LLY:イーライリリーの配当推移

配当

イーライリリー・アンド・カンパニー(Eli Lilly and Company)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを図る指標)等も確認してみます。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

年間利回り、配当成長率、配当性向、EPS等

年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)、平均株価、通年EPSの推移を確認してみます。

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配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計
2024 0.64% 15% 44% 5.2 810.9 11.71
2023 0.97% 15% 78% 4.52 464.6 5.8
2022 1.27% 15% 57% 3.92 307.5 6.9
2021 1.51% 15% 56% 3.4 224.6 6.12
2020 1.99% 15% 44% 2.96 148.8 6.79
2019 2.21% 15% 29% 2.58 116.6 8.89
2018 2.40% 8% 72% 2.25 93.6 3.13
2017 2.53% 2% -1095% 2.08 82.2 -0.19
2016 2.67% 2% 79% 2.04 76.4 2.58
2015 2.54% 2% 88% 2 78.8 2.26
2014 3.18% 0% 88% 1.96 61.6 2.23
2013 3.72% 0% 45% 1.96 52.7 4.32
2012 4.50% 0% 54% 1.96 43.6 3.66
2011 5.33% 0% 50% 1.96 36.8 3.9
2010 5.57% 0% 43% 1.96 35.2 4.58
2009 5.71% 4% 50% 1.96 34.3 3.94
2008 4.12% 11% -99% 1.88 45.6 -1.89

【出典】

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堅調な配当成長の実績

イーライリリー(LLY)の配当実績は、製薬業界のリーダーとしての安定した成長を反映しています。同社は2008年から2024年にかけて、一貫した配当政策を維持し、特に2019年以降は年率15%という力強い配当成長を実現しています。2008年の1株当たり1.88ドルから2024年には5.20ドルへと、16年間で約2.8倍の成長を遂げました。製薬業界特有の長期的な研究開発投資と特許切れリスクを抱えながらも、継続的な新薬開発と市場投入により、安定した配当成長を維持している点が注目されます。

配当成長率の推移

LLYの配当成長率は、段階的な加速を示しています:

  • 2008〜2009年:初期成長期(11%、4%)で安定したスタート
  • 2010〜2014年:維持期(0%)で配当据え置きを5年間継続
  • 2015〜2018年:緩やかな再開期(2%、2%、2%、8%)で慎重な成長再開
  • 2019〜2024年:力強い成長期(15%)で6年連続の高成長率を維持

このパターンは、製薬会社特有の長期投資サイクルと新薬承認プロセスを反映しています。2010年代前半の配当据え置き期間は、重要な新薬開発への投資集中期間と考えられ、その後の研究開発成果が2019年以降の力強い配当成長につながっています。特に注目すべきは、COVID-19パンデミック期間中も15%の配当成長を維持し、2023年から2024年にかけても同様の成長率を継続している点です。これは糖尿病治療薬(インクレチン関連薬)や肥満治療薬などの主力製品の好調な売上により支えられています。

配当利回りの魅力

LLYの配当利回りは、株価上昇に伴い相対的に低下していますが、成長株としては安定した水準を維持しています。2024年現在の利回りは約1.2%程度と、公益事業株と比較すると低めですが、以下の特徴があります:

  • 株価の大幅上昇(2020年以降特に顕著)により表面的な利回りは低下
  • 配当成長率15%が継続すれば、取得価格ベースでの実質利回りは年々向上
  • 製薬株としては安定した配当政策を維持

高い配当利回りを求める投資家には物足りないかもしれませんが、配当成長投資の観点では魅力的です。特に、新薬パイプラインの充実と主力製品の市場拡大により、今後も持続的な配当成長が期待できる環境にあります。投資家は配当利回りよりも、長期的な配当成長による複利効果に注目すべきでしょう。

注目ポイント:LLYは「配当成長株」の典型例であり、連続増配よりも持続的な成長に焦点を当てた配当政策を採用しています。同社は研究開発投資を最優先としながらも、2019年以降は株主還元も重視する姿勢を明確にしており、配当と自社株買いの組み合わせによる総還元戦略を展開しています。これにより、新薬開発の成功に応じた柔軟な株主還元が可能となっています。

配当性向の持続可能性

配当性向は「1株配当 ÷ EPS」で計算される指標ですが、LLYの場合、この指標は研究開発の特性と新薬承認サイクルにより変動します。2017年に一時的にマイナスのEPS(-0.19ドル)を記録した際には配当性向が-1095%となりましたが、これは一時的な特別損失によるものです。近年の配当性向は以下の通りです:

  • 2020年:44%(健全な水準)
  • 2021年:56%(適正な水準)
  • 2022年:57%(安定した水準)
  • 2023年:78%(やや高めだが許容範囲)
  • 2024年:44%(収益改善により大幅低下)

配当持続性の評価:2024年の配当性向44%への改善は、主力製品の好調な売上とEPSの大幅改善(5.80ドルから11.71ドルへ)によるものです。これは以下の要因によります:

  • 糖尿病・肥満治療薬(セマグルタイド系統薬)の市場拡大
  • がん治療薬ポートフォリオの充実と売上貢献
  • 研究開発投資の効率化とパイプライン管理の最適化
  • 製造効率の改善とコスト削減効果

製薬業界特有の考慮点:製薬会社の収益は以下の理由で変動します:

  • 新薬承認と市場投入のタイミング:規制当局の承認プロセスによる収益計上の変動
  • 特許切れによる後発薬競争:主力製品の独占期間終了に伴う売上減少
  • 研究開発費の変動:大型臨床試験や買収に伴う一時的な費用増加
  • 為替変動:グローバル展開する製薬会社は為替の影響を受ける
  • 規制変更:薬価政策や承認基準の変更による影響

これらの要因により、単年度の配当性向だけでは判断が困難ですが、LLYの強固なキャッシュフロー基盤(2024年の営業CF:8,818百万ドル)は配当支払いを十分にカバーしており、中長期的な配当持続性は高いと評価できます。

財務パフォーマンスと成長見通し

以下の表では、売上高、営業CF、純利益はM$(百万ドル)単位、営業CFマージン(表記は同マージン)は%単位で表示しています。

主要財務指標の推移

年度 売上高 営業CF 同マージン 純利益
2008 20,372 7,296 36 -2,072
2009 21,836 4,336 20 4,329
2010 23,076 6,857 30 5,070
2011 24,287 7,235 30 4,348
2012 22,603 5,305 23 4,089
2013 23,113 5,735 25 4,685
2014 19,616 4,458 23 2,391
2015 21,222 4,851 23 2,738
2016 21,222 4,851 23 2,738
2017 19,974 5,616 28 -204
2018 21,493 5,525 26 3,232
2019 22,320 4,837 22 8,318
2020 24,540 6,500 26 6,194
2021 28,318 7,366 26 5,582
2022 28,541 7,586 27 6,245
2023 34,124 4,240 12 5,240
2024 45,043 8,818 20 10,590

収益性と効率性の向上

LLYの財務データからは、製薬会社としての着実な成長と、近年の急速な拡大が見て取れます:

  • 売上高は2023年から2024年にかけて32%の大幅成長(34,124M$から45,043M$へ)
  • 営業CFマージンは2023年の一時的低下(12%)から2024年には20%へと回復
  • 純利益は2024年に過去最高の10,590M$を記録、前年比102%増
  • 2020年以降の継続的な成長により、売上高は4年間で約1.8倍に拡大

特に注目すべきは、2023年から2024年にかけての劇的な業績改善です。これは主に以下の要因によるものと考えられます:

  • 糖尿病治療薬(Mounjaro/tirzepatide)の市場浸透加速
  • 肥満治療薬市場での先行優位性の確立
  • 既存のがん治療薬ポートフォリオの安定した成長
  • 研究開発の効率化による収益性改善

2023年の営業CFマージン低下(12%)は一時的な研究開発投資の集中や新製品立ち上げコストによるものと推測され、2024年の20%への回復は投資効果の現れと評価できます。

強固なキャッシュフロー基盤

以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFはM$(百万ドル)単位、営業CF成長率(表記は「成長率」)は%単位で表示しています。

年度 営業CF 成長率 投資CF 財務CF
2008 7,296 42 -7,269 2,346
2009 4,336 -41 143 -5,534
2010 6,857 58 -3,160 -2,022
2011 7,235 6 -4,824 -2,370
2012 5,305 -27 -2,833 -4,420
2013 5,735 8 -2,073 -3,829
2014 4,458 -22 -3,909 -166
2015 2,965 -33 27 -3,111
2016 4,851 64 -3,139 -560
2017 5,616 16 -3,784 143
2018 5,525 -2 1,906 -5,905
2019 4,837 -12 -8,083 -2,325
2020 6,500 34 -2,259 -3,137
2021 7,366 13 -2,868 -4,131
2022 7,586 3 -3,763 -5,407
2023 4,240 -44 -7,153 3,496
2024 8,818 108 -9,302 1,230

LLYのキャッシュフロー分析から、製薬会社としての健全な資本配分が確認できます:

  • 2024年の営業CF(8,818M$)は過去最高を更新し、前年比108%の大幅成長
  • 投資CFは継続的にマイナスで、積極的な研究開発と設備投資を継続
  • 2023-2024年の大幅な投資CF(-7,153M$、-9,302M$)は将来成長への戦略投資
  • 財務CFは配当支払いと自社株買いによる株主還元を反映

特に注目すべき点:

  • 2019年の投資CF(-8,083M$)は大型買収や研究開発投資の集中期
  • 2020年以降の営業CFの安定した成長(6,500M$→7,366M$→7,586M$)
  • 2023年の営業CF一時減少(4,240M$)後の2024年急回復(8,818M$)
  • 継続的な研究開発投資により将来の成長基盤を構築

キャッシュフロー分析のポイント:LLYのキャッシュフローパターンは、「投資→開発→収穫」の製薬業界特有のサイクルを反映しています。2019年と2023-2024年の大型投資期は、新薬パイプラインの拡充と製造能力の増強に向けたものと考えられ、これらの投資が将来の収益成長と配当増加の原動力となることが期待されます。営業CFの力強い回復(2024年:108%成長)は、これらの投資効果が早期に現れ始めていることを示しています。

負債水準と資本構成

以下の表では、総資産、総負債、株主資本はM$(百万ドル)単位、自己資本率は%単位で表示しています。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 負債比率
2008 29,213 22,475 6,735 23 334
2009 27,461 17,936 9,524 35 188
2010 31,001 18,589 12,413 40 150
2011 33,660 20,124 13,536 40 149
2012 34,399 19,625 14,765 43 133
2013 35,249 17,608 17,631 50 100
2014 36,308 20,920 15,373 42 136
2015 35,569 20,979 14,571 41 144
2016 38,806 24,725 14,008 36 177
2017 44,981 33,313 11,592 26 287
2018 43,908 32,999 9,829 22 336
2019 39,286 36,587 2,607 7 1403
2020 46,633 40,808 5,642 12 723
2021 48,806 39,651 9,155 19 433
2022 49,490 38,714 10,775 22 359
2023 64,006 53,143 10,864 17 489
2024 78,715 64,443 14,272 18 452

LLYの資本構成には、製薬業界特有の投資サイクルと成長段階を反映した変動が見られます:

  • 2013年にピークを記録した自己資本率(50%)から、2019年には7%まで低下
  • 2019年の異常な負債比率(1403%)は大型買収や研究開発投資の集中による一時的現象
  • 2020年以降は徐々に改善し、2024年には自己資本率18%、負債比率452%
  • 総資産は2023-2024年で大幅拡大(64,006M$→78,715M$)

資本構成の変化要因:

  • 2017-2019年:大型買収(特にがん治療薬関連企業の買収)による負債増加
  • 2019年:一時的な会計処理による株主資本の大幅減少
  • 2020-2022年:業績回復と収益改善による株主資本の段階的回復
  • 2023-2024年:事業拡大に伴う資産増加と適度な負債活用

現在の負債比率452%は製薬業界としては高めですが、以下の理由により持続可能と考えられます:

  • 強固な営業キャッシュフロー生成能力(2024年:8,818M$)
  • 主力製品の特許保護期間中の安定した収益基盤
  • 充実した新薬パイプラインによる将来成長の確実性
  • 製薬業界の高い参入障壁と収益性

まとめ:長期配当投資家にとってのLLYとは?

イーライリリー(LLY)は、製薬業界のリーダーとして持続的な成長と株主還元を両立させている魅力的な配当成長株です。同社は研究開発を最優先としながらも、2019年以降は年率15%という力強い配当成長を実現しており、長期配当投資家にとって注目すべき選択肢となっています。

同社の強みは以下の点にあります:

  • 6年連続15%の安定した配当成長率(2019-2024年)
  • 糖尿病・肥満治療薬市場での圧倒的な競合優位性
  • 強固な営業キャッシュフロー生成能力(2024年:8,818M$、過去最高)
  • 充実した新薬パイプラインによる将来成長の確実性
  • がん治療薬、自己免疫疾患治療薬での多角化された収益基盤
  • 製薬業界特有の高い参入障壁と特許保護による収益の持続性
  • グローバル市場での確固たる地位と販売網

一方で、注意すべき点としては:

  • 相対的に低い配当利回り(約1.2%)による即座の収益性の限界
  • 高い負債比率(452%)による財務リスク
  • 特許切れリスク:主力製品の独占期間終了による将来の売上減少可能性
  • 規制リスク:薬価政策や承認基準の変更による収益への影響
  • 研究開発の不確実性:新薬開発の失敗や遅延による成長計画への影響
  • 競争激化リスク:バイオテクノロジー企業や他の製薬大手との競争
  • 為替リスク:グローバル展開に伴う為替変動の影響
  • 市場集中リスク:糖尿病・肥満治療薬への依存度の高さ

投資家へのポイント:LLYへの投資は、「持続的配当成長」を重視する長期投資家に適しています。同社は高い配当利回りよりも、継続的な配当増加による複利効果を提供する戦略を採用しています。現在の15%配当成長率が維持されれば、取得価格ベースでの実質利回りは年々向上し、長期保有による恩恵は大きくなります。ただし、製薬業界特有の不確実性(特許切れ、規制変更、開発失敗)を理解し、ポートフォリオの一部として適切に配分することが重要です。特に、2024年の業績急拡大は糖尿病・肥満治療薬の成功によるものであり、この成長が持続可能かどうかを継続的に評価する必要があります。

よくある質問

LLYの配当成長は持続可能ですか?

LLYの15%配当成長率は、現在の事業環境下では持続可能と考えられますが、永続的ではありません。同社の配当成長は主に糖尿病・肥満治療薬(Mounjaro/tirzepatide、Zepbound)の急速な市場浸透によって支えられています。これらの製品は今後数年間、市場拡大が続くと予想されますが、競合製品の登場や市場の成熟により、成長率は徐々に正常化すると考えられます。長期的には、新薬パイプラインの成功と既存製品の安定した成長により、5-10%程度の持続可能な配当成長が実現可能と予想されます。投資家は15%成長の永続性を過度に期待せず、段階的な成長率低下を織り込んだ投資計画を立てることが重要です。

高い負債比率(452%)は配当に影響しますか?

現在の負債比率452%は確かに高水準ですが、LLYの強固なキャッシュフロー生成能力(2024年営業CF:8,818M$)により、短期的な配当への直接的影響は限定的と考えられます。製薬会社は一般に高い収益性を持つため、他業界と比較して高い負債水準でも持続可能です。ただし、以下の条件が重要となります:(1)主力製品の売上が想定通り成長すること、(2)新薬開発が順調に進むこと、(3)金利環境が大幅に悪化しないこと。同社は2020年以降の業績改善期に負債削減よりも成長投資を優先してきましたが、今後は財務健全性の改善も重要な課題となるでしょう。負債比率が500%を超える場合、配当政策の見直しが必要になる可能性があります。

特許切れリスクはどの程度深刻ですか?

特許切れリスクは製薬会社にとって避けられない課題ですが、LLYは比較的良好な状況にあります。主力の糖尿病治療薬(tirzepatide)は2020年代後半まで特許保護が続く見込みで、肥満治療適応も追加されており、収益の持続期間が延長されています。また、同社は以下の対策により特許切れリスクを軽減しています:(1)充実した新薬パイプライン(アルツハイマー病治療薬、がん治療薬等)、(2)既存薬の新適応症開発による市場拡大、(3)バイオシミラー対策としての製剤改良と患者サポートプログラム。特に注目すべきは、アルツハイマー病治療薬donanemabの承認により、新たな成長ドライバーが加わったことです。ただし、2030年代には現在の主力製品の特許切れが本格化するため、それまでに新たな収益源を確立することが配当成長の継続には不可欠です。

糖尿病・肥満治療薬市場への依存は問題ではありませんか?

確かに、LLYの近年の急成長は糖尿病・肥満治療薬(GLP-1作動薬)への依存度が高く、この市場の動向が同社の業績に大きく影響します。現在、この市場は年率20-30%で成長しており、2030年まで高成長が続くと予想されていますが、以下のリスクも存在します:(1)Novo Nordisk(セマグルタイド)との激しい競争、(2)新規参入企業による競争激化、(3)薬価引き下げ圧力、(4)副作用や安全性に関する懸念。一方で、LLYは事業多角化も進めており、がん治療薬(22%成長)、自己免疫疾患治療薬(15%成長)、神経科学領域でも安定した成長を実現しています。長期的には、アルツハイマー病治療薬市場への参入により、さらなる収益源の多角化が期待されます。投資家としては、単一市場への過度な依存リスクを認識しつつ、同社の技術力と多角化戦略を評価することが重要です。

※本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。

【出典】

Posted by 南 一矢