LIN:リンデグループの配当推移

配当

リンデ(LIN)配当関連指標(利回りや成長率、配当性向等の分析)

リンデ(Linde plc)は、30年連続で配当を増やし続ける「配当貴族」銘柄です。2018年にドイツのリンデとアメリカのプラクセア(Praxair)が合併して成立した世界最大の産業ガス企業として、その卓越した配当実績を支える同社の財務指標の推移をMacroTrends.comなどのデータを用いて詳細に検証します。

まず、配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみましょう。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

(この株価データはグーグルファイナンス関数から取得。直近の配当関連情報はStockprice.comを参照)

データソースの制約について

**重要な注意事項**:MacroTrends.comでは、年次の詳細な配当データ(配当利回り、配当成長率、配当性向の年次推移)が表形式で直接提供されていません。MacroTrendsでは四半期ごとの配当支払額や直近の配当利回りは確認できますが、年次で集計された詳細な配当成長の歴史データは提供されていません。

そのため、30年連続増配などの具体的な配当成長実績については、MacroTrends以外の複数のソース(株式情報サイト、投資分析プラットフォーム等)を参照して確認しています。本記事では、MacroTrendsで確認可能な財務データ(EPS、売上、営業CF、バランスシート等)を中心に、配当支払能力の分析等を行っています。

配当成長の実績(複数ソース統合分析)

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)の推移について、MacroTrendsとそれ以外の信頼できる配当専門サイトのデータを統合して分析します。

配当データ* 平均株価** 年EPS**
平均利回り 成長率 配当性向 年間配当
2025 1.31% 5% 33% 6.00 458.00 17.93
2024 1.30% 7% 41% 5.56 427.20 13.62
2023 1.25% 8% 40% 5.20 356.80 12.59
2022 1.45% 9% 58% 4.80 284.60 8.23
2021 1.60% 11% 60% 4.40 275.20 7.33
2020 2.20% 10% 84% 4.00 182.40 4.71
2019 2.15% 7% 86% 3.64 169.30 4.19
2018 2.45% 26% 3.40 138.80 13.11

* 配当データは複数の投資情報サイトから統合
** EPSと平均株価はMacroTrends.comより
注:2018年は合併年のため特殊な数値

連続増配年数
30年
配当成長率(平均)
8%
2025年配当性向
33%
2025年配当
$6.00

堅実な配当成長の実績

リンデ(LIN)は、産業ガス業界のグローバルリーダーとして、**30年連続で配当を増額し続けている「配当貴族」**の地位を確立しています。2018年の合併後、一株配当は年平均約8%の成長を維持し、2025年には6.00ドルに達する見込みです。

産業ガス事業の安定性と高い参入障壁、顧客との長期契約による収益の予測可能性が、この継続的な配当成長を支えています。リーマンショック(2008年)やCOVID-19パンデミック(2020年)においても一度も減配することなく、エッセンシャルな事業特性による優れた景気耐性を示しています。

財務パフォーマンスと成長見通し

主要財務指標の推移

以下の表では、売上高、営業CF、純利益をM$(百万ドル)単位、営業CFマージンは%単位で表示しています。

年度 売上高 (M$) 営業CF (M$) 同マージン (%) 純利益 (M$)
2024 33,005 9,423 28.5 6,565
2023 32,854 9,305 28.3 6,199
2022 33,364 8,864 26.6 4,147
2021 30,793 9,725 31.6 3,823
2020 27,243 7,429 27.3 2,366
2019 28,228 6,119 21.7 2,446
2018 14,836 3,654 24.6 8,259
2017 11,358 3,041 26.8 1,764
2016 10,534 2,789 26.5 1,963
2015 10,776 2,695 25.0 1,958

配当支払能力の分析

営業キャッシュフローによる配当カバー分析

リンデの配当支払能力は極めて堅固です。2024年の営業キャッシュフローは94億ドルで、配当支払額約29億ドルを大幅に上回っています。これは**約3.3倍の配当カバー比率**を意味し、配当の持続可能性を強く示しています。

配当支払余力の推移(2015年以降)

以下の表では、営業CF、年間配当支払額をM$(百万ドル)単位、配当カバー比率を倍数で表示しています。

年度 営業CF (M$) 年間配当支払額 (M$) 配当カバー比率
2024 9,423 2,868 3.3
2023 9,305 2,581 3.6
2022 8,864 2,387 3.7
2021 9,725 2,188 4.4
2020 7,429 1,988 3.7
2019 6,119 1,810 3.4
2018 3,654 1,692 2.2
2017 3,041 1,580 1.9
2016 2,789 1,470 1.9
2015 2,695 1,365 2.0

配当支払余力の分析結果:

  • **強固なカバー比率**:過去10年間で1.9〜4.4倍を維持し、常に配当を十分にカバー
  • **合併効果**:2018年の合併により配当支払余力が大幅に改善
  • **景気耐性**:2020年パンデミック時も3.7倍の余力を維持し、強固な事業基盤を証明
  • **持続可能性**:営業CF成長により配当増額余地は十分に確保

強固なキャッシュフロー創出力と資金配分戦略

以下の表では、営業CF、フリーキャッシュフロー(FCF)をM$(百万ドル)単位、営業CF成長率を%単位で表示しています。

年度 営業CF (M$) 成長率 (%) フリーCF (M$) FCF成長率 (%)
2024 9,423 1.3 5,800 5.1
2023 9,305 5.0 5,518 -3.0
2022 8,864 -8.9 5,691 -14.3
2021 9,725 30.9 6,634 35.2
2020 7,429 21.4 4,906 15.8
2019 6,119 67.5 4,237 78.2
2018 3,654 20.2 2,377 25.4
2017 3,041 9.0 1,895 8.7
2016 2,789 3.5 1,743 5.2
2015 2,695 1,656

キャッシュフロー分析のポイント

**営業キャッシュフロー**:

  • **合併効果**:2018年の合併により営業CFが大幅に拡大、90億ドル超の安定水準を確立
  • **高い利益率**:営業CFマージンは25-30%の高水準を維持
  • **景気耐性**:2020年パンデミック時も70億ドル超を維持し、事業の必需性を証明
  • **成長性**:2021年以降は年間90億ドル超の安定創出

**フリーキャッシュフロー**:

  • **堅実な創出**:年間50-60億ドルの安定したフリーCF創出
  • **適切な投資**:設備投資と成長投資のバランスを維持
  • **株主還元の原資**:配当とシェアバイバックの原資を十分に確保
  • **成長投資余力**:水素・持続可能エネルギー分野への戦略投資が可能

バランスシート分析と財務健全性評価

以下の表では、総資産、株主資本をM$(百万ドル)単位、自己資本率およびROEを%単位で表示しています。

年度 総資産 (M$) 株主資本 (M$) 自己資本率 (%) ROE (%) 負債比率 (%)
2024 80,147 39,475 49.3 16.6 103
2023 80,811 41,082 50.8 15.1 97
2022 79,658 41,374 52.0 10.0 93
2021 81,605 45,428 55.7 8.4 80
2020 88,229 49,569 56.2 4.8 78
2019 86,612 51,522 59.5 4.7 68
2018 93,386 57,080 61.1 14.5 64
2017 20,436 6,511 31.9 27.1 214
2016 19,332 5,441 28.1 36.1 255
2015 18,319 4,793 26.2 40.9 282

バランスシート分析の重要な観点

**自己資本率の推移と戦略的意味**:

  • **合併効果**:2018年の合併により自己資本率が大幅に改善(26.2%→61.1%)
  • **堅実な財務体質**:合併後50%超の高い自己資本率を維持
  • **業界トップクラス**:産業ガス業界では40%台が一般的な中、リンデは50%超の優良水準
  • **財務安定性**:高い自己資本率により景気変動に対する耐性を確保

**ROE(自己資本利益率)の特徴**:

  • **適正な収益性**:10-17%の健全なROE水準を維持
  • **合併統合効果**:2018年の一時的な高ROE後、適正水準に安定化
  • **持続可能性**:過度なレバレッジに依存しない健全な収益構造
  • **長期成長志向**:短期的な収益性よりも長期的な成長基盤を重視

総合評価

リンデの財務戦略は**「保守的かつ持続可能な成長志向」**と評価できます。高い自己資本率による財務安定性と、適正なROEレベルによる株主価値創造のバランスが取れています。産業ガス事業の特性を活かした安定的なキャッシュフロー創出により、長期的な配当成長の持続が期待できる財務体質を構築しています。

配当重視投資家にとっての投資価値

インカム投資家への魅力:

  1. **優れた配当履歴**:30年連続増配という長期実績
  2. **安定した配当成長**:年8%前後の持続的な配当成長パターン
  3. **必需性の高い事業**:産業ガスの高い参入障壁と安定需要
  4. **景気耐性**:景気変動に強い事業モデルによる配当安定性
  5. **グローバル独占的地位**:世界最大の産業ガス企業としての競争優位

配当投資戦略における位置づけ

コア銘柄として最適

  • **ポートフォリオの中核**:安定した配当収入の基盤となる
  • **リスク分散効果**:景気変動や金利変動に対する耐性によりポートフォリオを安定化
  • **購買力の維持**:継続的な配当成長により実質的な購買力を維持
  • **長期保有適性**:「バイ・アンド・ホールド」戦略に最適
  • **ESG投資適性**:持続可能な産業ガス事業とクリーンエネルギー戦略

投資リスクと対策

主要リスク要因:

  1. **金利上昇リスク**:高配当株として金利感応度が高い
  2. **産業需要変動**:製造業の生産変動による需要減少リスク
  3. **エネルギー転換リスク**:脱炭素化による従来事業への影響
  4. **為替リスク**:グローバル事業展開による為替変動影響
  5. **競合激化リスク**:アジア新興国での価格競争激化
  6. **高株価水準**:現在の株価水準は割高との評価もある

リスク軽減策:

  • **分散投資**:単一銘柄への過度な集中を避ける
  • **定期積立**:ドルコスト平均法による購入価格の平準化
  • **配当再投資**:配当を再投資して複利効果を最大化
  • **長期視点**:短期的な株価変動に惑わされない投資姿勢
  • **バリュエーション監視**:適切な購入タイミングの見極め
  • **セクター分散**:他業種との組み合わせによるリスク分散

まとめ:配当投資家にとってのリンデ

リンデは、**30年連続増配という優れた実績**、**強固なキャッシュフロー創出能力**、**年8%前後の配当成長実績**を兼ね備えた、配当重視投資家にとって検討価値の高い投資対象です。

産業ガス事業の高い参入障壁と安定需要、世界最大企業としての競争優位性、水素・クリーンエネルギー分野への戦略展開により、長期的な配当成長の継続が期待できます。一方で、現在の株価水準や金利感応度など、投資家が注意すべきリスク要因も存在します。

投資判断のポイント

配当投資家にとって、リンデは**「品質と成長性を両立する配当貴族銘柄」**として、ポートフォリオの中核に位置づけることを検討できる銘柄です。ただし、バリュエーションの監視と適切な購入タイミングの見極めが重要であり、長期保有を前提とした戦略的投資が推奨されます。

**免責事項**
本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

Posted by 南 一矢