FDX:フェデックスの配当推移

配当

フェデックス (FedEx Corp.) の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

(*年次決算が5月なので平均株価は6月1日~5月30日の期間で計算しています)

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 1.86% 10% 30% 5.16 277.1 17.21
2023 1.85% 39% 30% 4.71 254.3 15.48
2022 1.69% 26% 24% 3.4 201.7 14.33
2021 1.10% 4% 14% 2.7 246.4 19.45
2020 1.07% 0% 53% 2.6 243.7 4.9
2019 1.76% 30% 128% 2.6 147.6 2.03
2018 0.96% 25% 12% 2 208.9 16.79
2017 0.69% 60% 14% 1.6 231.9 11.07
2016 0.56% 25% 15% 1 179.4 6.51
2015 0.51% 33% 22% 0.8 155.7 3.65
2014 0.37% 7% 8% 0.6 164.3 7.48
2013 0.45% 8% 7% 0.56 125 8.55
2012 0.55% 8% 8% 0.52 93.7 6.41
2011 0.56% 9% 11% 0.48 85.4 4.57
2010 0.50% 0% 12% 0.44 87.8 3.76
2009 0.57% 10% 142% 0.44 77.3 0.31
2008 0.61% 11% 11% 0.4 65.5 3.6

【出典】

一貫した配当成長の歩み

FedExの配当実績は、物流業界の変動にも関わらず、長期的に安定した成長を遂げています。2008年の1株あたり0.40ドルから2024年には5.16ドルへと約13倍に増加しました。特に2015年以降、配当成長が加速し、2017年には前年比60%増、2019年には30%増と大幅な増配を実施。2020年のCOVID-19パンデミック時には一時的に配当を据え置きましたが、その後も成長を継続し、2023年には39%の増配を実現しています。

配当成長率の推移

FedExの配当成長率は以下のように推移してきました:

  • 2008〜2014年:安定期(7〜11%の緩やかな成長)
  • 2015年:成長加速の始まり(33%増)
  • 2016〜2019年:積極的増配期(25〜60%の高成長)
  • 2020年:パンデミックの影響で据え置き(0%)
  • 2021〜2024年:回復と持続的成長期(4〜39%)

このパターンは、FedExのビジネスモデルの進化と経営戦略の変化を反映しています。特に注目すべきは、2015年以降の配当成長の加速です。これは同社がeコマースの急成長の恩恵を受けると同時に、株主還元を重視する戦略へとシフトしたことを示しています。特に2017年の60%増と2023年の39%増は、業績好調期における積極的な株主還元姿勢の表れといえるでしょう。

配当性向の持続可能性

FedExの配当性向(配当÷EPS)は、一部の年を除いて比較的安定した推移を見せています:

  • 2008〜2018年:概ね7〜15%の低い配当性向を維持
  • 2009年および2019年:例外的に高い配当性向(それぞれ142%と128%)
  • 2020年:一時的に上昇(53%)
  • 2021〜2024年:安定した30%前後の水準に収束

高配当性向年の理解:2009年と2019年の異常に高い配当性向は、特殊要因によるEPSの一時的な落ち込みが原因です。例えば:

  • 2009年:世界金融危機の影響で純利益が98M$まで減少し、EPSが0.31ドルと極めて低い水準となりました。この年は配当を維持する方針を採ったため、結果的に配当性向が142%となりました。
  • 2019年:事業構造改革費用や年金関連の特別費用により、純利益が540M$に落ち込み、EPSが2.03ドルとなりました。この年も配当を2.60ドルに増額したため、配当性向は128%に達しました。

最近の傾向:2021年以降、FedExは30%前後の配当性向を安定的に維持しています。これは同社が持続可能な配当政策を確立したことを示唆しています。この水準は物流業界としては比較的高いものの、会社の成長投資ニーズとのバランスを考慮すると、持続可能な範囲内にあると評価できます。

また、注目すべきは配当性向の安定化傾向です。初期は10%前後と低めでしたが、近年は30%前後で安定しており、株主還元を重視する経営方針への変化を反映しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 37,953 3,465 9 1,125
2009 35,497 2,753 8 98
2010 34,734 3,138 9 1,184
2011 39,304 4,041 10 1,452
2012 42,680 4,835 11 2,032
2013 44,287 4,688 11 2,716
2014 45,567 4,264 9 2,324
2015 47,453 5,366 11 1,050
2016 50,365 5,708 11 1,820
2017 60,319 4,930 8 2,997
2018 65,450 4,674 7 4,572
2019 69,693 5,613 8 540
2020 69,217 5,097 7 1,286
2021 83,959 10,135 12 5,231
2022 93,512 9,832 11 3,826
2023 90,155 8,848 10 3,972
2024 87,693 8,312 9 4,331

収益性と効率性の変動

FedExの財務データからは、成長の軌跡とビジネスモデルの変化が見て取れます:

  • 売上高は2008年の37,953M$から2022年の93,512M$へと約2.5倍に成長
  • 2020年のパンデミックで一時的に売上が停滞するも、2021年には急回復(21%成長)
  • 2022年にピークの93,512M$に達した後、2023-2024年は若干減少(-3〜-4%)
  • 営業CFマージンは7〜12%の範囲で推移し、2021年に最高の12%を記録
  • 純利益は変動が大きく、特に2009年と2019年に大幅減少、2018年と2021年に高水準を記録

特に注目すべきは、2020-2021年のパンデミック期の業績です。一般的な企業が打撃を受ける中、FedExはeコマースの急増による恩恵を受け、2021年には売上高83,959M$(前年比21%増)、営業CF 10,135M$(前年比99%増)、純利益5,231M$(前年比307%増)と過去最高水準の業績を達成しました。

2022年以降の若干の減少は、パンデミック特需の正常化とグローバル経済の減速を反映していますが、パンデミック前と比較すると依然として高い水準を維持しています。特に純利益は2024年に4,331M$と堅調に推移しており、効率化施策の成果が表れていると考えられます。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 3,465 -3 -2,897 -617
2009 2,753 -21 -2,383 400
2010 3,138 14 -2,781 -692
2011 4,041 29 -3,419 -287
2012 4,835 20 -4,049 -244
2013 4,688 -3 -3,803 1,184
2014 4,264 -9 -3,551 -2,719
2015 5,366 26 -5,752 1,349
2016 5,708 6 -9,446 3,611
2017 4,930 -14 -4,981 528
2018 4,674 -5 -5,677 227
2019 5,613 20 -5,473 -1,039
2020 5,097 -9 -5,846 3,381
2021 10,135 99 -6,010 -2,090
2022 9,832 -3 -6,816 -3,019
2023 8,848 -10 -6,174 -2,597
2024 8,312 -6 -5,200 -3,426

FedExの強みは、安定したキャッシュフロー創出能力にあります:

  • 営業CFは長期的に上昇傾向にあり、2008年の3,465M$から2021年のピーク10,135M$へと約3倍に成長
  • 2009年(金融危機)と2020年(パンデミック初期)に一時的な減少があったものの、翌年には迅速に回復
  • 2021年以降は若干の減少傾向にあるが、依然として8,000M$以上の高水準を維持
  • 投資CFは一貫して負の値(-2,383M$〜-9,446M$)を示し、継続的な設備投資を反映
  • 財務CFは変動が大きく、資金調達と返済、配当、自社株買いのバランスを反映

特に注目すべき点として、2016年の投資CFが-9,446M$と突出して大きくなっています。これはTNT Expressの買収(約45億ドル)によるものであり、FedExの国際展開を強化する戦略的投資でした。

2021年以降の財務CFの一貫したマイナス値(-2,090M$〜-3,426M$)は、負債の返済と積極的な株主還元(増配と自社株買い)を反映しています。この期間、営業CFが若干減少しているにもかかわらず財務CFのマイナス幅が拡大していることは、株主還元を重視する経営方針の表れといえるでしょう。

キャッシュフロー分析のポイント:FedExのキャッシュフローパターンは、「成長投資→収穫→株主還元」のサイクルを示しています。2015-2017年の積極投資期(特にTNT Express買収)を経て、2021-2024年は投資を抑えながら株主還元を拡大する「収穫期」に入っていると考えられます。また、最近の営業CFの安定性は、景気減速環境下でも安定した収益を生み出す能力を示しており、同社のビジネスモデルの強靭性を表しています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 25,633 11,107 14,526 57 76
2009 24,244 10,618 13,626 56 78
2010 24,902 11,091 13,811 55 80
2011 27,385 12,165 15,220 56 80
2012 29,903 15,176 14,727 49 103
2013 33,567 16,169 17,398 52 93
2014 33,070 17,793 15,277 46 116
2015 36,531 21,538 14,993 41 144
2016 45,959 32,175 13,784 30 233
2017 48,552 32,479 16,073 33 202
2018 52,330 32,914 19,416 37 170
2019 54,403 36,646 17,757 33 206
2020 73,537 55,242 18,295 25 302
2021 82,777 58,609 24,168 29 243
2022 85,994 61,055 24,939 29 245
2023 87,143 61,055 26,088 30 234
2024 87,007 59,425 27,582 32 215

FedExの資本構成には、以下の特徴が見られます:

  • 総資産は2008年の25,633M$から2024年には87,007M$へと約3.4倍に拡大
  • 自己資本率は2008年の57%から2020年には25%まで低下し、その後緩やかに回復して2024年には32%
  • 負債比率は2008年の76%から2020年には302%まで上昇し、その後改善して2024年には215%
  • 株主資本は2021年以降着実に増加し、2024年には27,582M$と過去最高を記録

資本構成の変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 2015-2016年:負債の大幅増加とTNT Express買収による総資産の拡大
  • 2019-2020年:パンデミック対応のための追加借入と資産計上されたリース負債の増加
  • 2021-2024年:好調な業績による株主資本の増加と負債返済による財務改善

特に2020年の負債比率急上昇(302%)は、パンデミック対応のための流動性確保と、新会計基準(ASC 842)の適用によるオペレーティングリースの資産・負債計上の影響が大きいと考えられます。

2021年以降は、強力なキャッシュフロー創出を背景に負債比率が改善傾向にあり、2024年には215%まで低下しています。同時に、株主資本も着実に増加しており、財務健全性が向上していることがわかります。

まとめ:長期配当投資家にとってのFedExとは?

FedExは、物流業界のリーディングカンパニーとして、安定した成長と株主還元の強化を両立させています。特に2015年以降の配当政策の変化は、同社が成熟企業として株主還元を重視する段階に入ったことを示しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 安定した営業キャッシュフロー創出能力と景気変動への耐性
  • 2015年以降の一貫した配当成長(一部の例外年を除く)
  • 近年の配当性向の安定化(30%前後)による予測可能性の向上
  • 積極的な効率化施策と戦略的投資によるビジネスモデルの強化
  • eコマース市場の継続的成長による長期的な追い風
  • 2021年以降の財務健全性の改善(負債比率の低下と株主資本の増加)

一方で、注意すべき点としては:

  • 業績の変動性(特に2009年と2019年の大幅な純利益減少)
  • 競争激化(Amazon Logisticsなど)による利益率への圧力
  • 燃料価格やグローバル貿易環境の変動リスク
  • 依然として高い水準にある負債比率(215%)
  • 配当利回りは業界平均と比較して低めの水準
  • 最近の売上高の若干の減少傾向(2022年以降)

投資家へのポイント:FedExへの投資は、「中程度のリスクと着実な成長」という特性を持っています。同社は景気変動の影響を受けるものの、eコマースの構造的成長という追い風を受けており、長期的な成長が期待できます。配当投資家としては、安定した配当成長と財務健全性の改善傾向を評価できるでしょう。特に、2021年以降の30%前後で安定した配当性向は、経営陣が株主還元と成長投資のバランスを重視していることを示しています。短期的には景気減速の影響を受ける可能性がありますが、長期的には物流インフラの不可欠な担い手としてのポジションを維持し、安定した株主還元を続けると期待できます。

よくある質問

FedExの配当はどれくらい安全ですか?

FedExの配当は比較的安全と評価できます。2021年以降、配当性向は約30%と安定しており、これは同社の事業特性を考慮すると持続可能な水準です。また、営業キャッシュフローは年間8,000M$以上を安定して生成しており、現在の年間配当総額をカバーするのに十分な余裕があります。唯一の懸念点として、2009年と2019年に見られたような特殊要因による業績の急激な悪化があった場合の影響が挙げられますが、両年とも配当自体は維持または増加させており、配当を重視する経営姿勢が示されています。さらに、2020年のパンデミック危機においても配当を維持したことは、同社の配当に対するコミットメントの強さを表しています。

eコマースの成長鈍化はFedExの配当にどのような影響を与えますか?

eコマースの成長率が以前より鈍化していることは事実ですが、FedExへの影響は限定的と考えられます。同社はパンデミック後の需要正常化に対応するため、コスト効率化プログラムを積極的に展開しており、これが利益率の維持に寄与しています。また、eコマース市場自体は依然として成長を続けており、特にグローバル展開における同社の強みは維持されています。2022年以降の売上高の若干の減少にもかかわらず、純利益は堅調に推移しており、配当をカバーする能力は十分に維持されています。長期的には、eコマースのペネトレーション拡大と国際貿易の成長が同社の基盤を支える見込みであり、配当成長の継続が期待できます。ただし、成長率は2015-2023年の急成長期と比較すると、より穏やかなものになる可能性があります。

負債比率が高いことは配当の持続可能性にとって懸念材料ではないですか?

FedExの負債比率(2024年:215%)は確かに高い水準にありますが、いくつかの緩和要因を考慮する必要があります。まず、2020年のピーク(302%)から着実に改善傾向にあること、次に、負債の大部分がオペレーティングリースに関連するものであり、これは定期的なキャッシュフローで対応可能なものであることが挙げられます。また、同社の安定した営業キャッシュフロー創出能力と、2020年のパンデミック時にも流動性を確保できた実績は、債務返済能力の強さを示しています。さらに、流動比率が一貫して130%以上を維持していることも、短期的な財務安定性を示しています。経営陣は2021年以降、負債削減と株主還元のバランスを取りながら財務健全性の改善を進めており、現時点では負債水準が配当の持続可能性に直接的な脅威となる可能性は低いと考えられます。

2023年から2024年にかけての純利益の増加要因は何ですか?

2023年から2024年にかけての純利益の増加(3,972M$から4,331M$へ、約9%増)は、主に以下の要因によるものです:(1)DRIVE(Deliver, Reliability, Invest, Value, Excellence)プログラムと呼ばれる全社的なコスト削減・効率化施策の効果、(2)運賃単価の戦略的調整と高付加価値サービスへのシフト、(3)燃料費などの変動費コントロールの改善、(4)事業構造改革の完了による特別費用の減少。特に注目すべきは、売上高が微減(約3%減)にもかかわらず純利益が増加したことであり、これは利益率の改善を示しています。この傾向は、同社が量より質を重視する戦略にシフトしていることを反映しており、長期的な収益性向上につながる可能性があります。また、この利益率改善は配当支払能力の強化につながり、将来の配当成長を支える基盤となるでしょう。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

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Posted by 南 一矢