 36,575 15,365 42 6,860
2019 36,549 17,250 47 -1,683
2020 39,545 18,894 48 4,881
2021 52,681 24,547 47 21,758
2022 42,846 11,009 26 18,145
2023 42,880 13,582 32 8,231
2024 33,308 8,116 24 5,108

収益性と効率性の変動

VALEの財務データからは、鉱山業界特有の景気循環性と外部環境の影響を強く受ける特性が見てとれます:

  • 売上高は鉄鉱石価格に大きく左右され、2011年の60,075M$をピークに、2015年には23,384M$へと大幅に減少
  • 2021年の52,681M$はコロナ後の鉄鉱石価格高騰を反映した二番目のピーク
  • 営業CFマージンは2015-2016年の低迷期(17%、23%)から2019-2021年には47-48%まで回復し、その後再び低下
  • 純利益は極めて変動が大きく、2021年の21,758M$から2015年には-12,129M$の大幅赤字を記録
  • 2019年の純損失(-1,683M$)はブルマジーニョダム決壊事故に関連する特別損失の影響

特に注目すべきは、鉄鉱石価格の低迷期(2015-2016年)における売上高と営業CFの大幅減少と、その後の回復期(2020-2021年)における急速な改善です。2022年以降は、鉄鉱石価格の正常化と中国の不動産セクター低迷による需要減少を反映して、再び財務指標が悪化傾向にあります。

VALEの事業は主に鉄鉱石(約70-80%の収益)に依存しており、その価格変動が財務パフォーマンスに決定的な影響を与えています。銅やニッケルなどの他の金属事業は、ポートフォリオの多様化に貢献していますが、鉄鉱石価格の変動を相殺するには至っていません。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 17,114 55 -11,401 9,004
2009 7,136 -58 -13,159 625
2010 19,183 169 -17,184 -2,083
2011 23,458 22 -13,031 -14,371
2012 16,135 -31 -14,887 1,165
2013 14,792 -8 -10,608 -4,470
2014 15,610 6 -10,265 -3,861
2015 3,932 -75 -5,813 1,776
2016 6,401 63 -4,417 -1,281
2017 15,562 143 -3,358 -8,702
2018 15,365 -1 159 -11,128
2019 17,250 12 -6,989 -3,495
2020 18,894 10 -4,669 -2,676
2021 24,547 70 -6,333 -19,604
2022 11,009 -55 -4,573 -13,431
2023 13,582 23 -6,476 -7,626
2024 8,116 -40 -4,977 -1,854

VALEのキャッシュフローパターンは、鉱山業界特有の資本集約的な性質と景気循環性を反映しています:

  • 営業CFは極めて変動的で、2015年の3,932M$から2021年の24,547M$まで大きく変動
  • 投資CFは2010年の-17,184M$をピークに、その後徐々に減少する傾向
  • 2018年の投資CFがプラス(159M$)になっているのは、非中核資産の売却によるもの
  • 2021年の財務CFの大幅なマイナス(-19,604M$)は、記録的な配当支払いと負債削減を反映
  • 直近の2024年の営業CFは8,116M$と大幅に減少し、財務の柔軟性低下を示唆

投資CFを見ると、鉱山業界の特性として大きな資本支出サイクルが見られます。2009-2012年は積極的な投資期で、主に鉄鉱石生産能力の拡大と新規鉱山開発に向けられました。一方、鉄鉱石価格が低迷した2015-2018年には投資が抑制され、2018年にはむしろ資産売却によるキャッシュインフローがあったことが特徴的です。

財務CFは、主に配当支払いと負債管理を反映しています。特に2011年(-14,371M$)、2021年(-19,604M$)、2022年(-13,431M$)の大きなマイナスは、好調な市場環境での積極的な株主還元と負債削減を示しています。

キャッシュフロー分析のポイント:VALEのキャッシュフローパターンは、「拡大投資→収穫→分配→維持」の鉱山業界特有のサイクルを反映しています。2009-2012年の積極投資期の後、2020-2022年は収穫期として強力なキャッシュ創出と株主還元(特に2021年の記録的配当)に重点を置きました。しかし、2023-2024年は鉄鉱石価格の正常化と中国需要の減少により、営業CFが減少し、財務の柔軟性も限定的になっています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率と負債比率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 79,992 35,544 42,556 53 84
2009 102,279 42,513 56,935 56 75
2010 129,139 57,410 68,899 53 83
2011 126,916 49,101 76,100 60 65
2012 130,577 55,750 73,239 56 76
2013 124,597 59,661 63,325 51 94
2014 116,489 60,168 55,122 47 109
2015 88,492 52,788 33,589 38 157
2016 99,014 57,990 39,042 39 149
2017 99,184 54,412 43,458 44 125
2018 88,190 43,358 43,985 50 99
2019 91,713 52,720 40,067 44 132
2020 92,007 57,186 35,744 39 160
2021 89,583 54,215 35,368 39 153
2022 85,762 48,896 36,866 43 133
2023 93,973 53,100 40,872 43 130
2024 80,248 45,693 34,555 43 132

VALEの資本構成には、いくつかの重要な特徴が見られます:

  • 自己資本率は38%〜60%の範囲で変動しており、2011年の60%をピークに低下した後、近年は43%前後で安定
  • 負債比率は2015年に最も高く(157%)、その後改善して2018年には99%まで低下、近年は130%前後
  • 総資産は2012年にピーク(130,577M$)を記録した後、全体的に減少傾向
  • 2015年に総資産と株主資本が大幅に減少したのは、鉄鉱石価格の急落による資産減損が主因

資本構成の変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 2009-2012年:資源ブーム期の積極的な設備投資による総資産の増加
  • 2013-2015年:鉄鉱石価格下落による収益性低下と資産減損
  • 2019年:ブルマジーニョダム決壊事故による特別負債(補償金など)の増加
  • 2020-2022年:コロナ後の鉄鉱石価格上昇による収益改善を活用した負債削減
  • 2023-2024年:中国経済減速による鉄鉱石需要低下に対応した財務調整

VALEは鉱山業界の中では比較的保守的な資本構成を維持しており、近年の自己資本率43%は業界平均と比較して良好な水準です。特に2015年の危機的状況(自己資本率38%、負債比率157%)からの回復は評価できます。ただし、鉱山業は本質的に景気循環的であり、商品価格の低迷期には財務的な圧力が高まるリスクがあります。このため、VALEは2020-2021年の好調期に負債削減を進め、将来の市場変動に備えた財務バッファーの構築に努めました。

まとめ:長期配当投資家にとってのVALEとは?

VALEは、世界最大級の鉄鉱石生産会社として、グローバルな鉄鋼産業と中国経済の動向に大きく左右される事業特性を持っています。配当投資家にとってのVALEの魅力と課題を整理すると以下のようになります。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 世界最高品質の鉄鉱石鉱床を保有し、生産コストが業界最低水準
  • 好況期には極めて強力なキャッシュフロー生成能力を発揮
  • 資源価格高騰期には積極的な配当政策(2021年の記録的配当など)
  • 銅やニッケルなど将来性のある金属資源への事業多角化
  • 相対的に健全な財務状態(自己資本率43%)
  • 低炭素経済への移行に対応した「グリーンスチール」イニシアティブ
  • 過去の危機(2015年の価格暴落、2019年のダム決壊事故)からの回復力

一方で、注意すべき点としては:

  • 配当の安定性に欠け、商品価格変動に応じて大幅な増減を繰り返す
  • 中国の経済成長と不動産セクターに大きく依存する事業構造
  • 環境・社会リスク:鉱山事故(特に2019年のブルマジーニョダム決壊事故)の再発懸念
  • 規制リスク:ブラジルを中心とする操業地域での環境規制強化や税制変更
  • 鉱山資産の枯渇リスク:長期的には高品位鉱床の減少に伴う収益性低下の可能性
  • エネルギートランジションリスク:脱炭素社会への移行に伴う鉄鋼需要構造の変化
  • 為替リスク:ブラジルレアルの変動がコスト構造と収益性に影響
  • 競争リスク:オーストラリアの鉱山会社との競争激化と中国国内の鉄鉱山開発

投資家へのポイント:VALEへの投資は、「高いリターンと高いリスク」の特性を持っています。安定した配当成長を求める投資家よりも、資源価格サイクルに応じた変動的なリターンを受け入れられる投資家に適しています。特に重要なのは、鉄鉱石価格の高い時期には高配当が期待できる一方、価格の低い時期には大幅な減配の可能性があることを理解しておくことです。

長期的には、VALEの将来性は以下の要因に左右されるでしょう:(1)中国経済の成長率と鉄鋼需要の変化、(2)低炭素鉄鋼技術への適応能力、(3)環境・社会・ガバナンス(ESG)課題への対応。特に「グリーンスチール」イニシアティブの成功は、脱炭素経済における同社の持続可能性を左右する重要な要素となります。

よくある質問

VALEの配当はどれくらい安全ですか?

VALEの配当安全性は、公益事業など安定セクターと比較すると相対的に低いと言わざるを得ません。過去に複数回の大幅な配当削減実績(2012年-56%、2015年-62%、2016年-82%など)があり、配当率も極めて高い水準で変動しています。直近の配当性向は85%と高水準であり、鉄鉱石価格の更なる下落や中国需要の減速が続けば、減配の可能性は否定できません。ただし、営業キャッシュフローと比較した場合、現在の配当水準は維持可能と考えられますが、景気循環性の高い鉱山業界では、配当の「安全性」よりも「柔軟性」が重視される点を理解しておく必要があります。VALEは商品価格サイクルに応じて配当を調整する方針を明確にしており、投資家はこの変動性を前提とした投資判断が求められます。

鉄鉱石価格の変動がVALEの財務にどのような影響を与えますか?

鉄鉱石価格はVALEの財務パフォーマンスに決定的な影響を与えます。鉄鉱石は同社の収益の約70-80%を占めており、価格の1%の変動が営業利益に与える影響は約2-3億ドルと推定されています。過去のデータを見ると、鉄鉱石価格が高騰した2010-2011年と2020-2021年には、売上高、営業CF、純利益が大幅に増加し、株主還元も拡大しました。一方、価格が急落した2015-2016年には、財務指標が著しく悪化し、大幅な減配を余儀なくされました。VALEは世界最大級の鉄鉱石生産者として規模の経済と高品位鉱床により、競合他社と比較して低いコスト構造を実現していますが、それでも価格下落時の収益性低下は避けられません。投資家は中国の経済政策(特に不動産・インフラ投資)や世界の鉄鋼需給バランスなど、鉄鉱石価格に影響を与える要因を常に注視する必要があります。

ブルマジーニョダム決壊事故はVALEの財務と配当政策にどのような影響を与えましたか?

2019年1月に発生したブルマジーニョダム決壊事故は、VALEの財務と配当政策に重大な影響を与えました。この事故により270名以上が犠牲となり、環境的にも甚大な被害をもたらしました。財務的影響としては、(1)2019年の15億ドル以上の純損失、(2)約200億ドルに上る賠償金・罰金・復興費用の負担、(3)複数の鉱山操業停止による生産量減少(約7,000万トン)が挙げられます。配当政策への影響としては、2018年の0.55ドルから2019年には0.35ドルへと36%の減配を実施。また、同社は安全性向上のための設備投資を優先し、一時的に株主還元よりも安全対策と負債管理を重視する方針に転換しました。この事故は、ESG(環境・社会・ガバナンス)リスクが財務パフォーマンスと株主還元に直接的な影響を与える典型的な事例として、投資家にとって重要な教訓となりました。現在、VALEは事故後の安全基準強化と企業文化改革に取り組んでおり、この取り組みの成否が長期的な投資価値に大きく影響するでしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢