MO:アルトリアの配当推移

配当

アルトリアグループ(Altria Group, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 8.42% 4% 61% 4 47.5 6.54
2023 8.69% 4% 84% 3.84 44.2 4.57
2022 7.68% 5% 115% 3.68 47.9 3.19
2021 7.49% 4% 263% 3.52 47 1.34
2020 8.23% 4% 142% 3.4 41.3 2.4
2019 6.68% 9% -469% 3.28 49.1 -0.7
2018 4.98% 18% 82% 3 60.2 3.68
2017 3.64% 8% 48% 2.54 69.8 5.31
2016 3.68% 8% 32% 2.35 63.9 7.28
2015 4.03% 9% 81% 2.17 53.9 2.67
2014 4.75% 9% 78% 2 42.1 2.56
2013 5.18% 8% 81% 1.84 35.5 2.26
2012 5.26% 8% 83% 1.7 32.3 2.06
2011 5.96% 8% 96% 1.58 26.5 1.64
2010 6.61% 11% 78% 1.46 22.1 1.87
2009 7.59% -21% 86% 1.32 17.4 1.54
2008 8.20% -45% 71% 1.68 20.5 2.36

【出典】

安定した配当成長の実績

Altria Group(MO)の配当実績は、たばこ産業特有の規制環境や社会的圧力にもかかわらず、安定した成長を続けています。2008年の1株当たり$1.68から2024年には$4.00へと、16年間で約138%の増加を達成しました。特筆すべきは、このような長期にわたる一貫した増配トレンドが、複数の景気サイクルや規制強化、喫煙率の低下といった逆風にもかかわらず維持されてきた点です。

配当成長率の推移

MOの配当成長率は比較的安定しています:

  • 2008〜2009年:経済危機の影響により減配(-45%、-21%)
  • 2010〜2015年:回復期に安定した成長(8〜11%)
  • 2016〜2017年:安定した8%の成長
  • 2018年:成長率の加速(18%)
  • 2019〜2024年:より控えめで安定した成長(4〜9%)

このパターンは、初期の経済危機からの回復と、その後の成熟企業としての安定した配当政策への移行を反映しています。特に注目すべきは、2010年以降、一度も配当を削減していない点です。この一貫した増配の実績は、MOが「配当貴族」(25年以上連続増配を達成した企業)としての地位を確立している証拠と言えるでしょう。配当成長は近年やや減速しているものの、依然として物価上昇率を上回る水準を維持しています。

配当性向の持続可能性

配当性向(「1株配当 ÷ EPS」)は、MOにとって重要な指標ですが、その値は年によって大きく変動しています:

  • 2008〜2015年:71〜96%の範囲で比較的高水準だが安定
  • 2016〜2017年:例外的に低い水準(32%、48%)を記録
  • 2018年:82%と典型的な高水準に戻る
  • 2019年:EPSがマイナスとなり、計算上は-469%
  • 2020〜2022年:142%、263%、115%と極めて高い水準
  • 2023〜2024年:84%、61%と改善傾向

高い配当性向の理解:MOの高い配当性向は、同社の資本配分の優先順位を反映しています。たばこ産業は一般的に高いキャッシュフロー創出能力を持ちながらも成長機会が限られているため、株主還元に多くの利益を振り向ける傾向があります。特に注目すべき年は:

  • 2019年:純損失を記録したにもかかわらず配当を9%増加
  • 2021年:EPSが$1.34と低水準だったため、配当性向が263%に上昇

会計上の特殊要因の影響:MOの純利益(とEPS)は以下の理由で大きく変動することがあります:

  • 訴訟和解金:たばこ関連の健康被害訴訟の解決金
  • 資産減損損失:競争激化や市場環境変化による保有資産の評価見直し
  • 事業売却・買収に伴う特別損益:例えばABInBev株式の一部売却
  • 年金関連の調整:低金利環境や会計基準変更に伴う年金債務の再評価
  • 税制改革の影響:税率変更による一時的な会計上の影響

これらの一時的な会計処理が純利益を大きく変動させるため、配当性向だけではMOの配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。より重要なのは、営業キャッシュフローに対する配当の割合です。MOの場合、営業CFに対する配当の比率は比較的安定しており、特に2020年以降は営業CFマージンが40%以上と極めて高いレベルで安定していることが、高い配当性向を支える基盤となっています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 19,356 4,881 25 4,930
2009 23,556 3,443 15 3,206
2010 24,363 2,767 11 3,905
2011 23,800 3,581 15 3,390
2012 24,618 3,885 16 4,180
2013 24,466 4,375 18 4,535
2014 24,522 4,663 19 5,070
2015 25,434 5,843 23 5,241
2016 25,744 3,826 15 14,239
2017 25,576 4,901 19 10,222
2018 25,364 8,391 33 6,963
2019 25,110 7,837 31 -1,293
2020 26,153 8,385 32 4,467
2021 21,111 8,405 40 2,475
2022 20,688 8,256 40 5,764
2023 20,502 9,287 45 8,130
2024 20,444 8,753 43 11,264

収益性と効率性の変動

MOの財務データからは、たばこ産業特有の安定性と高収益性、そして構造的な変化を経験している産業の特性が見て取れます:

  • 売上高は2008年から2020年まで緩やかな上昇トレンド($19,356Mから$26,153M)を示した後、2021年に約19%減少して以降は横ばい
  • 営業CFマージンは2010年の低水準(11%)から2023年には45%まで大幅に改善
  • 純利益は2016-2017年に異常に高い水準($14,239M、$10,222M)を記録後、変動を経て2022年以降は力強い回復と成長

特に注目すべきは、2021年以降の売上高減少にもかかわらず、営業CFマージンが40%以上という極めて高い水準を維持し、純利益も着実に増加している点です。これは、価格引き上げによる利益率の向上、コスト効率化、製品ミックスの改善などを反映しています。

2016-2017年の純利益の急増は、特別な要因(おそらくABInBev株式関連の取引や税制改革の影響)によるものと考えられます。また、2019年の純損失も一時的な要因によるものであり、基礎的な事業収益力は引き続き堅調でした。

強力なキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 4,881 -53 479 -2,585
2009 3,443 -29 -9,764 276
2010 2,767 -20 259 -2,583
2011 3,581 29 387 -3,012
2012 3,885 8 920 -5,175
2013 4,375 13 602 -4,702
2014 4,663 7 177 -4,694
2015 5,843 25 -15 -6,780
2016 3,826 -35 3,708 -5,329
2017 4,901 28 -467 -7,771
2018 8,391 71 -12,988 4,716
2019 7,837 -7 -2,398 -4,712
2020 8,385 7 -143 -5,396
2021 8,405 0 1,212 -10,029
2022 8,256 -2 782 -9,541
2023 9,287 12 -1,283 -8,374
2024 8,753 -6 2,175 -11,491

MOの最大の強みは、極めて堅固なキャッシュフロー生成能力にあります。たばこ産業の特性として、ブランド力に基づく価格設定力と低い設備投資要件により、高いキャッシュフローマージンを実現しています:

  • 営業CFは2008年の$4,881Mから2023年には$9,287Mへと約90%増加
  • 特に2018年以降は$8,000M以上の高水準で安定
  • 2021年以降は売上高の40%以上という驚異的な営業CFマージンを達成
  • 財務CFは一貫して大きなマイナス(特に2021-2024年は$8,000M以上)を示し、積極的な株主還元を反映

投資CFパターンには、いくつかの重要な変動が見られます:

  • 2009年の大幅なマイナス(-$9,764M)は大型投資または買収を示唆
  • 2016年と2018年の大きな変動($3,708M、-$12,988M)は、投資ポートフォリオの調整や大型取引を反映
  • 2021-2022年のプラスの投資CF($1,212M、$782M)は、資産売却または投資回収を示唆
  • 2024年の大きなプラス($2,175M)は、重要な資産売却または投資回収を反映

キャッシュフロー分析のポイント:MOのキャッシュフローパターンは、「キャッシュ創出→株主還元」という明確なモデルを示しています。過去17年間、特に2018年以降は非常に強力な営業CFを生み出し、その大部分を配当と自社株買いを通じて株主に還元しています。この一貫したパターンは、MOが成熟産業において「キャッシュカウ」としての役割を果たしていることを示しています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 27,215 24,387 2,828 10 862
2009 36,677 32,573 4,069 11 801
2010 37,402 32,175 5,192 14 620
2011 36,751 33,036 3,680 10 898
2012 35,329 32,125 3,168 9 1014
2013 34,859 30,706 4,119 12 745
2014 34,475 31,430 3,014 9 1043
2015 31,459 28,549 2,880 9 991
2016 45,932 33,121 12,770 28 259
2017 43,202 27,784 15,377 36 181
2018 55,459 40,631 14,787 27 275
2019 49,271 42,914 6,222 13 690
2020 47,414 44,449 2,839 6 1566
2021 39,523 41,129 -1,606 -4 -2561
2022 36,954 40,877 -3,923 -11 -1042
2023 38,570 42,060 -3,490 -9 -1205
2024 35,177 37,365 -2,188 -6 -1708

MOの資本構成には、極めて特徴的なパターンが見られます:

  • 自己資本率は2008年の10%から2017年に一時36%まで上昇した後、2021年以降はマイナスの値を記録
  • 2021年以降、株主資本がマイナスとなり、負債比率も計算上はマイナスの値を示している
  • 総資産は2016年から2018年にかけて大幅に増加した後、減少傾向
  • 総負債は2008年の$24,387Mから2023年には$42,060Mへと増加

資本構成の特異な変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 2016-2017年:特別な取引(おそらくABInBev株式関連)による株主資本の一時的な大幅増加
  • 2019-2020年:株主資本の急速な減少($14,787Mから$2,839Mへ)
  • 2021年以降:積極的な株主還元(配当と自社株買い)による株主資本のマイナス化

負のシャローホルダーズエクイティの解釈:MOの株主資本がマイナスになっている現象は、同社の積極的な株主還元戦略の結果と考えられます。配当と自社株買いを通じて、会計上の株主資本以上の金額を株主に還元していることを示しています。

これは一般的に「レバレッジド・リキャピタリゼーション」と呼ばれる戦略で、高いキャッシュフロー生成能力を持つ成熟企業がよく採用するアプローチです。MOの場合、安定した高収益ビジネスモデルと予測可能なキャッシュフローが、この攻撃的な資本構造を支えています。

ただし、このような極端な資本構造は、負債比率の上昇と財務柔軟性の低下というリスクをもたらします。特に規制環境の急激な変化や訴訟リスクの増大といった外部ショックに対する脆弱性を高める可能性があります。

まとめ:長期配当投資家にとってのMOとは?

Altria Group(MO)は、厳しい規制環境と喫煙率の継続的な低下というヘッドウィンドに直面しながらも、強力なキャッシュ生成能力と積極的な株主還元策により、優れた配当実績を示しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 25年以上にわたる連続増配の実績(配当貴族としての地位)
  • 驚異的な営業キャッシュフローマージン(直近では40-45%)
  • 主力ブランド(マールボロなど)の強力な価格設定力
  • 経済サイクルに左右されにくい防衛的な事業特性
  • 規制や市場変化に対応するための事業多角化の取り組み
  • 近年の純利益の着実な成長(2022-2024年)

一方で、注意すべき点としては:

  • 喫煙率の継続的な低下という構造的な逆風
  • 非常に高い負債水準とマイナスの株主資本
  • 規制リスク:たばこ製品に対する新たな規制や増税の可能性
  • 訴訟リスク:健康被害関連の集団訴訟
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の増加に伴う投資家基盤の縮小圧力
  • 新興たばこ製品(電子たばこなど)市場での競争激化
  • 長期的な成長機会の限定性

投資家へのポイント:MOへの投資は、「高配当・低成長」の典型例と言えます。同社は成熟した衰退産業において、価格引き上げとコスト効率化を通じて収益性を維持しながら、生み出したキャッシュの大部分を株主に還元するという明確な戦略を持っています。

配当投資家としては、MOの一貫した増配実績と高い配当利回りは魅力的ですが、長期的な産業衰退リスクと高い負債水準というトレードオフを考慮する必要があります。もっとも、同社は過去数十年にわたり「たばこ産業の終焉」という予測を覆し続け、優れた株主還元を実現してきた実績があります。

MOの投資判断においては、配当の安全性と成長持続性をどう評価するかがカギとなります。強力なキャッシュフロー生成能力と価格設定力を考慮すると、短中期的な配当の安全性は高いと言えますが、長期的には業界の構造的課題と負債水準に注意が必要でしょう。

よくある質問

MOの配当はどれくらい安全ですか?

MOの配当は、強力なキャッシュフロー生成能力に支えられており、短中期的には非常に安全と考えられます。同社は2010年以降、一度も配当を削減しておらず、むしろ毎年増配を続けています。また、直近の営業キャッシュフローマージンは40%以上と極めて高い水準であり、これが配当を支える強固な基盤となっています。配当性向は時に100%を超えることがありますが、会計上の純利益は特別要因で変動するため、より安定した営業CFとの比較が重要です。現在のビジネスモデルと市場環境が続く限り、配当の安全性は高いと言えるでしょう。ただし、長期的には規制環境の変化や喫煙率の継続的な低下といった構造的リスクに注意が必要です。

マイナスの株主資本は配当の持続可能性にとって問題ではないですか?

一般的には、マイナスの株主資本は財務健全性の懸念材料ですが、MOの場合は少し異なる解釈が可能です。このマイナスの株主資本は、主に積極的な株主還元(配当と自社株買い)の結果であり、会計上の利益を超える金額を株主に分配してきたことを反映しています。MOのビジネスモデルは、高いブランド価値と価格設定力に基づく強力で安定したキャッシュフロー生成能力が特徴であり、これが攻撃的な資本構造を支えています。実際、2021年以降の株主資本がマイナスの期間も、配当は継続して増加し、営業CFも堅調に推移しています。ただし、このような資本構造は財務柔軟性を制限し、外部ショックに対する脆弱性を高める可能性があるため、長期的なリスク要因として考慮すべきでしょう。

MOは長期的な成長にどのように取り組んでいますか?

MOは、喫煙率の低下という逆風に対応するため、複数の成長戦略を展開しています。主な取り組みとしては:(1)主力ブランド(マールボロなど)の価格引き上げによる収益維持、(2)次世代たばこ製品(加熱式たばこ「IQOS」など)への投資、(3)オーラルニコチン製品(オン!など)の拡大、(4)電子たばこ市場への参入(JUULへの投資とVuse販売権の獲得)、(5)アルコール事業(ワイン事業の保有とABInBevへの投資)、そして(6)カンナビス市場への展望(Cronos Groupへの投資)が挙げられます。これらの多角化戦略は、伝統的なたばこ製品への依存度を下げ、新たな成長機会を模索する試みですが、現時点ではまだ同社の収益の大部分は従来の紙巻きたばこに依存している状況です。長期的な成長の実現には、これらの新規事業分野でどれだけの成功を収められるかがカギとなるでしょう。

2016年と2017年の純利益の急増は何が原因ですか?

2016年と2017年の純利益の急増(それぞれ$14,239Mと$10,222M)は、MOのABInBev株式に関連する特別な取引の影響と考えられます。2016年10月、SABMillerとABInBevの合併が完了し、MOが保有していたSABMiller株式がABInBev株式と現金に交換されました。この取引により、MOは大規模な非経常的利益を認識したと思われます。また、2017年の米国税制改革(Tax Cuts and Jobs Act)も、繰延税金負債の再評価などを通じて純利益にプラスの影響を与えた可能性があります。これらは一時的な特殊要因であり、MOの継続的な事業収益力を反映したものではありません。同社の基礎的な収益力を評価する際には、営業キャッシュフローの推移やこうした特別要因を除外した調整後利益を参照することが重要です。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢