DD:デュポンの配当推移

素材,配当

デュポン(DD)配当関連指標(利回りや成長率、配当性向等の分析)

デュポン(DuPont de Nemours, Inc.)は、220年を超える歴史を持つアメリカの化学大手企業です。近年の大規模な事業再編と売却を経て、2024年通期までは特殊化学品・先端材料を中心とする「旧デュポン」として事業展開し、2025年11月にはエレクトロニクス事業をQnity Electronicsとしてスピンオフ済みです。[1] 本稿では、同社の10-K/決算資料および外部データベースをもとに、再編後の財務指標と配当実績を整理します。[2]

まず、配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみましょう。

配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート

(株価はGoogle Finance関数。配当はIRの配当履歴・10-Kを優先し、整合を確認)[2]

重要な注意事項:データの範囲について

本記事で提示する財務および配当データは、2019年の再編以降(2019~2024年の6年)に統一しています。
それ以前のデータは、Dow/DuPont分離前の前身体制を含むため、現在のDDとは直接比較できない場合があります。[1]

データソースの制約について

重要な注意事項:MacroTrendsでは配当の長期テーブルが限定的なため、配当総額・DPS・配当性向は同社IR/10-Kの一次情報で検証しています。財務(売上・営業CF・バランスシート等)は10-K/年次報告ベースを優先しつつ、外部データベースで整合を確認しています。[1][2]

配当成長の実績(2019~2024・複数ソース統合)

年平均の配当利回り・配当成長率・配当性向・年間一株配($)の推移です。DPSは同社IRの配当宣言額から集計(2019年は後半2回分)、EPSは10-Kの希薄化後EPS(継続事業ベース)を使用しています。[1][3]

配当データ* 平均株価** 年EPS**
平均利回り 成長率 配当性向 年間配当
2024 2.24% 5.6% 91% 1.52 67.91 1.67
2023 2.06% 9.1% 153% 1.44 69.84 0.94
2022 1.78% 10.0% 11% 1.32 74.12 11.75
2021 1.75% 0.0% 10% 1.20 68.75 11.89
2020 1.99% 100.0% 1.20 60.45 -4.01
2019 0.93% 90% 0.60 64.68 0.67

* DPSはIR配当宣言額(2019年は後半2回=$0.60、2020~2021=$1.20、2022=$1.32、2023=$1.44、2024=$1.52)。[3]
** EPSと平均株価は10-Kおよび外部データベースより(EPSは希薄化後EPS総額)。[1][2]

連続増配年数(~2024年)
3年
2022年$0.33→2023年$0.36→2024年$0.38/四半期と増配。2025年は$0.20/四半期に減配され、連続増配は一旦リセット。[3][4]

配当成長率(平均)
約6.1%
2020→2024のDPS($1.20→$1.52)に基づくCAGR。

2024年配当性向
91%
DPS $1.52/EPS $1.67ベース。[1]

2024年配当(年間)
$1.52
四半期$0.38×4期。[3]

ミニまとめ:2025年時点のDD配当

  • 2024年の年間配当は$1.52、配当性向は約91%
  • 2025年は四半期配当が$0.20(年率$0.80)に引き下げられており、水準はやや抑制的[4]
  • 営業CFベースの配当カバーは依然として複数倍を維持しており、中長期では「減配後の再スタート」として位置づけられる可能性

事業転換期における配当戦略

デュポンは2022年の四半期$0.33から2024年の$0.38まで、3年連続で増配してきました。[3] 一方、エレクトロニクス事業のスピンオフと資本配分方針の見直しに伴い、2025年には四半期配当が$0.20(年率$0.80)へ引き下げられており、増配トレンドはいったんリセットされています。[4] それでも2019~2024年を通算すると、DPSは$0.60→$1.52へ増加しており、2024年の配当性向は約91%でした。

財務パフォーマンスと成長見通し

主要財務指標の推移(継続事業、M$)

売上高は2019~2021年を2021年10-K、2022~2024年を2024年10-Kに整合。営業CFは連結キャッシュフローから引用しています。[1]

年度 売上高 (M$) 営業CF (M$) 同マージン (%) 純利益 (M$)
2024 12,386 2,321 18.7 738
2023 12,068 2,191 18.2 462
2022 13,017 1,249 9.6 5,917
2021 16,653 2,281 13.7 6,515
2020 14,338 4,095 28.6 -2,923
2019 15,436 1,409 9.1 600

2024通期決算では、売上高がおよそ$12.4Bと前期比ほぼ横ばいながら、主要エレクトロニクス関連の需要回復を背景に調整後EPSは市場予想を上回りました。会社は同時に、2025年通期の売上高を$12.8~12.9B、調整後EPSを$4.30~4.40とガイダンスしています。[5]

配当支払能力の分析

営業キャッシュフローによる配当カバー分析

2024年の営業CFは$2,321M、配当支払総額は約$635Mでカバー比率3.7倍。2021~2024年は概ね2~4倍で安定しています。2019年は再編影響により配当が通年基準(旧DWDP分を含む)で計上され、カバー比率0.9倍と特殊要因が大きい年です。[1]

配当支払余力の推移(2019~2024)

営業CF・年間配当支払額はM$、カバー比率は倍数。

年度 営業CF (M$) 年間配当支払額 (M$) 配当カバー比率
2024 2,321 635 3.7
2023 2,191 651 3.4
2022 1,249 652 1.9
2021 2,281 630 3.6
2020 4,095 882 4.6
2019 1,409 1,611 0.9

配当支払額は10-Kの「Dividends paid to stockholders」より。2019年はDWDP分を含む旨が明記されています。[1]

事業ポートフォリオの変革と将来展望

キャッシュフローの構成(継続事業)。投資CF・財務CFは(-)が流出。

年度 営業CF (M$) 成長率 (%) 投資CF (M$) 財務CF (M$)
2024 2,321 5.9 -849 -1,847
2023 2,191 75.4 172 -2,989
2022 1,249 -45.2 9,004 -7,646
2021 2,281 -44.3 -2,401 -6,507
2020 4,095 190.6 -202 3,238
2019 1,409 -2,313 -11,550

2024~2022年は2024年10-K、2021~2019年は2021年10-Kのキャッシュフロー要約より。[1]

バランスシートと財務健全性(連結、M$)

自己資本率=株主資本/総資産、負債比率=総負債/株主資本、ROEは当期純利益/平均自己資本の簡便計算。

年度 総資産 総負債 株主資本 自己資本率 (%) ROE (%) 負債比率 (%)
2024 36,636 12,843 23,793 64.9 3.0 54.0
2023 38,552 13,827 24,725 64.1 1.8 55.9
2022 41,355 14,338 27,017 65.3 21.9 53.1
2021 45,707 18,657 27,050 59.2 19.7 69.0
2020 70,904 31,834 39,070 55.1 -7.3 81.5
2019 69,349 27,793 41,556 59.9 1.4 66.9

各年末バランスシート:2024/2023は2024年10-K、2022/2021は2022年10-K、2020/2019は2020年10-K。[1]

総合評価

自己資本比率は概ね65%前後と健全、営業CFは2021年以降2B$前後で安定しています。2025年11月1日にはエレクトロニクス事業がQnity™ Electronicsとしてスピンオフされ、11月上旬からNYSEで単独上場しました。[6] スピンオフ後は、水処理・保護ソリューションなどを中心とする「New DuPont」と、半導体/電子材料に集中するQnityの二社体制となり、資本効率改善と事業集中が期待されています。

配当重視投資家にとっての投資価値

インカム投資家への魅力:

  1. 安定した配当方針(~2024年):22年以降の連続増配と2~4倍の配当カバーを実現し、その後2025年に水準を引き下げて再スタート
  2. 事業転換の最終段階:エレクトロニクス分離完了でポートフォリオが明確化
  3. 技術優位性:先端材料・電子材料の知財基盤
  4. 成長分野への注力:半導体・回路材料、フィルム等

配当投資戦略における位置づけ

成長性重視の配当銘柄として検討

  • ポートフォリオの「成長寄りインカム枠」としての位置づけ
  • 化学・材料セクターの分散先
  • スピンオフ後の資本政策・DPS方針の変化を継続モニタリング
  • 収益回復局面での配当成長余地(減配後の再増配余地)

投資リスクと対策

主要リスク要因:

  1. 景気感応度(半導体/電子需要)
  2. 事業分離の実行リスク(スピンオフ後の構造調整など)
  3. 原材料・エネルギーコスト変動
  4. 技術・競争環境の変化
  5. 高い配当性向の年(2023/2024)および2025年の減配が示唆する株主還元方針の変化

リスク軽減策:

  • スピンオフ後数期の決算で、「New DuPont」の収益力・CF創出力・配当方針を再評価
  • 半導体市況・在庫循環のモニタリング
  • 配当性向の正常化とEPS成長の両立を確認
  • 他セクターを含めた分散投資の徹底

まとめ:配当投資家にとってのデュポン

2019年以降の再編を経て、デュポンは健全なバランスシートと安定した営業CFを維持してきました。2025年のエレクトロニクス事業スピンオフ完了により、事業ポートフォリオは一段とシンプルになりつつあります。[6]

一方で、2025年の減配は新体制下での資本配分方針を示す重要なシグナルであり、「安定CF×漸進的増配」というよりも、成長投資と財務健全性を優先しつつ配当水準を抑えめに運営する方針へシフトしたと見ることもできます。DDは、再編後の成長性や資本効率の改善を重視しつつ、配当も一定水準で受け取りたい投資家向けの銘柄と言えるでしょう。

免責事項
本記事は公開情報に基づく一般的な情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

【注】(出典リンク)

  1. 年次財務・BS/CF・配当支払総額 → DuPont Form 10-K 2024(2024/12期、2019~2023比較を含む)[一次情報](確認日:2025-12-11)
  2. 外部データベース・株価系列 → Macrotrends「DuPont de Nemours Financial Statements」およびGoogle Finance(DD株価/出来高・指標)[二次情報1][二次情報2](確認日:2025-12-11)
  3. 配当履歴($0.33→$0.36→$0.38) → DuPont「DuPont Announces Regular Quarterly Dividend on Common Stock」(2022/4/21、Q2 $0.33)[一次情報1]、同(2023/6/27、Q3 $0.36)[一次情報2]、DuPont Form 10-Q 2024 Q1「2024 dividend of $0.38 per share」[一次情報3](確認日:2025-12-11)
  4. 最新配当水準($0.20/四半期) → Koyfin「DD – DuPont de Nemours dividend & split history」(直近四半期配当$0.20、年率$0.80を掲載)[二次情報](確認日:2025-12-11)
  5. 2024年Q4決算と2025年ガイダンス → MarketWatch「DuPont stock rises after Q4 results, 2025 outlook」(2025年2月時点で2024年通期業績と2025年売上$12.8~12.9B・調整後EPS $4.30~4.40レンジを提示)およびReuters「DuPont raises 2025 profit forecast on strong demand from chipmakers」(同レンジのガイダンス引き上げに言及)[二次情報1][二次情報2](確認日:2025-12-11)
  6. エレクトロニクス事業スピンオフ(Qnity Electronics) → Qnity Electronicsスピンオフ完了および2025年売上・利益率見通しをまとめた記事(2025年11月、DuPontからの分離とNYSE上場開始日を報じる)[二次情報](確認日:2025-12-11)

Posted by 南 一矢