T:AT&Tの配当推移

通信,配当






エーティアンドティー(AT&T)配当利回りと株価分析【2025年11月更新版】


エーティアンドティー(AT&T)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 3.84% 0% 57% 1.11 28.9 1.95
2023 6.69% -18% 56% 1.11 16.6 1.97
2022 7.26% -35% -119% 1.35 18.6 -1.13
2021 9.86% 0% 76% 2.08 21.1 2.73
2020 8.85% 2% -277% 2.08 23.5 -0.75
2019 7.97% 2% 108% 2.04 25.6 1.89
2018 7.97% 2% 70% 2 25.1 2.85
2017 6.74% 2% 41% 1.96 29.1 4.76
2016 6.49% 2% 91% 1.92 29.6 2.1
2015 7.37% 2% 79% 1.88 25.5 2.37
2014 7.05% 2% 148% 1.84 26.1 1.24
2013 6.74% 2% 53% 1.8 26.7 3.42
2012 6.90% 2% 141% 1.76 25.5 1.25
2011 7.75% 2% 261% 1.72 22.2 0.66
2010 8.36% 2% 50% 1.68 20.1 3.35
2009 8.50% 2% 80% 1.64 19.3 2.05
2008 6.37% 13% -364% 1.6 25.1 -0.44

【出典】

劇的に変化した配当の実績

AT&Tの配当実績は、通信業界の変遷と同社の戦略的転換を反映して大きく変化してきました。2008年から2020年まで13年間にわたり、年率約2%前後の着実な配当成長を継続し、1株あたり配当は1.60ドルから2.08ドルへと約30%増加しました(いずれも年間合計ベース)。[1] この期間、AT&Tは「配当貴族」として投資家からの信頼を築き、安定した株主還元の代名詞的存在でした。

しかし2022年には、WarnerMedia(旧Time Warner)のスピンオフに伴う事業構造の大幅な変化により、年間配当を約47%削減し1.11ドルに引き下げています。[1] その後も2023年・2024年はこの新しい水準(1.11ドル)を維持しており、2025年も1株0.2775ドルの四半期配当を継続する方針で、通期ベースでは1.11ドル維持が見込まれます(2025年11月時点)。[1][5]

【2025年時点の最新状況】 2024年通期も1株あたり1.11ドルの配当を維持しつつ、株価は2023年の安値水準から持ち直しました。2025年9月時点の株価ベースでは配当利回りは概ね3.8%前後となっており、事業再編後の新しい配当水準に対して市場が一定の信頼を織り込んでいると解釈できます。[1][5]

配当成長率の推移

AT&Tの配当成長率は明確にいくつかの段階に分けることができます:

  • 2008〜2020年:安定成長期(年率約2%の一貫した増配を13年間継続)[1]
  • 2021年:転換期(配当据え置き、0%成長)[1]
  • 2022年:構造転換期(WarnerMediaスピンオフに伴う約47%の大幅減配)[1][2]
  • 2023〜2025年:新体制安定期(年間1.11ドルでの配当維持、0%成長)[1][5]

このパターンは、AT&Tの事業ポートフォリオの根本的な変化を反映しています。特に注目すべきは、2009年から2020年まで12年連続で年率約2%という極めて規則的な配当成長を実現した点です。これは同社が伝統的な通信事業の安定したキャッシュフローを背景に、予測可能な株主還元を重視していたことを示しています。[4]

2022年の減配は、856億ドルという巨額で買収したTime Warnerを含むメディア事業を分離し、通信事業に専念するという戦略的決断に伴うものでした。[2] この減配により、同社は約25年ぶりに「配当貴族」の地位を失いましたが、事業の簡素化と財務健全性の向上を通じて、より持続可能な配当政策への転換を図っています。

配当利回りの変遷

AT&Tの配当利回りは、株価の変動と配当政策の変化により大きく変遷してきました。特に注目すべき点は:

  • 2008〜2020年:各年末株価ベースで概ね5〜7%台の配当利回りを提供
  • 2021年:株価下落により一時的に7〜8%台まで上昇し、減配懸念が高まる
  • 2022年:減配実施後も株価調整が続いたものの、年末時点の利回りは4〜6%台に収れん
  • 2023〜2025年:事業再編後の安定した利回り水準(概ね4〜6%台)で推移し、2025年9月時点の株価ベースでは約3.8%前後

これらの利回りは、各年の年間配当額と株価から逆算した概算値であり、2025年9月8日時点では年間配当1.11ドルに対して配当利回りは約3.75〜3.8%と報告されています。[1][5]

【現在の状況】 2024年通期まで配当は1株1.11ドルで維持されており、2025年も同水準が続く見込みです。足元の利回りは「高配当株」というよりは「インフラ型通信企業として適度な利回り」という水準に落ち着いています。[1][5]

2021年の異常に高い配当利回りは、投資家がWarnerMediaスピンオフと配当削減を予想して株価が下落したことによるものでした。この時期の高利回りは、実際には配当政策の持続可能性に対する市場の懸念を反映していました。

注目ポイント:AT&Tは2022年の事業再編により、伝統的な「高配当電話会社」から「成長志向の通信企業」へと性格を変化させました。新しい配当政策では、高い利回りよりも事業成長への投資と財務健全性のバランスを重視する方針に転換しています。現在の約3〜4%台という利回りは、5G展開やブロードバンド拡張への投資余力を確保しながら、適切な株主還元を実現する水準として設定されていると考えられます。[3]

配当性向の持続可能性

AT&Tの配当性向(配当÷EPS)は、同社の事業特性と収益の変動性により大きく変動してきました:

  • 2008年:巨額損失により配当性向がマイナス(-364%)
  • 2009〜2010年:適正水準に回復(80%、50%)
  • 2011〜2019年:変動しながらも概ね許容範囲内(53%〜261%)
  • 2020年:再び大幅赤字により配当性向がマイナス(-277%)
  • 2021年:回復傾向(およそ70%台)
  • 2022年:減配後も損失により配当性向がマイナス(-98%)
  • 2023〜2024年:EPSベースでは56%→約75%とやや上昇した一方、フリーキャッシュフロー(FCF)ベースでは40〜50%台で安定

ここでの2008〜2021年の数値は、AT&Tの過去の年次報告書と公開財務データベースをもとにした概算です。[2][4] 2023年のEPSは1.97ドル、2024年のEPSは1.49ドルで、2022年以降の年間配当1.11ドルと比較すると、EPSベースの配当性向はそれぞれ約56%、約75%となります。[2]

【2024年の姿】 2024年はEPSベースの配当性向が約75%とやや高めですが、フリーキャッシュフロー・ベースでは約46%にとどまり、キャッシュフロー面では比較的余裕のある水準です。[2][3]

極端な配当性向の理解:通信業界特有の大規模な設備投資と減価償却、買収に伴う一時的損失が配当性向を不安定にしています:

  • 2008年:金融危機の影響とスペクトラム投資の減価償却により26.2億ドルの純損失を計上。この年も1.60ドルの配当を維持したため、配当性向は-364%となりました。
  • 2020年:COVID-19パンデミックによる事業環境の悪化と、5G投資関連の減価償却費増加により51.8億ドルの純損失。配当2.08ドルに対して-277%の配当性向となりました。
  • 2022年:WarnerMediaスピンオフに伴う一時的損失により85.2億ドルの純損失を計上。減配後もEPSがマイナスだったため、配当性向は-98%となりました。

これらはいずれも、事業そのものの稼ぐ力が急激に落ちたというより、「会計上の一時的な損失」がEPSを押し下げた結果です。[2][4]

通信業界の会計上の特殊性:AT&Tのような通信企業の純利益は以下の理由で大きく変動します:

  • 巨額の設備投資と減価償却:5G網構築、光ファイバー敷設などの大規模インフラ投資
  • スペクトラム取得費用:政府オークションでの周波数取得に伴う多額の投資
  • 買収・統合費用:業界再編に伴うM&A関連コストと統合費用
  • 技術転換コスト:3Gから4G、4Gから5Gへの設備更新に伴う除却損
  • 規制変更への対応費用:通信法改正や新しい規制への適応コスト

これらの要因により純利益が大きく変動するため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。通信企業の配当分析では、EPSだけでなく、営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローに対する配当の割合を重視することが重要です。

実際に、AT&Tのキャッシュフロー指標を見ると、EPSベースの配当性向が極端に見える年でも、営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの水準には比較的余裕があります。2024年は営業キャッシュフローが38,771M$(387.7億ドル)、フリーキャッシュフローが17,600M$(176億ドル)で、同年の配当支払い総額約8,200M$は営業キャッシュフローの約21%、フリーキャッシュフローの約46%にとどまっています。[2][3]

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益(AT&T株主帰属)
2008 123,443 33,610 27 -2,625
2009 122,513 34,405 28 12,138
2010 124,280 35,222 28 19,864
2011 126,723 34,743 27 3,944
2012 127,434 39,176 31 7,264
2013 128,752 34,796 27 18,418
2014 132,447 31,338 24 6,442
2015 146,801 35,880 24 13,345
2016 163,786 38,442 23 12,976
2017 160,546 38,010 24 29,450
2018 170,756 43,602 26 19,370
2019 181,193 48,668 27 13,903
2020 143,050 43,129 30 -5,176
2021 134,038 41,958 31 20,081
2022 120,741 32,023 27 -8,524
2023 122,428 38,314 31 14,400
2024 122,336 38,771 32 10,948

※2022〜2024年の数値はAT&TのForm 10-K(2024年版)に基づいており、それ以前の年は公開財務データベースをもとに集計したものです(いずれも連結ベース、単位は百万ドル)。[2][4]

収益性と効率性の変動

AT&Tの財務データからは、大型買収による事業拡大、その後の事業再編、そして通信事業への回帰という劇的な変遷が見て取れます:

  • 売上高は2008年の123,443M$から2019年のピーク181,193M$まで拡大し、その後メディア事業売却などにより2024年には122,336M$へ
  • 営業CFマージンは一貫して高水準を維持し、特に2020年以降は30%前後〜32%の優れた効率性を実現
  • 純利益は極めて変動が大きく、2017年の29,450M$から2022年には-8,524M$まで変動
  • 2023年以降は事業構造の簡素化により、より安定した収益性を回復
【2024年実績】 売上高122,336M$、営業CF 38,771M$、AT&T株主に帰属する純利益10,948M$と、事業再編後としては安定した業績を維持しました。営業CFマージンは32%と高水準を達成しています。[2]

特に注目すべきは、2015年(DirecTV買収)、2018年(Time Warner買収)の大型買収により売上が急拡大した一方、その後のメディア事業売却(2022年のWarnerMediaスピンオフ)により売上が元の水準に戻った点です。この一連の変化は、AT&Tが「通信+メディア」の複合企業から、再び通信に特化した企業へと戦略を転換したことを示しています。[2]

営業CFマージンの高さ(直近では32%)は、通信事業の特性を反映しています。一度ネットワークインフラが構築されれば、追加的な顧客獲得に伴う限界コストは低く、スケールメリットが効きやすい事業構造となっています。2020年以降の30%超のマージンは、5G投資の効率化と事業統合効果の表れと考えられます。[2]

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 33,610 -2 -29,098 -4,690
2009 34,405 2 -17,883 -14,508
2010 35,222 2 -21,449 -15,849
2011 34,743 -1 -21,250 -11,649
2012 39,176 13 -19,680 -17,673
2013 34,796 -11 -23,124 -13,201
2014 31,338 -10 -18,337 -7,737
2015 35,880 14 -49,144 9,782
2016 38,442 7 -23,318 -14,462
2017 38,010 -1 -18,943 25,930
2018 43,602 15 -63,145 -25,989
2019 48,668 12 -16,690 -25,083
2020 43,129 -11 -13,549 -32,005
2021 41,958 -3 -32,090 1,578
2022 32,023 -24 -25,805 -23,741
2023 38,314 20 -19,660 -15,614
2024 38,771 1 -17,490 -24,708

AT&Tの最大の強みは、極めて安定したキャッシュフロー創出能力にあります:

  • 営業CFは過去17年間、一度もマイナスになることなく30,000M$以上を安定的に創出
  • 2008年の金融危機、2020年のパンデミック時も営業CFは堅調を維持
  • 2019年には過去最高の48,668M$を記録し、通信事業の底堅さを実証
  • 2022年の事業再編による一時的減少後、2023年には力強く回復(20%増)
【2024年実績】 営業CF 38,771M$、会社定義ベースのフリーキャッシュフロー17,600M$を記録し、安定したキャッシュ創出能力をあらためて示しました。[2][3]

投資CFの変動パターンから、同社の戦略的意図が読み取れます:

  • 2015年(-49,144M$):DirecTV買収(485億ドル)による大規模投資
  • 2018年(-63,145M$):Time Warner買収(856億ドル)による過去最大の投資
  • 2020年以降:5G展開への集中的投資(資本投資は年間200億ドル前後、2024年実績は約22.1億ドル)
  • 2023年以降:投資の効率化により投資CFが正常化(200億ドル規模)

財務CFは資本政策の変化を明確に反映しています:

  • 2008〜2020年:配当支払いと負債削減による一貫したマイナス
  • 2017年、2021年:大型買収資金調達により一時的にプラスに転換
  • 2022年以降:WarnerMediaスピンオフ後の負債削減と株主還元の両立

キャッシュフロー分析のポイント:AT&Tのキャッシュフローパターンは、「安定創出→戦略投資→効率化」のサイクルを示しています。通信事業の特性上、一度構築されたネットワークからは安定したキャッシュフローが創出されるため、投資CFの変動にかかわらず営業CFは安定しています。2022年以降は、複雑な事業構造から脱却し、より予測可能なキャッシュフロー創出企業として再出発していることがわかります。2025年通期についても、DIRECTVを除いたフリーキャッシュフローで160億ドル超というガイダンスが示されており、配当と負債削減を両立できる水準が見込まれています。[3][5]

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本(AT&T株主) 自己資本率 負債比率
2008 265,245 168,495 96,347 36 175
2009 268,312 166,323 101,564 38 164
2010 269,391 157,441 111,647 41 141
2011 270,442 164,645 105,534 39 156
2012 272,315 179,620 92,362 34 194
2013 277,787 186,305 90,988 33 205
2014 296,834 206,564 89,716 30 230
2015 402,672 279,032 122,671 30 227
2016 403,821 279,711 123,135 30 227
2017 444,097 302,090 140,861 32 214
2018 531,864 337,980 184,089 35 184
2019 551,669 349,735 184,221 33 190
2020 525,761 346,521 161,673 31 214
2021 551,622 367,767 183,855 33 200
2022 402,853 296,396 106,457 26 278
2023 407,060 287,645 119,415 29 241
2024 394,795 260,697 118,245 30 220

AT&Tの資本構成には、以下の特徴的な変化が見られます:

  • 総資産は2015年のDirecTV買収で402,672M$へ、2018年のTime Warner買収で531,864M$へと段階的に拡大
  • 2022年のWarnerMediaスピンオフで総資産が402,853M$へと大幅減少
  • 自己資本率は大型買収期に30%前後で推移し、2022年の事業再編で一時的に26%まで低下
  • 負債比率は2008年の175%から段階的に上昇し、2022年には278%でピークを記録
  • 2023年以降、負債削減により財務指標が改善傾向
【2024年改善】 継続的な負債削減により、自己資本率は約30%、負債比率は約220%まで改善し、財務健全性は徐々に回復傾向にあります。[2]

資本構成の変化には、以下の戦略的要因が影響しています:

  • 2015年:DirecTV買収(485億ドル)による資産・負債の大幅増加
  • 2018年:Time Warner買収(856億ドル)によるさらなる財務レバレッジの拡大
  • 2022年:WarnerMediaスピンオフによる資産減少と一時的な財務指標悪化
  • 2023年以降:負債削減と通信事業集中による財務健全性の回復
  • 2024年:有利子負債(Total debt)を123.5B$、ネット有利子負債(Net debt)を120.1B$まで削減

2022年末から2024年末にかけて、総負債は296,396M$から260,697M$へと約360億ドル減少しました。[2] さらに2024年末時点の有利子負債123.5B$に対し、ネット有利子負債は120.1B$まで圧縮されており、フリーキャッシュフローを活用した着実なデレバレッジが進んでいます。[3]

2025年に入っても債務削減は継続しており、2025年3Q時点でもネット有利子負債は概ね1,190億ドル前後で推移しています。会社は調整後EBITDAに対するネット有利子負債倍率を2025年前半に約2.5倍とし、その水準を維持する方針を示しています。[3][5]

負債比率の高さ(2024年で約220%)は一見懸念材料ですが、通信業界の特性を考慮する必要があります。通信インフラは長期間にわたって安定したキャッシュフローを生み出すため、相対的に高い負債比率での運営が可能です。また、同社は2022年以降、総負債および有利子負債の削減を継続しており、財務リスクの低減に努めています。[2][3]

まとめ:長期配当投資家にとってのAT&Tとは?

AT&Tは、大型買収による複合企業化とその後の事業再編を経て、再び通信事業に特化した企業として新たなスタートを切りました。2022年の約47%減配は配当投資家にとって大きな衝撃でしたが、これにより同社はより持続可能な配当政策と財務構造を確立することができました。[1][2]

同社の強みは以下の点にあります:

  • 極めて安定した営業キャッシュフロー創出能力(年間おおむね380億ドル前後)
  • 全米最大規模のワイヤレス・ネットワークと光ファイバー網という競争優位性
  • 5G展開による新たな成長機会(企業向けサービス、IoT、エッジコンピューティングなど)
  • 事業再編後の簡素化された事業構造による運営効率向上
  • フリーキャッシュフロー・ベースでは40〜50%台に抑えられた配当性向と、デレバレッジに回せる追加キャッシュ
  • 直近の株価水準における適度な配当利回り(2025年9月時点で約3.8%前後)
  • インフラ企業としての景気耐性と安定性
【2024〜2025年の成果】

  • 営業CFマージン32%の高効率運営を継続
  • 2022年末から2024年末にかけて総負債を約360億ドル削減
  • 有利子負債123.5B$/ネット有利子負債120.1B$(2024年末時点)まで圧縮
  • DIRECTV除きフリーキャッシュフロー160億ドル超(2025年ガイダンス)を見込む中で、配当と負債削減を両立

[2][3][5]

一方で、注意すべき点としては:

  • 「配当貴族」の地位を失い、配当成長の実績がリセットされた点
  • 依然として高い負債比率と大きな有利子負債残高
  • 無線通信市場の成熟化と価格競争の激化
  • 5G投資による継続的な設備投資負担(資本投資は2025年も高水準が続く見込み)
  • コードカッティング(ケーブルTV解約)の進展によるレガシー事業への影響
  • 規制リスク(ネット中立性、プライバシー保護など)
  • 技術変化への対応コスト(将来の6Gやエッジコンピューティング対応など)

投資家へのポイント:AT&Tへの投資は、「安定した配当利回りと限定的な成長」の特性を持っています。同社は急激な成長を追求するよりも、通信インフラ企業としての安定性と適度な配当利回りを重視する投資家に適しています。2022年の事業再編により、経営の複雑性は大幅に低下し、より予測可能な財務パフォーマンスが期待できます。

配当投資家としては、過去のような毎年の安定した配当成長は期待しにくいものの、現在の1.11ドルという水準はフリーキャッシュフローの範囲内で十分に持続可能とみられます。5G関連の投資サイクルが一段落し、レバレッジが目標水準(ネットデット/調整後EBITDA約2.5倍)に落ち着けば、緩やかな配当成長の再開も視野に入ってくるでしょう。長期的には、5G、光ファイバー、エッジコンピューティングなどの新技術により、従来の「成熟した通信企業」から「デジタルインフラ企業」への進化が期待されます。[3]

よくある質問

Q. AT&Tの配当はどれくらい安全ですか?

A. 現在のAT&Tの配当(年間1.11ドル)は、フリーキャッシュフローと比較した場合、比較的安全と評価できます。2022年の約47%減配により、配当水準は同社の事業規模と収益力に見合った持続可能なレベルに調整されました。2024年のEPSベース配当性向は約75%とやや高めですが、フリーキャッシュフロー(176億ドル)に対する配当支払い総額(約82億ドル)の比率はおよそ46%で、キャッシュフロー面では十分な余裕があります。[2][3]

また、通信事業は生活インフラとしての性質上、景気変動の影響を受けにくく、安定したキャッシュフロー創出が期待できます。ただし、5G投資による継続的な設備投資負担と高い負債水準は引き続き注意が必要な要因です。それでも、WarnerMediaスピンオフにより事業構造が簡素化され、予測可能性が高まったことから、短期〜中期的な再減配リスクは限定的とみる投資家が多いでしょう。[2]

Q. なぜAT&Tは2022年に大幅な減配を行ったのですか?

A. 2022年の約47%減配は、WarnerMediaのスピンオフに伴う事業構造の根本的変化が主因です。AT&Tは2018年に約856億ドルでTime Warnerを買収し、通信とメディアの融合を目指しましたが、(1)メディア事業の収益力低下とストリーミング競争の激化、(2)5G投資に経営資源を集中する必要性、(3)パンデミックによる広告収入の圧迫、(4)複雑なコングロマリット構造による経営効率の低下、などを背景に戦略の再転換を迫られました。[2]

WarnerMediaをDiscoveryと合併させることで、AT&Tは債務負担を軽減し、通信事業に経営資源を集中できるようになりました。減配は痛みを伴いましたが、(1)5G展開への投資余力の確保、(2)負債比率の改善、(3)事業の簡素化による運営効率向上、(4)より持続可能な配当政策の確立、というメリットももたらしています。減配は「失敗」だけでなく、長期的な競争力確保のための「戦略的選択」として理解する方が、企業側の狙いに近いと考えられます。

Q. 5G投資はAT&Tの将来の配当にどのような影響を与えますか?

A. 5G投資はAT&Tの配当に短期的には制約要因となりますが、中長期的には成長ドライバーとなる可能性があります。短期的な影響としては:

  • 年間200億ドル前後の継続的な資本投資により、フリーキャッシュフローが圧迫される
  • 新技術への移行コストと既存設備の除却損が発生する
  • 投資回収期間中は配当成長が抑制されやすい

一方、中長期的なメリットとして:

  • 5G企業向けサービス(プライベートネットワーク、IoT、自動運転支援など)による高付加価値化
  • ネットワーク効率化による運営コスト削減
  • エッジコンピューティングやクラウドサービスとの連携による新収益源の創出

AT&Tは2025年も高水準の資本投資を続ける見通しですが、その後は投資負担を徐々に低減させつつ、フリーキャッシュフローの拡大を通じてレバレッジ低下と株主還元のバランスを取る方針です。5G投資によって同社が「従来の通信会社」から「デジタルインフラ企業」へと進化できるかどうかが、長期的な配当成長余地を左右するポイントになります。[3]

Q. AT&Tの高い負債比率は持続可能ですか?

A. AT&Tの負債比率(2024年末時点で自己資本比率約30%、負債比率約220%)は確かに高い水準にありますが、通信インフラという事業の性質を考えると、直ちに危険な水準とは言い切れません。通信インフラは長期間にわたって比較的安定したキャッシュフローを生み出すため、他の業界と比べれば高いレバレッジを許容しやすい構造になっています。[2]

同社は2022年以降、総負債・有利子負債の削減を継続しており、2024年末時点で有利子負債は123.5B$、ネット有利子負債は120.1B$まで低下しました。経営陣はネットデット/調整後EBITDAを2025年前半に約2.5倍とし、その水準を維持する方針を示しています。[3][5]

リスク要因としては、(1)金利上昇局面での借り換えコスト増加、(2)競争激化による収益性の低下、(3)技術変化に伴う追加投資の必要性、などが挙げられます。とはいえ、現在の信用格付けやフリーキャッシュフロー水準を踏まえると、短期的な流動性リスクは限定的とみられます。長期的には、5G投資の収益化と継続的なデレバレッジにより、より健全な財務構造に近づいていくシナリオがベースラインと言えるでしょう。[2][3]

※本記事は投資判断の参考として財務データを整理・分析したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

数値はいずれも公表資料にもとづきますが、簡略化や四捨五入により実際の開示値と若干異なる場合があります。詳細な出典は本文末の【注】をご確認ください。

ミニ解説: 本文では2024年通期決算と2025年2Q/3Qまでの最新情報を反映し、特に「配当性向はEPSだけでなくフリーキャッシュフローで見る」点と、「減配後も安定したキャッシュフローで配当と負債削減を両立している」点を整理し直しています。

【注】(出典リンク)

  1. 配当履歴・配当政策 → AT&T Dividend Information(確認日:2025-11-25)
  2. 2022〜2024年の業績・財政状態 → AT&T 2024 Form 10-K / Annual Report(確認日:2025-11-25)
  3. フリーキャッシュフロー・有利子負債・2025年ガイダンス → AT&T 4Q24 Earnings Release(確認日:2025-11-25)
  4. 長期の財務データ(2008〜2021年など) → Macrotrends – AT&T Financial Statements(確認日:2025-11-25)
  5. 株価・配当利回り・直近四半期コメント → AT&T 2025年2Q/3Q Earnings ReleaseInvesting.com – AT&T 株価データ(確認日:2025-11-25)

Posted by 南 一矢