ABT(アボットラボラトリーズ)今後の見通し

バイオ製薬&ゲノム,ヘルスケア,医療機器

アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories、NYSE:ABT)の今後の見通しを考えるために、まず金利と株価チャートの推移を参照し、次に直近の決算、事業構成、配当、キャッシュフロー、財務状況を確認します。

目標株価やPERなどの株価指標だけでなく、2026年3月に完了したExact Sciences買収後の財務構造まで含めて整理します。

金利と株価:過去~現在

※チャート左目盛り:青線は株価推移赤線は200日移動平均線

※チャート右目盛り:緑線は10年国債利回り

※株価の成長率や前日比、52週高値・安値のほか、PER(株価収益率)、時価総額、株式数、出来高などを確認します。チャートの更新頻度は埋め込み元のデータに依存するため、リアルタイム値とは一致しない場合があります。

【2026年8月更新】株価を見る際のポイント

  • 直近の確定終値:2026年8月6日のABT終値は107.96ドルでした。[1]
  • 現行配当利回り:四半期配当0.63ドルを4倍した年率2.52ドルを2026年8月6日終値で割ると、単純計算で約2.33%です。
  • 予想利益との関係:2026年通期の調整後EPS会社予想5.45~5.60ドルを用いると、2026年8月6日終値に対する予想PER相当は約19.3~19.8倍です。これはGAAP EPSではなく、会社の調整後EPSガイダンスを使った参考値です。

直近決算

アボットは2026年7月16日(米国時間)に2026年Q2決算を発表しました。売上高は125.93億ドル、調整後希薄化後EPSは1.31ドルとなり、会社は2026年通期の調整後EPS見通しを引き上げました。[2]

項目 市場予想 2026年Q2実績 補足
調整後EPS $1.28 $1.31 市場予想を上回る
売上高 約$12.52B $12.593B 報告ベース前年同期比+13.0%
比較可能ベース売上成長率 +4.8% Exact Sciences買収効果などを調整
GAAP希薄化後EPS $0.53 買収関連費用などの影響を含む

元記事では売上高の前年同期比を「約11%増」としていましたが、2026年Q2の会社開示では報告ベース13.0%増、比較可能ベース4.8%増です。大型買収の影響が加わっているため、現在は単純な前年同期比だけでなく、比較可能ベースの伸びも確認することが重要です。[2]

2026年通期ガイダンス

  • 比較可能ベース売上成長率:2026年通期で6.5~7.5%を予想。
  • 調整後EPS:従来予想5.38~5.58ドルから、5.45~5.60ドルへ引き上げ。
  • 2026年Q3調整後EPS:1.38~1.46ドルを予想。
  • 株主還元:2026年Q2には配当と自社株買いを合わせて21億ドルを株主へ還元。

いずれも2026年7月16日のQ2決算発表時点の会社見通しです。[2]

Q2決算の読み方

2026年Q2の売上高が報告ベースで13.0%増えた一方、比較可能ベースでは4.8%増にとどまるのは、2026年3月に買収したExact SciencesのCancer Diagnostics事業が新たに加わった影響が大きいためです。

また、GAAP希薄化後EPSは0.53ドルに対して調整後EPSは1.31ドルと差が大きくなっています。2026年は買収に伴う無形資産償却、統合関連費用、法的引当金などの影響がGAAP利益に含まれるため、調整後EPSだけでなくGAAP利益とキャッシュフローも合わせて確認する必要があります。[2]

企業概要

アボット・ラボラトリーズは、医療機器診断栄養ブランデッド・ジェネリック医薬品を中核とする世界的なヘルスケア企業です。2026年8月7日に確認できる公式プロフィールでは、160カ国超で事業を展開し、従業員は約12.2万人です。[3]

1888年にウォレス・C・アボット博士が創業しました。2013年には研究開発型バイオ医薬品事業を分離し、アッヴィ(AbbVie)として独立させています。[4]

直近の確定通期である2025年通期の売上高は443.28億ドルで、2024年通期の419.50億ドルから増加しました。2025年の純利益は65.24億ドル、希薄化後EPSは3.72ドル、営業キャッシュフローは95.66億ドルでした。[5]

さらに2026年3月23日、アボットはExact Sciencesの買収を完了しました。これにより、従来の中核ラボ診断、迅速診断、分子診断に加えて、がんスクリーニング・がん診断が重要な成長領域として加わっています。[6]

主な事業と製品

  • 医療機器:FreeStyle Libreを中心とする持続血糖測定、MitraClipなどの構造的心疾患治療、電気生理学、HeartMate 3などの心不全関連機器、ニューロモデュレーションなど。
  • 診断:Alinityを中心とする中核ラボ・分子診断、迅速診断に加え、2026年3月以降はExact Sciencesのがん診断事業を含みます。
  • 栄養:Similac、PediaSure、Ensureなど、乳幼児から成人・高齢者までを対象とする栄養製品。
  • ブランデッド・ジェネリック医薬品:主として新興国市場で、慢性疾患などを対象としたブランド後発医薬品を展開しています。

2025年Form 10-Kで確認できる従来の事業分散に、2026年からExact Sciencesのがん診断が加わったことが、現在のアボットを考えるうえで最大の構造変化の一つです。[5][6]

2026年Q2の事業別売上

事業部門 2026年Q2売上高 報告ベース 比較可能ベース 主な動向
栄養 $2.144B -3.1% -3.6% 販売数量が逆風
診断 $3.092B +42.3% +2.9% Exact SciencesのCancer Diagnosticsを追加
ブランデッド・ジェネリック医薬品 $1.499B +8.4% +8.7% 主要新興国市場は比較可能ベース+10.7%
医療機器 $5.853B +9.0% +8.4% 電気生理学、糖尿病ケアなどが成長

2026年Q2では、引き続き医療機器が既存事業の中心的な成長ドライバーとなっています。医療機器部門のうち糖尿病ケア売上は2026年Q2に21.88億ドルとなり、報告ベース11.0%増、比較可能ベース9.5%増でした。[2]

一方、栄養部門は2026年Q2に前年同期比で減収となりました。診断部門の42.3%増は非常に大きく見えますが、Exact Sciences買収の影響を除いた比較可能ベースでは2.9%増です。今後の成長を評価する際は、買収による売上増と既存事業の自律的な成長を分けて考える必要があります。

アボット・ラボラトリーズ(ABT)の配当

アボットは2025年12月に四半期配当を0.59ドルから0.63ドルへ6.8%引き上げ、54年連続増配となりました。2026年6月12日には1株0.63ドルの四半期配当を発表し、1924年以来410回目の連続四半期配当となりました。この配当は2026年8月17日に支払われる予定です。[7]

連続増配
54年
2026年6月確認時点
連続四半期配当
410回
2026年6月発表分まで
現行年率配当
$2.52
$0.63×4の年率換算
参考配当利回り
約2.33%
2026年8月6日終値基準

配当成長の推移

以下の年間配当は、過年度については各暦年に実際に支払われた配当の合計を原則としています。2026年のみ、現在の四半期配当0.63ドルが4回続いた場合の年率換算値です。[7]

年間1株配当 前年比 GAAP EPS/予想EPS 配当性向の目安
2026* $2.52 現行四半期配当+6.8% 調整後予想 $5.45~$5.60 約45.0~46.2%
2025 $2.36 +7.3% $3.72 約63.4%
2024 $2.20 +7.8% $7.64 約28.8%
2023 $2.04 +8.5% $3.26 約62.6%
2022 $1.88 +4.4% $3.91 約48.1%
2021 $1.80 +25.0% $3.94 約45.7%
2020 $1.44 +12.5% $2.81 約51.2%

* 2026年の2.52ドルは0.63ドル×4回の年率換算値であり、2026年8月7日時点で年間4回すべての配当が確定しているわけではありません。2026年の配当性向は年率配当2.52ドルを会社の2026年調整後EPS予想5.45~5.60ドルで割った参考値です。

2020年の年間実支払配当1.44ドルから2025年の2.36ドルまで、年間配当は約64%増えました。現在の利回りは2%台前半であるため、ABTは高利回りそのものを主目的とする銘柄というより、利益成長と長期増配を組み合わせた配当成長株としての性格が強いと考えられます。

財務パフォーマンスと成長見通し

主要財務指標の推移

2025年までの通期数値はForm 10-K、2026年上半期は2026年7月16日のQ2決算発表に基づいています。[5][2]

年度・期間 売上高 (M$) 営業CF (M$) 純利益 (M$)
2026年上半期 23,757 2,005
2025年 44,328 9,566 6,524
2024年 41,950 8,558 13,402
2023年 40,109 7,261 5,723
2022年 43,653 9,581 6,933
2021年 43,075 10,533 7,071
2020年 34,608 7,901 4,495

2024年の純利益134.02億ドルは通常の収益力と単純比較しにくい点に注意が必要です。2024年には大きな税務上のプラス要因が含まれており、GAAP EPSも7.64ドルまで増加しました。2025年には純利益65.24億ドル、GAAP EPS3.72ドルへ戻っています。[5]

配当支払能力とキャッシュフロー

2025年の営業キャッシュフローは95.66億ドル、現金配当支払額は41.16億ドルでした。営業CFを配当支払額で単純に割ると、2025年の配当カバー比率は約2.3倍です。2024年も営業CF85.58億ドルに対して配当38.36億ドルで、約2.2倍でした。[5]

年度・期間 営業CF (M$) 設備投資 (M$) 単純FCF (M$) 配当支払額 (M$)
2026年Q1 1,315 399 916 1,098
2025年 9,566 2,171 7,395 4,116
2024年 8,558 2,207 6,351 3,836
2023年 7,261 2,202 5,059 3,556
2022年 9,581 1,777 7,804 3,333
2021年 10,533 1,885 8,648 3,048
2020年 7,901 2,176 5,725 2,593

2026年Q1の営業CFは13.15億ドル、設備投資は3.99億ドルだったため、単純FCFは9.16億ドルとなりました。同四半期の配当支払額10.98億ドルを下回っています。ただし、2026年Q1はExact Sciences買収に伴う現金支出の影響を受けており、1四半期だけを通期実績と単純比較することはできません。[8]

2026年8月7日の確認時点では、2026年Q2について完全な貸借対照表とキャッシュフロー計算書を含む最新の詳細四半期データとしてはQ1のForm 10-Qを使用し、Q2の売上高・利益・ガイダンスについては2026年7月16日の決算リリースおよびForm 8-Kを使用しています。

Exact Sciences買収後のバランスシート

Exact Sciences買収は事業成長の機会を広げる一方、アボットの財務構造を大きく変えました。2026年Q1末の総資産は1,104.29億ドルとなり、2025年末の867.13億ドルから大きく増加しました。2026年Q1末の株主資本は527.01億ドルで、単純計算した自己資本比率は約47.7%です。[8]

項目 2025年末 2026年Q1末 変化
総資産 $86.713B $110.429B 買収により大幅増
株主資本 $52.771B $52.701B ほぼ横ばい
自己資本比率 約60.9% 約47.7% 低下
長期債務等 約$12.929B 約$34.047B 大型買収の資金調達で増加

※自己資本比率は株主資本÷総資産で計算した参考値です。「長期債務等」は1年以内返済分を含む長期債務を比較しています。

つまり、2025年までのアボットは潤沢な営業キャッシュフローと比較的厚い自己資本を背景に増配を続けてきましたが、2026年は「Exact Sciencesを成長させながら、増加した負債をどの程度の速度で削減できるか」が新たな重要テーマになっています。

財務面で今後確認したい項目

  • Exact Sciencesを含めた売上成長が営業キャッシュフローの増加につながるか。
  • 2026年Q1に低下したキャッシュフローがQ2以降に回復するか。
  • 買収に伴って増えた有利子負債が継続的に減少するか。
  • 配当、自社株買い、負債返済、研究開発投資の優先順位がどう変化するか。
  • GAAP EPSと調整後EPSの差が中期的に縮小するか。

配当重視投資家にとっての投資価値

強み

  1. 54年連続増配:2026年時点でも長期増配記録を更新しています。
  2. 410回連続の四半期配当:1924年以来の配当継続実績があります。
  3. 医療機器の成長:2026年Q2も比較可能ベース8.4%増で、糖尿病ケアや電気生理学が成長を支えています。
  4. 事業分散:医療機器、診断、栄養、医薬品に加え、2026年からがん診断が成長領域に加わりました。
  5. 2025年の厚いキャッシュフロー:営業CF95.66億ドルに対し配当支払額41.16億ドルで、通期では十分な配当カバー力がありました。
  6. 2026年通期EPS見通しを上方修正:2026年7月のQ2決算で調整後EPS予想を5.45~5.60ドルへ引き上げています。

投資リスク

  1. Exact Sciences統合リスク:大型買収による統合費用、無形資産償却、期待した成長を実現できないリスクがあります。
  2. 負債増加:2026年Q1末には買収資金調達によって債務が大幅に増えており、従来よりも負債返済力が重要になりました。
  3. 栄養事業の弱さ:2026年Q2の栄養売上は報告ベース3.1%減、比較可能ベース3.6%減でした。
  4. 既存診断事業の成長鈍化:診断部門の報告ベース成長率はExact Sciences買収で押し上げられており、比較可能ベースでは2026年Q2に2.9%増でした。
  5. 規制・品質・訴訟リスク:医療機器、診断、栄養、医薬品は各国の承認、安全規制、製品責任などの影響を受けます。
  6. 競争:糖尿病ケア、構造的心疾患、電気生理学、がん診断など成長市場では競争が激しくなっています。
  7. 為替:160カ国超で事業を展開しているため、ドル高・ドル安が報告売上高や利益に影響します。
  8. 調整後EPSへの依存:2026年はGAAP EPSと調整後EPSの差が大きく、買収関連費用を無視して調整後指標だけを見ることは適切ではありません。

まとめ:アボット・ラボラトリーズの今後の見通し

アボット・ラボラトリーズは、医療機器を中心とする既存事業の成長54年連続増配厚い通期キャッシュフローという従来の強みに、2026年からExact Sciencesのがん診断事業が加わりました。

2026年Q2は売上高125.93億ドル、調整後EPS1.31ドルとなり、会社は2026年通期の調整後EPS見通しを5.45~5.60ドルへ引き上げています。医療機器は比較可能ベース8.4%増と引き続き強く、Exact Sciencesの買収によって診断事業の規模も大きく拡大しました。[2]

一方、買収によってバランスシートは大きく変化しました。2026年Q1末の総資産は1,104.29億ドルまで拡大し、長期債務等も約340.47億ドルへ増加しています。今後は売上や調整後EPSだけでなく、営業キャッシュフローの回復、負債削減、GAAP利益と調整後利益の差を確認する必要があります。[8]

投資判断のポイント

2026年8月時点のABTは、単純な「安定配当株」というより、「長期増配を続ける医療機器大手が、大型買収によってがん診断へ成長領域を広げた局面」と見るほうが実態に近くなっています。

2026年8月6日終値107.96ドルを基準にした現行年率配当利回りは約2.33%で、高配当株と呼べる水準ではありません。一方、会社の2026年調整後EPS予想に対する年率配当の比率は約45~46%で、利益ベースでは一定の増配余地を残しています。

今後の焦点は、2026年通期の比較可能ベース売上成長率6.5~7.5%を達成できるか、Exact Sciencesの売上がキャッシュフローに転換されるか、そして増加した負債をどの程度早く削減できるかです。

免責事項
本記事は投資判断の参考として公開情報を整理したものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。株価、配当利回り、PER、業績見通しなどは変動します。投資にあたっては最新の企業開示を確認し、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。本記事の企業・業績情報は2026年8月7日までに確認できた公開情報を基準としています。

【注】(出典リンク)

  1. 株価(2026年8月6日終値107.96ドル) → Abbott Investor Relations「Stock Prices」MarketWatch「Abbott Laboratories stock outperforms competitors」(確認日:2026-08-07)
  2. 2026年Q2決算・事業別売上・通期/Q3ガイダンス・株主還元 → Abbott「Second-Quarter 2026 Results」SEC Form 8-K(2026年7月16日)StreetInsider(市場予想値)(確認日:2026-08-07)
  3. 会社概要・従業員12.2万人・160カ国超 → Abbott「About Abbott」(確認日:2026-08-07)
  4. 2013年の研究開発型医薬品事業分離・AbbVie独立 → Abbott「AbbVie分社化リリース」(確認日:2026-08-07)
  5. 2025年通期業績・過年度財務・キャッシュフロー・配当支払額 → SEC「Abbott Laboratories Form 10-K 2025」Abbott「Annual Reports」(確認日:2026-08-07)
  6. Exact Sciences買収完了(2026年3月23日) → Abbott「Abbott completes acquisition of Exact Sciences」(確認日:2026-08-07)
  7. 54年連続増配・0.63ドル配当・410回連続四半期配当 → Abbott「54th consecutive year」Abbott「410th consecutive quarterly dividend」Abbott「Dividend & Split History」(確認日:2026-08-07)
  8. 2026年Q1キャッシュフロー・買収後の資産・債務・株主資本 → SEC「Abbott Laboratories Form 10-Q―2026年3月31日終了期」Abbott「First-Quarter 2026 Results」(確認日:2026-08-07)

Posted by 南 一矢