SBUX:スターバックスの配当推移

配当

スターバックス(Starbucks Corporation)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

(*年次決算が9月なので平均株価は10月1日~9月30日の期間で計算しています)

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 2.41% 7% 70% 2.32 96.2 3.31
2023 2.42% 8% 60% 2.16 89.4 3.58
2022 2.00% 9% 71% 2 100.1 2.83
2021 1.99% 10% 52% 1.84 92.3 3.54
2020 1.56% 17% 213% 1.68 107.7 0.79
2019 1.79% 14% 49% 1.44 80.3 2.92
2018 1.66% 26% 39% 1.26 75.7 3.24
2017 1.79% 25% 51% 1 56 1.97
2016 1.40% 25% 42% 0.8 57 1.9
2015 1.10% 23% 35% 0.64 58 1.82
2014 1.09% 24% 39% 0.52 47.7 1.35
2013 1.11% 24% 4200% 0.42 37.9 0.01
2012 1.13% 31% 38% 0.34 30.1 0.9
2011 1.05% 117% 32% 0.26 24.7 0.81
2010 0.69% 19% 0.12 17.3 0.62

【出典】

着実に成長する配当の実績

スターバックスの配当実績は、同社の成長戦略と株主還元へのコミットメントを反映し、一貫して増加の軌跡を描いています。2010年に四半期配当を開始して以来、一度も減配することなく着実な成長を続け、2010年の0.12ドルから2024年には2.32ドルへと約19倍に増加しました。特に2011年から2019年までの期間は二桁成長を維持し、株主還元の充実を図ってきました。COVID-19パンデミックという未曽有の危機に直面した2020年においても、多くの企業が配当を削減・停止する中、スターバックスは配当成長を継続し、株主還元への揺るぎないコミットメントを示しました。

配当成長率の推移

スターバックスの配当成長率は以下のように段階的な変化を見せています:

  • 2010〜2012年:導入・急成長期(117%、31%の高成長)
  • 2013〜2018年:安定高成長期(23〜26%の一貫した高い成長率)
  • 2019年:成長率調整期(14%へ減速)
  • 2020年:パンデミック下での堅実成長(17%増)
  • 2021〜2024年:成熟期(10%→7%と緩やかに減速)

このパターンは、スターバックスの事業成長サイクルとキャッシュフロー配分戦略の変化を反映しています。特に注目すべきは、成長初期の爆発的な配当増加から、より持続可能なペースへと徐々に移行している点です。2021年以降の単一桁成長率への移行は、同社が成熟企業として安定的かつ持続可能な株主還元を重視する段階に入ったことを示しています。

スターバックスの配当成長の特筆すべき点は、その一貫性と予測可能性です。2010年の配当開始以来、一度も減配を行わず、毎年増配を継続してきました。これは経営陣が配当を最優先の株主還元策と位置づけ、事業環境の変化に関わらず継続する強いコミットメントを持っていることを示しています。

配当性向の持続可能性

スターバックスの配当性向(配当÷EPS)は、配当プログラムの成熟とともに段階的に上昇してきました:

  • 2010〜2012年:初期段階(19%から38%へ上昇)
  • 2013年:異常値(4200% – 特殊要因によるEPS急減)
  • 2014〜2019年:安定期(35%〜51%の範囲)
  • 2020年:パンデミック影響(213%と一時的に急上昇)
  • 2021〜2024年:新常態(52%から70%へ上昇)

特異的な年の理解:2013年と2020年の異常に高い配当性向は、特殊要因によるEPSの一時的な落ち込みが原因です:

  • 2013年:EPSが0.01ドルと極めて低い水準になった主因は、訴訟解決金としてクラフトフーズに支払った2.3億ドルの影響です。この一時的な特別費用がなければ、EPSは通常の水準を維持していたと考えられます。
  • 2020年:COVID-19パンデミックによる店舗閉鎖と需要減少の影響でEPSが0.79ドルに減少する中、同社は配当を1.68ドル(前年比17%増)に引き上げました。これは一時的な業績低下にも関わらず株主還元を重視する方針を示すものでした。

最近の傾向:2021年以降、配当性向は52%から70%へと上昇しており、より高い水準で安定する傾向を示しています。この水準は一般的な基準からすると高めですが、スターバックスの強力かつ安定したキャッシュフロー生成能力と、成熟企業としての特性を考慮すると、持続可能な範囲内にあると考えられます。

注目すべきは、営業キャッシュフロー(2024年は60億ドル以上)が配当支払い総額を大幅に上回っていることです。2024年の約70%という配当性向は高いものの、実際のキャッシュフローベースでの配当カバレッジは良好で、配当の安全性を支えています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 10,383 1,259 12 316
2009 9,775 1,389 14 391
2010 10,707 1,705 16 946
2011 11,700 1,612 14 1,246
2012 13,277 1,750 13 1,384
2013 14,867 2,908 20 8
2014 16,448 608 4 2,068
2015 19,163 3,749 20 2,757
2016 21,316 4,698 22 2,818
2017 22,387 4,252 19 2,885
2018 24,720 11,938 48 4,518
2019 26,509 5,047 19 3,599
2020 23,518 1,598 7 928
2021 29,061 5,989 21 4,199
2022 32,250 4,397 14 3,282
2023 35,976 6,009 17 4,125
2024 36,176 6,096 17 3,761

収益性と効率性の変動

スターバックスの財務データからは、グローバルコーヒーチェーンとしての成長の軌跡と、事業環境の変化に対する適応能力が見て取れます:

  • 売上高は2008年の10,383M$から2024年には36,176M$へと約3.5倍に成長
  • 2020年のパンデミックで一時的に売上が-11%減少するも、2021年には24%の急回復を達成
  • 営業CFマージンは通常12〜22%の範囲で推移し、2018年に異常値の48%を記録
  • 純利益は2008年の316M$から2023年のピーク4,125M$まで13倍に成長し、2024年は若干減少

特に注目すべきは、2020年のパンデミック時の事業レジリエンスです。売上が11%減少する中でも黒字を維持し、翌2021年には過去最高の売上と利益を記録しました。これは同社のブランド力、デジタル戦略(モバイルオーダーやデリバリー)、そしてコスト管理能力の高さを示しています。

2023年から2024年にかけての売上高の伸び悩み(1%増)と純利益の減少(-9%)は、中国市場での競争激化や消費者支出の鈍化など、短期的な課題を反映しています。しかし、営業CFは引き続き安定しており(6,096M$、前年比1%増)、これは同社のキャッシュ創出能力の強さを示しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 1,259 -5 -1,087 -185
2009 1,389 10 -421 -642
2010 1,705 23 -790 -346
2011 1,612 -5 -1,020 -608
2012 1,750 9 -974 -746
2013 2,908 66 -1,411 -108
2014 608 -79 -818 -623
2015 3,749 517 -1,520 -2,257
2016 4,698 25 -2,223 -1,873
2017 4,252 -9 -850 -3,079
2018 11,938 181 -2,362 -3,243
2019 5,047 -58 -1,011 -10,057
2020 1,598 -68 -1,712 1,713
2021 5,989 275 -320 -3,651
2022 4,397 -27 -2,146 -5,638
2023 6,009 37 -2,271 -2,991
2024 6,096 1 -2,699 -3,718

スターバックスの強みは、安定したキャッシュフロー創出能力にあります:

  • 営業CFは長期的に上昇傾向にあり、2008年の1,259M$から2024年の6,096M$へと約4.8倍に成長
  • 2014年と2020年に一時的な減少があったものの、翌年には力強く回復
  • 2018年の異常な営業CF(11,938M$)は会計上の一時的要因と考えられる
  • 2021年以降は4,000M$以上の高水準を維持し、2023-2024年は6,000M$超の安定したレベルに

投資CFを見ると、成長戦略に合わせて変動していることがわかります:

  • 2015-2016年の投資拡大(-1,520M$、-2,223M$)はグローバル展開加速期を反映
  • 2020年もパンデミック下でも将来を見据えた投資を継続(-1,712M$)
  • 2022-2024年は投資を増加傾向(-2,146M$→-2,699M$)に転じ、成長戦略への再投資を示す

財務CFは株主還元と資本政策の変化を反映しています:

  • 2015年以降、財務CFの大幅なマイナス値が継続(配当と自社株買いの拡大)
  • 2019年の極端な財務CF(-10,057M$)は大規模な自社株買いプログラムを反映
  • 2020年は唯一のプラス値(+1,713M$)を記録し、パンデミック対応のための流動性確保を示す
  • 2021年以降は大規模な株主還元を再開(-3,651M$〜-5,638M$)

キャッシュフロー分析のポイント:スターバックスのキャッシュフローパターンは、「成長投資→収穫→株主還元」の好循環を示しています。安定した営業キャッシュフローを基盤に、成長投資と株主還元をバランス良く実行する資本配分が特徴です。特に2019年以降の大規模な株主還元は、同社が成熟フェーズに入り、事業から生み出される潤沢なキャッシュを株主に還元する段階に移行したことを示しています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 5,673 3,182 2,491 44 128
2009 5,577 2,520 3,046 55 83
2010 6,386 2,704 3,675 58 74
2011 7,360 2,973 4,385 60 68
2012 8,219 3,105 5,109 62 61
2013 11,517 7,034 4,480 39 157
2014 10,753 5,479 5,272 49 104
2015 12,416 6,597 5,818 47 113
2016 14,313 8,422 5,884 41 143
2017 14,366 8,909 5,450 38 163
2018 24,156 22,981 1,170 5 1,964
2019 19,220 25,451 -6,232 -32 -408
2020 29,375 37,174 -7,799 -27 -477
2021 31,393 36,707 -5,315 -17 -691
2022 27,978 36,677 -8,699 -31 -422
2023 29,446 37,433 -7,988 -27 -469
2024 31,339 38,781 -7,442 -24 -521

スターバックスの資本構成には、極めて特徴的な変化が見られます:

  • 2008年から2017年までは通常の資本構成(自己資本率38〜62%)
  • 2018年に劇的な変化(自己資本率が38%から5%へ急減)
  • 2019年以降、株主資本がマイナスに転じ、異例の資本構造に
  • 総資産は成長を続け、2008年の5,673M$から2024年には31,339M$へと約5.5倍に

負の株主資本の背景:スターバックスの負の株主資本は、主に積極的な自社株買いプログラムの結果です。2018年から2019年にかけて大規模な自社株買いを実施し、株主資本を大幅に減少させました。特に2019年の財務CFは-10,057M$と突出して大きく、この年の自社株買いが資本構造を大きく変えたことがわかります。

一般的に、負の株主資本は財務健全性の懸念材料となりますが、スターバックスの場合は以下の理由から特別な評価が必要です:

  • 強力かつ安定したキャッシュフロー生成能力(年間60億ドル超)
  • 高いブランド価値と市場ポジション(バランスシートに完全には反映されていない無形資産)
  • グローバルな店舗ネットワークとデジタルエコシステムの価値
  • 継続的な成長と収益性の実績

流動比率を見ると、2008年の80%から変動しながらも2024年には76%となっており、短期的な支払能力はやや低めですが、キャッシュフローの強さと利用可能な信用枠を考慮すると、実質的な流動性リスクは限定的と考えられます。

まとめ:長期配当投資家にとってのスターバックスとは?

スターバックスは、グローバルコーヒーチェーンとしての強固なブランド力と安定したキャッシュフロー創出能力を基盤に、継続的な成長と株主還元を両立させています。特に2010年の配当開始以来、一度も減配することなく着実な増配を続けてきた実績は、同社の株主還元への強いコミットメントを示しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 2010年以来の一貫した配当成長(一度も減配なし)
  • 強力かつ安定したキャッシュフロー創出能力(年間60億ドル超)
  • グローバルに認知された強力なブランド価値
  • デジタル戦略による顧客エンゲージメントの強化
  • 地理的多様性と成長市場(特にアジア)での展開
  • 経済サイクルや危機(パンデミック)に対する高いレジリエンス
  • イノベーションと商品開発の継続的な実施

一方で、注意すべき点としては:

  • 負の株主資本という特殊な財務構造
  • 高水準の配当性向(2024年は70%)
  • 近年の成長率鈍化(2024年の売上成長率は1%)
  • 競争激化(特に中国市場における地元チェーン)
  • 人件費や原材料費の上昇による利益率への圧力
  • 店舗の労働組合化の動きによる潜在的コスト増
  • 環境・社会的責任に関する消費者期待の高まり

投資家へのポイント:スターバックスへの投資は、「安定したリターンと適度な成長」の特性を持っています。同社は成熟企業でありながらも、新市場開拓やデジタル戦略によって成長を続けており、長期的な株主価値創造が期待できます。配当投資家にとっては、一貫した増配の実績と6,000M$を超える安定したキャッシュフローが配当の安全性を支えています。

資本構成の特殊性(負の株主資本)は、一般的な財務指標を用いた評価を困難にしますが、実質的な事業の健全性やキャッシュフロー創出能力に基づいて判断することが重要です。今後の成長率は一桁台に留まる可能性が高いものの、配当成長の持続性は良好であり、長期配当投資家にとって魅力的な選択肢と言えるでしょう。

よくある質問

スターバックスの配当はどれくらい安全ですか?

スターバックスの配当は相対的に安全と評価できます。確かに2024年の配当性向は約70%と高い水準にありますが、以下の要因が配当の安全性を支えています:(1)年間60億ドルを超える強力かつ安定した営業キャッシュフロー、(2)2010年の配当開始以来、パンデミック時を含め一度も減配していない実績、(3)経済サイクルに対する事業の耐性、(4)柔軟な資本配分が可能な財務構造。さらに、同社は必要に応じて自社株買いを調整することで、配当を優先する姿勢を示しています。負の株主資本という特殊な財務構造にもかかわらず、キャッシュフローベースでの配当カバレッジは十分であり、短期〜中期的な配当削減リスクは低いと考えられます。

負の株主資本は長期的に持続可能ですか?

スターバックスの負の株主資本は、会計上の特殊な状況ではあるものの、同社の事業特性を考慮すると長期的に大きな問題にはならない可能性が高いです。この状況は主に積極的な自社株買いの結果であり、実質的な財務破綻を示すものではありません。同社は年間60億ドルを超える営業キャッシュフローを安定して生み出しており、これが負債返済と株主還元を十分にサポートしています。また、バランスシートに完全には反映されていない強力なブランド価値やグローバル店舗ネットワークといった無形資産が、実質的な企業価値を支えています。

ただし、経済環境の急激な悪化や競争環境の変化によって収益性が著しく低下した場合、この資本構造は柔軟性を制限する可能性があります。長期的には、利益の内部留保や自社株買いペースの調整によって、徐々に株主資本をプラスに戻していくアプローチも選択肢となるでしょう。現時点では、強力なキャッシュフロー創出能力と安定した事業基盤が、この特殊な資本構造をサポートしています。

2023年から2024年にかけての純利益の減少要因は何ですか?

2023年から2024年にかけての純利益の減少(4,125M$から3,761M$へ、約9%減)は、主に以下の要因によるものです:(1)北米および国際市場、特に中国における顧客トラフィックの減少、(2)インフレによる原材料費と人件費の上昇圧力、(3)競争激化による販促費の増加、(4)新規店舗開設に伴う初期コスト。売上高が微増(1%)にとどまる中で利益が減少したことは、利益率の圧縮を示しています。

ただし、この減益にもかかわらず、営業キャッシュフローは6,096M$(前年比1%増)と安定しており、これは非現金費用(減価償却費など)の増加や運転資本の効率化によるものと考えられます。同社はこの状況に対応するため、デジタル注文の強化、商品ミックスの最適化、オペレーション効率の改善などの施策を実施しています。また、中国市場での競争力回復に向けた取り組みも進行中です。長期的には、これらの施策と新興市場での店舗拡大が成長を支える見込みですが、短期的には利益率の圧力が継続する可能性があります。

配当成長率の低下傾向は今後も続くのでしょうか?

スターバックスの配当成長率は、2016-2018年の25-26%から、2021-2024年には10%→7%へと徐々に低下しています。この傾向は今後も続く可能性が高いと考えられます。その主な理由としては:(1)配当性向がすでに70%と高水準に達しており、大幅な引き上げ余地が限られている、(2)売上成長率の鈍化(2024年は1%増)、(3)競争激化やコスト圧力による利益成長の減速、(4)成熟企業としての段階への移行、が挙げられます。

今後3-5年の配当成長率は、おそらく一桁台前半から中盤(3-7%)にとどまる可能性が高いでしょう。これは、同社の売上・利益成長率と同程度か、若干上回る水準と予想されます。ただし、この成長率は市場平均を上回る可能性が高く、特に同社の配当開始以来の一貫した増配実績と組み合わせると、依然として配当投資家にとって魅力的な特性と言えます。重要なのは、成長率は低下しても、配当自体は安定して増加し続ける可能性が高いという点です。経営陣は株主還元を優先事項として位置づけており、たとえ事業環境が厳しくなっても配当成長を維持する姿勢を示しています。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢