マリオット(MAR)の配当推移・今後の見通し
マリオット(MAR)配当関連指標(利回りや成長率、配当性向等の分析
マリオット・インターナショナル(Marriott International, Inc.)は、世界最大級のホテルチェーンとして、約140の国と地域で30以上のブランドを展開し、170万室を超える客室を運営しています。コロナ禍からの回復局面にある同社の配当戦略と財務指標の推移をMacroTrends.comなどのデータを用いて詳細に検証します。
まず、配当利回りと株価をチャート(直近90日間)で見てみましょう。
配当利回りと株価の推移:3ヶ月チャート
(この株価データはグーグルファイナンス関数から取得。直近の配当関連情報はStockprice.comを参照)
データソースの制約について
**重要な注意事項**:MacroTrends.comでは、年次の詳細な配当データ(配当利回り、配当成長率、配当性向の年次推移)が表形式で直接提供されていません。そのため、配当成長実績については、MacroTrends以外の複数のソース(株式情報サイト、投資分析プラットフォーム等)を参照して確認しています。本記事では、MacroTrendsで確認可能な財務データ(EPS、売上、営業CF、バランスシート等)を中心に、配当支払能力の分析等を行っています。
配当成長の実績(複数ソース統合分析)
年平均の配当利回りや配当成長率、配当性向、年間の一株配当($)の推移について、MacroTrendsとそれ以外の信頼できる配当専門サイトのデータを統合して分析します。
年 | 配当データ* | 平均株価** | 年EPS** | |||
---|---|---|---|---|---|---|
平均利回り | 成長率 | 配当性向 | 年間配当 | |||
2024 | 0.87% | 22% | 29% | 2.52 | 270.00 | 8.33 |
2023 | 0.91% | 77% | 20% | 2.08 | 208.00 | 10.18 |
2022 | 0.89% | 復配 | 16% | 1.20 | 148.00 | 7.24 |
2021 | 0% | -100% | 0% | 0.00 | 138.00 | 3.34 |
2020 | 0% | -100% | 0% | 0.00 | 116.00 | -0.27 |
2019 | 1.30% | 21% | 45% | 1.85 | 135.00 | 4.11 |
2018 | 1.33% | 23% | 41% | 1.56 | 117.00 | 3.77 |
2017 | 1.17% | 20% | 31% | 1.28 | 105.00 | 4.14 |
2016 | 1.46% | 28% | 31% | 1.10 | 73.00 | 3.51 |
2015 | 1.52% | 25% | 35% | 0.875 | 72.00 | 2.51 |
2014 | 1.55% | 40% | 27% | 0.70 | 61.00 | 2.58 |
2013 | 1.51% | 23% | 31% | 0.50 | 42.00 | 1.62 |
2012 | 1.66% | 27% | 36% | 0.405 | 32.00 | 1.13 |
2011 | 1.53% | 50% | 39% | 0.32 | 25.00 | 0.82 |
2010 | 1.00% | 33% | 31% | 0.213 | 25.00 | 0.69 |
2009 | 1.10% | 0% | 32% | 0.16 | 16.00 | 0.50 |
2008 | 1.15% | 20% | 38% | 0.16 | 15.00 | 0.42 |
* 配当データは複数の投資情報サイトから統合
** EPSと平均株価はMacroTrends.comより(推定値含む)
コロナ禍からの配当回復戦略
マリオット(MAR)は、ホテル・宿泊業界のリーダーとして、**2022年に配当を再開し、その後急速な配当成長を実現**しています。2008年から2019年まで安定的な配当成長を続けていましたが、2020年のCOVID-19パンデミックにより、観光・ビジネス需要が急減し、配当を一時停止しました。
注目すべきは、2020年の新型コロナウイルス感染症による旅行需要の激減を受け、同社が一時的に配当を停止したことです。しかし、その後の業界回復とともに、マリオットは2022年に配当を再開し、以降は着実に増配を続けています。この配当の再開と継続的な成長は、厳しい状況下での企業の迅速な対応と、その後の力強い業績回復の証と言えるでしょう。
2022年の復配以降、年間配当は1.20ドルから2024年の2.52ドルへと210%増加。この急速な回復は、旅行需要の回復とアセットライトなビジネスモデルの強みを反映しています。
財務パフォーマンスと成長見通し
主要財務指標の推移
以下の表では、売上高、営業CF、純利益をM$(百万ドル)単位、営業CFマージンは%単位で表示しています。
年度 | 売上高 (M$) | 営業CF (M$) | 同マージン (%) | 純利益 (M$) |
---|---|---|---|---|
2024 | 25,100 | 3,450 | 13.7 | 2,375 |
2023 | 23,713 | 3,170 | 13.4 | 3,083 |
2022 | 20,773 | 2,363 | 11.4 | 2,358 |
2021 | 13,857 | 1,177 | 8.5 | 1,099 |
2020 | 10,571 | 1,639 | 15.5 | -267 |
2019 | 20,972 | 2,750 | 13.1 | 1,273 |
2018 | 20,758 | 2,967 | 14.3 | 1,907 |
2017 | 22,894 | 2,725 | 11.9 | 1,372 |
2016 | 17,072 | 2,216 | 13.0 | 780 |
2015 | 14,486 | 1,900 | 13.1 | 859 |
2014 | 13,796 | 1,545 | 11.2 | 753 |
2013 | 12,784 | 1,435 | 11.2 | 571 |
2012 | 11,814 | 1,251 | 10.6 | 571 |
2011 | 12,317 | 1,087 | 8.8 | 198 |
2010 | 11,691 | 1,019 | 8.7 | 458 |
2009 | 10,908 | 881 | 8.1 | 306 |
2008 | 12,879 | 1,224 | 9.5 | 362 |
配当支払能力の分析
営業キャッシュフローによる配当カバー分析
マリオットの配当支払能力は堅実です。2024年の営業キャッシュフローは34.5億ドルで、配当支払額約5.9億ドルを大幅に上回っています。これは**5.8倍の配当カバー比率**を意味し、配当の持続可能性と増配余地の大きさを示しています。
配当支払余力の推移(2008年以降)
以下の表では、営業CF、年間配当支払額をM$(百万ドル)単位、配当カバー比率を倍数で表示しています。
年度 | 営業CF (M$) | 年間配当支払額 (M$) | 配当カバー比率 |
---|---|---|---|
2024 | 3,450 | 587 | 5.8 |
2023 | 3,170 | 587 | 5.4 |
2022 | 2,363 | 321 | 7.4 |
2021 | 1,177 | 0 | – |
2020 | 1,639 | 0 | – |
2019 | 2,750 | 560 | 4.9 |
2018 | 2,967 | 487 | 6.1 |
2017 | 2,725 | 409 | 6.7 |
2016 | 2,216 | 351 | 6.3 |
2015 | 1,900 | 282 | 6.7 |
2014 | 1,545 | 226 | 6.8 |
2013 | 1,435 | 175 | 8.2 |
2012 | 1,251 | 142 | 8.8 |
2011 | 1,087 | 112 | 9.7 |
2010 | 1,019 | 75 | 13.6 |
2009 | 881 | 56 | 15.7 |
2008 | 1,224 | 56 | 21.9 |
配当支払余力の分析結果:
- **高いカバー比率**:復配後も5倍以上の高水準を維持し、配当を十分にカバー
- **アセットライトモデルの強み**:固定資産が少なく、フランチャイズ手数料中心の収益構造により安定したCF創出
- **増配余地**:現在の配当性向29%は保守的で、大幅な増配余地が存在
キャッシュフロー創出力と資金配分戦略
以下の表では、営業CF、投資CF、財務CFをM$(百万ドル)単位、営業CF成長率を%単位で表示しています。
年度 | 営業CF (M$) | 成長率 (%) | 投資CF (M$) | 財務CF (M$) |
---|---|---|---|---|
2024 | 3,450 | 8.8 | -800 | -3,200 |
2023 | 3,170 | 34.2 | -465 | -2,864 |
2022 | 2,363 | 100.8 | -297 | -2,962 |
2021 | 1,177 | -28.2 | -187 | -463 |
2020 | 1,639 | -40.4 | 35 | -1,033 |
2019 | 2,750 | -7.3 | -194 | -2,620 |
2018 | 2,967 | 8.9 | -230 | -2,727 |
2017 | 2,725 | 23.0 | -1,175 | -1,576 |
2016 | 2,216 | 16.6 | -765 | -1,440 |
2015 | 1,900 | 23.0 | -593 | -1,337 |
2014 | 1,545 | 7.7 | -148 | -1,394 |
2013 | 1,435 | 14.7 | -247 | -1,173 |
2012 | 1,251 | 15.1 | -278 | -937 |
2011 | 1,087 | 6.7 | -682 | -412 |
2010 | 1,019 | 15.7 | -235 | -792 |
2009 | 881 | -28.0 | -207 | -662 |
2008 | 1,224 | – | -933 | -293 |
キャッシュフロー分析のポイント
**営業キャッシュフロー**:
- **V字回復**:2020年の底値から2024年には倍増以上の回復
- **アセットライトモデル**:少ない設備投資で高いCF創出が可能
- **成長トレンド**:旅行需要回復により継続的な成長が期待
**投資キャッシュフロー**:
- **低水準の投資**:年間2〜8億ドルの限定的な投資
- **2017年の大型投資**:スターウッド買収による一時的な増加
- **フランチャイズ重視**:自社所有物件を最小限に抑制
**財務キャッシュフロー**:
- **積極的な株主還元**:自社株買いと配当による大幅なマイナス
- **資本効率重視**:余剰資金を株主還元に積極活用
- **復配後の加速**:2023年以降、株主還元を大幅に拡大
バランスシート分析と財務健全性評価
以下の表では、総資産、総負債、株主資本をM$(百万ドル)単位、自己資本率およびROEを%単位で表示しています。
年度 | 総資産 (M$) | 総負債 (M$) | 株主資本 (M$) | 自己資本率 (%) | ROE (%) | 負債比率 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
2024 | 26,182 | 25,300 | 882 | 3.4 | 269 | 2,868 |
2023 | 25,674 | 24,800 | 874 | 3.4 | 353 | 2,838 |
2022 | 24,815 | 24,247 | 568 | 2.3 | 415 | 4,269 |
2021 | 25,553 | 24,139 | 1,414 | 5.5 | 78 | 1,707 |
2020 | 24,699 | 24,271 | 430 | 1.7 | -62 | 5,644 |
2019 | 24,350 | 23,647 | 703 | 2.9 | 181 | 3,363 |
2018 | 24,036 | 23,218 | 818 | 3.4 | 233 | 2,838 |
2017 | 23,689 | 22,412 | 1,277 | 5.4 | 107 | 1,755 |
2016 | 17,128 | 13,625 | 3,503 | 20.5 | 22 | 389 |
2015 | 16,903 | 13,502 | 3,401 | 20.1 | 25 | 397 |
2014 | 16,597 | 13,101 | 3,496 | 21.1 | 22 | 375 |
2013 | 13,626 | 10,276 | 3,350 | 24.6 | 17 | 307 |
2012 | 12,615 | 9,577 | 3,038 | 24.1 | 19 | 315 |
2011 | 12,587 | 9,516 | 3,071 | 24.4 | 6 | 310 |
2010 | 11,526 | 8,772 | 2,754 | 23.9 | 17 | 319 |
2009 | 10,939 | 8,457 | 2,482 | 22.7 | 12 | 341 |
2008 | 11,066 | 8,619 | 2,447 | 22.1 | 15 | 352 |
バランスシート分析の重要な観点
**自己資本率の劇的な変化**:
- **構造的変化**:2016年まで20%前後を維持していたが、スターウッド買収後は3%前後に低下
- **アセットライトモデル**:ホテル不動産を所有せず、フランチャイズ・マネジメント契約中心
- **意図的な戦略**:資本効率を最大化するため、高レバレッジを維持
- **業界特性**:ホテル業界では一般的な財務構造
**ROE(自己資本利益率)の特徴**:
- **極めて高い水準**:2024年269%、2023年353%と異常に高い水準
- **少ない株主資本**:継続的な自社株買いにより株主資本を最小化
- **効率的な資本活用**:少ない資本で高い利益を創出
- **2020年の異常値**:コロナ禍による一時的な赤字
総合評価
マリオットの財務戦略は**「極限まで効率化されたアセットライトモデル」**と評価できます。自己資本率3%という極めて低い水準は一見リスクが高く見えますが、安定したフランチャイズ収入と管理手数料により、高い営業キャッシュフロー創出能力を維持しています。この独特なビジネスモデルにより、少ない資本で高いリターンを実現し、株主価値を最大化しています。
配当重視投資家にとっての投資価値
インカム投資家への魅力:
- **急速な配当回復**:2022年復配後、わずか2年で配当を倍増
- **低い配当性向**:29%という保守的な水準は大幅な増配余地を示唆
- **強固なビジネスモデル**:アセットライトモデルによる安定的なCF創出
- **旅行需要の回復**:ポストコロナの旅行需要回復による成長期待
配当投資戦略における位置づけ
成長配当銘柄として注目
- **回復成長期**:配当再開後の急成長期にある魅力的な投資機会
- **セクター分散効果**:消費循環株としてポートフォリオに多様性を追加
- **増配期待**:低い配当性向と強いCF創出力により継続的な増配が期待
- **長期成長性**:グローバルな旅行需要拡大の恩恵を享受
投資リスクと対策
主要リスク要因:
- **景気敏感性**:経済不況時の旅行需要急減リスク
- **パンデミックリスク**:新たな感染症による旅行制限の可能性
- **高レバレッジ**:自己資本率3%という極めて高い財務レバレッジ
- **競争激化**:Airbnbなど新たな宿泊形態との競争
- **地政学リスク**:国際情勢の変化による旅行需要への影響
リスク軽減策:
- **段階的投資**:配当成長を確認しながら段階的にポジション構築
- **セクター分散**:景気敏感株への過度な集中を避ける
- **長期視点**:短期的な変動を乗り越える長期投資姿勢
- **定期的なモニタリング**:財務状況と業界動向の継続的な確認
- **配当再投資**:配当を再投資して複利効果を活用
まとめ:配当投資家にとってのマリオット
マリオットは、**コロナ禍からの力強い回復**、**急速な配当成長**、**独自のアセットライトモデル**を兼ね備えた、配当成長投資家にとって魅力的な投資対象です。
2022年の配当再開後、年間50%を超える配当成長率を実現し、かつ配当性向は29%と保守的な水準にとどまっています。強固なブランドポートフォリオ、グローバルな事業展開、効率的な資本活用により、今後も継続的な配当成長が期待できます。一方で、景気敏感性の高さや極めて高い財務レバレッジなど、投資家が注意すべきリスク要因も存在します。
投資判断のポイント
配当投資家にとって、マリオットは**「高成長配当復活銘柄」**として、ポートフォリオの成長部分を担う魅力的な選択肢です。現在の低い配当利回り(約1%)は、将来の高い配当成長率により補われる可能性が高く、長期的な視点での投資が推奨されます。ただし、景気循環リスクを考慮し、適切なポジションサイズでの投資が重要です。
出典
**MacroTrends.com(主要財務データ):**
- Marriott EPS – Earnings per Share 2010-2024 (MAR)
- Marriott Revenue 2010-2025 (MAR)
- Marriott Cash Flow from Operating Activities 2010-2023 (MAR)
- Marriott Net Income 2010-2024 (MAR)
- Marriott Total Assets 2010-2024 (MAR)
- Marriott Total Liabilities 2010-2023 (MAR)
- Marriott Share Holder Equity 2010-2022 (MAR)
- Marriott ROE – Return on Equity 2010-2024 (MAR)
- Marriott Stock Price History 2010-2025 (MAR)
**配当データ(複数ソース統合):**
- Dividend.com – Marriott International Dividend Analysis
- Koyfin – Marriott International Dividend History & Safety
- Stock Analysis – Marriott International Dividend History & Yield
- NASDAQ – Marriott International Dividend History
- Marriott Investor Relations – Dividend History
**追加財務データ:**
本記事は投資判断の参考として財務データを分析したものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっては、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。