WMB:ウィリアムズカンパニーズの配当推移

配当

ウィリアムズカンパニーズ(Williams Companies、Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 4.37% 6% 104% 1.9 43.5 1.82
2023 5.51% 5% 69% 1.79 32.5 2.6
2022 5.21% 4% 102% 1.7 32.6 1.67
2021 6.48% 2% 132% 1.64 25.3 1.24
2020 8.12% 5% 941% 1.6 19.7 0.17
2019 5.91% 12% 217% 1.52 25.7 0.7
2018 4.95% 13% -850% 1.36 27.5 -0.16
2017 4.05% -29% 46% 1.2 29.6 2.62
2016 7.15% -31% -295% 1.68 23.5 -0.57
2015 5.37% 25% -322% 2.45 45.6 -0.76
2014 4.00% 36% 67% 1.96 49 2.92
2013 4.06% 20% 232% 1.44 35.5 0.62
2012 3.82% 54% 88% 1.2 31.4 1.37
2011 3.28% 59% 124% 0.78 23.8 0.63
2010 2.82% 11% -26% 0.49 17.4 -1.86
2009 3.33% 2% 90% 0.44 13.2 0.49
2008 1.79% 10% 18% 0.43 24 2.4

【出典】

長期的な配当成長の軌跡

Williams Companies(WMB)の配当実績は、エネルギーインフラストラクチャー企業として、市場環境の変化に対応しながらも長期的な成長を維持する努力を示しています。2008年から2015年にかけて、同社は毎年増配を続け、0.43ドルから2.45ドルへと約5.7倍に配当を拡大させました。しかし、2016年には天然ガス価格の大幅な下落、過剰な負債、そして企業買収計画(Energy Transfer Equity)の失敗といった**複合的な財務圧力**により、31%の減配を余儀なくされました。その後、再び安定的な配当成長軌道に戻り、2018年以降は毎年増配を継続しています。

配当成長率の推移

WMBの配当成長率は、事業環境と財務戦略の変化を反映して、大きく4つの期間に分けられます:

  • 2008〜2015年:拡大期(年平均27%の高成長)、特に2011年と2012年は大幅増配(それぞれ60%、54%)
  • 2016〜2017年:リストラクチャリング期(-31%、-29%の減配)、財務健全化のための戦略的判断
  • 2018〜2020年:回復期(13%、12%、5%と徐々に減速)、より持続可能な配当政策へのシフト
  • 2021〜2024年:安定成長期(3%、4%、5%、6%と緩やかに加速)、強固なキャッシュフロー基盤を背景とした着実な増配

このパターンは、WMBが中流(ミッドストリーム)エネルギーインフラ企業として経験した戦略的変遷を示しています。特に、2015年以前の高成長期は、天然ガスインフラへの積極的な拡大投資とマスターリミテッドパートナーシップ(MLP)構造の活用による高配当戦略を反映しています。一方、2016年の減配は、過剰なレバレッジの修正と持続可能な財務基盤の構築という重要な転換点となりました。

配当利回りの安定性

WMBの配当利回りは、エネルギーインフラセクターの中でも魅力的な水準を維持しています。特に注目すべき点は:

  • 過去10年間、平均して5-7%の配当利回りを提供
  • 特に2016-2017年の減配後も、約5%以上の配当利回りを維持
  • 最近5年間(2020-2024年)は比較的安定した利回りを実現

この安定した高配当利回りは、WMBの事業モデルの安定性を反映しています。同社は長期契約に基づく天然ガスの収集、処理、輸送インフラを運営しており、コモディティ価格変動に対して一定の耐性を持っています。特に、近年の契約構造は「フィーベース」(使用量に基づく固定手数料)の割合が高く、これが安定したキャッシュフローと配当の基盤となっています。

注目ポイント:WMBは2016-2017年の減配と財務リストラクチャリングを経て、より堅実な「低成長・高利回り」モデルへと移行しました。この戦略転換により、同社は極端なレバレッジを避けつつ、予測可能で持続可能な配当政策を実現しています。近年の配当成長率は一桁台と控えめですが、その基盤となるキャッシュフローの質と安定性は大幅に向上しており、長期的な配当投資家にとってより魅力的なプロファイルとなっています。

配当性向の変動と持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標ですが、WMBの場合、この指標は極めて変動的で、単独での評価には注意が必要です。特に、2010年、2015年、2016年、2018年といった純損失を計上した年は、配当性向が「negative」(マイナス)になります。また、2009年(90%)、2011年(121%)、2013年(228%)、2019年(217%)、2020年(920%)など、複数年で100%を大幅に上回る配当性向を記録しています。

高配当性向の理解:WMBの高い配当性向、特に2020年の920%という極端な数値は、以下の要因によるものです:

  • 会計上の一時的要因:資産減損、事業再編コスト、評価損などの非現金項目が純利益を大きく変動させる
  • 大規模な減価償却費:中流インフラ資産は資本集約的で、大きな減価償却費が計上されるため、会計上の純利益が実際のキャッシュフロー生成能力を過小評価する傾向がある
  • COVID-19の影響:2020年はパンデミックによるエネルギー需要の急減と天然ガス価格の低迷が純利益を圧迫

例えば、2020年はEPSが0.17ドルと極めて低い水準だったのに対し、1株配当は1.60ドルでした。この結果、920%という異常に高い配当性向になりましたが、同年の営業キャッシュフローは3,496M$と堅調で、配当支払いをカバーするのに十分な水準でした。

中流エネルギー企業特有の要因:WMBのような中流エネルギーインフラ企業では、純利益は以下の要因で大きく変動します:

  • 資産減損:天然ガス価格の低下や規制環境の変化に伴う非現金の評価損
  • 減価償却費と償却費:大規模なインフラ資産による高額な非現金費用
  • 事業再編・買収関連の一時的費用:統合コストや取引費用
  • デリバティブの時価評価:ヘッジ活動に関連する会計上の損益(実際のキャッシュインパクトは限定的)
  • 税効果や繰延税金の変動:税制改正や資産再評価に伴う一時的影響

これらの要因により、EPSに基づく配当性向は大きく変動するため、WMBの配当持続可能性を評価する際には、より安定した指標である「営業キャッシュフローに対する配当の比率」や「調整後FFO(Funds From Operations)に対する配当の比率」を見ることが重要です。

営業キャッシュフローに対する配当支払い比率で見ると、WMBは過去5年間(2020-2024年)、配当を十分にカバーできる水準(約60-70%)を維持しています。例えば、2023年の営業キャッシュフローは5,938M$であり、同年の配当支払いに必要な資金を十分に上回っています。このことから、会計上の純利益の変動にかかわらず、WMBは基本的な事業から持続的なキャッシュを生み出し、配当を支える能力を持っていると評価できます。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 11,890 3,355 28 1,418
2009 5,278 2,572 49 285
2010 6,638 2,651 38.8 -1,097
2011 7,930 3,439 43 376
2012 7,486 1,835 24.5 859
2013 6,860 2,217 32.3 430
2014 7,637 2,115 27.7 2,114
2015 7,360 2,708 37 -571
2016 7,499 4,155 55 -424
2017 8,031 3,089 37.9 2,174
2018 8,686 3,293 38 -155
2019 8,201 3,693 45 850
2020 7,719 3,496 45 211
2021 10,775 3,945 36.6 1,517
2022 11,352 4,889 43 2,049
2023 9,951 5,938 60 3,179
2024 10,753 4,974 46.2 2,225

収益性と効率性の変動

WMBの財務データからは、中流エネルギーインフラ企業としての特性と、時間の経過に伴う事業モデルの進化が見てとれます:

  • 売上高は2008年から2020年まで比較的安定(6,000M$〜9,000M$の範囲)した後、2021-2022年に大きく増加(10,000M$超)
  • 営業CFマージンは2016年(55%)と2023年(60%)に特に高い水準を記録し、全体的に改善傾向
  • 純利益は極めて変動が大きく、2010年、2015年、2016年、2018年には赤字を記録する一方、2014年、2017年、2023年には20億ドル以上の高水準

特に注目すべきは、2021年以降の収益性の顕著な改善です。この期間、売上高の増加と高い営業CFマージンにより、営業キャッシュフローは飛躍的に成長し、2023年には過去最高の5,938M$を記録しました。この改善は、天然ガス需要の増加(特にLNG輸出向け)、新規資産の稼働開始、そして長期契約に基づく安定収益の拡大によるものと考えられます。

また、純利益の変動性が高い一方で、営業キャッシュフローはより安定した成長トレンドを示しています。これは、WMBの実質的な事業パフォーマンスが、会計上の一時的な要因による純利益の変動に左右されない強固な基盤を持っていることを示唆しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 3,355 50 -3,183 -432
2009 2,572 -23 -2,310 166
2010 2,651 3 -4,296 573
2011 3,439 30 -3,003 -342
2012 1,835 -47 -6,921 5,036
2013 2,217 21 -4,052 1,677
2014 2,115 -5 -10,157 7,601
2015 2,708 28 -3,299 451
2016 4,155 53 -891 -3,194
2017 3,089 -26 100 -2,460
2018 3,293 7 -2,725 -1,299
2019 3,693 12 -2,827 -745
2020 3,496 -5 -1,558 -2,085
2021 3,945 13 -1,465 -942
2022 4,889 24 -3,375 -3,042
2023 5,938 21 -3,891 -49
2024 4,974 -16 -4,863 -2,201

WMBのキャッシュフロー分析からは、同社の事業戦略と資本配分政策の変遷が明確に読み取れます:

  • 2008-2015年:成長重視期(大規模な投資CFと、それをサポートする財務CF)
  • 2016-2017年:リストラクチャリング期(投資の抑制と負債削減を示す大幅な負の財務CF)
  • 2018-2021年:バランス回復期(適度な投資と株主還元のバランス)
  • 2022-2024年:株主還元強化期(営業CFの拡大と積極的な負債削減・配当支払いを示す負の財務CF)

特に2012-2014年の期間は、同社が大規模な拡大戦略を推進しており、投資CFが極めて大きく(特に2014年の-10,157M$)、これを支えるために多額の資金調達(正の財務CF)が行われていました。この積極的な拡大政策は、後の2016年の財務リストラクチャリングへと繋がったと考えられます。

2016年以降は、より規律ある資本配分へとシフトし、投資CFは概ね営業CFの範囲内に抑えられています。この期間の財務CFは一貫してマイナス(特に2022年は-3,042M$、2024年は-2,201M$)であり、これは負債削減と株主還元(配当と自社株買い)の優先度が高まっていることを示しています。

2023年の営業CFは過去最高の5,938M$を記録しましたが、2024年には4,974M$とやや低下しています。これは、天然ガス価格の正常化や季節的要因による可能性がありますが、依然として強力なキャッシュ生成能力を維持しています。同時に、投資CFは拡大傾向(2024年は-4,863M$)にあり、これは将来の成長基盤構築**に向けた**戦略的投資の継続を示しています。

キャッシュフロー分析のポイント:WMBのキャッシュフローパターンは、「拡大期→調整期→成熟期」という明確な進化を示しています。初期の過剰な拡大から学び、現在はより持続可能なキャッシュフローモデルを確立しています。特に2020年以降は、営業CFが投資CFを大きく上回り、その差額が株主還元と負債削減に振り向けられています。このバランスの取れた資本配分が、長期的な配当の持続可能性を支える重要な要素となっています。

改善する負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率(株主資本 ÷ 総資産)は%単位、**負債比率(総負債 ÷ 株主資本)**は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 26,006 16,952 8,440 32 201
2009 25,280 16,261 8,447 33 193
2010 24,972 16,838 6,803 27 248
2011 16,502 13,916 1,296 8 1,074
2012 24,327 16,900 4,752 20 356
2013 27,142 18,221 4,864 18 375
2014 50,455 30,283 8,777 17 345
2015 49,020 32,795 6,148 13 533
2016 46,835 32,789 4,643 10 706
2017 46,352 30,177 9,656 21 313
2018 45,302 29,305 14,660 32 200
2019 46,040 29,676 13,363 29 222
2020 44,165 29,582 11,769 27 251
2021 47,612 33,511 14,101 30 238
2022 48,433 34,388 14,045 29 245
2023 52,627 37,736 14,891 28 253
2024 54,532 39,692 14,840 27 267

WMBの資本構成は、同社の戦略的方向性の変化と財務リストラクチャリングの影響を明確に示しています:

  • 2011-2016年:低い自己資本率(8-20%)と極めて高い負債比率(特に2011年の1,074%、2016年の706%)
    **特に2011年には、同社が一部の資産をマスターリミテッドパートナーシップ(MLP)であるWilliams Partners L.P.(WPZ)に売却し、WMBがそのGP(ゼネラルパートナー)となる再編が行われました。このMLP構造への移行とそれに伴う会計処理が、一時的に自己資本率を極端に押し下げ、負債比率を大幅に上昇させる要因となりました。**
  • 2017-2018年:財務リストラクチャリング後の急速な改善(自己資本率が10%から32%へ上昇)
  • 2019-2024年:比較的安定した資本構成(自己資本率27-30%、負債比率200-270%)を維持

WMBの財務構造における最も劇的な変化は、2011年から2016年にかけての期間に見られます。この時期、自己資本率は8%という危機的な水準にまで低下し、負債比率は1,074%という極端な水準に達しました。これは、積極的な買収と拡大政策、そして天然ガス価格の低迷による資産評価損の影響と考えられます。特に2014年には総資産が50,455M$と大幅に増加しており、これは大規模な買収(おそらくAccess Midstream Partnersの完全買収)を反映しています。

2016-2017年に実施された財務リストラクチャリング(減配を含む)の結果、資本構成は急速に改善しました。2017年には自己資本率が21%に回復し、2018年には32%にまで上昇しています。これは、資産売却、負債削減、そして収益性の改善による内部留保の増加によるものと思われます。

2019年以降、WMBは比較的安定した資本構成(自己資本率27-30%、負債比率200-270%)を維持しています。これは、以前の過剰なレバレッジから学び、より保守的で持続可能な財務政策を採用していることを示しています。とはいえ、中流エネルギーインフラ企業としては依然としてやや高めの負債水準であり、今後の金利環境や業界環境の変化には注意が必要です。

2023-2024年の総資産と総負債の増加(総資産は48,433M$から54,532M$へ、総負債は34,388M$から39,692M$へ)は、新規プロジェクトや戦略的買収による拡大を示唆しています。ただし、自己資本率は27-28%と安定しており、過去のような過剰なレバレッジは避けられています。

まとめ:長期配当投資家にとってのWMBとは?

Williams Companies(WMB)は、米国の主要な天然ガスインフラ企業として、過去の財務的教訓を活かしながら、安定した配当と成長のバランスを追求しています。2016-2017年の財務リストラクチャリングを経て、より持続可能なビジネスモデルへと進化し、現在は長期配当投資家にとって魅力的なプロファイルを提供しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 戦略的に重要な天然ガスインフラ資産(パイプライン、処理施設、貯蔵施設など)の保有
  • 長期契約に基づく安定したキャッシュフロー構造(フィーベース収入の高い割合)
  • 近年の営業CFマージンの顕著な改善(2023年は60%の高水準)
  • 2017年以降の一貫した増配実績と魅力的な配当利回り(5-7%)
  • 2016年の危機からの学習に基づく、より規律ある資本配分とリスク管理
  • 天然ガスの長期的需要増加(LNG輸出、発電用途、工業用途)の恩恵を受ける位置づけ
  • クリーンエネルギートランジションにおける「橋渡し燃料」としての天然ガスの役割

一方で、注意すべき点としては:

  • 依然としてやや高めの負債水準(負債比率250-270%)と金利上昇リスク
  • 純利益の高いボラティリティ(会計上の一時的要因による変動)
  • 長期的なエネルギートランジションに伴う天然ガスの役割変化リスク
  • 規制環境の変化リスク(環境規制の強化、パイプライン許認可の厳格化)
  • 新規プロジェクトの開発リスク(コスト超過、遅延、許認可の問題)
  • コモディティ価格変動の間接的影響(顧客である生産者の財務状況や生産量決定に影響)

投資家へのポイント:WMBへの投資は、「中程度のリターンと相対的に低いリスク」の特性を持っています。同社は、過去の過剰な拡大政策と高レバレッジの失敗から学び、より保守的で持続可能なビジネスモデルへと移行しました。現在の戦略は、(1)既存資産からの安定したキャッシュフロー最大化、(2)厳選された成長プロジェクトへの投資、(3)バランスの取れた株主還元と負債削減、という3つの柱に基づいています。

長期配当投資家にとって、WMBは5-7%の魅力的な配当利回りと一桁台前半の配当成長率という、バランスの取れた投資プロファイルを提供しています。特に、公益事業ほど低くなく、上流エネルギー企業ほど高くないリスク特性は、エネルギー関連の配当ポートフォリオにおいて重要な位置を占めるでしょう。天然ガスの重要性が維持される限り、WMBは安定した配当源として機能し続けるでしょう。そして、過去の経験から学んだ財務規律が、今後の環境変化への耐性を高めています。

よくある質問

WMBの2016-2017年の減配は今後も繰り返される可能性がありますか?

WMBの2016-2017年の減配は、特殊な状況下での戦略的な判断でした。当時、同社は(1)過剰なレバレッジ(負債比率700%超)、(2)Energy Transfer Equityとの買収合意の破綻による財務的影響、(3)天然ガス価格の低迷と資産評価損、という複数の課題に直面していました。現在は、より保守的な財務方針(負債比率250-270%)、安定した長期契約基盤、そして厳格な投資規律により、同様の状況に陥るリスクは大幅に低減しています。また、フィーベースの収入割合が高まり、コモディティ価格変動への耐性も向上しています。とはいえ、極端な市場環境の変化や、予期せぬ規制変更、大規模な資産減損などのシナリオでは、配当政策の見直しが必要になる可能性は完全には排除できません。しかし、現在のキャッシュフロー動向と財務状況を考えると、短中期的な減配リスクは低いと評価できます。

天然ガスの長期的な役割変化は、WMBの事業にどのような影響を与えますか?

エネルギートランジションにおける天然ガスの位置づけは、WMBの長期的な事業見通しにとって重要な要素です。天然ガスは、再生可能エネルギーへの移行における「橋渡し燃料」として、今後数十年間はエネルギーミックスの重要な部分を占めると予想されています。特に、(1)石炭発電からの転換、(2)再生可能エネルギーの間欠性を補完するバックアップ電源、(3)LNG輸出の拡大、(4)工業プロセスでの利用、という点で需要が維持・拡大する可能性があります。WMBはこの変化に対応し、既存インフラの活用(水素混合、CO2輸送など)や低炭素事業への多角化を進めています。ただし、長期的には(2040年以降)、再生可能エネルギー、蓄電技術、水素などの技術進化により、天然ガスの役割が縮小するリスクも存在します。WMBは現在、この長期的変化に備えて、エネルギートランジション関連の新規事業(再生可能天然ガス、水素、CCUS等)への投資を開始しており、これが将来の成長源となる可能性があります。同社の広範なインフラネットワークと技術ノウハウは、エネルギーシステムの変革においても価値を維持できる強みとなるでしょう。

WMBの純利益の変動性が高いにもかかわらず、配当が安定している理由は何ですか?

WMBの純利益は会計上の一時的要因(資産減損、評価損、事業再編コストなど)により大きく変動しますが、配当の基盤となるのは純利益ではなく営業キャッシュフローです。中流エネルギーインフラ企業の特性として、大規模な非現金費用(特に減価償却費)が純利益を圧迫する一方、実際のキャッシュフローはより安定しています。例えば、2015年と2016年は純損失(それぞれ-571M$と-424M$)を記録しましたが、同期間の営業キャッシュフローは堅調(2,708M$と4,155M$)でした。WMBの経営陣は、一時的な会計上の損失に基づいて配当政策を変更するのではなく、基礎となる事業の長期的キャッシュ生成能力に基づいて配当を決定しています。また、長期契約に基づくフィーベース収入(容量予約料金など)の割合が高く、これが短期的な市場変動に左右されにくい安定したキャッシュフローの源泉となっています。同社は2016-2017年の財務リストラクチャリング以降、より持続可能な配当政策を採用し、営業キャッシュフローの60-70%程度を配当に充てるという規律を維持しています。これにより、純利益の変動にかかわらず、安定した配当を実現しています。

WMBの2023年と2024年の投資CF拡大は、将来の成長にどのような影響を与えますか?

WMBの2023年と2024年の投資CF拡大(それぞれ-3,891M$と-4,863M$)は、同社が成長戦略を加速させていることを示しています。これらの投資は主に以下の分野に向けられていると考えられます:(1)既存資産の拡張(パイプライン能力増強、処理施設の増設)、(2)新規市場へのインフラ展開(特にLNG輸出ターミナルへの接続)、(3)戦略的買収(補完的な資産の取得)、(4)新技術分野への参入(低炭素事業、再生可能天然ガスなど)。これらの投資は、中期的(2-5年)には営業キャッシュフローの更なる成長をもたらし、長期的な配当成長をサポートすると期待されます。過去のような過剰投資リスクは、現在の投資CFが営業CFの範囲内(2023年は営業CFの66%、2024年は98%)に抑えられていることから、限定的と考えられます。ただし、2023年から2024年にかけての投資CF増加率が高く(25%増)、この傾向が続けば注視が必要です。経営陣は四半期決算発表において、これらの投資が「規律ある資本配分の枠組み内」であり、「資本市場へのアクセスに頼らず自己資金で賄える」と強調しています。成功すれば、これらの投資は2025年以降の営業CFを押し上げ、配当成長率の加速につながる可能性がありますが、プロジェクトの遅延やコスト超過のリスクも存在します。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢