JPM配当の今後 将来性を徹底分析

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JPM配当の今後 将来性を徹底分析


世界最大級の銀行であるJPMorgan Chase(JPM)が、長期的に安定して配当を支払い続けられるのかどうかを解説します。

はじめに:この記事でわかること

JPMは過去10年間、毎年増配してきました。これからも増配が期待できるのか、以下のポイントで評価します。

  • JPMの稼ぐ力:どれだけ利益を出しているか?(特にPPNR:貸倒引当前純営業収益を重視)
  • 株主還元:配当や自社株買いにどれくらい回しているか?
  • 会社の体力:不況が来ても大丈夫か?
  • 他行との比較:他の銀行と比べてどうか?
  • 現状からの判断:配当は安定しているか?

結論:JPMの配当は「極めて高い持続性」があると評価できます。


ざっくりまとめ

  • ここがスゴイ!
    • 過去10年、JPM年間配当は年平均約12%増(減配なし!)。
    • 会社体力(CET1比率:2024年末時点で15.7%)は国基準を大幅に上回る。
    • 稼ぐ力(ROTCE:2024年実績22%)も業界トップクラス。
    • 配当性向約23.2%(2024年実績)と低く、無理なく配当。
  • 現状分析: データから見る限り、配当の持続性は極めて高い。
注意: 本分析は情報提供のみ。投資は自己判断・自己責任で。過去実績は将来を保証しません。

1. JPMの「稼ぐ力」:PPNR(貸倒引当前純営業収益)の重要性

JPMは非常に安定して利益を出しています。銀行の配当余力を評価する上で特に重要なのは、貸倒引当金控除前の業務純益を示すPPNR(Pre-Provision Net Revenue)です。

銀行の営業キャッシュフローは、預金やトレーディング資産の大きな変動により年度ごとの振れが大きく、安定的な収益力を測る指標としては適していません。そのため本記事では、より経常的な収益力を示すPPNRおよび純利益を重視します。
純利益・総収入・PPNRサマリー(単位:M$)

                     

年度 総収入* PPNR** 純利益 備考
2012 97,031 N/A 21,300
2013 97,367 N/A 17,923
2014 95,112 N/A 21,745
2015 93,543 N/A 24,442
2016 96,569 N/A 24,733
2017 100,705 N/A 24,441
2018 108,783 N/A 32,474 税制改革効果
2019 115,720 N/A 36,431
2020 119,951 N/A 29,100 COVID-19影響
2021 121,649 50,306 46,503 引当金戻入益
2022 128,695 52,555 37,700
2023 158,104 70,932 49,600
2024 180,600 86,579 56,868 過去最高益

            *総収入 = 純金利収入 + 非利息収入(マネージドベース)。報告ベースの2024年総収入は約$177.6Bです。
**PPNR = 貸倒引当前純営業収益。2021-2023年はJPM年次報告書記載のPre-provision profit。2024年は純営業収益から非金利費用を差し引いた計算値(報告ベース)。2012-2020年のPPNRはN/A(データ非参照)。
       

       

この表からわかること: JPMはコロナ禍の2020年を除き、毎年着実に純利益を増やしています(2021年の純利益は$465億ドル)。特に2023年、2024年は大きく成長。2024年のPPNR(貸倒引当前純営業収益)は計算値で約866億ドルに達し、高い本源的収益力を示しています。多様な金融サービスにより、景気や金利変動に強い体質です。この潤沢なPPNRが、配当の安定した原資の一つとなっています。


2. 1株当たり利益と会社の稼ぐ力

1株当たり指標と収益性比率
年度 EPS ROA ROE ROTCE*
2015 $6.00 0.92% 10% 13%
2016 $6.19 0.92% 10% 12%
2017 $6.31 0.88% 9% 12%
2018 $9.00 1.18% 13% 17%
2019 $10.72 1.27% 15% 19%
2020 $8.88 0.84% 11% 14%
2021 $15.36 1.25% 16% 20%
2022 $12.09 0.94% 13% 17%
2023 $16.23 1.24% 15% 19%
2024 $19.79 1.38% 18% 22%

*ROTCE = 純利益 ÷ 平均有形普通株主資本(のれん・無形資産を除く)

指標の計算方法と意味

ROA(総資産利益率):会社の全ての資産をどれだけ効率よく使って利益を出しているかを示す。

ROA = 純利益 ÷ 総資産 × 100

ROTCE:ROEから無形資産を除いた、より実質的な資本効率を示す銀行業界で重視される指標。

ROTCE = 純利益 ÷ 有形普通株主資本 × 100

この表からわかること:
EPS(1株あたり利益)は2024年には$19.79と大きく伸びています。特に注目すべきはROTCEで、2024年には22%という高い数字を達成しており、これは銀行業界の中でもトップクラスの効率の良さを示しています。JPMがいかに収益力の高いビジネスを回しているかが分かります。


3. 株主還元(配当と自社株買い)

JPMは株主還元(配当と自社株買い)をとても大切にしています。以下の表は、JPMが毎年どれくらい配当を出し、自社株買いをしているかを示しています。

配当性向の推移と安定性

配当実績と配当性向(2015-2024年)
年度 配当性向 EPS 配当/株 増配率(%) 備考
2015 28.7% $6.00 $1.72 +10.3
2016 29.7% $6.19 $1.84 +7.0
2017 32.3% $6.31 $2.04 +10.9
2018 27.6% $9.00 $2.48 +21.6 税制改革効果
2019 30.8% $10.72 $3.30 +33.1
2020 40.5% $8.88 $3.60 +9.1 COVID-19影響
2021 24.1% $15.36 $3.70 +2.8 引当金戻入益
2022 33.1% $12.09 $4.00 +8.1
2023 24.9% $16.23 $4.05 +1.3
2024 23.2% $19.79 $4.60 +13.6 Visa株売却益影響含む

配当性向の計算式:配当性向 = (年間配当/株 ÷ EPS)× 100
重要な観察点:
・10年平均配当性向:約29.6%(非常に保守的)
・配当性向の標準偏差:約4.7%(安定性が高い)
・COVID-19期間中も減配なし(稀有な実績)
・2024年の配当性向23.2%は非常に健全な水準

この表からわかること:
配当/株はほぼ毎年着実に増えています。2020年のコロナ禍でも減配しなかったのは、JPMの配当への強いコミットメントと財務的余裕の証です。
配当性向(稼いだ利益のうち配当に回す割合)は2024年で23.2%と非常に低い水準。これは利益の大部分を内部留保や再投資に回せるため、今後も安定的に配当を増やし続ける体力があることを意味します。一般的に50%以下であれば健全とされます。

総還元性向と資本配分戦略

総株主還元実績(配当+自社株買い)(単位:M$)
年度 総還元性向 純利益 配当総額 自社株買い 総還元額
2015 52.0% 24,442 6,104 6,617 12,721
2016 60.9% 24,733 6,754 8,296 15,050
2017 78.7% 24,441 7,398 11,826 19,224
2018 91.6% 32,474 9,089 20,669 29,758
2019 93.0% 36,431 11,008 22,879 33,887
2020 46.2% 29,100 11,826 1,619* 13,445
2021 43.4% 46,503 11,764 9,181 20,945
2022 59.4% 37,700 12,223 10,171 22,394
2023 53.2% 49,600 12,491 13,914 26,405
2024 49.8% 56,868 13,218 15,101 28,319

*2020年:FRB規制により第2-3四半期の自社株買い停止。第4四半期に一部再開。
※2024年の配当総額、自社株買い、総還元額は、2024年実績純利益と総還元性向49.8%に基づき再計算した推定値です。

この表からわかること:
JPMは、配当だけでなく自社株買いも積極的に行っています。自社株買いは発行済み株式数を減らし、1株あたりの利益や配当を増やす効果があります。配当と自社株買いを合わせた「総還元性向」は、約50%前後で推移しており、稼いだ利益の半分近くを株主に還元していることが分かります。2020年に自社株買いが一時的に制限された時期を除けば、非常に株主還元に積極的な姿勢がうかがえます。


4. 会社の体力(健全性)は大丈夫?

指標 2020年 2022年 2024年末 規制要求* 超過幅
CET1比率 13.6% 13.2% 15.7% 10.9% +4.8pp
Tier 1資本比率 14.9% 14.9% 16.8% 12.4% +4.4pp
総資本比率 16.8% 16.8% 18.5% 14.4% +4.1pp
SLR 6.1% 5.6% 6.1% 5.0% +1.1pp
*G-SIBバッファー(JPMの場合は2.5%)およびストレス資本バッファー(SCB、2024年JPMの場合は3.9%)を含む。規制要求は変動する可能性があります。2024年末の数値はJPMの公式発表に基づきます。最新のCET1比率は2025年第1四半期末時点で15.4%です。

規制資本比率の用語解説

CET1比率(普通株等Tier1比率):銀行の最も質の高い自己資本(普通株式による資本金など)が、リスクのある資産に対してどの程度あるかを示す最重要指標。

Tier 1資本比率:CET1資本に加えて、その他のTier1資本(優先株など)も含めた、基本的な自己資本の比率。CET1比率よりも少し広い概念。

総資本比率:Tier1資本にTier2資本(劣後債など)も加えた、銀行の全ての自己資本の比率。最も広い概念の自己資本比率。

SLR(レバレッジ比率):Tier1資本を総エクスポージャー(総資産+オフバランス項目)で割った比率。リスクを考慮しない単純な資本の厚さを示す。

5. キャッシュフローと流動性の安定性

JPMがどれだけ潤沢な現金を確保し、すぐに使えるお金を持っているかを示す指標が以下の表です。

指標 2022年 2023年 2024年 規制要求
LCR 112% 113% 113% 100%
NSFR 118% 121% 124% 100%
HQLA $679B $799B $834B

この表からわかること:
LCR(流動性カバレッジ比率)とNSFR(安定調達比率)は、銀行が短期・長期的にどれだけ現金やそれに準ずる資産(すぐに現金化できる資産)を持っているかを示します。どちらも国の定める最低基準(100%)を大きく上回っており、JPMが潤沢な現金を確保していることが分かります。
HQLA(高品質流動資産)は、国債など換金しやすい質の高い資産のことで、2024年末には約8340億ドルを保有しています。これは、万が一の時に資金繰りに困らないための、会社の「貯金」が豊富にあることを意味します。


6. 与信リスクと金利感応度

銀行にとってのリスクの一つが、貸したお金が返ってこなくなる「信用リスク」です。JPMがこのリスクをどう管理しているかを示す指標が以下の表です。

指標 2020年 2022年 2024年末
貸倒引当金費用* 29,100M$ 6,389M$ 10,678M$
総不良資産 (NPA) $9.3B
貸倒引当金/総貸付 (ALLL/Loans) 1.87%
*貸倒引当金費用(Provision for Credit Losses)。2020年はコロナ禍の影響で多額の引当金が計上されました。JPMは常に信用リスクを管理し、経済状況に応じて引当金を調整しています。

この表からわかること:
貸倒引当金費用は、貸し倒れに備えてどれくらいお金を積んでいるかを示す金額です。2024年は106億7800万ドルと、2022年と比較して増加しています。これは、景気見通しや貸出ポートフォリオの変化に応じて、慎重にリスクに備えていることを示唆しています。
JPMの2024年末時点での総不良資産 (NPA) は93億ドルでした。また、貸し倒れに備える引当金の厚みを示す貸倒引当金/総貸付 (ALLL/Loans) 比率は1.87% となっており、潜在的な損失に対して十分な備えをしていることがうかがえます。銀行は常に信用リスクを管理し、経済状況に応じて引当金を調整しています。
また、JPMは金利の変動による収益への影響も分析しており、金利が上がれば利益も増える構造(金利上昇に強い)になっています。


7. 投資家が注意すべきリスク

どんなに優れた企業でもリスクは存在します。JPMの場合、以下の点に注意が必要です。

  • 規制の強化: 今後、銀行に対する規制がさらに厳しくなり、自己資本をもっと積み立てるように求められる可能性があります。しかし、JPMはすでに十分な資本を持っており、対応できる見込みです。
  • 不動産市場の悪化: JPMは商業用不動産向けの融資も行っているため、もし不動産市場が大きく悪化すると、一部の損失が出る可能性があります。ただし、JPMは慎重に貸し倒れに備えるお金(引当金)を積んでいます。
  • 金利の変動: 金利が大きく変動すると、JPMの収益に影響が出る可能性があります。しかし、JPMは金利変動リスクを管理する体制を整えています。
  • 地政学的なリスク: 世界中でビジネスを展開しているため、国際的な紛争や経済問題が収益に影響する可能性があります。JPMは地域を分散してリスクを軽減しています。
  • 競合の激化: 最新技術を活用した新しい金融サービス(フィンテック)の企業との競争が激しくなっています。JPMは毎年120億ドル以上を技術開発に投資し、競争力を維持しようとしています。

8. 競合他行との比較分析

銀行 配当利回り 配当性向 ROTCE CET1比率 10年増配率
JPM 2.15% 23.2% 22.0% 15.7% 12.18%
Bank of America 2.8% 29.5% 15.2% 11.9% 11.2%
Wells Fargo 2.2% 28.4% 11.8% 11.4% 1.02%
Citigroup 2.97% 34.8% 7.9% 13.6% 3.8%

この表からわかること:
JPMは配当利回りこそ他の銀行と比べて突出して高いわけではありませんが、配当性向が低く(23.2%)、稼ぐ力(ROTCE 22.0%)と体力(CET1比率 2024年末時点15.7%)が圧倒的に高いことがわかります。これは、今後も安定的に配当を増やし続けられる可能性が高いことを意味します。特に10年間の平均増配率12.18%は、Wells Fargoの1.02%やCitigroupの3.8%と比較しても非常に優秀です。


9. 結論と投資判断

JPMorgan Chaseの配当は、「極めて高い持続性」があり、長期的な配当投資先として非常に魅力的です。

投資判断の根拠

定量的根拠(数字で見る強み):

  • 過去10年間の連続増配実績(年平均12.18%)
  • 無理のない配当性向(2024年実績で約23.2%)
  • 業界でトップクラスの稼ぐ力(ROTCE 2024年実績22.0%)
  • 国の規制を大幅に上回る強固な自己資本(CET1比率 15.7%)
  • 金利収入と手数料収入のバランスが良い、多角的な収益源

定性的根拠(数字以外の強み):

  • 米国最大の金融機関としての揺るぎない競争力
  • 優秀な経営陣と徹底したリスク管理体制
  • 積極的なテクノロジー投資による将来的な競争力の維持
  • 世界的な事業展開による収益機会の拡大

現状データからの見通し

現在の財務体質から判断される配当の持続性:

  • 低い配当性向(約23.2%)により、増配のための余力が十分にある
  • 強固な自己資本比率により、経済ショックにも耐えうる体力がある
  • 安定した収益基盤により、継続的な配当支払いが可能
  • 過去のクライシス(リーマンショック、コロナ禍)でも減配しなかった実績

投資家への参考意見:
長期保有を前提とした「買い」に適した銘柄です。特に、配当で得たお金でさらに株を買い増す「配当再投資戦略(DRIP)」との組み合わせが有効だと考えられます。

免責事項

本レポートは、公開情報に基づく分析であり、投資助言を構成するものではありません。投資判断は投資家自身の責任において行ってください。本レポートの作成にあたっては正確性を期していますが、その内容の正確性、完全性を保証するものではありません。

金融商品への投資は元本割れのリスクを伴います。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。為替変動リスク、流動性リスク、信用リスクなど、様々なリスクを十分に理解した上で投資判断を行ってください。

最終更新日: 2025年5月30日
次回更新予定: 2025年7月(2025年第2四半期決算発表後)

データ参照元 (一部例):

  • JPMorgan Chase & Co. SEC Filings (Annual Reports on Form 10-K, Quarterly Reports on Form 10-Q, Earnings Releases)
  • Macrotrends.net
  • Koyfin.com
  • その他、記事中で言及されている金融情報サイト



Posted by 南 一矢