GILD(ギリアドサイエンシズ) の配当推移

配当

ギリアドサイエンシズ(Gilead Sciences, Inc.)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 3.97% 3% 811% 3.08 77.5 0.38
2023 3.78% 3% 67% 3 79.3 4.5
2022 4.36% 3% 80% 2.92 67 3.64
2021 4.20% 4% 58% 2.84 67.6 4.93
2020 3.95% 8% 2720% 2.72 68.8 0.1
2019 3.84% 11% 60% 2.52 65.7 4.22
2018 3.09% 10% 55% 2.28 73.8 4.17
2017 2.88% 13% 59% 2.08 72.3 3.51
2016 2.20% 43% 19% 1.84 83.6 9.94
2015 1.21% 11% 1.29 106.5 11.91

【出典】

配当開始と成長の軌跡

ギリアド・サイエンシズの配当実績は、バイオ医薬品企業としては比較的新しく、2015年に初めて配当を開始しました。2008年から2014年まで7年間は配当を支払わず、研究開発と事業拡大に集中していましたが、C型肝炎治療薬Sovaldi/Harvoniのブロックバスターとしての成功により、2015年に年間1.29ドルの配当を開始しました。その後、9年連続で増配を継続し、2024年には3.08ドルに達しています。この間の年平均成長率は約10%と、医薬品セクターでは魅力的な水準を維持しています。注目すべきは、2020年のCOVID-19パンデミック時に純利益が大幅に減少したにもかかわらず、配当成長を継続した点で、これは同社の株主還元へのコミットメントを示しています。

配当成長率の推移

ギリアド・サイエンシズの配当成長率は、バイオ医薬品企業の特性を反映した変動パターンを示しています:

  • 2015年:配当開始(年間1.29ドル)
  • 2016年:大幅増配(43%増、1.84ドル)
  • 2017〜2019年:二桁成長期(10〜13%の安定した高成長)
  • 2020年:成長率鈍化(8%増)
  • 2021〜2024年:安定成長期(3〜4%の穏やかな成長)

このパターンは、同社の事業サイクルと財務戦略の変化を反映しています。初期の高成長期(2016-2019年)は、C型肝炎治療薬からの潤沢なキャッシュフローを背景とした積極的な株主還元でした。その後、主力製品の売上減少と新薬開発への投資拡大に伴い、より持続可能な配当成長率へと調整されました。

特に2021年以降の年率3-4%という成長率は、バイオ医薬品業界の不確実性を考慮した保守的なアプローチを示しています。これは同社が長期的な配当の持続可能性を重視し、研究開発投資とのバランスを取りながら、株主還元を継続する姿勢を表しています。新薬パイプラインの進展状況により、将来的にはより高い成長率への回帰も期待できます。

配当利回りの実態

ギリアド・サイエンシズの配当利回りは、バイオ医薬品セクターとしては魅力的な水準を提供してきました。特に注目すべき点は:

  • 配当開始時(2015年)から一貫して3〜5%の利回りを維持
  • バイオ医薬品企業の平均配当利回り(約2%)を大幅に上回る水準
  • 株価変動により利回りは変動するものの、相対的に安定した配当支払いを実現
  • 成熟した医薬品企業(ファイザー、メルクなど)と比較して競争力のある利回り

ギリアド・サイエンシズの配当利回りの安定性は、同社の事業モデルの特性を反映しています。HIV治療薬を中心とした長期的な処方薬ポートフォリオにより、比較的予測可能な収益基盤を構築しており、これが配当の安定性を支えています。また、C型肝炎治療薬の特許切れ後も、HIV、がん、その他の感染症治療薬の多様なポートフォリオにより、収益の安定化を図っています。

注目ポイント:ギリアド・サイエンシズは、バイオ医薬品企業としては珍しく配当を重視する経営方針を採用しています。多くのバイオテクノロジー企業が成長投資を優先する中、同社は成熟したポートフォリオからのキャッシュフローを活用して、配当と研究開発投資を両立させる戦略を取っています。これにより、成長性と配当利回りの両方を求める投資家にとって魅力的な選択肢となっています。

配当性向の持続可能性

ギリアド・サイエンシズの配当性向(配当÷EPS)は、バイオ医薬品企業の特性を反映して大きく変動してきました:

  • 2015〜2016年:健全な配当性向(11%、19%)
  • 2017〜2019年:適正水準の維持(55%〜60%)
  • 2020年:異常値(2720% – EPS大幅減少による)
  • 2021〜2023年:正常化(58%〜80%)
  • 2024年:再び異常値(811% – EPS急減による)

極端な配当性向の理解:2020年と2024年の異常に高い配当性向は、一時的な要因によるEPSの急減が原因です:

  • 2020年:COVID-19治療薬レムデシビルの開発・製造費用、および無償提供による収益インパクトによりEPSが0.10ドルに急減。年間配当2.72ドルに対して2720%という異常な配当性向となりました。
  • 2024年:新薬開発の遅れと主力製品の競争激化により、EPSが0.38ドルに落ち込み、年間配当3.08ドルに対して811%の配当性向となりました。

バイオ医薬品企業の会計上の特殊性:ギリアド・サイエンシズのような医薬品企業の純利益は以下の理由で大きく変動します:

  • 研究開発費の変動:新薬パイプラインの進展段階により巨額のR&D投資が発生
  • 買収・ライセンス費用:他社からの技術導入や企業買収に伴う一時的費用
  • 規制当局対応費用:FDA承認プロセスや安全性試験に伴うコスト
  • 特許権償却:買収により取得した特許権や技術の償却費用
  • 為替変動:グローバル展開による外貨建て売上・費用の為替インパクト
  • 税制変更:各国の税制改正や移転価格税制の影響

これらの一時的な要因により純利益が大きく変動するため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。バイオ医薬品企業の配当分析では、営業キャッシュフローに対する配当の割合を重視することが重要です。

実際に、ギリアド・サイエンシズのキャッシュフロー指標を見ると、配当性向が極端に高い年でも、営業キャッシュフロー(2020年は8,168M$、2024年は10,828M$)は配当支払いをカバーするのに十分な水準を維持しています。2024年の配当総額は約39億ドルで、営業キャッシュフローの36%程度となっており、健全な水準にあります。これは同社の基本的な事業が配当を支える能力を持っていることを示しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 5,336 2,143 40 1,979
2009 7,011 3,080 44 2,636
2010 7,949 2,834 36 2,901
2011 8,385 3,639 43 2,804
2012 9,702 3,195 33 2,592
2013 11,202 3,105 28 3,075
2014 24,890 12,818 51 12,101
2015 32,639 21,250 65 18,108
2016 30,390 17,047 56 13,501
2017 26,107 11,898 46 4,628
2018 22,127 8,400 38 5,455
2019 22,449 9,144 41 5,386
2020 24,689 8,168 33 123
2021 27,305 11,384 42 6,225
2022 27,281 9,072 33 4,592
2023 27,116 8,006 30 5,665
2024 28,754 10,828 38 480

収益性と効率性の変動

ギリアド・サイエンシズの財務データからは、バイオ医薬品業界特有のブロックバスター薬剤サイクルと、その後の収益安定化プロセスが見て取れます:

  • 売上高は2014年のC型肝炎治療薬Sovaldi承認により急拡大(前年比122%増)
  • 2015年にピーク(32,639M$)を記録した後、特許切れや競合薬登場により段階的に減少
  • 2019年以降は270億ドル前後で安定し、多様化したポートフォリオによる収益基盤を構築
  • 営業CFマージンは2015年のピーク時65%から、近年は30-40%台で安定
  • 純利益は2020年と2024年に大幅減少するも、その他の年は概ね安定

特に注目すべきは、C型肝炎治療薬のブロックバスター効果です。Sovaldi(2014年承認)とHarvoni(2014年後半承認)により、2014-2016年の3年間で累計約880億ドルの売上を記録しました。しかし、これらの薬剤は治癒率が95%以上と非常に高く、患者プールの枯渇により売上が急速に減少する「自己破壊的な成功」という特殊な特性を持っていました。

2017年以降の売上減少期を経て、同社はHIV治療薬(Biktarvy、Descovy等)、がん治療薬(Yescarta、Tecartus等)、その他感染症治療薬の多様なポートフォリオにより収益基盤を再構築しました。2019年以降の安定した売上水準(約270億ドル)は、この多様化戦略の成果を示しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 2,143 28 -179 -1,475
2009 3,080 44 -2,216 -1,051
2010 2,834 -8 -1,938 -1,339
2011 3,639 28 3,590 1,764
2012 3,195 -12 -11,846 563
2013 3,105 -3 -254 -2,544
2014 12,818 313 -1,823 -3,025
2015 21,250 66 -12,475 -5,884
2016 17,047 -20 -11,985 -9,725
2017 11,898 -30 -16,069 3,393
2018 8,400 -29 14,355 -12,318
2019 9,144 9 -7,817 -7,634
2020 8,168 -11 -14,615 770
2021 11,384 39 -3,131 -8,877
2022 9,072 -20 -2,466 -6,469
2023 8,006 -12 -2,265 -5,125
2024 10,828 35 -3,449 -3,433

ギリアド・サイエンシズの強みは、ブロックバスター薬剤の成功を背景とした強力なキャッシュフロー創出能力にあります:

  • 営業CFは過去17年間一度もマイナスになることなく、年間20億〜210億ドルを創出
  • 2014-2016年のピーク時には年間120億〜210億ドルの潤沢なキャッシュフローを実現
  • 2017年以降の減少期も年間80億〜110億ドルの安定したキャッシュフロー創出を維持
  • 2021年と2024年には営業CFが回復傾向を示し、新薬ポートフォリオの効果が表れている

投資CFのパターンから、同社の戦略的投資と資産売却の動向が読み取れます:

  • 2012年:Pharmasset買収(110億ドル)によるC型肝炎治療薬技術の取得
  • 2015年:製造設備拡張とCAR-T細胞療法企業Kite Pharma買収準備
  • 2017年:Kite Pharma買収(119億ドル)によるがん免疫療法への参入
  • 2018年:非中核事業売却によるプラス投資CF(+143億ドル)
  • 2020年:COVID-19治療薬開発・製造設備への投資拡大
  • 2021年以降:R&D投資の正常化(年間20億〜35億ドル)

財務CFは配当支払いと自社株買いの拡大を反映しています:

  • 2015年以降:配当開始と自社株買い拡大によるマイナス財務CF
  • 2016年のピーク時(-97億ドル)には積極的な株主還元を実施
  • 2021年以降:配当と自社株買いのバランスを取った株主還元政策

キャッシュフロー分析のポイント:ギリアド・サイエンシズのキャッシュフローパターンは、「ブロックバスター創出→投資拡大→収益安定化」のサイクルを示しています。C型肝炎治療薬の成功により創出された潤沢なキャッシュフローを、次世代の成長分野(HIV、がん、その他感染症)への投資と株主還元に効率的に配分してきました。現在は多様化したポートフォリオからの安定したキャッシュフロー創出期にあり、持続可能な配当政策の基盤となっています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 6,937 2,471 4,273 62 58
2009 9,699 3,193 6,367 66 50
2010 11,593 5,471 5,864 51 93
2011 17,303 10,436 6,739 39 155
2012 21,240 11,696 9,303 44 126
2013 22,579 10,834 11,370 50 95
2014 34,664 18,845 15,426 45 122
2015 51,716 32,603 18,534 36 176
2016 56,977 37,614 18,887 33 199
2017 70,283 49,782 20,442 29 244
2018 63,675 42,141 21,387 34 197
2019 61,627 38,977 22,525 37 173
2020 68,407 50,186 18,202 27 276
2021 67,952 46,888 21,064 31 223
2022 63,171 41,962 21,209 34 198
2023 62,125 39,376 22,749 37 173
2024 58,995 39,749 19,246 33 207

ギリアド・サイエンシズの資本構成には、以下の特徴的な変化が見られます:

  • 総資産は2008年の6,937M$から2017年のピーク70,283M$まで約10倍に拡大
  • 2018年以降は資産売却により適正規模に調整し、2024年には58,995M$
  • 自己資本率は2008-2013年の50%超から、買収期(2014-2017年)に低下、近年は30%台で安定
  • 負債比率は2017年にピーク(244%)を記録した後、改善傾向にあり2024年は207%

資本構成の変化には、以下の戦略的要因が影響しています:

  • 2012年:Pharmasset買収(110億ドル)のための負債調達により負債比率が上昇
  • 2015年:C型肝炎治療薬の成功により現金が急増し、一時的に総資産が拡大
  • 2017年:Kite Pharma買収(119億ドル)により負債比率がピークに達する
  • 2018年以降:非中核事業売却と負債削減により財務体質を改善
  • 2020年:COVID-19関連投資により一時的に負債が増加
  • 2021年以降:継続的な負債削減と自社株買いによる資本効率の改善

負債比率の水準(2024年で207%)は一般的な基準では高めですが、バイオ医薬品業界の特性を考慮する必要があります。同社の負債の多くは長期債務であり、安定したキャッシュフロー(年間80億〜110億ドル)により十分にカバーされています。また、医薬品業界では特許による独占的地位があるため、相対的に高い負債比率での運営が可能です。

流動比率の改善(2024年で160%)は短期的な財務安定性の向上を示しており、研究開発投資や配当支払いに必要な流動性を確保しています。

まとめ:長期配当投資家にとってのギリアド・サイエンシズとは?

ギリアド・サイエンシズは、バイオ医薬品セクターでは珍しく配当を重視する企業として、成長性と配当利回りを両立させています。同社は過去のブロックバスター薬剤の成功を基盤に、多様化したポートフォリオと継続的な研究開発投資により、長期的な競争優位性を構築しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 2015年以降9年連続増配の実績(年平均成長率約10%)
  • 安定した営業キャッシュフロー創出能力(年間80億〜110億ドル)
  • HIV治療薬における世界的リーダーシップとロイヤリティの高い患者基盤
  • CAR-T細胞療法などの革新的ながん治療技術の保有
  • 魅力的な配当利回り(約4%前後)とバイオセクター平均を上回る株主還元
  • 強固な知的財産ポートフォリオと長期的な競争優位性
  • 多様化された治療分野による収益リスクの分散

一方で、注意すべき点としては:

  • バイオ医薬品業界特有の規制リスクと開発失敗リスク
  • 主力製品の特許切れと後発品競争による収益圧迫リスク
  • 高い負債比率(207%)による財務リスク
  • 研究開発投資の不確実性と長期間の投資回収サイクル
  • HIV治療薬市場の成熟化と価格圧力
  • 新興バイオテクノロジー企業との技術競争
  • 医療保険制度改革による薬価引き下げ圧力

投資家へのポイント:ギリアド・サイエンシズへの投資は、「安定配当と成長期待の両立」という特性を持っています。同社はバイオ医薬品企業でありながら、成熟したポートフォリオからの安定したキャッシュフローにより、配当の継続性を確保しています。また、がん免疫療法や感染症治療などの成長分野への継続的な投資により、将来的な収益拡大も期待できます。

配当投資家としては、ギリアド・サイエンシズは「ディフェンシブ・グロース配当株」として位置づけることができます。HIV治療薬という安定した収益基盤により配当の下支えがある一方、新薬パイプラインの進展により配当成長率の向上も期待できます。長期的には、次世代HIV治療薬、がん免疫療法、その他感染症治療薬の成功により、より高い配当成長を実現する可能性があります。

よくある質問

ギリアド・サイエンシズの配当はどれくらい安全ですか?

ギリアド・サイエンシズの配当は、バイオ医薬品セクターとしては比較的安全と評価できます。同社は2015年の配当開始以来9年連続で増配を継続しており、営業キャッシュフロー(年間80億〜110億ドル)は配当支払い総額(約39億ドル)を安定してカバーしています。現在の配当支払い比率は営業キャッシュフローの約36%と健全な水準にあります。特にHIV治療薬(Biktarvy、Descovyなど)は長期処方される慢性疾患治療薬であり、患者の治療継続率が高く、安定した収益基盤となっています。ただし、バイオ医薬品業界特有のリスク(規制変更、開発失敗、特許切れ)は存在するため、伝統的な公益事業株ほどの安定性はありません。それでも、多様化されたポートフォリオと継続的なR&D投資により、短期〜中期的な配当削減リスクは低いと考えられます。

なぜギリアド・サイエンシズは2015年になってから配当を開始したのですか?

ギリアド・サイエンシズが2015年に配当を開始した背景には、C型肝炎治療薬Sovaldi/Harvoniの空前の成功があります。2014年にSovaldiが承認されると、同社の売上は前年比122%増の約249億ドルに急拡大し、営業キャッシュフローも313%増の128億ドルに達しました。この急激な収益拡大により、同社は以下の判断に至りました:(1)潤沢なキャッシュフローにより配当支払い能力が飛躍的に向上、(2)成熟企業としての株主還元責任の認識、(3)R&D投資と株主還元の両立が可能な財務体力の獲得、(4)投資家層の多様化(成長投資家に加え、配当投資家も取り込む戦略)。

それまでの同社は典型的な「成長投資優先」バイオテクノロジー企業でしたが、ブロックバスター薬剤の成功により成熟企業への転換期を迎えました。配当開始は、この戦略転換を象徴する出来事でした。興味深いのは、C型肝炎治療薬の売上が減少期に入った2017年以降も配当成長を継続している点で、これは多様化されたポートフォリオからの安定した収益基盤を築いたことを示しています。

HIV治療薬市場の将来性はギリアド・サイエンシズの配当にどのような影響を与えますか?

HIV治療薬市場はギリアド・サイエンシズの配当を支える重要な基盤であり、長期的には安定した成長が期待されます。同社のHIV治療薬事業の特徴として:(1)世界のHIV治療薬市場で約60%のシェアを占める圧倒的な地位、(2)患者の生涯にわたる長期処方による安定した収益モデル、(3)新興国での感染拡大により患者数は増加傾向、(4)次世代治療薬による価格プレミアムの維持が可能、が挙げられます。

将来的な成長ドライバーとしては:(1)注射型長時間作用製剤による治療コンプライアンス向上、(2)PrEP(暴露前予防)市場の拡大、(3)新興国市場での治療普及、(4)完全治癒を目指すキュア研究の進展、が期待されます。

リスク要因としては価格圧力と競合薬の登場がありますが、同社の技術的優位性と特許ポートフォリオにより、中期的には市場地位を維持できると考えられます。HIV治療薬からの安定した収益により、現在の配当水準(年間約39億ドル)は十分に維持可能であり、新薬承認による市場拡大があれば配当成長率の向上も期待できます。

ギリアド・サイエンシズの高い負債比率は長期的に持続可能ですか?

ギリアド・サイエンシズの負債比率(2024年で207%)は確かに高い水準にありますが、バイオ医薬品業界の特性と同社の事業モデルを考慮すると、管理可能な範囲内にあると考えられます。同社の負債の大部分は長期債務(平均満期約10年)であり、以下の強みが返済能力を支えています:(1)年間80億〜110億ドルの安定した営業キャッシュフロー、(2)HIV治療薬などの長期契約に基づく予測可能な収益、(3)知的財産による独占的地位と高い利益率、(4)必要に応じた資産売却の選択肢。

また、同社は2017年のピーク時(負債比率244%)から継続的な改善を示しており、年間約30億〜50億ドルペースでの負債削減を実施しています。2025年以降には主要製品からのキャッシュフロー安定化と新薬承認による収益拡大により、さらなる財務体質改善が期待されます。

リスク要因としては金利上昇による借り換えコストの増加がありますが、同社の信用格付け(BBB+/Baa1)と豊富なキャッシュフローを考慮すると、短期的な流動性リスクは限定的です。長期的には、負債比率を150%程度まで低下させることで、より健全な財務構造を実現できると予想されます。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢