DE:ディアアンドカンパニーの配当推移

配当

ディア・アンド・カンパニー(Deere & Company)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

(*年次決算が10月なので平均株価は11月1日~10月30日の期間で計算しています)

graph

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 1.31% 16% 23% 5.88 448.3 25.62
2023 1.31% 16% 15% 5.05 384.5 34.63
2022 1.08% 21% 19% 4.36 404.5 23.28
2021 1.00% 19% 19% 3.61 362.7 18.99
2020 0.91% 0% 35% 3.04 334.6 8.69
2019 1.76% 18% 30% 3.04 172.7 10.15
2018 1.64% 8% 36% 2.58 157.6 7.24
2017 1.60% 0% 36% 2.4 149.7 6.68
2016 2.10% 0% 50% 2.4 114.3 4.81
2015 2.98% 8% 42% 2.4 80.6 5.77
2014 2.52% 12% 26% 2.22 88 8.63
2013 2.28% 11% 22% 1.99 87.4 9.09
2012 2.08% 18% 23% 1.79 86 7.63
2011 1.91% 31% 23% 1.52 79.5 6.63
2010 1.40% 4% 27% 1.16 82.9 4.35
2009 1.86% 6% 54% 1.12 60.1 2.06
2008 2.69% 16% 23% 1.06 39.4 4.7

【出典】

# Deere & Company (DE)の配当と財務分析:堅実な成長と農業機器産業のリーダー

着実に成長する配当の実績

Deere & Company(DE)の配当実績は、農業機器産業特有の周期性にもかかわらず、極めて安定した成長を示しています。2008年の1株当たり$1.06から2024年には$5.88へと、16年間で約455%の増加を達成しました。特筆すべきは、この期間を通じて一度も配当を削減することなく、着実に増配を続けてきた点です。これは同社の強固なビジネスモデルと長期的な収益力、そして株主還元に対するコミットメントを反映しています。

配当成長率の推移

DEの配当成長率は、農業市場のサイクルや事業環境を反映して変動していますが、長期的には堅実な成長を維持しています:

  • 2008〜2010年:4〜16%の安定した成長
  • 2011〜2014年:11〜31%の高い成長率
  • 2015〜2017年:成長減速期(8%、0%、0%)
  • 2018〜2024年:高い成長率の復活(8〜21%)

このパターンは、農業および建設機器市場のサイクル、世界的な経済環境、そして同社の戦略的優先順位の変化を反映しています。特に注目すべきは、2016〜2017年の農業市場の低迷期においても配当を維持し、その後の回復期に積極的な増配を再開した点です。最近の5年間(2020〜2024年)は、平均14.4%という力強い配当成長率を実現しています。

配当性向の持続可能性

配当性向(「1株配当 ÷ EPS」)は、DEの配当政策の健全性を示す重要な指標です。その推移を見ると:

  • 2008〜2014年:22〜27%の範囲で安定的に推移
  • 2015〜2016年:一時的に42〜50%まで上昇(収益低迷期)
  • 2017〜2020年:30〜36%の健全な水準に回復
  • 2021〜2023年:15〜19%と低水準に(収益好調期)
  • 2024年:23%と長期平均水準に回帰

持続可能な配当性向の特徴:DEの配当性向は、一般的に見て極めて健全な水準を維持しています。特に注目すべきは、業績が好調な時期に配当性向が低下し、業績が低迷する時期にやや上昇するという、景気循環に対する配当政策の柔軟性です。これにより、景気低迷期においても配当の維持・増加が可能となっています。

2015〜2016年の農業市場低迷期には配当性向が一時的に上昇しましたが、それでも50%を超えることはなく、その後の収益回復とともに健全な水準に戻りました。2021〜2023年の記録的な好業績により配当性向は15%前後まで低下しましたが、これは同社が将来の投資と財務柔軟性を確保しながら配当を増加させる保守的なアプローチを採用していることを示しています。

会計上の安定性:DEの純利益は農業市場のサイクルに応じて変動するものの、特別損失や一時的要因による極端な変動は比較的少なく、その結果として配当性向も安定しています。これは同社の事業モデルと市場地位の強固さを反映しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 28,438 1,949 7 2,053
2009 23,112 1,985 9 874
2010 26,005 2,282 9 1,865
2011 32,013 2,326 7 2,800
2012 36,157 1,168 3 3,065
2013 37,795 3,254 9 3,537
2014 36,067 3,526 10 3,162
2015 28,863 3,759 13 1,940
2016 26,644 3,770 14 1,524
2017 29,738 2,196 7 2,159
2018 37,358 1,822 5 2,368
2019 39,258 3,412 9 3,253
2020 35,514 7,483 21 2,751
2021 43,983 7,726 18 5,963
2022 52,563 4,699 9 7,131
2023 61,222 8,589 14 10,166
2024 51,532 9,231 18 7,100

収益性と効率性の分析

DEの財務データからは、農業機器業界特有の景気循環性と、同社の長期的な成長および効率性の向上が見て取れます:

  • 売上高は2016年の$26,644Mから2023年に$61,222Mへと約130%増加した後、2024年に$51,532Mへと調整
  • 営業CFマージンは2012年の低迷期(3%)から改善し、2020年には21%、2024年には18%の高水準を維持
  • 純利益は2016年の$1,524Mから2023年には$10,166Mへと約567%増加し、2024年には$7,100Mへと調整

特に注目すべきは、2020〜2023年の記録的な業績向上です。この期間、農産物価格の上昇と供給制約により農業機器の需要が急増し、DEは価格設定力と効率的なサプライチェーン管理により、大幅な収益性向上を実現しました。2024年の減収減益は、農産物価格の正常化と農家の設備投資サイクルの調整を反映していますが、それでも2019年以前と比較すると高い水準を維持しています。

この業績サイクルは、DEが農業機器業界のリーダーとして、市場の浮き沈みを乗り越え、長期的な成長と収益性の向上を実現する能力を示しています。特に、デジタル技術や精密農業ソリューションへの投資が、伝統的な機器メーカーからテクノロジーエナブラーへの戦略的転換を支援し、収益の質の向上につながっています。

強化されたキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 1,949 -29 -1,426 -649
2009 1,985 2 -57 470
2010 2,282 15 -2,109 -1,010
2011 2,326 2 -2,621 140
2012 1,168 -50 -4,004 3,880
2013 3,254 179 -4,821 407
2014 3,526 8 -2,881 -288
2015 3,759 7 -1,059 -2,138
2016 3,770 0 -1,177 -2,406
2017 2,196 -42 -1,662 4,286
2018 1,822 -17 -8,176 876
2019 3,412 87 -3,924 509
2020 7,483 119 -3,319 -980
2021 7,726 3 -5,750 -1,078
2022 4,699 -39 -8,485 826
2023 8,589 83 -8,749 2,808
2024 9,231 7 -6,464 -2,717

DEのキャッシュフロー推移には、業績の周期性とともに、長期的な改善トレンドが見て取れます:

  • 営業CFは2008年の$1,949Mから2024年には$9,231Mへと約374%増加
  • 特に2020年以降の営業CFは従来に比べて大幅に強化($7,483M〜$9,231M)
  • 投資CFは戦略的優先順位や市場環境に応じて変動し、特に2018年、2022〜2023年に積極的な投資を実施
  • 財務CFは一般的にマイナスを示し株主還元を反映するが、成長期には資金調達によりプラスに転じる年も

特に注目すべきは、2020年からの営業CFの大幅な改善です。これは、収益性の向上に加え、在庫管理や与信管理の効率化、サプライチェーンの最適化といった運転資本管理の改善によるものと考えられます。2024年は売上高と純利益が前年比で減少したにもかかわらず、営業CFは過去最高の$9,231Mを記録しており、DEの効率的なキャッシュフロー管理能力を示しています。

投資CFを見ると、2018年(-$8,176M)、2022年(-$8,485M)、2023年(-$8,749M)に大規模な投資が行われています。これらは、製造能力の拡大、デジタル技術やオートメーションへの投資、あるいは戦略的買収によるものと考えられます。特に近年は、精密農業技術やロボティクス、自律走行技術などの次世代技術への投資を積極的に行っています。

キャッシュフロー分析のポイント:DEのキャッシュフローパターンは、「投資→収穫→株主還元」のサイクルを示しています。市場環境が良好な時期に積極的な投資を行い、その後の収穫期に強力なキャッシュフローを生成し、株主還元と次の成長サイクルのための投資資金を確保しています。2024年の財務CFのマイナス幅拡大(-$2,717M)は、積極的な株主還元(配当と自社株買い)を反映していると考えられます。

健全な財務基盤と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 38,735 32,202 6,533 17 493
2009 41,133 36,310 4,819 12 753
2010 43,267 36,963 6,290 15 588
2011 48,207 41,393 6,800 14 609
2012 56,266 49,404 6,842 12 722
2013 59,521 49,254 10,266 17 480
2014 61,336 52,271 9,063 15 577
2015 57,948 51,190 6,743 12 759
2016 57,919 51,374 6,520 11 788
2017 65,786 56,212 9,557 15 588
2018 70,108 58,803 11,288 16 521
2019 73,011 61,580 11,413 16 540
2020 75,091 62,147 12,944 17 480
2021 84,114 65,680 18,434 22 356
2022 90,030 69,673 20,357 23 342
2023 104,087 82,201 21,886 21 376
2024 107,320 84,395 22,925 21 368

DEの資本構成には、着実な改善と財務基盤の強化が見られます:

  • 自己資本率は2016年の11%から2024年には21%へと大幅に改善
  • 負債比率は2016年の788%から2024年には368%へと大幅に低下
  • 総資産は2008年の$38,735Mから2024年には$107,320Mへと約177%増加
  • 株主資本は2016年の$6,520Mから2024年には$22,925Mへと約252%増加

このような資本構成の改善は、主に以下の要因によるものと考えられます:

  • 2020〜2023年の好業績による内部留保の増加
  • 効率的な資産運用と負債管理
  • 農業機器需要の増加に伴う投資と事業拡大
  • 計画的な負債削減と財務健全性の重視

DEの財務戦略は、収益性の向上と財務レバレッジの適切なバランスを図ることで、景気循環への耐性を高めつつ、戦略的投資のための財務柔軟性を確保しています。特に2021年以降の自己資本率20%超は、同社の財務基盤の強化を示しており、これが続く景気変動においても安定した配当を維持する能力を支えています。

また、流動比率も2020年以降は200%前後の健全な水準を維持しており、短期的な資金流動性にも問題がないことを示しています。

まとめ:長期配当投資家にとってのDEとは?

Deere & Company(DE)は、農業および建設機器産業のリーダーとして、景気循環性と技術革新のバランスを取りながら、長期的な成長と安定した株主還元を実現しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 16年間にわたる無傷の配当記録と着実な増配実績
  • 強力なブランド力と市場リーダーシップ
  • 最近の健全な自己資本率(20%超)と改善された財務基盤
  • 精密農業やデジタル技術への戦略的投資によるビジネスモデルの進化
  • 農業サイクルに対する耐性と収益の安定性向上
  • 効率的な運転資本管理による強力なキャッシュフロー生成能力
  • 世界的な食糧需要増加という長期的な追い風

一方で、注意すべき点としては:

  • 農業市場の周期性と短期的な変動性
  • 農産物価格や農家の所得水準への依存
  • 地域的・季節的な天候リスク
  • 国際的な貿易政策や関税の影響
  • 高度な技術への移行に伴う研究開発投資の増加
  • エマージングマーケットでの競争激化
  • サプライチェーンの複雑性と部品調達リスク
  • 気候変動対応や環境規制への適応コスト

投資家へのポイント:DEへの投資は、「安定した成長と堅実なリターン」の特性を持っています。同社は農業機器業界のリーダーとしての地位を活かしながら、精密農業やデジタルソリューションへの移行を進め、より安定した収益構造の構築を目指しています。配当投資家としては、業績の周期性にもかかわらず、一貫した配当成長を実現してきた実績に注目すべきでしょう。特に、低水準の配当性向(平均して25%前後)は、将来の配当成長の余地と市場低迷期における配当の安全性を示しています。

長期的には、世界人口の増加と食糧需要の拡大、農業の効率化および持続可能性への要求の高まりが、DEのビジネスを支える構造的な追い風となるでしょう。これらの要因と同社の技術革新への継続的な投資が、今後も持続的な成長と株主還元の基盤となると期待されます。

よくある質問

DEの配当はどれくらい安全ですか?

DEの配当は、公益事業や消費財企業と比較しても非常に安全と言えます。同社は16年以上にわたり一度も配当を削減したことがなく、農業市場の低迷期(2015〜2017年)においても配当を維持しました。配当性向は長期的に見て25%前後の健全な水準を維持しており、業績が好調な時期にはさらに低下することで、余裕を持った配当政策を示しています。さらに、近年の財務基盤の強化(自己資本率の向上と負債比率の低下)と強力なキャッシュフロー生成能力が、配当の安全性をさらに高めています。2020年以降は営業CFが大幅に増加し、2024年には景気調整期にもかかわらず過去最高の$9,231Mを記録しました。短期的な農業市場の変動があったとしても、DEの配当は十分に守られていると考えられます。

DEの技術革新戦略は長期的な成長にどのような影響を与えますか?

DEは従来の農業機器メーカーから「農業技術企業」へと変革を進めており、この戦略は長期的な競争力と持続的な成長にとって極めて重要です。同社は精密農業技術、自律走行機器、デジタルソリューション、そしてデータ分析プラットフォームへの投資を積極的に行っています。これらの技術は、農業生産性の向上(収量増加と投入コスト削減)、環境への影響軽減、そして労働力不足への対応という、農業が直面する主要課題の解決に貢献します。長期的には、これらの技術革新が収益の質を向上させ、伝統的な機器販売に加えて、ソフトウェアやサービスからの継続的な収益(サブスクリプションモデルなど)を生み出すことが期待されます。さらに、これらの高付加価値ソリューションは景気循環に対する耐性を高め、より安定した収益とキャッシュフローの基盤となるでしょう。ただし、研究開発投資の増加や競合他社との技術競争の激化がマージンに短期的な圧力をかける可能性もあります。

2020年以降の営業CFの大幅な改善は何が要因ですか?

2020年以降の営業CFの大幅な改善(2019年の$3,412Mから2020年には$7,483M、2024年には$9,231Mへ)は、複数の要因によるものと考えられます。第一に、この期間の収益性の向上です。農産物価格の上昇と供給制約による価格設定力の強化、生産効率の改善、そして高マージン製品の販売増加が営業利益率を押し上げました。第二に、運転資本管理の効率化です。在庫管理の最適化、与信管理の強化、サプライヤーとの条件交渉、製造プロセスのリーン化などにより、営業CFがさらに強化されました。第三に、デジタル技術やオートメーションへの投資による業務効率の向上です。これらの技術導入により、製造プロセスや販売プロセスのデジタル化が進み、コスト削減とキャッシュフロー管理の改善につながりました。特筆すべきは、2024年は売上高と純利益が前年比で減少したにもかかわらず、営業CFは増加しており、DEの効率的なキャッシュフロー管理能力と事業の質の向上が示されています。

DEの株主資本比率の改善は将来の配当政策にどのような影響を与えますか?

DEの自己資本率は2016年の11%から2024年には21%へと大幅に改善しており、同時に負債比率も788%から368%へと低下しています。この財務基盤の強化は、配当政策にいくつかの重要な影響を与えると考えられます。まず、財務柔軟性の向上により、景気サイクルの下降局面においても配当を維持・増加させる能力が高まります。これは、DEが農業市場の短期的な変動に左右されず、長期的な配当成長をコミットできることを意味します。次に、より低いレバレッジと強固な資本基盤により、戦略的投資と株主還元のバランスを取る余裕が生まれます。好調な時期には自社株買いを通じた追加的な株主還元を行いつつ、戦略的機会が生じた場合には機動的な投資も可能となります。さらに、信用格付けの向上により資金調達コストが低下し、これが収益性と配当余力の向上につながるでしょう。実際、過去5年間の平均配当成長率は約14%と高水準であり、強化された財務基盤がこの積極的な配当政策を支えていると考えられます。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢