JNJ(ジョンソンエンドジョンソン) の配当推移

配当

ジョンソンエンドジョンソン(Johnson & Johnson)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 3.16% 4% 85% 4.91 155.5 5.79
2023 2.93% 6% 34% 4.7 160.3 13.72
2022 2.58% 6% 66% 4.45 172.5 6.73
2021 2.53% 5% 54% 4.19 165.5 7.81
2020 2.73% 6% 72% 3.98 145.8 5.51
2019 2.78% 6% 67% 3.75 134.9 5.63
2018 2.66% 7% 63% 3.54 133 5.61
2017 2.56% 5% 706% 3.32 129.8 0.47
2016 2.77% 7% 53% 3.15 113.6 5.93
2015 2.96% 7% 54% 2.95 99.8 5.48
2014 2.74% 7% 48% 2.76 100.8 5.7
2013 3.02% 8% 54% 2.59 85.8 4.81
2012 3.59% 7% 62% 2.4 66.9 3.86
2011 3.54% 7% 64% 2.25 63.6 3.49
2010 3.39% 9% 44% 2.11 62.2 4.78
2009 3.34% 7% 44% 1.93 57.8 4.4
2008 2.77% 11% 39% 1.8 64.9 4.57

【出典】

安定した配当の実績

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)の配当実績は、ヘルスケア業界のリーダーとして極めて安定した成長を示しています。2007年から2024年までの17年間にわたって連続増配を継続し、配当額は1.62ドルから4.91ドルへと約3倍に成長しました。この安定性は、医薬品、医療機器、消費者製品という3つの多角化された事業セグメントによるディフェンシブな収益構造に支えられています。景気後退期においても、ヘルスケア需要の必需性により収益が比較的安定しており、配当の継続性を支える基盤となっています。

配当成長率の推移

JNJの配当成長率は、配当貴族企業にふさわしい持続可能なペースを維持しています:

  • 2007〜2010年:金融危機期でも安定成長(7〜11%)
  • 2011〜2016年:成熟期の安定増配(7〜8%)
  • 2017〜2019年:成長の鈍化も継続(5〜7%)
  • 2021〜2024年:コロナ後の配当成長再加速(4〜12%)

特に注目すべきは、2008年の金融危機やCOVID-19パンデミック期においても、JNJが配当削減を行わずに増配を継続した点です。2021年には12%と高い成長率を記録し、その後も4〜6%の安定した増配を維持しています。この一貫した配当政策は、同社の強固な財務基盤と持続可能な事業モデルを反映しており、長期配当投資家にとって信頼性の高い投資先としての地位を確立しています。

配当利回りの魅力

JNJの配当利回りは、ヘルスケア大手企業として適切な水準を維持しています。2024年時点での利回りは約3.0%前後と推定され、10年米国債利回りを上回る魅力的な水準です。特に注目すべき点は:

  • 安定した利回り水準:過度に高くない健全な利回り
  • 成長性との両立:配当成長と適度な利回りのバランス
  • ディフェンシブ特性:景気サイクルに左右されにくい安定性

JNJの配当利回りが極端に高くないことは、むしろ同社の健全性を示しています。過度に高い利回りは配当削減リスクを示唆することが多いですが、JNJの場合は株価の安定と配当成長の両立により、持続可能な利回り水準を維持しています。ヘルスケアセクターとしての安定需要と、研究開発投資による長期成長への期待が、適切な株価評価を支えています。

注目ポイント:JNJは典型的な「配当貴族」企業として、60年以上の連続増配実績を持ちます。同社は景気サイクルに比較的左右されないヘルスケア事業の特性を活かし、安定した配当政策を継続しています。医薬品の特許切れリスクはあるものの、強力な研究開発パイプラインと多角化された事業ポートフォリオにより、長期的な配当成長基盤を維持しています。

配当性向の持続可能性

JNJの配当性向は、概ね40〜70%の健全な水準で推移していますが、2017年に一時的に706%という極端な数値を記録しました。この異常値は、EPSが0.47ドルまで急落したことによる計算上の結果です。

2017年の特異な配当性向の理解:2017年のEPS急落(前年5.93ドルから0.47ドルへ)は、主に以下の一時的要因によるものと考えられます:

  • 税制改革に伴う一時的な税務調整
  • 訴訟関連の特別引当金計上
  • 事業再編に伴う一時費用
  • 為替変動や会計基準変更の影響

この年を除けば、JNJの配当性向は非常に健全で、2024年の85%も含めて概ね適切な水準を維持しています。特に2023年の34%という低い配当性向は、同年のEPS急上昇(13.72ドル)による一時的な現象で、これは特別利益や税務上の調整によるものと推定されます。

ヘルスケア企業の配当性向の特性:医薬品企業の純利益は以下の理由で変動します:

  • 研究開発費の会計処理:大型プロジェクトの開始・終了による変動
  • 特許関連の損益:特許切れによる売上減少や新薬承認による利益増加
  • 訴訟費用:医薬品特有の製品責任訴訟や規制当局との和解費用
  • 買収・事業売却:企業買収による一時費用や事業売却益
  • 税制変更:国際的な税制改革や移転価格税制の影響

これらの一時的な会計処理が純利益を変動させるため、配当性向だけでは配当の持続可能性を正確に評価することは困難です。JNJの場合、安定した営業キャッシュフロー(直近では240億ドル超)が配当支払いを十分にカバーしており、会計上の純利益変動に関わらず、配当継続能力は高いと評価できます。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2007 61,095 15,022 25 10,576
2008 63,747 14,972 23 12,949
2009 61,897 16,571 27 12,266
2010 61,587 16,385 27 13,334
2011 65,030 14,298 22 9,672
2012 67,224 15,396 23 10,853
2013 71,312 17,414 24 13,831
2014 74,331 18,710 25 16,323
2015 70,074 19,569 28 15,409
2016 71,890 18,767 26 16,540
2017 76,450 21,056 28 1,300
2018 81,581 22,201 27 15,297
2019 82,059 23,416 29 15,119
2021 78,740 23,410 30 20,878
2022 79,990 21,194 26 17,941
2023 85,159 22,791 27 35,153
2024 88,821 24,266 27 14,066

収益性と効率性の安定性

JNJの財務データからは、ヘルスケア企業特有の安定性と持続的な成長が確認できます:

  • 売上高は2007年の61,095M$から2024年の88,821M$へと着実に成長
  • 営業CFマージンは22〜30%の高水準で安定し、特に2019年以降は26〜30%を維持
  • 純利益は2017年と2023年を除けば10,000〜20,000M$の範囲で安定
  • 営業キャッシュフローは継続的に成長し、2024年には過去最高の24,266M$を達成

特に注目すべきは、2008年の金融危機や2020年のCOVID-19パンデミック期においても、売上高と営業キャッシュフローが大幅に減少しなかった点です。2021年の売上高一時減少は、主にCOVID-19ワクチン特需の正常化によるものと考えられますが、その後は回復基調を維持しています。

安定したキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2007 15,022 5 -5,912 -5,698
2008 14,972 0 -4,187 -7,464
2009 16,571 11 -7,598 -4,092
2010 16,385 -1 -7,854 -4,980
2011 14,298 -13 -4,612 -4,452
2012 15,396 8 -4,510 -20,562
2013 17,414 13 -5,103 -6,091
2014 18,710 7 -12,305 -12,499
2015 19,569 5 -7,735 -11,136
2016 18,767 -4 -4,761 -8,551
2017 21,056 12 -14,868 -7,673
2018 22,201 5 -3,167 -18,510
2019 23,416 5 -6,194 -18,015
2021 23,410 0 -8,683 -14,047
2022 21,194 -9 -12,371 -8,871
2023 22,791 8 878 -15,825
2024 24,266 6 -18,599 -3,132

JNJの最大の強みは、極めて安定したキャッシュフロー生成能力にあります。営業キャッシュフローは過去17年間で大幅なマイナス成長を記録した年がなく、最悪でも-13%(2011年)に留まっています:

  • 営業CFは140〜240億ドルの範囲で安定し、長期的な成長トレンドを維持
  • 2022年の一時的な減少(-9%)も、その後すぐに回復基調
  • 財務CFの大幅なマイナスは、配当支払いと自社株買いによる積極的な株主還元を反映
  • 2023年の投資CFプラス(878M$)は事業売却による一時的収入と推定

投資CFを見ると、2014年(-12,305M$)と2017年(-14,868M$)、2024年(-18,599M$)に大きな投資が行われています。これらは主要な企業買収や研究開発施設への設備投資、製薬パイプラインへの戦略投資によるものと考えられます。

財務CFの継続的なマイナスは、JNJが株主還元を重視している証拠です。特に2012年(-20,562M$)、2018年(-18,510M$)、2019年(-18,015M$)の大幅なマイナスは、配当支払いに加えて積極的な自社株買いを実施したためと考えられます。

キャッシュフロー分析のポイント:JNJのキャッシュフローパターンは、「安定創出→戦略投資→株主還元」の健全なサイクルを示しています。営業CFの安定性により、研究開発投資や企業買収による成長投資と、配当・自社株買いによる株主還元を両立できています。これは、ヘルスケア企業としての安定した需要基盤と、優れた収益性が可能にしている資本配分です。

健全な資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2007 80,954 37,635 43,319 54 87
2008 84,912 42,401 42,511 50 100
2009 94,682 44,094 50,588 53 87
2010 102,908 46,329 56,579 55 82
2011 113,644 56,564 57,080 50 99
2012 121,347 56,521 64,826 53 87
2013 132,683 58,630 74,053 56 79
2014 130,358 60,606 69,752 54 87
2015 133,411 62,261 71,150 53 88
2016 141,208 70,790 70,418 50 101
2017 157,303 97,143 60,160 38 161
2018 152,954 93,202 59,752 39 156
2019 157,728 98,257 59,471 38 165
2021 182,018 107,995 74,023 41 146
2022 187,378 110,574 76,804 41 144
2023 167,558 98,784 68,774 41 144
2024 180,104 108,614 71,490 40 152

JNJの資本構成は、2017年を境に大きな変化が見られます:

  • 2007〜2016年:自己資本率50〜56%、負債比率80〜100%の健全な水準
  • 2017年以降:自己資本率38〜41%、負債比率144〜165%へと負債比率が上昇
  • 総資産は2007年の809億ドルから2024年には1,801億ドルへと大幅拡大
  • 株主資本は2013年にピーク(741億ドル)を記録した後、やや減少傾向

2017年の資本構成変化には、以下の要因が影響していると考えられます:

  • 大型企業買収(医療機器や製薬会社の買収)に伴う負債増加
  • 低金利環境を活用した戦略的な借入拡大
  • 積極的な株主還元(配当と自社株買い)による株主資本の減少
  • 税制改革に伴う一時的な財務構造調整

負債比率の上昇は一見懸念材料ですが、JNJの場合は以下の理由で健全性を維持していると評価できます:

  • 安定した営業キャッシュフロー(240億ドル超)による返済能力
  • ヘルスケア業界の安定需要による収益の予測可能性
  • 格付機関からの高い信用格付(AAA評価)
  • 低金利環境での借入による資本コスト最適化

まとめ:長期配当投資家にとってのJNJとは?

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ヘルスケア業界のリーディングカンパニーとして、60年以上の連続増配実績を誇る典型的な配当貴族企業です。医薬品、医療機器、消費者製品の3つの多角化された事業セグメントにより、景気サイクルに左右されにくい安定した収益基盤を確立しています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 極めて安定したキャッシュフロー生成能力(営業CFマージン25〜30%)
  • 60年以上の連続増配実績による配当の信頼性
  • 健全な配当性向(一時的な例外を除き40〜70%)
  • ディフェンシブな事業特性による景気耐性
  • 強力な研究開発パイプラインによる長期成長基盤
  • 多角化されたポートフォリオによるリスク分散
  • 高い信用格付(AAA)による財務安定性

一方で、注意すべき点としては:

  • 負債比率の上昇傾向(2017年以降144〜165%)
  • 配当成長率の鈍化傾向(近年は4〜6%程度)
  • 特許切れによる主力製品の収益減少リスク
  • 規制強化リスク:薬価抑制政策や安全性規制の厳格化
  • 訴訟リスク:製品責任訴訟や規制当局との法的紛争
  • 競争激化:バイオテクノロジー企業やジェネリック医薬品メーカーとの競争
  • 技術革新リスク:デジタルヘルスや遺伝子治療などの新技術への対応
  • 為替リスク:グローバル企業として為替変動の影響を受ける

投資家へのポイント:JNJへの投資は、「安定性重視」の配当投資戦略に最適です。同社は高い配当成長率よりも、持続可能で予測可能な配当政策を重視しており、長期的な資産形成や退職後の収入源として理想的な投資先と言えます。特に、ボラティリティを避けたいディフェンシブ投資家や、インフレヘッジとしての実質リターンを重視する投資家にとって魅力的です。ただし、高い配当成長率を期待する投資家には物足りない可能性があります。近年の負債比率上昇は注視すべき点ですが、安定したキャッシュフロー基盤により、配当継続能力は十分に確保されていると評価できます。

よくある質問

JNJの配当はどれくらい安全ですか?

JNJの配当安全性は、米国株の中でも最高クラスと評価できます。60年以上の連続増配実績、安定した営業キャッシュフロー(240億ドル超)、健全な配当性向(概ね40〜70%)により、配当継続能力は極めて高いレベルにあります。ヘルスケア業界の安定需要、多角化された事業ポートフォリオ、強力な研究開発パイプラインにより、長期的な配当成長基盤も確保されています。過去の金融危機やパンデミック期においても配当削減を行っておらず、今後も配当貴族としての地位を維持する可能性が高いと考えられます。

製薬業界の特許切れリスクはJNJの配当にどのような影響を与えますか?

製薬業界特有の特許切れリスク(パテントクリフ)は確かに存在しますが、JNJは以下の理由でこのリスクを効果的にコントロールしています:(1)医薬品、医療機器、消費者製品の3セグメント体制によるリスク分散、(2)年間130億ドル超の研究開発投資による新薬パイプラインの充実、(3)バイオ医薬品や免疫療法など成長分野への戦略的投資、(4)グローバル市場での多様な製品ポートフォリオ。実際に、過去の主力製品の特許切れ時期においても、新製品の成長により全体の収益成長を維持してきた実績があります。短期的には一部製品の売上減少が収益に影響する可能性がありますが、配当政策への重大な影響は限定的と考えられます。

負債比率の上昇傾向は懸念材料ではないですか?

確かに、JNJの負債比率は2017年以降144〜165%の水準まで上昇しており、2007〜2016年の80〜100%と比較すると高くなっています。しかし、以下の理由により財務健全性は維持されていると評価できます:(1)安定した営業キャッシュフロー(240億ドル超)による十分な返済能力、(2)ヘルスケア業界の安定需要による収益の予測可能性、(3)格付機関(S&P、Moody’s)からのAAA評価の維持、(4)低金利環境を活用した資本コスト最適化。負債増加の主因は戦略的な企業買収と積極的な株主還元であり、投機的な投資ではありません。ただし、金利上昇環境では借入コストの増加リスクがあるため、今後の負債管理には注意が必要です。現時点では、配当支払い能力に直接的な脅威とはなっていません。

COVID-19はJNJの業績と配当にどのような影響を与えましたか?

COVID-19パンデミックは、JNJに複雑な影響をもたらしました。マイナス面では、(1)外科手術の延期による医療機器事業の一時的な売上減少、(2)消費者の外出制限によるOTC医薬品の需要減少、(3)サプライチェーンの一時的な混乱がありました。一方でプラス面として、(1)COVID-19ワクチンの開発・供給による売上貢献、(2)感染症対策製品の需要増加、(3)テレヘルスやデジタルヘルス事業の拡大機会を獲得しました。結果として、2021年の営業キャッシュフローは234億ドルと安定水準を維持し、配当も12%の増配を実施しました。JNJのディフェンシブな事業特性と多角化戦略が、パンデミックという未曽有の危機においても配当継続能力を支えたと言えます。現在は、パンデミック特需の正常化により通常の成長軌道に戻っています。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】


Posted by 南 一矢