GILD(ギリアドサイエンシズ) の配当推移

ヘルスケア,配当

ギリアド・サイエンシズ(GILD)配当投資分析(2025年11月更新)

ギリアド・サイエンシズ(GILD)配当投資分析(2025年11月更新)

要旨:ギリアド・サイエンシズはHIV治療薬のリーダーとして、2015年の配当導入以降10年連続増配を継続する配当優良企業です。2025年11月時点の年間配当は1株3.16ドル(四半期0.79ドル)で、株価水準から見た配当利回りはおおむね2.5%前後です。[1]投資判断で最重要の「配当を現金でどれだけカバーできるか」を、営業CF/フリーCF双方から年次で検証し、さらにBS(資産・負債・自己資本)の推移も数表で提示します。バイオ医薬品企業としては珍しく配当重視の経営方針を採用し、HIV・オンコロジーを中心とした安定したキャッシュフロー創出により、成長性と配当利回りを両立しています。

まず、ギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

配当利回りと権利落ち・配当性向の確認

直近の利回り・権利落ち動向や、EPSベースの配当性向の推移は、Gilead IRおよび年次報告書(10-K)・四半期開示(10-Q)で確認可能です。また、長期の年次系列はMacrotrendsなどの時系列データ(EPS・株価・配当・CF等)で補完しています。[3]

直近の2025年Q3決算では、売上高は78億ドル(前年同期比約3%増)、非GAAPベース希薄化後EPSは2.47ドルとなりました。同四半期に約10億ドルの配当を支払いながら自社株買いも継続しており、配当政策を支えるキャッシュフローは維持されています。[2]

年次:配当の推移(利回り・成長率・配当性向・年間配当・平均株価・EPS)

増配ピッチと「会計ベースの配当性向」の振れ幅を掴むための年次テーブル。

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計($)
2024 3.87% 3% 811% 3.08 79.6 0.38
2023 3.78% 3% 67% 3.08 81.6 4.50
2022 4.36% 3% 80% 3.00 68.8 3.64
2021 4.20% 4% 58% 2.92 69.5 4.93
2020 3.95% 8% 2720% 2.84 71.9 0.10
2019 3.84% 11% 60% 2.72 70.9 4.22
2018 3.09% 10% 55% 2.52 81.5 4.17
2017 2.88% 13% 59% 2.28 79.2 3.51
2016 2.20% 43% 19% 2.08 94.5 9.94
2015 1.21% 11% 1.84 124.8 11.91

※EPSはGAAPベース(特別要因で大きく振れる年あり)。配当性向は「1株配当÷EPS」。2024年通期のGAAP EPSは0.38ドルで、主に研究開発関連の減損損失(IPR&Dや無形資産減損など)によって一時的に押し下げられており、基本的な事業収益力はNon-GAAPベースで概ね維持されています。[2] このため配当安全性の評価では下記のCF対比を見るのが実務的です。


配当の持続可能性を測る:現金ベースのカバー比率

指標の読み方

  • 配当総額(現金支出):本来は「普通株主への現金配当支払額」(キャッシュフロー計算書の財務CF内の行)。年次10-Kで直近3年は厳密に確認できます。長期推移は、本文では年間DPS×希薄化後平均株式数概算も併用しています(注1)。
  • 営業CF対配当比率= 営業CF / 配当総額。中長期で1.5倍超が目安。
  • フリーCF対配当比率=(営業CF − CAPEX)/ 配当総額。投資(CAPEX)を控除した「残余現金」でどれだけ配当を賄えるか。

注1: DPS(1株当たり年間配当)はIRの配当履歴等、希薄化後平均株式数はMacrotrendsの"Shares Outstanding"系列を用いて概算しています。年内の発行株式数変動や支払時期のずれにより、実際の現金配当支出額と数%の差が出る場合があります(会社開示が最優先)。出典:Gilead IR; Macrotrends(GILD Shares Outstanding, Dividends/Financials)。[3]

年次:配当総額(概算)とカバー比率

単位は百万ドル(M$)。カバー比率は小数2桁で表記。CFO/配当 & FCF/配当の両方を掲示。

配当総額(概算) 営業CF CAPEX(概算) フリーCF(概算) 営業CF/配当 FCF/配当
2008 0 2,143 600 1,543
2009 0 3,080 700 2,380
2010 0 2,834 800 2,034
2011 0 3,639 900 2,739
2012 0 3,195 1,000 2,195
2013 0 3,105 1,100 2,005
2014 0 12,818 1,200 11,618
2015 1,950 21,250 1,500 19,750 10.90 10.13
2016 2,350 17,047 1,600 15,447 7.25 6.57
2017 2,750 11,898 1,700 10,198 4.33 3.71
2018 3,150 8,400 1,800 6,600 2.67 2.10
2019 3,250 9,144 1,900 7,244 2.81 2.23
2020 3,450 8,168 2,200 5,968 2.37 1.73
2021 3,650 11,384 2,300 9,084 3.12 2.49
2022 3,750 9,072 2,400 6,672 2.42 1.78
2023 3,850 8,006 2,500 5,506 2.08 1.43
2024 3,950 10,828 2,600 8,228 2.74 2.08

• 営業CFはMacrotrends「Cash Flow Statement(GILD)」の年次系列(M$)。CAPEXは長期の概算(投資CF全体ではなく有形固定資産投資を想定)。配当総額はDPS×希薄化後平均株式数の概算です(注1)。実務では10-Kの「普通株主への配当支払額」で置き換えると厳密になります。主要CF出典:Macrotrends Cash Flow Statement(GILD)、Gilead IR。[3]


キャッシュフロー計算書

読み方(要点)

  1. 営業CF:本業の現金創出力。配当の「元手」。
  2. 投資CF:CAPEXやM&Aなど。マイナス拡大=将来成長への投資。
  3. 財務CF:配当・自社株買い・借入返済などの株主/債権者との現金やり取り。

年次:営業CF・投資CF・財務CF

単位は百万ドル(M$)。(2008–2024)

営業CF 投資CF 財務CF
2008 2,143 -179 -1,475
2009 3,080 -2,216 -1,051
2010 2,834 -1,938 -1,339
2011 3,639 3,590 1,764
2012 3,195 -11,846 563
2013 3,105 -254 -2,544
2014 12,818 -1,823 -3,025
2015 21,250 -12,475 -5,884
2016 17,047 -11,985 -9,725
2017 11,898 -16,069 3,393
2018 8,400 14,355 -12,318
2019 9,144 -7,817 -7,634
2020 8,168 -14,615 770
2021 11,384 -3,131 -8,877
2022 9,072 -2,466 -6,469
2023 8,006 -2,265 -5,125
2024 10,828 -3,449 -3,433

出典:Macrotrends「Cash Flow Statement(GILD)」年次系列およびGilead IR 10-K開示資料。[3]

  • 2012年:Pharmasset買収(約110億ドル)による投資CF大幅マイナス。
  • 2014–2016年:C型肝炎治療薬の成功により営業CFが急拡大、配当開始。
  • 2017年:Kite Pharma買収(約119億ドル)で投資CF大幅マイナス。
  • 2018年:非中核事業売却により投資CFプラス転換。
  • 2024年:営業CFが108億ドルまで回復し、配当総額・自社株買いを十分にカバーできる水準を維持。

損益・キャッシュ創出の推移(抜粋)

売上・営業CF・純利益の長期推移(M$)。

売上 営業CF 純利益
2008 5,336 2,143 1,979
2010 7,949 2,834 2,901
2014 24,890 12,818 12,101
2015 32,639 21,250 18,108
2016 30,390 17,047 13,501
2019 22,449 9,144 5,386
2021 27,305 11,384 6,225
2022 27,281 9,072 4,592
2023 27,116 8,006 5,665
2024 28,754 10,828 480

出典:Macrotrends(Revenue / Cash Flow / Net Income)、Gilead IR Financial Reports。主要数値はMacrotrendsの年次系列および公式開示に依拠。[3]


バランスシート:自己資本・負債の時系列

単位は百万ドル(M$)。自己資本率=株主資本/総資産、負債比率=総負債/株主資本。

総資産 総負債 株主資本 自己資本率(%) 負債比率(%)
2008 6,937 2,471 4,273 62 58
2010 11,593 5,471 5,864 51 93
2012 21,240 11,696 9,303 44 126
2014 34,664 18,845 15,426 45 122
2015 51,716 32,603 18,534 36 176
2016 56,977 37,614 18,887 33 199
2017 70,283 49,782 20,442 29 244
2018 63,675 42,141 21,387 34 197
2019 61,627 38,977 22,525 37 173
2020 68,407 50,186 18,202 27 276
2021 67,952 46,888 21,064 31 223
2022 63,171 41,962 21,209 34 198
2023 62,125 39,376 22,749 37 173
2024 58,995 39,749 19,246 33 207

出典:Macrotrends(Total Assets 他)、Yahoo Finance(GILD Balance Sheet)。[4]

  • 2017年:Kite Pharma買収により負債比率がピーク(244%)を記録。
  • 2018–2023年:継続的な財務体質改善により負債比率が一時173%まで低下。
  • 2024年:IPR&D減損等により自己資本が圧迫され、一時的に負債比率が207%まで上昇するも、営業CFの回復と低金利負債により財務耐性は概ね維持。
  • 自己資本率は30%前後で推移しており、バイオ医薬品業界としてはおおむね許容範囲。金利カバー倍率も二桁台で、利払い負担には一定の余裕があります。[4]

投資家向け分析

  • 配当安全度:営業CFベースの配当カバーは2015年以降、おおむね2.0〜4.3倍が中心レンジ。2023年は営業CF鈍化で2.08倍まで低下したものの、2024年は営業CF回復により2.74倍に改善。FCFカバーも2.08倍と、増配余地を残した水準です。[3]
  • 配当成長の持続性:2015年の配当導入以降、10年連続増配を継続。2025年には四半期配当を0.77ドル→0.79ドルに引き上げ、年間3.16ドルとなっています。2024年のEPSは一時要因で落ち込んだものの、Non-GAAPベースのEPSと2025年ガイダンス(8.80〜9.20ドル)を踏まえると、今後の配当成長率は中長期で年3〜5%程度の安定成長がベースとみられます。[1][2]
  • 事業基盤の安定性:HIV治療薬で世界シェア約60%の圧倒的地位を持ち、長期処方が中心のため、予測可能性の高いキャッシュフローが見込めます。HIV領域に加え、肝疾患領域やオンコロジー(特に細胞療法)の比重もじわじわと高まりつつあります。[5]
  • バランスシート:負債比率207%は数値だけ見ると高めですが、総資産に占める有利子負債は一定範囲に収まっており、営業CFと利益水準を踏まえた金利カバー倍率は二桁台と、利払い負担に対する余裕は確保されています。今後は大型M&A・研究開発投資とのバランス管理が重要です。[4]
  • 成長性:長期作用型HIV予防薬lenacapavir(予防用途でのブランド名Yeztugo)は2025年6月に米FDA、同年7月に欧州で予防用途として承認されており、年2回投与のPrEPとして新たな成長ドライバーになり得ます。[5] さらにCAR-T療法(Yescartaなど)や肝疾患領域のパイプライン拡充も進んでおり、中長期の成長余地は依然として大きいと考えられます。

【注】(出典リンク)

  1. 配当・株価・連続増配年数 → Gilead IR(Dividends/Stock Info)Macrotrends Dividend Yield(GILD)(確認日:2025-11-27)
  2. 2024通期・2025年Q1〜Q3決算(売上・EPS・営業CF・ガイダンス) → Gilead IR Quarterly Results(2024 Q4/Full Year, 2025 Q1–Q3)Reuters GILD決算関連ニュース(確認日:2025-11-27)
  3. 長期損益・キャッシュフロー系列(2008–2024年) → Macrotrends GILD Financial StatementsStock Analysis GILD Financials(確認日:2025-11-27)
  4. バランスシート系列・金利カバー → Macrotrends GILD Balance SheetYahoo Finance GILD Balance Sheet(確認日:2025-11-27)
  5. パイプライン・lenacapavir/Yeztugo・CAR-T → Gilead Pipeline紹介ページReuters 医薬品関連報道(lenacapavir/Yeztugoなど)(確認日:2025-11-27)

注: 本文中の「配当総額(概算)」および「CAPEX(概算)」は、長期の連続性確保を目的とした推計値を含みます。厳密な年次金額は各年の10-K「Consolidated Statements of Cash Flows(Financing Activities: Dividends paid)」で確認してください。

免責

本記事は投資助言ではありません。最終判断はご自身の責任でお願いします。数値は信頼できる情報源に基づきますが、エラーや改定により変更される可能性があります。投資にあたっては、バイオ医薬品業界特有のリスク(規制変更、開発失敗、特許切れ、競合激化等)を十分ご理解の上、分散投資をご検討ください。

Posted by 南 一矢