VTIP・TIP(物価連動国債ETF)を比較:株価・配当・構成銘柄
インフレ(物価上昇)は、現金の価値だけでなく、通常の債券の価値も目減りさせてしまう厄介な存在です。この記事では、そんなインフレから資産を守るために開発された「米国の物価連動国債(TIPS)」に投資する代表的なETF、TIPとVTIPを比較します。
この2つのETFは、投資するTIPSの「期間」が異なり、それによってリスクとリターンの特性が大きく変わります。それぞれの仕組みと違いを理解し、ご自身のポートフォリオに最適なインフレヘッジ手段を見つけましょう。
(※ご注意:以下に記載するデュレーションや利回り、構成比率は常に変動します。投資を検討される際は、必ず公式サイトで最新の情報をご確認ください。)
【インフレ対策】物価連動国債ETF「TIP vs VTIP」を徹底比較!
そもそも物価連動国債(TIPS)とは?
今回、紹介する二つのETFの投資対象先となる「TIPS(Treasury Inflation-Protected Securities)」は、インフレに連動して価値が変動する特殊な国債です。基本的な仕組みは以下の通りです。
- インフレで元本が増える:消費者物価指数(CPI)の上昇率に合わせて、債券の元本が増額されます。
- 利息も増える:利息は、増額された後の元本に対して支払われるため、インフレ時には受け取る利息も増えます。
- デフレでも安心(元本保証):万が一デフレで物価が下落しても、満期時に受け取れる金額は、購入時の元本額が保証されています(米国債の場合)。
この仕組みにより、TIPSはインフレ局面で価値を維持・向上させることが期待できます。
主要ETF比較サマリー
それでは、TIPとVTIPの最も重要な違いを一覧で見てみましょう。「対象期間」と、それによって生じる「実効デュレーション」の差が最大のポイントです。
項目 | 【TIP】(全期間型) | 【VTIP】(短期型) |
---|---|---|
対象期間 | TIPS全般 (短期~長期) | 残存期間0-5年の短期TIPS |
実効デュレーション | 約7.0年 | 約2.5年 |
経費率 | 0.19% | 0.04% |
純資産総額 | 約250億ドル | 約200億ドル |
配当利回り(実質) | 約2.1% | 約2.0% |
(注:数値は2025年6月時点の参考値です。配当利回りは実質利回りを示します)
各ETFの詳細
【TIP】iシェアーズ 米国物価連動国債 ETF (iShares TIPS Bond ETF)
- 連動指数:ブルームバーグ米国物価連動国債(TIPS)指数
- 投資対象:短期から長期まで、あらゆる残存期間の米国物価連動国債(TIPS)に分散投資します。
- ポイント:TIPS市場全体をカバーする、このカテゴリで最も代表的なETFです。デュレーションが約7.0年と長めのため、金利上昇時には価格が下落しやすいというリスクがあります。一方で、金利が安定している状況では、VTIPより高い実質利回りが期待できます。
- 情報源:iシェアーズ TIP 公式サイト
【VTIP】バンガード・米国短期インフレ連動債 ETF (Vanguard Short-Term Inflation-Protected Securities ETF)
- 連動指数:ブルームバーグ米国物価連動国債(TIPS)0-5年指数
- 投資対象:残存期間が5年未満の短期TIPSに限定して投資します。
- ポイント:最大の特徴は、デュレーションが約2.5年と非常に短いことです。これにより、金利が上昇した際の価格下落リスクをTIPよりも大幅に抑えることができます。純粋にインフレヘッジ効果だけを狙いたい場合に適しています。経費率が極めて低い点も大きな魅力です。
- 情報源:Vanguard VTIP 公式サイト
投資のポイントと注意点
金利リスクとインフレヘッジ効果の綱引き
TIPSへの投資は、「インフレによる元本増加(プラス効果)」と「金利上昇による債券価格の下落(マイナス効果)」の綱引きです。もし、インフレと同時に金利も大きく上昇した場合、価格下落のマイナス効果がインフレのプラス効果を上回り、結果としてTIPSの価格が下落することもあります。この金利上昇リスクをどれだけ許容できるかが、TIPとVTIPを選ぶ上での重要な判断基準となります。
結局どちらを選ぶべきか?
- 金利上昇リスクを抑え、純粋なインフレヘッジをしたいなら → 【VTIP】
- 金利リスクをある程度許容し、より高い実質利回りを期待するなら → 【TIP】
ご自身の金利に対する見通しや、ポートフォリオ全体のリスクバランスを考えて選択することをお勧めします。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
株価:過去~現在
※チャート左目盛り:株価推移
※チャート右目盛り:緑線は米国10年国債利回り
※主要指標の単位 B:10億ドル、M:100万ドル。株価の成長率や前日比(前日始値~前日終値)、52週高値/安値のほか、総資産、配当利回り、経費率、権利落ち日などの情報を整理。リアルタイムは無理ですが株価は最大20分ディレイでフォロー。
配当(分配金)と利回り
年間累計の分配金(ドル)を株価で割った利回りの推移を見てみます。
(*ここでは特別配当(分配金)を含めて計算しているので、通常の定期的な配当だけで計算した時よりも利回りが高く計上されています)
VTIPの利回り
年 | 配当 | 株価 | |||
平均利回り | 年累計 | 年伸び率 | 平均株価 | 年伸び率 | |
2024 | 2.71% | 1.31 | -3.7% | 48.3 | 2.1% |
2023 | 2.88% | 1.36 | -57.1% | 47.3 | -5% |
2022 | 6.37% | 3.17 | 32.6% | 49.8 | -4.2% |
2021 | 4.6% | 2.39 | 298.3% | 52 | 3.8% |
2020 | 1.2% | 0.6 | -36.8% | 50.1 | 2.2% |
2019 | 1.94% | 0.95 | -18.1% | 49 | 0.8% |
2018 | 2.39% | 1.16 | 56.8% | 48.6 | -1.6% |
2017 | 1.5% | 0.74 | 100% | 49.4 | 0.6% |
2016 | 0.75% | 0.37 | – | 49.1 | 1.2% |
2015 | – | – | – | 48.5 | -2.2% |
2014 | 0.79% | 0.39 | 1850% | 49.6 | -0.2% |
2013 | 0.04% | 0.02 | -81.8% | 49.7 | -0.6% |
2012 | 0.22% | 0.11 | 0% | 50 | 0% |
TIPの利回り
年 | 配当 | 株価 | |||
平均利回り | 年累計 | 年伸び率 | 平均株価 | 年伸び率 | |
2024 | 2.5% | 2.69 | -8.5% | 107.5 | 0.6% |
2023 | 2.75% | 2.94 | -59.9% | 106.9 | -7.8% |
2022 | 6.33% | 7.34 | 33.7% | 116 | -9.3% |
2021 | 4.29% | 5.49 | 278.6% | 127.9 | 4.2% |
2020 | 1.18% | 1.45 | -27.1% | 122.8 | 7.4% |
2019 | 1.74% | 1.99 | -31.8% | 114.3 | 2.6% |
2018 | 2.62% | 2.92 | 26.4% | 111.4 | -2.2% |
2017 | 2.03% | 2.31 | 40% | 113.9 | -0.3% |
2016 | 1.44% | 1.65 | 358.3% | 114.2 | 1.9% |
2015 | 0.32% | 0.36 | -80.4% | 112.1 | -1.1% |
2014 | 1.62% | 1.84 | 49.6% | 113.3 | -1.9% |
2013 | 1.06% | 1.23 | -53.8% | 115.5 | -3.9% |
2012 | 2.21% | 2.66 | -44% | 120.2 | 7.1% |
2011 | 4.23% | 4.75 | 79.2% | 112.2 | 5.2% |
2010 | 2.48% | 2.65 | -33.6% | 106.7 | 5.1% |
2009 | 3.93% | 3.99 | -35.9% | 101.5 | -2.9% |
2008 | 5.95% | 6.22 | – | 104.5 | – |