LLY:イーライリリーの配当推移

ヘルスケア,配当

イーライリリー(LLY)配当投資分析(2025年11月更新)

イーライリリー(LLY)配当投資分析(2025年11月更新)

要旨:イーライリリーは糖尿病・肥満治療薬「Mounjaro/Zepbound」を軸に、2024通期売上約450億ドル(前年比+32%)・GAAP純利益約106億ドルまで急拡大し、2025年9月期TTMでは売上約594億ドル・純利益約184億ドルに達しています。[2]「配当を現金でどれだけカバーできるか」を、営業CF/フリーCF双方から年次で確認しつつ、バランスシート(資産・負債・自己資本)の推移も数表で整理します。

まず、イーライリリー(Eli Lilly and Company)の配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみます。

権利落ち日や配当性向(1株配当÷EPS、EPS比で配当を払い過ぎていないかを測る指標)等も確認してみます。2025年も四半期配当$1.50(年間$6.00見込み)が継続しており、2025年11月下旬時点の株価およそ$1,100に対する配当利回りは約0.5〜0.6%と非常に低水準です。[1]

ざっくりポイント:現在のLLYは「高成長×低利回り」の典型で、インカム狙いというより、肥満・糖尿病治療薬を軸にした長期成長と将来の増配余地に賭けるタイプの銘柄です。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

配当利回りと権利落ち・配当性向の確認

直近の利回り・権利落ち動向や、EPSベースの配当性向の推移は、Lilly IRおよび年次報告書(10-K)・四半期開示(10-Q)で確認可能です。また、長期の年次系列はStockAnalysisやMacrotrendsの時系列データ(EPS・株価・配当・CF等)で補完しています。2025年も四半期配当$1.50/株が継続しており(年換算$6.00)、2014年以降の11年連続増配が続いています。

年次:配当の推移(利回り・成長率・配当性向・年間配当・平均株価・EPS)

増配ピッチと「会計ベースの配当性向」の振れ幅を掴むための年次テーブル(2024年まで)。

配当 平均株価 年EPS
平均利回り 成長率 配当性向 年計($)
2024 0.71% 15% 44% 5.20 732.6 11.71
2023 0.97% 15% 78% 4.52 464.6 5.80
2022 1.27% 15% 57% 3.92 307.5 6.90
2021 1.51% 15% 56% 3.40 224.6 6.12
2020 1.99% 15% 44% 2.96 148.8 6.79
2019 2.21% 15% 29% 2.99 116.6 10.24
2018 2.40% 8% 72% 2.60 93.6 3.61
2017 2.53% 2% -1365% 2.40 82.2 -0.18
2016 2.67% 2% 79% 2.35 76.4 2.97
2015 2.54% 2% 88% 2.31 78.8 2.62
2014 3.18% 0% 88% 2.26 61.6 2.57
2013 3.72% 0% 45% 2.26 52.7 5.02
2012 4.50% 0% 54% 2.26 43.6 4.18
2011 5.33% 0% 50% 2.26 36.8 4.51
2010 5.57% 0% 43% 2.26 35.2 5.27
2009 5.71% 4% 50% 2.26 34.3 4.52
2008 4.12% 11% -119% 2.04 45.6 -1.71

※EPSはGAAPベース(希薄化後EPS、特別要因で大きく振れる年あり)。配当性向は「1株配当÷EPS」。このため配当安全性の評価では下記のCF対比を見るのが実務的です。2020年以降のEPS・配当額は2024通期決算までの実績値に更新済みです。


配当の持続可能性を測る:現金ベースのカバー比率

指標の読み方

  • 配当総額(現金支出):本来は「普通株主への現金配当支払額」(キャッシュフロー計算書の財務CF内の行)。年次10-Kで直近3年は厳密に確認できます。長期推移は、本文では年間DPS×希薄化後平均株式数概算も併用しています(注1)。
  • 営業CF対配当比率= 営業CF / 配当総額。中長期で1.5倍超が目安。
  • フリーCF対配当比率=(営業CF − CAPEX)/ 配当総額。投資(CAPEX)を控除した「残余現金」でどれだけ配当を賄えるか。

注1: DPS(1株当たり年間配当)はIRの配当履歴等、希薄化後平均株式数はMacrotrendsやStockAnalysisの"Shares Outstanding"系列を用いて概算しています。年内の発行株式数変動や支払時期のずれにより、実際の現金配当支出額と数%の差が出る場合があります(会社開示が最優先)。

年次:配当総額(概算)とカバー比率

単位は百万ドル(M$)。カバー比率は小数2桁で表記。CFO/配当 & FCF/配当の両方を掲示。

配当総額(概算) 営業CF CAPEX(概算) フリーCF(概算) 営業CF/配当 FCF/配当
2008 2,263 7,296 1,100 6,196 3.22 2.74
2009 2,504 4,336 1,200 3,136 1.73 1.25
2010 2,504 6,857 1,200 5,657 2.74 2.26
2011 2,504 7,235 1,100 6,135 2.89 2.45
2012 2,504 5,305 900 4,405 2.12 1.76
2013 2,431 5,735 900 4,835 2.36 1.99
2014 2,431 4,458 1,000 3,458 1.83 1.42
2015 2,485 2,965 800 2,165 1.19 0.87
2016 2,525 4,851 1,200 3,651 1.92 1.45
2017 2,577 5,616 1,100 4,516 2.18 1.75
2018 2,788 5,525 1,300 4,225 1.98 1.52
2019 3,201 4,837 1,600 3,237 1.51 1.01
2020 3,679 6,500 1,700 4,800 1.77 1.30
2021 4,230 7,366 1,700 5,666 1.74 1.34
2022 4,864 7,586 1,855 5,731 1.56 1.18
2023 5,594 4,240 3,447 793 0.76 0.14
2024 5,604 8,818 5,058 3,760 1.57 0.67

• 営業CFや投資CFはLillyの年次報告書(10-K)および四半期報告(10-Q)のキャッシュフロー計算書をベースに、長期系列の穴はStockAnalysisやMacrotrendsの年次データで補っています。CAPEXは長期の概算(投資CF全体ではなく有形固定資産投資を想定)。配当総額はDPS×希薄化後平均株式数の概算です(注1)。実務では10-Kの「Dividends paid to shareholders」で置き換えると厳密になります。主要CF出典:Lilly 2024 Form 10-K; StockAnalysis / Macrotrends(LLY Cash Flow)。[3]

また、2025年9月期TTMではフリーCFがおおよそ9.3B$と、2024通期(約3.8B$)から大幅に増加しており、同期間の配当総額に対するFCFカバーは概ね1.7倍前後まで改善しています(概算)。[4]


キャッシュフロー計算書

読み方(要点)

  1. 営業CF:本業の現金創出力。配当の「元手」。
  2. 投資CF:CAPEXやM&Aなど。マイナス拡大=将来成長への投資。
  3. 財務CF:配当・自社株買い・借入返済などの株主/債権者との現金やり取り。

年次:営業CF・投資CF・財務CF

単位は百万ドル(M$)。(2008–2024)

営業CF 投資CF 財務CF
2008 7,296 -7,269 2,346
2009 4,336 143 -5,534
2010 6,857 -3,160 -2,022
2011 7,235 -4,824 -2,370
2012 5,305 -2,833 -4,420
2013 5,735 -2,073 -3,829
2014 4,458 -3,909 -166
2015 2,965 27 -3,111
2016 4,851 -3,139 -560
2017 5,616 -3,784 143
2018 5,525 1,906 -5,905
2019 4,837 -8,083 -2,325
2020 6,500 -2,259 -3,137
2021 7,366 -2,868 -4,131
2022 7,586 -3,763 -5,407
2023 4,240 -7,153 3,496
2024 8,818 -9,302 1,230

出典:Lilly 2024 Form 10-KおよびStockAnalysis / Macrotrends「Cash Flow Statement(LLY)」年次系列。

  • 2023–2024は大型投資(製造設備・研究開発関連)で投資CFが大きくマイナス化。
  • 2024は営業CFが過去高圏へ急回復。2023年約4.2B$から2024年約8.8B$まで拡大。
  • 財務CFは概ねマイナス(配当・自社株買い)で株主還元継続を示唆。

損益・キャッシュ創出の推移(抜粋)

売上・営業CF・純利益の長期推移(M$)。

売上 営業CF 純利益
2008 20,372 7,296 -1,895
2009 21,836 4,336 5,018
2010 23,076 6,857 5,695
2014 19,616 4,458 2,739
2019 22,320 4,837 10,969
2021 28,318 7,366 5,582
2022 28,541 7,586 6,245
2023 34,124 4,240 5,240
2024 45,043 8,818 10,590

出典:Lilly 2024 Form 10-K(通期売上・純利益・営業CF)およびStockAnalysis / Macrotrendsの年次系列データ。単位はM$(百万ドル)に丸めて表示。


バランスシート:自己資本・負債の時系列

単位は百万ドル(M$)。自己資本率=株主資本/総資産、負債比率=総負債/株主資本。

総資産 総負債 株主資本 自己資本率(%) 負債比率(%)
2008 29,213 22,475 6,735 23 334
2009 27,461 17,936 9,524 35 188
2010 31,001 18,589 12,413 40 150
2012 34,399 19,625 14,765 43 133
2014 36,308 20,920 15,373 42 136
2016 38,806 24,725 14,008 36 177
2018 43,908 32,999 9,829 22 336
2019 39,286 36,587 2,607 7 1403
2020 46,633 40,808 5,642 12 723
2021 48,806 39,651 9,155 19 433
2022 49,490 38,714 10,775 22 359
2023 64,006 53,143 10,864 17 489
2024 78,715 64,443 14,272 18 452

出典:Lilly 2024 Form 10-KおよびMacrotrends(Total Assets 他)。

  • 2019に自己資本率が7%まで低下後、2024には18%へ回復。
  • 2024時点の負債比率は452%。強固な営業CF創出で配当支払い能力は維持されているものの、レバレッジ水準としては高めで要監視。

投資家向け所感(要約)

  • 配当安全度:営業CFベースの配当カバーは中長期で1.5〜3.2倍が中心レンジ。2023年は大型投資と在庫構築などで一時的に0.76倍まで低下しましたが、2024年は1.57倍へ回復。さらに2025年9月期TTMのフリーCF対配当カバーは概ね1.7倍と、配当余力はむしろ拡大傾向です。
  • 配当成長の持続性:11年連続増配の実績に加え、2020年以降はおおむね年率15%前後の増配ペースが続いています。主力製品(Mounjaro/Zepbound)の急成長が原資ですが、長期的には5〜10%程度の増配ペースに徐々に正常化していくシナリオを前提とするのが現実的です。
  • バランスシート:自己資本率は18%と依然として控えめながら、営業CF・FCFともに高水準であり、現時点で「配当維持が危うい」水準ではありません。一方で負債比率は452%と高く、金利環境や将来の大型M&A動向には注意が必要です。
  • 業界特性と市場評価:製薬業界特有の特許切れ・規制リスクは不可避で、現在の成長は糖尿病・肥満治療薬への依存度が高い状態です。2025年11月には時価総額が一時1兆ドルを超え、製薬企業としては異例の高評価を受けていますが、その分「想定以上の成長継続」が織り込まれている点には留意が必要です。[5]

出典・データ利用上の注意

補足: 本文中の「配当総額(概算)」および「CAPEX(概算)」は、長期の連続性確保を目的とした推計値を含みます。厳密な年次金額は各年の10-K「Consolidated Statements of Cash Flows(Financing Activities: Dividends paid)」および「Investing Activities」を確認してください。

【注】(出典リンク)

  1. 配当履歴・増配回数 → Eli Lilly Investor Relations: DividendsStockAnalysis: LLY Dividends(確認日:2025-11-27)
  2. 通期業績(2020–2024年 売上・純利益・EPS) → Eli Lilly and Company 2024 Form 10-KStockAnalysis: LLY Income Statement(確認日:2025-11-27)
  3. キャッシュフロー・配当カバー比率(2008–2024年) → Eli Lilly 2024 Form 10-K(Consolidated Statements of Cash Flows)Macrotrends: LLY Cash Flow(確認日:2025-11-27)
  4. 2025年9月期TTM(売上・純利益・フリーCF・TTM配当) → StockAnalysis: LLY Financials & Cash Flow(TTM)(更新日:2025-10-30/確認日:2025-11-27)
  5. 株価・時価総額1兆ドル・肥満治療薬関連ニュース → Reuters: Eli Lilly becomes first drugmaker with $1 trillion market value(確認日:2025-11-27)

Posted by 南 一矢