APD:エアープロダクツアンドケミカルズの配当推移

素材,配当






エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(APD)配当関連指標の分析


エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(APD)配当関連指標(利回りや成長率、配当性向等)の分析

エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(Air Products and Chemicals, Inc.)は、43年連続で配当を増やし続ける「配当貴族」銘柄です。世界最大級の産業ガス企業として、その卓越した配当実績を支える同社の財務指標の推移をMacroTrends.comなどのデータを用いて詳細に検証します。

まず、配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみましょう。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

(この株価データはグーグルファイナンス関数から取得。直近の配当関連情報はKoyfin.comを参照)

データソースの制約について

重要な注意事項:MacroTrends.comでは、年次の詳細な配当データ(配当利回り、配当成長率、配当性向の年次推移)が表形式で直接提供されていません。MacroTrendsでは四半期ごとの配当支払額や直近の配当利回りは確認できますが、年次で集計された詳細な配当成長の歴史データは提供されていません。

そのため、43年連続増配などの具体的な配当成長実績については、MacroTrends以外の複数のソース(株式情報サイト、投資分析プラットフォーム等)を参照して確認しています。本記事では、MacroTrendsで確認可能な財務データ(EPS、売上、営業CF、バランスシート等)を中心に、配当支払能力の分析等を行っています。

配当成長の実績(複数ソース統合分析)

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)の推移について、MacroTrendsとそれ以外の信頼できる配当専門サイトのデータを統合して分析します。

配当データ* 平均株価** 年EPS**
平均利回り 成長率 配当性向 年間配当
2025 2.45% 1.1% 59% 7.16 292.00 12.10***
2024 2.50% 1.4% 42% 7.08 295.00 17.24
2023 2.58% 1.2% 68% 7.00 284.50 10.33
2022 2.35% 12% 68% 6.92 267.30 10.14
2021 2.13% 6% 64% 6.16 280.11 9.43
2020 2.24% 8% 56% 5.80 240.15 10.22
2019 2.40% 7% 58% 5.36 200.25 9.30
2018 2.82% 11% 85% 5.00 155.50 5.87
2017 2.70% 10% 51% 4.52 149.78 8.88
2016 3.00% 9% 59% 4.10 129.34 6.97
2015 2.90% 8% 57% 3.76 121.56 6.58
2014 2.80% 8% 53% 3.48 115.23 6.58
2013 3.20% 9% 54% 3.22 89.56 6.00
2012 3.10% 5% 48% 2.95 85.25 6.17
2011 2.85% 6% 45% 2.80 88.45 6.18
2010 3.00% 6% 47% 2.64 78.36 5.63
2009 3.25% 4% 50% 2.50 68.78 5.00
2008 2.80% 8% 52% 2.40 77.45 4.60

* 配当データは複数の投資情報サイトから統合
** EPSと平均株価はMacroTrends.comより
*** 2025年は見通し値(調整後EPS)

連続増配年数
43年
配当成長率(2025年)
1.1%
2025年配当性向見込み
59%
2025年配当
$7.16

着実な配当成長の実績

エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(APD)は、産業ガス業界のリーダーとして、43年連続で配当を増額し続けている「配当貴族」の地位を確立しています。2025年1月には四半期配当を$1.77から$1.79に増額し、43年連続増配を達成しました。

ただし、近年は配当成長の減速傾向が見られます。2008年から2020年までの年平均成長率は約7-8%でしたが、2020年以降は1-3%程度に減速しています。これは同社の事業が成熟期に入ったことと、大型水素プロジェクトへの投資により配当原資が制約されていることを反映しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

主要財務指標の推移

以下の表では、売上高、営業CF、純利益をM$(百万ドル)単位、営業CFマージンは%単位で表示しています。

年度 売上高 (M$) 営業CF (M$) 同マージン (%) 純利益 (M$)
2025* 12,200 3,200 26.2 2,700
2024 12,101 3,646 30.1 3,928
2023 12,600 3,230 25.6 2,300
2022 12,699 3,100 24.4 2,256
2021 10,323 3,093 30.0 2,099
2020 8,856 3,028 34.2 2,274
2019 8,919 2,915 32.7 2,079
2018 8,930 2,258 25.3 1,308
2017 8,188 2,180 26.6 1,968
2016 9,524 2,376 25.0 1,548
2015 9,895 2,489 25.2 1,466
2014 10,439 2,398 23.0 1,465
2013 10,167 2,187 21.5 1,337
2012 10,040 2,108 21.0 1,395
2011 10,035 2,058 20.5 1,408
2010 9,026 1,876 20.8 1,271
2009 8,256 1,654 20.0 1,126
2008 10,415 1,736 16.7 1,038

* 2025年は見通し値

配当支払能力の分析

営業キャッシュフローによる配当カバー分析

エア・プロダクツの配当支払能力は依然として健全です。2024年の営業キャッシュフローは36億4600万ドルで、配当支払額約16億ドルを大幅に上回り、2.3倍の配当カバー比率を維持しています。ただし、大型投資により2025年は営業CFの減少が見込まれ、配当カバー比率は約2.0倍に低下する見通しです。

配当支払余力の推移(2008年以降)

以下の表では、営業CF、年間配当支払額をM$(百万ドル)単位、配当カバー比率を倍数で表示しています。

年度 営業CF (M$) 年間配当支払額 (M$) 配当カバー比率
2025* 3,200 1,600 2.0
2024 3,646 1,580 2.3
2023 3,230 1,561 2.1
2022 3,100 1,543 2.0
2021 3,093 1,374 2.3
2020 3,028 1,293 2.3
2019 2,915 1,195 2.4
2018 2,258 1,114 2.0
2017 2,180 1,008 2.2
2016 2,376 914 2.6
2015 2,489 838 3.0
2014 2,398 776 3.1
2013 2,187 718 3.0
2012 2,108 658 3.2
2011 2,058 624 3.3
2010 1,876 589 3.2
2009 1,654 557 3.0
2008 1,736 535 3.2

* 2025年は見通し値

配当支払余力の分析結果:

  • カバー比率の低下傾向:過去の3.0倍超から近年は2.0-2.3倍に低下
  • 依然として健全な水準:2.0倍以上を維持し、配当の持続可能性は確保
  • 大型投資の影響:水素プロジェクトなどへの資本投下により余力は縮小
  • 景気耐性:2008年金融危機、2020年パンデミック時でも安定した配当支払能力を維持

強固なキャッシュフロー創出力と資金配分戦略

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFをM$(百万ドル)単位、営業CF成長率を%単位で表示しています。

年度 営業CF (M$) 成長率 (%) 投資CF (M$) 財務CF (M$)
2025* 3,200 -12.2 -5,000 -1,800
2024 3,646 12.9 -4,917 -2,011
2023 3,230 4.2 -4,625 567
2022 3,100 0.2 -2,810 -316
2021 3,093 2.2 -3,242 108
2020 3,028 3.9 -2,450 -578
2019 2,915 29.1 -1,863 -1,053
2018 2,258 3.6 -1,546 -731
2017 2,180 -8.2 -1,205 -1,175
2016 2,376 -4.6 -1,338 -1,038
2015 2,489 3.8 -1,564 -925
2014 2,398 9.7 -1,443 -955
2013 2,187 3.7 -1,292 -925
2012 2,108 2.4 -1,240 -923
2011 2,058 9.7 -1,118 -837
2010 1,876 13.4 -1,092 -789
2009 1,654 -4.7 -1,147 -507
2008 1,736 -1,403 -333

* 2025年は見通し値

キャッシュフロー分析のポイント

営業キャッシュフロー

  • 堅調な創出力:2008年以降、営業CFは17億ドル〜36億ドルの範囲で推移
  • 2025年の一時的減少:大型プロジェクトの影響で32億ドル程度に減少見込み
  • 高い営業CFマージン:売上高に対して20-34%の高い営業CFマージンを維持

投資キャッシュフロー

  • 大幅な投資拡大:2023-2025年に年間46億〜50億ドルの大型投資を実行
  • 水素プロジェクト中心:クリーンエネルギー分野への戦略的投資が加速
  • 投資回収リスク:大型プロジェクトの投資回収期間の長期化が懸念

バランスシート分析と財務健全性評価

以下の表では、総資産、総負債、株主資本をM$(百万ドル)単位、自己資本率およびROEを%単位で表示しています。

年度 総資産 (M$) 総負債 (M$) 株主資本 (M$) 自己資本率 (%) ROE (%) 負債比率 (%)
2025* 42,000 22,500 19,500 46.4 13.8 115
2024 39,575 20,901 18,674 47.2 20.5 112
2023 32,003 16,342 15,661 48.9 14.7 104
2022 27,193 13,490 13,703 50.4 16.5 98
2021 26,861 12,765 14,096 52.5 14.9 91
2020 24,523 11,752 12,771 52.1 17.8 92
2019 19,547 8,992 10,555 54.0 19.7 85
2018 18,286 8,187 10,099 55.2 13.0 81
2017 17,323 7,744 9,579 55.3 20.5 81
2016 16,505 8,167 8,338 50.5 18.6 98
2015 16,291 8,068 8,223 50.5 17.8 98
2014 17,580 9,089 8,491 48.3 17.3 107
2013 18,087 9,048 9,039 50.0 14.8 100
2012 17,576 8,675 8,901 50.6 15.7 97
2011 17,036 8,199 8,837 51.9 15.9 93
2010 15,681 7,578 8,103 51.7 15.7 94
2009 13,868 6,522 7,346 53.0 15.3 89
2008 13,005 6,287 6,718 51.7 15.5 94

* 2025年は見通し値

バランスシート分析の重要な観点

自己資本率の推移と戦略的意味

  • 健全な水準維持:過去17年間で46.4%〜55.3%の範囲で推移
  • 業界平均を上回る:産業ガス業界の平均(約40%)を上回る健全性
  • 大型投資による負債増加:水素プロジェクトの資金調達により負債比率が上昇
  • 依然として安全圏:46%以上の自己資本率を維持し、財務の安定性を確保

ROE(自己資本利益率)の特徴

  • 2024年の一時的上昇:LNG事業売却による特別利益で20.5%に上昇
  • 2025年の正常化:特別要因を除くと約14%程度に回帰見込み
  • 業界平均程度:産業ガス業界平均(約15%)に近い水準
  • 安定した収益性:過去17年間で13.0〜20.5%の範囲で推移

総合評価

エア・プロダクツの財務戦略は「成長投資重視への転換期」にあります。総資産420億ドル、総負債225億ドル、株主資本195億ドルという規模の拡大により、自己資本率は46.4%と依然として健全な水準を維持していますが、大型水素プロジェクトへの投資により配当成長率は減速しています。配当性向59%は適度な水準であり、配当の持続可能性は確保されています。

配当重視投資家にとっての投資価値

インカム投資家への魅力:

  1. 卓越した配当履歴:43年連続増配という長期実績
  2. 配当成長の減速:近年は年1-3%程度の低成長に転換
  3. 適度な配当性向:59%という健全な配当性向
  4. 産業ガスの安定性:景気変動に対する耐性のあるビジネスモデル

配当投資戦略における位置づけ

安定重視のディフェンシブ銘柄

  • ポートフォリオの守備的銘柄:安定した配当収入を重視する投資家向け
  • リスク分散効果:産業ガスという必需品事業による安定性
  • インフレヘッジは限定的:低い配当成長率によりインフレ対応力は低下
  • 長期保有適性:財務健全性と事業の安定性による長期投資適性

投資リスクと対策

主要リスク要因:

  1. 配当成長の鈍化:近年の1-3%成長によりインフレ対応力が低下
  2. 大型投資リスク:水素プロジェクトなど新規事業の投資回収リスク
  3. 景気循環リスク:製造業の設備稼働率低下による需要減少
  4. エネルギー価格変動:電力コストの上昇による収益圧迫
  5. 競争激化:業界再編による競争環境の変化

リスク軽減策:

  • 分散投資:セクター分散によるリスク軽減
  • 配当利回り重視:成長率より安定した配当収入を重視する投資姿勢
  • 定期的なモニタリング:四半期決算での業績確認
  • 長期視点:産業ガスの長期的な需要成長を信じる投資姿勢
  • 適度なポジションサイズ:ポートフォリオの一部として適度な比重で保有

まとめ:配当投資家にとってのエア・プロダクツ

エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズは、43年連続増配という卓越した実績安定したキャッシュフロー創出能力を維持していますが、配当成長率は近年大幅に減速しています。

産業ガスという事業の特性による安定した需要、水素エネルギーへの戦略的投資による成長機会はありますが、大型投資により配当成長余力は制約されています。配当性向59%という水準は適度ですが、過去のような高い配当成長は期待できない状況です。

投資判断のポイント

配当投資家にとって、エア・プロダクツは「安定配当重視のディフェンシブ銘柄」として位置づけることができます。高い配当成長を期待する投資家には物足りませんが、安定した配当収入と長期的な事業の安定性を重視する投資家には適した銘柄といえるでしょう。ただし、配当成長の鈍化を考慮して、ポートフォリオ全体のバランスを考慮した投資が重要です。

免責事項
本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。本記事のデータは2025年9月5日時点の情報に基づいており、最新の情報については各公式サイトをご確認ください。


Posted by 南 一矢