T:AT&Tの配当推移

配当

エーティアンドティー(AT&T)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 5.78% 0% 74% 1.11 19.2 1.49
2023 6.69% -18% 56% 1.11 16.6 1.97
2022 7.26% -35% -119% 1.35 18.6 -1.13
2021 9.86% 0% 76% 2.08 21.1 2.73
2020 8.85% 2% -277% 2.08 23.5 -0.75
2019 7.97% 2% 108% 2.04 25.6 1.89
2018 7.97% 2% 70% 2 25.1 2.85
2017 6.74% 2% 41% 1.96 29.1 4.76
2016 6.49% 2% 91% 1.92 29.6 2.1
2015 7.37% 2% 79% 1.88 25.5 2.37
2014 7.05% 2% 148% 1.84 26.1 1.24
2013 6.74% 2% 53% 1.8 26.7 3.42
2012 6.90% 2% 141% 1.76 25.5 1.25
2011 7.75% 2% 261% 1.72 22.2 0.66
2010 8.36% 2% 50% 1.68 20.1 3.35
2009 8.50% 2% 80% 1.64 19.3 2.05
2008 6.37% 13% -364% 1.6 25.1 -0.44

【出典】

劇的に変化した配当の実績

AT&Tの配当実績は、通信業界の変遷と同社の戦略的転換を反映して大きく変化してきました。2008年から2020年まで13年間にわたり、年率約2%の着実な配当成長を継続し、1.60ドルから2.08ドルへと30%の増加を実現しました。この期間、AT&Tは「配当貴族」として投資家からの信頼を築き、安定した株主還元の代名詞的存在でした。しかし2022年には、WarnerMedia(旧Time Warner)のスピンオフに伴う事業構造の大幅な変化により、配当を47%削減し1.11ドルに引き下げました。その後、2023年から2024年にかけては、この新しい水準での配当を維持し、変革後の新たな配当政策の安定化を図っています。

配当成長率の推移

AT&Tの配当成長率は明確に3つの段階に分けることができます:

  • 2008〜2020年:安定成長期(年率約2%の一貫した増配を13年間継続)
  • 2021年:転換期(配当据え置き、0%成長)
  • 2022年:構造転換期(WarnerMediaスピンオフに伴う47%の大幅減配)
  • 2023〜2024年:新体制安定期(1.11ドルでの配当維持、0%成長)

このパターンは、AT&Tの事業ポートフォリオの根本的な変化を反映しています。特に注目すべきは、2009年から2020年まで12年連続で年率2%という極めて規則的な配当成長を実現した点です。これは同社が伝統的な通信事業の安定したキャッシュフローを背景に、予測可能な株主還元を重視していたことを示しています。

2022年の47%減配は、856億ドルという巨額で買収したTime Warnerを含むメディア事業を分離し、通信事業に専念するという戦略的決断に伴うものでした。この減配により、同社は約25年ぶりに「配当貴族」の地位を失いましたが、事業の簡素化と財務健全性の向上を通じて、より持続可能な配当政策への転換を図りました。

配当利回りの変遷

AT&Tの配当利回りは、株価の変動と配当政策の変化により大きく変遷してきました。特に注目すべき点は:

  • 2008〜2020年:通信銘柄として安定した中程度の利回り(概ね5〜7%台)を提供
  • 2021年:過去最高水準の利回り(約7〜8%)に達し、減配懸念が高まる
  • 2022年:減配実施により利回りが正常化(4〜5%台)
  • 2023〜2024年:事業再編後の安定した利回り水準(約6%前後)で推移

2021年の異常に高い配当利回りは、投資家がWarnerMediaスピンオフと配当削減を予想して株価が下落したことによるものでした。この時期の高利回りは、実際には配当政策の持続可能性に対する市場の懸念を反映していました。

注目ポイント:AT&Tは2022年の事業再編により、伝統的な「高配当電話会社」から「成長志向の通信企業」へと性格を変化させました。新しい配当政策では、高い利回りよりも事業成長への投資と財務健全性のバランスを重視する方針に転換しています。現在の約6%という利回りは、5G展開やブロードバンド拡張への投資余力を確保しながら、適切な株主還元を実現する水準として設定されています。

配当性向の持続可能性

AT&Tの配当性向(配当÷EPS)は、同社の事業特性と収益の変動性により大きく変動してきました:

  • 2008年:巨額損失により配当性向がマイナス(-364%)
  • 2009〜2010年:適正水準に回復(80%、50%)
  • 2011〜2019年:変動しながらも概ね許容範囲内(53%〜261%)
  • 2020年:再び大幅赤字により配当性向がマイナス(-277%)
  • 2021年:回復傾向(76%)
  • 2022年:減配後も損失により配当性向がマイナス(-98%)
  • 2023〜2024年:安定化(56%、74%)

極端な配当性向の理解:通信業界特有の大規模な設備投資と減価償却、買収に伴う一時的損失が配当性向を不安定にしています:

  • 2008年:金融危機の影響とスペクトラム投資の減価償却により26.2億ドルの純損失を計上。この年も1.60ドルの配当を維持したため、配当性向は-364%となりました。
  • 2020年:COVID-19パンデミックによる事業環境の悪化と、5G投資関連の減価償却費増加により51.8億ドルの純損失。配当2.08ドルに対して-277%の配当性向となりました。
  • 2022年:WarnerMediaスピンオフに伴う一時的損失により85.2億ドルの純損失を計上。配当削減後も-98%の配当性向となりました。

通信業界の会計上の特殊性:AT&Tのような通信企業の純利益は以下の理由で大きく変動します:

  • 巨額の設備投資と減価償却:5G網構築、光ファイバー敷設などの大規模インフラ投資
  • スペクトラム取得費用:政府オークションでの周波数取得に伴う多額の投資
  • 買収・統合費用:業界再編に伴うM&A関連コストと統合費用
  • 技術転換コスト:3Gから4G、4Gから5Gへの設備更新に伴う除却損
  • 規制変更への対応費用:通信法改正や新しい規制への適応コスト

これらの要因により純利益が大きく変動するため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。通信企業の配当分析では、営業キャッシュフローに対する配当の割合を重視することが重要です。

実際に、AT&Tのキャッシュフロー指標を見ると、配当性向が極端に高い年でも、営業キャッシュフロー(2022年は32,023M$、2024年は38,771M$)は配当支払いをカバーするのに十分な水準を維持しています。2024年の配当総額は約68億ドルで、営業キャッシュフローの18%程度となっており、健全な水準にあります。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 123,443 33,610 27 -2,625
2009 122,513 34,405 28 12,138
2010 124,280 35,222 28 19,864
2011 126,723 34,743 27 3,944
2012 127,434 39,176 31 7,264
2013 128,752 34,796 27 18,418
2014 132,447 31,338 24 6,442
2015 146,801 35,880 24 13,345
2016 163,786 38,442 23 12,976
2017 160,546 38,010 24 29,450
2018 170,756 43,602 26 19,370
2019 181,193 48,668 27 13,903
2020 143,050 43,129 30 -5,176
2021 134,038 41,958 31 20,081
2022 120,741 32,023 27 -8,524
2023 122,428 38,314 31 14,400
2024 122,336 38,771 32 10,948

収益性と効率性の変動

AT&Tの財務データからは、大型買収による事業拡大、その後の事業再編、そして通信事業への回帰という劇的な変遷が見て取れます:

  • 売上高は2008年の123,443M$から2019年のピーク181,193M$まで拡大し、その後事業売却により2024年には122,336M$へ
  • 営業CFマージンは一貫して高水準を維持し、特に2020年以降は30%超の優れた効率性を実現
  • 純利益は極めて変動が大きく、2017年の29,450M$から2022年には-8,524M$まで変動
  • 2023年以降は事業構造の簡素化により、より安定した収益性を回復

特に注目すべきは、2015年(DirecTV買収)、2018年(Time Warner買収)の大型買収により売上が急拡大した一方、その後のメディア事業売却(2022年のWarnerMediaスピンオフ)により売上が元の水準に戻った点です。この一連の変化は、AT&Tが「通信+メディア」の複合企業から、再び通信に特化した企業へと戦略を転換したことを示しています。

営業CFマージンの高さ(直近では32%)は、通信事業の特性を反映しています。一度ネットワークインフラが構築されれば、追加的な顧客獲得に伴う限界コストは低く、スケールメリットが効きやすい事業構造となっています。2020年以降の30%超のマージンは、5G投資の効率化と事業統合効果の表れと考えられます。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 33,610 -2 -29,098 -4,690
2009 34,405 2 -17,883 -14,508
2010 35,222 2 -21,449 -15,849
2011 34,743 -1 -21,250 -11,649
2012 39,176 13 -19,680 -17,673
2013 34,796 -11 -23,124 -13,201
2014 31,338 -10 -18,337 -7,737
2015 35,880 14 -49,144 9,782
2016 38,442 7 -23,318 -14,462
2017 38,010 -1 -18,943 25,930
2018 43,602 15 -63,145 -25,989
2019 48,668 12 -16,690 -25,083
2020 43,129 -11 -13,549 -32,005
2021 41,958 -3 -32,090 1,578
2022 32,023 -24 -25,805 -23,741
2023 38,314 20 -19,660 -15,614
2024 38,771 1 -17,490 -24,708

AT&Tの最大の強みは、極めて安定したキャッシュフロー創出能力にあります:

  • 営業CFは過去17年間、一度もマイナスになることなく30,000M$以上を安定的に創出
  • 2008年の金融危機、2020年のパンデミック時も営業CFは堅調を維持
  • 2019年には過去最高の48,668M$を記録し、通信事業の底堅さを実証
  • 2022年の事業再編による一時的減少後、2023年には力強く回復(20%増)

投資CFの変動パターンから、同社の戦略的意図が読み取れます:

  • 2015年(-49,144M$):DirecTV買収(485億ドル)による大規模投資
  • 2018年(-63,145M$):Time Warner買収(856億ドル)による過去最大の投資
  • 2020年以降:5G展開への集中的投資(年間130億〜200億ドル規模)
  • 2023年以降:投資の効率化により投資CFが正常化(170億〜200億ドル)

財務CFは資本政策の変化を明確に反映しています:

  • 2008〜2020年:配当支払いと負債削減による一貫したマイナス
  • 2017年、2021年:大型買収資金調達によりプラスに転換
  • 2022年以降:WarnerMediaスピンオフ後の負債削減と株主還元の両立

キャッシュフロー分析のポイント:AT&Tのキャッシュフローパターンは、「安定創出→戦略投資→効率化」のサイクルを示しています。通信事業の特性上、一度構築されたネットワークからは安定したキャッシュフローが創出されるため、投資CFの変動にかかわらず営業CFは安定しています。2022年以降は、複雑な事業構造から脱却し、より予測可能なキャッシュフロー創出企業として再出発していることがわかります。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 265,245 168,495 96,347 36 175
2009 268,312 166,323 101,564 38 164
2010 269,391 157,441 111,647 41 141
2011 270,442 164,645 105,534 39 156
2012 272,315 179,620 92,362 34 194
2013 277,787 186,305 90,988 33 205
2014 296,834 206,564 89,716 30 230
2015 402,672 279,032 122,671 30 227
2016 403,821 279,711 123,135 30 227
2017 444,097 302,090 140,861 32 214
2018 531,864 337,980 184,089 35 184
2019 551,669 349,735 184,221 33 190
2020 525,761 346,521 161,673 31 214
2021 551,622 367,767 183,855 33 200
2022 402,853 296,396 106,457 26 278
2023 407,060 287,645 119,415 29 241
2024 394,795 274,570 120,225 30 228

AT&Tの資本構成には、以下の特徴的な変化が見られます:

  • 総資産は2015年のDirecTV買収で402,672M$へ、2018年のTime Warner買収で531,864M$へと段階的に拡大
  • 2022年のWarnerMediaスピンオフで総資産が402,853M$へと大幅減少
  • 自己資本率は買収により30%前後で推移し、2022年の事業再編で一時的に26%まで低下
  • 負債比率は2008年の175%から段階的に上昇し、2022年には278%でピークを記録
  • 2023年以降、負債削減により財務指標が改善傾向

資本構成の変化には、以下の戦略的要因が影響しています:

  • 2015年:DirecTV買収(485億ドル)による資産・負債の大幅増加
  • 2018年:Time Warner買収(856億ドル)によるさらなる財務レバレッジの拡大
  • 2022年:WarnerMediaスピンオフによる資産減少と一時的な財務指標悪化
  • 2023年以降:負債削減と通信事業集中による財務健全性の回復

負債比率の高さ(2024年で228%)は一見懸念材料ですが、通信業界の特性を考慮する必要があります。通信インフラは長期間にわたって安定したキャッシュフローを生み出すため、相対的に高い負債比率での運営が可能です。また、同社は2022年以降、積極的な負債削減を実施しており(2022年の296,396M$から2024年の274,570M$へ約220億ドル削減)、財務リスクの低減に努めています。

流動比率の低さ(2024年で67%)は通信業界では一般的で、安定した営業キャッシュフローと利用可能な信用枠により、短期的な流動性リスクは限定的です。

まとめ:長期配当投資家にとってのAT&Tとは?

AT&Tは、大型買収による複合企業化とその後の事業再編を経て、再び通信事業に特化した企業として新たなスタートを切りました。2022年の47%減配は配当投資家にとって大きな衝撃でしたが、これにより同社はより持続可能な配当政策と財務構造を確立することができました。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 極めて安定した営業キャッシュフロー創出能力(年間380億ドル以上)
  • 全米最大規模のワイヤレス・ネットワークと光ファイバー網という競争優位性
  • 5G展開による新たな成長機会(企業向けサービス、IoT、エッジコンピューティング)
  • 事業再編後の簡素化された事業構造による運営効率向上
  • 減配後の健全な配当性向(74%)と十分なキャッシュフローカバレッジ
  • 魅力的な配当利回り(約6%)の提供
  • インフラ企業としての景気耐性と安定性

一方で、注意すべき点としては:

  • 「配当貴族」の地位を失い、配当成長の実績がリセットされた点
  • 依然として高い負債比率(228%)による財務リスク
  • 無線通信市場の成熟化と価格競争の激化
  • 5G投資による継続的な設備投資負担
  • コードカッティング(ケーブルTV解約)の進展によるレガシー事業への影響
  • 規制リスク(ネット中立性、プライバシー保護など)
  • 技術変化への対応コスト(6G準備、エッジコンピューティングなど)

投資家へのポイント:AT&Tへの投資は、「安定した配当利回りと限定的な成長」の特性を持っています。同社は急激な成長を追求するよりも、通信インフラ企業としての安定性と適度な配当利回りを重視する投資家に適しています。2022年の事業再編により、経営の複雑性は大幅に低下し、より予測可能な財務パフォーマンスが期待できます。

配当投資家としては、過去のような安定した配当成長は期待できませんが、現在の1.11ドルという水準は十分に持続可能であり、5G関連の投資サイクルが一段落すれば、緩やかな配当成長の再開も視野に入ってくるでしょう。長期的には、5G、光ファイバー、エッジコンピューティングなどの新技術により、従来の「成熟した通信企業」から「デジタルインフラ企業」への進化が期待されます。

よくある質問

AT&Tの配当はどれくらい安全ですか?

現在のAT&Tの配当(年間1.11ドル)は、比較的安全と評価できます。2022年の47%減配により、配当水準は同社の事業規模と収益力に見合った持続可能なレベルに調整されました。2024年の配当性向は74%と適正な範囲にあり、営業キャッシュフロー(387億ドル)に対する配当支払い総額(約68億ドル)の比率は18%程度と十分に余裕があります。また、通信事業は生活インフラとしての性質上、景気変動の影響を受けにくく、安定したキャッシュフロー創出が期待できます。ただし、5G投資による継続的な設備投資負担と高い負債比率(228%)は引き続き注意が必要な要因です。それでも、WarnerMediaスピンオフにより事業構造が簡素化され、予測可能性が高まったことから、短期〜中期的な配当削減リスクは低いと考えられます。

なぜAT&Tは2022年に大幅な減配を行ったのですか?

2022年の47%減配は、WarnerMediaのスピンオフに伴う事業構造の根本的変化が主因です。AT&Tは2018年に856億ドルでTime Warnerを買収し、通信とメディアの融合を目指しましたが、以下の理由により戦略の見直しを迫られました:(1)メディア事業の不振とストリーミング競争の激化、(2)5G投資に集中するための資源の再配分の必要性、(3)COVID-19パンデミックによる広告収入の減少とメディア事業の収益性悪化、(4)複雑な事業構造による経営効率の低下。

WarnerMediaをDiscoveryと合併させることで、AT&Tは債務負担を軽減し(約430億ドルの負債をスピンオフ)、通信事業に経営資源を集中できるようになりました。減配は痛みを伴いましたが、これにより同社は以下のメリットを得ました:(1)5G展開への投資余力の確保、(2)負債比率の改善、(3)事業の簡素化による運営効率向上、(4)より持続可能な配当政策の確立。減配は「失敗」ではなく、長期的な競争力確保のための「戦略的選択」として理解すべきでしょう。

5G投資はAT&Tの将来の配当にどのような影響を与えますか?

5G投資はAT&Tの配当に短期的には制約要因となりますが、中長期的には成長ドライバーとなる可能性があります。短期的な影響としては:(1)年間150〜200億ドルの継続的な設備投資により、フリーキャッシュフローが圧迫される、(2)新技術への移行コストと既存設備の除却損、(3)投資回収期間中は配当成長が制限される、ことが挙げられます。一方、中長期的なメリットとしては:(1)5G企業向けサービス(プライベートネットワーク、IoT、自動運転支援など)による高付加価値化、(2)ネットワーク効率化による運営コスト削減、(3)エッジコンピューティングやクラウドサービスとの連携による新収益源の創出、が期待されます。

AT&Tの5G投資は2025年頃にピークを迎え、その後は投資負担が軽減される見込みです。この時期以降、5G関連サービスからの収益拡大と投資負担の軽減により、配当成長の再開が期待できます。ただし、成長率は過去の年率2%を大きく上回ることは難しく、年率3〜5%程度の緩やかな成長にとどまる可能性が高いでしょう。重要なのは、5G投資により同社が「従来の通信会社」から「デジタルインフラ企業」へと進化し、より安定した収益基盤を構築できるかという点です。

AT&Tの高い負債比率は持続可能ですか?

AT&Tの負債比率(2024年で228%)は確かに高い水準にありますが、通信業界の特性を考慮すると必ずしも危険な水準ではありません。通信インフラは長期間にわたって安定したキャッシュフローを生み出すため、他の業界と比較して高い負債比率での運営が可能です。同社の強みとして:(1)年間380億ドル以上の安定した営業キャッシュフロー、(2)規制された寡占市場での事業運営による収益の予測可能性、(3)通信サービスの生活必需品としての性質による景気耐性、が挙げられます。

また、同社は2022年以降積極的な負債削減を実施しており、総負債を296,396M$(2022年)から274,570M$(2024年)へと約220億ドル削減しました。今後も年間100〜150億ドルペースでの負債削減を計画しており、2027年頃には負債比率を200%以下に低下させる目標を掲げています。

リスク要因としては:(1)金利上昇による借り換えコストの増加、(2)競争激化による収益性の低下、(3)技術変化による追加投資の必要性、が考えられます。しかし、現在の金利水準と同社の信用格付け(BBB+/Baa2)を考慮すると、短期的な流動性リスクは限定的です。長期的には、5G投資による収益向上と継続的な負債削減により、より健全な財務構造を実現できると期待されます。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢